始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆SXmcM2fBg6

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        ○ ○ ○


 敵が雨霰と放つ光弾を防ぎ、躱しながら敵との距離を測る。
 運転に気を使う必要がなくなった今、先程よりも走行速度自体は上がっている。その気になれば振り切る事も出来るだろう。
 だが、セイバーは敢えてアクセルを全開にせず速度を抑え、敵に気付かれない様に距離を詰めていく。

 理由は三つ。
 一に、もし全速力を出して敵を振り切ってしまえば、敵が鈴羽達の方に向かってしまうかもしれないから。
 二に、可能な限りエクスカリバーの使用は避けたく、さらに騎士であるセイバーの本領は接近戦だということ。
 三に、戦う上で厄介な空中を自在に移動する敵に、絶好のタイミングで奇襲をかけるためだ。

 頭上は白兵戦において絶対優位となるポジションと言える。
 だが相手は自在に空を飛べる。それはつまり、その優位を自由に奪えるということだ。
 加えて相手に敵わないと知れば、逃げることさえ容易だろう。
 なにしろ相手は空の上。地を歩く者には手の届かない領域にいるのだ。

 ゆえに奇襲を持って一撃で沈める。
 そうでなくとも、せめて飛行能力は奪いたい。
 そうすれば、後の戦闘は楽になるだろう。

「見えた……!」

 円形に切り取られた街の外縁部。
 地図から導きだされた好機、その最初の一手。

 街の外縁部は、不自然に切り取られたからか全く整地が成っていない。
 道の途中からいきなり建物が立ち並んでいるのだ。
 街と街の間に隙間があるので、外縁部を移動すること自体は問題なく出来る。
 だが安全に移動できるような配慮はされておらず、バイクで突入する事など以ての外だ。
 もし速度を落とさずにいれば、たちまち建物に激突するだろう。

 ―――だがセイバーはブレーキを踏まず、逆にアクセルを強く回した。
 当然トライドベンダーは加速し、道を遮る建物に突っ込むこととなった。


 その光景は、セイバーを追って空を飛行するラウラもしっかりと捉えていた。

「な……!? バカかあいつは! 一体何を考えている……ッ!」

 セイバーの自滅同然のその行為に、思わず罵倒が飛んだ。
 激突すると判っていながら加速するなど、正気の沙汰ではない。
 そう思った、その時だった。

 黄色く目立つ車体が、セイバーが突入した建物の反対側から躍り出てきたのだ。
 そして当然、その車上にセイバーは健在。そのまま彼女は再び建物へと突入した。
 それを見ると同時に、ラウラはセイバーの狙いを悟った。

 建物に突入しても問題なく駆動できるモンスターバイク。
 その強度を利用し建物を破壊して進むことで、己が目を振り切ろうというのだろう。

「だが甘い! そんな程度で私とこのシュヴァルツェア・レーゲンから逃れられると思うな……!」

 ISのハイパーセンサーにより、セイバーの建物を破壊する音を逃さず拾う。
 それによりセイバーの現在位置と進行方向を予測する。
 建物という壁で囲まれている以上、砲撃はあまり意味を成さない。
 狙うのは大通りに出てきた瞬間。そこを「停止結界」で捕らえる。
 そうなれば生かすも殺すも自分次第だ。

 攻撃を考えない己の移動速度と、建物を壊しながらのセイバーの移動速度。それらを比べれば僅かにこちらが速い。
 そしてセイバーの進行予測は――直進。【F-2】と【F-3】の境界。丁字路が二つ重なるポイント。
 好都合だ。そこまで広ければ、十分な余裕を以ってAICを発動させられる。
 その好機を掴むため、スラスターを全開にしてポイントへと先回りする。

「さあ来いッ! 次に姿を現した時が、貴様の最後だ!」

 すぐに近づいてくる破壊音。
 万全を期すために“越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)”も開放し、決着の時を待つ。
 そして―――

「捉えた――!」

 瓦礫を撒き散らし、姿を現すトライドベンダー。
 その動きを拘束するために「停止結界」を発動させようとした―――その瞬間、ありえない光景を目の当たりにした。

「バカなッ! 奴がいないだと……!?」

 トライドベンダーの背に、セイバーの姿がない。
 あれだけの建物を破壊してなお傷一つ見えない車体は、その背にいるべき主を欠いたまま走行している。
 そして驚くべき事に、こちらへとそのままの勢いで“跳躍して襲いかかってきた”―――!

「自立駆動……ッ!」

 咄嗟に回避するが、躱しきれずに一撃を受ける。
 それと同時に、シュヴァルツェア・レーゲンが“上空から”接近してくる存在があると警告を飛ばす。
 思わず頭上に目を向ければそこには、いつの間にか鎧を纏ったセイバーの姿があった。


 そしてそれこそがセイバーの策だった。
 建物へと突入することで己の姿を隠し、大通りに出てきたところを狙うであろう敵を撹乱する。
 セイバー自身は敵を奇襲するために、建物の間を抜ける一瞬の間に飛び降り、ビルの壁面を駆け上る。
 これは非常に高い耐久性をもち、自立駆動を可能とするトライドベンダーの性能があってこその荒技だった。


「ハア――ッ!」
「クッ……!」

 風王結界により不可視となった剣がふり抜かれ、シュヴァルツェア・レーゲンを切り裂く。
 セイバーにとってラウラが地上まで降りてきたことは予想外だったため、タイミングがずれ、一撃で仕留める事は失敗した。
 だがセイバーのもう一つの狙い通り、スラスターの片翼を損傷し推進機能が低下する。

「終わりだ―――!」
「まだだ―――ッ!」

 ラウラは両腕からプラズマ手刀を展開。セイバーの一撃を受け止める。
 その際に、更なる驚愕を目の当たりにする。

「ッ、見えない剣だと……!? それに、なんで馬鹿力……!」

 ラウラがそれを剣だと判断出来たのは、先の狙撃の際にセイバーが黄金の剣を振るうのを見ていたからだ。
 そしてその視認することの叶わない斬撃は、ただの一撃でラウラの両腕を痺れさせた。
 これが持つタイプの武器であったなら、剣を受けた瞬間に取り落としていただろう。

 だが、剣戟はこの一合で終りではない。
 セイバーはラウラの手刀を跳ね上げ、更なる一撃を次々と繰り出す。
 対するラウラも、越界の瞳とISのサポートによりどうにかそれを防ぐ。
 その度にラウラの両腕は感覚をなくし、ISの装甲が軋みを上げる。

“疾い……重い――ッ! 私が――ISが生身の人間に押されているだと……!?”

 それはラウラにとって信じられない現実だった。
 ISは初めて世に現れた時から、従来の兵器の一切を凌駕していた。
 それによって世界各国の武力・兵力の要が全てISに置き換わる程に。

 だが目の前のこれは何だ。

 確かにISでなくともISの攻撃を防ぐことは可能だ。
 IS以外の通常兵器であっても、防戦に徹すれば凌ぎきれるかもしれない。
 現に教官――織斑千冬は、生身でIS用の武器を扱ってISの一撃を防いでみせた。

 だがこれは違う。これはそんなレベルでは断じてない。
 このセイバーという女は生身で、それもたかが剣一本で、ISを圧倒している。
 不可視の剣など、その事実の前では瑣末にすぎない。

“コイツは、本当に人間か……!?
 いや、これがサーヴァントの実力なのか―――!!”

 ガキン、と一際強く弾き飛ばされる。
 その際に自ら後方へ飛ぶことで衝撃を殺し、同時に距離も稼ぐ。
 それでも殺し切れなかった衝撃で、両腕が完全に死んだ。

「グ、ヅ………ッ!」

 もう接近戦は出来ない。
 セイバーの剣を受ければ、その防御ごと切り捨てられるだろう。
 だが、そんなことで諦められるほど軽い覚悟は背負っていない―――!

「食らえ――ッ!」

 至近距離からの砲撃。
 セイバーに向けて大型レールカノンを発射する。

「甘い!」

 だが防がれた。
 僅か二十メートルの距離から放たれた光弾を、セイバーは事もなげに斬り伏せる。

 このままでは近づかれる。
 完全に麻痺した腕で、セイバーの一撃を防ぐ事は出来ない。
 切り札の「停止結界」は―――使えない……!
 セイバーの後方から、廻り込むようにしてトライドベンダーが自走し迫っている!

「チィ……ッ!」

 セイバーとトライドベンダーそれぞれワイヤーブレードで牽制し、さらにセイバーの足元へとカノンを撃ち込む。
 同時にまだ機能しているスラスターを全開にし、上空へと緊急退避する。
 どれ程異常な戦闘能力を持っていようが、セイバーが空を飛べない事に変わりはない。
 たとえ機動力が落ちていようと、上空からの一方的な攻撃を行えばまだ勝機はある。

「逃さん!」

 それに気付いたセイバーはビルの壁面を足場に、ラウラを追って空へと駆け上った。
 スラスターを欠損し加速の落ちていたラウラは追い抜かれ、逆に上を取られる。
 その驚異的な身体能力にセイバーの異常さを再認識する。だが――――

「今度こそ取った……!」
 セイバーがビルの壁面を蹴り、ラウラへと跳躍して剣を一閃する。

「それは……こちらのセリフだ―――!」

 同時にラウラの起死回生の一手が発動した。

「な!? 体が、動かない……!?」
 突如としてセイバーの体は空中で固定され、不可視の剣先はラウラの体を両断する寸前で停止していた。

 AIC――正式名称“慣性停止結界(Active Inertial Canceller)”。
 これは対象のあらゆる行動慣性を文字通り停止させる事が出来る、ラウラの必勝の切り札だ。
 そしてこれは魔術ではなく科学だ。いかにセイバーに高い対魔力があろうと、その効力は十全に発揮される。

 ラウラが「停止結界」と呼称するこれは1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要だった。
 故にトライドベンダーによる妨害が入る地上では使うことが出来なかった。
 だがセイバーがラウラを追って空中に駆け上がったことで、その心配がなくなったのだ。


 シュヴァルツェア・レーゲンの装甲は切り裂かれ、刃は絶対防御が発動する領域の寸前。
 あの一瞬でここまで切り裂くセイバーの剣閃に、背筋が凍る思いだ。
 念のためにと最初の時点で“越界の瞳”を解放していなければ、今頃セイバーの剣の錆となっていただろう。

「本当にギリギリだった……。だが、これで終りだ」

 空中に固定されたセイバーから離れ、レールカノンを向ける。
 身動き一つ取れないセイバーにそれを避ける術はない。
 この戦いは、紙一重でラウラの勝利に終わったのだ。
 だというのに―――

「これが貴女の切り札ですか……。見事です―――が、まだまだ詰めが甘い」

 何故セイバーの貌から、余裕の色が消えないのか。
 その様子に、ザワリ、と再び背筋が粟立った。

 この敵は持っている。
 この状況から逆転する術を。
 必至の運命を覆す一手を持っている―――!

 これまでの経験からそう直感し、即座にカノンを発射する。
 だが、

「風よ……荒れ狂え!」

 突如として発生した台風の如き暴風に煽られて射線がずらされ、カノンがセイバーを外れた。
 さらにその異常による混乱で、「停止結界」も解けてしまう。
 しまった――などと言う余裕もない。
 轟然と迸る風の中でラウラが目にしたものは、

「爆ぜよ――“風王鉄鎚(ストライク・エア)”ッ!」

 竜神の咆哮の如き暴風の中心で、燦然と輝く黄金の剣だった。


 万軍を吹き飛ばす轟風の破砕鎚が、ラウラの身体を打ち据える。
 ラウラはそのまま背後のビルへと叩き付けられ、力なく地面へと崩れ落ちた。

 カシャン、と鋼が擦れ合う音。
 痛む体に鞭を打って顔を上げれば、そこには突き出された黄金の剣と、それを担うセイバーの姿。

「貴女のような幼子がこれほどまでの戦いをするとは驚きました。
 ですが――自ら武器を取り、戦いを挑んできたのであれば容赦はしません」

 その強さに、その気高さに、ラウラは思わず魅入ってしまう。
 そしてここで死ぬのだと、当然のように受け入れた。
 もとよりこの風を統べる王に、自分が敵う道理はなかったのだ。

「最後に問おう。貴女の名はなんと言う」
「……ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ
「ラウラですね。……いい勝負でした。貴女の名と力、しかと覚えておきます」

 黄金の剣が、今度こそラウラの命を奪わんと突き出される。
 躱すことも、防ぐこともしなかった。意味がないからだ。
 どう抗ったところで、この騎士には無駄な抵抗でしかない。

 ああ……一夏、皆、すまない。
 私はお前達を、守る事が出来なかった。
 その誓いを果たせない事だけが、こんなにも悔しかった。


 だが、剣の切っ先がラウラを突き刺すことはなかった。
 なぜならその直前に、一発の銃弾がセイバーを襲ったからだ。

「新手か……!」

 無論、それを受けるセイバーではない。
 彼女はその急襲を第六感で察知し、その剣で弾丸を打ち落とす。
 だが二発、三発と続けて放たれる銃撃はセイバーを警戒させ、彼女をラウラから引き離した。
 そうして出来た隙間に、その襲撃者がラウラを庇うように割り込んでくる。

 ラウラは、その襲撃者の正体を知っていた。
 そのオレンジ色の機体カラー、そのよく見慣れた後姿は紛れもなく―――

「シャルロット!」
「大丈夫、ラウラ? 怪我とかしてない?」

 そう言ってシャルロットはおどけて見せる。
 いつも通りなその様子に、思わず安堵の声が漏れた。


 対してセイバーは警戒を強めていた。
 ラウラの反応からして、襲撃者は彼女の仲間だろう。
 となれば、彼女達が協力し合うのは必定。
 ラウラ一人でさえ厄介だったというのに、二人を同時に相手するとなれば戦況はより厳しくなるだろう。
 最悪、宝具の使用も念頭に入れておかなければならない。

 そう覚悟を決めた、その時だった。
 襲撃者の少女はラウラに一言二言呟いたかと思うと、こちらへと話しかけてきた。

「僕はシャルロット・デュノアと申します。貴女のお名前を伺っても宜しいでしょうか」
「かまいません。私の事は、セイバーと呼んでください」
「ありがとうございます、セイバーさん。
 早速で悪いんですが、一つお願いを聞いていただけないでしょうか」
「お願い……?」

 そう訊ね返すと同時に、シャルロットからある物が投げ渡された。
 危なげなく受け取れば、それは青い色をしたコアメダルだった。

「それをお譲りしますので、どうか僕たちを見逃していただけないでしょうか」
「……なるほど、そう言うことですか」

 つまりシャルロットはこの殺し合いを左右するであろうコアメダルを対価に、この場を納めようとしているのだろう。
 それはある意味、願ってもない状況だろう。
 もとよりセイバーの目的は鈴羽達を守る事。ラウラと戦ったのは、そのために過ぎない。
 今はラウラ達と決着をつけるよりも、鈴羽達との合流を優先させたい。
 故に彼女達が自分から退いてくれるのであれば、今のセイバーに戦う理由はない。

「いいでしょう。そちらが退くというのであれば、私に追う理由はありません」
「ありがとうございます」
「ですがその前に、一つだけ訊いておくことがあります」

 シャルロットの背後。ある程度回復したのか、どうにか立ち上がったラウラへと質問を投げかける。
 今ここで彼女を殺すことがなくなった以上、それは訊いておかねばならないことだった。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴女は一体どのような理由で戦うのですか?」
「それは……嫁を、仲間を守るためだ!」

 ラウラはシャルロットを押し退けて、私に挑む様に宣言した。
 おそらく彼女は、その言葉通りに仲間を守るため、殺し合いに乗ったのだろう。

「いい覚悟です。
 もし再び貴女と戦う事があれば、その時は私も全力を持って応えましょう」
「私を……黒兎を舐めるなよ。次は必ず勝つ……!」
 そう言ってラウラはシャルロットに連れられて空へと去って行った。

「さあ、私達も鈴羽と合流しましょう」

 いつの間にか傍らに寄っていたトライドベンダーに乗り、スロットルを開け放って車体を反転させる。
 そうしてアクセルを回し急加速をかけ、鈴羽達との集合場所である健康ランドを目指して駆け出した。


 彼女達の目的が仲間を守る事であるのなら、この殺し合いを打破するきっかけを掴めば、仲間になってくれるかもしれない。
 そうすれば無用な戦いを避けられるし、殺し合いに乗った者達に対抗する力にもなる。
 そのためにも、一刻も早く手掛かりを掴まなければ。


【一日目-午後】
【F-2/エリア北東】

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero、トライドベンダー@仮面ライダーオーズ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破。
1.健康ランドに向かい、鈴羽達と合流する。
2.1の後、改めて空美中学校へと向かう。
3.騎士として力無き者を保護する。
4.衛宮切嗣キャスターバーサーカーを警戒。
5.ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。


        ○ ○ ○


 その光景を、遠く離れたビルの屋上から、一人の男が眺めていた。

 その男の存在に、戦いに集中していたセイバー達には気付かなかった。
 もしその男がセイバー達に敵意を向けたのであれば、彼女達はすぐに感付いただろうが、そうはならなかったのだ。

「やはり、小娘一人ではサーヴァントは倒せないか。やはり、もっと多くの兵力がいるな」

 その男――ウヴァはそう結論すると、ラウラ達が飛び去った方へと歩き出した。

 ラウラにセイバーを襲うように指示したのは確かにウヴァだ。
 最初の狙撃でセイバーは死ねば良し。そうでなくとも、ラウラとセイバーが戦っている所に加勢し、二人がかりでセイバーを倒す作戦だったのだ。
 だがそうはならなかった。
 ウヴァはラウラに加勢することはなく、ラウラはセイバーに敗北した。

 その理由は単純だ。
 ウヴァにとってセイバーのトライドベンダーの使用は予想外だった。
 その結果、いきなり始まったカーチェイスを追い駆けるのがやっとだったのだ。

 分かりやすく言えば―――ウヴァは出遅れたのだ。

「やはり、リスクを承知で北東に向かうべきだったか?」

 北に織斑一夏、X。
 北東に鏑木・T・虎徹
 東にアンク剣崎一真佐倉杏子、バーサーカー。
 南東に間桐雁夜
 南にセイバー、阿万音鈴羽見月そはら

 それがウヴァの知っている、空美中学校付近の参加者の配置だ。
 そして移動に際し選んだのが、セイバー達のいる南側だった。

 まず織斑一夏のいる北は論外。
 もし遭遇してしまえば、ラウラが離反する恐れがあるからだ。
 一対一ならともかく、二人がかりで来られれば流石に苦戦する。

 同様に東も論外。
 憎たらしいアンクを倒せるかもしれないのは確かに惜しい。
 だがそのためにわざわざ剣崎一真やバーサーカーと戦うのはバカバカしい。

 間の北東も微妙だった。
 鏑木・T・虎徹は強力なヒーローだが、その能力は五分と持たない。二人がかりなら問題なく倒せる相手だろう。
 だが織斑一夏や剣崎一真、バーサーカーに挟まれる形となってしまう。
 加えてその奥には仮面ライダーWやエンジェロイドのイカロス。敵対陣営のもう一人のアンクなど、厄介なことこの上ない配置になっているのだ。

 故にリスクの少ない南側を選んだのだが、結果は芳しくなかった。
 確かにラウラを失わずにすみ、さらに彼女がシャルロット・デュノアと合流したのは僥倖だった。
 だが、セイバーは未だ健在のまま。いつかその力と相対することを考えれば、安心は出来ない。

 後はもう、ラウラがシャルロットを説得し、味方に引き込むことを期待するしかない。

「セルを十枚も無駄に使わせたんだ。それくらいの働きはして見せろよ?」

 ウヴァは微かに見える勝利に顔を歪ませながら、ラウラ達が飛び去った方へと歩き出した。
 己の欲望の果てに、ある筈の“何か”を求めながら。


【一日目-午後】
【F-2/エリア北】

【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】クワガタ×1、カマキリ×2、バッタ×2
【装備】なし
【道具】基本支給品、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ランダム支給品0~2(未確認)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.とりあえずラウラと合流する。
2.もっと多くの兵力を集める。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。


        ○ ○ ○


 エリア【F-3】。オズワルドと呼ばれる戦艦を俯瞰できる港に、ラウラとシャルロットは降り立った。
 ラウラは戦いの緊張が解け疲労が表に出て来たらしく、先ほどよりも疲れた様子を見せていた。

「そう言えば、礼がまだだったな。
 感謝する、シャルロット。おかげで命拾いした」
「どういたしまして。
 でも本当にビックリしたよ。ISに反応があったから何事かと思って行ってみれば、ラウラが殺されそうになってるんだから。
 一体何がどうなってあんな状況になったのか、説明してくれる?」

 その質問にラウラはとても言い難そうにした後、諦めたようにこれまでの経緯を話した。
 ウヴァと遭遇し、奴の話から従うことを決めたこと。
 奴の指示により、セイバーに戦いを挑んだこと。
 そうして―――呆気なく敗北したこと。

「私は……弱いな………」

 仲間を守ると息巻いて、結局何も出来ずに死にかけた。
 それどころか、逆に守ろうとした仲間に助けられる始末だ。
 こんな様で、一体何を守れるというのだろうか。

 結局私は、一夏と初めて出会ったころと、何も変わってないのかもしれない。

「そんな事、ないと思うけどな」

 けどシャルロットは、それを静かに否定した。

「初めて出会ったころのラウラはさ、どこか物騒なナイフみたいな印象だったんだ。
 けど今のラウラは違う。前みたいに一人でなんとかしようとする所は変わってないけど、それでも、みんなのために頑張ろうとしてる。
 ……それってさ、とてもすごい事だと僕は思うんだ。
 そんなすごい事を当たり前のように出来るから、一夏は強いんだと思う」

 ああ、そうだ。そんな人だったから、私達は織斑一夏を好きになったのだ。
 独りで迷子のようになっていた私に、そっと手を伸ばしてくれた彼を。

「それにさ、仲間は助け合うものでしょ?
 なら、ラウラがみんなを助けようとするのは当然だし、私がラウラを助けるのも当然だよ」
「……ああ、そうだったな。そんな当然の事も、私は忘れていた。
 はは……これでは負けて当然ではないか」

 セイバーはあの少女達を守るために戦い、私は仲間の為と言い訳して、ウヴァの言い成りになって戦った。
 セイバーと私では、背負うモノの重さが違ったのだ。

「本当に、情けない………」
 情けない自分がおかしくて、笑いが込み上げてきた。
 そんな私を、シャルロットは見守るように見つめている。
 きっと彼女は、私がまた危機に陥ったら、今回のように助けてくれるだろう。
 それを考えると、情けないままではいられないと思った。
 今度は……今度こそは自分の方が助ける番だと、そう強く誓った。

 私は教官にも、一夏のようにもなれない。
 けれど私は、シャルロットや一夏の、仲間なのだから―――


「それで、ラウラはこれからどうするの?」
「どうするもなにも、する事は変わらない」
「それって、ウヴァに従うってこと?」
「そうだ。他に具体的な方法がある訳ではない。
 なら私は、私に出来る最善で仲間を助けてみせる」

 確かに他の解決策も探せば見つかるかもしれない。だが今は奴に従う方が確実だ。
 そう答えるとシャルロットは少し考えるような素振りを見せる。

「その事なんだけど、一ついいかな?」
「ん? なんだ?」
「えーと……あった。ラウラ、ここ読んで」

 シャルロットはデイバックからルールブックを取りだして、そこに書かれたある一文を示してきた。
 そこにはこう書かれていた。

【(3)リーダー不在となった場合、同色コアメダルを最も多く取り込んでいる無所属参加者がリーダーを代行する】

「これは………」
「これってつまり、ウヴァがリーダーである必要はないってことだよね」
「………………!」

 その通りだ。勝者は生き残った陣営の終了時点でのリーダーなのは確かだ。
 だが、“リーダーがグリードであるとは限られていない”……!

「つまり私やお前がリーダーであっても、何の問題もない。そういう事だな」
「その通り。別に、ラウラがウヴァに従う必要はないんだよ」
「なるほどな。またお前に助けられてしまったが、これであの虫頭に借りが返せる」
「それって、ウヴァを倒すってこと? もしそうなら協力するけど」
「ああ、いや、それはまだだ」

 ウヴァを倒すことは確定だが、それは今すぐにではない。
 そう言うとシャルロットが不思議そうな顔をして首を傾げる。

「奴らグリードが真木清人と通じていることは確かだからな。
 倒すのは奴から引き出せる情報を統べて訊き出してからだ。
 その後に私を虚仮にしてくれた恨みも込めて、きっちりと始末してやる」
「なるほど。面従腹背、ってやつだね」

 ウヴァを倒した際に誰がリーダーになるかは知らないが、おそらくウヴァを倒した人物がそうなるだろう。
 となると、現状では私かシャルロットの可能性が高い。
 別に私がリーダーとなる事に異論はないが、やはり教官や嫁にリーダーになってもらうのが――――

「いや、まて………」
「どうしたの、ラウラ? 急に難しい顔をして」

 自分のルールブックを取りだし、再び先ほどの項目を読み返す。

【(3)リーダー不在となった場合、同色コアメダルを最も多く取り込んでいる無所属参加者がリーダーを代行する】

 これはつまり、“無所属の参加者がコアメダルを持っている限り、その色の陣営は消滅しない”と言う事なのではないのか?
 たとえコアメダルが一枚だけであろうと、それが最多保有数であるのならその保有者がリーダーになるという事なのだから。
 だとすれば、本当の勝利条件は他陣営のリーダーを殺す事ではなく―――

「全てのコアメダルを集める事、か……?」

 それならば、他陣営のリーダーが生まれる余地はない。
 もちろんこの推測にだって穴はある。ルールの(2)や(4)を考えれば、一応の決着も見えている。
 ……だが、その信憑性は非常に高い。

「ねえラウラ、一体どういうこと?」
「うん? ああ、すまない。今説明する」

 シャルロットに今の推測を教える。
 それを聞いたシャルロットは、難しい顔をして納得したように頷く。

「確かにその可能性は高いね。表向きの勝利条件、陣営リーダーが1人しかいない状況って言うのとそう違ってないし」
「やはりお前もそう思うか。だとすると、非常に厄介な事になるな。
 ……だが、私のする事に変わりはない。元より自分の陣営を作り、優勝するつもりだったんだ」
「ラウラ……」
「シャルロット、お前はどうする?
 優勝を目指すのであれば、誰かを殺すことになるだろう。
 私は産まれた時より兵士だった。そのくらいの覚悟はするさ。
 だがお前は―――」
「協力するよ」

 私の言葉を遮って放たれたシャルロットの言葉に、思わず目を見開いた。
 何故、という問いかけが口を突いて出そうになるが、その前にシャルロットが言葉を続ける。

「もちろん誰かを殺すつもりも、ラウラに殺させるつもりもないよ。
 けど僕たちは仲間だろ? ラウラ一人に辛い思いをさせる訳にはいかないからね」
「……すまない、いや、ありがとう」

 どうやらまた、シャルロットに借りを作ってしまったらしい。
 助けられてばかりの自分が本当に不甲斐ない。
 だが、この借りは必ず返してみせよう。

「取り合えずは、あの虫頭と合流するか。何をするにも、情報は必要だ」
「そうだね。じゃあ僕は、ラウラに賛同したという事にするよ」
「ああ、それで行こう。あの虫頭は意外と単純そうだからな。おそらく信用するだろう。
 仮に戦闘になったとしても、私達二人でやれば倒せるだろうしな」

 ウヴァの持つ情報がどれだけ確かなものかはわからないが、私を唆したくらいだ。それなりに有用な情報は持っているだろう。
 それを聞きだすまでは貴様に従ってやろう。せいぜい良い気になっていろ。

 そしてセイバー。
 私はこの殺し合いの中でもっと強くなってやろう。
 そして、この次こそは貴様に勝って見せる……!


 そう心の中で宣言し、ラウラは仲間と共に歩きだした。
 それは少し前までの様な悩みを抱えたモノではなく、故に彼女は先程よりも強くなっているだろう。
 仲間のために強くなるという決意。
 それは彼女達の想い人が抱く願いと同質の願いなのだから――――。


【一日目-午後】
【F-3/エリア南西】

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】70枚:0枚
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0~2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する。そのために陣営優勝を目指す。
0.とりあえずウヴァと合流する。
1.表向きウヴァに協力し、可能な限り情報を引き出す。
2.ウヴァから引き出せるモノがなくなったら始末する。
3.己が陣営優勝のため、ウヴァには内密でコアメダルを集める。
4.嫁と仲間のために、他の誰かを手にかける覚悟を決める。
5.もっと強くなって、次こそはセイバーに勝つ……!
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。


【シャルロット・デュノア@インフィニット・ストラトス】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】95枚:0枚
【装備】ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に殺し合いから脱出する。
1.ひとまずラウラの協力をする。
2.優勝以外の仲間達と脱出する方法を探す。
3.ラウラが誰かを殺さないで済むように手を尽くす。
【備考】
※ラウラの推測、“本当の勝利条件”について聞きました。


029:Sの誇り/それが、愛でしょう 投下順 031:アイスと探偵と永遠の切札
028:Iの慟哭/信じたいモノ 時系列順 033:休憩!!
015:近くて遠い現在地 阿万音鈴羽 050:醒めない夢(前編)
見月そはら
セイバー
027:誰がために黒兎は戦う ウヴァ 034:創世王、シャドームーン
ラウラ・ボーデヴィッヒ 072:はみだし者狂騒曲
GAME START シャルロット・デュノア



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最終更新:2012年12月25日 19:55