クジラの群れを追うナナミたちの前に、突如として海から、巨大な光の柱が立ち昇る。 アル「あ、ありゃ一体!?」 シェリル「決まってるじゃない! あそこにヒカリクジラがいるのよ。行きましょう、スコット!」 スコット「しかし、このクジラの群れの中をどうやって?」 ナナミの耳に、誰かの声が響く。 謎の声「おいで── ナナミ──」 #center(){|BGCOLOR(#0D40A2):COLOR(white):CENTER:&br()&bold(){&big(){&big(){それぞれの旅立ち&br()永遠の光の輪}}}&br()&br()|} 光を取り巻いていたクジラの群れが突如、海面を動き始める。 ルコント(([[第1話>七つの海のティコの第1話]]のラストで登場した白衣の研究者。スコットと対立していたが、和解した。))「な、何だ!?」 トーマス((ルコントの息子。))「急に動き出したよ!」 スコット「みんな、何かに掴まれ!」 クジラの大群の動きで、海面に波が立ち、ペペロンチーノ号が大きく傾く。 とっさにアルが、舵を切ろうとする。 スコット「待て、アル! この状況でエンジンを吹かすのは危険だ」 アル「そ、そうか」 スコット「幸いに、クジラたちは興奮しているわけではなさそうだ。このまま流れに任せて、しばらく様子を見よう」 アル「オーキー・ドーキー!」 スコット「どうやら、あの光を中心に渦巻き状に回転しているようだ」 ルコント「中心まで引き寄せられているというのか?」 ペペロンチーノ号が波に乗りつつ、次第に光の中心へと近づいてゆく。 シェリル「不思議ね。この辺りは渦を巻いていないわ」 謎の声「ナナミ── おいで── ナナミ──」 ナナミ「はっ……! 父さん、早く行こう!」 スコット「えっ?」 ナナミ「だって、呼んでるじゃない!」 一同「え……?」 ナナミ「……聞こえないの? 聞こえるよね? ね?」 謎の声「ナナミ──」 ナナミ「ほら!」 海面からティコ((第1話から登場していたティコは中盤で死亡。ここでのティコはその子供。))が顔を出し、ナナミに応えるように鳴く。 ナナミ「ティコも『聞こえる』って言ってる!」 シェリル「何て言ってるの?」 ナナミ「『おいで、ナナミ』って」 アル「ナナミ。俺には、聞こえないみたいだ」 ナナミ「え……?」 トーマス「僕にも、全然」 シェリル「私もよ」 ナナミ「そんな……? 父さん! 父さんには聞こえるでしょう?」 スコット「いや、私にも聞こえない」 ナナミ「そんな……」 謎の声「おいで── ナナミ──」 スコット「行っておいで」 一同「えっ!?」 アル「スコット!」 スコット「ナナミ。ヒカリクジラは、お前を呼んでいるんだ」 ティコがナナミを誘うように、鳴き声を上げる。 スコット「お前を。そして、ティコを」 ナナミ「父さん……」 シェリル「行ってらっしゃいよ、ナナミ。すごい冒険だわ!」 ジェームス「お気をつけて」 アル「ナナミ、俺たちの代りだ。しっかり見て来いよ!」 トーマス「ヒカリクジラによろしくね!」 ナナミ「でも……」 スコット「ナナミ、お前が選ばれたんだ」 一同がナナミに、笑顔で応える。 ナナミ「……はい!」 スコット「気をつけて行くんだぞ」 ナナミ「はい! ティコ──!」 ティコがナナミの呼びかけに応え、鳴き声をあげる。 ナナミ「行ってきます!」 ナナミが皆に敬礼を決め、海に飛び込み、ティコの背に乗る。 ナナミ「さぁ、ティコ! 行くよ!」 ティコの背に乗り、ナナミは光の中心へと向かう。スコットたちが、その後ろ姿を見送る。 ルコント「自分の目で確かめなくていいのか?」 スコット「あぁ、いいんだ」 トーマス「でも、ずっと追いかけてきたのに」 スコット「私は、なぜヒカリクジラを追うのか、自分に問いかけることがある。学問的興味、科学的関心、名声、満足感…… だがね、トーマス。もっと単純なことだったんだ。たぶん人間は、何かを追い求めていなければ済まないように出来ているんだ。何か、自分には絶対にないものを……」 シェリル「それって…… 夢?」 スコット「そうだな…… 7年間も追いかけてきたヒカリクジラに、自分のたった1人の娘が逢おうとしている。これ以上の夢はないのかもしれない」 ナナミたちが、光の中へと消えてゆく。 アル「行っちまった……」 ナナミが、目もくらむような光の中を突き進む。 ナナミ「これじゃ、何も見えない! どうしよう……」 謎の声「おいで── おいで、ナナミ──」 ナナミたちは膨大な光を突き抜け、宇宙空間のような世界へと飛び出す。 勢い余って、ナナミがティコの背から放り出される。 ナナミ「わ、わぁっ!?」 そのままナナミは、まるで水中のように、空間の中に浮かんでいる。 ナナミ「ここは……?」 謎の声「ナナミ──」 ナナミ「どこ!? どこなの?」 謎の声「ナナミ── ティコ──」 ついにその声の主、全身光り輝く巨大なクジラ、伝説のヒカリクジラが姿を現す。 ナナミ「ヒカリ……クジラ? 大きい……」 大きなヒカリクジラの背後から、たくさんの光輝くクジラが現れる。 その中には、ナナミたちによって捕われの身から救い出されたクジラもいる。 ナナミ「あなたは! ごめんね…… 痛かったでしょう?」 ヒカリクジラ「ありがとう── この子を助けてもらい、感謝している──」 ナナミ「でも、たくさんの人や動物が、傷ついたり死んだりした…… あの子を捕まえたりしなければ、こんな、こんなことにはならなかったのに。なんだか人間って、ひどいことばかりしているみたい…… 私たちは、海に出て来ない方が良かったのかな!?」 ヒカリクジラ「それは違う──」 ナナミ「えっ?」 ヒカリクジラ「命はすべて海から生まれた── 人間もまた、海から生まれたのだ──」 ナナミ「……」 ヒカリクジラ「だが、そのことを忘れ、海を支配しようと考える者もいる── 海を支配することなどできない、海に生まれ、海に還るだけだ── 人は、海の子なのだから──」 ナナミ「海の子……?」 ヒカリクジラ「ナナミ── 大きくなったな──」 ナナミ「えっ?」 ヒカリクジラ「私たちはいつも、お前と一緒にいた── ずっと以前からお前を見ていた──」 ナナミ「……ずっとって、どこにいたの!?」 ヒカリクジラ「すぐそばに──」 ナナミ「だって私たち、ずっとあなたを捜してきたのよ!? 父さんなんか本当に、本当に一生懸命に! 体まで壊して、ずっとずっと! それなのに、すぐそばにいただなんてずるい! どこにも見えなかったじゃない!?」 ヒカリクジラ「私たちはいつでも姿が見えるとは限らない──」 ヒカリクジラの姿が、次第に消えてゆく。 ナナミ「どこに行ったの!? お願い、戻って来て! 私、まだあなたに聞きたいことがいっぱいあるの!」 ヒカリクジラ「あのとき──」 ナナミ「えっ?」 ヒカリクジラ「お前の瞳は、まっすぐに私を見つめていた──」 ナナミ「あのとき……?」 ヒカリクジラ「お前はまだ、幼かった── そしてティコ、お前の母親もまた幼かった──」 ナナミ「私も、ティコのお母さんも、幼かった……?」 どこからか、波の音が響く。 ナナミ「これは、波の音?」 回想── 夕暮れの海辺で幼いナナミが、現在のティコの母、先代ティコが遊んでいる。 彼方の海面から、光り輝くクジラの背が浮かび上がる。 ナナミが手を伸ばし、勢い余って海に落ち、ティコがナナミを救い上げる。 ナナミが無邪気に、クジラに笑いかける。 ナナミ「あれは……」 ヒカリクジラが再び、姿を現す。 ナナミ「あれは、あなたね!? 私、ずっと前にあなたに逢った…… そしてあなたは、ずっとそばにいた! そうなんだね!?」 ペペロンチーノ号のスコットたち。 アル「……ナナミの奴、大丈夫かな? もう、随分になるぜ?」 トーマス「ヒカリクジラに逢えたのかな……?」 シェリル「逢えたわよ、きっと。ね、スコット」 スコット「あぁ。きっとナナミは今、ヒカリクジラと色々なことを話しているだろう」 アル「は、話すって、相手は動物だろう?」 ナナミ「あなたたちは、何なの?」 ヒカリクジラ「私たち──?」 ナナミ「あの子たちを助けるために、動物たちは力を合せて、一生懸命戦った。まるであなたたちが、自分たちの王様か何かみたいに」 ヒカリクジラ「──」 ナナミ「それに、あの不思議なトロンチウム。父さんは、『トロンチウムが大昔からすべての生き物の進化を導いてきたのかもしれない』って言ってた」 ヒカリクジラ「──」 ナナミ「あなたたちが、トロンチウムで生き物を創り出したの? だとしたら、あなたたちはまるで…… まるで! 神様みたい……」 ヒカリクジラ「私たちは、見守る者だ──」 ナナミ「見守る者?」 ヒカリクジラ「見守り、見届ける者──」 ナナミ「見守るって、何を?」 ヒカリクジラ「命を──」 ヒカリクジラが眩い光を放ちつつ消えてゆき、ほかのクジラたちも消えてゆく。 ナナミ「ねぇ、どうしたの!?」 光の中から、何かが現れる。 ナナミ「……ティコ!?」 ナナミたちのために命を落とした先代ティコ。 ティコが飛び出し、母ティコに愛おしそうに肌を摺り寄せる。 ナナミ「ティコ……!」 声「ナナミ……」 その声に振り向くと、光の中から次第に誰かが現れる。今は亡きナナミの母、洋子。 洋子「ナナミ……」 ナナミ「母……さん? 母さぁぁん!」 泣きながら洋子の胸の中に飛び込んでゆくナナミを、洋子は優しく抱きとめる。 ナナミ「母さん! 母さんだ! 母さぁん! うっ、うぅっ……」 洋子「ナナミ……」 ナナミ「母さん……」 ヒカリクジラ「ナナミ──」 洋子や母ティコの姿が消え、入れ替わりにヒカリクジラが姿を現す。 ナナミ「あなたが、逢わせてくれたの?」 ヒカリクジラ「私はお前の母親も、ティコの母親も、そしてお前たちすべてを見ている──」 目の前の空間に、次々にどこかの景色が浮かび上がる。 ナナミ「これは……!?」 これまでナナミたちが旅してきた数々の国々。 そこで出逢った、たくさんの人々。 ナナミ「何、これ!?」 ジープに乗って野生動物とともに草原を駆けるナナミ。 パラグライダーで宙を舞うナナミ。 ナナミ「これは……!? 知らない、私! これは…… 未来なの!?」 大きく成長したティコが、海上を舞う。 ナナミ「ティコ!?」 そして、揺り籠に揺られる幼い赤ん坊の姿。 その赤ん坊を見つめる、母親の姿。 その顔には、ナナミの面影がある。 ナナミ「あれは…… あれは、私?」 さまざまな景色の光景が消え、ヒカリクジラが姿を現す。 ナナミ「命を見守り、見届ける者…… 父さんは『命は引き継がれるものだ』って言ってた。『死んだティコの命は、子供のティコに引き継がれたんだ』って。母さんの命は、私に引き継がれた…… そして私の命もいつか…… そして、そうやってあなたたちは、永い永い時を見守って来た。そして、これからも……」 そのナナミの答に満足したように、次第にヒカリクジラが去ってゆく。 ナナミ「あ、待って! 私たちはどうすればいいの? 海を、海を守っていけばいいの!?」 ヒカリクジラ「守るのではない──」 ナナミ「えっ?」 ヒカリクジラ「お前たちは、海そのものなのだ──」 ナナミ「海そのもの……」 スコットたちが見守る光の柱に、変化が現れる。 シェリル「あっ、見て!」 トーマス「光が揺れてる!」 アル「どうしたってんだ?」 光が空に昇るように、消え去る。 ルコント「消えた!?」 アル「あの中には……」 シェリル「あれを見て! ナナミとティコよ!」 光が消えた後の海面にティコが浮かんでおり、その上にナナミが、満足げな笑みを携えて眠っている。 ペペロンチーノ号の船室。 皆が見守る中、ベッドの上のナナミが目を覚ます。 ナナミ「父さん……」 スコットは満足げに頷く。 ナナミ「私、ヒカリクジラに逢ったよ…… でも、どう話したらいいのか……」 スコット「いいさ」 ナナミ「えっ?」 スコット「今は、何も話さなくていい」 シェリル「ナナミ。私たち、イギリスに帰ることにしたの」 ナナミ「えっ? どうして!?」 シェリル「ナナミがあの光の中にいる間にね、なんだか急にお父様や、死んだお母様のことが懐かしくなっちゃって…… フフッ、不思議よね。どうしちゃったのかしら?」 ナナミ「シェリルさん……」 トーマス「ナナミ。僕も父さんと一緒に、母さんのところに行こうと思うんだ」 ナナミ「えっ!?」 トーマス「母さんは、僕たちと離れて暮してたんだ」 ルコント「だがもう一度、話し合ってみるつもりだ。3人一緒に暮せるようにね」 アル「ったく、どういつもこいつも」 ナナミ「アルぅ!」 アル「わかってるよぉ。そういや婆ちゃん、元気でやってっかな?」 一同「アハハハハハ!」 オープニングテーマに乗せてのエピローグ。 シェリルたち、トーマスたちを乗せたヘリコプターが空へ飛び立つ。 ペペロンチーノ号で、ナナミが大きく手を振って見送る。 そして何年かが経った後。 いくぶんか成長したナナミが、母親のように大きく成長したティコと共に、海を駆ける。 アルのスクイドボールが海中を行く。 その隣に、シェリルの潜水艇が並ぶ。 海面を駆けるペペロンチーノ号の隣に、クルーザーが並ぶ。 船上にはトーマス、ルコント。そしてトーマスの母。 凛々しく成長したトーマスが、風を切る。 自信満々で操縦桿を握るシェリルを、ジェームスが危なっかしそうに見守る。 そして先陣を切るナナミが、ティコと共に大きく宙を舞う── #center(){&big(){&bold(){おわり}}}