※ アニメ版『忍空』は全55話ですが、第50話で本筋に決着をつけた後、残りの5話分をすべて後日談に充てるという非常に珍しい形式をとっています。よって、実質的な最終回である第50話を紹介します。 闇の風水師・コウチン大僧正が、天空龍の力──すなわち、あらゆる自然の力を支配すべく築いた龍穴の塔は、正の風水師である風助の母・山吹を塔の頂に人柱として閉じ込めることによって完成する。 それを阻止すべく乗り込んだ風助たちの前に現れた、忍空組の総帥・&ruby(れい){麗}&ruby(しゅ){朱}。 その麗朱とともに、かつて忍空組を組織していたのが&ruby(はく){白}&ruby(よう){楊}ことコウチンであり、コウチンが帝国軍の幕僚・メキラ大佐の祖国を滅ぼした事実も戦いの中で明らかにされた。 だが、歳月はコウチンに強さを、麗朱に老いをもたらしていた。麗朱を倒したコウチンは龍穴の塔に集められた風水の気の力を操り、&ruby(あい){藍}&ruby(ちょう){朓}、&ruby(とう){橙}&ruby(じ){次}、&ruby(き){黄}&ruby(すみ){純}、&ruby(せき){赤}&ruby(らい){雷}、そして風助をも追い詰めるのだった。 #center(){|BGCOLOR(#00000f):COLOR(white):CENTER:&br()&big(){&big(){&bold(){&i(){力を越えろ風助!最大空力!!}}}}&br()&br()|} 傷つき、倒れた風助をコウチンが見下げている。 風助は懸命に体を起こそうとするが、足に力が入らない。 コウチン「素晴らしい…… これが真の天空龍の力だ。今やすべての自然の気の流れは、この龍穴の塔に集約され、我が意に従おうとしている」 龍穴の塔・中層部の床に刻まれた風水羅盤図が、黄金の光を放ち始めた。 里穂子「何、この光!?」 藍朓「風助っ!!」 黄純「くそぉ……」 ドクトル・ガウニー「ものすごいエネルギーじゃ。天空龍の力はこんなにすごいのか……」 龍穴の塔に囚われた山吹が、風助に向かって何か叫んでいる。 しかし、その言葉は結界にさえぎられて風助には届かない。 風助「母ちゃん……」 風助が倒れ伏す。 コウチン「なっはっはっはっは…… さぁっ、天空龍よ!!」 集約された風水の気の力が、巨大な龍の姿をなしてコウチンに襲い掛かっていく。 紙屑のように吹き飛ばされ、失神する風助。 コウチン「我に従えぇっ!!」 気の乱れにより、帝国領の各地で天変地異が起こり始めた。 雪山が崩れ、地面が割れて溶岩が噴き出す。 爆炎に包まれる帝都。 麗朱「あきらめろ白楊。天空龍を操ることなどできないのだ」 コウチン「なぜだ…… 天空龍よ、なぜ我が意に従わん!?」 風水の気の力が風助の体に入り込んでいく。 コウチン「力の一部が風助に……!? どういうことだ!? こんなガキに天空龍は力を貸すというのか。こいつに、そんな価値があるのか?」 風助(これが…… 龍さんの……) 風助が黄金の光をまとい、ゆっくりと立ち上がる。 橙次「一体、何が起こってるんだ!?」 里穂子「風助ーっ!!」 渾身の力を込めて立ち上がろうとする風助。 麗朱「やめろ、風助。天空龍の力を得ようなどと考えてはならん!」 里穂子「えっ!? 何、麗朱さん?」 麗朱「天空龍の気が風助にも集まりだした……」 アレク「風助……」 麗朱「やめろ、風助! それは人が触れてはならぬ力じゃ。たとえ一時力を得ても、お前の精神は崩壊するぞ!!」 風助「ぐっ…… うおぉぉぉ──っっ!!」 ついに風助が立ち上がる。 風助「だけど、このままじゃみんな死んじまうぞ!!」 目から涙をあふれさせ、今までの母を探す旅の途中で出会った人たちとの思い出を思い返す風助。 風助「俺は…… 母ちゃんや忍空の仲間や、友達になったみんなを…… &big(){&bold(){守りてェんだぁぁぁ──っっ!!!!}}」 風助の体が一層強く光り始めた。 風助「わかってくれるよな…… 母ちゃん……」 結界の中の山吹が、はっきりとうなずく。 コウチンに向き直り、立ち向かっていく風助。 コウチン「お前…… 本気か……!?」 風水の気の力が風助を阻む。 必死に手を伸ばす風助。 巨大な力の流れが龍穴の塔の瓦礫を巻き上げ、降り注ぐ気が風助を襲う。 コウチン「バカめが!!」 それもつかの間、風水の気の力が急激に衰え、消えていく。 風助も無傷。 風助「コウチン、これであいこだぞ」 コウチン「ぬぅっ…… ちぇああぁぁ──っ!!」 コウチンが叫びながら突進していく。 ついに風助とコウチンの一騎打ちが始まった。 忍空使いとして鍛えに鍛えた体技を駆使して戦う両者。 めくるめく空中戦の末、コウチンの飛び蹴りが風助の顔面をとらえる。 吹き飛ばされ、山吹が鎮座する羅盤を支える柱の一角に激突する風助。 柱が倒れる。 風助「母ちゃんっ!!」 そこへコウチンの攻撃が迫る──轟音。 橙次「藍朓!」 藍朓「おう!」 藍朓が、橙次を背負って跳躍の準備に入る。 里穂子「お兄ちゃん!? どうするつもりよ!?」 橙次「風助の母ちゃんを、助け出す!」 里穂子「無理だよ!」 藍朓「あいつにだけ、あんなつれぇ思いさせといて…… あいつの一番大事なものぐれぇ、俺たちが守ってやんなくちゃな!」 赤雷「藍朓……」 麗朱「羅盤の中心を狙え!」 うなずく藍朓と橙次。 藍朓「鳥忍法・&bold(){空飛拳}!!」 藍朓が跳躍。落ちてくる瓦礫を蹴ってさらに跳躍し、すれ違いざまに風助へ檄を飛ばす。 藍朓「風助!」 橙次「思いっきりやれ、風助!」 藍朓「&bold(){空脚爪}!!」 そのまま橙次を連れて結界の中に飛び込む。 風助「すまねぇ、橙次、藍朓!」 藍朓「行けっ、橙次!!」 橙次「おうっ!!」 山吹へ向けて橙次を投げ飛ばす藍朓。 橙次「&bold(){空蛇掌}ーっ!!」 橙次が着地と同時に羅盤を砕き、山吹を連れて脱出する。 龍穴の塔が爆発、崩壊──。 里穂子「やったの!?」 風水の気の力の奔流が、再び風助とコウチンを飲み込む。 橙次と藍朓は飛んでくる瓦礫から山吹を守りつつ、地上へ。 麗朱「龍穴の塔に集められたすべての気が、2人に……」 赤雷「風助っ!!」 里穂子「お兄ちゃん、藍朓さん……」 麗朱「危ないっ!」 麗朱が里穂子、ヒロユキ、アレクを連れて避難する。 一方、風水の気の力を取り込んだコウチンは、左半身が醜く隆起していた。 コウチン「そうだ。このパワーだ。わしは負けない! この力を、どんなことをしても、わしはぁ……!!」 コウチンの眼前で地面から黄金の光が沸き上がり、風助が姿を見せる。 風助の背後に、巨大な龍の幻影が見えている。 風助に天空龍の力を察する麗朱。 コウチンと風助が激突──風助の拳がコウチンの拳をそらす。 ふいに、笑みを浮かべるコウチン。 解き放たれた風水の気の嵐が、コウチンの体を宙に巻き上げ消滅させ、空に、大地に染みわたっていく──。 嵐がやんだ。 龍穴の塔の周囲には何も残っていない。 山吹を連れた橙次と藍朓が、麗朱たちに合流する。 里穂子「風助は?」 藍朓「ああ……」 里穂子「……何よ? 答えてよ、お兄ちゃん。風助は一緒じゃないの!?」 アレクが、少し遠くから青い気流が立ち上っているのを見つける。 アレク「風助!?」 駆け寄るアレク。少し遅れて里穂子たちもついていく。 風助は全身から気流を発しつつ、うつろな目で立ち尽くしていた。 近づこうとする里穂子を麗朱が制する。 麗朱「下がれ。危険だ」 里穂子「えっ? なんでよ!?」 気流が龍の顔を形作り、獣のように一同を威嚇。 おびえる里穂子。 山吹「風助……」 山吹が風助に近づくと気流がやみ、風助も意識を取り戻した。 風助「あっ…… か、母ちゃん……?」 山吹「風助……!」 風助「母ちゃ──ん!!」 山吹も風助も感極まって涙を流し、抱き合う。 ふいに、コウチンの僧正帽が風に流されてきた。麗朱が僧正帽を拾い上げ、風助と山吹のもとへ。 風助「お師さん……」 麗朱「これが、コウチンと名乗った男が望んだ結果かもしれん」 何もない荒野と化した土地を遠い眼で眺めながら、麗朱が語りだした。 麗朱「25年前のあの時、奴は最愛の妻と子供を一度に亡くした。それ以来、奴の心にはいつも天空龍に対する復讐があったのかもしれん。自分のすべてを奪った天空龍の存在に対して、過ちを認められず、奴はひたすら天空龍を操ることを追い求め、悪魔となった…… そして、その望みは…… 風助、お前がかなえたのだ」 風助「えっ、俺が?」 麗朱「そうじゃ。お前は今、天空龍を征して、その気を己に取り込んだのじゃ。だが、龍は人を変える。お前がずっとお前であることは……」 風助「大丈夫だぞ。俺はコウチンみてェにはなんねェぞ」 麗朱「風助……」 風助「俺にはいっぱいの友達がいるから、大丈夫だぞ!」 里穂子たちが風助に駆け寄ってきた。 ようやく暗雲が晴れ、太陽が顔を見せ始めた──。 それから数日が過ぎた。 龍穴の塔周辺では、帝国軍人たちが復興作業を進めている。 そして、風助たちは旅支度を始めていた。 アレク「やっぱり、一緒に来てくれぬのか、風助」 風助「ああ。誘ってくれてうれしいぞ。だけど、一緒に帝都にいても、俺たち、手伝える仕事はねェからな。それより、俺たちにできるやり方で、みんなにこの国が平和になったことを伝えてやりてェんだ」 アレク「でも、一緒に来れば、母ちゃんと暮らせるんだぞ?」 風助「母ちゃんには、正の風水師として帝都でやんなきゃなんねェ仕事がたくさんあるからな。ゆっくりしてる暇はねェはずだぞ。それに、そんな長くじゃねェんだろ? その仕事が終わったら…… そん時は母ちゃんを迎えに来るぞ!」 双乾「お待ちしています」 アジラダ「風助」 帝国軍のアジラダ大佐が来た。 アジラダ「……まさか、このような結果を迎えようとはな。不思議なものだ」 双乾「これからは、我々、大忙しです。帝都の再建とともに、まずはアレク様に正式に即位していただき、ダイオン陛下として、国民に慕われる国を築かねばなりません…… 麗朱殿は?」 風助「お師さんは忍空の里に戻ったぞ」 ふいに、車がクラクションを鳴らす。 降りてきたのはメキラとその部下たち。メキラのペットの猿・カミュも一緒だ。 藍朓「メキラ、もういいのか?」 メキラ「ああ…… 自分でも、己のしぶとさに驚いている。私にもまだ運が残っているらしい…… ありがとう」 メキラがアレクにかしずく。 アレクは何も言わずに手を差し出し、メキラも握手でそれに応えた。 橙次「どうするんだ? お前ら、これから」 メキラ「祖国に帰る。南国の小さな島だけどね。そこでもう一度、何ができるのか考えてみるつもりだ…… 出せ!」 メキラたちが出発。 赤雷「さてと、俺も行くぜ。婆さんの畑の収穫に、急いで戻んなきゃなんねぇんだ」 里穂子「黄純さんは?」 黄純「俺は、美雪の&ruby(い){眠}る町に戻る。それからのことは、わからないが……」 藍朓「そっか。あーあ、俺も誰にも邪魔されない旅にでも出るかなぁ」 それを聞いた里穂子が藍朓にすり寄る。 藍朓「だっ、なんだテメーは?」 里穂子「だって誰にも邪魔されない2人きりの旅なんてまだ早くな~い?」 藍朓「……何聞いてんだ、テメーは!」 風助「それじゃあアレク、元気でな」 アレク「風助もな!」 2人が固く握手を交わす。 風助「母ちゃん……」 山吹「風助……」 風助「俺、行ってくるぞ!」 山吹「今度のは、悲しい別れではありません。行ってらっしゃい、風助!」 風助たちが、修理を終えたプロペラ飛行機「ヒンデンブルグ号」で飛び立つ──が、それもつかの間、操縦桿が取れたヒンデンブルグ号は空中分解を起こすのだった。 #center(){&big(){(終)}}