ロボット開発による日本経済再生「ARKプロジェクト」始動が、テレビ番組で報じられている。
総理大臣の田部慎之介が、インタビューに答えている。
田部「日本の未来は、ロボットが救います。昨今、原発事故処理はもちろんのこと、福祉、介護の世界でも既存のシステム、科学技術では、すでに限界が現れております。我が内閣としては、是非ともそれを打開すべく、国と企業が一体となって、世界でも最先端のロボット開発に力を入れたい。そのために、『ARKプロジェクト』を立ち上げたのです」
続いて主任研究員の、光明寺信彦博士。
光明寺「最終的に目指すのは、人間では果たせない物理的な問題解決を担う『アンドロイド』です。開発の先にあるのは我々人類の平和だと、確信しています」
どこかの部屋。2人の男女が、激しい格闘を演じている。
拳と蹴りのぶつかり合いのたびに、金属音が響く。
別室で、光明寺の補佐である研究者のギルバート神崎と、研究員たちが、2人の戦いをモニターしている。
研究員「運動能力はほぼ互角ですが、判断速度の差が明らかです」
神埼「『良心回路』の弊害だな。あれは状況や相手の表情から、変に感情を察知しようとする。やはり戦闘には不要だ」
戦い合っている男女は、プロジェクトで開発されたアンドロイド、ジローとマリ。
神埼のもとへ、光明寺が駆け込んで来る。
光明寺「何やってるんですか!? 私に黙って!」
神崎「光明寺先生。見ての通り、KJX-1とBJX-2の戦闘能力のテストですよ」
マリのキックで、ジローが大きく吹き飛ぶ。
光明寺「ジロー!?」
神崎「もういい、それまでだ」
神崎の一声で、ジローもマリもピタリと動きを止める。
神崎「あなたのジローより、私のマリの方が優れた戦闘力を持っていることを、椿谷先生にお見せすべきと思いまして」
彼らの背後に、「ARKプロジェクト」のリーダー、国防大臣・椿谷がいる。
光明寺「ジローを戦闘用のアンドロイドとして開発した覚えはありません。私のARKプロジェクトは、あくまでも平和利用のためのものです。そもそもここは、あなたのいたアメリカとは違うんです。アンドロイドの優劣を、戦闘能力で測ること自体、時代錯誤と言わざるを得ませんな」
神崎「しかし我々科学者は、時としてあなたの言う『時代錯誤』の波に乗らなくてはならない。波に乗れず泳げない魚は、溺れ死ぬのですから」
光明寺「……やはり、初めから軍事利用が目的だったのか。ならば、私にも考えがある」
光明寺博士が立ち去る。
神崎「気楽なもんだ。この国のトップ科学者ともあろう人が…… どうするおつもりですか?」
椿谷「無論、光明寺チーフの説得は試みる」
神崎が、ジローとマリのもとへ行く。
ジローとマリは戦いを止め、微動だにせず、顔色一つ変えずに立ち尽くしている。
神崎「マリ、お前は完全に等しい」
神崎がジローの顔を覗き込む。
神崎「それに対してジローは、開発者同様、肝心な部分が抜けている。お前は、不完全な機械だ」
ジロー「僕は── 機械だ」
最終更新:2018年07月14日 08:49