侍戦隊シンケンジャーの第47話


源太「なぁ、お前ら…… 頼む!
丈ちゃんが、何もないって……
何もないって言うんだよ……
そんなこと、ねぇよな!?」

長かった嘘が終ったとき、
そこに何も見つけられず
十臓との戦いに没頭して行く丈瑠。
駆け付けずにはいられない
茉子、千明、ことは。
そして、侍として身動きできない流ノ介。

流ノ介「殿ぉぉ──っっ!!」

それぞれの想い、行き着く先には、
果たして──?


三途の川に雷鳴が激しく轟き、川の水が荒れている。

薄皮太夫「ざわついているな……」
シタリ「ドウコクの水切れも、そろそろ戻りかけてるんだよ。まぁ、まだ決め手には欠けるがね」
薄皮太夫「このざわつき、それだけでもないらしいが……」

丈瑠ことシンケンレッドと十臓の戦いが、果てしなく続く。

(彦馬『嘘だけでは…… 嘘だけではないはず…… 決して嘘だけではないはず……』)
レッド「それでも…… 嘘は嘘だ。俺には、これが……」

茉子、千明、ことはが、丈瑠のもとへと急ぐ。


第四十七幕




夜となった志葉亭。
1人となっている流ノ介が拳を握り締め、無人の上座の前でうな垂れている。

流ノ介「結局私は、答えも出せずこのまま……」
声「今行かなければ、後悔の苦しさは今以上のもの」

背後にいた黒子が素顔を晒す。かつて流ノ介とともに舵木折神を捕えた男、小松朔太郎。

流ノ介「あなたは!? あのときの……」

回想。
第七幕で舵木折神を捕えた流ノ介。

流ノ介「やった!…やりました!」

夜の荒野。
シンケンレッドと十臓の戦いは、夜がふけてもなお続く。

十臓「最高だなぁ…… これこそ、究極の快楽! 剣に生きるものだけが味わえる!」
レッド「剣、のみ……」

激戦の末にレッドの剣撃が、十臓の刀・裏正を弾き飛ばす。

レッド「剣、のみ! であぁぁっ!」

上段から振り下ろしたシンケンマルが、ついに十臓を真っ二つに切裂く。
宙を舞った裏正が、十臓の足元に突き刺さると同時に爆発する。

ことは「あれは!?」

彼方で立ち昇った火柱を見て、茉子、千明、ことはが足を速める。

志葉亭。

流ノ介「まさか、あなたが……」
朔太郎「あんたのおかげでまた戦う気になったんだ。侍たちや殿と一緒にな」
流ノ介「でも、その殿は……!」
朔太郎「あぁ。で、動くに動けないんだろ? あんたらしいな」
流ノ介「侍として守るべきは姫です! これは間違ってない! ただ、ただ私は……!」
朔太郎「『あの殿なら命を預けて一緒に戦える』! あんたが言ったんだ」

(流ノ介『あの殿なら、命を預けて一緒に戦える。そう決めたのは自分です! 親じゃない』)

朔太郎「あんたが命を預けた殿というのは、志葉家当主という(うつわ)か? それとも中身か!?」
流ノ介「……!」
朔太郎「もちろん姫は守らなければならない、当然だ。が、人は犬じゃない。(あるじ)は自分で決められる」

朔太郎が再び、頭巾で素顔を隠す。その背後の他の黒子たちが並ぶ。

朔太郎「どうか、侍として悔いのなきよう……」

薫は物陰でその様子を見守っていた。

夜の荒野。
変身を解いた丈瑠が息を切らす。傍らには、人間態に戻った十臓が倒れている。

丈瑠「やった……」
十臓「それこそが、快楽……」

まともに剣撃を受けたはずの十臓が、ニヤリと笑って体を起こす。

丈瑠「まさか!? 手応えはあった……!?」
十臓「なかなか死ねない体でな。手でなくば足、でなくば口…… 剣を持てる限り、この快楽は続く」

周囲に不気味な、赤黒い気が立ち昇る。

十臓「所詮、人の世のことはすべて、命さえも幻…… が、この手応えだけは真実! お前も感じたはず…… 何が、お前の真実か!」
丈瑠「真実!? 俺の……」

赤黒い気が次第に、丈瑠を取り囲んでゆく。

茉子「駄目ぇぇ──っっ!!」

十臓の言葉に取り込まれそうになっていた丈瑠が、茉子の一喝で我に返る。
茉子、千明、ことはが必死に駆けつけるものの、丈瑠たちの周囲は炎の壁で包まれ、近づけない。

茉子「丈瑠ぅ──っ!!」
ことは「そんな話聞いたらあかん!!」
千明「お前には、剣だけじゃないだろ!?」
丈瑠「お前たち…… どうして!?」
十臓「よそ見をするなぁ!! まだ、終わっていない……」

十臓が裏正を抜こうとした瞬間、その足元を、誰かが(つか)む。
掴んだのは生前の十臓の200年前の亡き妻で無言で訴えるように、十臓を見上げている。

十臓「……!?」

その正体は十臓の足元を深く刺し貫いた裏正。
かつて外道に堕ちようとする十臓を止めようとした妻が、裏正に宿り、今また十臓を止めようとしている。

十臓「裏正……!?」

剣を抜こうとするも、裏正は地面に深く突き刺さったまま、抜けない。

十臓「ここに来て……! いや、このときを待ってか!? ……裏正ぁぁ──っ!!」
丈瑠「それは、お前の…… 真実なんじゃないのか?」
十臓「いや!! 全て幻だ! この…… 快楽こそぉぉ!」

次の瞬間、十臓の体に縦一文字の刀筋が浮かび上がる。

十臓「お前の、剣…… 骨の、髄まで……! うおおぉぉ──っっ!!」

そう言った十臓の体から大爆発と共に炎を噴き上げる。
丈瑠がその爆炎に取り囲まれて逃げ場がない中で水飛沫(みずしぶき)を伴った剣撃が炎を切り払う。
そこには流ノ介がいた。

丈瑠「……流ノ介!?」
千明「丈瑠! 逃げるぞ!」
茉子「急いで!」

千明たちが炎の中から、丈瑠を救い出す。
背後では十臓が炎に包まれ、断末魔の叫びとともに灰と化してゆく。

十臓「うわああぁぁ──っっ!!」

六門船。

シタリ「死んだよ…… 腑破十臓」
薄皮太夫「そうか…… 200年の欲望、満たされたのかどうか……」
シタリ「さぁね。そういうお前さんは、どうなんだい? せっかくドウコクが直した三味線、ちっとも弾かないじゃないか」
薄皮太夫「あぁ。どうしてだか……」
シタリ「お前さんの三味の音なら、きっとドウコクが回復する決め手になると思うんだがねぇ……」
薄皮太夫「この、音色か……」

薄皮太夫がそう言うと河原の石の隙間からナナシ連中と大ナナシ連中が出てくる。

夜が明けた荒野。
激戦の跡には炎が消え、裏正が地面に突き刺さったまま。
丈瑠たち5人が無言のまま佇んでいる中で丈瑠が立ち上がる。

ことは「……殿様っ!」

ことはが思わずそう呼び、慌てて口をつぐむ。

丈瑠「俺のせいで悪かった。早く帰って……」
ことは「嘘じゃないと思います!」
丈瑠「……」
ことは「ずっと一緒に戦ってきたことも、お屋敷で楽しかったことも全部、ほんまのことやから…… そやから……」
丈瑠「俺が騙してたことも本当だ」
ことは「……」
丈瑠「ただの嘘じゃない。俺を守るために、お前たちが無駄に死ぬかもしれなかったんだ。……そんな嘘の上で何をしたって本当にはならない…… 早く姫のもとへ帰れ」
茉子「丈瑠……」
千明「……ったくぅ!」

千明が我慢できない様子で、丈瑠に殴りかかる。丈瑠が反射的にかわす。

千明「避けんなよ、馬鹿ぁ!!」

千明の再び振るった拳が、丈瑠の顔面に命中する。
丈瑠が地面に転り、ことはが慌てて駆け寄る。茉子が苦笑する。

ことは「千明!?」
千明「今ので、嘘はチャラにしてやる。だからもう言うなよ…… 何にも無いなんて言うなよ! 何も無かったら、俺たちがここに来るわけねぇだろう!?」

流ノ介が静かに、丈瑠の前に立つ。

流ノ介「志葉、丈瑠……」
丈瑠「……」
流ノ介「私が命を預けたのは、あなただ。それをどう使われようと文句は無い! 姫を守れと言うなら守る! ただし!! ……侍として一旦預けた命、責任は取ってもらう!」

流ノ介が、丈瑠の前にひざまずく。

流ノ介「この池波流ノ介! 殿と見込んだのはただ1人! これからもずっと!!」
丈瑠「……!」
千明「俺も…… 同じくってとこ。まだ前に立っててもらわなきゃ、困んだよ……」

千秋が照れくさそうに、顔を背けたまま言う。ことはも笑顔で続く。

ことは「うちも! うちも同じくです! それに、源さんや彦馬さんも!」
流ノ介「黒子の皆さんもだ……!」

茉子が最後に、優しく諭す。

茉子「丈瑠…… 志葉家の当主じゃなくても、丈瑠自身に積み重ってきたものは、ちゃんとあるよ……」
丈瑠「……俺に?」

丈瑠の脳裏に、これまでの仲間たちとの思い出が次々によぎる。

丈瑠「……俺にも?」
茉子「うん……」

茉子が優しく頷く。千明が微かに頷く。
流ノ介は真っすぐに丈瑠を見据える。ことはは笑顔で応える。
4人を前にして、丈瑠の瞳から一筋の涙が零れ落ちる中、一同の姿を見届けたかように、裏正が空中に溶け込んで消滅する。

志葉亭。
高座に座した薫のもとには、家臣である丹波がいてシンケンジャー4人らが無断で丈瑠の元へ行ったことに憤怒する。

丹波「けしからん! 侍どもめ、この期に及んで影のもとへ走るとは。自分たちが一体何をしているのか、わかってはおらんのか! あの大馬鹿者どもが! 姫、これはもはや謀反、謀反でございますぞ!」

丹波が薫にそう言う中、薫が持ってた畳んでいる扇子で丹波の頭を軽く叩く。

薫「馬鹿を申すな。影とはいえ、家臣との絆は結ばれているのだ。私は自分の使命だけに夢中で…… 私が出ることで、彼らを苦しめることにまでは思い至らなかった」
丹波「何をおっしゃいます!? 姫は、血の滲む努力で封印の文字を習得されたのです。ありがたがりこそすれ、苦しむなどと…… これはやはり、力ずくでも連れ戻さねば!」
薫「よせ!」

薫が扇子を投げつけるが、丹波はヒョイとかわす。

丹波「ハハハ! 丹波もまだまだ衰えては、おりませんぞぉ! 誰か、誰か! 至急、侍達を~!」

そこへ現れた黒子が、薫に大きい紙ハリセンを渡すと、身勝手な丹波の頭を叩いて気絶させる。

薫「う~ん、これはいい……」

黒子が一礼し、素顔を微かに見せて微笑む朔太郎。
彦馬と源太が、廊下で頷いている。

源太「お姫様もやるねぇ……」

源太がそう言った後、隙間センサーの反応音が鳴ると同時に港周辺にナナシ連中が現れる。

彦馬「157番、森ノ瀬町です」
薫「侍たちに連絡を。私は先に出る」

出陣しようとする薫の前に、源太が進み出る。

源太「寿司屋でよければ、お供するぜ」
丹波「お前は侍では!…」

目を覚ました丹波がそう言いかけるも間もなく、薫のハリセンで再び叩かれ気絶する。

薫「頼む」

流ノ介は薫から外道衆が現れた連絡を受ける。

流ノ介「外道衆が!? 分かりました、すぐに行きます。森ノ瀬町に外道衆だ。姫はすでに出陣されてる」

一同が丈瑠を見やる。

丈瑠「急げ。俺はフォローに回る」
一同「はい!」「おぅ!」「了解!」

折神がダイカイシンケンオーに合体、薫のシンケンレッドとシンケンゴールドが乗り込む。

レッド「真侍合体!」「ダイカイシンケンオー、天下統一!」

大ナナシ連中が港に現れ、ダイカイシンケンオーが立ち向かう。

ゴールド「おわぁっ! あっちにも!」
レッド「えっ?」

ナナシ連中が港町の人々を襲うが、シンケンジャーたちが駆けつける。

グリーン「源ちゃん、こっちは任せろ!」
ゴールド「あいよ!」
レッド「私たちはここを!」
ゴールド「おう!」

黒子たちが逃げ惑う人々を誘導し避難させる中でナナシ連中に阻まれるものの、駆け付けた丈瑠はナナシ連中を斬り倒して援護する。

丈瑠「急げ!」

丈瑠自身が囮になってナナシ連中を引き付けてる隙に黒子たちが人々を避難させる。
海岸の崖の上では薄皮太夫が海を見つめて佇んでいる。

スス木霊「キャハハ! ベン、ベン、ベン」
薄皮太夫「シ──ッ……」
スス木霊「シィ?」

静かに三味線を構え、弾き始める。波の音が消え、三味線の音色だけが響いてゆく。

薄皮太夫 (わちきは、ずっと目を逸らしていたのだ。何があったか、何をしたか…… そして、わちきが何者なのか……)


薄皮太夫が三味線の音色を奏でる中でその記憶が回想として映る。

(ドウコク『てめぇは外道に堕ちた』)

かつて花魁・薄雪として生き、武士の新佐に裏切られ外道に堕ちて薄皮太夫になる場面。
新佐「薄雪、私はお前を……」)
(薄雪「黙れぇ──っ!!」)

第四十三幕において十臓がアクマロを斬る場面。

十臓『外道に堕ちるとはそういうことだろ?』)

第四十幕でドウコクが修復した太夫の三味を渡す場面。
(ドウコク『てめぇは外道に堕ちた。他に行く場所はねぇ……』)


薄皮太夫 (ドウコク。お前が最初から言っていた通り、わちきは……)

薄皮太夫は心の中でそう言った後、三味線を弾き終える。
シンケンピンクがナナシ連中と戦う中、薄皮太夫に気付く。

ピンク「薄皮太夫!?」
薄皮太夫「シンケンピンク……!」
ピンク「ここで何を?」
薄皮太夫「外道であれば知れたこと。この世を苦しみ嘆きで満たす」
ピンク「だとしたら…… 私はあなたを斬る!」
薄皮太夫「望むところ。少しは知った者の方がいい……」
ピンク「え……?」
薄皮太夫「ハッ!」

薄皮太夫が剣を抜いて斬りかかり、2人の戦いが始まる。
激しい鍔迫り合いの末、ピンクが大ジャンプから斬りかかる。

ピンク「ハァッ!! ……えっ!?」

薄皮太夫はその剣撃を避けもせず、自ら受けるかのように真っ二つに斬り裂かれる。

ピンク「え!? あなた、まさか……」
薄皮太夫「いつか…… わちきがこの世の価値を手放したと言ったな? ようやく、人であった過去も…… 手放せる……」

同時に切り裂かれた三味線が地面に転がり、玄が弾け、不気味に吹き出す気の中から、新佐の声が響く。

「薄雪…… 薄雪…… 薄雪……」

丈瑠たち「えっ?」「あ……!?」

三途の川が荒れに荒れ、六文船が大きく傾き、どこからかドウコクの呻き声が響く。

シタリ「三途の川がこんなに……!? へっ、へへ…… これならドウコクも!」
ドウコク「うぉぉ──っっ!!」

海から激しい水柱が立ち昇り、ドウコクがついに、この世に姿を現す。

一同「はっ……!?」
ドウコク「ヘッ! 戻ったぜ、太夫……」

(続く)

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最終更新:2018年08月07日 19:26