仮面ライダーアギトの第50話

アンノウンを追うアギトを、G3-XとG3が阻む。

アギト「氷川さん……? 何ですか、氷川さん!? 悪い冗談はやめて下さい!」
G3-X「冗談ではありませんよ、津上さん」
G3「アンノウン、無事逃走した模様です」

G3とG3-Xがマスクを外す。
その素顔は尾室(おむろ)隆弘、そして北條透。

アギト「あ…… 北条さん!?」

アギトが変身を解き、津上翔一の姿に戻る。

翔一「何ですか、一体…… 何の真似です、『アンノウンが無事逃走した』って!?」
北條「その言葉通りですよ。G3ユニットの活動内容が少々変わりましてね。これからは、アンノウンを保護することが我々の仕事です!」
翔一「何、馬鹿なことを言ってるんですか!? 何だってアンノウンを守らなければならないんですか!?」
北條「詳しいことはまだ言えません…… だが、我々普通の人間には、アンノウンの存在が必要なのかもしれない。そういう見方もあるということですよ」
翔一「そんな、滅茶苦茶じゃないですか…… 氷川さんは、小沢さんはどうしたんですか!?」


警視庁。
小沢澄子と氷川誠が、G3ユニットの方向性を捻じ曲げた官僚・白河尚純や高官たちに詰め寄る。

小沢「北條透と尾室隆弘がG3ユニットとして出動、アギトの動きを封じたというのは、本当ですか!?」
白河「その通りだ。何か問題があるのかね?」
小沢「それは……!?」
氷川「自分も全く理解できません。なぜアンノウンをかばうような真似を!?」

北條と尾室が現れる。

北條・尾室「失礼します……」
白河「わからないのか? この世界がアギトと、アギトならざる者に分かれたらどうなるか? それこそ、聖書の中のハルマゲドンを招きかねない」
氷川「そんな馬鹿な……!?」
白河「美辞録はよそう。アギトはアンノウン以上に危険な存在と言える。我々が今、アギトを狩るような真似はできない。ならばアンノウンに任せればいい。我々も手を汚さずに済む」
小沢「そんなぁ!? それでは我々G3ユニットが今までやってきたことは!?」
白河「過去のことはどうでもいい! 問題はこれからのことだ。小沢澄子、氷川誠。両名には新しいポストを用意した」
小沢「新しいポストぉ!?」
高官たち「氷川主任はもともと香川県警の人間だ」「そろそろ、故郷が恋しくなる頃ではないかね?」
氷川「香川県警に…… 帰れと?」
高官「小沢管理官については、君のためにG3ユニットの兵器開発部を新しく設立したい」
小沢「私はアンノウンを守るための武器を作るつもりはありません!」


葦原涼がアルバイトしているバイク店を、水原リサがバイクで訪れる。

リサ「こんにちは!」
おやっさん「よぉ、あんたか」

店長のおやっさんが笑顔で挨拶したものの、涼はリサを一瞥しただけで、無言で仕事を続ける。

リサ「あらぁ? 涼、もう体の具合いいの?」
涼「……お前に呼び捨てにされる憶えはない」
リサ「格好つけちゃって、嬉しいくせに。そうそう、誕生日おめでとう」

涼は一瞬手を緩めるものの、再びリサを無視して手を動かし続ける。

リサ「仕事、何時に終わるの?」
涼「お前には関係ないだろ。言ったはずだ、『もう俺には関るな』ってな」
おやっさん「こいつなら、今日は早番だからな、2時には終わるよ」
リサ「わかった。じゃ、お祝いしに行ったげるから!」
おやっさん「なんだ、お前たち? 一体、どういう関係なんだ?」
リサ「これから恋人になるんです。ね、涼?」
涼「……ふさげるな!」
リサ「もう、照れ屋さん! じゃ、後でね」

リサがバイクで走り去る。

おやっさん「おい。なかなか、いい子じゃないか。えぇ?」
涼「……ただの変わりもんさ」

リサが引き返してくる。

リサ「涼、チョコレートケーキとチーズケーキ、どっちが好き?」
涼「……どっちも嫌いだ!」

涼はリサから顔をそむけるものの、険しかった表情を、陰でそっと緩める。


翔一の働く、恩師・倉本のレストラン。
厨房で働いている店員・岡村可奈の足が、突然ふらつく。
可奈の視界が次第にぼやけ、床に座り込み、息を切らす。

可奈「はぁ、はぁ……」
翔一「可奈さん……? どうかしました!?」
可奈「すみません…… 体が熱くて……」
倉本「なんだ、可奈。またお前かぁ?」
可奈「すみません……」

可奈が立ち上がろうとするが、ふらつき、翔一が咄嗟に支える。

翔一「危な……」

可奈の目の前、鍋などがひとりでに震え始める。

可奈「……!? はぁ、はぁ……!」

可奈が翔一を振り解き、店のトイレに飛び込む。
息を切らしていると、鏡に映った可奈の顔に、次第にアギトの顔がだぶる。

可奈「はっ……!?」


可奈が服を着替え、帰り支度を始める。

翔一「可奈さん……?」


店を出る可奈を、翔一が追って来る。

翔一「可奈さん、どうしました? 具合が悪いんなら俺、送って行きますけど」
可奈「ほっといてください。1人で帰れますから……」
翔一「可奈さん……?」

可奈が立ち去って行く。
入替りに、氷川が現れる。

氷川「津上さん!」
翔一「氷川さん……!」


氷川「すみません、突然お邪魔しちゃって…… 今はこちらで働いていると、真魚(まな)さんから聞いたもので」
翔一「えぇ。いつまでも先生のところでお世話になっているわけにもいかないかな、って。まぁ、結構楽しくやってます」
氷川「楽しいですか…… 津上さんらしいですね」
翔一「……?」
氷川「僕たちにも色々ありましたが…… いつまでも津上さんは、津上さんのままでいてほしい、今ではそう思っています」
翔一「なんですか…… 氷川さん? なんか、しんみりしてません?」
氷川「えぇ…… 実はこのたび、香川県警へ帰ることになりまして」
翔一「帰るって…… どういうことです? G3-Xはどうするんですか?」
氷川「それは…… 津上さん、詳しいことは言えませんが、これからはアギトとして生きていくのが辛い時代になるかもしれませんよ」
翔一「アギトが、辛い……? どうしてです?」
氷川「世の中には、アギトを恐れる人たちもいるということですよ。いや…… むしろ、そう言う人間の方が多いかもしれない」
翔一「ははは、まさかそんなぁ……」

翔一は明るく笑い飛ばそうとするものの、表情が強張る。

氷川「とにかく、色々と…… お世話になりました。君には何度お礼を言っても言い足りないくらいだ」

氷川が深々と頭を下げる。

翔一「何を言ってるんです。同じ『アギトの会』のメンバーじゃないですか!」
氷川「フフ。補欠ですけどね、僕は」
翔一「この際、正会員にしてあげます!」

翔一が屈託なく明るい笑顔で答え、氷川も笑顔を返す。

氷川「それはそうと…… ちょっと気になることがあるんですが、最近、さそり座の人たちが何人も原因不明の自殺を遂げています。もしかしたらこれも、アンノウン関連の事件と関係があるのかもしれません」


リサは、占い店を訪れている。

占い師「彼氏の名前が葦原涼、みずがめ座。あなたは?」
リサ「水原リサ、さそり座です」
リサ「どう? 2人の相性は」
占い師「これ以上ない最高のお2人です…… きっと、素晴しい未来が待っていますよ」

リサが笑顔で、紙幣を差し出す。

リサ「お釣りはいらないわ、とって置いて!」


可奈は自宅マンションで、玄関に靴を脱ぎ散らかし、鏡台の前に突っ伏している。
鏡台の上の化粧品類が、ひとりでにカタカタと揺れ始める。

可奈「何よ……!? 何なのよ、これ!?」


リサがケーキ店で、ケーキを選んでいる。

店員「お客様、こちらでよろしいでしょうか?」
リサ「はい、お願いします!」


涼はバイトを終え、自室のベッドで寝転んでいる。
ふと起き上がって、外出の身支度を始める。


翔一が可奈のマンションを訪ね、ドアをノックする。

翔一「可奈さん? 可奈さぁん?」

可奈は部屋の中で、頭を抱え込んでいる。

翔一「可奈さん?」
可奈「はぁ、はぁ、はぁ……」

可奈が力なく起き上がる。
鏡に映った姿に、アギトの姿がだぶる。

可奈「……嫌ああぁぁっ!!」

帰りかけていた翔一が、悲鳴を耳にしてドアへ駆け寄る。

可奈「嫌ぁあっっ!」
翔一「可奈さん、どうかしましたか!?」

ドアの鍵は空いたまま。
翔一が部屋の中へ飛び込む。

翔一「可奈さん! 可奈さん、可奈さん!」
可奈「……」
翔一「可奈さん、どうしました!?」
可奈「う…… うぅっ……!」

可奈の姿が、次第にアギトに──

翔一「か、可奈さん……!?」


涼が外を歩いていると、目の前で、踏み切りの遮断機が下りる。
踏み切りの向こうから、リサが手を振る。

リサ「涼!」

リサがケーキの袋を示す。

リサ「……買っちゃった」
涼「……」

涼は自分の気持ちを隠すように、わざと表情を変えずに、そっぽを向く。
やがて電車がやって来て、2人の間の視界を閉ざす。

電車の中。
もう1人のリサが、リサを冷たく見つめている。

リサ「……!?」

電車が通り過ぎる。
リサが倒れている。

涼「リサ……? リサ!?」

遮断棒が上がる。
涼がリサのもとへ駆け寄り、彼女を抱き起こす。

涼「おい! リサ、おい! おい!」


気を失った可奈を、翔一が抱き起こす。

翔一「可奈さん、しっかりしてください! 可奈さん、可奈さん!?」


リサは口から血を流し、既に事切れている。
床に落ちた紙袋から、バースデーカードがはみ出している。

涼「なんで…… なんでこうなるんだ……!? どうして!?」

高位アンノウン、エルロード・地のエルの姿。

涼「お前か…… お前のせいか……!!」


小沢と氷川が、警視庁の通路を歩いていると、向こうから北條と尾室が歩いて来る。

小沢「やってくれたわね! あなた…… アンノウンを守るために、G3ユニットを乗っ取るなんて」
北條「それは違いますよ、小沢さん。これは私個人の意志ではない」
氷川「……」
北條「私は人類全体の意志を代表しているだけです」


橋の上で地のエルに襲われた人間が、サラサラと灰化して崩れ落ちる。
そこに涼が駆けつける。

涼「変身!」


北條「アギトの存在は世界を混乱に陥れる。これは間違いのないところだ」
小沢「違うわ…… アギトを恐れているのはあなた自身よ! あなたにはない力を持ったアギトを、あなた自身が恐れているのよ」


涼がギルスに変身し、エルにパンチを浴びせるが、全く効果がない。
逆にエルの攻撃が、ギルスを苦しめ続ける。


北條「いけませんか……? 私はごくまともな人間です。私がアギトを恐れるなら、ほとんどの人がアギトを恐れるに決まっている!」
小沢「いいえ。私は人間を信じている…… アギトは人間の可能性そのものよ アギトを否定するなら…… 人間に未来はないわ」


ギルスが攻撃を浴び続ける。

ギルス「ぐわぁっ!?」

エルの手に、剣が現れる。

ギルス「かまわないぜ…… やれっ!」

エルの振るった剣がギルスに炸裂する。
そのままギルスが、橋から川へ吹き飛ばされる。

ギルス「ぐわぁぁ──っ!!」

ギルスが川の中へ突き落とされる。

やがて水面に、涼が浮かび上がる。
脳裏に、自分を呼んでくれたリサの記憶が浮かぶ。

そして、涼が沈んでゆく……


可奈が目覚めると、そこは自室のベッドの中。
そばに翔一がいる。

可奈「津上さん……」
翔一「あ! 目、覚めました?」
可奈「すみません…… お水を1杯、もらえますか?」
翔一「はいはい!」

翔一が笑顔で台所へ行き、コップの水を持って戻ってくると、ベッドはもぬけの空。
玄関のドアが開け放たれている。

翔一「可奈さん!?」

翔一がマンションを飛び出し、可奈を捜して街中を走り回る。
その様子を、車で走っていた沢木哲也が見つける。


北條と尾室がレストランで食事中。

尾室「北條さん! 実は俺……」
北條「何か?」
尾室「俺…… 自分のしていることに、今ひとつ自信がないんです。アンノウンを守るって、本当に正しいのかって……」
北條「もちろんです! アギトを排除するために必要なことですから」
尾室「……」
北條「人間は、小沢澄子が言うほど賢くはない。アギトの存在は、多分人類にとっては早過ぎるのです。我々は正しい…… 正しいのです!」


翔一が、ビルの屋上に立つ可奈を見つけ、無我夢中で階段を駆け登る。
今にも飛び降りかねない可奈のもとに、翔一が駆けつける。

翔一「可奈さん……!」
可奈「もう、おしまいですね…… 私の夢も、何もかも……」
翔一「何言ってるんですか!? 何だってそんなことを!?」
可奈「津上さんも見たじゃないですか? 私の体…… なんで? 一体、何がどうなってるの?」
翔一「落ち着いてください! 何でもないですから! 可奈さんは、可奈さんのままです…… 絶対!」
可奈「何で、私が…… あんな、あんな…… う、うぅっ!」

可奈の体に、再び苦痛が走った拍子に、可奈の体が屋上から落ちる。

翔一「可奈さん!?」

翔一が咄嗟に駆け寄り、可奈の腕を掴む。

翔一「可奈さ……ん…… クッ!」


空港。
四国行きの飛行機が出発を待っている。
旅立ちの荷物を手にした氷川と、見送りの小沢。

氷川「小沢さん、本当に…… 色々と、お世話になりました」
小沢「何言ってるの? それはこっちの台詞よ。でも淋しいものね…… 本来なら英雄であるはずのあなたの見送りが、私1人なんて」
氷川「いえ…… 十分ですよ。小沢さんが来てくれれば」
小沢「忘れないわ、あなたこと…… 私にとって、あなたはいつまでも、最高の英雄よ」
氷川「……ありがとうございます!」
小沢「元気でね……」
氷川「……じゃ」


翔一「クッ…… 可奈さん……」
可奈「はぁ、はぁ……お願い、離して!」
翔一「何を言ってるんだ、可奈さん!?」

可奈の姿に、次第に翔一の姉・雪菜の姿がだぶる。

翔一 (姉さん!?…… 姉さん!)
雪菜 (離して…… お願い!)
翔一 (駄目だ! 姉さんは、間違っていたんだ! アギトだからって、自分を追い込んで、自殺するなんて……)
雪菜 (離して……)
翔一 (姉さん…… 俺はアギトになっても、楽しいことが一杯あった。アギトになったって、人は人のままで生きていけるんだ!)
雪菜 (違うわ…… 人はいずれ、アギトを憎むようになる、アギトを恐れるようになる…… アギトはきっと、人の手で滅ぼされる!)
翔一 (そんな……?)

(氷川『世の中には、アギトを恐れる人たちもいるということですよ。いや…… むしろ、そう言う人間の方が多いかもしれない』)

翔一 (そんなこと……?)
雪菜 (人間に憎まれるのは嫌…… だから…… 離して)
翔一 (そんなことが……?)

可奈の手が、次第に翔一の手からずり落ちていく。

雪菜 (お願い…… 離して!)

可奈の手が翔一の手から離れる寸前──
もう一つの手が可奈の腕を支える。
翔一のもとに駆けつけた沢木。

翔一「あなたは!?」
沢木「離すな! お前の手は…… 人を守るための手だ!」
翔一「……」
沢木「離すな……!」


空港から四国行きの飛行機が飛び発つ。
小沢が、それを見送り続ける。


翔一と沢木に助けられた可奈が、並木道のベンチに座らされている。

沢木「以前…… 君と同じような境遇の女性がいた。彼女は死を選び、俺は…… 彼女を救うことができなかった」
可奈「……」
沢木「だが所詮、人は自分で自分を救わねばならない。君が君でいられるか、君でなくなるか…… それを決めるのも、自分自身だ」
可奈「……」
翔一「可奈さん、俺…… 思うんです。可奈さんの料理を食べて幸せになれる人がきっと一杯いるって。だから…… また一緒に料理を作りましょう!」
可奈「私、わからないです…… どうすればいいのか、本当に……」

そこへエルロード・地のエルが出現する。

エル「塵に帰るがいい…… 塵から生まれし者ども」
翔一「!? 可奈さんをお願いします!」

沢木が可奈を連れて逃げ出し、翔一が地のエルに立ち向かう。

翔一「変身!!」

可奈が、その声に振り向く。
翔一の姿が自分と同じ、アギトと化す。

可奈「津上さん……!?」
アギト「可奈さん…… 生きてください。俺も生きます!」
可奈「津上さん……!」

アギト「俺のために…… アギトのために……! 人間のために!!」


※ この続きは本家エンディングドットコムをご覧ください。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年08月30日 03:10