異世界はスマートフォンとともに。(漫画版)の第1話

雲の中に浮かぶ畳の間で、
ある老人が少年、望月冬夜に頭を下げていた。
老人「というわけで、お前さんは死んでしまった。本当に申し訳ない」
冬夜「はあ」
老人「君はワシの落ち度で死んでしまったのじゃからすぐに生き返らせる。ただのう・・・君の元いた世界に生き返らせるわけにはいかんのじゃよ。
そういうルールでな。こちらの都合で本当に申し訳ない」
冬夜「いいですよ」
老人「・・・・いいのか?罪ほろぼしにせめて何かさせてくれんか。ある程度のことなら叶えてやれるぞ?」
冬夜「うーん・・・・あ!あの、ひとつお願いが」
老人「お、なんじゃなんじゃ。なんでも叶えてやるぞ?」
冬夜は自分のスマートフォンを出した。
冬夜「これ、向こうの世界でも使えるようにできませんかね?」

異世界はスマートフォンとともに。
EPISODE:01


冬夜が目覚めたそこは、開けた野原だった。
冬夜「ここが異世界か・・・さて、どうしたものか・・・」


神様「―――わしの手違いで神雷を下界に落としてしまったのじゃ。まさか落ちた先に人がいるとは・・・重ね重ね申し訳ないことをした」
あの老人こと神様が冬夜に改めて謝っていた。
神様「えーっと・・・・も、もちづき・・・」
冬夜「とうや、望月冬夜です」
神様「そうそう、望月冬夜くん。しかし、君は落ち着いとるのう。自分が死んだんじゃ、もっとこう慌てたり・・・どなりちらしたりするもんだと」
冬夜「あまり現実感がないからですかね?それに起きてしまったことをどうこう言ってもしからないですよ」
神様「達観しとるのう」
冬夜(さすがに十五歳で死ぬとは思ってなかったけど)
神様「でじゃ、お前さんには別の世界で蘇ってもらいたい。そこで第二の人生をスタートというわけじゃ」
冬夜「・・・・・」
(―――家族や親しい友達ともう会えないのは残念でならないけど、ここで神様を責めてもなんにもならないしな。
人の過ちを許せる人間になれ、ってじいちゃんも言ってた。人じゃなくて神様だけど)
「事情はわかりました。元の世界じゃないと嫌だと無理を言うつもりもありません。生き返るだけでありがたいですし、それでけっこうです」
神様「・・・・本当にお前さんは人間ができとるのう。あの世界で生きていれば大人物になれただろうに・・・本当に申し訳無い」
「蘇るにあたって、基礎能力、身体能力、その他諸々は底上げしておこう。これでよほどのことがなければ死ぬことはない」
「スマホのマップや方位は向こうの世界仕様に変えておくからのう」

冬夜「とりあえず町に向かってみるか」
(とはいえ・・・食糧がない、水もない、町に着いたとしてお金がない。財布はあるけど、元の世界のお金は・・・・・普通に考えて使えないだろう)

考える冬夜の後ろで馬車が止まり、中年の男が出てきた。
男「―――君!そこの君!」
冬夜「な、なんでしょう・・・?」
(あ、言葉が通じる)
男「この服はどこで手に入れたのかね!?」
冬夜「は?」
男「見たことのないデザインだ。そしてその縫製・・・一体どうやって・・・」
自分の学生服をしげしげと見る男から、冬夜は閃いた。
冬夜「よろしければお譲りしましょうか?」
男「本当かね!?」
冬夜「この服は旅の商人から売ってもらったものですが、よろしければお譲りしますよ。
ただ売る物を全部売ってしまうと困るので、町などで別の服を用意していただけるとありがたいのですが・・・」
男「よかろう!次の町まで乗せてあげよう。乗りたまえ!!そこで新しい服を用意させるから、その後で君の服を売ってくれればいい」
冬夜「では取引成立ということで」
(お金になるし、目立たない服にもなるし一石二鳥・・・!)
ザナック「私はザナック、服飾関係の仕事をしている」
冬夜(服飾関係・・・なるほど、それでこの反応か)

冬夜(見たことのない世界。神様が言ってたな・・・)

冬夜「これから僕が蘇る世界ってどんなところですか?」
神様「君が元いた世界と比べるとまだまだ発展途上の世界じゃな。君の世界でいうところの中世ヨーロッパ、その時代に近い」

冬夜(これからはここが僕の世界なのだ)

冬夜達はリフレットの町に着いた。
ザナック「ここで君の服を揃えよう」
冬夜(読めない・・・話はできるが文字が読めないとは・・・勉強しないとな)
女性店員「お帰りなさいませ、オーナー」
冬夜「オーナー?」
ザナック「ここは私の店なんだよ。それよりさあ!服を着替えまえ。おい、誰か彼に似合う服を見繕ってくれ」

ザナックは冬夜が脱いだ学生服を触ってみた。
ザナック「この手触り・・・それに縫い目・・・き、君!その下の服も売ってくれんかね!!」

冬夜(追い剥ぎか、みぐるみ全部・・・!?)

服を渡した冬夜は、代金として十枚の金貨を受け取った。
ザナック「では、これが代金ということで」
冬夜(相場がわからないから額はお任せにしちゃったけど・・・金貨十枚。これが自分の全財産なわけだ。大切に使おう)
「ところで、この町に宿屋のようなところはありませんかね」
ザナック「宿屋なら前の道を右手に真っ直ぐ行けば一軒あるよ。『銀月』って看板が出てるからすぐわかる。また珍しい服を手に入れたら持ってきてくれたまえ!」

冬夜「銀月か・・・看板があっても読めないんだよ。って、マップに店の名前まで表示されてる。これなら迷うことなさそうだな。
それにしても・・・ザナックさんのネーミングセンスって・・・」
ザナックの店の名前は、『ファッションキングザナック』だった。

冬夜は宿屋銀月に着いた。
受付嬢ミカ「いらっしゃーい。食事ですか?それともお泊まりで?」
冬夜「えっと宿泊をお願いしたいんですが一泊いくらになりますか?」
ミカ「ウチは朝昼晩食事付きで銅貨二枚だよ。あ、前払いでね」

冬夜(銅貨二枚・・・とりあえず金貨よりは安いよな?銅貨何枚で金貨一枚なのかな)
「これで何泊できますかね?」
冬夜は一枚の金貨を出した。
ミカ「何泊って・・・五十泊でしょ?」
冬夜「五十!?」

冬夜(えっとつまり、金貨一枚=銅貨百枚で金貨十枚あるから五百日・・・一年半近くなにもしないで暮らせるってことか。
ひょっとしてけっこうな大金なのでは!?)
計算している冬夜をミカは「計算できないの?」の目で見ていた。

ミカ「で、どうするの?」
冬夜「えーっと、じゃあひと月分お願いします」
ミカ「はいよーひと月ね。最近お客さんが少なかったから助かるわ。ありがとうございます」
「ちょっと今銀貨切らしてるから銅貨でお釣りね」
四十枚の銅貨がお釣りとして帰ってきた。
冬夜(銅貨四十枚・・・銅貨六十枚引かれたってことはひと月はこっちでも三十日か。あまり変わらないな)
ミカ「じゃあここにサインをお願いします」
ミカが宿泊帳を出した。
冬夜「あー・・・すみません。僕、字が書けないんで代筆お願いできますか?」
ミカ「そうなの?わかったわ、お名前は?」
冬夜「望月です、望月冬夜」
ミカ「モチヅキ?珍しい名前」
冬夜「いや名前が冬夜、モチヅキは名字・・・家の名前です」
ミカ「ああ!名前と家名が逆なのね。イーシェンの生まれ?」
冬夜「あー・・・まあそんなとこです」
(イーシェン?あとでマップ確認しとこう)

冬夜「さて、これからしばらくここに住むわけだし、町の様子を見に行こうかな」

冬夜は町に出た。
冬夜「おっ」
(武器を携帯してる人が多い、僕もなにか武器を買ったほうがいいのかな。まずはなんとか稼ぐ方法を見つけないとなあ。この世界で生きていく以上、お金は必要だし)
「ん」
冬夜は騒ぐ声を聞きつけ、路地裏に入った。
そこでは二人の男と、ショートヘアの少女を連れたロングヘアの少女が言い争っていた。
少女(ロングヘア)「約束が違うわ!代金は金貨一枚だったはずよ!」
男(スキンヘッド)「なにを言ってやがる。確かにこの水晶鹿の角を金貨一枚で買うと言ったさ。ただし、それが傷物でなければ、だ。
見ろよ、ここに傷があるだろう?だからこの金額なのさ」
男(短髪)「ホラよ、銀貨一枚受け取りな」
短髪の男が少女の足下に一枚の銀貨を投げた。
少女(ロングヘア)「そんな小さな傷、傷のうちに入らないわよ!あんたたち初めからっ・・・!」
「・・・もういい、お金はいらない。その角を返してもらう」
ロングヘアの少女は両手にガントレットを付けた。
男(スキンヘッド)「おっと、そうはいかねえ。もうこれはこっちのもんだ。お前らに渡すつもりは――――」
冬夜「お取り込み中すみません」
男「!?」

そこへ冬夜が来た。
冬夜「ちょっといいですか?」
男(短髪)「あ!?なんだテメエは?俺たちになんか用か?」
冬夜「あ、いえ用があるのはそちらの彼女で」
少女(ロングヘア)「え?あたし?」
冬夜「あなたの角を金貨一枚で僕に売ってもらえないかと」
少女(ロングヘア)「・・・・!売るわ!」
男(スキンヘッド)「テメエらなに勝手なこと言ってやがる!これはもう俺たちのもん――――」
冬夜が投げた石が、スキンヘッドの男の持つ水晶鹿の角を砕いた。
男(スキンヘッド)「なッ・・・・・!?なにしやがる」
冬夜「それはもう僕のものだから僕がどうしようと僕の勝手です。あ、お金はちゃんと払うんで」

男(短髪)「野郎・・・!!」
短髪の男が短剣を抜いて、冬夜に斬りかかった。
冬夜(見える・・・避けられる!)
冬夜はしゃがんで、男の短剣をかわした。
そこから男の脚を払って、転ばせた。
冬夜(これが神様がくれた身体能力強化の効果、か!)
冬夜のパンチが男の腹に決まった。
男「ぐふッ・・・・!」
男は気絶した。
冬夜「ふう、じいちゃんに習った技が役に立ったな」

もう一人の男もロングヘアの少女に顔を殴られ、倒れた。
冬夜「わお、お見事」
(・・・戦闘の邪魔かと思ったんだけど壊す必要なかったかも。いいカッコしすぎたか)

その後、冬夜と二人の少女は銀月にいた。
少女(ロングヘア)「そっかー、あなたもこの町に来たばかりなんだ」
冬夜(この町に・・・というよりこの世界に、だけど)
「うん」

ミカ「お客さんふえた~♡」

少女(ロングヘア)「あたしたちもあいつらの依頼でここに水晶鹿の角を届けにきたんだけどね。酷い目に遭ったわ。なーんか胡散臭いなーとは思っていたんだけどね」
少女(ショートヘア)「だからやめようって私は反対したのに・・・お姉ちゃん言うこと聞いてくれないから・・・」
冬夜「二人はなんであいつらの依頼受けたの」
(あんな、いかにも怪しい奴らの)
少女(ロングヘア)「ちょっとしたツテでね。あたしたち前に水晶鹿を倒して角を手に入れてたんだけど、欲しいって話がきたからちょうどいいや、って。
でも、ダメだねー。やっぱりギルドとかちゃんとしたところで依頼を受けないとトラブルに巻き込まれるのね」
「この機会にギルドに登録しよっか、リンゼ」
少女(ショートカット)「その方がいいと思う・・・安全第一、明日にでも登録に行こうよ」

冬夜(ギルド・・・確かハローワークみたいに仕事を斡旋してくれるところだったか?いろんな依頼があってそれをこなせばお金が貰えると、ふむ)
「良かったら明日ついて行っていいかな。僕もギルドに登録したいんだ」
少女(ロングヘア)「いいよ、そんなら一緒に行こう」
少女(ショートヘア)「うん・・・一緒に行こう」

(ロングヘアの少女=)エルゼ「じゃあ改めて、助けてくれてありがとう。あたしはエルゼ・シルエスカ。こっちは双子の弟、リンゼ・シルエスカよ」
(ショートヘアの少女=)リンゼ「・・・ありがとうございました」
冬夜「僕は望月冬夜。あ、冬夜が名前ね」
エルゼ「へえ、名前と家名が逆なんだ。イーシェンの人?」
冬夜「まあ、そんなとこー」
(あ~~~~イーシェンってどんな国よ。気になるなあ、もう)


それから冬夜は取った部屋に入った。
冬夜(やっと一日が終わる、いろいろあったなあ・・・)
「とりあえずスマホに今日の出来事を日記代わりにメモっておこう」

異世界にやってきて

服を売って

宿屋に泊まり

女の子たちを助けて

けんかした

冬夜「なんだ、この一日」

冬夜は、行き際に神様が言ったことも思い出していた。
神様「―――いくつか制限はある。君からの元の世界への干渉はほぼできん。元いた世界への通話やメール、サイトへの書き込み等じゃな。
見るだけ読むだけなら問題ない」

冬夜(あっちの世界の出来事も読んどこ。あ、巨人勝ってる)


やがて冬夜はスマホを切って、ベッドで横になった。
冬夜(明日はギルドに行って登録だ。どんなところだろうな・・・明日が楽しみだ)
「ぐう」

冬夜が寝た。


EPISODE:01>>END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年01月28日 11:25