古来より人が罪を犯す時、悪しき七つの欲望や感情がそれを導いてきた。
それら『七つの大罪』を司る魔王たちは、より多くの信者を得るため人間界へとやってくる。
今もなお軋轢きし摩擦する人間関係の中に、七つの罪は魔なるものと共に忍び寄る。
とあるビルの上に雷が落ちたかと思うと、そこに一人の少女が立っていた。
レヴィアタン「ふー・・・場所は悪く無さそうね。いい嫉妬のにおいがしてくるもん。
さてと・・・この私―――レヴィの信者を探しに行きますか!」
都内某所アフレコスタジオ。
ここで新アニメ「たゆたわ!」の主役を決めるプレオーディションが行われていた。
りえ「こんにゃくプロダクションの黒井りえです。よろしくお願いします」
「ふん・・・っ、この程度の攻撃では私を倒すことはできないぞ!出直してこい・・・!」
スタッフ1「さすが大御所のくろりえさん、安定してるっすねぇ」
監督「・・・・・」
スタッフ2「お色気アニメの役は受けない堅物って噂だったけど・・・」
スタッフ「「たゆたわ!」はイベントもはっちゃけて欲しいし、そのへん若手のほうが期待はできそうっすねぇ」
「となると、やっぱり本命は――――」
ましろ「つみれ事務所の白木ましろです!よろしくおねがいしますっ」
「フン・・・ッ、この程度の攻撃では私を倒すことはできないぞッ!出直してこい・・・ッ!」
スタッフたち「期待の新人しろろちゃん!声もルックスも可愛いっすねぇ~」
「しかも現役女子高生ながら高い演技力・・・これは人気出るのも当然だよなぁ」
りえは自分のマンションに戻り、
エレベーターの中でマネージャーの言葉を思い返していた。
マネージャー「あなた最近仕事とれてないじゃない。今の若い子達上手いんだから選り好みしてる場合じゃないのよ。次は絶対主役取りに行きなさい」
りえ「はぁ・・・」
「ただいま・・・・」
レヴィ「おっかえり~っ」
りえの部屋には、冒頭に出てきた少女、レヴィアタンが来ていた。
レヴィ「さすが有名声優っ、いい家住んでるじゃないっ♡私はレヴィ!!よろしくねっ♡」
りえ「 あ・・・あれ部屋間違えた・・・?失礼しました・・・ご趣味のことは秘密にしますので・・・」
(一旦逃げて警察を・・・)
レヴィ「あっケーキとお酒入ってる!ちょーだーいっ♡」
レヴィアタンがりえの買ったケーキを食べながら、りえに説明する。
レヴィ「―――と言うわけでりえの強い嫉妬のオーラに導かれてきたわけ。私ならあんたの嫉妬の力を最大限に引き出せるわ!たぶん!だからこのレヴィの信者になりなさいっ!」
りえ「こ・・・こんなアニメみたいなこと信じられるわけ・・・」
レヴィアタンの使い魔のベヒモスがりえの胸にすり寄っている。
レヴィ「そうそう、アニメといえば「たゆたわ!」あれは地獄でも原作が人気だし売れそうね!」
りえ(明日病院行こうかな・・・)
レヴィ「でもあんた、このままだと―――あの新人に主役取られちゃうよ」
りえ「それは嫌よ・・・5年も前の「ちくわ少女」のヒロイン以来私はいい役を取れていない。原作が売れてる「たゆたわ!」ならヒットは間違いなし。返り咲きのチャンスなの。おまけに白木さんには今まで2回もオーディションで主役を奪われてる・・・次は絶対負けられないのよ」
レヴィ(凄い嫉妬の力・・・りえを上手く使えば信者を増やせそうね)
「そ~だねぇ、白木ましろは若くて可愛くて、おまけに才能あるし、りえのファンもみんなあの子に鞍替えしちゃうかもね~」
りえ「ひ・・・ひどいっ、なんなのよっ、私がこんなに悩んでるのにっ。魔王だかなんだか知らないけど早く出てっいってよ!」
レヴィ「へへ・・・でも大丈夫だよ、りえお姉ちゃん・・・♡」
レヴィアタンがりえを押し倒した。
りえ「ちょっ・・・いや・・・っ!!」
レヴィ「これ以上惨めな思い・・・したくないんでしょっ?」
りえ「あ・・・当たり前じゃない・・・っ」
レヴィ「だったら私を信じてレヴィ様って呼んで崇めてほしいの♡」
りえ「はぁ・・・・」
レヴィ「その代わり嫉妬の力であの子に勝たせてあげる」
りえ「あ・・・・」
レヴィ「私と一緒に頑張ろ?ね・・・?」
りえ「わ・・・わかったわよ・・・レヴィ・・・様。あ・・・あっ♡」
りえ「とは言いましたけどっ―――なんでこんな格好をしなきゃならないんですかっ。年齢的にキツいんですけどっ!」
りえ(*29歳)は、ちくわ少女のコスプレをさせられていた。
レヴィ「あんたに足りないのは度胸と色気よっ!人前でコスプレくらいできるようにしないっ」
りえ「魔力とかくれるんじゃないですかぁっ」
レヴィ「そんなもの要らないわ!だってあのヒゲの監督、見るからにスケベそうだし!」
りえ「ま・・・まぁ確かに・・・てかどこで見てたの・・・」
レヴィ「色仕掛けでイチコロよ!ついでに私の信者獲得も協力してねっ♡」
レヴィアタンとりえは、アキハバラの大通りに出た。
りえ「こんな所でできるわけないでしょっ!?私これでもトップクラスの声優だったのよ!」
レヴィ「その元トップクラスの声優がこの程度のこともできないなんてぇ・・・レヴィをがっかりさせないで・・・りえお姉ちゃん・・・・♡」
レヴィアタンがりえの耳に息を吹きかける。
りえ「わっ・・・わかりましたからぁ・・・っ。み・・・みなさん・・・くっ・・・黒井りえでーす・・・」
レヴィ「そんなんじゃ誰にも聞こえないじゃないっ」
レヴィアタンがりえのスカートの中に手を入れた。
レヴィ「アキバのみんな~有名声優くろりえだよ~っ。サインもらえるよ~っ」
りえ「あッ♡よろしくお願いしまああああす♡」
オタクたち「おいおいマジでくろりえたそ?」
「ちくわちゃんのコスプレしておるぞ?」
「ホあ!?」
レヴィ「へぇ~流石有名声優ね♡この人たちも信者に・・・」
レヴィアタンを押しのけ、オタク達がりえに群がってきた。
りえ「レヴィ様~っ!?」
レヴィ「・・・・・」
レヴィアタンはオタク達の汗でビショ濡れになっていた。
オタク「小生くろえりたそデビュウ当時からの、エェ大ファンでありましてフフフッwwこの度はお目にかかれて感激の極みでございましてエェwwなんとエェいっても貴殿のエェ演じられましたちくわちゃんが小生の嫁でありましてですねwww中でも・・・フフフッ・・・第90話「ちくわぶ少女死す」での貴殿の名演・・・アァあれはもう涙無しには見られませんでしたよエェ・・・」
りえ「あ・・・あの・・・えっと・・・・」
レヴィ「ちょっと待ちなさいよっ、この妹系美少女魔王レヴィになんてことを―――」
オタク「だァッどてい小娘がっ!お前のようなキャラは知らんわッ!!」
ベヒモスが慌てて離れていく。
レヴィ「こっ・・・こいつら・・・りえばっかり見てっ・・・むかつくっ・・・!もうあったまきたぁ・・・っ!」
空に暗雲が渦巻き、りえ達がざわめきだす。
レヴィ「よくも海の魔王と恐れられたこのレヴィアタン様をバカにしたわね・・・っ。渦巻く嫉妬の力を思い知らせてやるんだからっ!」
レヴィアタンが空に巨大な水流を浮かべていた。
りえ「ちょっ・・・待ってレヴィ様っ!?私も居るんですけどーっ!?」
レヴィ「あんたも超人気者なのがやっぱむかつく!!」
りえ「そんなっ!?」
レヴィアタンの放った濁流がりえとオタク達を飲み込んでいった。
オタクたち「こぽアァ、拙者の夏キョミ4日目の戦利品がぁア!?」
「小生が20年探し続けた激レアエロゲーがああああ!!鬼!悪魔ァアッ!!」
レヴィ「だってレヴィは魔王だもんね~っ。サッパリしたっ♡」
その後もレヴィの嫉妬心に注意をはらいつつ――――
ビーチでりえがナンパされていたが、その後ろの海からレヴィアタンが巨大な水の手を作り出して追いかけてきた。
打倒白木ましろの為、色仕掛け特訓の日々は続いた。
りえとレヴィが見ているテレビからは、あえぎ声が聞こえていた。
そしてオーディション当日――――
レヴィ「ついにこの日が来たわねっ」
りえ「あっつい・・・ほ、ほんとにやるんですか、レヴィ様ぁ・・・」
レヴィ「当たり前じゃない!白木ましろに勝ちなさいよね!」
りえ「うう・・・でもレヴィ様・・・その格好は流石に関係者じゃ通りませんよ・・・」
レヴィ「それはベヒモスを仕込んであるから大丈夫よ」
りえ「・・・?どこです?」
レヴィ「出番だよ、ベヒモスっ!」
吹き上がった煙がレヴィアタンの姿を隠した。
りえ「わっ!?」
煙が晴れると―――全裸のレヴィアタンがいた。
次の瞬間、ベヒモスがスーツとなってレヴィアタンの体を覆った。
レヴィ「・・・・もっとスムーズに変身してよ、ばかべひもすーッ!」
レヴィアタンがベヒモスの変身したスーツを引っ張る。
りえ(つるつる・・・♡)
「なんだか今のでオーディションの緊張が和らぎました・・・」
レヴィ「バカ言ってないで行くわよ、もうっ」
りえ「こんにゃくプロダクションの黒井りえですっ・・・最終オーディションよろしくお願いしますっ」
スタッフ「よろしくお願いしまーす」
監督「はい・・・よろしく。ところでそちらの方は?」
レヴィ「黒井の新しいマネージャーでぇす♥黒井をよろしくおねがいしますぅ♥」
監督「・・・・よろしく・・・」
りえ「白木さん・・・今日はよろしくね・・・!」
ましろ「よろしくお願いしますっ!私・・・ヒロイン役絶対譲りたくありません!尊敬する黒井先輩でも遠慮はしませんのでっ・・・!」
りえ(なによ・・・っ。舐めんじゃないわよっ)
スタッフ「それではオーディション始めまーす」
りえ「よっ・・・よろしくお願いしまぁす!!」
りえはコートの下で、「たゆたわ!」ヒロイン豊峰たゆみのコスを着ていた。
スタッフたち「ヒロインの豊峰たゆみのコスっすよ!」
「気合い入ってるなぁ・・・!」
ましろ「色仕掛けなんて卑怯ですよっ!そんなの不公平じゃないですか!」
りえ「ベテランを舐めないでほしいわねっ、作品作りに対する真摯な心がけよっ!」
ましろ「あっわかった。黒井先輩、私に嫉妬してるんですねっ。最近私に何度も仕事取られたからって焦ってるんだ!」
りえ「ぐぬぬ・・・っ、えええそうよ、妬いてますとも、焦ってますともっ。だからこれ以上負けられないのよっ」
スタッフたち「なんだか喧嘩してるっぽくないっすか」
「監督・・・止めた方が・・・」
監督「・・・・・」
りえ「あっ・・・あなたなんて若さと外見だけで認められてるのよっ。自分の実力だと勘違いしないことねっ!」
キレたましろがりえの首を絞め、足でりえの足を固め、パンツを晒した。
ましろ「先輩だからって黙ってりゃこのババァ、調子に乗るんじゃねーよっ!似合わねえコスプレ脱いでその垂れ乳晒しやがれーっ!」
りえ「いゃあーっ!?」
監督(ふむ・・・このお二人・・・)
「失礼・・・勝手ながらオーディション結果を今決めさせて頂きました。ヒロイン、豊峰たゆみ役は―――」
「白木さん、あなたです」
ましろ「えっ私!?」
りえ「なっ!?」
監督「今のあなたの振る舞い・・・声色・・・たゆみのイメージにドンピシャでした」
りえ「ちょっと待って下さい監督・・・ほらこのエッチな衣装!イベントもこれ着て盛り上げて見せますからっ、だからっ―――」
監督「黒井さん。下心丸見えのキャストでは良い作品を作ることはできない・・・私はピュアな心でこの作品と向き合いたいのです」
サングラスを外した監督の目はとても、澄んでいた。
レヴィ(スケベじゃなかったああ!)
りえ「う・・・うう・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っ」
ましろ(そういえば昨日見た不思議な夢――――)
天使「天使であるこの私が天啓を授けてあげるわ。アンタが勝負事に勝つ時、その相手に情けをかけてやりなさい。近い未来にいいことがあるかもね」
ましろ「監督・・・お話があります。ライバル役はまだ決まってませんよね・・・?」
監督「ええ・・・宗森たわみ役は後日オーディションを行う予定です」
りえ(私を審査から外せって言いたいのね・・・)
ましろ「そのライバル役のことなのですが是非―――黒井さんにして頂きませんか」
りえ「へっ!?」
ましろ「彼女がその役をやってくれたらさっきみたいな演技をもっと上手くできる自信があります」
レヴィ(あの子いったいどういうつもり・・・!?)
監督「フム・・・たしかにあなた方の関係性・・・作品を良い方向へ導いてくれそうです。ただし黒井さんには再度平等に審査を受けてもらいます。あなたの熱望するヒロイン役ではないですが・・・挑戦する気はありますか?」
りえ(年下の若手に3度も負けて・・・おまけに嫉妬心丸出しでこんな恥ずかしいことをして・・・挙句情けを掛けられて・・・私もう・・・声優なんて・・・)
ましろ「しっかりしてくださいっ!黒井先輩っ!私・・・ちくわ先輩を演じた黒井先輩・・くろりえに憧れて声優になったんです。どんなに先輩に嫉妬されたってくろりえは私の憧れの存在・・・これからも先輩から沢山学びたいんです」
りえ「白木さん・・・」
(そうだ・・・妬んでばかりじゃ前に進めない・・・私もこの子みたいに頑張らなきゃ・・・っ)
「監督・・・お願いしますっ、もう一度チャンスをくださいっ」
りえが監督に土下座した。
レヴィ(どうしてっ・・・・?リエの嫉妬のオーラが消えた・・・・!?)
嫉妬心を克服した彼女はその後無事にライバル役に合格。「たゆたわ!」は大ヒットし再び人気声優として返り咲いた。和解したりえとましろは歳の差有名コンビとして知られ、切磋琢磨し合う良い関係を築いているという。
レヴィ「はぁ・・・あんなに嫉妬に狂ってたくせに急にやる気出しちゃって・・・信者獲得まであと一歩だったのになあ。人間の心って複雑なのねぇ・・・ピュアってやつ?」
?「ふふ・・・私の啓示の通り白木ましろ達は成功してるみたいね」
レヴィ「まぶしっ・・・この光、まさか・・・・っ!?」
光とともにレヴィアタンの前に現れたのは―――
レヴィ「熾天使ルシファー!!」
「熾天使・・・天使の中で最も神に近い存在。時々地上に降りてくるって噂だったけど・・・12枚の翼を持つのは一人だけ。やっぱり間違いないわ・・あのお方は―――」
「ルシファー様・・・!なんて美しいの・・・!」
「サイン貰えばって・・・?無理だよべひもす・・・だって―――神々しすぎて近づけないの・・・♡」
(ルシファー様・・・いつか貴女とお話できたらいいな・・・・)
【嫉妬】 他人が自分より恵まれていたり、優れていることに対して、うらやみねたむこと。
権力、金、地位、名誉。
優れた能力。
恵まれた容姿。
彼氏や彼女。
特に自分の努力でおうしても手に入らないものが他人の手にあるとき、
人の心に強い嫉妬の感情が現れる。
レヴィ「ってなんであんなに美しいのよっ、むかつく~~~っ!!ルシファー様なんて堕天しちゃえばいいのにっ!」
レヴィアタンがやつ当たりでべひもすを引っ張る。
ルシファーの堂々たる姿に憧れるレヴィ・・・嫉妬の魔王となるべく信者獲得の険しい道程は続く。
(続く)
最終更新:2019年09月07日 00:56