マオ「雲南省の省都、昆明に到着した僕たちはその日、宿泊先で仕事の依頼を受けた。それで明日から数日間、昆明郊外にある「星漢村」の名士、揚氏宅に泊まりこんで、朝晩の料理を担当することになったんだ」
「西華旅社」という菜館でマオとシロウが夕食を食べていた。
シロウ「幸運だったねマオ兄!!」
マオ「うん、ほとんど路銀が底ついてたからね。うまい具合に仕事が見つかって助かったよ。
男性「・・・・」
マオ「しかしこの宿の食事は旨いね。特にこのつけ麺・・・!!」
シロウ「そうそう、スープがいつまでも熱々で冷めないし」
マオ「米の麺というのも珍しいよ」
女性店員「フフ・・・これは雲南名菜で‘渡橋麺‘っていうのよ」
マオ「‘渡橋麺‘!?」
女性店員「そう・・・昔、この地方に湖の孤島の書斎で科挙の受験勉強に励む若者がいたの・・・」
女性店員「彼の妻は毎日孤島へ食事を運んだけど運ぶ途中でどうしても冷めてしまう。何とか夫にあたたかい料理を届けたいと思った彼は一案を思いついたの。黄色い鶏油(ジーユー)が浮くほどの熱い鶏スープを作り、別にゆでたそばと煮た鶏肉を添えて運んだのよ」
「鶏の脂が表面を覆ってスープは冷めず、麺もその場でつけるのでのびない。大変喜んだ夫は妻に料理名をたずねた・・・妻はいつも渡るその橋から‘渡橋麺‘と名づけたそうよ。ね、ね、ロマンチックな‘愛の麺‘が橋を渡るのよ・・・!!」
シロウ「・・・なんかウソくせーよ。ありがちじゃん、そういう作り話」
女性店員「夢のないガキね!!」
女性店員が菜譜をへし折った。
男「う・・・うう・・・くく・・・うおお・・・・!!い・・いい話です。何度聞いても涙が止まりません・・・!!」
マオとシロウと相席だった男が大泣きしていた。
シロウ「・・・・」
男「く・・・・くう~~~~」
女性店員「・・・またか・・・・いいかげんにしてほしいわ」
シロウ「何なの、あの人?」
女性店員「何でも・・北京へ何年か行ってたとかで最近帰郷してきたらしいんだけどもう一週間もこの宿屋に滞在してんのよ。家へも帰らないで・・・・」
男「う・・・うう、ティアさん。許して下さい、僕を許して・・・」
女性店員「毎日ああやって飲んだくれて、急に泣き出したり謎のうわごとつぶやいたり・・・あぶないのよ・・・やたら宿の中うろついて他の客にも迷惑だし・・・そろそろ出てってもらわないとねー」
男「ぬお―――っ」
シロウ「何か・・悩みでもあるのかな~」
女性店員「さーね、キョーミないわ」
マオ「・・・・・」
シロウ「マ、マオ兄。屋台街へでもくり出そうよ。ちょっと気分が湿っちゃったよ」
マオ「う・・うん・・・」
マオ「な、何でこんなにバカみたいに買いこむんだよ、もう一文無しだよ!!」
シロウ「大丈夫大丈夫、また明日から星漢村でたっぷり稼げるんだから」
シロウ「!?」
マオとシロウが部屋に入ると、あの男が寝ていた。
シロウ「さ、さっきの兄ちゃん・・・!!こら――――!!他人の部屋で勝手に寝るな――――!!」
「~~だめだ、マオ兄、泥酔してる・・・」
マオ「仕方ない・・とりあえず寝台に・・・」
シロウ「もー、めんどくさいねー」
マオ「揚さんの家でなに作ろうかな・・・・」
シロウ「このもちもおいしいな・・・」
男「そ、そんなライアさん・・・待って下さい、あ・・・ちょっと・・・・!!ラ、ライアさァん!!」
男が飛び起きた。
男「あ・・・・」
シロウ「ねえ、ライアさんて」
マオ「誰・・・?」
男がマオとシロウの手を取った。
マオ・シロウ「「!?」」
男「・・・・・!!ありがとう、ありがとう・・・・!!誰も訊いてくれなくて・・・・!!」
男ことイグルが語り始めた。
イグル「ライアさんは・・・僕、イグルの生まれたこの近くの村に住んでいるはずの僕の婚約者です・・・」
マオ「婚約者・・・・!?」
イグル「ふ・・・美人で上品で、体型(プロポーション)抜群で気立てがよくて料理が上手で声が可愛くて、白鷺が舞うように動きカナリアがさえずるように歌う、僕にはもったいないくらいの女性でした・・・」
マオ「・・・・」
イグル「いや、そもそも彼女は名家の生まれで僕のような貧乏書生にはとてもとても手の届く人じゃなかったんんです。それなのに・・・僕が科挙の受験勉強をしてるいると毎晩のように家をぬけ出してきて・・・」
ライア「イグルさん・・・いる?いつもの夜食とこっちはお茶ね・・・♡」
イグル「い・・・いつもすみません、お嬢さん・・・!!」
ライア「お・・おいしい・・?」
イグル「て、帝都の行程でもこんなご馳走は口にできますまい・・・!!」
ライア「大げさなんだから・・・!!」
イグル「彼女の家は川の対岸だったから、運ぶ間に冷めないようにと、いつも饅頭の生地の中にスープを閉じこめて持ってきてくれるんです。口の中で生地が破れ、一杯に広がる熱いスープの豊かなコク・・・実際、極上の味でした・・・」
マオ「ま・・・まるで‘渡橋麺‘を地で行く話だ・・・」
シロウ「ほんとにいんのか、そんな女・・・!!」
ライア「ね、イグルさん、明日も来ていい?迷惑じゃないかしら・・・」
イグル「ライアさん!どうして僕なんかのためにそれほど・・・」
ライア「そ・・・それは・・・無目的に昆名(まち)で遊んでる村の男達と違って・・・その・・あなたが―――一途な夢を持ってるからなの・・・昼間の畑仕事でボロボロになった体にムチ打ち、毎晩命を削って書物と向かい合ってる―――そんなあなたの一途さを想う度・・・あたし・・胸が張り裂けるように切なくて・・・」
ライアがイグルの手を取った。
イグル「!!」
ライア「お願い・・・もし迷惑じゃなかったら、あなたの夢を応援させて・・・!!」
イグル「ラ、ライアさん・・・」
シロウ「でも、さっききいた話だと、あんた北京へ何年も行ってたって・・」
イグル「・・・そうなんです・・・それが・・間違いだったのかもしれません・・」
「彼女の応援が何よりの支えとなって、僕は郷次(科挙の一次試験)に合格・・・ライアさんは自分のことのように喜んでくれました・・・」
「その晩、僕の求婚を彼女は喜びの涙で頬を濡らしながら、受け入れてくれたのです」
イグル「ライアさん・・・僕にはあなたが必要だ・・・!!一生そばにいてほしい・・・!!」
ライア「イ・・・イグルさん・・・!!」
イグル「会試(二次試験)と殿試(最終試験)は北京で行われます」
イグル「必ず‘凱旋‘してあなたを幸せにしてみせる・・・!!」
ライア「思う存分頑張って・・・!!ずっと待ってるから・・・!!」
イグル「彼女の愛と村中の期待を一身に、僕は北京へ旅立ちました」
「北京・・・!!中国四千年の叡智と文化―――その全てが結集された煌びやかな都に僕の胸は高鳴りました。あまたの文物、巨大な建造物、洗練された人々・・・田舎育ちの僕には何もかも刺激的すぎたのです。それでも初めはライアさんからの手紙を励みに猛勉強し、‘会試‘は順調に突破しました。しかし・・・!!」
「その頃を境に僕の心を都そのものが急速に支配するようになり、愚かにも故郷への想いは徐々に薄らいでいったのです」
「二年・・三年・・・と徒会の生活に浸るうち、ライアさんから届く手紙への返事さえ忘れがちになり、
ついには彼女からの手紙も途絶えました・・・そして今回ようやく‘殿試‘に合格し故郷に錦を飾ろうと主撃った時、初めて自分の犯してきた過ちに気づいたのです」
マオ「で、‘殿試‘に合格!?す、すごい~~~~」
シロウ「何だよ、めでたく受かったんならとっととそのライアさんて人に報告に行けばいいじゃないか」
イグル「わからないのですか!?あなた達には僕の気持ちが!!故郷を離れて五年、彼女との連絡が途絶えて二年・・・ライアさんの村一番の器量良し、
しかももう‘適婚期‘を過ぎかけた女盛り・・・今頃はもしかして僕以外の男性と・・・」
「・・・だとしたら、‘凱旋‘どころか僕はただの‘道化師‘です・・・だから懐かしい星漢村にも脚を踏み入れられず、こうして・・・」
マオ「・・・ん!?星漢村・・・・!?
シロウ「星漢村なら明日オレたちが仕事で行くところだよ」
マオ「揚さん邸で料理を作るんだ」
イグル「え!?ヤ・・・揚さん・・・・!?」
翌朝。
マオ「まさか揚さんのところのお嬢さんがライアさんだったとはね・・・」
イグル「婚約したとき、これと同じ神樹の腕輪を彼女と交換しました。彼女が僕を忘れてないなら、腕にはめているはずです」
マオ「とにかく約束したんだ、ライアさんの気持ちを確かめないと・・・」
シロウ「イグル兄ちゃんにいい報告ができるといいね、マオ兄」
「へェー・・・この川が「小銀河」かァ・・・」
「何でそんな名前つけたんだろうね?」
「さあ・・・」
「村の名前も「星漢」(=銀河)だし、何か由来はあるんだろうね」
「ライアさんはこの橋を渡って饅頭を届けたのかな」
「かもね・・・」
星漢村、揚氏邸。
揚「いやいや・・・お待ちいたしておりました、劉師傅。遠路はるばるようこそ・・・!!わたくしがヤンでございます、おウワサはかねがね・・・」
「おーい、ライア!!ライアはおらんか――――!!おまえも挨拶なさい」
マオ・シロウ「「!!」」
ライア「あら、お父さま、もういらしたの?」
マオ「!!」
ライア「娘のライアです、お会いできて光栄ですわ♡かわいいコックさんに!!」
シロウ(イ、イグル兄ちゃんのノロケ話、マジだったのか・・・!!)
マオ(風の吹き抜けるような美人だ・・・)
シロウ(マ、マオ兄、神樹の腕輪・・・・!!)
マオ(し・・・してない・・・!!ってことは・・・!!)
揚「これから一週間くらい、この娘のことで人の出入りも多いもので・・・料理の方、よろしくお願いします」
シロウ「やべえよ・・・」
その後、ライアの元に5人の男達が集ってきた。
シロウ(マ、マオ兄・・何だこの張りつめた空気は・・・!!)
マオ(わ、わかんないけど、何かイヤな予感が・・・・)
揚「さァ、ライア、どの肩にもらっていただくのだ?」
マオ・シロウ「「はう!!」」
ライア「・・・・・」
揚「私もいいかげん初孫の顔を拝まんと不安でな・・皆さんへのお返事もそういつまでもお待ちいただくわけにもいくまい、ライア。
おまえのような嫁に行き遅れた娘に―――こんなに立派な青年達が名乗りを挙げて下さっているのだぞ。滅多にある話ではあるまい・・・」
村役場勤務、ハリィ(29)「ライアお嬢さん、迷うことはありません。この心も体も全てあなたのものです・・・!!」
医師、グレイ(21)「小指の糸をしっかりたぐって下さい、私と結ばれる運命に気づくはずだ」
占星術師、ケイ(25)「あなたの未来が見える・・・私の懐の中にあなたがいる・・・」
清朝武官、チュン(30)「ぼ・・僕は・・・僕は死にましょん!!あなたが好きだから!!」
商人、ソウキョ(25)「五十年後の君も今と変わらず愛している!!」
ライア「・・・・わかりました。あと・・・三日ほどお時間いただけますか・・・?三日後の夜、どなたにもらっていただくとはっきりとお返事いたします・・・!!ごめんなさい、まだ決めかねちゃって♡」
男達「「「おお・・・・!!」」」
シロウ「どうすんだよ、マオ兄・・・神樹の腕輪もしてなかったし・・それに見たろ?さっきのライアさん。あれは本気であの五人のうち誰にしようか迷ってる様子だった・・・!!いや・・たぶんもう二人ぐらいにしぼってあって、どっちにするかをあと三日で決めるって感じだ・・・・!!」
マオ「確かに・・・まさか・・・もう、イグルさんのことは完全にふっ切れちゃったのかな・・・」
シロウ「あるいは全部イグル兄ちゃんの妄想だったとか」
マオ「そりゃひどいよ、シロー」
シロウ「どうすんだよ、マオ兄」
マオ「うーん・・・・・・ありのままを報告するしかないよ・・・」
報告を受けたイグルは、驚愕し、気絶した。
シロウ「イグル兄ちゃん!!しっかりしろ!!人生ライアさんだけじゃないよ!!」
イグルはシロウのビンタでたたき起こされた。
イグル「・・・・・そうですか・・・・そんなに―――ふっ切れた表情で・・・ひ・・・ひとつだけ教えて下さい・・ライアさんは今でもキレイですか・・・」
マオ「そ・・・それはもう・・・!!」
シロウ「ハンパじゃないよな・・・・」
イグル「・・・・・」
イグルがマオの首を掴み、揺さぶりだした。
イグル「ほ、他に報告はないんですかマオ君!!肉まんを食べながらふと寂しそうな顔をしたとか、
窓から懐かしそうに「小銀河」にかかる橋を見てたとか、胸の谷間に何やら光る輪っからしきものが挟まってたとかァ」
マオ「ふ―――死ぬかと思った・・・」
シロウ「アブナすぎるぜあの兄ちゃん」
マオ「いいかシロウ、とにかく三日間ライアさんを張るぞ」
シロウ「応」
マオ「饅頭の中に何とスープを閉じこめてみました!!」
シロウ「おいしいでしょ!!」
ライア「とっても・・・♡」
マオ「・・・・そ、それだけ・・・!?」
シロウ「何か想い出さない!?」
シロウ「ライア姉ちゃん、オレいつか科挙を受けるよ。将来は北京へ行って高級官僚だい!!」
ライア「ホントに!?ガンバってね♡」
シロウ「・・・・!!」
入浴するライアをシロウが覗いている。
シロウ(うおお・・・・ライア姉ちゃん、着やせするタイプだったんだ・・・♡た、たまんねえよ)
マオ「どうだシロウ、体のどこかに輪っかつけてないか・・・・?」
シロウ「乳輪なら見えるよ」
マオ「バカ―――――!!!」
シロウ「痛ッ」
ライア「すごいわマオ君、‘渡橋麺‘なんて作れるんだ。さすが特級厨師♡」
マオ「い・・・いや・・・そうじゃなくて・・・」
ライア「シロウくーん、気をつけてねー。川に落ちたら危ないわよ―――!!」
そして三日後・・・
マオ(だめだ・・・手のほどこしようもないほど、ふっ切れてる・・・)
イグル「・・・・そうですか・・・三日間、何の変化もなく幸せそうに・・・・・ありがとう・・・何だか安心してしまいました・・・」
シロウ「・・・いちおう、今夜とび入りで参加してみたら?」
イグル「いえ・・・僕の出現はかえって彼女を不幸にするでしょう・・・もう・・・・いいです・・・彼女が本当に幸せであるなら、僕はそれでいいんです」
マオ「イグルさん、この腕輪借りていい?」
イグル「ええ・・・どこへでも持っていって下さい・・」
シロウ「マ、マオ兄どうすんのさ。今さらそんなもの・・」
マオ「いいかシロウ、時間は無いぞ。人を幸せにするのが料理・・・―――ならば時には――――人の本当の幸せを確認するのも、料理かもしれない・・・!!」
シロウ「マ・・マオ兄・・・!!」
グレイ達5人が集まり、ライアは花の冠を持っていた。
揚「さあ・・・いよいよだよライア・・・おまえの選んだ男性の首におかけしなさい」
ライア「はいお父様・・・・」
グレイ「・・・・」
ライア「・・・・・」
そこへ大鍋を持ったマオとシロウが入ってきた。
マオ「お待ちどうさまァ――――!!!ライアさん!!ある人からあなたへの婚約祝賀ッ料理!!お届けに参りました!!」
ライア「ある人・・・!?」
シロウ「見よ!!劉昴星特製、麺料理だい!!」
シロウが大鍋の蓋を取ると、その中は黒い液体で満ちていた。
揚「これはまた大きな鍋に真っ黒い液体・・・!!これは本当に料理ですか・・・・!?」
ライア「マ・・・マオ君、ある人って・・・!?」
ハリィ「あのね・・・リ・・・劉師傅、‘祝賀料理‘もいいんだが、今大事なところで・・・」
マオ「室内の明かりを全部消せ、シロウ!!」
シロウ「応!!」
シロウが明かりを消していった。
「な、何てことするんだ、劉師傅!!月明かりだけになっちゃったじゃないか!!」
チュン「え・・・・!?」
ケイ「あ・・・!!」
ソウキョ「ああッ!!」
「こ、これは宇宙!!銀河が卓上に煌めいている――――!!!」
「つ・・・月明かりに照らされ、巨大な器に無数の星々が瞬いて・・・!!」
「「宇宙」を見下ろすなんて!!なんという超現実(シュール)な光景なんだ!!」
マオ「‘銀河麺‘完成了(かんせい)!!」
シロウ「間に合った―――――!!」
マオ「ちょうちょうたり牽牛星、きょうきょうたり河漢の女。
繊繊として素手を挙げ、札札として機樗を弄す。
終日、章を成さず、泣沸零つること雨の如し」
(「文選」古詩十九首第十首)
グレイ「そ、それが「七夕」伝説の・・・・!!」
マオ「そうです。器の中で‘銀河‘の両側にひときわ光を放つ二星こそ、牽牛星と織女星です。
伝説によれば天の川に隔てられた牽牛と織女は年に一度、七月七日にしか会えずとも、永遠の愛を貫いたといいます」
「なるほど・・・婚約する二人の永遠の愛を願っての祝賀料理とは・・・・!!」
「誰かは知らんがイキなヤツだ・・」
ライア「・・・・・」
「劉師傅!!」
「何故光るんだ!?」
「星屑のように光るこの物体は何なんだ!?」
ライア「・・・・」
マオ「・・・・・」
ライア「・・・・?」
マオ「まァとりあえず、冷めないうちにお食べ下さい」
揚「真っ黒な液体――――‘闇‘にまみれた麺とは・・・!!これは一体・・・・!?」
シロウ「その黒いのはイカスミさ、揚大人」
揚「ほう・・・・!!イカスミとは・・・・!!これはこれは珍しい・・・!!」
揚が麺をすすった。
揚「ほう・・・・!!なんとコクのある、不思議な味・・・・!!」
ハリィたち「おお・・・!!イカスミ独特の舌ざわりとコクを玉ねぎやニンニク他の調味料が見事なまでに引き立てている・・・!!」
「さらに濃厚な味に耐えるすさまじい麺のコシ!!」
「コクがあるのに決してしつこくない!!」
「食べ出したら止まらぬ旨さだ・・・・!!」
ライア「・・・・マ・・・マオ君・・・漆黒のイカスミの上で煌めくこの粉は・・・もしかして・・・」
マオ「それは真珠の粉です」
チュン「し・・・真珠・・・!!なんと破天荒な・・・・!!」
マオ「真珠は宝石だけでなく、食材としても―――特に解毒の薬膳として――――使われます。祝賀料理に煌びやかな華を添え、ライアさんの末長い長寿を願う依頼人の祈りがこめられています」
「見た目の神秘的な美しさにとどまらず、味と効能にまでスキのない配慮を・・・・!!」
「なんと貴重で格調高い料理だ・・・!!」
ハリィ「しかし内陸のこの地方では真珠なぞ滅多にお目にかかれない品物・・・どうやって手に入れたのだ・・・」
ライア(ま・・・まさか・・・)
マオはイグルから預かった腕輪を見せた。
ライア「マ・・・マオ君・・・まさか・・・これは・・・」
マオ「ごめんなさい・・・大切な真珠・・・・砕いちゃいました・・・」
ライア「そ・・・その人は・・今どこに・・・!?」
マオ「河の向こうの旅籠に・・・」
ライア「・・・・・!!!マ、マオ君!!シロウ君!!ちょっとそこで待ってて!!」
マオ「!!・・・・・・!!」
シロウ「マオ兄・・・・!!」
揚「ラ、ライア!!どこへ行くのだ」
チュン「ライアさんお返事を!!」
ライア「私の答えは――――もう決まっています・・・!!」
イグルの元にシロウが駆け込んできた。
イグル「!!」
シロウ「イグル兄ちゃん!!これライアさんから」
イグル「え!?」
イグルに渡されたのは、真珠の腕輪を付けた包みだった。
イグル「シ・・・シロウ君、これは・・・ライアさんの・・・!!」
包みの中には饅頭が入っていた。
イグル「あ・・あ・・・ああ・・・!!」
イグルが饅頭を食べ、涙を流した。
イグル「う・・うう・・・!!ライアさん・・・!!」
(か・・・変わらない・・・!!あの頃のままの味だ・・・!!)
イグルが外へ飛び出し、シロウが追いかける。
シロウ「ま、待ってくれよ―――イグルの兄ちゃ―――ん」
イグルが「小銀河」にかかる橋に着くと、そこにはライアとマオ達がいた。
イグルとライアが抱き合い、涙を流す。
ライア「・・・お・・・おかしいな・・・もう泣きすぎて、涙、枯れちゃってたはずだったのに・・・」
イグル「どれだけ言葉を尽くしても、僕の罪を消し去ることはできない・・・」
ライア「その罪は・・・一生かけて償ってね、イグルさん・・・」
イグル「ライアさん・・・」
ソウキョ「反則だぜイグル・・・今になって凱旋するなんて・・・」
チュン「‘大本命‘が現れちゃ撤退するしかねえか・・・」
マオ「まるで天の川にかかる橋のようだね」
シロウ「オレたちの往復した‘愛のかけ橋‘さ。マ・・・マオ兄・・・川に橋があんなにキレイに映って・・・」
マオ「なるほど・・・だから、『小銀河』っていうのか・・・」
翌朝。
マオ「夕べの宴会・・・イグルさん幸せそうだったね・・・」
シロウ「ライア姉ちゃんも輪をかけてキレイだったよ」
イグル「マオ君、シロウ君・・・君達への感謝の気持ちは筆舌に尽くし難い・・・!!とにかく飲んでくれ!!」
マオ「いや・・・お酒はまだ・・・」
チュン「イグルてめえ!!他人に飲ませてる場合じゃねえぞ!!飲むのはきさまだ!!」
ソウキョ「おりゃ」
イグル「ええ~~~~~!?もうカンベンしてよ~~~~!!」
チュン「だめだ!!ライアさんかっさらわれたオレらの悲しみごと全部飲みこめ!!」
ライア「五年も待たされたあたしの悲しみもよ♡」
イグル「そんな―――ライアさんまで――――」
揚「くう―――やっと孫の顔が拝めるわい!!」
マオ「・・・・」
(そういえばメイリィ・・・・元気にしてるかな・・・)
「・・・・」
メイリィ「マオのいない間にうんとお料理上達してるからね♡」
シロウ「え・・・・!?広州へ・・・!?」
マオ「へへ・・・急に懐かしくなってきちゃってね。シロウも行くだろ?」
シロウ「え!?オレも行っていいの!?」
マオ「まじめに修行するならね」
シロウ「先生!!一生ついていきます」
マオ「いちいちひっつくなよ、暑苦しいよ」
シロウ「そんな冷たいこと言わないでよマオ兄!!僕が行き倒れてもいいの!?」
マオとシロウは、広州への道を歩き出した――――
(真・中華一番!につづく)
最終更新:2020年11月21日 20:43