満開の桜に彩られた通学路。
その中で、ほむらは屋根つきテーブルを構え、1人ティータイムを楽しんでいる。
通学途中のマミ。そこから離れた所をお菓子の魔女の手下(捜索係)が走り、突如消える。
マミは立ち止まり、舞い散る花弁を手に取る。すると、背後のほむらがティーカップをテーブルから払いのける。
マミ「?」
割れる音に気付いて振り返ると、そこにはほむらはいなかった。
呆気に取られるマミ。掌を見ると、花弁は漆黒の羽根に変わっていた。
傍を通り過ぎる偽街の子供達。
杏子は木の上に胡坐をかき、くるみ割りの手下(凶報)をリンゴで餌付けしている。
そして、鞄から別のリンゴを出して食べる。その時…。
杏子「…!」
木の下で子供達が手を伸ばす。
杏子はもう1つリンゴを取り出し、下の子供達に投げるも、取ろうとしない。
その背後のほむらが首を横に振る。
そしてリンゴは川に落ちる。
杏子「!?」
木から一斉に飛び立つ手下(凶報)。
立ち上がって見下ろす杏子。
川を流れるリンゴ。
走り回る子供達。
ほむらがさやかの目の前に現れる。
さやか「あんた、何をしたか分かってるの!?」
呼ばれて振り返る。
ほむら「その様子だと、何があったのか理解しているみたいね。美樹さやか」
さやか「あんたは、円環の理の一部をもぎ取っていったんだ! 魔法少女の希望だった救済の力を…」
ほむら「私が奪ったのは、ほんの断片でしかないわ。まどかがまどかでなくなる前の、人としての彼女の記録だけ……どうやらあなた達まで巻き添えになって、元の居場所に帰れなくなってしまった様だけれど…」
ジュースのグラスの淵を指でなぞる。
さやか「一体何の権利があってこんな真似を…!」
ほむら「…今の私は、魔なる者。摂理を乱し、この世界を蹂躙する存在」
靴を脱いで崖から飛び降りる子供達。
ほむらはさやかに、挑発的な態度で顔を近づける。
ほむら「神の理に抗うのは、当然の事でしょ?」
さやか「…あんたは…この宇宙を…壊すつもりなの?」
背後の川から人魚の魔女を召喚。
髪をかき上げるほむら。
ほむら「全ての魔獣が滅んだ後は、それもいいかもね。その時は改めて…あなた達の敵になってあげる」
グラスからジュースが溢れ出し、道に流れていく。
ほむら「でも美樹さやか…あなたは私に立ち向かえるの?」
ほむらが両手を叩くと、魔女が消滅。
さやか「!」
一瞬ふらつくさやか。
さやか「…!」
ほむら「今でも徐々に記憶は変わりつつあるでしょ?」
さやか「…?…」
残っていた円環の理の一部としての記憶が消え、さやかは苦しそうに片手で頭を抱える。
その傍らで、ジュース浸しの道を楽しそうに走り回るなぎさ。
さやか「…!」
悔しそうに歯を喰いしばる。
さやか「あたしは…確かに、もっと大きな存在の一部だった。この世界の外側の力と繋がっていたのに、今はもう、あの感覚を取り戻せない…ここじゃないどこかに、いた筈なのに…」
ほむら「もっと素直に、再び人間としての人生を取り戻せたことを喜べばいいんじゃないかしら。いずれは、何が起こったのかも忘れて、違和感すら感じなくなるわ」
さやか「…だとしても、これだけは忘れない…! 暁美ほむら、あんたが…悪魔だって事は!」
トマトを投げ合う子供達。
ほむら「せめて普段は仲良くしましょうね。あまり喧嘩腰でいると…」
トマトがほむらの頭にぶつかって潰れ、果汁が血の様に滴り落ちる。
ほむら「まどかにまで嫌われるわよ?」
次の瞬間ほむらは消え、ジュースさえ残っていない。
彼女が去ってからも、さやかは立ち尽くしていた。
その目の前を通り過ぎるなぎさは、小学校のクラスメイトに会い、一緒に登校する。
「やあ、さやか」
さやか「?」
声をかけたのは恭介。隣には仁美も。
恭介「おはよう」
仁美「おはようございます、さやかさん」
さやか「…ああ…うん…」
突然涙を流す。
さやか「…えっと…」
すぐにそれを拭う。
さやか「おはよう…うん、おはよう。2人共」
恭介「どうかしたのかい? さやか」
さやか「きゃはは…いや~何だかね、恭介や仁美に、また『おはよう』って言えるなんて、それだけでどんなに幸せか、あたし、想像もしてなかったんだーってね」
仁美「…相変わらず、さやかさんは不思議なことを仰いますわ」
さやか「そうだよ。いつだってあたしは、不思議ちゃんさ。えへへ…」
そして、笑ってながら恭介達よりも先に学校へと向かう。
始業のチャイムが鳴り渡る。
和子「女子の皆さんはくれぐれも、『半熟じゃなきゃ食べられない』とかぬかす男とは交際しない様に! そして男子の皆さんは絶対に、卵の焼き加減にケチを付ける様な大人にならない事!!」
ほむらは和子の話を聞き流しつつ外を見ている。
和子「…はい。後それから、今日は皆さんに転校生を紹介しまーす。鹿目さん、いらっしゃい」
手招きする和子。
名前に気付き正面に目を遣るほむら。
入ってきた転校生…まどかに一同が驚く。
まどか「えっと、初めまして。鹿目まどかです。ママ…あ…母の海外出張で、家族みんなで3年間、アメリカにいたんですけど、先週ようやく見滝原に帰ってきたので、今日からは、この学校で皆さんと一緒にお世話になります。その…よ…よろしくお願いします」
一同が拍手を送る。
和子「久しぶりの日本の学校で、戸惑うことも色々あるかも知れません。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」
冷ややかに見つめるほむら。
まどかは早速、女生徒達の質問攻めに遭っていた。
「ねえねえ鹿目さん、アメリカの学校ってどうだった?」
「英語ペラペラなの? すごーい! 羨ましいなぁ…」
「ちっちゃくて可愛いよね~!何だか小学生みたい!」
まどか「あはは…えーとね…あ、その…何て言うか…」
ほむらが会話の場に割って入る。
ほむら「みんな」
「?」
ほむら「一度に質問され過ぎて、鹿目さんが困ってるわよ。少しは遠慮しないと」
「ああ…うん」
その場を離れる女生徒達。
まどか「…」
ほむらが歩み寄る。
ほむら「私は暁美ほむら。初めまして、鹿目まどかさん…まどかって呼んでもいいかしら?」
まどか「え? あ、うん」
ほむら「早速だけど、校内を案内してあげるわ。ついて来て」
廊下に出た2人。
まどか「……あ…暁美…さん?」
ほむら「ほむらでいいわ」
まどか「…ほむら、ちゃん…あの…その…どうして、わたしを?」
ほむら「久しぶりの故郷は、どう?」
まどか「…えと…うん。何だか、懐かしい様な、でも、何かが違うなって言うか…ちょっと変な気分…」
ほむら「無理もないわ。3年振りだものね」
そこから会話が止まり、しばらくして、2人は渡り廊下まで来ていた。
まどか「いや…結構何も変わってない様な気もするの…むしろ、変わっちゃったのは、どっちかって言うと…わたしの様な…」
まどかの瞳が金色に変わり、円環の理の記憶が戻ろうとしている。
立ち止まって振り返るほむら。
ほむら「…!」
まどか「…そう…わたしには、もっと違う姿…違う役目があった筈…」
まどかの足元から渦巻きの様な光が現れ、周りを宇宙に変える。
ほむら「…!」
更に頭上に無限空間が現れる。
まどか「それが…どうして…」
ツインテールを結っていた黄色いリボンがひとりでに解けていく。
まどか「…」
ほむらがまどかを背後から抱きしめる。
無限空間が消え、まどかの瞳も元のピンク色に戻っていた。
まどか「ほ…ほむらちゃん!? ねえ!? ちょっと…」
ほむら「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…大丈夫。あなたは間違いなく、本当のあなたのままよ」
まどか「え?」
宇宙が消滅。
ほむらはまどかから離れ、両肩に手をかけたまま…。
まどか「え?」
ほむら「…鹿目まどか。あなたは、この世界が貴いと思う? 欲望よりも秩序を大切にしてる?」
まどか「ぇ…それは…えっと…その…ゎ…わたしは、貴いと、思うよ…やっぱり、自分勝手にルールを破るのって、悪い事じゃないかな」
手を離すほむら。
ほむら「そう…なら…いずれあなたは…」
頭に飾られた、"円環の理のまどかの形見"の赤いリボンを解く。
ほむら「私の敵になるかもね」
まどか「え?」
ほむら「でも構わない…それでも…」
まどか「!?」
ほむら「私はあなたが幸せになれる世界を望むから」
そのリボンで、まどかのツインテールを結い直す。
まどか「え…? ほ…ほむらちゃん…あの…」
ほむら「…やっぱり、あなたの方が似合うわね…」
感極まったのか、涙を流す。
まどか「え?」
夕焼けに包まれる、見滝原中学校の屋上、そして街並み。
菓子をつまみながら仲良く下校する杏子とさやか。
買い物中、転んで買い込んだチーズを落とし、それをどうにか全部拾い切ったマミと、彼女を見つめるなぎさ。
越してきたばかりで荷解きが済んでいない鹿目家。目の前のダンボールにぶつかりそうなタツヤを支えようとし、まどかは笑顔を見せる。
そして陽は沈む。
円環の理=アルティメットまどかの壁画。
夜の公園。
ほむらは崖の上に椅子を構え、夜景を見下ろしていた。
空には半分の月。
ほむら「…!」
物音に振り返ると、草むらからキュゥべえが顔を出す。
立ち上がったほむらは左手の甲からダークオーブを出し、それを宙に舞わせながら、光が雪の様に降り注ぐ夜空の下で踊ってみせる。
足元に横たわる、ボロボロになったキュゥべえ。
ダークオーブを手に取り、微笑むほむら。
ほむら「ふふ…」
崖の下へと身を投げる。
虫の息のキュゥべえ。
その瞳の奥に蠢く黒い影。
ほむらの支配する世界の中で、まどかは彼女が奪った円環の理の一部から再構成され、人間として生きている。
そしてその影響で、さやかも、そしてなぎさもまた人間としてここに存在している。
円環の理は、本当に失われたのだろうか。
インキュベーターは、本当にエネルギー搾取を諦めたのだろうか。
いつか来る宇宙の熱的死からは、逃れられないのか。
……そして物語は、これで本当に終わったと言えるのだろうか。
最終更新:2015年05月14日 14:12