ロンダーズファミリーの本拠地、ロンダー刑務所の夜。
ドン・ドルネロとリラがワイングラスを傾ける一方、ギエンは黙々と研究に打ち込んでいる。
リラ「何よ、それ?」
ギエン「別に。ただの趣味だ」
リラ「暇なのねぇ。ふわぁ~あ。ドルネロ、そろそろ寝ない?」
ドルネロ「あぁ、そうするか。ギエン、妙な悪戯はやめとけよ」
ドルネロとリラが寝た後、ギエンは圧縮冷凍されている囚人たちの中から、テロリスト・サンドーラを甦らせる。
サンドーラ「せっかく解凍してもらったが、俺に金儲けは無理な相談だぜ」
ギエン「そんなことは頼まん。ただ、手に入れてもらいたい物があってな」
翌日、タイムレンジャーの本拠地、便利屋のトゥモローリサーチ。
一同は事務所に閉店の看板を掲げ、屋外バーベキューの準備を進めている。
シオン「うわぁ~!」
ドモン「おい、こんなすげぇ肉、こっち来て初めてじゃねぇか?」
シオン「僕、バーベキューも初めてです!」
ユウリ「たまには息抜きもしないとね。ドモン、よだれ」
シオン「フフッ」
ユウリ「じゃ、取敢えずこれだけ、車に乗せちゃって」
竜也「おぅ、よいしょっ!」
アヤセは1人、駐車場で車に荷物を運び込んでいる。
突如、胸を抑えて苦しむ。
アヤセ「うぅっ! うぅっ……」
竜也が荷物を抱えて駐車場に来、痛みの収まった様子のアヤセに気づくが、平静を装う。
アヤセ本人と竜也のみが知る、アヤセの秘密、不死の病──
竜也「うわぁ~、最高のアウトドア日和だなぁ! あのさぁ…… やっぱり、ユウリたちに言った方が良くねぇか?」
アヤセ「ん?」
竜也「お前の、その……」
アヤセ「『あと1年か2年の命です、大事にしてください』ってか?」
竜也「おい……」
そこへ、シオンが顔を出す。
シオン「アヤセさん、至急で運転代行の依頼が入っちゃったんですけど。川崎までですって。断ります?」
アヤセ「いや、それならすぐ帰って来れるだろう。行くよ」
アヤセが依頼先を訪れる。
依頼客の森本は、痛々しく腕を包帯で吊っている。
森本「どうも! 運転代行の方でしょ?」
アヤセ「はい」
森本「いやぁ~、助かりましたよ。昨日、転んじゃってね。車、会社に返さなきゃいけないし」
アヤセ「川崎の第三総合研究所まで、ですよね」
森本「えぇ、お願いします」
アヤセの運転で、森本は第三研究所に到着する。
森本「どうも~! 車は地下の駐車場に。裏から入れますから」
アヤセ「はい」
研究所内。
所員たち「あの後、階段で転んだんだってさ……」
森本「おはよう! おはよう!」
所員たち「おはようございます!」「主任、災難でしたね」「大丈夫ですか?」
森本「あぁ、大丈夫、大丈夫!」
所員「主任、どうぞ」
森本「あぁ、ありがとう」
研究所に突如、サンドーラがジャンクドロイド・ゼニットたちを率いて現れる。
サンドーラ「全員、床にうつ伏せになれぇ! 命が惜しければ、妙な真似はするなぁ!」
警備員たちが出動するが、サンドーラは警備員たちを蹴散らし、研究所の奥へと突き進む。
サンドーラ「ふふ、これだな」
警備システムを作動させる。
たちまち門やシャッターなど、所内のあらゆる隔壁が閉まる。
アヤセも、地下駐車場で閉じ込められてしまう。
サンドーラ「この研究所は、たった今から我々ロンダーズの支配下に置かれた。指示があるまで、勝手に動くな」
森本たちのいる部屋に、サンドーラがが現れて銃を向ける。
サンドーラ「動くなぁ! 手を上げろ!」
トゥモローリサーチの達也たちのもとに、アヤセからの通信が入る。
アヤセ「こちらアヤセ、こちらアヤセ。どうやら、ロンダーズらしい一団に占拠されたようだ」
竜也「ロンダーズが!?」
アヤセ「まだ犯人の顔も拝んでないし、目的もわからないがな。とにかく、研究所の人たちの様子を掴まない限り、迂闊に動けない」
ユウリ「わかった。私たちもすぐそっちへ行くから。中の様子が分かったら連絡して」
アヤセ「あぁ」
ユウリ「行きましょう」
サンドーラ「さてと、質問だ。ここにいるなら、『ラムダ2000』のことは知っているだろう? 開発した奴は誰だ?」
一同「……」
サンドーラ「誰だって聞いてんだぁ!」
サンドーラが苛立ち、天井へ向かって銃を放つ。
森本「わぁっ!? ま、待ってください! 要求は何なんですか?」
サンドーラ「そのラムダ2000を、1キロ作ってもらいたいんだよ」
森本「……それだけ、ですか?」
サンドーラ「『それだけ』? まだ何かやりたいのかぁ!? グズグズしてるとぶっ殺すぞ!」
森本「はは、はい、わかりました。じゃ、清水くん、久保田くん、頼むな」
所員たち「は、はい!」
アヤセは通気口を伝って所内に忍び込み、一同の様子を窺っている。
竜也たちも、研究所前に到着する。
アヤセ「ロンダーズは研究員に、ラムダ2000ってのを作らせるらしい」
竜也「ラムダ2000?」
アヤセ「何だかわからないが、それが奴らの目的らしい」
ユウリ「タック、わかる?」
トゥモローリサーチで待機しているナビゲーターロボ・タックが応答する。
タック「あぁ。最近その研究所で開発された、高純度エネルギーの結晶だ。少ない量で、かなりのエネルギーを作り出すことができる。まだ実用段階じゃないらしいが」
シオン「そんなの、どうするつもりなんでしょうね?」
タック「今の段階では、特にロンダーズの金儲けになるとは思えないが。ラムダについては、もう少し調べてみる」
ユウリ「お願い。私たちは研究所の人たちを助け出すわ。アヤセ、人質の状況はわかる?」
アヤセ「あぁ。建物奥の3階、突き当りの部屋に13人。ゼニットは、6。それから2階の実験室で、作業をさせられてるのが2人。就いてるのは、ロンダーズ囚人1人。そいつが何者かはわからないが、結構物騒な奴っぽいな」
実験室で、サンドーラのもと、所員2人が作業に当たる。
所員たち「準備できました」
サンドーラ「よし」
ユウリ「2箇所か…… 同時に突入して両方押さえたいけど、気づかれずに中へ入れるかが問題ね」
シオン「見た感じ、入口は全部塞がれてますしね」
竜也「あれ、無理に破ると警報鳴るよ」
ドモン「おい、なんで知ってんだよ?」
竜也「あの研究所、親父の関係なんだ。見学したことがある」
ドモン「……手広いねぇ、浅見グループも」
アヤセ「俺が警備センターに入ってシャッターを開ける。裏の駐車場から入ってくれ」
ユウリ「了解。気をつけて」
サンドーラ「早くしろよ。あんまり待たせると、お前らの仲間を1人ずつ殺す」
竜也たちはタイムレンジャーに変身し、地下駐車場の前で待機する。
イエロー「アヤセ、早いとこ頼むぜ!」
刻々と時が過ぎてゆくが、シャッターは閉ざされたまま、一向に開かない。
グリーン「どうしたんでしょうね? 遅すぎませんか?」
タイムイエローが通信をとろうとするが、タイムピンクが制する。
ピンク「ちょっと待って。今どういう状況にいるかわからないんだから、こっちから連絡するのは危険だわ」
レッド「アヤセ…… まさか!?」
今朝がた、アヤセが胸を押さえて苦しんでいた光景──
レッド「まさか!?」
グリーン「竜也さん?」
アヤセが無人の所内で1人、苦しんで倒れている姿が、脳裏によぎる。
レッド (もし…… もし、あいつがこのまま死ぬなんてことがあったら、こんなところで、たった1人で!?)
イエロー「おい、竜也? どうしたんだよ!?」
レッド「突っ込もう」
イエロー「はぁ?」
レッド「俺、バカだった。こういうことだって予想できたのに。もっと早く気付いてなきゃいけなかったんだ!」
イエロー「おい、何言ってんだよ!?」
ピンク「開くわ!」
シャッターが開いてゆく。
ピンク「行くわよ」
シオン「はい!」
イエロー「おい、行くぞ!」
実験室では、所員たちがラムダ2000の結晶を完成させる。
サンドーラ「出来たか? ご苦労だったな。これが報酬だ。死ねぇ!」
サンドーラが銃を向け、所員たちが震え上がる。タイムピンクとグリーンが突入する。
ピンク「待てっ!」
サンドーラ「貴様らぁ!」
サンドーラが銃を放ち、ラムダ2000を持ち、所外へ飛び出す。
ピンク「待ちなさい!」
タイムレッドとイエローは、森本たちが監禁されている部屋へ突入する。
レッド「伏せるんだ!」
2人のボルユニットの砲撃で、ゼニットたちは一掃される。
イエロー「よっしゃ、作戦成功!」
ピンク「ロンダーズは外よ。急いで!」
レッド「ユウリ、そっちにアヤセは?」
ピンク「見なかったわ。まだ警備センターかも」
レッドが単身、駆け出す。
イエロー「おい、どこ行くんだよ!? 何なんだ、あいつは? しょうがねぇなぁ」
レッド「アヤセ、アヤセ!」
タイムピンク、イエロー、グリーンが、所外でサンドーラの退路を断つ。
ピンク「ロンダーズ、教えてもらおうかしら。ラムダ2000で何をするつもりだったの?」
サンドーラ「さぁな。俺は1千万で引き受けただけだ。どけぇ!」
タイムレッドは所内に残り、アヤセを捜し続ける。
レッド「アヤセ!」
銃声が響く。その音を追い、レッドは地下の警備センターへ駆けつける。
物陰の床に、アヤセのジャケットの端が見える。アヤセが倒れている──?
レッド「アヤセ……?」
ゼニットが吹っ飛ばされ、倒れる。
物陰から現れたアヤセことタイムブルーが、脱ぎ捨てたジャケットを拾い上げる。
レッド「アヤセぇ!!」
ブルー「遅くなって悪かったな。警備システムの解除が、結構……」
気の抜けたレッドが、ガックリと座り込む。
ブルー「竜也?」
レッド「良かったぁ…… 俺、てっきり……」
ブルー「おい……」
レッド「──よし! 俺、決めた!」
ブルー「えっ?」
レッド「行こうぜ。まずはロンダーズだ!」
タイムピンクたち3人は、サンドーラの前に苦戦を強いられている。
サンドーラ「食らえぇ!」
一同「きゃあ!」「うわあっ!」
サンドーラ「じゃあな、タイムレンジャー!」
逃走しようとするサンドーラに、タイムレッドとブルーの攻撃が炸裂する。
レッド「タイムレンジャー!」
ブルー「ロンダーズ! 時間保護法違反により、逮捕する!」
サンドーラ「貴様らぁ!」
ブルー「ベクターハーレー!!」
レッド「ベクターエンド・ビート3!!」
ピンク「ボルスナイパー!」
イエロー「ボルバルカン!」
グリーン「ボルパルサー!」
一同「シュート!!」
サンドーラの手が5人の連続攻撃を浴び、ラムダ2000が地面に転がる。
サンドーラ「こうなりゃ、とことんやってやろうじゃねぇか!」
サンドーラが自ら抑制シールを剥がし、リバウンドにより巨大囚人と化す。
ブルー「タック!」
タック「了解、緊急システム発動依頼!」
『プロバイダス・スタンバイ── タイムゲート・オープン── タイムジェット発進──』
レッド「3Dフォーメーション・タイムロボβ!」
5機のタイムジェットが飛来し、合体し、巨大ロボット・タイムロボβが完成する。
タイムロボβと巨大サンドーラの銃撃戦。タイムロボのフライヤーマグナムが銃撃で弾け飛ぶ。
気づくと、タイムロボの周囲に手榴弾が撒かれている。
ピンク「しまった、いつの間に!?」
手榴弾が一斉に爆発し、タイムロボが火の海に包まれる。
サンドーラ「終わりだな、タイムレンジャー」
ブルー「まずい、タイムフライヤー!」
フライヤーマグナムがタイムフライヤーに変形して飛来、サンドーラに銃撃を浴びせる。
レッド「チェンジフォーメーション・タイムロボα!」
タイムロボがタイムジェットに分離、再合体してタイムロボαとなる。
レッド「時空剣! 行くぞ!」
サンドーラ「このぉ!」
レッド「プレスブリザード!!」
必殺剣が炸裂──!!
サンドーラが大爆発し、圧縮冷凍される。
地面に転がっていたラムダ2000を、ギエンが密かに拾い上げる。
ギエン「フフフ…… ハハハハハ!」
一難が去り、一同はバーベキューのために川岸にやって来る。
ドモン「おいシオン、遊んでないで、こっち手伝え」
シオン「はぁい」
準備を進めるユウリたちをよそに、達也とアヤセは、車から荷物を降ろしている。
竜也「アヤセ…… ユウリたちに言おう」
アヤセ「……」
竜也「俺、間違ってた。お前に合せて、忘れたような顔してるのが一番いいなんて思って…… でも、そうじゃない。ユウリたちに言って、タイムレンジャー辞めて、ダメモトでも病院行って、30世紀に帰りたいんだったらタイムジェットに縛り付けてだって!」
アヤセ「よせよ…… そんなことされたら、すぐ死ぬみたいじゃないか」
竜也「アヤセ……」
アヤセが、ユウリたちを見つめる。
シオン「ドモンさん、これ飲んでいいですか?」
ドモン「バカ。それ、油だよ」
シオン「えっ、そうなんですか?」
ユウリ「ねぇ。これ、どう切ればいいの?」
ドモン「あぁ~っ! お前はいいから、皿でも出してろよ!」
シオン「ユウリさんが切ると、食べるとこ減っちゃいますからね」
ユウリ「ど──いう意味よ!? もう!」
シオン「へへっ!」
アヤセ「俺は、今のままがいい…… 今のままなら、信じていられるんだ。変わるかもしれない、明日って奴をな」
竜也「でも……」
アヤセ「お前にも言うべきじゃなかったよ。まさか、俺より悩むなんてな」
竜也「……」
アヤセ「けど、無理やり聞き出したのは、お前だからな」
アヤセが荷物を抱えて背を向けつつ、かすかに達也を振り向く。
アヤセ「サンキュ。本当、お前には助けられてるよ」
ユウリ「ニンジンくらい、私が切るわよ」
シオン「ユウリさん、やめた方がいいですよ」
ユウリ「やるの!」
アヤセが一同に加わる。
アヤセ「ユウリ、貸せよ。俺がやる」
ユウリ「いいわよ。私がやるって決めたんだから!」
アヤセの手にした皿を、ユウリが無理やり奪おうとした拍子に、野菜が地面に散らばる。
アヤセ「あっちゃあ!」
ユウリ「あ……」
ドモン「おい! 頼むからやめろよ! 勿体ないだろ!?」
ユウリ「……」
ユウリが決まり悪そうにしているところへ、達也も加わる。
竜也「まぁまぁ! ユウリ、俺が今度料理教えてやるって。よし、準備しようぜ!」
一同「はい!」「おぅ!」
ドモン「シオン、肉!」
シオン「はい! ドモンさん、肉!」
ドモン「よぉし!」
バーベキューが和やかに始まり、一同は料理に舌鼓を打つ。
結局、俺は答を出せてない……
何が、一番いい方法なのか。
でも今この瞬間は、これでいいのかもしれない。
きっと──
Case File 18
2000. Jun. 24.
トゥモローリサーチでは、タックがラムダ2000の分析を終えている。
タック「そうか! ラムダ2000は、30世紀の高性能燃料、ゼータ3の原型だ! しかし、一体何に使うつもりで?」
ロンダー刑務所では、ラムダ2000を入手したギエンのもと、ゼニットたちが何かの製作に入っている。
第三研究所。森本が電話を受けている。
森本「はい、大丈夫です。ロンダーズは撤退。プロジェクトに問題はありません。順調です。それでは」
森本と研究員たちが、「立入禁止」の看板の掲げられた扉を開ける。
そこには、巨大な戦闘マシンが鎮座している。
そして30世紀の未来世界でも、新たな巨大ロボットが完成しようとしている──
最終更新:2023年12月27日 21:43