仮面ライダーアギトの第46話

翔一の姉がアギトの力で真魚の父を殺害した可能性が浮上し、真魚は翔一を激しく拒む。
そんな折に翔一はアンノウンに遭遇し、アギトに変身して戦うが、その最中、あの謎の青年が現れる。
アギトの力を奪い去ろうとする青年に対し、翔一は自ら望むように、無抵抗のまま力を奪い去られる。

変身が解けて倒れた翔一のもとへ、同様に力を奪われた涼と木野、そして真島浩二が駆けつける。

一同「津上!」「津上さん!」「しっかりしろ!」


氷川がG3-Xを装着し、アンノウンのファルコンロード・ウォルクリス・ファルコと戦う。
原因不明の視力異常に襲われつつも、霞む視界の中、ファルコの姿が次第に浮かび上がる。

G3-X「はっ、見えた!」

G3-Xの反撃で、ファルコが逃走する。


浩二「津上さん!」
涼「津上、なぜだ!? なぜ自分からアギトを捨てた!?」
翔一「あれは…… あれは人間が持っちゃいけない力なんです!」

氷川「ちょっと待ってください! どういうことですか? アギトを捨てたって? 一体何があったんです!?」
翔一「俺…… 今までアギトの力で人を守ることができるって思ってました。でも違ったんです…… アギトは人を不幸にします。そんな力を持ってたって、仕方ないじゃないですか……」
氷川「何言ってるんです? 現にあなたは、今まで多くの人々を助けてきたじゃありませんか!?」
翔一「氷川さんにはわかりませんよ! アギトじゃない氷川さんには……」
氷川「それは……」
涼「津上……」
翔一「もういいじゃありませんか。俺たちはアギトじゃなくなったんです。ただの人間として、みんな勝手に生きていけばいいんです。もう関係ないですよ、俺たち」
氷川「津上さん……」


美杉家の夜。
真魚は心を閉ざし、部屋に閉じこもっている。
翔一が、ドア越しに語りかける。

翔一「真魚ちゃん。真魚ちゃん、俺、もうアギトじゃないから。アギトの力を、捨てたからさ……」
真魚「……どういうこと?」
翔一「人間は、人間のままでいればいいよね。だから、ごめん…… 姉さんのこと、これで許してもらおうなんて思ってないけど…… ごめん」


警察病院。
氷川の視力異常に気付いた北條が、警察病院で彼を眼科に診せている。

北條「では、どこにも異常はないと?」
医師「えぇ。先日彼は、都立吉澤病院で精密検査を受けたとのことで、あちらにも問い合せてみたのですが、脳にも視神経にも異常はありません」

氷川「だから言ったじゃないですか。大したことないって」
北條「果たしてそうでしょうか? アンノウンと戦うに際しては、たとえ一時的にせよ、目が見えなくなれば命取りになりかねない! 私としては、当分の間G3-Xの装着はやめるべきだと思いますが」
氷川「それは…… それはできません」
北條「しかし、氷川さん……!」
氷川「北條さんはご存知ですか? 津上さんは今、アギトとして戦えなくなっているんですよ」
北條「津上翔一が!? どういうことです!?」
氷川「詳しいことはわかりません…… 彼に何があったのか。でも、僕がG3-Xとして命懸けで戦っていれば、きっとアギトは帰って来てくれる。理屈じゃなく、僕はそう信じてるんです…… お願いします! 僕の目のことは誰にも言わないでください」
北條「……知りませんよ、どうなっても」


木野のマンションの部屋。
涼と浩二もいる。

浩二「ねぇ、これからどうすんの!? 誰がアンノウンと戦うわけ!? 今のままじゃどうしようもないじゃない!」
木野「そう、今の我々はただの人間だ。どうすることもできない…… 津上が言うように、それぞれ自由に生きていけばいい。我々を繋ぐものは、もう何もない……」

涼が突然、立ち上がる。

浩二「葦原さん!?」
涼「できないな、俺には。ようやく見つけた絆だ…… 津上を放っておくことは、俺にはできない」


美杉家。
真魚が居間を覗くと、美杉がいるのみ。

真魚「翔一くんは?」
美杉「あぁ、『ちょっと出てくる』と言って行ったが」
真魚「……そう」
美杉「真魚。だいたいの話は、翔一くんから聞いて知っている。残酷な話だと思う…… つらいよ、私も…… でも、今の真魚を見たら、亡くなった伸幸兄さんはどう思うかな?」
真魚「お父さんが……?」
美杉「お前、なぜ兄さんが『真魚』という名前をつけたか、知ってるか?」
真魚「……」
美杉「『マナ』という言葉には『天からの恵みの食べ物』という意味があるんだ。きっと兄さんはお前に、人々に恵みを与える人間になってほしい、そう思ってたんじゃないかな」
真魚「人々に恵み……? そんなの無理だよ。私なんかに、私なんかに…… 私、どうしていいかわからない!」
美杉「真魚……」


翌日。真魚が自転車で、川辺の歩道を駆ける。
橋の上からアンノウン、ヘッジホッグロード・エリキウス・リクォールが、真魚目がけて毒針を撃ち出す。
涼が通りかかって真魚をかばい、毒針から守る。

涼「さぁ、早く!」

涼が自分のバイクに真魚を乗せ、走り去る。


林の中。
アギトの力を吸収した青年が、体内の力に耐え切れずに苦しんでいる。

青年「うぁぁっ……! うぅっ…… そんなに、帰りたいか? 奴らの中に…… ならば、帰る場所をなくしてやる……!」


涼「あんた知っているか? アンノウンは、アギトになるかもしれない人間を襲っている」
真魚「え? どういう……どういうことですか?」
涼「わかるだろ? あんたもアギトになるかもしれないってことだ」
真魚「私が、アギトに? そんな……! 私が、アギトに……」
涼「確かなことはわからない。その可能性があるってことだ」
真魚「……」
涼「怖いか? それが普通だ。津上が言ってた。奴の姉さんとあんたの父親との間に何かがあったようだが、きっと奴の姉さんも怖かったんだろう…… 今のあんたと、同じようにな」

そこへ再び、リクォールが現れる。

涼「逃げろ!」

木野と浩二が通りかかる。

浩二「葦原さん!?」


バイクを飛ばしている翔一が、頭上のファルコに気付く。


涼たちは必死に真魚を守る。
そこへファルコが飛来し、木野の胴に強烈な頭突きを見舞う。

木野「ぐぉぉっ!?」
浩二「木野さん!? 木野さん、木野さん!」

リクォールが真魚目がけ、毒針を撃ち出す。
翔一が駆けつけ、自ら盾となって毒針を受ける。

翔一「うぁぁっ!?」
真魚「翔一くん!?」
涼「津上!?」
翔一「うっ…… 葦原さん、真魚ちゃんを早く! お願いします! 俺なら大丈夫ですから! 早く、早く!」

翔一に促され、涼が真魚と共にバイクで走り去る。
2体のアンノウンが、真魚を追う。

木野「津上!」

真魚たちの逃走を見届け、翔一が倒れる。
木野が駆け寄り、懐からメスのケースを取り出す。

浩二「木野さん!?」
木野「ただの傷ではない、アンノウンの攻撃によって受けた傷だ。何が起こるかわからない。今この場で、撃ち込まれた針を摘出する」
浩二「そんなぁ!?」
木野「押さえろ!」

苦痛に顔を歪める翔一の両腕を、浩二が押さえつける。
翔一の服を脱がせ、木野がメスを手にするが、アンノウンの攻撃を受けた木野自身もまた苦しみだす。

木野「あ……!? うぅっ……」
浩二「木野さん!?」

木野が苦痛に耐え、歯を食いしばりつつ、メスを翔一の胴に当てる。

翔一「うぐぅっ!? あぁっ!?」
木野「くっ……」
翔一「あぁっ……!? がぁっ……!?」


涼は2体のアンノウンの襲撃を受けている。

涼「ぐぅっ……」
真魚「葦原さん、葦原さん!」

そこへG3-Xがガードチェイサーで突入、リクォールを跳ね飛ばす。
だがそこへ、ファルコも襲い来る。
G3-XがガトリングガンGX-05を手にするものの、氷川の視力異常が再発する。

小沢「氷川くん、どうした!?」

リクォールが、G3-Xの持つGX-05を叩き落す。

小沢「何があったの!? 氷川くん!」

北條が、Gトレーラー内に入ってくる。

尾室「ほ、北條さん!?」
北條「失礼しますよ」
小沢「ちょっと、あなた!?」

北条が尾室のインカムを身につけ、モニターを前にする。

北條「氷川さん、敵は右斜め、避けて!」
G3-X「北條さん!?」
北條「氷川さん! 左前方にGX-05があります」「左上後ろ、今です!」

北條の指示で、G3-Xが攻撃を避けつつGX-05を連射する。
ファルコが大量の銃弾を浴びて、大爆発する。


翔一「あぁぁっ…… ぐぅっ……!」
木野「津上…… はぁ、はぁ…… 俺は…… アギトであることに飲み込まれてしまった人間だ! だがそれはアギトのせいではない、俺という人間が弱かったからだ。俺は…… 自分の弱さと戦う! お前も負けるな!」
翔一「うあぁぁっ…… あぁぁ──っっ!!」

木野がようやく、翔一に刺さった針を摘出する。

翔一「はぁ、はぁ、はぁ……」


北條「左です、避けて!」

G3-Xの回避が間に合わず、リクォールの攻撃をまともに浴び、吹っ飛ぶ。
翔一と木野がバイクで参戦し、翔一がリクォールを跳ね飛ばす。

真魚「翔一くん!」

だがそこへ、あの青年が現れる。

青年「残念です── あなたたちの命を── 奪わねばならない」
翔一「……」
真魚「翔一くん、戦って! もう一度、アギトとして戦って!」
翔一「……うぅおおぉぉ──っっ!!」

真魚の真剣な視線に打たれ、翔一の体に次第に、新たな決意がみなぎる。
翔一が気合いと共に、青年目がけて突進する。
パンチを突き出すが、目に見えない壁の前に跳ね返される。

青年「無駄なことを── 人間の力では、私には触れることすらできません」

氷川の視力が回復し、その視界に青年に挑む翔一の姿が映る。
G3-XがGX-05を、青年目がけて連射する。
青年がG3-Xめがけて壁を作り出し、その銃弾を防ぐ。
とっさに翔一が、青年目がけて駆け出す。

翔一「うおぉ──っっ!!」

壁の横をすりぬけ、繰り出した翔一のパンチが青年の頬に命中する。
青年が倒れ伏す。

青年「はぁ、はぁ…… 馬鹿な!? 人間が── この私を!? う、うぉぉっ!?」

青年の体から、翔一たちから奪った光の力が飛び出し、翔一、涼、木野の体に戻る。
翔一たちは、アギトの力が甦ったことを実感する。

翔一「変身!」

翔一がアギトに変身。

涼「変身!」
木野「変身……」

涼もギルスに、木野もアナザーアギトに変身する。
リクォールが、後ずさりする青年を守るように進み出る。

アナザーアギト「とぅっ!」
ギルス「ハァッ!」

アナザーアギトのキック、ギルスのヒールクロウがリクォールに叩きつけられる。

アギト「はぁっ!」

アギトがとどめに、ライダーキックを見舞う。
3人の連続攻撃を受け、リクォールが爆死を遂げる。


密かに戦いの場を逃れた青年が、野原で夕陽を見つめる。

青年「人間が── 人間が── この私に!!」


夜、美杉家の夕食後。
後片づけをする翔一を、真魚が手伝う。

真魚「翔一くん、なんか…… 色々、ごめん」
翔一「何言ってんの、それは俺の台詞だって」
真魚「うぅん、私がごめんだよ」
翔一「俺がごめんだって。真魚ちゃんはそんなことしなくていいからさ」
真魚「あ、いいからいいから、今日は私がやるから」
翔一「お茶入れるからさ、ごめんちゃいごめんちゃい!」
真魚「ごめんちゃい……?」

美杉が、すっかり和解した2人を微笑ましく見守る。


木野の部屋。涼と浩二もいる。

浩二「木野さん、俺決めたんだ。今日、木野さんのオペを見てさ…… 俺、やっぱり医者を目指してみようかなって」
木野「そうか…… お前ならできる」
浩二「うん、俺がんばるよ!」
木野「浩二」
浩二「え?」
木野「コーヒーを頼む……」
浩二「わかった!」

浩二が台所に立つ。
木野はソファに、ゆっくりと身を任せる。

涼「どうした? ……木野?」

木野はうなだれたまま、返事もせず、微動だにしない。

涼「おい!? 木野!? おい、木野ぉ!?」

涼が木野の肩をつかむ。
その拍子に、木野のサングラスが落ちる。
木野の目は既に閉じており、二度と開くことはなかった。


木野の夢の中か、かつて木野が弟・雅人を喪った雪山の光景。

雅人「兄さん、兄さん…… 助け……て……」

雪の吹き荒れる中、木野が雅人を助け起こす。

木野「雅人ぉ! 雅人ぉ! 雅人…… しっかりしろ!」


かつて救えなかった雅人を、木野がしっかりと抱え、吹雪の彼方へと去って行く──


(続く)

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最終更新:2020年03月21日 06:36