ウインスペクターが追ってきた相手は 意外にもNATO、北大西洋条約機構が作り出した 諜報用ロボットだった。
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特救ソルブレインは、来日して来た
特警ウインスペクターとの合同捜査で、人間型の諜報ロボット・メサイアを追う。
大樹は、竜馬の非情さに疑問を持ちつつ、メサイアの正体が人間だと疑念を抱き、開発者の藤波健三博士を問い詰める。
大樹「博士、はっきり言ってください! メサイアは人間なんですか!?」
藤波「それは……」
大樹「この写真は!?」
大樹の示す写真には、メサイアと同じ顔の男性が、妻と娘とおぼしき2人と共に写っている。
藤波「仕方……なかったんです。我々は防衛生産員会から、人間の脳を使い、変身自在のロボットの開発を命令されました。そのとき送り込まれたのが、あの男だったんです。日本人旅行者で、交通事故に遭い、重体でした。その男の脳を使えというんです」
一同「……」
藤波「もちろん、私は反対しました。しかし上層部に押し切られる形で……」
正木「馬鹿な! それでNATOは、ひた隠しにしていたのか」
玲子「なぜ、自爆装置など付けたんですか!?」
藤波「それは…… 敵側に拉致されたり、人間の記憶が戻った場合を考え、命令が遂行できない状態に陥ると、ちょうど7日目に自爆するように作ったんです」
ドーザー「ひどい話です! 許せません!」
正木「メサイアの、いや、この日本人旅行者の身元は!?」
藤波「わかりません。NATOは、行方不明者として処理したようです」
バイクル「年間に海外で消えとる日本人旅行者は、何十人もおるというがね! その中の1人と違ったがか!?」
正木「博士。メサイアの自爆装置は、外すことができるんですか、できないんですか?」
藤波「……」
正木「どうなんです!?」
藤波博士は無言で、首を横に振る。
ソルブレイン本部。
純「どうしたらいいんですか!?」
玲子「本部長…… どうしたら!?」
竜馬「結論は最初から変わっていない。奴を遠くへおびき出し、自爆させる」
大樹「先輩!? 先輩はメサイアが最初から、人間だと気づいていたんじゃないんですか!?」
竜馬が厳しい表情のまま、頷く。
竜馬「……もしやとは思っていた」
大樹「それなのに、平気で殺害しようとしたんですか!? 僕は最初から、破壊するのに反対だった。ロボットだろうが人間だろうが、命には変わりないじゃないですか!」
一同の視線が、竜馬に集まる。
竜馬「……その通り。しかし、他にどういう方法があるというんだ? 奴1人の命のために、大勢の犠牲者を出してもいいと言うのか!?」
大樹「……」
竜馬「これでも、悩みぬいた末の結論なんだ」
大樹「……どうして、どうして人間はこんなことをするんですか!?」
正木「大樹……」
大樹「本部長…… メサイアがかわいそうです。これじゃ、あんまりかわいそうです!」
住宅街。
メサイアが記憶を頼りに、1件の家の前を訪れる。
メサイア (ここは…… ここは私の……)
庭先で、母親と幼い娘がボールで遊んでいる。
「ママぁ! ママ、早く、早くぅ!」
「はいはい。ゆかり、上手になったわねぇ」
メサイア「ゆかり…… ともこ……」
メサイアの脳裏に、自分が人間であった頃、この家で幸せに暮していたときの記憶が甦る。
(『パパぁ』)
(『そぉれ! 重くなったなぁ!』)
(『さぁ、ゆかり、ジュースよ』)
(『おっ、ジュースが来たぞ』)
「あっ、ごめん、ごめん、ゆかり」
ボールが転がって来る。
メサイアが手を伸ばそうとし、慌てて身を隠す。
ソルブレイン本部で、電話が鳴る。
正木「はい、ソルブレイン本部。──メサイア!? 今、どこにいるんだ?」
メサイア「そんなことはどうでもいい! 俺はまだ死にたくない。貴様らの力で、俺の頭から爆弾を取り外せ!」
正木「……」
メサイア「どうした? 嫌だと言うなら、爆破まであと3時間半、東京のど真ん中で爆発してやるぞ!」
正木「待て! 待つんだ! ……わかった。言う通りにしよう。すぐ、ソルブレイン本部まで来てくれ」
大樹「本部長! そんなこと言って、どうするんですか!? 手術は不可能なんですよ!」
正木「本当のことを言ってどうなる!? 奴はそれこそヤケを起こし、この東京の真ん中で自爆するだけだ!」
竜馬「本部長。奴が現れたら取り押さえ、遠くへ運んで自爆させましょう」
正木、ウインスペクターとソルブレインたちが総出で、メサイアを待ち受ける。
正木 (あと2時間……)
メサイアが車で到着する。
正木「メサイア……」
メサイア「藤波博士は?」
正木「時間が無い。急ごう」
メサイア「俺を騙すつもりじゃないだろうな?」
正木「メサイア……」
メサイア「まぁいい。ちゃんと保険をかけてきたからな」
正木「何!?」
メサイア「ここへ来る前、ある場所に時限爆弾を仕掛けて来た。俺が自爆する時間と同じ時間にセットしてな。俺が死ねば、大勢の犠牲者が出る」
正木「……!?」
メサイア「どうした? 時間が無いぞ。早く手術しろ!」
正木「……」
メサイア「なんだ、その顔は?」
正木「メサイア…… 手術は不可能だ。触れればそれだけで爆発するんだ!」
メサイア「何!?」
正木「……」
メサイアが銃を抜く。
メサイア「騙したな、ソルブレイン!! こうなったら…… こうなったら、東京のど真ん中で自爆してやるぞ!!」
メサイアが銃で一同を威嚇しつつ、車で走り去る。
竜馬が車で追う。
正木「大樹、追え!」
大樹「はい!」
大樹もソルギャロップで、メサイアと竜馬を追う。
玲子やバイクルたちも、続こうとする。
正木「待つんだ! 皆は時限爆弾を!」
一同「はい!」
正木「メサイア……」
メサイアは竜馬目がけて銃を放ち、さらに手榴弾を投げつける。
竜馬「着化!」
竜馬がクラステクターを装着し、ファイヤーとなる。
ファイヤーが車を先回りさせ、メサイアの車を足止めする。
メサイアが車を捨てて、逃走する。
ファイヤーが最強火器ギガストリーマーを構えて、メサイアを追う。
ファイヤー「メサイア!」
メサイア「ハハハハ! 撃てるものなら撃ってみろ! ここは街の真ん中だぞ!」
ファイヤー「……!」
メサイア「どうした、撃て!」
メサイアがさらに、何発もの手榴弾を投げる。
ファイヤー「うわぁっ!」
ファイヤーが炎に包まれ、全身から煙を吹いて倒れる。
ファイヤー「メサイア…… ま、待て、メサイア…… 大勢の人を道連れにして、何になる!? 人のいないところで、自爆してくれ!」
メサイア「……まだ、そんなことを」
ファイヤー「メサイアぁ!」
メサイア「うるさいっ!」
ファイヤー「うわぁっ!」
メサイアがさらに手榴弾を投げつけ、ファイヤーのヘルメットが吹っ飛ぶ。
大樹が竜馬たちに追いつく。
大樹「先輩!!」
メサイアが車で走り去る。
竜馬「大樹、メサイアを追え!」
竜馬が大樹に、ギガストリーマーを差し出す。
竜馬「これで倒すんだ!」
大樹「……!?」
竜馬「戸惑うな。情けは無用だ!!」
ウォルターは東京上空から、時限爆弾を捜査している。
ウォルター「爆弾、発見!」
玲子と純の乗るソルドレッカーに、バイクルも同乗している。
バイクル「場所はどこ!?」
ウォルター「新宿駅構内! 私はこのまま、メサイアを追います!」
バイクル「わかった! 急ごう!」
玲子たちが新宿駅に到着し、爆弾を捜し回る。
バイクル「どこだがね……」
玲子「ここよ、バイクル!」
バイクル「これがね!」
バイクルがコインロッカーから爆弾を探し当て、玲子が稼働を停止させる。
バイクル「止まったがね!」
玲子「本部長に連絡よ!」
メサイアを追う大樹のもとに、正木の通信が届く。
正木「大樹、時限爆弾は無事に解除された。残るは、メサイアただ1人だ。爆発まで30分。大樹、お前がメサイアを救いたいのは十分にわかる。だが、他に方法は無いんだ! 心を鬼にして、奴を倒せ!」
大樹「本部長……」
ウォルター「メサイアの車を発見! 本部長、国道1号線を27号地に向かって逃走中です!」
正木「何、27号地? ……石油コンビナート!? 大樹!」
大樹「わかりました、先回りして阻止します! プラスアップ!!」
大樹がソリッドスーツを装着し、ソルブレイバーとなる。
ブレイバーがギガストリーマーを構え、メサイアを待ち受ける。
メサイアが車を停め、外に降り立つ。
メサイア「貴様も俺の邪魔をするのか!?」
ブレイバー「メサイア……」
メサイア「撃ちたければ撃て!」
メサイアは臆することなく、ブレイバーへ向かって来る。
ブレイバー「来るな、来るなぁ! 止まるんだぁ!!」
ブレイバーが、ギガストリーマーを放つ。
竜馬もブレイバーたちのもとに着く。
メサイア「撃て! 撃ってみろ!」
ブレイバーがさらにギガストリーマーを放つが、弾丸はまったく命中しない。
メサイア「なぜだ?」
ブレイバーが明後日の方向へ撃ち続け、ギガストリーマーのエネルギーが尽きる。
ブレイバーがギガストリーマーを投げ捨て、ヘルメットを脱ぎ捨てる。
大樹の目には、涙が滲んでいる。
大樹「俺には撃てない…… 撃てないんだ」
大樹が、メサイアの家族の写真を取り出す。
大樹「これを見たときから…… お前を撃つことなんかできないと、わかっていたんだ。幸せそうなあの家族を……」
メサイアの脳裏に再び、家族たちの記憶が甦り、彼の目にも涙が滲む。
大樹「お前が悪いんじゃないのに、そんな体にされ、幸せな家庭も奪われ…… 俺は刑事として失格だ」
大樹が背を向ける。
大樹「メサイア、好きなところへ行け! 誰も、お前を止めることはできない!!」
メサイア「……仕掛けた爆弾は?」
大樹は無言で頷く。
メサイア「そうか…… 俺は人間でもない、ロボットでもない、ただの化け物だ」
大樹の手から、写真がこぼれる。
メサイアがそれを拾い上げ、愛おしそうに撫でる。
ドアの閉まる音。
振り向くと、メサイアはすでに、車で走り去っている。
メサイアは車を走らせつつ、涙を流しながら、写真を見つめる。
メサイア「ゆかり、ともこ…… うぅっ……」
(メサイア『俺は人間でもない、ロボットでもない、ただの化け物だ』)
メサイア「ともこ──っ! ゆかり──っ!」
メサイアが、大爆発──!
大樹「メサイアぁぁ──っ!!」
メサイアの事件は終わった。
大樹が沈んだ面持ちで、佇む。
正木とウインスペクター一同、ソルブレイン一同がやって来る。
正木「大樹……」
大樹「本部長。私はメサイアを救うことができませんでした」
正木「いや、お前は救ったんだよ。メサイアの復讐の気持ちを捨てさせ、人間として人生を全うさせてやったんだ」
大樹「本部長……!」
正木「しかし、国際政治とは複雑で計り知れんものだな。平和維持のためと言いながら、その陰で、メサイアのような犠牲者を平気で作り出している。一体、人間とは……」
竜馬「大樹。俺は自分のやり方を間違っていたとは思わない。しかし、改めて人間の生き方を、お前に教えられたような気がする」
竜馬が、ギガストリーマーを差し出す。
竜馬「ギガストリーマーは、人命を救うための物だ。俺より、お前の方が持つ資格がある」
大樹「先輩……!」
竜馬がそっと、厳しかった顔を緩める。
大樹が、ギガストリーマーを受け取る。
竜馬「大樹。これからもお互い、がんばろう!」
大樹「はい!」
竜馬の差し出した手を、大樹が力強く握り返す。
竜馬と大樹が笑い合い、一同もようやく笑顔に包まれる。
友情と固い信頼で結ばれた ソルブレインとウインスペクター。 これからも世界の空、日本の空の下で 戦い続けてゆくだろう。
がんばれ、特警ウインスペクター! 戦え、特救指令ソルブレイン!
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最終更新:2020年05月15日 23:04