ラッコのぼのぼのたちが暮らす森では、もう陽が沈んでいた。
アライグマくん「じゃあ、また明日な!」
シマリスくん「ぼのぼのちゃん、アライグマちゃん、また明日も遊ぼうね!」
ぼのぼの「……どうしてなんだろう」
シマリスくん「えっ?」
ぼのぼの「どうして、楽しいことって、終わっちゃうのかなぁ」
アライグマくん「また、ぼのぼのの『どうして?』が始まった」
ぼのぼの「だって…… ずっと、ずーっと、ずーーーーっと…… 楽しいことが続けばいいのに」
シマリスくん「そーよそーよ」
アライグマくん「……オーマイガー。なんにもわかってねーな、お前ら。いいか、たとえば……」
「いぢめる?」の、シマリスをいじめてるとする……
シマリスくん「はーい! なんでシマリスなんでぃすかー?」
アライグマくん「たとえ話だよ……」
最初はすごーく楽しい!
シマリスくん「はーい! シマリスは楽しくないと思いまーす!」
アライグマくん「たとえ話だって……」
だけど、いじめてるとだんだん疲れてくるし手も痛くなる! つまり、飽きちゃうんだよ。
ぼのぼの「そうかぁ。楽しいことって、飽きちゃうのか」
アライグマくん「つまり…… 楽しくなくなったら、おしまいなんだよ」
シマリスくん「それって、アライグマちゃんが単純だからでしょ?」
アライグマくん「そう、オレって単純…… ん?」
シマリスくん「アライグマちゃん、単純、単純~!」
アライグマくん「うるせーい!!」
シマリスくんを捕まえようとするアライグマくん。
走り去るシマリスくんを追ってアライグマくんも駆け出していく。
アライグマくん「待て~、シマリス! こんにゃろー!!」
ぼのぼの「……やっぱり、楽しいことが、どうして終わるのか、わかんないなぁ」
夜になって、入り江の自宅に帰ったぼのぼのは、海に浮かびながらぼんやりと空を見上げていた。
ぼのぼの「ねぇ、おとうさん」
ぼのぼののお父さん「なんだい? ぼの」
ぼのぼの「どうして楽しいことは、すぐに終わっちゃうのかな」
ぼのぼののお父さん「う~~~~ん」
ぼのぼののお父さんは眉間にしわを寄せながら考え始めた。
ぼのぼの「だって、楽しいことがずーっと続けばいいのに」
ぼのぼののお父さんの眉間のしわがますます深くなる。
ぼのぼの「そうすれば、みんなずーっと遊んでられると思うんだ」
ぼのぼののお父さんはぼのぼのの問いに対する答えを考えながら流されてしまった。
ぼのぼの「どうしてなんだろう、おとうさん…… あれ?」
翌日。ぼのぼのは1人で道を歩いている。
ぼのぼの(楽しいことが続くと……)
アライグマくん「疲れちゃうし、飽きちゃうじゃん?」
ぼのぼの(……そうかなぁ。おとうさんは……)
ぼのぼののお父さん「ほえ~~~~い」
ぼのぼの(……わからないみたいだし)
ぼのぼの「あっ、そうだ! みんなに聞いてみよう!」
ぼのぼのは、まずクズリくんのところに行ってみた。
クズリくんはいつものように、「にくにくにく」と道にうんこをしている。
ぼのぼの「ねぇ、クズリくん。クズリくんは、うんこしている時が一番楽しいの?」
クズリくん「うん」
ぼのぼの「楽しいことって、ずーっと続けばいいよね?」
クズリくん「えーっ!? じゃあボク、ずーっとうんこしてなきゃいけないの~!?」
予想外の反応に、ぼのぼのも困ってしまった。
ぼのぼの(クズリくんは、うんこをする。ずーっとうんこをする)
クズリくん「うーん、もう出ない~」
ぼのぼの「……それも困るなぁ」
一方、アライグマくんは、シマリスくんの姉のショーねえちゃんといつものようにケンカをしている。
ダイねえちゃん「おやめなさい、ふたりとも! すぐに中止するのです!」
アライグマくん「うるせえ、うんこ~~!!」
アライグマくんからの罵倒にショックを受けるダイねえちゃん。
ダイねえちゃん「ふ」
それだけ言うと、ダイねえちゃんは気絶してしまった。
ショーねえちゃん「あーっ!! お姉ちゃん! お姉ちゃん、お姉ちゃーん!!」
ぼのぼの「あーっ! と、止めなきゃ~!」
偶然それを目撃したぼのぼのが、ゆっくりと駆け出すが……
シマリスくん「いけましぇん! 決して止めてはいけましぇん!」
ぼのぼの「ケンカはいけないよ~!」
ぼのぼのはシマリスくんを無視してケンカを止めようとする。
シマリスくん「ダメでぃす!」
ぼのぼの「えっ」
シマリスくん「あの2人はケンカをしているのではありましぇん」
ぼのぼの「え~~~~!?」
シマリスくん「その証拠に、両のまなこを見開いてあの2人を見るのでぃす!」
一応、言われたとおりにしてみるぼのぼの。
シマリスくん「あの2人は、遊んでいるのでぃす。楽しんでいるのでぃす!」
ぼのぼの「えぇ~~~~~~!? ……やっぱりそうは見えないけどなぁ」
シマリスくん「ではもう一度、両のまなこを見開いて、あの2人を見るのでぃす!」
相変わらず取っ組み合いのケンカをしているアライグマくんとショーねえちゃんだが、ぼのぼのにはなんとなく楽しそうに見えるような気がしてきた。
シマリスくん「あの2人は…… 仲が…… よいの…… でぃ~~~~す……」
ぼのぼの「そうかぁ~……」
ぼのぼのはシマリスくんと別れ、また1人で歩き始めた。
ぼのぼの(でも…… あれじゃあ疲れちゃって、楽しいことも続けられないなぁ…… う~ん……)
ぼのぼのが次に訪ねたのは、アライグマくんのお父さんだった。
アライグマくんのお父さん「何? 楽しいことってどうして終わるか、って?」
ぼのぼの「うん」
アライグマくんのお父さん「フン、相も変わらずおめぇはくだらねえこと考えてやがんだなぁ」
ぼのぼのは何も言い返せない。
アライグマくんのお父さん「フン、まあいい。いいか、よく聞け……」
楽しいことってのはなぁ、最初はすっごく楽しいんだ。
ぼのぼの「あっ、それは」
アライグマくんのお父さん「最後までよく聞け」
だけどだんだん疲れてくるし手も痛くなる…… つまり、飽きちゃうんだよ。
ぼのぼの「それはわかってるんだけど……」
アライグマくんのお父さん「じゃあ初めからそう言いやがれ!! わかってんならおめぇは何しに来やがったんだ?」
ぼのぼの「だから、どうやったら楽しいことを続けられるんだろうと思って」
アライグマくんのお父さんがぼのぼのを睨む。
たじろぐぼのぼの。
アライグマくんのお父さん「……おめぇはどう思うんでぇ」
ぼのぼの「う~~~~~ん…… あっ! 休み休みやれば、続けられるんじゃないかなぁ?」
アライグマくんのお父さん「バーカ。もし仮に続けられるとしてだ、夜はどうすんでぃ」
ぼのぼの「えっ」
アライグマくんのお父さん「夜まで遊んでっと、悪い奴に連れてかれちまうぞ!!」
ぼのぼの「えぇ~~っ!?」
ぼのぼの(僕たちが、夜になっても休み休み遊んでると…… きっと……)
しまっちゃうおじさん「夜まで遊んでる悪い子はおらんかな~?」
ぼのぼの(そして…… どんどん連れてかれちゃうんだ…… もうだめだぁ~……)
しまっちゃうおじさん「さぁ~、悪い子はどんどん連れてっちゃうからねぇ~」
しまっちゃうおじさん「どんどん、しまっちゃうよ~」
アライグマくんのお父さん「んなわけねぇだろーっ!!」
アライグマくんのお父さんがぼのぼのを締め上げる。
ぼのぼの「あ~、ギブギブ~!」
次にぼのぼのは、スナドリネコさんの家に行ってみた。
スナドリネコさん「しまっちゃうおじさんがやって来る?」
ぼのぼの「うん」
スナドリネコさん「……で、お前は何を聞きに来たんだ?」
ぼのぼの「楽しいことは、どうして終わっちゃうのかって思って」
スナドリネコさん「それでお前はどう思うんだ?」
ぼのぼの「う~~~~ん……」
スナドリネコさん「……そうか。わからないんだな」
スナドリネコさんはおもむろに立ち上がると、ゆっくり歩き出した。
ぼのぼの「どこへ行くの?」
スナドリネコさん「いいからついて来いよ」
2人は森を一望できる小高い山の上に来た。
すでに陽が沈んでいる。
スナドリネコさん「いいか、ぼのぼの。楽しいことが終わってしまうのは、悲しいことやつらいことが、必ず終わるためなんだよ」
ぼのぼの「じゃあ、楽しいことだけずーっと続けばいいのに」
スナドリネコさん「うん、そうだな。……じゃあ、あの太陽はずっと空にいた方がいいかい?」
ぼのぼの「……それじゃあ夜が来ないね」
スナドリネコさん「そうだな。……陽が沈んで、夜が来る。そしてまた、陽が昇って朝が来るように…… 悲しいことやつらいことが終わるために、楽しいことも終わってしまうんだよ。太陽が昇ったり沈んだりするように、楽しいことも始まったり終わったりするんだ」
ぼのぼの「そうなのかぁ」
ぼのぼのとスナドリネコさんは、一緒に暗くなっていく東の空を眺める。
ぼのぼの「おひさまが沈むから、夜が来る。夜が来るから、朝になるのかぁ……」
そして、また朝が来た。
ぼのぼの(悲しいことや、つらいことが終わるために、楽しいことが終わるのかぁ…… ああ、やっぱりわかんないなぁ)
前の道から、アライグマくんとシマリスくんがやって来る。
アライグマくん「おーい、ぼのぼの! 何やってんだ?」
ぼのぼの「あっ、アライグマくん! シマリスくーん!」
ぼのぼのが駆け出す。
アライグマくん「おーい!」
シマリスくん「あ、そ、ぼー!」
ぼのぼの(よくわからないけど、今日も楽しいことが始まるんだ。きっとそうだ……)
最終更新:2020年10月17日 00:30