仮面ライダー龍騎の第44話

優衣が豹変した様子で、ミラーワールドの中に留まり続けている。
そこに、兄の士郎が現れる。

士郎「今ならまだ間に合う。帰れ、現実の世界へ」
優衣「私は…… ここにいる」
士郎「優衣!」

優衣が不意に、意識を失って倒れる。

士郎「優衣!?」


龍騎はミラーワールドの中で、優衣を捜し続ける。

龍騎「優衣ちゃあん! 優衣ちゃあん!」

優衣が倒れている。

龍騎「優衣ちゃん!?」


自宅で東條を介抱している佐野のもとには、父の死の報せが入っている。

佐野「親父が、死んだ……? 俺、ちょっと出かけて来る」


真司は、優衣を現実世界へ救い出している。

真司「優衣ちゃん、しっかりして! 優衣ちゃん!」
優衣「……真司くん?」
真司「優衣ちゃん……」
優衣「ここ…… どこ? 何してたんだっけ、私?」
真司「もしかして、憶えてないの? 何も」
優衣「うん。何があったの? 私…… 何してたんだっけ?」
真司「いや。優衣ちゃんは、またモンスターに襲われて、ミラーワールドに引きずり込まれて…… でも、本当に大丈夫? 気分悪いとか、どっか痛いとか」
優衣「別に、大丈夫。何ともないから」
真司「良かった……」


後日の花鶏(あとり)
優衣は、何事もなかったかのように振るまっている。

真司「やっぱり、本当のこと言ったほうがいいのかなぁ…… 優衣ちゃんがモンスターを操ってたこととか」
蓮「まぁ、やめておいたほうがいい。今の段階じゃ、動揺させるだけだ」
真司「そりゃ、そうだけど……」

沙奈子は店も開けず、惚けた様子でシャボン玉を飛ばしている。

真司「おばさん……!?」
優衣「ねぇ、おばさん。なんで今日、お店、休みなの?」
沙奈子「休みなのよ。永──遠にねぇ…… もう、どうだっていいわ。こんな店……」
真司「どうだっていいって……」
優衣「何かあったの?」
沙奈子「フン! 白々しい…… 私ゃ、もう疲れたのよ。蓮ちゃんだって真ちゃんだって全っっ然手伝ってくれないし、優衣は優衣で無断外泊するし、一体な──にやってたんだか知らないけど」
優衣「それは…… ごめん。もうしないよ。またがんばるから! ね?」
沙奈子「あ──、がんばんなくていい。もう当てにはしてないから。ハハッ」
優衣「そんなこと言わないでよ! 蓮も真司くんも、何とか言ってよ!」
真司「あぁ、今度こそがんばりますから! マジで。おばさんのいうことなら、何っっでも聞きます!」
沙奈子「本当ぉ──に、何でも言うこと聞くんだね~?」


佐野は、亡き父が経営していた会社の、重役たちのもとへ呼び出されている。

佐野「親父の、遺言?」
重役A「えぇ。知ってのとおり、あなたの父上は一代で、この会社を築き上げた。そして、その跡目に1人息子であるあなたを、指名しておられるのです」
佐野「親父が、俺を!?」
重役B「驚かれるのも無理はありません。あなたは2年前に、社長から勘当されたとか。しかしそれも、あなたに早く一人前になってほしいという、親心だったのでしょう。いつも、社長は言っておられましたよ。社会の荒波に揉まれ、成長したあなたに、いつか会社を継いでほしいと」
佐野「で、でも、無理っスよ。いきなり社長だなんて」
重役C「もちろん最初は、我々が全力でサポートします。あなたにはできるだけ早く、経営者の知識を身につけてほしい」
重役A「大丈夫。できますよ、あなたなら。あなたの体には、先代の血が流れているんだから」
佐野「俺が…… 社長…!」


一方でOREジャーナルのもとには、偶然撮影されたミラーワールドの写真記事について、電話の嵐が舞い込んでいる。

大久保「えぇ。ですからあれは、そんないい加減な記事ではなくてですねぇ……」
令子「だからぁ、ちゃんと専門家にも鑑定してもらって──」
大久保「さようでございますか? ではまたのお電話をお待ちしております」
令子「ちょっとあんた、人の話、ちゃんと聞いてんの!? もういいです! ──編集長、当てが外れましたね。この写真を載せれば、読者からの情報が寄せられてくると思ったんですが……」
大久保「まったくなぁ。かかってくる電話といやぁ、罵詈雑言か、購読契約の破棄。──何やってんだ、島田、めぐみ?」

奈々子とめぐみは探検隊の扮装で、無数のガラス瓶に双眼鏡を突きつけている。

大久保「お前ら、まさか怪物捕まえようってんじゃないだろうな? ガラスの前で待ち伏せして…… 勝手にやってろ」


佐野は、重役たちと会食を楽しんでいる。

重役「ハッハッハ! とにかく前社長の葬儀が終わり次第、緊急役員会議を招集します。そこで、あなたの社長就任が決まるわけです」
佐野「でも、本当にそんなにうまくいくの?」
重役たち「手は打ってあります! もちろん反対勢力はありますが、金でカタがつくでしょう」「ハッハッハッハ!」
佐野「まぁ、うまくやってよ。任せるから」


佐野が帰宅すると、部屋の中は真っ暗。

佐野「電気もつけないで、大丈夫? ──あぁ、まだ駄目みたいだな。これ、残り物だけど食べてよ」

寝込んだままの東條に、佐野が食事を勧める。

佐野「なぁ、一つ聞いていいか?」
東條「何かな……?」
佐野「おたく、『英雄になりたい』みたいなこと言ってたけど、どういうこと? 英雄になって、どうするわけ?」
東條「……そうすれば、みんなが好きになってくれるかもしれない」
佐野「ふぅん。結構、お宅も苦労したんだぁ~。でも、ライダーの戦いが終わる前に、願いが叶ってしまったら?」
東條「……何が言いたいの?」
佐野「いや。でも、もしそうなったら意味ないよな…… ライダーでいたって、しょうがないし」


後日。
佐野が高級車で会社に出勤し、重役たちが迎える。

重役たち「おはようございます!」
佐野「君。手が空いたときでいい。車のウィンドウ、磨いといてくれるかい」

佐野が重役の1人のポケットに、紙幣をねじ込む。


佐野が社内を行くと、神崎士郎が現れる。

士郎「お前は仮面ライダーだ。ライダーである以上、戦い続けなければならない」
佐野「あぁ、そのことなんだけどさぁ、これ、返すわ」

佐野がインペラーのカードデッキを差し出す。

佐野「俺、いい暮しがしたくてライダーになったけどさぁ、もう、そんな必要なくなっちゃって。辞めたいんだ、ライダーを」
士郎「一度ライダーになった者は、最期までライダーであり続ける── それが掟だ」
佐野「何だよ!? そんなの、俺の自由だろう!? もう要らないんだよ、こんな物!」
士郎「戦わないのはお前の自由だ! だが、それが何を意味するかは、お前もわかっているはずだが」

そばのガラス窓。
鏡面の中で無数のモンスターたちが、エサに狙いをつけた獣のように、佐野を睨みつけている。

士郎「戦え── そして生き残れ── そうすれば、お前はライダーを辞めることができる」


花鶏では、優衣がなぜかメイド姿。
客として、大勢の子供たちが店になだれ込む。

沙奈子「何でも言うこと聞くっていったでしょう!? いらっしゃいませ~! 何がいいかなぁ~?」

大騒ぎの様子の店に、佐野が訪れる。

真司「いらっしゃいませ、ご注文は?」
佐野「そうねぇ、一番高いの、持ってきて」
真司「一番…… って、お前ぇ!?」

真司「何だって? 俺たちを雇いたい?」
蓮「何を考えてるんだ、お前?」
佐野「別に。もちろん、タダとは言わない。取敢えず契約金として……」

佐野が鞄を開くと、中には札束の山。

佐野「どう? 悪い話じゃないと思うけど。ライダーとして勝ち残っていくためには、仲間がいた方がいいわけだし」
真司「ふざけんな! 金で仲間が買えると思ったら大間違いなんだよ! なぁ、蓮! 大体なぁ、俺たちゃお前のことなんか全っ然信用してないんだから! なぁ、蓮?」

蓮の目は意外にも、大金に釘づけになっている。

真司「……蓮?」
佐野「ま、そういうことならしょうがないか。馬鹿だね、あんたら」

佐野が去って行く。
蓮は最後まで、大金に目を奪われている。

真司「ったく、なんて奴だよ、あいつは!」


佐野は今度は北岡の事務所を訪れ、またも大金を見せつけている。

北岡「では、この私を雇いたい、そう仰るわけですね?」
佐野「そう。ライダーとして俺に力を貸してほしい」
北岡「はい、喜んで! さぁ、おかけください。ほら、コーヒーお出しして! あの金は前金として受け取っておきますが、いろいろ細かい問題もありますし、こちらで契約書を作りますので…… ゴホン! 正式な雇用はそれからということで、いかがでしょう?」
佐野「あぁ、それでいいよ」

佐野が事務所を去り、北岡たちがうやうやしく見送る。

吾郎「いいんですか、先生? 本当に、あんな奴と組んで」
北岡「心配ないって、吾郎ちゃん。言ったでしょ? まず、契約書を作るって。時間がかかるんだよねぇ~、そういうのって。1年先か、2年先か」
吾郎「先生……」
北岡「何よ?」
吾郎「素敵です……!」


佐野「どうも胡散臭いんだよなぁ、あの弁護士。やっぱり俺には、あいつしかいないのかな? ちょっと頼りないけど」


佐野が帰宅すると、東條は部屋の中で座り込んでいる。

佐野「どう、具合は? ほら、弁当買って来たからさ。いっぱい食べて、早く元気になってくれよ」
東條「ありがとう……」
佐野「なぁ。ちょっと聞きたいんだけど…… おたく、俺のことをどう思ってるわけ?」
東條「……感謝してる。香川先生以外で、こんなに優しくしてくれたの、君が初めてだし」
佐野「あ…… お茶、入れてくるね! ──友達だよな、俺たち」

東条は弁当を食べながら、無言で頷く。


後日。
佐野は父の友人たちに食事に招かれ、その娘を紹介されている。

「いやぁ、君の父上とは古くからの付き合いでね。私も随分お世話になった。さぁ、食べましょう。君と百合絵を結婚させようなんて話したこともあった。まぁ、そんなことは本人同士が決めることだが、でも、どうだ? こうやって見ると、なかなかお似合いじゃないか」
「いやぁ、まったくです。ハッハッハ!」


食事を終え、佐野はその娘の百合絵と2人きりになり、町を行く。

百合絵「ごめんなさい、父が急に変なこと言いだして」
佐野「いえ、むしろ嬉しかったです。あの…… 百合絵さん。できれば、これからも時々逢ってもらえませんか?」

百合絵が笑顔で頷く。

佐野「少し、歩きましょうか? (俺は勝つ…… 必ず、俺の人生を守ってみせる……)」

車が通りかかる。
窓ガラスの鏡面の中から、モンスターが飛び出す。

佐野「危ないっ!」

佐野がとっさに百合絵をかばい、横っ飛びでモンスターをかわす。

佐野「大丈夫!?」
百合絵「えぇ……」

佐野が車を目がけて駆け出す。

百合絵「佐野さん!? 佐野さぁん!」
佐野「変身!」


バイクで道路を行く真司のもとにも、モンスターが襲いかかる。

真司「変身!」


真司の変身した龍騎が、ミラーワールドに飛び込む。
佐野の変身したインペラーが待ち構えており、その周りでは、彼の従えるモンスターの大群が奇声を発している。

インペラー「わかってるよ。腹が減ってるんだろ? 今すぐ満腹にしてやるから」

音声『ファイナルベント』

龍騎が一気に、ドラゴンライダーキックでモンスターを仕留める。
だが続けざまに、インペラーが龍騎に襲いかかる。

音声『ストライクベント』

龍騎「お前、いい加減にしろよ! 何考えてんだ!?」

龍騎が必死に、インペラーと応戦する。
そこに、東條の変身したタイガも現れる。

インペラー「東條、頼む! こいつを…… 東條、東條!」

タイガが突進し、龍騎を殴り飛ばす。

インペラー「悪いな! 負けるわけにはいかないんだよ!」

龍騎は2体1で劣勢に陥り、さらにインペラーに追いつめられる。
タイガがその様子を、静かに見据える。

音声『アドベント』

タイガのモンスターであるデストワイルダーが、なんと龍騎ではなく、インペラーに攻撃を加える。

インペラー「うわぁ──っ!?」

インペラーは不意を突かれてまともに攻撃を食らい、地面に転がる。

インペラー「はぁ、はぁ……」
タイガ「ねぇ」

インペラーが息を切らしつつ立ち上がるが、タイガはさらに攻撃を突き立てる。

インペラー「ぐうぅっ……! お、お前……!?」
タイガ「ごめん。君は大事な人だから…… 君を倒せば、僕はもっと強くなれるかもしれない」
インペラー「そ、そんな……!?」
龍騎「おい、やめろ!」

龍騎は必死に、タイガを取り押さえる。

龍騎「逃げろ! 逃げろ!」


インペラーが深手を負いつつ、フラフラとした足取りで、必死に逃げ続ける。

インペラー「はぁ…… はぁ…… 何だよ、あいつ!? 何考えてんだよ!?」

しかしそこに、王蛇が立ち塞がる。

王蛇「ハハハハ……」
インペラー「はぁ…… はぁ……」

インペラーは逃げることはおろか、立つことすらままならない。
王蛇の最強技・ベノクラッシュが、インペラー目がけて炸裂する。

インペラー「わああぁぁ──っっ!!」

インペラーが強烈なキックをまともに浴び、痛烈に吹き飛ばされる。
ベルトからカードデッキが外れ、粉々に砕け散る──


現実世界では、突然の雨が降り出している。
傘を持っていない通行人が慌てて駆け去って行く中、百合絵は雨に濡れたままで佇む。


ミラーワールドでは、変身の解けた佐野が1人、フラフラと彷徨っている。
カードデッキが失われたため、現実世界へ戻ることはできない。

ゴミ捨て場に、鏡が捨てられている。
鏡面の中に、現実世界の百合絵の姿が見える。

佐野「百合絵さん、百合絵さぁん! 出してくれぇ! 出してくれぇ! 出してくれ、 出してくれぇぇ! 百合絵さん、百合絵さぁん!」

絶叫と共に鏡を叩き割り、その破片を手にする。

佐野「出してくれぇぇ! はぁ、はぁ……! 百合絵さん、百合絵さぁん!」

百合絵が雨に濡れたまま、虚空を見つめて立ち尽くしている。

佐野「百合絵さぁん! 出してくれ、出してくれよぉ! 俺は帰らなくちゃいけないんだ、俺の世界に!」

鏡の破片を握る手が、次第に蒸発を始める。

佐野「はっ……!? 嫌だ、嫌だぁ! 出してくれぇ! 出してくれぇ!!」

現実世界では、百合絵が依然として立ち尽くしている。

佐野「何で、こうなるんだよぉ……? 俺は…… 俺は…… 幸せになりたかっただけなのに……」


佐野の体が蒸発し、跡形もなく消え去る──


(続く)

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最終更新:2018年10月30日 08:14