おもいっきり探偵団 覇悪怒組の第42話


ヒロシは、母・広子の命を救うために、
魔天郎の家来になってしまった。

果たして、魔天郎の企みはいったいなんなのか?
そして、残された覇悪怒組のメンバーは、
ヒロシを無事、助け出すことができるのであろうか……。



魔天郎のアジトに連れてこられたヒロシは、魔天郎と2人きりでプラネタリウムを見させられている。

魔天郎「ヒロシ、この銀河系宇宙を見てみろ。宇宙は限りなく、広く大きいぞ。この広大な宇宙に比べたら、地球など芥子粒のようなものだ…… それなのに、人間どもは地球人がまるで宇宙の支配者であるかのようにおごり高ぶり、地球の支配をめぐり争い、いたるところで小さな戦争を起こしている。多くの子供たちが、飢えに苦しんでいるというのにだ!」

魔天郎が壁面のパネルを操作。プラネタリウムの映像が終わる。

魔天郎「ヒロシ! 私は、子供たちの王国を作ろうと思っているのだ」
ヒロシ「子供の王国!?」
魔天郎「そうだ、ヒロシ。すべての子供たちが、飢えの苦しみやいじめの苦しみから解き放たれて、のびのびと光り輝いて生きられる、王国だ!」
ヒロシ「魔天郎! 具体的に話してくれ!」
魔天郎「それはダメだ」
ヒロシ「なぜだ、魔天郎!」
魔天郎「それはなヒロシ、お前がまだ私の忠実な部下であるかどうか、わからんからだ」

うつむくヒロシ。

魔天郎「ヒロシ! 命令を下す。お前は覇悪怒組のメンバーを叩きのめしてこい!」
ヒロシ「なんだとっ!?」
魔天郎「私の忠実な部下ならできるはずだ」
ヒロシ「ふざけるな!! 俺に仲間を裏切れっていうのか!? そんなこと、できるもんか!!」
魔天郎「ヒロシ、お前は私の部下になった男だ。命令に背くのか?」

両者がにらみ合う。
ヒロシは少しだけ目をつぶり、そしてもう一度魔天郎をにらんだ。

ヒロシ「……ああ。嫌だと言ったら嫌だね」

何も言わず指を鳴らす魔天郎。
すると、魔天郎の手下のピエロたちが巨大な黄色い箱を持って出現する。
2人のピエロが背後からヒロシを捕まえた。

魔天郎「ヒロシ…… 嫌だと言うなら、お前は一生この暗い箱の中に閉じ込められて、二度と外には出られんようになるのだぞ」
ヒロシ「やだ、やだやだ! それでも嫌だ!!」

ピエロを振り払って逃げようとするヒロシ。
ピエロの1人がヒロシの足を払い、転ばせ、倒れたところを残りの2人が再び捕らえる。
そしてヒロシを縛り上げ、箱の中に放り込んでしまった。

魔天郎「ヒロシ、考え直すなら…… 今だぞ」

ヒロシは必死に首を横に振った。
箱の蓋が閉まる。

魔天郎「ヒロシ…… 私の忠実な部下になる気になったら、いつでも合図しろ」



ヤスコの冒険



その頃、竹林寺地下の覇悪怒組アジト──

ススム「魔天郎はひどい奴だ。やっぱりあいつは悪党だったんだ!!」
サトル「ヒロシもヒロシだよ、俺たちを裏切って魔天郎の家来になるなんてさぁ……」
タケオ「お母さんを助けるためだもん、仕方ないじゃないか」
ヤスコ「私はヒロシ君を信じるわ。ヒロシ君が魔天郎の家来になんてなるもんですか! きっと、私たちが助けに行くのを待っているはずよ」
ススム「ヤスコ、どうやってヒロシを見つけるんだ?」
ヤスコ「あなたたちは、交代でアジトに待機してヒロシ君からの連絡を待って」
サトル「ヤスコはどうすんだ?」
ヤスコ「私は、落合先生にアタックするわ」

前々から魔天郎の正体ではないかとささやかれていた落合先生は、今回の騒動でいよいよ本当に魔天郎と同一人物である疑惑を向けられていた。
アパートに戻ってきた落合先生が、物陰に潜むヤスコに気づく。

落合先生「ヤスコ? どうした」
ヤスコ「先生……」
落合先生「おいおい、そんなにじーっと見つめないでくれたまえ。君のまぶしい目でじーっと見つめられると、先生な、なんだか自分が悪いことをしたんじゃないかと、妙にドギマギしてしまうんだよ」
ヤスコ「先生…… 先生がもし魔天郎だったら、ヒロシ君をどうしますか?」
落合先生「私が魔天郎だったら……? うーん、難しい問題だね。ただひとつ言えることは…… ヒロシのような勇気ある少年を、殺したりはしないだろうということだ」
ヤスコ「ヒロシ君は、生きているんですね?」
落合先生「おいおい、先生は魔天郎じゃないんだよ。魔天郎ではないが、ヒロシは生きていると信じている! ヒロシが死んでたまるか……」
ヤスコ「先生、私はヒロシ君を助けたいんです! どうしたらいいのか教えてください!」
落合先生「……『愛』だよ、ヤスコ君」
ヤスコ「愛!?」
落合先生「人を愛する心。ヒロシを助けたいと願う、君の熱烈な心。そして…… 祈り……」
ヤスコ「祈り……」
落合先生「そうだよ、ヤスコ君。力で魔天郎を倒すことは先生も不可能だと思う。ただひとつ、君の純粋な心から生まれる、愛と、祈りが…… 魔天郎を倒す、大きな力になるかもしれないね……」
ヤスコ「愛と…… 祈り……」

家に戻ったヤスコは、一心不乱に祈り続けた。

ヤスコ(神様、どうぞヒロシ君を助けてください! ああ、私に超能力があれば、ヒロシ君の姿が見えるのに…… 私にテレパシー能力があれば、ヒロシ君に語り掛けることができるのに……!)

ヤスコの瞳が潤む。

ヤスコ「……ダメだわ、私にはそんな力がないんだ…… ヒロシ君…… ヒロシ君、無事でいて!」

そして深夜──眠りながらひと筋の涙を流すヤスコの脳裏に、箱の中に監禁されているヒロシの声が響いた!

ヒロシ(ヤスコ…… ヤスコ、苦しいよ! 助けてくれ!)

思わず飛び起きるヤスコ。

ヤスコ「……ヒロシ君……」


翌日──

ススム「ヒロシが箱の中に閉じ込められて!?」
ヤスコ「そうなの。暗い箱の中で、『苦しい、苦しい』って言ってたの…… ヒロシ君、やっぱり魔天郎の家来にならなかったんだと思う。だから、きっと罰を受けて……」
サトル「だとしたら、俺たちに何か連絡してくるな。ヤスコ、俺たちはアジトで待機する!」
ヤスコ「頼むわよ!」

ススムたちと別れて単独でヒロシを探し始めたヤスコ。
その前に、あの怪しいピエロが現れて行く手をふさぐ。
手招きをするピエロ。
誘われるままヤスコが向かった先では、ピエロのショーが行われていた。
ヤスコは、舞台に大きな箱が積み木のようにたくさん積まれていることに注目する。

ヤスコ(箱だわ……)

意を決して、もう一度祈りを送るヤスコ。

ヤスコ(ヒロシ君、いるの? いるのなら応えて!)

果たして、箱の中にはヒロシが閉じ込められたものも混ざっていた。
ヒロシの脳裏にヤスコの声が響く。

ヒロシ(変だぞ? ヤスコの声だ! ……ヤスコ! ヤスコ、俺はここだ。ここにいるぞ!!)
ヤスコ(ヒロシ君の声だわ! あの箱のどれかに、ヒロシ君がいるんだわ…… ヒロシ君、待ってて。私が必ず助けるわ)

ヤスコは舞台袖にまわり、そこにある箱をひとつひとつ調べていく。

ヤスコ「ヒロシ君! どこ!? ヤスコよ!」

黄色い箱をノックすると、箱がガタガタと動いた。
確信するヤスコ。

ヤスコ「ヒロシ君、今開けるわ」

落ちていた鉄の棒を使って、箱をこじ開けようとする。
その時、箱にダーツが刺さり、ピエロたちがヤスコを囲んだ。

ヤスコ「魔天郎の手下ね? ヒロシ君を返して!」

ピエロが吹き矢を放つ。箱のひとつを盾にして防ぐヤスコ。
さらに向かってきたピエロを得意の合気道で迎え撃つも、ピエロの1人が放った吹き矢を肩に受けてしまう。

ピエロ「その吹き矢には毒が仕込んであるぞ!」

その隙にヒロシの入った箱を持ち去るピエロたち。
ヤスコが後を追う。

ヤスコ「ヒロシ君!」


ピエロの一団を追っているうち、ヤスコの体に毒がまわり始めた。
ヤスコの視界がゆがむ。

ヤスコ(毒のためだわ! ……負けない! ここで負けたら、ヒロシ君が……!)

ピエロたちの姿はどんどん遠くなる。
ハードシーバーを取り出すヤスコ。


覇悪怒組アジト──

『こちらはヤスコ、ヒロシ君を発見・追跡中……』
ススム「ヤスコ!? どこだ、場所を教えろ!」


ヤスコは息を切らせながらピエロを追い続ける。

『ヤスコ、どこにいんだ!?』『ヤスコ!!』『ヤスコ、答えろよ!!』

ヤスコのめまいはますます悪化の一途をたどり、顔中から汗を拭きだしている。
朦朧とした意識の中で、すべての景色がゆがみ──ゆがんだ幻影が鏡のように砕け散り、崩れ落ちた。
ピエロの手拍子が反響し、周囲に霧が起こる。
ヒロシの入った箱を担いだまま、霧の奥に消えるピエロ。

ヤスコ「ヒロシ君───!!」

誘われるまま、ヤスコも霧の中に飛び込む──


霧を越えた先には、大勢の子供たちがいた。
その誰もが、地面にへたり込んだり、家の壁に寄りかかったりして、ぼんやりとうつむき、あるいはうつろな目で空を見上げている。

ヤスコ「ピエロたちが、箱を運んでくるのを見かけなかった? ……お願い、答えて!」

ヤスコが話しかけても、肩をゆすっても、子供たちは目線さえ動かさない。まるで人形のように──。
そこにバイオリンの音色が響く。音のする方向へ向かうヤスコ。
バイオリンを弾く魔天郎がいた。
ヤスコに気づき、演奏の手を止める魔天郎。
ヤスコと魔天郎が対峙する。

魔天郎「ようこそ、ヤスコ君。君が現れるのを私はずぅっと、待っていたんだよ」
ヤスコ「ここはどこなの?」
魔天郎「ここは地図から消えた幻の町。世の中から落ちこぼれた子供たちの町だ」
ヤスコ「なんですって……!?」
魔天郎「来たまえ」

魔天郎が、ヤスコにもう一度町の全景を見せる。

魔天郎「見るがいい。生きる希望を失った子供たちが、道端の石ころのように並んでいるだろう。数日後には皆、死に絶えてしまうだろう」
ヤスコ「なんてことを…… あなたはそれを放っておくつもりなの?」
魔天郎「誰があの子たちに生きる勇気を与えることができるというのだ。あの子たちは、学校や家庭から見放され、生きる希望を失った子供たちなんだぞ」
ヤスコ「教えて。どうしたらあの子たちを救えるの?」
魔天郎「生きる勇気とは、人間を信じる力からしか湧き上がってはこないものだ。ヤスコ、お前にそれができるのか」
ヤスコ「……できない。私にはそんな力はないもの」

せせら笑う魔天郎。

魔天郎「だったら、ヒロシを助けることも不可能だ……」
ヤスコ「えっ!?」
魔天郎「見ろ! ヒロシならあそこだ」

ピエロたちが、箱の中からヒロシを出す。

ヤスコ「ヒロシ君……! 魔天郎、教えて。私はどうしたら、ヒロシ君と子供たちを救えるの?」
魔天郎「ヒロシとあの子たちを助けたければ、私との賭けに勝つことだ」
ヤスコ「賭け? どんな賭けなの?」
魔天郎「この町の入り口から出口まで、ほんの一瞬立ち止まることもなく、何があっても決して振り返らずに、走り抜けることだ」
ヤスコ「ほんの一瞬も立ち止まることなく、何があっても振り返らずに?」
魔天郎「そうだ。もしお前がこの約束を破れば、ヒロシも子供たちも、たちどころに死ぬことになるだろう!」

ヤスコが息をのむ。

ヤスコ「……わかったわ。何があっても、私は決して立ち止まらない! 振り返らない! そうすれば、ヒロシ君と子供たちは助けてくれるのね?」

町の入り口に立つヤスコ。ヒロシとヤスコの視線がかち合う。

ヤスコ(ヒロシ君、私、やり遂げてみせる)

ヤスコが駆け出す。

ヤスコ(私は立ち止まらない! 振り返らない!)

「生きる希望を失った子供たち」が、ゾンビのようにヤスコにまとわりつく。

ヤスコ「どいて!! 私の邪魔をしないで!!」

子供たちを振り切るヤスコ。
その横で、ピエロが子供を痛めつけ始める。命乞いの悲鳴を必死に無視するヤスコ。
2階の窓から飛び降りようとする子供たちがヤスコの目に映る。

ヤスコ「やめて!! お願いだからやめて!!」

走りながら呼びかけるヤスコ。それもむなしく、子供たちはうつろな目をして──

ヤスコ「やめて───!!」

今度はヒロシがピエロたちに剣を突きつけられている。

ヒロシ(ヤスコ……)
ヤスコ(ヒロシ君!)
ヒロシ(俺にかまわず、走り抜けろ!)
ヤスコ(ヒロシ君!!)

一瞬の交感──ヒロシの横を通り過ぎるヤスコ。
走りながら、ピエロに痛めつけられる子供の命乞い、飛び降りようとする子供のうつろな目、そしてヒロシの顔がヤスコの脳裏を駆け巡る。
そして──ヤスコの足が止まり、振り向いて、叫んだ。

ヤスコ「ヒロシ君っ!!

その瞬間、激しい地鳴りとともに町が崩れていく。
子供たちは誰ひとり逃げようとせずに瓦礫に飲み込まれ、そしてヒロシも──

ヤスコ「許して…… みんな、許して!! 神様、みんなを助けてください! 私の体を引き裂いてもかまいません。ヒロシ君とみんなを助けて!!」

ヤスコがひざまずき、泣きながら絶叫するが、無情にもすべては灰燼の中に消えていった。


土煙が晴れる。
町は跡形もなく消え失せ、空き地の真ん中にヒロシだけが立っていた。

ヤスコ「ヒロシ君……」
ヒロシ「……ヤスコ」

ヤスコがヒロシに駆け寄り、抱き着く。
ゆっくりとうなずくヒロシ。

「お──い!!」「ヒロシ──っ!!」「ヤスコ──!!」

そこにススムたちが来る。

タケオ「無事だったか、ヒロシ!」
ススム「ヤスコ~!」
サトル「大丈夫だったか!?」

その時、高笑いとともに魔天郎が姿を現した。

ヤスコ「魔天郎、なぜなの!? 私は約束を破って立ち止まり、振り向いてしまったわ。それなのに、なぜヒロシ君を助けてくれたの!?」
魔天郎「ヤスコ! 君の愛と祈りが、私の呪いを打ち砕いてしまったのだ。もし君が死に瀕した子供たちを前にして、ほんの一瞬も立ち止まらず、振り返りもしなかったら、君は私の呪いに打ち勝つことはできなかったろう。覇悪怒組の諸君! また会おう!」


魔天郎は姿を消した。
魔天郎の真の目的を知った今、覇悪怒組と魔天郎の戦いは佳境を迎えつつあった。

(続く)

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最終更新:2022年01月18日 00:16