復讐を終えたイクオと竜哉は、海に飛び込み、姿を消した。
それから3年、美月の首には、イクオから託されたウロボロスのペンダントがあった。
美月(・・・このネックレスは三年前、彼から預かったもの。彼の「一番大事だった人」が存在していた証、彼の宝物。だから私はこの彼の宝物を預かり続ける)
(いつの日か彼が取りに戻ってくるその日まで)
都警察新宿第二署。
神取「もっぺん事件まとめるぞ!」
蔵「犯人は新宿百人町に事務所を構える暴力団、松風会構成員の張秀男(ちょう ひでお)。対立する暴力団員一名を殺害、逃走の際、警官二名にも暴行を加えている。松風会の資金源は覚醒剤や裏ドラッグ・・・張も裏じゃ相当荒稼ぎしていたらしい、武闘派ヤクザでもあり、目的の為なら平気で殺しもやる要注意人物だ」」
神取「第二署で意地でもコイツ挙げるぞコラァ!」
小池「あ・・・あの・・・もうさすがに犯人は新宿にはいないんじゃないですかね・・・?どこかに高飛びしているとか・・・」
蔵「その可能性が高くても安易な決めつけはいかんぞ、小池」
小池「はぁ・・・」
蔵「組対や地域と連携して、刑事課も引き続き捜査員全員で監視の目を強化させる様に。以上!」
神取「わかったかよ!気ィ抜くなよ、おぅ!?」
美月「その通り」
美月が入ってきた。
美月「張は昨今新宿で蔓延する覚醒剤の元締めの人物とも深い関係があると噂されている。張から元締めを捕まえれば、覚醒剤関連の他の事件にも光を当てる事が出来る。警察の威信にかけて犯人を逮捕しましょう!」
神取「よし!解散!!」
第二署の署員達「「「ウスッ!!」」」
蔵「久しぶりだな日比野!おまえまだ捜一に所属して、現場第一主義ってわけか」
美月「ハイ、相変わらず」
蔵「キャリアのお前なら、順当に行ってそろそろ管理職に行った方が良いんじゃないか?」
神取「わかった!オマエ上司に嫌われてんだろ、きっと!ケケッ」
美月「残念ながら、私の希望です」
蔵・神取「!」」
美月「やっぱり・・・私、性に合ってるみたいで、現場の方が」
蔵「・・・で今日はどうした?事件が何か進展でも・・・」
美月「・・・・いえ、ちょっと新宿で行きたい場所がありまして」
小池「ハイッ!じゃあ僕が案内しますっ☆」
蔵「小池・・・・」
小池「新宿も最近の再開発事業で、数年前とはすっかり様変わりしちゃってますし!」
神取「小池・・・テメェ何か変な下心無ぇか?」
新宿第一署。
蝶野「何で張の事件が第一署じゃなくて、二番手署の担当なんだよ!?あぁ!?」
刑事「で・・・でも蝶野課長、第一署は大事な大事な新都知事のイベントの応援要請が・・・」
蝶野「そんなモンは警察のやる事じゃねぇ!日比野のヤツのせいだ・・・!今回の事件は捜一のアイツの班が担当してるらしいからな、あの生意気女め・・・!キャリアが何様だっつーんだ!?クソが・・・二番手署出身の分際で・・・!」
刑事「・・・出たよ、蝶野課長のキャリアコンプレックス」
蝶野「・・・・はぁ、たまにはデケェ獲物を捕まえたいもんだぜ、全く・・・」
(最近じゃこの街もすっかり治安良くなっちまったしな・・・暴力団だってそうだ・・・あの天下の関東我孫子会でさえ、今じゃ衰退の一途を辿ってる。我孫子桐乃会長も「極道の時代は終わった」と組を引退・・・今じゃ海外で悠々自適に暮してるらしい。おかげで最近じゃどこもかしこもシケた獲物ばっかりだ・・・どこかにもっと手応えのある獲物はーーーー)
「チッ!イケ好かねぇ奴の事思い出しちまった、クソッ」
美月「・・・・へぇ、たしかにこの街も随分変わったわね・・・悪いわね小池君、新宿案内してもらって」
小池「いえいえ!キャリアで捜一の日比野先輩は俺らにとって雲の上の存在ですから!」
「・・・・・あの・・・日比野先輩、質問して良いですか?」
美月「何?」
小池「日比野先輩って、前は第二署に所属そていらっしゃったんですよね?」
美月「!」
小池「蔵さんや神取さんから先輩の事詳しく聞きました!第二署の出世頭だって!しかもお父さんは本庁主席監査官さった日比野國彦警視長!日比野先輩は二十代で本庁の捜査一課に選出された兆有名な警察官ですから!しかもあの三年前の事件を起こした刑事の相の・・・あ・・・!スイマ・・・」
美月「いいのよ、別に。三年前のあの事件・・・北川警視総監殺害事件の容疑者の一人、龍崎イクオ巡査部長、彼は私の元相棒よ」
美月「三年前・・・式ノ浦島での龍崎イクオと段野竜哉の逮捕劇は、予想外の結末を迎えた。
SSTと機動隊により包囲され、逃げ場を無くした容疑者二名は一瞬の隙を突き崖下へ転落。夜の捜索は難航を極め、翌日の機動隊の長時間の捜索も虚しく・・・とうとう二名の遺体発見には至らなかった」
「その後の捜査でも結局二名の遺体は発見される事は無かったわ。警察上層部は犯人グループの生存は絶望的と判断、北川総監尾世に多数の事件の追及は事実上不可能になった・・・」
小池「・・・・どんな人・・・だったんですか?日比野先輩にとって龍崎イクオ刑事は・・・」
美月「さぁ・・・ね」
小池「?」
美月「彼の元上司に聞いてみたら?」
小池「へ?」
小池の後ろでは、三島がパンケーキの着ぐるみを着て、売り子をしていた。
三島「おーーーーーー!!日比野ちゃんじゃねーーーか♪」
美月「お久しぶりです、三島さん!」
小池(元上司・・・?)
三島「相変わらずベッピンさんだな、コノヤロ!彼氏出来た?」
美月「パンケーキ屋上手くいってるみたいじゃないですか、前衛的な着ぐるみですね」
三島「いやー変なトコ見られちゃったなぁ、もー♪一応これでも、今後二号店の店長やる事になってよ。まぁ何とか食ってく位はな」
美月「・・・・変わりましたね、課長」
三島「そぉか?ま・・・前みたいにいい加減な生き方するワケにもなぁ・・・桜ももう小学生だしよ」
美月「それはそうと、阪東さんと橘さんはお元気ですか?」
三島「ケッ!阪東のバカとならこの前も飲んだぜ。相変わらず「オレの事務所に来い!」ってしつこく勧誘してきやがってよ・・・最終的には大ゲンカしたケドな♪」
「トミコは・・ん~、しばらく会ってねーなぁ。つーぁ日比野ちゃんのがよく知ってんじゃねーか?何しろアイツ、今や警察庁の上層部・・・警察官僚様!ってヤツだもんな。マジに女性初の警視総監も夢じゃねぇかもな・・・!トミコなら日比野ちゃんにはいつか超えなきゃいけねぇ壁ってワケだな!」
美月「私は出世には興味ありませんので。私が目標とするのはたった一つ・・・「正しい人」ですから。じゃあ私達捜査の途中なんで失礼します」
三島「おぉ!また今度家に遊びに来いや。桜も待ってるしよ♪」
「・・・・・・・「正しい人」・・・・ねぇ。警察っつー組織の中で正しさを貫き通すってのは、ある意味警視総監になるより難しい事なのかも知れねぇぞぉ・・・!オレ達が現役だった頃は到底叶えられなかった甘ちゃんの理論だが・・・お手並み拝見ってトコだな、日比野ちゃん・・・!」
美月(そういえば北川総監が死んでしまった事により、「まぼろば」は隠蔽されたかに見えたが、20年前の「まぼろぼ」に関係する極秘リストが週刊誌に掲載され、思わぬ進展があった。そのまぼろぼのリストに名前が記載されていた美樹本警察長官がそのスキャンダルによって辞任を余儀なくされた。世間に公表されたまぼろば関係者リストには政財界の名だたる重鎮が記載されており、20年前の資料とは言えその内容の過激さ・・・世間のインパクトにより辞職に追い込まれる人間も一部いた。現時点ではまだまだ時間をかけて捜査が必要な事案ではあるが、これからに繋がる光を「まぼろば」に当てる事が出来たーーーー・・・ちなみにこのスクープを世間に公表したのは、私のよく知る人物だった)
その人とは、まぼろば出身のフリージャーナリストの那智だった。
美月(那智さんは今も定期的に小夏センパイの服役する刑務所に面会に訪れているらしい。小夏センパイが全ての罪を償い・・・出所したら那智さんが身元引受人になるそうだ。二人で支え合って・・・これから生きていくんだろう。本当の兄妹の様に)
三年前の事件により、美月の父の日比野監査官は死亡。聖副警視総監は服役中。
北川の墓に、妻子が墓参りに来ていた。
美月(もうあれから三年の月日が流れてる。みんなそぞれ変わっていってる・・・・きっと、あなたもどこかで・・・)
夜になった。
小池「・・・・・・あの・・・日比野先輩・・・?もう真っ暗ですけど、一体どこ行くんスか・・・?そろそろ署に帰らないと神取さんにドヤされちゃいそーな・・・」
美月「着いたわ」
美月と小池は、とあるビルの前に来た。
小池「日比野先輩の用事って、もしかしてあのビル・・・?」
美月「ええ」
小池「あんな廃ビルに一体何の用が・・・?」
美月「本庁に情報が入ったの。あのオフィスビルに、警察が今追っている殺人犯、張秀男が潜伏している・・・と」
小池「 え・・・ええっ!?」
美月「シッ!小池君、声が大きい」
小池「あっ・・・スミマセンッ!」
美月「情報によると、あのビルは張のいた暴力団松風会のフロント企業の所有するビルらしいわ。税金対策の為に建てたビルだと。だから新築にもかかわらず、会社も何も入らず、事実上廃ビル化している。潜伏先にはもってこいってワケ」
小池「だ・・・だからって、こんな近くに張が隠れているワケ・・・」
美月「信憑性は低いわね、かなり。でも確かめる価値の無い情報なんて無い、刑事にはね」
小池「でも、そんなのは後で警らに任せとけば・・・」
美月「じゃあキミは待ってなさい」
美月はビルの中に入った。
美月「・・・」
(・・・どうやら情報は嘘だった様ね、まぁそれがわかっただけでも来た意味は・・・)
美月が部屋の中にあったものに気づいた。
美月「!、これは・・・?、!」
(捨てられた大量のコンビニ弁当の空き容器・・・しかも賞味期限が新しい・・・!日付がごく最近の・・・!)
美月が辺りを見回す。
美月(情報は嘘じゃなかった・・・!?張はここに潜伏してるって事・・・!?逃走中のヤツがコンビニの防犯カメラに写るリスクを犯すとは到底思えない・・・、・・・・という事は間違いなく張には・・・共犯者がいる・・・!!その共犯者が張をこの廃ビルに匿っているって事・・・?この廃ビルに・・・)
ここで美月が小池の言葉を思い出す。
小池(日比野先輩、あんな廃ビルに一体何の用が・・・)
その直後、背後から覆面の男がパイプで殴りかかってきたが、美月はかわした。
美月「・・・ようやく出会えたわね・・・!逃走中の殺人犯こと張秀男・・・!!」
張「テ・・・テメェ・・・警察か!?クソが・・・!」
美月「管轄内を緊急手配したのに見つからないと思ったら、こんな近くにいたとはね。でももう終わりよ・・・おとなしく投稿しなさい」
「君もよ、小池君」
その部屋には、拳銃を抜いた小池もいた。
美月「まさか君が逃走犯、張の・・・共犯者だっとはね・・・!!」
小池「・・・・何でわかったんですか?」
美月「小池君はこのビルを初見で「廃ビル」と言った。一度も使用されてない、新築のこのビルを、何故か廃ビルだと」
小池「・・・・ヤレヤレ、やっぱアンタ邪魔だったか」
美月「・・・・・」
小池「アンタの道案内やるって言ったのは監視の為だよ。潜伏先には近づけたくなかったんだケドなぁ・・・困るんスよね・・・張が捕まっちゃたら、オレがコイツと組んで今までやってきた裏の商売が全部バレちまう」
「・・・・・で、賢いキャリアの貴女ならわかりますよね?俺らと組みません?オレだけじゃ無っスよ、みんな大なり小なりやってますって!警察の不祥事なんて、当然の様にニュースが流れてくる毎日だ。事件化してないものも含めれば、世間はひっくり返るでしょうね!」
「でもまぁ、ちょっと位は大目に見てもらいたいもんだ。警察は日夜、平和のために命懸けで頑張ってるワケだし♪アンタの捜一の人脈使えば、俺の商売も飛躍的にデカくなる。一緒に舐めましょうよ?警察の甘~~~~~~い汁をね・・・!」
美月「話は終わり?じゃあ、さっさと撃ちなさい」
小池「!、は?何言ってんスか、アンタ。マジに撃たれてもい」
美月「警察を舐めるな。私は・・・絶対に屈したりなんてしない・・・・正しくない事には・・・!!」
小池「・・・へ?オ・・・オイ!動くなっ!!ちょ・・・マジだぞ!?マジで撃つぞ、コラァ!!」
美月(龍崎さん・・・あなたがいなくなって三年・・・みんなそれぞれ変わっていってる・・・)
小池「頭おかしいんじゃねぇか、テメェーーーー・・・」
美月(私だって、もっと・・・強く・・・!!)
小池「!?、何で笑って・・・!?はぁ!?クソが!もうヤメだ!!死ねや、この馬鹿女が!!」
美月が墜ちていた空き缶を蹴り飛ばした。
小池「!?」
空き缶は小池の額に当たった。
小池「でぇつ!!」
美月「アンタみたいな警察官がいるから・・・!!」
小池「!?」
小池の隙を付き、美月は蹴りを放とうとしたが、張に後ろから殴られ倒れてしまう。
張「オイ!この女殺すんだろ小池!?」
小池「!!・・・・」
張「だったらその前にヤラせろよ!タマってんだよ、オレ、ヒヒッ」
美月「う・・・」
(私だって・・・もっと強く・・・でも・・・やっぱり、あなたが生きてなきゃ、私はーーーーーーー・・・)
小池「へっ・・・へへ・・・何だ、ビビらせやがって・・・!キレイ事・・いっ・・言ってんじゃねぇよ!警察は正義の味方なんかじゃねぇんだよ!オレはまだまだ甘い汁吸いつくしてやるからなぁ!ははははは、警察はやむられねぇなぁ!!」
?「・・・悪い警察官ってのは、いなくならねぇもんだな」
?「・・・そうだね」
高笑いする小池の後ろに立つ2人の男、そう、彼らは・・・
夜の街では、小池の言葉とは裏腹に,警察官達が平和を守る為にそれぞれの仕事を頑張っていた。
美月が目覚めた。
美月「・・・・?私・・・・・!!そうだ!!逃亡犯を追ってーーーー・・・」
小池「・・・・あ・・が・・・が・・・っ」
張と小池は何者かに叩きのめされ、手を縛られていた。
美月「!!・・・・な・・・・何で・・・・!?私・・・気を失ってから・・・」
美月がビルの窓を見る。
その首に掲げられていたウロボロスのペンダントが無くなっていた。
それが意味する事に気づいた美月が、涙を流す。
『ウロボロス』 自らの尾を飲み込む龍。
宇宙の根源・・・不老不死・・・永遠・・・破壊と創造、死と再生。
あの二人の男は、ウロボロスのペンダントを持って、路地裏を歩いていた。
最終更新:2017年03月25日 23:21