編集者より

  • 朝比奈隆は1949年に関西オペラグループ(現関西歌劇団)を結成し、以来、「椿姫」(1949)、「カルメン」(1950)、「お蝶夫人」(1951)、「ラ・ボエーム」(1952)、「カヴァレリア・ルスチカーナ」「パリアッチ(道化師)」(共に1953)と、毎年次から次へとオペラを上演しています。「ドン・ジョヴァンニ」は1963年の第16回公演で、モーツァルトのオペラとしては」「魔笛」「フィガロの結婚」に次いで上演されています。
  • 朝比奈隆訳で参考にしたのが、大フィルに保管されている、ボーカルスコアです。朝比奈と書かれた,EDITION PETERS の Klavierauszug に全訳が書き込まれています。そこでWEBでダウンロードしたイタリア語のテキストと朝比奈訳をできるだけ楽譜に合わせて並べました。
  • 朝比奈隆は上演の度ごとに訳詞に手を入れていたとオペラ歌手の方々からは聞いています。実際、書き直されていたり、訳詞が2種類あったりする箇所があります。そこで、もとの訳詞の上に更に書かれている場合は、(別訳:)という形で併記しました。
  • 「ドン・ジョヴァンニ」はノーカットで上演すると結構時間がかかるので、レチタティーヴォを部分的にカットしたりはよくします。そこでダウウンロードしたテキストにはあるけれど、朝比奈隆が訳していない箇所はカットしました。朝比奈訳が書いてあるけれど、楽譜に×としてあって、上演の時にカットされた思われる箇所もカットしてあります。またト書きで、朝比奈訳には載っていませんが、あるほうがいいと思われるものは、追記しました。第〇場というのも、ダウンロードしたテキストと楽譜で一致していませんでしたので、楽譜に合わせました。
  • 朝比奈隆は基本的にはイタリア語のテキストに忠実に訳しています。ただ、音楽に合わせるために訳語変えているところもあります。対訳で難しいのは、繰り返しの場面です。繰り返しが同じ訳の場合は、省略してありますが、同じテキストで訳語が異なるときは、訳をつけておきました。ヴォーカルスコアにはたまに訳語が書かれていない箇所があります。前後から類推して分かる範囲は訳を入れました。
  • ドン・ジョヴァンニとレポレロの主従関係を表現するのに、朝比奈は冒頭、レポレロに「俺も一度は旦那衆になりたい」と歌わせています。“旦那衆”という言葉で、遊興三昧のドン・ジョヴァンニの生活が窺えます。レポレロがドン・ジョヴァンニを呼ぶときは、“旦那様”とか“殿様”で、初めてこのオペラを見る日本の観客に、二人の関係が分かるようにしています。
  • 朝比奈隆訳には、時には言葉遊びが見受けられます。例えば第二幕の最初、ドン・ジョヴァンニがレポレロを引き止める場面で、matto(気が狂った)を場面に即して「待った」と訳すことで、イタリア語にぴったり合っています。

ちょいと待て、ちょいと待て、
待て、待て、待て。
Va, che sei matto, va, che sei matto,
matto, matto, matto,

  • これに対するレポレロの返事は次のようです。

ト、ト、ト、ト…
とんでもないこと、おいとまを。
ソ、ソ、ソ、ソ…
そればかりは、ご勘弁を、
No, no, no, no…
Non vo'restar, no, non vo'restar,
Si, si, si, si…
Si, si, voglio andar, si, voglio andar,

  • NoとSiを敢えて「ノー」と「イエス」の意味で訳さず、どもったようにして次の言葉に上手く繋いでいます。参考までに、元の意味は次のようです。

行け、お前は気でも狂ったのか、
バカ、バカ、バカ、
Va, che sei matto, va, che sei matto,
matto, matto, matto,

いえ、いえ、
もう残りたくはありません、
ええ、ええ、
行かせてもらいたいんです。
No, no, no, no…
Non vo'restar, no, non vo'restar,
Si, si, si, si…
Si, si, voglio andar, si, voglio andar,

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@ Aiko Oshio

最終更新:2022年11月26日 13:41