"ジェロルスタン女大公殿下"

目次

第一幕

  • 兵士たちの野営地
  • 第一場
    出征を前に、兵士たちが村の娘たちとお別れのパーティーを開いています(En attendant que l’heure sonne)。別れを悲しむ村娘のヴァンダに、恋人の一兵卒フリッツは、悲しんでいないで陽気に踊って楽しもう(Allez, jeunes filles, Dansez et tournez)と爽やかなワルツを歌います。
  • 第二場
    そこへ突然現れたのは、パワハラ・セクハラ体質の司令官のブン大将。兵士たちがイチャイチャしていることに激怒し、村娘たちを追い散らします。それにぼそっと口答えする兵士フリッツ、ブン大将の怒りの火に油を注いでしまいます。ブン大将はここで有名な登場の歌(À cheval sur la discipline)を兵士たちのコーラスと共に颯爽と歌います。歌い終わったあとには自分に反抗的なフリッツにお説教ともくろんだところですが、フリッツから「ぼくに厳しくあたるのは大将がぼくの恋人のヴァンダに言い寄って振られたからでしょう」と逆襲されてさらに怒りが増します。
  • 第三場(ダイアローグ)
    そこへこの国の宮廷武官ネポミュック大尉が登場。ブン大将にこの国の君主・ジェロルスタン女大公殿下がもうすぐこの場所に閲兵に来られることを伝えます。ブン大将はフリッツへの嫌がらせも兼ねて、彼に女大公殿下が宿営のテントを張る予定の場所にこの炎天下、歩哨に立つことを命じ、他の兵士たちと去って行きます。
  • 第四場(モノローグ)
    ひとり残されたフリッツが年寄りをDisりながらぶつぶつぼやいているとそこへ恋人のヴァンダが駆け寄って来るのが見えます。
  • 第五場
    近づいてきたヴァンダはフリッツに話しかけますが(Me voici, Fritz! j’ai tant couru)、軍隊の規則で任務中は口をきくことも動くことも許されないフリッツは対応できずにいます。ですが恋する二人はひらめきます。規則はキスすることは禁じていないと。「くたばれ 規則なんて!」と結局最後は二人で抱き合いながら盛り上がるのでした。
  • 第六場(ダイアローグ)
    そこへ戻って来たブン大将、あわてて歩哨に戻るフリッツ。突然鳴り響く銃声にヴァンダは気を失ってしまいます。仕方なく彼女をフリッツに介抱するように命じるブン大将。二人は近くの酒保(兵士たちの賄いをするテント)へ消えて行きます。
  • 第七場(ダイアローグ)
    実は銃撃を受けていたのは敵と間違えられた女大公の後見人にしてブン大将の友人・ピュック男爵でした。彼はブン大将に今回の戦争がなぜ始まることになったかのインサイダー情報を伝えに来たのです。何と女大公が退屈して欲求不満なものだから、ピュック自ら「戦争などいかがですか」と進言したことがこの出陣のきっかけなのでした。そればかりでなく彼は欲求不満解消のため女大公に男をあてがおうとしますがこちらは失敗。というわけで戦争することだけが決定しまさに始まろうとしています。で、開戦前の景気づけに歌われるのが「連隊の歌」、今回は特に女大公が自ら歌えるように二時間も練習したこともあり、ピュックとしてはブン大将とデュエットで歌って貰って点数稼ぎをしようかと画策しに来たのでした。
    そんな彼らの不安は女大公もすぐに戦争に飽きて、「新しい楽しみ」に夢中になって、彼らの権威や権力の基盤がズタズタになること。残念ながらこの不安はこのあと的中することとなります。
    そこに再びネポミュック大尉登場。もうすぐ女大公殿下が到着することを伝えます。
  • 第八場
    ブン大将の部隊が整列する前を、女大公殿下とその侍女たち、宮廷部隊の将校たちが行進して行きます。女大公殿下は 私は大好き 兵隊さんが(Ah! Que j’aime les militaires)とミリタリーオタクっぽい偏愛を表明し、また歩き出しますがそこでふと、整列している兵士の中のフリッツに目を止めます。彼のイケメン振りに目を奪われてブン大将に命じて彼を前に出させ、じわりじわりと彼にモーションをかけ始めます。まずは彼の階級を伍長→中尉と上げて行くプレゼント攻撃。続いてはブン大将の提案した「連隊の歌」のデュエットの相手に女大公はフリッツを指名し、彼の階級を大佐にまで引き上げます。バックコーラスの掛け声も愉快に歌われる女大公とフリッツのデュエット「連隊の歌 Chanson du Régiment」 歌が終わったところでまたまたネポミュック、今度はピュックが仕組んだ女大公の花婿候補・ポール殿下の訪問を告げます。あまり気乗りしない女大公ですが会わないわけにも行かず、通すように命じるのでした。
  • 第九場(ダイアローグ)
    女大公は行こうとするピュックとブン大将を引き留め、これから行う戦争の作戦計画を立てましょうと言って近くのテントに押し込みます。そこへポール殿下登場 花婿衣装を着ています。
  • 第十場
    結婚をいつまで待たせるのか と哀れっぽく女大公に聞くポール殿下、「今は忙しいからあとでね」とつれない女大公。6カ月も待たされてそれはないでしょうと泣きそうな殿下。待たされたばかりでなく、口さがないマスコミに容赦なく書かれてしまっているのです。Pour épouser une princesseとオランダの新聞のあざ笑うようなポール殿下の記事をぼやきながら女大公に訴えつつ歌うのですが残念なことに全く響いてくれないのでした。
  • 第十一場(ダイアローグ)
    女大公と殿下のやり取りをしている間に大佐の軍服に着替えて来たフリッツ、女大公に促されポール殿下と一緒にピュックとブン大将の戦争作戦会議に参加します。ポール殿下のプロポーズへの返事はやっぱり今回もノーでした。
  • 第十二場(ダイアローグ)
    作戦会議ではブン大将が自らの三分割作戦を力説しています。が空気読めないフリッツはその作戦を一笑に付します。自説を述べようとするフリッツに、貴様にはその権限がないと抵抗するピュックとブン。ならばその権限を与えましょうと、女大公は彼を将軍兼貴族にしてしまいます。フリッツの作戦は「攻めて攻めて攻めまくれ」というド素人作戦。ブン大将とは激論になりますが、女大公は最高司令官をフリッツにしてしまうのでした。
  • 第十三場
    出征する兵士たちが再び集まってきて Nous allons partir pour la guerreと戦いに赴く決意を歌います。そこで女大公は衝撃的なアナウンス、今回の戦争の最高司令官はなんと今まで一兵卒であったフリッツです。各人各様の思惑が歌われたあと、おもむろに女大公はネポミュックに例のものを持って来なさいと命じます。一同ざわめく中、持ってこられたのは女大公の父のサーベル。Voici le sabre de mon père!と出陣する総司令官フリッツにそのサーベルを手渡して武運を祈る、古いイタリアオペラなんかでよくある典型的なシーンのパロディ。ただなかなかにかっこいいメロディで盛り上がります。また彼を快く思わない三悪人ピュック、ブン、ポール殿下が彼の破滅を願う合いの手を入れるところなどもなかなかに笑えます。壮麗な式典の音楽のあとはさすがやはりオッフェンバック、軽快なギャロップに乗せてフリッツの出陣の決意が歌われます。それに合わせて三悪人の呪詛も軽やかに。最後は華やかにコーラスが出陣の歌を響かせますが、ここでやっぱりオペレッタ。フリッツがせっかく授けられた女大公のサーベルを置き忘れ、慌てて戻ってくるというひと騒動で幕となります。

第二幕

  • 宮殿の広間
  • 第一場
    戦争は公国の勝利のうちに終わったようです。出征して行った恋人の兵士たちを待ちわびる女大公の侍女たち(Enfin la guerre est terminée)。そこへネポミュックが戦場から彼女たちへの手紙を持ってきます。めいめいに届いた手紙を紹介しあう4人の侍女たち。うきうきするようなワルツの調べが、もうすぐ再会できる喜びへの期待を表しているのでしょう。
  • 第二場(ダイアローグ)
    そこへ入って来たのはポール殿下。彼の使者としてこれまでずっと女大公に一度も拝謁することなく門前払いを受け続けていたクロッグ男爵を連れています。彼らは侍女たちに女大公がどこに居るのか尋ねますが、恋人のことで頭が一杯の彼女たちに冷たくあしらわれます。再び戻って来たネポミュック、フリッツ将軍の率いた軍がもうすぐ凱旋して来ることを告げます。恋人たちと再び会えると喜び退場する侍女たちと入れ替わりに入って来るブンとピュック、今度こそはポール殿下の婚約を成功させようと、使者のグロッグを送り出します。
  • 第三場(ダイアローグ)
    ようやく女大公が使者のグロッグを受け入れてくれるかと糠喜びのポール殿下。しかしブンとピュックの説明によればまた今日も彼は女大公に謁見することも叶わずたらい回しされて体よく追い払われてしまったようです。そればかりでなく女大公は帰還してくるフリッツと何やらムフフなことを考えている様子。これは何とか対策を考えねばと思案するポール、ブン、ピュックでした。
  • 第四場
    凱旋してくる兵士たちを迎えるコーラス。女大公もフリッツに再び会えることにワクワクしています。そこへ登場した将軍フリッツ。四日のうちに敵を追い払う大功績をDonc je m’en vais vous direと軽快に歌います。敵を酔いつぶれさせ、驚かして追い払うという古典的な方法ですがどうやらうまく行ったようです。彼の報告が終わったところで女大公としては二人っきりになる口実が欲しいところ。自ら将軍に聴聞するということにして皆を追い払うことにします。悔しがるポール殿下ですが、ブン大将には何か作戦があるようです。
  • 第五場
    二人っきりになった女大公とフリッツ。さっそくフリッツにモーションをかけようという女大公ですが、宮廷では田舎娘のようにダイレクトに愛の告白という訳にはいきません。宮廷のとある淑女があなたに焦がれているのよ と婉曲に伝えるデュエット(彼に伝えて Dites-lui)も朴訥でストレートなフリッツには伝わることはありません。これでは埒が明かないと段々と積極的にアプローチをかける女大公。とそこへ邪魔が入ってきます。
  • 第六場(ダイアローグ)
    女大公とフリッツの二人っきりの場を壊したのはネポミュックの登場でした。秘密警察の長官からの伝言を持って来たのです。何でも町にフリッツ将軍が若い娘を連れ込んでいるというスキャンダル。激怒した女大公は長官に会いに行くためにネポミュックと一緒に出て行きます。
  • 第七場(モノローグ)
    ひとり残されたフリッツ もちろん町へ連れて来たのは愛するヴァンダです。それと女大公から伝えられた彼を恋する「女性」とやらとどう折り合いをつけたものかと困惑の独白です。
  • 第八場(ダイアローグ)
    そこへ入って来たのはポール殿下、ブン、ピュックの3悪人。何やら画策しているようです。そこへ再びネポミュック。フリッツに宮殿右手のあずまや(別宅)を宛がうのでそこに居るようにという伝言です。彼は居合わせたブン大将にマウントを取って去って行くのでした。
  • 第九場
    その場に残ったのは3悪人のポール殿下、ブン、ピュック。憎きフリッツが右手のあずまやに行くと聞いて色めき立ちます。というのは彼らの今いるこの部屋と右手のあずまやとの間には秘密の通路があり、そこから侵入することができるのでした。実は200年前、伯爵マックスは公爵夫人とここでアバンチュールを楽しみ、そして刺客に暗殺されたのでした(Ne devinez-vous pas?)。昔語りをしているうちに段々と乗って来た3人、われらも同じように復讐だと浮かれ騒ぐのでした。
  • 第十場
    奴を嵌めてやる と盛り上がっている3人、背後に女大公が現れているのにも気が付きません。作戦に酒色はないのか!と騒ぐブンに「女ならここにいるわ」と答える女大公。慌てる3人ですが、なんとこの女大公も謀略に加わると言うのです。女心の読めないフリッツは何と女大公にヴァンダとの結婚を願ったというのです。怒りに震える4人は復讐に燃えるのでした。

第三幕

  • 第一場
    前の幕の終わりにフリッツに対する復讐を企てたその昔伯爵マックスが暗殺されたと伝わる部屋、女大公とブン大将がふたり居合わせます。ブンは別室の舞踏会場に引き留めているフリッツのことを報告。彼は自分の婚礼に出かけたかったのですが。もちろん引き留められた理由はこれから3人組+女大公の餌食となるためです。昔マックスが暗殺されたことを思い出しながらO grandes leçons du passé!とデュエット。そんな事件があっても二百年も経てば観光名所にもなりかねない と結構皮肉のきつい歌。そして女大公は出て行きます。
  • 第二場(ダイアローグ)
    残ったブンの前に秘密の扉から現れたのはピュック、ポール殿下、ネポミュックにポール殿下の忠実な部下グロック。新たな謀略の仲間も加えて作戦会議といくところでしょうか。
  • 第三場(ダイアローグ)
    そこへ再び女大公。やはり悪事のラスボスは最後に登場といったところでしょうか。ここで彼女は初めて見るイケメンに気が付きます。今まで何度もポール殿下の使いとして面会を求めて来たのに一度も会わずに来たグロック男爵です。彼の顔面にノックアウトされた女大公、他の男どもを追い払い、二人っきりで話をすることとしました。
  • 第四場(ダイアローグ)
    グロック男爵と二人っきりになれた女大公、さっそく彼にモーションをかけます。ポール殿下のもとで仕えるのはやめて自分の宮廷に来ないかと。しかしポール殿下を女大公と結婚させるというミッションのあるグロックはそう簡単には乗りません。ポール殿下との結婚を受け入れなければその話に乗るのは無理であると。追い込まれた女大公はもはやしどろもどろに。
  • 第五場(ダイアローグ)
    そこへ謀略の一味のブン・ピュックたちが戻ってきます。ところが突如鶴の一声、女大公から「襲撃は中止」の命令で一味は動揺します。「しかし何故?」 そこで女大公のもうひとつの爆弾発言。自分がポール殿下と結婚する目出度い日にそんなことはできないと。またまた驚く一同。もちろんこれは惚れたグロックを自分の宮廷に引き留めるための妥協策ではあるのですが。承服できないブン他の一味は勝手に復讐しても良いかと訴え、女大公もそれを了承し、出て行きます。
  • 第六場
    そこへやって来たのはフリッツ、ヴァンダの婚礼を祝しつつ、二人を初夜のあずまやへと導く一団。Nous amenons la jeune femmeと歌いながら。フリッツは先客のブンやピュックに挨拶し、他の皆も一緒に退出して二人きりにしてくれるように頼みます。皆はおやすみの挨拶をして大人しく退出して行くのでした。 Bonne nuit, monsieur, bonne nuit!と。
  • 第七場
    やっと二人きりになれたフリッツとヴァンダですが、あまりの環境の激変にお互い戸惑っています(Faut-il, mon Dieu, que je sois bête!)。そこへ次々と押しかけてくる婚礼を祝う集団が邪魔に入って来る。それらを何度も押し返し、ようやく愛の語らいを始めようというところでまた激しいノックの音が...
  • 第八場
    なだれ込んだのはブン、ピュック、ポール殿下を筆頭の一団、再び敵が攻めて来たので、フリッツ将軍に再びの出陣を促しに来たのでした(Ouvrez, ouvrez, dépêchez-vous もちろんこれはブン大将の陰謀です)。押し問答の末、結局出陣することになったフリッツ。慌てて軍装を整えて出て行きます。

第四幕

  • 第一幕と同じ野営地
  • 第一場
    こんな場所であるにも関わらず、女大公とポール殿下の婚礼の宴が開かれています。Au repas comme à la batailleと楽しげなコーラス。「ラインのワインを飲み干そう」と歌っているところを見ると、なんとなくこの大公国、どこの国をモデルとしているのか想像がつくような... 
  • 第二場
    続いては女大公による「大酒飲みのバラード」Il était un de mes aïeux、女大公の祖父の酒飲みっぷりを物語ります。歌のあとは感極まっているポール殿下、六か月の苦労がようやく報われたのです。ブン大将はフリッツを嵌めた顛末を女大公に報告します。ブン自身の不倫相手のところに戦闘だと偽ってフリッツを身代わりに行かせ、怒り狂った亭主にボコボコにさせようというのです。
  • 第三場
    そこへ夫がひどい状態で帰って来たと駆け込むヴァンダ。どうやらブンたちの罠はうまく行ったようです。ヘロヘロになって出征の顛末を語るフリッツEh bien, Altesse, me voilà。あの気高き女大公の父のサーベルもひん曲がってまるで栓抜きのよう。この失態を利用して、女大公はフリッツから貴族の階級も軍の地位も剥奪します。剥奪した地位を一目ぼれしたばかりのグロックに与えてこの宮廷に留まらせようという目論見ですがそうはうまく行きません。このグロック、実は妻帯者で故郷に4人の子持ち。その事実をここへ来て知った女大公。とうとう観念して地位と権威はもとの通りブンとピュックに、そしてグロックは妻子の待つ故国へと、フリッツはヴァンダと共に故郷の村へと戻るのでした。最後の女大公の独白「好きなものが得られないのなら 持っているもので満足しなくちゃね」に引き続いて皆が満ち足りた終曲で楽しげに幕となります。

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@ 藤井宏行
最終更新:2024年08月15日 09:48