ファルケ博士はエーリッヒ・クンツ、こうもりではファルケ、フランク、更には語りしかない牢番フロッシュまで様々な役をこなした彼ですが、やはり全盛期のファルケ役が一番はまっているような気が。品のある節回しと伸びやかな美声は、第1幕のアイゼンシュタインとのデュエットや、第2幕の Bruderlein und Schwesterlein のアンサンブルで惚れ惚れしてしまいます。次に第1幕と第2幕ではエンディングで重要な役割を果たし、また第3幕では牢番フロッシュとの台詞の掛け合いで絶妙な味を出さねばならない難役の刑務所長フランクにはカール・デンヒ、1950~1960年代のオペレッタ録音では脇役として幅広く活躍した人ですから万全の役作りです。いろんな役と掛け合いますがそれが歌でも台詞でもとにかく巧い。あんまり表情過多にならずにそれでも可笑しさがにじみ出るのは素晴らしいです。この人のせりふ回しの巧みさも字幕でぜひ堪能して頂ければと思います。掛け合いの巧さではアルフレード役のヘルムート・クレーブス、けっこう正統派のテナー歌手だった人のようで、歌声もとても魅力的なのですが、第1幕で演技巧者のシュヴァルツコップと伍して一歩も引かない台詞での演技の濃さもなかなかのもの。第3幕の三重唱も演技過剰と言えるほどの濃い歌声のシュヴァルツコップ、ゲッダに対峙してこのくるくる変わる音楽の表情付けに絡んできているのはお見事の一言に尽きます。もしかするとこの第3幕の3重唱がカラヤン旧盤の白眉かもと思える出来栄えでした。オルロフスキー公を演じるのはルドルフ・クリスト、性格派テノールとして鳴らした人のようで、オペレッタでも活躍されていたのでこの人の歌も演技も万全です。金が有り余っていて退屈しきった貴族っていう雰囲気(本物の貴族に会ったことがないので真偽は分かりませんが)を実に説得力を持って演じています。そして出番は多くないですが弁護士のブリント、世界的な Political Correctness の流れの中、今や身体的なハンディキャップを笑いものにするような演出はできなくなってしまっておりますが、70年前の録音であればまだあんまり気にしなかったのでしょう。第3幕でブリントに化けるアイゼンシュタイン役のゲッダともども、吃音の描写が物凄いです。演じるテノール歌手のエーリヒ・マイクート、性格派テノールの人でしょうか。歌も台詞も見事です。このブリントとアルフレード、そして牢番フロッシュ役を演じたフランツ・ベーハイムのおかげで退屈することの多い第3幕に引き込まれてしまうのはやはり素晴らしいです。また他の録音ではほとんど目立たないイーダ役のルイーズ・マルティーニ、個性的な声と演技でこの盤では大活躍です。この人、録音当時はまだ20代半ばですが、その後舞台や映画で活躍をし、ドイツ語の Wikipedia にページがあるほどの人です。こうして見ると隅々のキャストまで実力者を配し、能力の高いオーケストラとコーラスに支えられて「こうもり」録音史上でも屈指の演奏が繰り広げられています。