"ラ・ボエーム"

目次

第1幕

1837年12月24日の夕暮れ クリスマスイブ カフェ・モミュス

  • 幕が上がるとカフェの店主ガウデンツィオと音楽家ショナールが言い争っています。彼やその仲間のロドルフォやマルチェッロがこの店でやりたい放題して、その上飲み代のツケをろくに払わないことに苦情をぶちまけていると、そこに怪しい風体の浮浪者が。カフェで開かれているという無料の音楽教室に興味を持って来たのだと言います。しかし心当たりのない店主。浮浪者の言う通り表のサインボードを見るとショナールが勝手に出した音楽教室の張り紙が。
  • 怒り狂って浮浪者を追い払う店主。それを宥めるショナールは、今日ここで恋人たちとクリスマスのパーティを開くと突然言い出します。払いは心配ないと。驚く店主をさえぎって、マルチェッロとロドルフォ、それにショナールの恋人のエウファーミアが陽気に登場します。こんなに威勢が良いのだからきっと今日の払いは大丈夫だろうと勘違いして去って行く店主でした。やや遅れてプラトン派の哲学者コッリーネが現れます。空気読めない彼は仲間たちに掘り出し物だと古代ローマの史書やら何やらを見せびらかして失笑を買いますが全然気づいていません。そこへロドルフォの恋人ミミが友人のムゼッテを連れてやってきます。初対面のムゼッテへのショナールによるかなり意味不明のボヘミアンたちの紹介が終わったあと、ミミによるムゼッテ紹介のアリアが続きます。そして彼女に一目ぼれしたマルチェッロは色々とモーションを掛けだしたのでした。
  • テーブルにつき、色々と注文を始める彼ら。大した持ち合わせがないにも関わらずとんでもない量の飲食を注文していきます。あまりの分量に恐怖に駆られたウエイターは思わず厨房へと駆け出して、そこへちょうど入って来た初老の紳士バルベムッシュとぶつかってしまいました。それを叱責する姿に皆の注目が集まります。
  • あの紳士は誰?という女性陣からの質問に、多分外交官だろうといい加減なことを答えるショナール。バルベムッシュはまるでスパイでもするかのように彼らボヘミアンたちの近くに座ります。パーティが始まり乾杯のあと、歌が歌えるというムゼッテに皆からの歌ってくれというリクエストが。
  • 名前が同じ「ミミ」ということで、彼女はA.ミュッセの有名なシャンソン「ミミ・ピンソン(パンソン)」を歌います。人の分まで料理を貪り食うショナールやら、酔っ払ってこんな場で垂れなくても良い蘊蓄を次々と披露するコッリーネやら、我慢しきれなくなってムゼッテを口説き始めるマルチェッロやらどんどん収拾がつかなくなっている中、今宵の勘定書きが運ばれて来ます。その金額を見て蒼ざめるロドルフォ。
  • そんな彼を尻目に、ミミの提案で皆はダンスホールへと行こうとします。それを押し止めて店主ガウデンツィオに一番顔の効くショナールに支払いを待って貰う交渉に行かせるロドルフォとマルチェッロ。しかしこれまでの出鱈目さにすっかりキレた店主ガウデンツィオを前に交渉はあえなく決裂。今すぐ払わねば借金のカタに女性たちのマンティーラやショールを預かってやると実力行使に出る店主。皿洗いたちの加勢も呼んであわや大乱闘かという瞬間に先程のバルベムッシュが止めに入ります。実は彼は貴族の家庭教師とかもしているリッチな学者で、彼らボヘミアンたちの庇護者になりたいと考えていたのでした。しかしプライドの高い彼らは見も知らない奴の世話になどなるかと、せっかくバルベムッシュが勘定を全額奢ってあげようと言ってくれた申し出をあっさり断ります。
  • ですがそれでもこの苦境をなんとかせねばならない彼ら。ショナールのアイディアで、ビリヤードで勝負し、負けた方が勘定を全額払うことにしようということに突然なります。勝負にエキサイトする彼らを尻目に、マルチェッロとムゼッテは脇の方でいちゃつき、急速に親密度を増していくのでした。
  • 他方、勝負はショナールの勝負に終わり(おそらくはバルベムッシュがわざと負けたのかと)、一同の歓呼の合唱の中クリスマスの鐘が鳴りだし、皆でクリスマスの夜を祝うのでした。
プッチーニ版では第2幕にあたるカフェ・モミュスでのクリスマス・イブの祝宴の場を第1幕に持ってきてマルチェッロとムゼッテの出会いの場とし、また4人のボヘミアンたちのそれぞれの性格描写をくっきりと描き出していること(お調子者っぽい画家のマルチェッロ(テナー)、真面目っぽいがどこかちょっとずれている詩人のロドルフォ(バリトン)、精力的であるががめつい音楽家ショナール(バリトン・彼にはどことなく頭の軽そうな恋人エウファーミア(メゾ)がいつも寄り添います)、そして第1幕にだけしか登場しませんが天然系のプラトン派の哲学者コッリーネ(バスバリトン)と、彼らの飲み・食い・歌い・暴れっぷりは気持ちよいほどです。また店主のガウデンツィオも実に良い味を出しています。バルベムッシュが賭けに(わざと)負けて彼らの飲食代を払うところまでほぼ原作にこの場面は忠実です。もっとも原作ではマルチェッロとムゼッテはこの場面では既に恋人同士でしたが。

第2幕

1838年4月15日 ムゼッテが住んでいる家の中庭

  • 第2幕はそれから4ヶ月ほどたった4月15日のこと。パトロンの銀行家からあてがわれたアパートで勝手にマルチェッロと同棲していたことがバレて、家財道具一切をオークションに掛けられて運び出されてしまうムゼッテ。もうここには住めないムゼッテに、それなら俺のアパートに来いよと甘く歌いかけるマルチェッロ。思わずメロッと来てその申し出を受け入れるムゼッテ。しかしもうひとつの問題はちょうどその日はパリの文化人を招いてホームパーティを開く予定だったのでしたが、この状況ではそれもままなりません。そこへやってきたショナールの勧めで、家財道具が広げられた中庭でそのパーティを開くこととします。ですがそのためにはアパートの管理人デュランを買収せねばならず、そのための資金の調達に途方にくれます。ところが天の助け、居合わせたロドルフォはちょうど書いた戯曲が売れたばかりで結構な額の金を持っていたのでした。それを資金源に管理人デュランを呼び出す彼ら。初めは抵抗していた管理人ですが、金の力にころっと靡き、受付の呼び出し係まで引き受けてしまいます。
  • 中庭でパーティの準備をしていくうちに段々と日も暮れてゆき、ついには招待客たちがデュランのアナウンスと共に次々と押し寄せて来ます。皆中庭で開かれることに驚きの声を上げて。ミミはここでバルベムッシュやエウファーミアたちと一緒にやってきたのでした。
  • 皆が集まったところでおもむろに、ショナール作曲の合唱曲「ボエーム讃歌」の演奏でパーティは幕を開け、続いてはムゼッテの独唱によるお洒落なワルツ(これは言及はありませんがどうやらショナールの作品ではなさそうです)、そして引き続き今度はショナール作の未出版作品「カンタータ ト短調 芸術上のブルーの影響」を作曲者自身の弾き語りで歌いますが、この曲はあまり評判がよろしくなかったようで聴衆たちの茶々で雰囲気ぶち壊しになりました。さてそんなパフォーマンスが続く中、バルベムッシュの教え子として勝手に押しかけて来た貴族の道楽息子パオロが、ミミに一緒に来てくれればもっと良い暮らしを約束するよと口説き続けます。あまりの執拗さにとうとう堕ちてしまうミミ、二人で人知れず会場から去って行きます。
  • そうこうする間に夜も更け、中庭からの騒音に堪忍袋の緒が切れたアパートの住人達から次々と抗議の声が上がります。それに反抗する招待客たちの蛮声。ショナールも嫌がらせのようにやけくその替え歌を歌います。アパートの住人達は上から水やらポテトやらを雨あられと振りかけ、騒乱のうちに第2幕は終わります。
音楽家ショナールが大活躍の幕です。合唱の掛け合いも興味深いのですが、ちょっと私の語学力では追い切れず、幕切れのところでは音楽と対応が取れていないかも知れません。原作では4月の15日に屋外でのパーティーが企画されていたものの、官憲の命令で中止となったというエピソードがありますが、第1幕で取り上げられたカフェのシーンよりも前ですし、本当に小さなエピソードですので、この幕の物語はほとんどオペラのために書かれたもののようです。非常にコミカルで楽しい幕なのですが、ロドルフォの恋人ミミは誘惑されて連れ出されて行ってしまいますし、ショナールも恋人エウファーミアとの破局の影を匂わせ、ハチャメチャな騒乱の中にもこれからやって来る不幸の時がさりげなく予告されるのがなかなか深い幕でもあります。

第3幕

1838年10月 マルチェッロの屋根裏部屋

  • 第3幕は前述しましたように愛の修羅場です。冒頭でショナールが恋人と別れたことを語り、マルチェッロと空腹を語り合ううちに、これは何とかせねばということで二人で金策に出かけることとしました。そこに一緒に暮らしていたムゼッテはどこか上の空です。実はマルチェッロのアパートに転がり込んだムゼッテですが、あまりの貧乏暮らしに耐えかねて逃げ出すことを決意していて、マルチェッロが出かけて行った後 彼に別れの手紙を書いて、それをアパートの管理人に渡して出て行こうとするのでした。ところがそこで出くわしたのがロドルフォが世に発表していた二人の愛の思い出の詩に感動し、よりを戻そうとやって来たミミ。愛情だけではひもじく寒い冬は乗り切れないから今すぐパトロンのもとに戻りなさいというムゼッテと言い争っているうちにマルチェッロが帰って来てしまいます。
  • あわてて隠れるミミですが、ムゼッテは逃げそびれてしまい、先程の手紙を読んで激怒しているマルチェッロと鉢合わせです。二人はまだ互いを愛し合っていることを確認し合いながら、それでも結局別れを告げる修羅場の中、とうとう逆上したマルチェッロに襲われそうになるのを見かねて飛び出してくるミミ、彼女に誘われてムゼッタもパトロン探しに自分の元を去ろうとしていると勘違いしたマルチェッロはロドルフォを呼び出し、ミミと引き合わせます。「お会いできて光栄です 子爵夫人」とミミを冷たく突き放すロドルフォ。Murgerの原作でも、ロドルフォが発表したことになっている(そしておそらくはミミも呼んで感動したといっている詩であろう)「君はただの幽霊でしかないし ぼくも幽霊なんだ」のフレーズを口ずさみながら彼は自分の部屋へと帰って行くのでした。
  • 別れを決意したムゼッテはミミと一緒に出て行こうとしますが、マルチェッロに自分のものをまとめて持って行ってくれと引き止められ、ミミだけ先に去って行きます。そしてムゼッテが去って行ったあと、彼はひとり残された部屋で泣くのでした。
二組のカップルの別れは寒々しく、そしてとても美しい音楽に彩られています。当然ながら原作にはこのエピソードはなく、ヴェリスモオペラの巨匠・レオンカバッロの面目躍如のストーリ展開となっています。

第4幕

1838年12月24日夕暮れ クリスマスイブ ロドルフォの屋根裏部屋

  • 第4幕は第1幕からちょうど1年後のクリスマスイブの夜。ロドルフォがひとり詩を書いています。そこへマルチェッロ、ショナールと次々と帰って来て、三人で粗末な夕食でもということになりますが、1年前の楽しかったパーティを思い出すロドルフォとマルチェッロ、なかなか箸が動きません。恋人たちも、そしてコッリーネももうここにはいない。そこへ突然やつれ果てたミミが入って来ます。子爵に捨てられ、仕事もうまく行かず病にかかって入った病院からも追い出されもはや頼るところもありません。一夜の宿をお願いするだけで明日にはまたどこかに行きますからと。思わず駆け寄って抱き寄せるロドルフォにミミは許しを乞います。
  • 医者を、薬をというロドルフォの叫びに答えてショナールがドアを開けると、外からムゼッテの歌う「ミミ・ピンソン」の歌が響いてきます。よりを戻さないかというロドルフォの手紙に答えてムゼッテが帰って来たのでした。そこにミミがいることに気付かず戻ってきたムゼッテですが、すぐに彼女に気付きます。身に着けていたアクセサリーをショナールに渡し、これで必要なものを買って来て、とプッチーニ版でもあったような物語展開。ショナールはここで出て行きます。
  • ムゼッテと会話を交わすミミ、しかしもう生きる力は残っていません。ちょうど1年前のクリスマスイブの夜のことを思い出していると、あの時と同じ鐘がかすかに聞こえてきます。ミミは第1幕幕切れでみんなと叫んだ「クリスマス(ナターレ)!」をそっとつぶやいて息絶えるのでした。
前述のように、原作ではミミは慈善病院で誰にも看取られずに命を落とします。ただ舞台ではやはり恋人の腕に抱かれて息絶える展開にしませんとドラマになりませんので、プッチーニ版もレオンカバッロ版もロドルフォの部屋での最後にしています。また筋の展開もほとんど同じです。ただ原作においてもこのレオンカバッロ版と同じ12月の24日に男3人でわびしく夕食を取る中、やつれ果てたミミが部屋を追い出され、一夜の助けを求めに来るシーンがあり、そこでの会話はかなりの部分レオンカバッロ版で採用されています。原作ではボヘミアンたちはこのあとミミを慈善病院へと入院させ、見舞にも行っているのですが、連絡の手違いから彼女の死は誰にも看取られなかったのでした。

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@ 藤井宏行
最終更新:2019年08月23日 20:44