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◆◇◆◇


 夜空が、天井を覆い尽くす。
 輝く月が、世界を見下ろす。

 偽りの舞台。偽りの情景。
 紛い物の宵闇が、刑務の壇上を形作る。
 地の底の試練は、麗しき紺色の色彩に染め上げられる。

 夜は、美しき静寂を齎し。
 夜は、冷酷なる悲劇を呼び起こす。
 濃紺の闇が、全てを等しく飲み込む。

 彼らを待ち受けているのは、贖罪への祝福か。
 あるいは、無慈悲なる裁きか。
 その答えは、運命だけが知る。
 今はただ、走り続けるいくしかない。

 目に映る景色、その全てが創られたモノ。
 それを改めて認識しながら、彼女は走り続ける。

 メリリン・“メカーニカ”・ミリアン。
 犯罪組織メルシニカの元幹部。
 そして今は、アイアンハートの一員。

 機械技師といえど、曲がりなりにも新人類。
 歴戦の猛者達には体術で大きく劣るものの、最低限の躍動くらいは出来る。
 呼吸を整えながら、草原を駆け抜けていく。

 脱獄の為の目的地――サリヤが残した手がかり。
 “灯台”を目指して、メリリンは奔る。

 そんな彼女の隣に立つ、龍人の青年。
 表情には影を落としつつも、気丈に振る舞おうと努めている。
 北鈴 安理。あのブラックペンタゴンでの呉越同舟の一員。

 メリリンは振り返る。
 安理を認知したのは、被験体:Oを撃破した後。
 つまりは刑務も佳境に入ってからだった。

 名前も存在も把握していない、堅気のような青年。
 囚人の間で噂の一つも流れなかった、恐らくはありふれたネイティブ。
 他の受刑者達とのやりとりを見る限りでも、彼は裏社会には精通していないようだった。

 こうして偶然、二人きりで行動を共にすることになったが。
 本来ならば、わざわざ面倒を見てやるような義理もない。
 実際、此処に至るまで会話もまだろくに交わしていない。
 友人でも知人でもない間柄。親睦を深める必要などない。

 けれど、その表情を横目で流し見て。
 メリリンは、何処か思うところがあるように考え込み。
 それから、彼の方へとハッキリと向いた。

「あのさ。アンリくんだっけ」

 影を落とす安理の様子を案じて。
 ふいに、メリリンが呼びかける。

「ヤマオリの巫女のこと、気にしてる?」

 その問いかけに対し、少しだけ驚いたように目を丸くする。
 エンダ・Y・カクレヤマ。自分達を灯台へと向かわせ、たった一人でルーサー・キングとの対峙を引き受けた少女。
 あのブラックペンタゴンでの只野 仁成との遣り取りが示していたように――。
 安理は彼女と何らかの縁があり、その身を案じている。

 メリリンからの指摘が図星だったことを示すように、安理は謝罪の言葉を呟く。
 アビスに収監された囚人とは思えぬ、純粋な負い目を覗かせる。

「……すみません。不甲斐なくて」
「別にいいよ。謝らなくて」

 そんな安理に、メリリンはあっけらかんと返す。
 気にしないでいいよ、と。
 いたいけな若輩者に対し、彼女は大人として接する。

「後悔とか、迷いとか、そういうのを背負ってさ」

 安理の背負う苦悩は、メリリンも知っている。
 後悔。苦悩。葛藤。――彼女もまた、それを乗り越えてきた。
 親友であるサリヤを巡る喪失と確執、その果ての顛末。
 メリリンは、その先を歩んでいる。

「それでも、私達は生きなくちゃならない。
 ――――君も、分かってるんでしょ?」

 悲嘆にも、絶望にも、打ちのめされて。
 それでも、進み続けなければならない。
 きっと、それを悟っているからこそ。
 安理は今も、こうして走り続けている。

 足を止めた時、今度こそ未来は閉ざされる。
 道を切り開く為には、戦わなければならない。
 メリリンは、それを理解していた。
 あの孤高のギャングスターが、その生き様を示したのだ。

 そして、メリリンもまた。
 ジェーンやサリヤの犠牲を経て。
 彼女たちを背負って生きる道を、選び取った。

 メリリンの激励を、安理は静かに受け止める。
 視線を微かに落とし、唇を引き締めて――彼女の言葉を咀嚼する。
 その意味を、その想いを、ゆっくりと噛みしめる。

 そんな安理の様子を見つめて、メリリンは思わず苦笑する。
 健気で、いじらしさのある青年だった。

 思えば、ずっと誰かの面倒になったり、世話を焼かれる立場だった。
 社会性にも乏しく、サリヤとの交流で処世術を学ぶ身だった。
 今となっては、まだ初々しかった頃の記憶だけれど。
 それでもサリヤを失った後、組織も壊滅したことで、他者の面倒を見る機会も無くなった。

 ――――ネイも世話焼きだけど。
 ――――私も大概、そうなのかも。

 そんなメリリンにとって、安理のような青年と接するのは新鮮な経験だった。
 そしてローマンが彼の面倒を見た気持ちも、不思議と理解できた。

 ――――なんか、ほっとけないんだよね。
 ――――アンリくん、昔の私みたいで。

 内気で、大人しくて。初心な若者で。
 だからこそ、放っておけないものがあった。

 そして、安理を案じていたからこそ――メリリンは気付く。
 彼が何かを察知して、戸惑いを抱いていることに。
 港湾の方へと、視線を向けていることに。

「……あの、メリリンさん」

 迷いを抱きながらも、意を決するように。
 彼はメリリンに対し、口を開く。

「ごめんなさい。先に行って頂いても大丈夫です」

 そう告げると、安理は申し訳なさそうに頭を下げる。
 え、と不意を突かれたようにメリリンは惚けた反応を返す。

 ――過去を視る超力で“何か”を察知したのだろうか、と。
 メリリンは少しの間、思考したものの。
 その答えを出す前に、安理の言葉が返ってきた。

「少しだけ、寄り道させてください……!」

 安理は、ただそう告げて――。
 灯台ではなく、港湾の方へと向かっていった。
 彼の思わぬ行動に、メリリンは思わず声を上げる。
 ちょ待って、アンリくん――そんな呼びかけが、虚しく木霊する。

 走り出したその背中を見つめて、メリリンは葛藤する。
 頭を掻き毟りながら、灯台と港湾の方角を交互に見る。
 どうするべきか。そんな思いが、脳裏をよぎったけれど。
 一瞬だけ現在時刻を確認して、それから安理の後ろ姿を追いかけた。

 結局自分も人のことを言えないと、メリリンは思う。
 安理が放っておけないから、こうして追いかけている。
 世話焼きになってしまうのは、お互い様らしい。

 メリリンは、まだ知らない。
 安理の行動が、決定的な道標を作り出すことを。
 この寄り道が、決定的な手がかりを齎すことを。

 メリリンは、まだ気付いていない。
 この刑務で、この死線の渦中で――。
 誰もが超力を高めて、可能性を引き出していることを。


◆◇◆◇


 少女の名は、隠山 縁沱(カクレヤマ エンダ)。
 土着宗教が根付く山間の集落、カクレヤマにおける“神降ろしの巫女”。
 古来より受け継がれし儀式を担いし家系に生まれた少女。

 その奇妙な名は、祟り神信仰によって崇められる土着神――“禍津神怨沱(マガツカミエンダ)”に由来する。
 当代の巫女として定められた乙女は、神を宿す為の器として代々“エンダ”という名を与えられる。
  人々の無念と憎悪を受け止めた祟り神を祀り、災いを鎮めるための儀式を担っていた。

 “奇縁邂逅(いのり・めぐる)”。
 それこそが縁沱が持つ本来の超力である。
 魂や霊的な熱量を認識し、自在に干渉・共存する異能。
 生と死の境界を越え、縁を繋ぎ止める能力。

 死の超越、魂の知覚。それはある意味でネオスの本質に最も近い能力である。
 開闢による人類進化の根源、HEUウイルスとは“不老不死の伝説”から端を発するのだから。

 八百比丘尼。不死の妙薬。岩戸から蘇った死者たち。
 戦時下の不死研究。生ける屍(ゾンビ)。永遠の楽園。
 開闢による新人類の出現――――超力によって公に証明された、魂の実在。
 始まりから今に至るまで、この世界の物語は生と死が絶え間ない交錯を繰り返している。

 カクレヤマ。遠い中世の時代に山折村を出奔した縁者達が、とある山間の村と結びついて生まれた集落。
 遥か古来より祟り神信仰の文化が根付く、極めて閉鎖的な土地である。
 現地の人々と融け合い、土着信仰と山折村の伝承が混ざり合い、そうして発生した“ヤマオリの分家”だった。

 そもそも土地神、禍津神怨沱とは何者なのか。
 この刑務に顕現し、只野仁成と行動を共にし続けていたエンダとは何者なのか。
 現地の伝承では人神として語り継がれているが、彼女の正体は人ですらない。

 ――その答えは、“爆弾魔”ギャル・ギュネス・ギョローレンも語っていたヤマオリの起源へと繋がる。

 六百年前。室町の時代に“後の山折村”へと漂流した、魔王と女神の娘――“神楽 うさぎ”。
 時空の狭間を越えて異世界から姿を現した、白髪金眼の迷い子である。
 彼女は人ならざる異質を備えながらも、義理の親となった都の陰陽師“神楽 春陽”と里の巫女“隠山 祈”と共に幸福な一時を過ごした。

 しかし異常な成長速度と異邦人の姿を持つ“神楽 うさぎ”は、都の役人達によって不老不死の存在“八百比丘尼”と同一視された。
 その肉から“不老不死の妙薬”を作るべく役人達は一計を投じ、うさぎは里から連れ出され――その身を生きたまま解体された。
 うさぎの亡骸は妙薬と化して各地に散らばった。養父である神楽 春陽は役人達を怒りのままに殺め続け、娘の残骸を血眼になって掻き集めた。

 そして春陽は“後の山折村”へと帰還し――疫病の蔓延に苦しむ里を救うべく、妙薬を使うことを余儀なくされた。
 不死を齎す妙薬によって疫病の犠牲者達は奇跡の如く蘇り、紆余曲折を経て“神楽 うさぎ”は神と結びつけられて信仰を捧げられた。

 そんな中、ただ一つだけ“亡骸の断片”が遺されていた。
 ほんの些細な肉片。解体の際の摩耗によって妙薬としての力を喪い、肉塊として存在していただけの“残骸”。
 後にそれは里を出奔した一部の住民達によって発見され、ある山間の集落へと持ち出された。
 ――その地は、後に“カクレヤマ”と呼ばれることになる。

 山折出身の住民によって齎された信仰は、現地に古くから伝わる祟り神――“禍津神怨沱(マガツカミエンダ)”を祀る土着信仰と融和した。
 彼らは山折より持ち出した“奇跡の残骸”を神体として用いることで、その地に神降ろしの儀式を興した。

 山折を出奔した村人達は“残骸”を妙薬の失敗作と知っていたのか、あるいは偶然の行動に過ぎなかったのか――その真相は分からないが。
 彼らはかつて山折を救った神の御業を独自に解釈し、死の超越を齎す“神の降臨”を成し遂げようとしたのだ。
 移住者と土着の住民。彼らの妄執とも取れる崇拝は、時と共に形骸化を遂げたが――。
 長きに渡る信仰の果てに、残骸は真なる神へと至った。

 エンダとは、神楽うさぎの残骸から生じた分霊だ。
 疫病の災厄によって山折に生じた怨念と呪詛を受け継ぎ、カクレヤマの土着信仰と紐付けられたことで新たな神格を得た存在である。
 崇拝と儀式の果てに“禍津神怨沱”という形を得て、祟り神として数多の思念を受け止め、そして彼女は神霊と化した。

 山折村の神から分裂し、長い時を経て変異を遂げた存在――それこそがエンダ・Y・カクレヤマだった。
 故に彼女は、極めて断片的な形で“山折村の思念”を取り込んでいる。
 その神性は土地自体にも霊的な影響を与え、開闢を経たカクレヤマは“特異な超力”の出現しやすい環境と化した。

 そして、2046年。刑務開幕の4年前。
 当代の巫女、隠山 縁沱は神を降ろした。
 魂の力――超力がもたらした奇跡である。
 霊的な資質において、その巫女は突出していた。
 土地神としての神格を得た分霊は、齢七つの少女の身に宿ったのだ。

 その身に神を宿した瞬間から、ただの少女だった縁沱は白髪金眼の神秘的な姿へと変貌した。
 それは伝承に伝わる、祟り神の写身と呼ぶべき姿――神楽うさぎに酷似した容貌だった。
 集落においては“祝福の証”とも、“災いの前触れ”とも呼ばれた奇蹟である。

 山折村を起源とする血筋と、霊的な思念に干渉する超力によって縁沱。
 そして神楽うさぎを起源とし、ヤマオリの思念を受け継いだ禍津神怨沱(エンダ)。
 縁沱と土地神によって、カクレヤマは“ヤマオリ”の神秘へと限りなく迫っていた。

 だからこそ、縁沱が神降ろしを果たしてから数ヶ月が経った頃。
 里は忌むべき因果を引き寄せてしまった。

 5年前のギャル・ギュネス・ギョローレンによる山折村襲撃により、永遠から解き放たれた“山折村の住民達”。
 メルシニカの首領サリヤ・K・レストマンの殺害事件をきっかけに、彼女が訪れていたカクレヤマの秘密を掴んだ“欧州のヤマオリ・カルト”。
 ヤマオリの残滓に引き寄せられるように、彼らはカクレヤマという舞台へと雪崩れ込んだ。
 そして壮絶な混迷と惨劇の果てに、集落は壊滅した。

 縁沱はカルトに囚われ、ヤマオリの巫女として祭り上げられた。
 縁沱と怨沱。ふたりのエンダは、そうして物語の表舞台へと立つことになった。

 巫女を有した僅か3年の間――欧州の新興宗教組織“アメノイワト”は、世界最大のヤマオリ・カルトとして欧州を震撼させた。
 その名は創設者達が日本古来の神話を再解釈し、“開闢の日”を“ヤマオリが岩戸を解き放った日”と定義したことに由来する。




 ――――それは、神の御業だった。
 ――――それは、災厄の化身だった。


 夥しい闇が、虚空を舞っていた。
 悍ましい影が、宙空を躍っていた。

 数多の黒。黒。黒。黒。黒――――。
 大地を喰い尽くす黒飛蝗の群勢の如く。
 漆黒の濃霧が、夜を背負って肥大化する。

 荒嵐がもたらす死の濁流のように。
 憤怒に駆られて暴れ狂う龍のように。
 罪人達の煉獄の底で、神威が牙を剥く。

 闇が流動する。思念が跳梁する。
 怨嗟と呪縛を焚べて、漆黒の影が舞う。
 濃紺の夜空さえも飲み込まんとする程に拡大し、黒靄は水流のように激しく蠢く。

 跋扈する黒靄を統べるのは、一人の幼子。
 齢十を過ぎたばかりの少女の肉体に、白髪金眼の祟り神が宿る。
 華奢で幼きその姿に、蠱惑的なまでの威厳を纏う。
 闇の渦中で輝く金色の双眸が、まるで満月のような神秘を滲ませる。

 渦巻く黒靄の嵐を従え、少女は進撃する。
 人ならざる神域の怪異が、此処に君臨する。
 数多の思念を取り込み、祟り神は災厄を顕現する。

「――――くす」

 エンダ・Y・カクレヤマ。
 ヤマオリの巫女。祟り神の化身。
 それは銀月に続く、黒靄の魔神。

 “呪厄制御(たたり・めぐる)”。
 負の思念に呼応し、魂を侵食する“黒靄”を自在に使役する超力。
 本来はエンダの土地神としての権能であり、一種の“魔法”である。
 それは縁沱の肉体を介することで、擬似的に超力として出力されている。故にシステムAの影響を受ける。

 欧州に君臨する巨悪、ルーサー・キング。
 この歪んだ世界を是認し、支配と搾取を繰り返して権威を貪る牧師。
 ヤマオリの巫女である縁沱の命を狙い、幾度も刺客を差し向けた張本人。
 彼に対するエンダの敵意と憎悪は、計り知れない程に膨れ上がっている。

 超力第二段階――――“Public Enemy”。
 それはキングの切り札であり、彼が帝王たる所以である圧倒的な力。
 黒鉄の魔人と化した牧師は、あらゆる悪を屈服させる暴威となる。
 ヤマオリの巫女は、ここで仕留めなければならない。
 殺意と敵意を迸らせ、帝王の黒鉄はさらに強靭となる。

 そのキングが、戦慄を抱いていた。
 漆黒の鋼に身を包み、異形の邪王と化して尚。
 目の前に立ちはだかる敵に、彼は最大限の警戒を向けていた。
 空気が震え慄く程の、悍ましき瘴気。
 余りにも異様な気迫を前に、帝王は腹を括る。

 “牧師”と“ヤマオリの巫女”。
 両者は既に幾度も打ち合い、熾烈な拮抗を続けていた。
 互いに一歩も引かず、壮絶な駆け引きを繰り広げていた。

 ――その度に、禍々しき黒靄は力を増していった。
 エンダの怨恨は高まり、研ぎ澄まされ、より強く昂っていく。
 彼女の権能は今、最高潮の出力に至っている。

「……くそったれが」

 キングはただ目を細め、虚空の敵へと意識を集中する。
 ――もはや言葉での幻惑には、意味などないと悟っていた。
 嘲りや煽りで動揺を誘った所で、エンダの恨みを更に高めていくだけ。
 権威も言論も、この怪物には何の効果も持たない。

 力による屈服。力による蹂躙。
 それだけが、牧師に与えられた術。
 降臨した“祟り神”を制する為の手段。
 悪の帝王は、悪態をつくように吐き捨てる。

 くすくす、くすくすと、黒靄が蠢き出す。
 エンダの意思に呼応し、それは無数の触手と化す。
 数多に分かたれた闇が、多頭の大蛇のように荒々しく撓る。

 ――――そして、黒靄の触手が猛り狂った。

 それは鞭のごとく次々に振るわれて。
 風を縦横無尽に裂き、大地を激しく抉っていく。
 まるで激流のように暴れる無数の触手を前にし、キングがすぐさま跳躍した。

 つい数秒前までキングが立っていた地点が、まるで鎌鼬の嵐に曝されるように引き裂かれていく。
 その光景を一瞥し、キングが宙空で方向転換する。

 空中で次々に精製する鉄杭によって自らを打ち出し、自在に立体機動を行うキング。
 跳躍を繰り返す帝王を、黒靄の触手が追う、追う。追い続けて、激しく攻め立てる。

 縦横無尽に虚空を跳びながら、キングはさらなる鋼鉄を精製――鉄の刃を無数に撃ち出し、黒靄を迎撃し続ける。
 されど黒靄の渦は、瞬く間に鉄刃を飲み込む。その熱量を食い止め、侵食し、朽ち果てさせていく。

 そうして、次の瞬間――。
 枯れ落ちた鋼鉄が、黒靄に取り込まれていく。
 まるで闇と溶け合うように、黒鉄が流体に沿って“再構築”されていく。

「――――――ッ!!!」

 滞空していたキングが、咄嗟に防御行動を取った。
 鋼鉄の防壁を空中で生成し、襲い来る攻撃を受け止めたのだ。
 夥しい黒靄の触手が、流体にして“鋼鉄”と化した。
 鋼刃の性質を取り込んだ黒靄が、凄まじい物量によってキングへと殺到したのだ。

 コンマ数秒、キングの防壁は触手の嵐を受け止める。
 されど呪縛と鋼鉄の性質を帯びた猛攻を前に、その防御は引き裂かれ――砕かれる。
 壮絶な連打の衝撃によって、黒鉄の魔人が吹き飛ばされる。

 黒靄に包まれて、エンダの身体が浮かび上がる。
 まるで黒き風を統べるように、祟り神は宙空を揺蕩う。

「その程度か――“若造”」

 エンダが、嘲るように笑んだ。
 優雅に、悍ましく、その顔に微笑を貼り付けた。
 秘匿受刑者。このアビスの深淵に封じられし怪物。
 その未知なる脅威が、帝王の前に立ちはだかる。

 辛うじて受け身を取っていたキングは、すぐさま鋼鉄を操作する。
 流体化した鋼鉄の渦を、周囲へと展開。
 そのまま鉄砲水のような勢いと共に、鋼鉄の濁流が宙空のエンダへと迫る。

 エンダが、右手を振るった。
 無数の黒靄が、幼き少女を守るように立ち塞がる。
 球状の形態を取った黒靄がエンダを包み、迫る鋼鉄の濁流を遮断して跳ね除ける。
 激流の渦中を――エンダは悠々と進撃する。

 その激流を追うように、漆黒の帝王が突っ込んだ。
 鋼鉄の水流を突き抜けて、黒鉄の魔人が猛スピードでの突撃を敢行した。
 真正面からの接近。肉弾戦を仕掛けてきたのだ。

 黒靄に包まれたエンダは、迫るキングを見据える。
 そして瞬きの合間に、黒鉄に包まれた右拳が襲い来る。
 暴風のような轟音と共に突き出される、圧倒的な質量と熱量。

 しかし、その渾身の一撃は神を捉えない。
 邪神は狼狽えることなく、そこに在り続ける。

「軽いな」

 ――黒靄が、その右拳を真正面から受け止めた。
 ――少女の身を包む闇が、流動する防壁と化す。

 突進と共に放った鉄拳が、黒靄に止められた。
 それを目の当たりにしたキングは、思わず目を見開く。
 想定を超える域で、超力の規模が高まっている。

 くすりと笑むエンダ。群がる蝿のように蠢く黒靄。
 漆黒の右腕を食い止めた黒靄が、そのまま腕を起点にキングを侵食せんとする。

「ナメるな――ッ!!」

 瞬間、鋼鉄が隆起と共に爆ぜた。
 全身から即座に精製した黒鉄を、瞬時に破裂させたのだ。
 弾け飛ぶ衝撃によって、キングを蝕まんとした黒靄が勢いよく打ち払われる。

 咄嗟の攻撃を前に、エンダもまた衝撃によって幾らか吹き飛ばされる。
 全身を黒靄で包んでいた為に手傷は負わなかったものの、不意の攻撃を完全に食い止めることは出来なかった。
 黒靄の防御が弾け跳び、霧散する。

 後退したエンダへと目掛けて、キングはすぐさま追撃を行う。
 左手を前方へと突き出し、鋼鉄を精製――十数もの砲弾を形成。

 牧師の合図と共に、数多の砲弾が怒涛の勢いで放たれる。
 敵を撃滅すべく撃ち出された暴威を前に、後退したエンダはすぐさま対応。
 祟り神を守る従者の如く黒靄が流動――その質量によって、全ての砲弾を受け止める。

 そして、砲弾が弾き返される。
 黒き呪縛に侵食され、祟り神の意思に従い。
 凶弾の嵐が、帝王へと反旗を翻す。

 キングは、勢いよく鉄拳を振るう。
 拳闘家のように、その剛腕を荒々しく操る。
 迫る砲弾を弾き、打ち砕き、全てを凌いでいく。
 驚異的な膂力と瞬発力によって、全弾を捌き切っていく。

「励むといい。退屈はさせないさ」

 煽るような、少女の言葉と共に。
 更なる追撃が、キングの頭上から迫る。
 帝王は、咄嗟に後方へと跳んで回避した。
 瞬間――暗黒の奔流が、地面を引き裂いた。

 黒き疾風のように、黒靄の奔流が吹き荒ぶ。
 まるで局所的な猛風が飛来したかのようだった。

 キングは跳ぶ。ひたすら回避に徹する。
 躱す帝王を、禍々しき疾風が執拗に追撃する。
 地面を、草木を、虚空を、激しく引き裂いていく。

 怒涛の攻撃を前に、キングは紙一重で凌ぎ続ける。
 片目の喪失をものともしない瞬発力を駆使し、回避行動を繰り返す。
 百戦錬磨の経験値と戦闘センスによって、牧師は絶技を成立させる。

「――――おおおおおおおッ!!!」

 やがて回避の果てに、キングはその両腕を構える。
 屈強な脚を地に固定して、強靭なる鋼鉄を形成する。
 掌から散弾のように、無数の鋼弾が激しく放たれる。
 そのまま勢いよく襲い来る漆黒の疾風を抉り、掻き消していった。

「せいぜい足掻き続けろ」

 そんな帝王を、神は嘲笑う。
 防戦に徹する巨悪を、少女が蔑む。

「私が、存分に遊んであげよう」

 その瞬間、キングが顔を上げた。
 疾風を凌いだ帝王が、敵を“見上げた”。

 ――――くすくすくす。

 黒靄を従えて、祟り神は再び宙空に佇んでいた。
 金色の瞳を妖しく輝かせ、悪魔のように微笑む。

 ――――くすくすくすくす。

 囁くような嗤い声が、幾度も木霊する。
 魂を蝕むような嘲笑が、冒涜的に響き渡る。

 ――――くすくすくすくすくす。

 空中で黒靄が蠢き、影の潮流を形成する。
 まるで漆黒の後光が放たれるかのように。
 拡散を繰り返す闇を、エンダはその身に背負う。

 ――――くすくすくすくすくすくす。

 エンダは、祟り神は見下ろす。
 忌むべき敵を、その金色の眼で捉える。

 ――――くすくすくすくすくすくすくす。

 矮小なる人間を、その目で見下ろす。
 見上げているのは、闇の帝王だった。
 彼はいま、見上げているのだ。

「てめえ……ッ」
「なあ若造。私を誰だと思っている?」

 漆黒の帝王が、屈辱に顔を歪める。
 黒靄の魔神が、禍々しく破顔する。

 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。
 ――――くすくすくすくすくすくすくすくす。

 誰が“上”で、誰が“下”なのか。
 この死地にて、もはやキングは悟っていた。
 押し寄せる戦慄が、その答えを告げていた。
 ルーサー・キングに、余裕など無かった。

「躍れよ牧師。そして、惨たらしく散れ」

 不敵に笑むのは、エンダ・Y・カクレヤマだった。
 そして、激突は巻き起こる。

 鋼鉄の漆黒。混沌の漆黒。
 二つの闇が、衝突を繰り返す。
 幾度も交錯し、死線を刻み続ける。
 それは――――異常なる光景だった。

 次々に迫り来る、黒靄の奔流。
 破壊と退廃を齎す、禍々しき激流。
 全てを飲み込まんとする勢いで、嵐が押し寄せる。

 精製、精製、精製、精製、精製――。
 幾度も生み出される鋼鉄が、激流を凌いでいく。
 弾き、防ぎ、打ち、砕き、受け流し。
 災厄の渦中で、帝王は決死の攻防を続ける。
 漆黒を纏う“牧師”が、気力を振り絞る。

 襲い掛かる激流を、只管に切り抜けながら。
 キングは、悠然と佇む“祟り神の少女”を見据える。
 嵐を統べる魔女のように――エンダは、濁流の起点に立ち続ける。

 深い闇の中心で、エンダはキングを見つめる。
 琥珀のように輝く、金色の瞳を向けている。
 酷く冷徹な眼光が、牧師を射抜く。
 放たれる弾丸のように、その魂を穿つ。

 キングの腹の底から、焦燥が込み上げる。
 臓腑を掴まれるような、未知の戦慄が迸る。
 鋼鉄の装甲の下で、目を見開く。歯を軋ませる。

 ――――忌々しい目を、俺に向けるな。

 迫る瘴気を凌ぎ続けていた牧師が、徐々に押されている。
 雪崩込む黒靄の嵐を、今なお迎撃しているものの。
 それでも決して留まらぬ荒波を前に、少しずつ劣勢へと追い込まれていく。

 黒靄をその剛腕で引き裂きながらも、尚も止まらぬ奔流がキングの脇腹へと裂傷を与える。
 決死の反応で猛攻を防ぐ拳が、次第に斬撃を刻み込まれてゆく。
 超力の侵食によって、黒靄の嵐は装甲の防御さえも突破していた。

 キングは肉弾戦と並行して、鋼鉄操作をも忙しなく繰り返す。
 抉られた装甲を瞬時に修復し、更には迎撃の鉄杭や鉄弾を掃射して黒靄を穿ち、時に防壁を形成して凌ぎ――。
 数多の手数を駆使して、迫る激流をいなしていく。

 されど、時間の問題だった。
 戦況がどちらに傾いているかは、明白だった。


◆◇◆◇


 B-2、港湾。
 そこは、目的地である灯台へと隣接するエリア。
 ジルドレイ・モントランシーの襲撃に端を発し、激しい死地と化した領域。
 各所の倉庫や施設、コンテナなどには、今なお凍結の痕跡が残り続ける。

 “過去視”に導かれるように。
 安理は、我武者羅に走り続けていた。
 この先に何かがあることを悟ったように。
 彼はただ、無心で駆けていた。

 そんな安理を、理解も出来ずに追うメリリン。
 彼の超力のことは、既に聞いていた。
 恐らくは何かを感じ取っているのか。

 安理が察知したもの。彼が走り出した理由。
 その正体が何なのかは、まるで分からないけれど。
 それでもメリリンは、ただ追い続けることしか出来なかった。

 やがて暫しの疾走を経てから、安理は立ち止まる。
 そこに横たわるものを認識して、その瞳を震わせる。
 そのすぐ後ろで、メリリンもまた立ち止まった。

「――――大金卸、さん……」

 眼の前の現実を認識し、安理は呆然と呟く。
 信じられない。そう言わんばかりに、隠せぬ動揺を表情に貼り付ける。

 それは、巨躯の武人――その亡骸であった。
 その胸に風穴を開けて、堂々たる威風で仰向けに倒れている。
 既に物言わぬ姿であるにも関わらず、まるで仁王像を思わせる風格を滲ませていた。

 その名は、大金卸樹魂。
 第二回放送前に散った、武侠の漢女。
 冷徹なる放送と亡霊との遭遇によって、既にその死は知っていたとはいえ――。
 彼女の死を否応なしに理解させる亡骸との対峙は、安理に確かなる衝撃を与えた。

「これって……初代の“デザーストレ”?」

 呆然と佇む安理のそばで、メリリンが呟く。
 十数年前、中南米でも数々の伝説を残したとされる“初代デザーストレ”。
 メリリンもその噂は耳にしていた。裏社会では神話の如く扱われる存在だった。

「噂には聞いたけど……本物は、初めて見た……」

 まるで龍や鬼の実在を目の当たりにしたように、メリリンは漢女の亡骸を見下ろす。
 実際に相対したこともなければ、刑務所で顔を合わせたこともない。
 だからこそ物言わぬ漢女の放つ風格に、どこか怯むような感情を抱いていた。

 安理は、ゆっくりと漢女の亡骸へと歩み寄る。
 膝をついて、死体の様子を見つめて――彼女の顔へと触れる。
 そして、その死を悼むように、安理は見開かれた漢女の瞼を下ろした。
 鬼神のような表情で倒れていた漢女は、安らかに眠るような面持ちへと変わる。

 彼女を見下ろす安理は、その瞳に哀悼の意志を宿す。
 冥福を祈るように、彼もまた黙祷を捧げていた。

「ちょっと待って」

 その時、メリリンが気づく。
 樹魂の遺体――その首元へと視線を向けていた。

「それ……首輪、取れる?」

 唐突な問いかけに、安理は思わず戸惑うも。
 メリリンの疑問に答えるように、彼は樹魂の首へと触れる。

 ――首輪に触れ、少しだけ力を入れて引っ張ると。
 避けるように鉄が抉れた部分から、首輪を外すことが出来た。
 その様子を驚きながら見ていたメリリンは、ある疑問に行き着く。

「首輪、壊れてるの?」

 首の切断を行わず、首輪を物理的に外す。
 それは即ち、首輪自体が破損していることに他ならない。

 戸惑うようなメリリンの問いかけに対し、安理もまた言葉に迷うように沈黙する。
 どう言語化すべきなのか――暫く迷ってから、やがて有りの儘に状況を伝えることを選んだ。

「…………壊れてます」

 安理はそう伝えて、おずおずと首輪を手渡す。
 渡された首輪をその眼で見下ろして、メリリンはその異常事態を明確に認識した。

「ウソでしょ?」

 メリリンは動揺を隠せない態度で声を零す。
 そのまま取り留めもない様子で、言葉を続ける。

「首輪には確実にシステムAが備えられてる。
 超力による破壊や解除は受け付けないはず」

 ブラックペンタゴンで幾つかの首輪を検分した。
 超力による干渉、あるいは物理的破壊はまず不可能だった。

「私が調べた限りでも、力尽くで壊せるような代物じゃない。
 そもそもこんな壊し方したら、爆弾が作動したっておかしくないのに」

 ブラックペンタゴンの死闘においても、戦闘で首輪が破損する事態は確認されなかった。
 どんな激戦であろうと、どんな衝撃と暴力に曝されようと、首輪は機能を続けていた。

「なんていうか、訳が分からない……。
 この女は、なんでこれを壊せたの?」

 それが、筋肉で破壊されるなど――――。
 異常事態としか言いようがなかった。

「彼女なら」
「え?」
「大金卸さんなら、多分できるんですよ」

 驚愕に震えるメリリンに対し、安理がぽつりと呟く。
 呆気に取られる彼女だが、安理は半ば確信を以て言っている。

 安理が漢女と関わったのは、ほんの短い一時。
 イグナシオを通じて接触し、無謀な一騎打ちを挑み。
 そうして自分に、強さという一つの道を示してくれた。

 半日足らずの短い交流でしかない。
 それでも安理の記憶には、その生き様が焼き付いていた。

「あの人は、そういう人なんです。
 正真正銘の“超人”ですから」

 大金卸 樹魂なら、できる。できるのだ。
 そうとしか言いようがないのである。
 その断言を前にして、メリリンは茫然とする。

 怪物としか言いようがない。
 完全に理解の外側にある事態だった。
 かの“漢女”とは、これほどの逸脱者なのか。

 あのブラックペンタゴンの死闘で、メリリンもまた“漢女の亡霊”を目の当たりにしたとはいえ。
 まさか生身を以てこれほどの奇跡を成し遂げるなどとは、想像もしていなかった。
 そんな漢女とローマンが刑務開始直後に対峙していることなど、彼女は知る由もない。

 そうして呆気に取られていた中で。
 メリリンは、あることに気づく。
 その手に握っていた、樹魂の首輪。

 その違和感を感じ取った瞬間。
 彼女は驚くように、首輪をじっと見つめた。

 暫しの間、凝視し続け。思案し続け。
 そのことに気づいた瞬間、メリリンの脳裏に電流が走る。
 そして得心が行くように、彼女は安理へと視線を向ける。

「……アンリくん。礼を言うわ」

 よくぞ見つけてくれた、と。
 その眼差しが、安理へと訴えかけていた。
 棚から牡丹餅と言うべき、思わぬ僥倖。
 それは紛れもなく、メリリンに道を指し示していた。

 なぜ首輪の解除が滞っていたのか。
 システムAによる防御が施され、内部構造を一切解析できなかったからだ。
 故に幾らサンプルを掻き集めようとも、ジリ貧になる可能性が高かった。

 しかし――樹魂の首輪は、違った。
 物理的に破壊されているからこそ。
 超力が、問題なく通るのだ。

「最高のサンプルを見つけられた」

 今、メリリンは見つけたのだ。
 破損状態のサンプル――即ちシステムAと爆破機能を無効化した首輪を。
 樹魂の首輪には、メリリンの超力が通用する。その構造を解析できる。

 あのブラックペンタゴンで、サリヤ・K・レストマンは言った。
 ただの爆弾付きの首輪ならば、メリリンの手で外すことができる。
 そう、全てはシステムAによって阻まれていたのだ。
 本来ならば、メリリンの手でその構造を読み解くことが出来る。

 サリヤは、メリリンの相棒だった。
 メリリンの才覚を、その目で見続けてきた。
 メリリンの超力が、メルシニカに技術を齎した。
 組織運営の根幹となるメカニックとして、その能力を振るい続けた。
 故にこそ、サリヤの評価には紛れもない確信が伴っていた。

 メリリンならば、首輪を外せる。
 それは、決定的な道理だった。

 メリリンは、破損した首輪に触れる。
 超力によって、その内部構造を黙々と読み解く。

 爆弾の仕掛け。システムAの作用。電子回路の仕組み。
 恩赦ポイントを記録するチップ。外部からの電波を受信する装置。
 外装となる鉄の接続部。それに基づく、解除方法の手がかり。

 それまで読み解くことのできなかった情報。
 それらが、メリリンの脳内に流れ込んでくる。

 首輪無力化の可能性は、小屋へと向かう面々が握っている。
 彼らの活躍次第では、首輪解除を通過できる可能性もある。
 しかし――それでも、勝機は一つでも多く稼ぐべきだった。
 万に一つの可能性。それらを積み重ねることには、意味がある。

 ここで挑む価値があるのなら、挑むべきであると。
 メリリンは、確信を以て思う。

 樹魂がいなければ、この状態の首輪は確保できなかった。
 安理がいなければ、樹魂の亡骸の存在を察知することは出来なかった。
 メリリンがいなければ、破損した首輪の解析に臨むことは出来なかった。
 トビが仕掛けた“脱獄”への結託がいなければ、きっと灯台に向かうことも無かった。
 サリヤが遺した情報がなければ、脱獄への道筋が指し示されることも無かった。

 幾重にも交わった偶然。受刑者達の行動が生み出した収束点。
 その果てに、奇妙な運命が転がり落ちた。
 メリリンの目の前に、最後の一手が与えられたのだ。

「メリリンさん……」
「ねえ、アンリくん」

 案ずるように呼び掛ける安理。
 そんな彼に対して、メリリンは振り返る。

「無茶かもしれないのは分かってる。
 その上で、聞かせてほしい」

 腹を括るように、メリリンは告げる。
 明確な意思を宿して、覚悟を決めていた。

「少しだけ時間を取らせて」

 そして、一呼吸を置き。
 メリリンは、はっきりと宣言する。


「15分でやってみせる」


 それは、一つの戦いへと挑む決意表明だった。
 安理は、その言葉の意味を理解していた。
 動揺と驚愕に怯んで、暫しの沈黙に浸る。

 灯台の禁止エリアが作動するまで、時間は刻々と迫っている。
 他にシステムへと干渉する可能性のあるエンダが到着する見込みがない以上――。
 ここで足を止めることは、明確なリスクとなる。
 仮に失敗すれば、全てが水の泡となる可能性がある。

 それでもメリリンは、じっと安理を見据える。
 自分に命を預けてほしいと、その眼差しで訴えかける。
 強い決意を秘めた瞳が、安理を射抜く。

 そんな彼女の眼を、安理もまた見つめる。
 幾ばくかの思案に耽り、迷いを抱きながらも。
 やがて安理は、意を決したように頷いた。

 ――可能性に賭けることには、意味がある。
 安理はそれを理解していた。それを知っていた。
 イグナシオ・フレスノも、自分という存在に賭けてくれたのだから。


◆◇◆◇


 あのルーサー・キングが、押されている。
 圧倒的な実力を誇る帝王が、押されている。

 それはまさしく異常事態だった。
 それはまさしく異様な光景だった。

 かの帝王を、追い詰めていく。
 それを成し遂げるのは、最早尋常の者ではない。
 大魂卸 樹魂に続く、壮絶な御業である。
 それを成し遂げるのは、エンダ・Y・カクレヤマだった。

 アビスとは、魔境だ。
 悪と闇の収束点、すなわち深淵である。
 帝王の理外に立つ怪物さえも、次々に姿を現す。

 キングは、裏社会の支配者である。
 世界の制覇を目指す巨悪である。
 しかし、世界の深淵を識る者ではない。
 仕組みに根を張ることを選んだこの男は、社会の枠組みを超えられない。

 ――その現実が、今まさに立ちはだかっている。
 この帝王の前に現れたのは、まさしく異邦者(アウトサイダー)である。
 もはや人の枠組みさえも超えた怪物と、彼は対峙してしまったのだ。

 荒れ狂う混沌。襲い来る禍津。
 夥しい程の黒靄が、絶え間なく襲い続ける。
 災厄に等しい奔流が、次々に雪崩れ込む。

 それでもなお、キングは全力を振り絞って拮抗を続ける。
 その超力と体術、そして己が直感を駆使して、“未知”を相手に喰らいつく。
 それは帝王の矜持か。あるいは、本能的な抵抗か。
 キングは激しく躍動し、鬼気迫る修羅のように戦い続ける。

 エンダもまた、その冷酷な仮面の下で。
 眼前の敵に、全身全霊を込めて集中する。
 呼吸を整えて、意識を研ぎ澄ませる。

 彼女は今、悪神として振る舞う。
 目の前の帝王を屈服させるために。
 その力を、その魂を、制するために。
 帝王に付け入る隙など与えない。
 自らの心を、仮面によって覆い隠し。
 ただ敵を無慈悲に蹂躙する神格となる。

 あらゆる気力と権能を振り絞って。
 この男は、絶対に止めねばならない。
 故にこそ、エンダは魔性を演じる。

 決して逃さない。
 決して邪魔はさせない。
 アンリ達を追わせたりはしない。
 仁成を狙わせたりはしない。

 例え悪鬼になろうとも。
 例え化外の如くなろうとも。
 己がここで、必ず“牧師”を食い止める。
 お前に、私達の道を踏み荒らさせない。
 私達の“夢”を、涜させたりはしない。


(だから、お前だけは――――)


 そう、お前だけは。
 ここで仕留めなければならない、と。
 エンダは、己の思念を滾らせる。
 人ならざる神は、決意の炎を燃やす。
 理外の存在は、己の覚悟を振り絞る。

 何故エンダは、これほどまでに超力を高められたのか。
 縁沱を死に至らしめたドン・エルグランドとの戦闘でも、黒靄はここまでの出力とはならなかった。
 彼女の操る権能は、最早“到達者”である牧師を追い込むほどに至っている。

 黒靄は、今も脈動を繰り返す。
 激しく。荒々しく。悍ましく。忌まわしく。
 漆黒の帝王を、真正面から追い詰めている。

 壮絶な超力の高まり。
 それほどにキングを恨んだか。
 それほどに帝王を憎んだか。
 それもまた、要因ではある。
 しかし、それだけではない。

 ――――“小さくて、無垢で”。
 ――――“でも、あなたにとっては世界のすべてだった人”。

 脳裏をよぎるのは、ブラックペンタゴンでの遣り取り。
 自らの過去を覗き見た龍人の青年、北鈴 安理。

 ――――“その人を喪って、立っていられないほど絶望していた”。
 ――――“そんなあなたの心が……苦しくて”。

 見ず知らずの自分と縁沱のために、彼は涙を流した。
 哀しみに共鳴し、寄り添い、慈しんでくれた。
 あの顔が、あの言葉が、記憶に焼き付いていた。

 そして、もうひとり。
 掛け替えのない意思が、浮かび上がる。

 ――――“僕が君と出会い、心を取り戻したように”。
 ――――“君もどうか、人を愛してほしい”。

 この地の底で、ずっと行動を共に過ごした青年。
 この煉獄の渦中で、常に隣にいてくれた青年。

 ――――“これは、僕からの願いだ”。

 只野 仁成。その姿が、脳裏に蘇る。
 鮮明に、瑞々しく、記憶の色彩に浮かぶ。

 エンダの金色の瞳に、感傷が宿る。
 慈しみの色彩が、静かに込められる。
 悪しき神としてではなく、一人の少女として。
 彼女は、よぎる記憶に想いを馳せる。

 そしてエンダは、ふいに“ある男”を振り返った。
 錆びた鉄屑を身に纏った、廃材の騎士。
 次に会う時は必ず殺すと、敵意を以て伝えた相手。
 己の恨みの矛先となった、一人の悪童。

 男はエンダの怨嗟を受け止めて、その意思を否定せず。
 ただ“受けて立つ”と、己が向けた逆恨みを飲み込んだ。
 あの男は、反論も抵抗もせず、折り合いを付けることを選んだ。

(なあ、“鉄の騎士”)

 お前はあの時、何を思っていた。
 お前はあの時、何を感じていた。
 お前はあの時、私の悲嘆を汲んでいたのか。

 あの男と、再び生きて会うことがあれば。
 少しだけ、語らいたいことがある。
 それは恨みでも、憎しみでもなく――。
 あの男が背負ってきたものについて、知りたかった。

 縁沱以外の人間なんて、元々はどうでもよかった。
 彼女だけが全てで、彼女を守ることだけが目的だった。
 脱獄を目指したのも、元は縁沱の為でしかなかった。

 優しい彼女の夢を守るために――。
 例え自分が、彼女のように成れなくても。
 せめてその祈りだけは背負いたいと願っていた。

 けれど。今は違う。
 きっと今は――今は、もう。
 縁沱と同じものを、この手に握っている。

 仁成たちが、この胸に宿っているから。
 牧師を追い詰めるほどの力を引き出せている。
 エンダはそれを、確信していた。

 ――――只野 仁成。
 “神”に寄り添った“人”の祈りは、既に実を結んでいた。
 他ならぬ彼が、その道を切り開いたのだ。
 道を歩み続けた神は、地平線へと辿り着いていた。

 ヒトを愛せなかった、一柱の神が。
 今ここで、誰も知らぬ死地にて。
 自らの“魂の贖罪”を果たす。

 そして、それ故に神は。
 エンダは、もはや。
 忌まわしき怪異ではいられない。
 無慈悲なる悪神ではいられない。

 黒靄の動きが、突如として鈍った。
 そのとき、エンダの表情が変わった。
 茫然とした顔で、目を見開いていた。
 彼女は今、“それ”に気付いてしまった。


「――――――、」


 その両手が、黒い瘴気に染まっている。
 腕の白肌が、闇色に塗り潰されている。
 まるで樹木が寿命を迎えて、朽ちていくかの如く。
 黒く変色した両腕は、一切の感覚を喪っていた。

 何が起きている、と。
 エンダは唖然として、目の前の事象を見つめる。
 腕に力が入らない。まるで屍体のように枯れている。
 腕を蝕む黒い瘴気が、肌の上で徐々に範囲を広げていく。
 じわり、じわりと。腕から肩部へと、侵食が伸びていく。

 動揺と焦燥に駆られるエンダ。
 そのとき彼女は、不都合な答えを悟る。

 縁沱の肉体は、既に死んでいる。
 少女の魂は、既にこの地から喪われている。
 だからこそ――――限界が訪れた。
 祟り神の操る呪詛に、器が耐え切れなくなっている。

 魂や神秘を知覚し、干渉する超力と言えども。
 それは死という結末そのものを覆す力ではない。
 エンダが守ろうとした少女は、もう何処にもいない。

 ここに立つ縁沱は、魂なき器に過ぎない。
 その魂の欠落を、土地神が埋め合わせているに過ぎない。
 故にこそ、肉体は時間と共に摩耗へと至る。

 土地に災いを齎したと畏れられ、信仰によって鎮められてきた祟り神。
 山折の思念を受け継ぎ、多くの無念と怨恨を取り込んだ“神の残骸”。
 それは紛れもなく、人の身には余る呪縛だった。

 ――エンダという土地神は、縁沱以外の人間に 憑依し続けることが出来ない。
 祟り神としての怨念や呪詛に耐え切れず、肉体が“喰い潰される”からだ。

 エンダが現界を果たしているのは、ひとえに縁沱という巫女がいたからに他ならない。
 縁沱がその身にエンダを宿すことが出来たのは、“霊的な存在に干渉する超力”によって共生を叶えたからだ。

 縁沱の魂なき今、その超力もまた喪われている。
 少女の肉体に遺された超力の残滓によって、エンダは憑依を続けていたが。
 その限界のときは、刻々と迫り始めていた。

 魂と超力を失った肉体は、元より土地神の憑依に耐え切れない。
 祟り神の呪詛を制御できず、遅かれ早かれ朽ち果てていく定めだった。

 そして今、最大出力の超力行使により、器の寿命は着実に削られていた。
 仮にこの戦いを生き延びたとしても――縁沱の身体は間もなく“呪い”に喰い潰されるだろう。

 その現実を目の当たりにして。
 祟り神は、己の不吉を呪った。

 ――――ああ、くそ。
 ――――また、こうなるのか。

 エンダは、己を嘆く。
 自らの無力を、ひどく蔑む。

 ――――いつも、私は無力だ。
 ――――“この子”の未来を奪った挙句。

 間違いから産まれても人は変われる。
 正しく生きることには意味がある。
 わたしたちが一緒なら、きっと大丈夫。
 そう願ってくれた縁沱に、応えられないのか。

 ――――“この子”を守ることさえ出来ない。

 肉体が、朽ち果ててゆく。
 肉体が、摩耗の末に限界を迎える。

 エンダの胸中に生じたものは“躊躇”だった。
 自らの戦いが縁沱を終わらせる。縁沱という肉体を枯渇させる。
 怨念の臨界点に至ることで、縁沱としての歩みは終焉を迎える。
 その迷いがエンダを踏み留まらせる。その超力の行使を、躊躇わせる。

 そして、それこそが。
 この死闘における致命的な隙となる。

 出力が低下した黒靄の激流を突破し、漆黒の怪物が疾走する。
 駆け抜ける闇が、圧倒的な暴威と化す。
 まるで重機関車のように突き抜ける影が、猛烈な勢いでエンダに衝突した。


「が、ッ――――」


 凄まじい衝撃に曝され、エンダの身体が宙を舞う。
 先程までの禍々しき威容とは、まるで違う。
 その腕を黒く染めて、瘴気に蝕まれながら――。
 帝王の攻撃を前に、成す術もなく吹き飛ばされる。

 黒靄を操る――怨恨の思念で、強引に出力を引き出す。
 吹き飛ぶエンダの身を、展開された黒靄が空中で咄嗟に受け止める。
 そうして滞空状態のまま、エンダは必死に黒靄を操作する。

 数多の黒靄が触手の形状を取り、鞭のように何度も振るわれる。
 だが――――動作も強度も、精細を欠いている。
 先程までの攻撃と比べれば、あまりにも脆弱で、乱雑だった。
 四肢の摩耗と共に、超力の制御も崩れている。
 何よりも、エンダ自身が全力の行使を無意識に踏み止まっている。

 黒鉄の刃が、地上より無数に殺到する。
 キングが精製した鋼鉄の嵐が、次々に放たれる。

 刃の雨に曝される、黒靄の触手。
 その形を保つことも適わず、無残に引き裂かれていく。
 あるものは断ち切られ、あるものは煙のように崩れ落ち。
 猛威を奮い続けたはずの呪詛が、帝王の反撃を浴びていく。

 目を見開き、無我夢中で黒靄を使役するエンダ。
 歯を食いしばって、焦燥を噛み殺し。
 血眼になるほどの気迫で、帝王に黒靄を差し向けんとする。

 禍々しき瘴気は、不安定に揺らぎ続ける。
 酷く歪んで、朧げに、流動を繰り返す。
 制御が崩れる。全力を出し切ることも出来ない。
 自らの呪詛が、縁沱の器を蝕むことに気付いてしまったから。

 キングは、もはや何も言わない。
 嘲笑うことも、侮蔑することもなく。
 意趣返しの言葉を吐くこともしない。
 ただ沈黙を貫いたまま、彼は動いていた。

 眼前の敵を殺す。眼前の怪物を仕留める。
 形振りなど構わない。確実にこの手で始末する。
 帝王の胸中に、余裕などない。
 敵が隙を見せた、敵の猛攻が緩んだ。
 ならば――――今が好機に他ならない。

 牧師が、その場から跳んだ。
 大地を震わせるほどの脚力を振り絞り。
 その凄まじい瞬発力によって、跳躍した。

 エンダが我武者羅に放った黒靄の嵐。
 それをキングは、黒鉄の装甲によって真正面から穿つ。
 跳躍と共に空中へと突撃し、嵐を突き抜けていく。
 出力も精度も、先程までとは大きく劣る。
 もはや恐るるに足りない。帝王の進撃を阻むことは出来ない。

 失われていく四肢の感覚。揺らいでいく五感。
 迫り来るのは、漆黒の帝王――ルーサー・キング。
 それでもエンダは、足掻き続ける。
 迫るキングを、睨むように見据えて。
 決死の覚悟を振り絞り、黒靄を使役し続ける。


「終わりだ、ヤマオリの悪霊」


 されど、次の瞬間――。
 消えゆく感覚の中で、鋭い熱が襲いかかる。
 そしてエンダは、吹き飛ばされた。

 視界を覆い尽くすのは、闇のような鋼鉄。
 その身に浴びたのは、強烈なまでの衝撃。
 黒靄を差し向けるよりも先に、キングの攻撃が到達したのだ。
 突進と共に振るわれた右手が、エンダの身を引き裂いた。

 少女の身体が崩れ落ちる。虚空から堕ちてゆく。
 黒く蝕まれていった肉体は、赤い鮮血に染まる。


◆◇◆◇


 首輪――――正式名称“ガダルカナル1号”。
 未だ正式に量産化されていない特務用頸部拘束装置、その試作機である。 
 その名はかつてGPAアジア支部の科学者“シエンシア”が主導し、極東の旧X国・領地内の孤島で行われた極秘戦闘実験のコードネームに由来する。

 装着者の身体変化能力にも対応する特殊な形状記憶合金によって構成され、内部にはセンサーで作動する小型爆弾を搭載。
 合金の外装そのものにシステムA子機としての機能が搭載され、超力による破壊行為を完全遮断する仕組みを持つ。

 更には如何なる衝撃や熱量に曝されようとも一切の故障を起こさない、異次元的な頑強性を備える。
 受刑者同士の激戦が繰り広げられたこの刑務においても、機器の誤作動は一度たりとも起こしていない。
 製造・技術面のコストと人道的問題さえ解決すれば、システムA手錠の後継機にもなり得るとも目される逸品である。

 ただし今回の刑務に際して、首輪には欠点が存在する。
 それは“刑務を運営する実世界”と“システムBによって構成された異世界”の中継が困難であることだ。
 世界創造の超力システムは最大級の機密事項であり、未だ研究段階にある。
 異なる次元間での安定的な交信の技術は、今なお確立されていないのだ。

 だからこそ刑務中は異世界内部で完結できる仕組みが必要だった。
 そして、異世界と実世界を中継するための仕掛けが必要となった。
 それが会場内部に用意された“システムABCの親機”であり。
 首輪やデジタルウォッチを機能させ外世界と中継するための“施設”である。

 受刑者を縛る首輪というカラクリは、異空間の中で独立している。
 例え外部からの支援が無くとも、単独で機能する枷として存在する。
 それ故に、アビスによる監視を一歩遅らせる。そこに隙がある。

 マーキングを行えば対象が如何なる空間に存在しようと状態を把握できるオリガ・ヴァイスマン。
 座標さえ認識すれば異世界だろうと物資を転移させられるミリル・ケンザキ。
 運営機能による補助もあるとはいえ、彼らが次元を超えて異能を行使していることは紛れもなく“異常”なのだ。

 それこそが超力という奇跡であり、魂を根源とする人類の祝福である。
 しかしそれは結局のところ、仕組みではなく――個人の力に過ぎない。

 ヴァイスマンは、支配の怪物であり。
 されど、決して完璧な機構ではない。
 あくまで刑務の根幹を握るのは、それを運営するシステムだ。
 だからこの勝負は、システムと人間の戦いとなる。

 メリリンはシステムに挑んだ。
 システムとは、メカニズムだ。
 彼女は知っている。
 機械ならば、壊れないものは存在しない。


 ――――集中。集中。只管に、集中。
 ――――メリリンの意識が、鋭敏に研ぎ澄まされる。


 深呼吸を繰り返す。意識を集中させる。
 目の前の状況に、全ての感覚を向ける。
 呼吸と知覚を繰り返して、己の脳を調律する。

 猫背の姿勢で、屋内に座り込んでいる。
 俯きがちの視線で、手元の首輪を見下ろす。
 機械と自分。一対一の遣り取りだ。
 孤独に、黙々と、彼女は作業へと没頭する。

 メリリンはまず、安理に頼んだ。
 “一人にさせてほしい”、と。
 そして彼女は、適当な倉庫を見繕った。
 夜の闇に包まれたコンテナの片隅で、彼女は作業を始めた。

 かつてのメリリンもそうだった。
 狭くて薄暗い空間に、自分という存在を沈める。
 独りぼっちになって、ひたすら作業に打ち込む。
 それこそが彼女にとって、最高のコンディションを引き出す。

 メルシニカにいたとき。
 メリリンは頻繁に、専用のラボに引きこもっていた。
 そんなメリリンを引っ張り出す役目を担うのが、サリヤだった。

 ――――“また引き籠ってるの?メリリン”。
 ――――“貴女の能力は信頼してるけれど”。
 ――――“皆が待ってるから、たまには顔を出して”。

 サリヤや組織の面々との遣り取りで、相当マシになったけれど。
 本来メリリンは内気で、根暗で、インドアな人間なのだ。
 そんな自分を振り返って、メリリンは自嘲する。

 メルシニカに入る前も、同じ。
 機械工の両親に構ってもらえず、二人が行う作業を目で見て模倣していた。
 両親はいつも仕事に打ち込んでいたから、メリリンは一人で機械弄りに没頭した。

 ――――パパもママも、生き方は教えてくれなかった。
 ――――けれど、この技能だけは受け継いだ。
 ――――機械だけが、私に何かを教えてくれた。

 裕福な環境でもなかったし、結局両親の事業は破綻したから、その後はストリート暮らし。
 狭く薄暗い部屋。路地裏の片隅、廃墟の屋内。メリリンの作業場は、いつだって孤独だった。

 だから今こそが、最高のポテンシャルを発揮できる。
 機械技師(メカーニカ)として、最高のコンディションで作業できる。

 両手に握るのは、二つの道具。
 針金のように小さなドライバー。
 精密動作に使う工業用ピンセット。
 廃材の欠片に超力を施して作り出した、即席の工具である。

 ――これだけでいい。余計なものは必要ない。

 内部構造は既に把握し、頭に叩き込んでいる。
 構造そのものは単純。だからこそ堅牢なのだ。
 大仰な道具を揃える必要などない。
 この首を拘束する枷を外す為には、これで十分だった。
 一体自分が、どれだけの機械に触れてきたと思っている。

 深呼吸を繰り返す。自らの意識を集中させる。
 左手のドライバーを操り、己の首輪の“断面”へと触れる。
 超力で生み出したものとは言えど、それ自体はあくまで純粋な物質。
 如何に超力を阻害するシステムといえども、物理的な解体そのものを防ぐことはできない。

 首輪のシステムAは、ブラックペンタゴンの外壁と同じ。
 あくまで外装部を覆う形でコーティングされ、外部からの超力行使を防いでいる。
 故に外部を物理的に解除することができれば、内側には超力を通すことができる。

 自らの頸部に巻き付いてる以上、正確な視認は困難。
 しかし、それが何だというのか。
 内部構造は完璧に記憶している。
 自分はただ、その記憶を引っ張り出せばいい。
 記憶の中に地図があれば、問題なく作業できる。

 ゆっくりと、ゆっくりと――手元を動かす。
 ごくりと息を吞む。緊張が迸る。汗が頬を流れる。
 胸中を激しい焦燥が駆け抜けていく。だというのに。
 何故だかメリリンは、言い知れぬ高揚を抱いていた。

 解き明かせるのだ。このカラクリを。
 挑めるのだ。このカラクリに。
 彼女の知的好奇心が、火花のように弾ける。
 恐怖と綯交ぜになった快楽が、後押しする。

 メリリンもまた、正道から外れた人間である。
 だからこそ、この一線で己を貫き通すことができる。
 正気と狂気の狭間――その鬩ぎ合いを、楽しむことができる。

 かちり、と音がした。
 外装となる表面。その一部が外れた。
 小窓のように、ほんの一か所。
 されど電子回路が、確かに顔を覗かせた。

 内部構造さえ知ることが出来れば、弄るのはそう難しくはない。
 仮に他の受刑者が破損状態の首輪を確保したとしても、その仕組みを理解することは難しかっただろう。
 しかし、メリリンならば理解できる。それを読み解くことができる。

 首輪はその堅牢性ゆえに、破損を想定されていない。
 だからこそ、漢女が死に際に成し遂げた所業は異常だったのだ。
 それをメリリンが確保することも、イレギュラーの事態だった。

 爆弾さえ無効化すれば、この首輪は強制力を失う。
 メリリンはゆっくりとピンセットを動かす。
 電子回路に細工を行い、爆破信号そのものを無効化せんとする。

 剝き出しになった回路に触れる。
 ピンセット越しに、自らの超力を行使する。
 もはやシステムAの外装は突破した。
 後は、純粋な機械細工でしかない。

 ほんの少しでも仕組みを弄ることができれば、首輪はどうにでもなる。
 爆破機能は最重要攻略対象。監視の仕組みも妨げられれば重畳。

 首輪は、異世界の中で独立した機構を持つ。
 アビスが首輪を監視する為には、あくまで中継地点による経由が必要となる。
 だからこそ、僅かなタイムラグが生じる。
 首輪の正確な状態を把握するまで、一定の遅延が生じる。
 故に、首輪解除の作業が成立する。


 ――――ピッ。


 その時、メリリンの首輪から音が鳴った。
 何かを感知する、不穏な音だった。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。


 センサーのような、不吉な音色。
 剥き出しになった回路から、それは響く。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 それが何なのか、メリリンは即座に理解する。
 ――起爆装置の作動。爆破を予告する警報。
 首輪の異常を回路が察知した時点で、自動発動する仕掛けになっているのだ。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 これしきの仕掛けは、既に読んでいた。
 首輪の解除へと挑めば、きっと立ちはだかることになる。
 その程度の仕掛けは、既に察していた。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 だからこそ、メリリンは集中を切らさない。
 恐らく猶予は禁止エリアと同様か、それ以下。
 良くて数分程度。それだけの時間を貰えるなら慈悲深いくらいだ。
 仮にこの起爆が一瞬で行われていれば、彼女はとうに死んでいる。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 集中しろ、集中しろ。メリリンは自己暗示を繰り返す。
 無機質な爪先で、首輪の回路を弄り続ける。
 この起爆装置さえ細工できればいいだけのこと。
 後は何も問題ない。それさえ果たせれば。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 その時メリリンは、目を見開く。
 警報が、今なお止まらない。
 無慈悲な音は、ただ粛々と鳴り続ける。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 規則正しい旋律が、その首で響き渡る。
 システムAは突破した。超力の行使は問題なく行われている。
 既に警報が止まっていなければ可笑しいはずだ。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。
 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 音は、鳴り止まない。
 音は、無慈悲に繰り返される。
 メリリンは、ひとつの可能性に行き当たる。


 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。
 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。
 ――――ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 爆弾自体が、単独で機能している。
 起爆装置はあくまで爆弾を作動させるための導線に過ぎず。
 一度点火が行われれば、必ず爆破は実行される。

 領域から離脱すれば起爆しない禁止エリアの警告とは違う。
 解体という決定的な事態を前に、首輪は悲鳴を上げている。
 故に止まらない。止まろうとはしない。


 ――――ピッ。 
 ――――ピッ。 
 ――――ピッ。 


 なぜ解析の段階で気付けなかったのか。
 恐らく、その理由は単純――爆弾そのものがシステムAの子機と化している。
 例えメリリンが超力を行使しようとも、その仕掛けに気付くことはできない。
 外装のみにシステムAが施されていると判断したがゆえに盲点となった。


 ――――ピピピピピピピピピピピピピ。


 鳴り止まない。決して鳴り止まない。
 死への道を、その警報が指し示す。
 メリリンは、目を見開く。焦燥に駆られる。

 それでも、何故だか。
 その口元には、笑みが浮かんでいた。
 死の淵に立つことを、彼女は楽しんでいた。


「……はッ」


 そんな自分を、メリリンは笑った。
 自らの狂気を、可笑しげに笑い飛ばした。


 ――――ピピピピピピピピピピピピピ。


 システムAがあるから、首輪を止められない?
 だったら、解析すればいい。いつものことだ。
 どんな機械でも、壊れないものなんて存在しない。
 同じだ。これまでと、何も変わらない。


「なめんなよ」


 気が付けば、獰猛な笑みを浮かべていた。
 惚れた男と同じ、悪童の笑みだった。


◆◇◆◇


 少女は、夜の闇を見上げていた。
 少女は、血の海に沈んでいた。
 少女は、黒に蝕まれていた。

 両腕を起点に、黒靄が肉体を喰らい続けている。
 全身の感覚が、じわじわと薄れていく。
 足掻いたところで、最早どうにもならないだろう。
 瘴気に染まる身体を更に塗りつぶすように、胴体の裂傷からは止め処無く赫色が溢れる。

 エンダは、仰向けに倒れていた。
 黒と赤。二つの色彩を纏いながら。

 あと数分だけ持ち堪えていれば、勝敗は変わっていたかもしれない。
 あるいは、肉体の摩耗に躊躇さえ抱かなければ。
 せめて帝王と、差し違えるくらいは出来たかもしれない。

 そうした“仮定”がほんの一瞬、脳裏をよぎったが。
 意味のない考えであると、エンダはすぐに悟った。

 もしも、躊躇いを捨てていたなら。
 もしも、小さな迷いすら捨てていたなら。
 きっとエンダは、今度こそ“何か”を取り零すことになっていただろう。

 地響きのような足音が、エンダの耳に入る。
 彼女はゆっくりと、意識をそちらへ向ける。

「俺を……見るな」

 ゆらりと、漆黒の魔人が歩を進める。
 威厳を纏いながらも、どこか辿々しい足取りで。

「俺を、あんな目で見るな」

 ゆらりと、闇の帝王が歩み続ける。
 まるで陽炎のように、朧げな佇まいで。

「俺は、もう沢山だ」

 漆黒の装甲に覆われ、表情は窺えない。
 しかしその口からは、譫言が零れ落ちる。
 祟り神に向けられた“金色の瞳”が、脳内で残響を繰り返す。

「あいつらが、兄貴を……」

 ――支配する側と、支配される側。
 ――どちらが上で、どちらが下なのか。
 それを突きつけるような眼差しが、牧師の脳裏に焼き付く。
 彼はその目に“力”を見た。かつて刻み込まれた“力”だった。

「警官(やつら)が……俺達を……」

 正義を見限り、悪に成り果てて、全てを割り切っても尚。
 その感覚だけは、魂の奥底に爪痕を残し続けていた。
 それは恐怖であり、決して癒えぬ傷だった。

 今この瞬間。男は、過去の亡霊と化していた。
 街を巡回するサイレンの音が、その脳裏に木霊する。
 老人は、原初の感情に打ち拉がれる。

 揺らぐように佇む帝王。
 憔悴した姿で、其処に立つ牧師。
 そんな彼の様子を、エンダは掠れた視界で捉える。
 幽鬼の如く歩み寄る男を、その眼差しでじっと見つめていた。

「……ハッ」

 エンダの口から溢れ落ちたのは。
 嘲るような、嗤いだった。

 それが、巨悪の姿か。
 そんなものが、大悪党の姿か。
 全てを踏み躙ってきた男が。
 多くの悲劇を生み出した男が。
 今更、そんな有様を見せるのか。

 お前は今まで、その権威を振り翳して。
 一体、どれだけの犠牲を強いてきた。
 お前は今まで、その悪徳を掲げ続けて。
 一体、どれだけの利益を貪ってきた。
 お前の力なら、救えたかもしれない人々が。
 一体、どれだけ居たと思っているんだ。

 過去を嘆くには、あまりにも遅すぎる。
 悲劇を訴えるには、あまりにも遅すぎる。
 お前が君臨していた、この十数年もの間。
 お前は、その絶望を――何に使ってきた?

「笑わせる、なよ」

 その声に、純然たる怒りを込めて。
 エンダは、キングへと吐き捨てる。

 帝王は、横たわる少女の眼前で足を止める。
 突き付けられた言葉に、意識を縫い留められるように。
 そんな男を見上げて、エンダはゆっくりと口を開く。

「お前は、結局何も変えられない」

 何も変えられない――否。
 この男は、何も変えようとはしていないのだ。

「人を救える力があるのに、お前は人を救おうとしない」

 これだけの力を手に入れても、彼は世界の在り方を変えない。
 誰も救わないし、誰かを救う勇気も持たない。
 それが、ルーサー・キングであると。
 祟り神は、その慧眼によって見抜く。

「世界が過ちであると信じなければ、お前は立っていられないんだ」

 何故ならば、彼は“そうあるべき”と望んだから。
 自らの失意に折り合いを付けるために、彼は世界を否定した。
 世界は間違っている。これからも間違い続ける、と。
 頂点に立つ力を持ちながらも、男は何も変えようとはしない。
 ただ権威を振り翳して、歪な構造の再生産に勤しむだけだ。

「絶望と諦念の前に屈して、妥協の道を選んだ……それがお前だ」

 男は不条理の上に立ち、支配と搾取だけを繰り返す。
 間違った世界を維持する“仕組み”になることを選んだ。
 そこに革新の意志なんて、一欠片もない。
 間違いを正すという、決意さえも存在しない。
 あるのはただ、何も変えられないと諦めた“停滞”だけ。

「“キング牧師”とやらが夢見た理想には、余りにも程遠い」

 その在り方は、“帝王”ではない。
 ましてや、“牧師”ですらない。

 圧倒的な力と権威を手にしたにも関わらず。
 世界を変える意志も、人を救う勇気も持たないのだから。

 誰かを慈しみ、誰かの為に戦おうとする。
 仁成や安理のような人間には、遠く及ばない。

 ――――“たとえ間違いから生まれたモノであっても、人は変われるんです”。
 ――――“正しく生きようと願うことが、無価値である筈がない”。

 始まりが間違っていても、変わることができると胸を張って。
 誰かを愛し、誰かを救おうとした、縁沱の足下にも及ばない。


「ルーサー・キング。お前は、ただの下衆だ」


 エンダは、眼前の男を否定する。
 確固たる意志を以て、その言葉を突きつける。

 それは夜上 神一郎も見抜いた、牧師の本質だった。
 それこそが、彼の悪徳であり――罪の形だった。
 その弱さを超えなければ、魂の救済は得られず。
 しかし男は、あくまで“仕組み”の頂点に立つことを選んだ。
 故にこそキングは、悪だった。

 キングは、何も言わない。何も答えない。
 突きつけられる罪を、棚に上げるように。
 ただ無言のままに、その右腕を振り上げる。
 横たわるエンダを見下ろし、鋼鉄の拳を握り締める。

 憤りと、幾許かの憐れみを込めた、少女の眼差し。
 沈黙の中で、それを睨むように見据えてから。
 やがて男は――その命を奪うべく、拳を振り下ろした。





「やっと見つけたぜ。クソッタレが」





 そのとき少女(エンダ)は、目の当たりにした。
 吹き抜ける“一陣の風”を、眼に焼き付けた。
 黒と紅。獰猛なまでの色彩が、電流のように迸る。

 けたたましく轟く爆音。大地を揺るがす衝撃波。
 スパークを纏った“破壊衝動”が、吹き荒れる。
 疾走する衝動が、黒鉄の帝王を横合いから飲み込む。

 乱入者からの奇襲攻撃に対し、キングは咄嗟に防御態勢を取った。
 しかし、その凄絶な破壊力を削ぐことは出来ず。
 装甲に覆われた巨躯は、そのまま勢い良く吹き飛ばされた。
 それは紛れもなく、渾身の一撃だった。

 霞む視界で、エンダは見届ける。
 咆哮を上げる波動を、その瞳に捉える。
 猛々しく現れた男を、その目で認識する。

 銀色の髪と、褐色の肌。
 顔に刻まれた、一筋の古傷。
 機巧仕掛け、鋼鉄製の右義手。
 口元には、不遜な笑みが浮かぶ。

 その男は、颯爽と舞う。
 不敵な佇まいで、死地に降り立つ。
 鋼の右手に、破壊の熱量を纏いながら。

 “その男に、決して敵対してはならない”。
 ストリートの不文律。裏街道に刻まれる掟。
 あの衝撃が、あの威力が、それを裏付ける。
 破壊衝動の放出――男の超力が、全てを物語る。

 獰猛な笑みと共に、男は戦場へと現れる。
 “若きギャングスター”が、舞台へと躍り出る。
 その身から気迫を放ち、悪童は訴える。

 ――――刮目しろよ老耄。
 ――――俺を、誰だと思ってやがる。

 その男は、叛逆の申し子。
 その男は、歪なる秩序の破壊者。
 帝王の支配に抗う、孤高の悪童(スクラッパー)。

 忌まわしき怪物達(ビューティフル・ピープル)を超えて。
 神をも穿つ“魔弾の射手”が、この死地に立つ。
 今ここに、歯車を打ち壊す者が現れる。


「なあ。聞かせてくれよ」


 “Liberty or Death”。
 選択しろ。自由か、死か。


「断頭台に立つ気分はどうだ、キング」


 自由の息子達よ、立ち上がれ。
 衝動のままに生きろ、ネイ・ローマン。
 “鋼鉄の融点”へと、その身で挑め。


◆◇◆◇


 そもそもなぜ、この刑務において“超力の変質”が幾つも確認されたのか。
 世界的に極めて希少とされる“到達者(プレシード)”の新たな覚醒者が、なぜ複数名に渡って出現したのか。

 その答えは、明白にして単純明快。
 この刑務自体が、才ある人材を中心に選抜したからだ。
 初めから変質や覚醒の可能性を持つ者達を揃えているからだ。

 超力の出力を示す数値――超力指数。
 超力の頑強性を表す数値――超力強度。
 この命懸けの刑務に選ばれた50名の受刑者は、いずれも世界規模で見て屈指の数値を持つ。
 純粋な才能で見れば、誰もが超力変質の可能性を抱える。
 その高い潜在能力によって、誰もが超力第二段階へと覚醒する素質を備える。

 刑務序盤に脱落した者達さえも、等しく可能性を内包しているのだ。
 ヤミナ・ハイドのような木っ端の犯罪者でさえ、並大抵の者とは一線を画す超力強度を備える。
 極めて特異な発現を見せた北鈴 安理の“過去視”超力も、システムCの干渉が後押ししたとはいえ――。
 その能力自体は、彼の潜在性と精神成長を下地とした“超力変質”の結果である。

 例外となるのは、進化の外側に立つ絶対的存在――銀鈴と大根卸 樹魂。
 そして超力指数に関係なく、ヴァイスマン直々にそれぞれの思惑で選抜された“5名の特別選出枠”だけだ。

 ここに存在するのは、いわば世界最高峰の超力人材。
 超力実験において、最も優れたモルモット達。
 それこそがこの刑務の従事者達なのである。

 当然、メリリン・“メカーニカ”・ミリアンも例外ではない。
 彼女もまた、世界で指折りの才能を持つ超力者である。

 メリリンは、絶望を背負い続けた。
 親友、サリヤ・K・レストマンの喪失。
 彼女を“家族”として受け止められなかった、大きな後悔。

 サリヤを喪った日から、メリリンの魂は欠落した。
 屈折と悲嘆を背負い続け、その心は彷徨い続けていた。
 その果てにアビスへと収監され、彼女は亡き親友を目の当たりにした。

 新たなる親友、ジェーンをも喪った。
 かつての親友、サリヤと再会した。
 サリヤとの道は交わらず、平行線を辿り。
 やがては酷く呆気ない結末を迎えて、メリリンの旅路は終わりを告げた。

 決別も、和解も、果たすことはなく。
 メルシニカは、真の意味で終焉を迎えた。

 それでも、メリリンは再び立ち上がった。
 ネイ・ローマン。彼と共に生きることを選んだ。
 自らの絶望を踏破して、未来を見据えることを選んだ。

 メリリンは選択した。己の道を、選び取った。
 決定的な挫折を、その意志で乗り越えたのだ。
 ――そして、彼女の傍には、二人の“到達者”がいた。
 ローマンとサリヤ。彼らはそれぞれの形で、超力の終着点を指し示した。

 故にこそ、メリリンもまた。
 その在り方を追う。その在り方をなぞる。
 彼女もまた、このアビスに収監された悪党。
 彼女もまた、超力の才覚を認められた逸材。

 あの時、ローマンは言った。
 愛こそが、超力の限界を打ち砕くのだと。
 メリリンは既に、ふたつの愛を手に入れていた。
 喪失によって己の胸を撃ち抜いた、サリヤとの愛。
 誓いによってその魂を撃ち抜いた、ローマンとの愛。

 そしてブラックペンタゴンで成し遂げた“システムBへの干渉”。
 その経験が、彼女の超力の可能性を大幅に拡張した。
 世界を構築する心臓/人工物へのハッキング。
 あらゆる仕組みに干渉できる素養を、その手で示したのだ。

 だからこそ、メリリンは駆け抜けることが出来る。
 彼女は知っている。己の超力は、ここまで至れるのだと。

 親友の形見である耳飾りが、微かに揺れた。
 まるでメリリンの背中を押すように、穏やかな音色を発した。
 “あの子”が傍にいる――錯覚とも、確信とも取れる想い。
 その囁きを感じ取って、彼女は到達点へと至る。

 これは、恩赦であり。慈悲であり。救済である。
 しかしそれは、権力によって与えられるものではない。
 絶望と諦念を乗り越えた、己自身で掴み取るものだ。
 そして、覚醒の時へと至っていく。


◆◇◆◇


「……ネイ、ローマン……」

 現れた悪童の姿を見据えて、横たわるエンダが呟く。
 その絞り出すような声を聞いて、ローマンが一瞥した。
 吹き飛ばした帝王への警戒も怠らず――血と闇に沈む少女を見下ろす。

 神を否定する悪童。少女に宿りし神。
 その根底にあるのは、共に“絶望”への怒り。
 皮肉めいた縁の二人は、再び邂逅を果たした。

「おい。メリリンは無事か」
「ああ……アンリと共に、灯台を目指している」

 開口一番、問い質すローマン。
 そんな彼の言葉に、フッと苦笑するエンダ。
 心配されるような義理も無い間柄とはいえ。
 こうも率直な態度だと、潔さすら感じてしまう。

 だが、別に構わない――エンダは思う。
 この男はいま、自分の敵ではない。
 この悪童ならば、死闘を生き延びることが出来る。
 重要なのは、それだけだった。

「なあ。頼みを、聞いてくれないか」

 だからこそ、エンダは声を絞り出す。
 声も、意識も、徐々に掠れていく。
 それでも最期に、伝えねばならないことがあった。

「……言ってみな」

 そんなエンダの姿を、目を細めるように見据えて。
 その終わりを悟るように、ローマンは応える
 エンダは静かに、微かに安堵するように、微笑んだ。

「もしも、ジャンヌ・ストラスブールに、会うことがあれば……」

 そして、エンダは静かに糸を紡ぐ。
 この刑務からの脱獄――その果ての道筋。
 己が未来を繋ぐための術を、悪童に託す。

「異世界、移住計画のことを……伝えてくれ」

 例えアビスを脱出したとて、その先には試練が待ち受ける。
 生き延びた先では脱獄囚となり、秩序に背を向けることになるのだから。
 故にこそ、GPAを揺るがす“決定的な切り札”が必要となる。

「そして……アンリの、超力のことも……話してほしい」

 それこそが、異世界移住計画の告発。
 英雄ジャンヌ・ストラスブールへと繋げられれば、最も大きな力となる。
 そして彼女の潔白を証明するために、北鈴 安理の“過去視”が鍵となる。

「彼女ならば、その意味を……正しく理解できる」

 エンダは、最期に託す。
 消えゆく意識の中で、灯火を遺す。
 脳裏で記憶が点滅する。意識が駆け巡る。
 ヒトとしての終わりが、迫っていた。

 そして、自らの遺志を伝えて。
 エンダは、静かにその瞼を閉ざす。
 まるで眠るように、沈黙へと沈む。

 血に染まる肉体が、黒靄のように朽ちていく。
 まるで灰のように、肉体が瘴気と共に崩れていく。
 その四肢が影となって、溶け落ちていく。
 呪詛に蝕まれた身体が、消滅へと至る。

 肉体という依代を失い、再びエンダは“神秘”へと還る。
 神としての視座に戻るのか。あるいは、今度こそ終焉を迎えるのか。
 その答えは、彼女にさえも分からない。

 その上で、エンダは想いを馳せる。
 意識が掻き消えていく間際に、彼女は祈りを抱く。
 たったひとつ。無垢なる願いを、夜に響かせる。


(――――生きろよ、仁成)


【エンダ・Y・カクレヤマ 死亡】



 朽ち果てるように消えゆくエンダ。
 そこに屍は残らず、ただ首輪だけが零れ落ちる。

 ネイ・ローマンは、エンダの遺言を聞き届けていた。
 何も言わず、ただ無言のままに、その言葉を飲み込む。
 返答はない。しかし神妙な表情で、粛々と受け止める。

 死にゆくエンダが、何を思っていたのか。
 あの結末に至るまで、どのような道を歩んできたのか。
 その答えは分からないが――悪童は、言葉を返さずに引き受けた。

 ――ああ、伝えてやるとしよう。
 ――ジャンヌ・ストラスブールに会うことがあれば。

「どいつもこいつも、くたばっちまったな」

 エンダの首輪を拾い上げて、ローマンは呟く。
 この機械仕掛けの遺品こそが、あの少女の亡骸だった。
 多くの者達が地に伏せた。刑務の中で散っていった。

 自分は決して振り返らない。
 それこそが生き抜く術だと、腹を括った筈だというのに。
 らしくもない感傷が、胸中を駆け抜ける。

 ――誰も置いていかない、と。
 そう決意した女の顔が、脳裏に浮かぶ。
 孤高の悪童に、愛を突きつけた女だ。
 メリリン・メカーニカ・ミリアン。
 彼女の熱は、今も魂に焼き付いている。

 ローマンは思わず苦笑を浮かべる。
 惚れた女の言葉に、絆されでもしたのかもしれない。
 腑抜けたとか、甘ったれたとか、幾らでも言いようはあるが。
 ああ――――こんな感情も、時には悪くない。

 己の首を狙っていた悪童。
 ハヤト=ミナセは、この地で死んだ。

 己と覇を競い合っていた悪童。
 スプリング・ローズは、自らが引導を渡した。

 この地で相対した者達。
 この地で目にしてきた者達。
 その姿が、脳裏を駆け抜けていく。

 “魔女の鉄槌”も。“カラミティ・ジェーン”も。
 “エリザベート・バートリ”も。怪盗ヘルメスも。
 “我喰い”の男も。銀髪の魔神も。

 内藤 四葉も。ディビット・マルティーニも。
 大魂卸 樹魂も。エルビス・エルブランデスも。
 そして、サリヤ・K・レストマンも。

 皆、この地獄の底で最期を迎えた。
 数多の悪童達が、死闘の果てに命を散らしていった。
 そこにあるのは、無念か、絶望か。救済か、清算か。
 その答えは、彼らだけが知ることだ。

 ――――さあ、問おう。
 ――――次は、誰の番だ。


「テメェの番だ、ジジイ」


 ネイ・ローマンは、その男を見据えた。
 鋼鉄を精製し、漆黒の装甲を修復する“牧師”を。
 傷付き、消耗を背負っても尚、威圧的な風格を纏う“帝王”を。
 衝撃波で吹き飛ばされたその男は、その両足で再び立ち上がる。

「――――くだらねえ、野良犬が」

 心身を安定させるように、男は呼吸を整える。
 先程までの憔悴を、意地によって押し殺す。
 殺意を全身から迸らせながら、男は魔人と化して佇む。

 大地が、空気が慄く程の、身震いするような気迫。
 男は再び、威厳という外套で身を包む。

「この俺に……まだ噛み付く気か」

 ルーサー・キングは、忌々しげに吐き捨てる。
 姿を現した悪童を、睨むように見据える。
 その殺気を前にしても、ローマンは決して怯まず。

「止まる気はねぇよ。こちとら生憎狂犬でね」

 傲岸不遜に、そう言い放つ。
 そしてローマンは、言葉を続ける。

「アンタの時代は終わりだぜ、牧師。
 こっから先は、俺達が世界を切り開く」

 臆することもなく、言い放つ。
 眼前の帝王に対する恐怖も、躊躇も持たない。
 そこにあるのは、純然たる闘志のみ。
 帝王を引き摺り下ろすという、叛逆の魂のみ。

 超力による武装化。犯罪ネットワークの駆使。
 経済・政治的地盤の拡大。社会情勢の掌握。
 開闢を経て、キングは欧州にその存在を轟かせた。

 新時代最大最悪の犯罪組織、キングス・デイ。
 その頂点に立ち、圧倒的な権威を手に入れたのだ。
 誰もが彼を恐れ慄き、誰もが彼に屈服する。
 ルーサー・キングは、闇の帝王として君臨していた。

「思い上がるなよ、若造が」

 故にこそ、侮られる訳にはいかなかった。
 先の戦い。かのヤマオリの巫女との死闘。
 あの金色の眼が、今なお脳裏に焼き付いている。
 腹の奥底を掻き乱されるような感覚が、今も残滓となっている。

 己を脅かす者は、誰であろうと許さない。
 そう、決して認める訳にはいかないのだ。
 威厳を失った時、帝王は地へと堕ちることになる。

「俺を……誰だと思ってやがる」

 故に、ルーサー・キングは構える。
 ネイ・ローマン。鉄血の集団“アイアンハート”の頭領。
 己の配下達を次々に葬ってきた、身の程知らずの若造。
 組織に幾度も歯向かい続けたこの男は、必ずここで始末せねばならない。

「テメェは、ここでくたばる男さ」

 悪童、ネイ・ローマンは不敵に笑う。
 自由と反逆。その魂が、遂に届く。
 怨敵である“牧師”と、対峙を果たす。


 ――因縁が、此処に収束する。
 ――宿命が、此処に結実する。

 相対する、二人の男。
 悪の頂点に立つ、漆黒の帝王。
 自由の魂を掲げる、孤高の反逆児。

 二つの時代を象徴する、悪徳の極星。
 両者は真正面から睨み合い、身構えて――。
 超力の熱量を、その身から解き放つ。

 登場人物は、全てが悪人である。
 この刑務は、断罪と救済の煉獄であり。
 この刑務は、悪徳と因縁の闘争であり。
 この舞台に立つのは、等しく悪童だ。
 なればこそ、この帰結もまた必然。

 決して避けられぬ確執。
 相容れぬ背徳同士の収束点。
 即ち、悪と悪の対峙である。


「――――来い。ネイ・ローマン」
「――――消してやるよ。ルーサー・キング」


 旧時代の巨悪。新時代の悪漢。
 雌雄を結する時が、幕を開ける。
 決戦の火蓋が、切って落とされる。


【C-3/草原(灯台寄り)/一日目・夜】
【ネイ・ローマン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中) 、治療キットで処置済み、右腕肘から先欠損
[道具]:デイパック(幾つかの食糧と酒)、鋼鉄の義手(メリリン作成・修復済み)、エンダ・Y・カクレヤマの首輪(未使用)
[恩赦P]:99pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。メリリンと共に生きる。
0. ルーサー・キングを殺す。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。
※サリヤ・"キルショット"・レストマンから超力の第二段階(プレシード)について知らされました。
※超力の第二段階に至った『到達者(プレシード)』です。
 衝撃波の出力が向上し、無効化を始めとする防御や干渉を貫通する『Liberty or Death』を使用可能になりました。

【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(大)、精神消耗(中)、肉体の各所に裂傷(中)、左手と顔左半分に火傷痕(処置済み)、左目失明(布を眼帯として巻いてる)
[道具]:漆黒のスーツ(新調)、私物の葉巻×1、タバコ(1箱)、応急処置キット(幾らか残量あり)
[恩赦P]:107pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
0.ネイ・ローマンを殺す。
1.GPAとの取引の為に、ジャンヌ・ストラスブールを殺す。
2.生き残る。手段は選ばない。
3.使える者は利用する。邪魔者もこの機に始末したい。
4.ルーサー・キングを軽んじた以上、りんか達もいずれ潰す。手段手法は問わない。
5.ジャンヌ・ストラスブールも、第二段階に到達しつつあるのか?
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。
※ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、エンダ・Y・カクレヤマは出来れば排除したいと考えています。

※超力の第二段階に至った『到達者(プレシード)』です。
全身に漆黒の鋼鉄を纏い、3m前後の体躯を持つ“黒鉄の魔人”と化す超力『Public Enemy』が使用可能です。
※アビス内でラバルダ・ドゥーハンと面会し、彼女からシエンシアについて聞き出していました。


◆◇◆◇


 安理は、彼女を見つめていた。
 僅か数十分。されど、脱獄の命運を握る一時。
 その戦いを乗り越えて、彼女は再び姿を現す。
 ゆらりと佇むメリリンを、アンリは見据えていた。

「メリリンさん……」

 ぽつりと呟く安理。
 彼に対し、メリリンは静かに微笑み返す。

 メリリンの手には、“あるもの”が握られていた。
 灰色の輪のような、小さな“機械”だった。
 それは外側から分解され、内部構造を露出させている。

「ほら」

 やがてメリリンは、灰色の“機械”を安理へと投げ渡す。
 慌てて受け止めた安理は、受け取ったものをまじまじと見つめる。
 ――受刑者たちを縛る絶対的な枷が、この手元にある。
 安理は目を見開き、驚きを隠せない様子でメリリンに視線を向けた。

「これって、もしかして」
「取れたよ。首輪」

 問いかける安理に対し、メリリンはあっけらかんと伝える。
 彼女の首に、受刑者を縛る枷は存在しない。
 メリリンは今、アビスの手で縛られない悪童となった。
 籠に囚われていた鳥が、自由の世界へ解き放たれる。

「久々に、楽しかった」

 その表情には、どこか清々しさすら宿っていた。
 困難を乗り越えたことへの安堵と、静かなる昂揚感。
 彼女は余韻に浸るように、ぽつりと呟く。

 メリリンの超力第二段階――。
 “鼓動を打て、機械仕掛けの魂(コラソン・デ・イェロ)”。

 それが形ある無機物ならば、極めて高度な解析と構造把握を行える。
 それが形ある無機物ならば、自在に改造と再構築を行える。 
 元となる超力の純粋な進化系。人の手が施された万物に干渉する、智慧と創造の異能。

 彼女もまた、超力の果てへと至る。
 自らの才覚と異能の臨界点へと到達する。
 システムAさえも超越して、首輪の解体を行ったのだ。

「一体、どうやって――――」

 安理はその表情に困惑を浮かべて、メリリンへと問いかける。
 幾ら内部構造の暴かれた首輪を確保できたとはいえ、今まで全く解除の手立てが見つけられなかった代物だ。
 外装にはシステムAが施されているという話も既に聞いている。
 本来ならば超力の強度に関係なく、下手な細工は問答無用で無効化されるのだ。
 その首輪を、メリリンは解除してみせたのだ。

 疑問を抱くのは当然のことだった。
 機械の知識があるとしても、内部には爆弾が仕込まれている。
 アビスの職員による監視とて、決して無視はできない。
 しかしその危険な綱渡りを、メリリンは渡り切ってみせたのだ。

 一体どうやって。それは純粋な疑問だった。
 安理が抱いた、素朴な当惑だった。
 されどメリリンは、そんな安理へと静かに口を開く。
 その顔に苦笑を浮かべながら、彼女は告げる。


「私を、誰だと思ってんの」


 メリリンは、ニッと笑ってみせた。
 答えなど不要。自分だからこそやり遂げたのだ、と。
 あのギャングスターと同じように、不敵な表情を張り付けた。
 悪党とはいつだってそうだ。傲岸で、不遜で、大胆だ。

 故にこそ――――彼女も笑うのだ。


【B-2/港湾/一日目・夜】
【北鈴 安理】
[状態]:上半身インナー姿、右腕に打撲、疲労(中)、気疲れ(中)、脳への負担(中)、手足に呪いの浸食(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:自分の罪滅ぼしになる行動がしたい。自分なりに、調査を進め弱い人を助ける探偵として動きたい。
1.「灯台」へと向かう。この刑務作業の真実を知りたい。
2.バルタザールがまだ破壊の限りを尽くすようなら、被害をできるだけ抑えたい。
3.無実の人をボクが救えるというのなら……。
4.エンダを残したことへの気掛かり。でも、今は自分のやるべきことを見据えたい。
※イグナシオの過去、大金卸とのあらましについて断片的に知りました。少なくとも回想で書かれた全てを聞いているわけではありません。
 まだ聞いていない部分について、今後間違った妄想や考察をする可能性もあります。

※超力が変化し、常時発動型の竜人となりました。
 氷龍と比べ冷気の攻撃性能が著しく落ちる代わりに、安定した身体能力の向上を獲得しました。
※他人の記憶を追体験する力を得ました。
 追体験出来るのは自身と直接会話をした事がある人物に限られます。
 記憶の中では五感全てが再現されるため脳への負担が大きく、無茶な使用は精神の崩壊に繋がります。
 また、記憶の持ち主が死亡する場面まで追体験を続けた場合、安理自身も廃人となります。

【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、薄黄色のボイラースーツ、帽子とゴーグル、流れ星のアクセサリー(R)、首輪解除
[道具]:デジタルウォッチ、フルプレートアーマー、銀鈴・宮本麻衣・ドンの首輪(使用済み)、ジェーンの首輪(未使用)、工場エリアで集めた機材、グロック19(装弾数22/22)、デイパック(手榴弾×2、催涙弾×2、食料一食分)
[恩赦P]:50pt
[方針]
基本.ローマンと共に、生き延びる。
1.「灯台」へと向かう。“サリヤ”に手を貸す。
※サリヤ・K・レストマンの遺体から「流れ星のアクセサリー(R)」を中心とする物資を回収しました。
※大金卸 樹魂の破損した首輪の解析、および超力第二段階への覚醒によって、首輪を解除しました。
 他の受刑者の首輪も同様に解除できるかは以後の話にお任せします。
※超力の第二段階に至った『到達者(プレシード)』です。
 形ある無機物に対する極めて高度な解析・改造を行う超力『鼓動を打て、機械仕掛けの魂(コラソン・デ・イェロ)』が使用可能です。


151.We Were Friends 投下順で読む 153.1%の殺意
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I Have a Dream メリリン・"メカーニカ"・ミリアン 送り火の先へ
北鈴 安理
エンダ・Y・カクレヤマ 懲罰執行
ルーサー・キング 自由
アイドルは死神に踊る ネイ・ローマン

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最終更新:2026年03月16日 22:28