深山は異界だ。
ありとあらゆる命の揺りかごであり、畏敬の念を抱いて接するべき場所だ。

どこからともなく聞こえてくるフクロウの鳴き声。
正体不明の獣が近づいてくる足音。
間断なく聞こえてくる虫たちの羽摺りの音。
闇の奥で光る、獣の瞳。

夜に生きるすべての命が、山に踏み入った自身へと一斉に視線を向ける感覚。
山の神が、そこに息づくものの眼を通して、自分を見ているのではないかとすら思う。

狐の嫁入り。
歩けど歩けど抜け出せない霧の山道。
恨みを募らせた動物が変化するという祟り神。
人間の声を語り、おーいと呼び掛けてくる『一言呼び』。

科学的にはあり得ない。
ヒグマの存在と違って、100%オカルトだ。
一般的にそんなものはいるはずがないし、ひなたも現代っ子らしく、成長してからは怪異なんて信じてはいなかった。
けれども、せんせーは山に生きる者として、そういうものを信じているという。

『一般的には迷信そのものだと思います。
 けれど、猟師は机の上でレポートをまとめる仕事じゃない。
 実際に山に分け入って命の応酬をおこなうわけです。
 そして、この感覚は実際に猟師になって体感するしかないんですが……。
 やはり科学と非科学が僕の中に同居するようになりますね』

人が積み重ねてきた知見なしには生きられないが、それに固執すれば必ず歪みを招く。
人と自然との間に線を引いて、お互いの領分を侵さないようにしなければならない。
それが猟友会の理念で、その境界を守るのが山折村猟友会の仕事だと、せんせーはそう言っていた。


深山の神秘性を信じているのはせんせーだけじゃない。
山折村の筆頭猟師の六紋名人だってそうだった。

『かはは、まあ若ぇやつはみんなそうだろうな。
 俺自身、若ぇころは迷信なんて下らねえと思ってた。
 けどまあ、山で生きるってのは理屈じゃねえ。
 諸先輩から受け継いできた伝承も口伝も、案外バカにはできねえぜ?
 なんなら、そうだな? 夏休みの自由研究にでも、神楽の総ちゃんとこに話を聞きに言ってみろよ?
 神秘も迷信も伝承も、大喜びで語ってくれるぜ?
 あいつの事務所なんざ、本の半分は自費出版の歴史と伝承モノだからな』

結局、民俗学より生物学のほうが興味があったがゆえに、神楽弁護士事務所に足を運ぶことはなかったが。
深山と里山の境界まで足を運ぶようになって、そういうものもあるのかなと思うようになってきた。

そういうのをバカにしていたのは、猟には一切出ない及川さんだけ。
漆川さんとはそういう話をしたことはないから分からないけれど、
いつもハイテク機器を見せて実践してくれる大金持ち猟師のししょーも、せんせーと似たようなことを言った。
ある程度長く猟友会で活動して来た人は、皆似た立場を取るらしい。
山には人間の関わってはならないものがいるというのだ。

神秘。神を秘める。
山折神社で何を祀っているのかは誰も知らないという。
けれど、鴨出さんは、あの神社はあたり一帯に覇を唱えた荒神の怒りを鎮めるために作られたという。
本当に誰も知らないのか? 歴史の中にうずもれていったのか、それとも敢えて名を奪われたのか。
それは今となっては誰にも分からないだろう。

山折神社でもうじきおこなわれるはずだった、神楽家主催の鳥獣慰霊祭。
一般的におこなわれる健康促進の平和的な儀式ではなく、もっと荒々しいもの――
怒れる山の神を打ち倒し、鎮めるような、そんな性格を持つ儀式。
村人あるいはその縁者から選出された憑代役の若い少女の前で、神職の人間が剣舞を舞う儀式。

『総ちゃん、話は変わるが、今年の慰霊祭の件、憑代の一色さんとこのお嬢さんだったっけな?
 ありゃ、本当に憑かれてないか?』
『だからこそ、今年は厳重に警戒網を敷いているんですよ。
 手を抜いて万が一があれば、娘の春姫や犬山のお嬢さんが鴨出さんの二の舞になりかねんのでね』
『真麻ちゃんなあ。昔は総ちゃんとこの奥さんにも引けを取らない別嬪巫女さんだったってのによ。
 命が助かったってだけでも御の字ではあるんだが』
『ピーエル・F・大天寺氏やジャック・オーランド氏をはじめとした、著名な霊媒師の先生方にもこちらから頭を下げて招いています。
 どこの宗派かも分からん、おかしな祭服を着たうさんくさい連中には早々にお帰り願うことにしたが』
『はぁ~、まあ俺にゃ幽霊だの悪霊だのといったバケモンはどうにもできねえし、頭のおかしい連中も専門外だ。
 身体持ってる野生のバケモンなら、頭ぶち抜いてやるけどよ。
 じゃあ、俺たちは例年通り参加しとけばいいんだな?』
『ええ、猟友会の面々は例年通りの手筈で。
 念のため、無関係な方々には参加を控えるように通達したほうがよいでしょうな』

猟師小屋を訪れた神楽総一朗さんと六紋名人の会話だ。
リスク管理が甘いどころか皆無なオープンな会話であった。
その内容も、一歩間違えれば『因習』とすら呼ばれかねない村の風習。
そして、七不思議の最後の七番目と言われる、昔神社で起こったという山の神の降臨の会話。

今考えれば、ひなたに聞かせていたのだろう。
真夜中に襲ってきた異常なヒグマ個体は、深山の異界を意識させ、思い出させるには十分だった。


「シーツを三枚。五枚あれば万全です。できるだけ清潔なものを見繕ってきてください。
 包帯や消毒液は数がないでしょうから、こちらの重症患者用の部屋へ。
 洗面器に水はまだ入れなくてもかまいませんが、すぐに入れられるようにしておいてください。
 備蓄品の数の管理はしっかりとお願いします。
 それからはすみさん、重症患者用のシーツには異能による祝福をおこなっていただく予定です。ご準備を。
 ただし無理は厳禁です。
 はすみさんが万一体調を崩したら、字蔵さんはすぐに私を呼ぶように」

哉太たち三人を送り出したあと、袴田邸に残った五人がまずおこなったのは、怪我人の搬送先としての準備である。
少なくとも特殊部隊とやり合った人間が運び込まれてくることは分かり切っているのだ。
哉太や勝子が万が一無傷だとしても、鈴菜や和之まで五体満足とは到底考えにくい。

家主の袴田伴次は災害対策をしっかりおこなっていたのだろう。
風呂桶には清浄な水が並々と張られており、机の脇の段ボールの中にはダース単位で入った水が用意されていた。
カセットコンロや非常食、懐中電灯なども机の上に並べられており、
地下室でゾンビになっていたのも備蓄を取りに行っていたのだろうと容易に想像がつく。

医師ではないとはいえ、夜帳は唯一の診療所勤めだ。
彼の指示にしたがって、簡易的な治療部屋が作られていく。
鈴菜たちがここに運び込まれた後、どれだけ迅速に治療ができるかが命の分かれ目になるだろう。

身体を動かしている人間の中には、男性恐怖症の恵子も入っている。
無理はしなくてもいいよとの提言を受けた上での、本人の希望だ。
もっとも、骨折した身。
本当に手を動かす仕事を希望したときは全員に止められ、実作業ははすみの補助であるが。


「恵子ちゃん、大丈夫~?」
「ええ、と。大丈夫です。
 怖くない……というのとはちょっと違うかな。
 なんていうか、目の前の仕事でいっぱいいっぱいで考える暇がなくて……」
夜帳は怖い。感情的な父親とは違い、物静かな植物のようではあるが、はっきり言えば不気味だ。
けれど、誰かの命が危機にさらされた状況で、自分一人が部屋の隅で怖い、怖いと震えているのを想像したとき。
感じたのは、みんなに取り残されることへの恐怖だった。
(死にたくない。生きていたい。
 死ぬことがあんなに怖いことだなんて、私は思い知った。
 それが分かっているのに、私だけが命を救うために動かず震えてるなんて、ひなたさんやみんなは私のことをどう見るだろう?)

身体を張ってうさぎを助けたという鈴菜や和之。
彼女らは快復すれば、また人を助ける側に回るのだろう。
そのときも、怖い怖いと怯えているのだろうか。

そう考えたとき、とてつもなく恐ろしかった。
けれど、もし今ここで動けるなら。
ヒーローの隣に並び立つことができるのなら。

夜帳のほうは意識的に目を合わさないようにしているようで、初見のころのような恐怖はない。
何より、目の前の仕事が恐怖を感じる暇を与えてくれない。
ほんの半日前まで、父親の言うとおりに動き、ただ父親に怯えるだけだった自分が、今はほかの人を助けるために動いている。
それを自覚したときにの変化に困惑もあり、けれども心の底から少しだけ力が湧き上がってくる気がする。

「大丈夫です。ええと、ええと……、大丈夫です」
「う~ん? 何か気になることがあるんじゃないかしら~?」
「それは……こんなときなのに、なんだか気持ちが昂ってる気がするんです。
 私、おかしくなってないですよね?」
「いいの。それでいいのよ。
 絶対に生き残りましょう。ね?」

字蔵誠司のままごと人形。
そんな囚われの身に降って湧いた変化の機会だ。

不安や、高揚。それは未来のことを考えているからこそ起こる。
恵子は未来のことを考えているのだ。
だから今は、はすみは彼女を肯定する。


「うさぎちゃん、大丈夫……ではなさそうだよね?
 そわそわしてて落ち着きがなくない?」
「え、そんなことはないよ!
 大丈夫、大丈夫だって」
「その割には、目の焦点が合ってなかったり、どこかぽーっとしてたような?」
「それは、その、……でも、鈴菜さんや和幸さんは今も危険な目に遭ってるだろうし、
 哉太さんや私より小さい女の子を危ないところに送り込んで、私だけ休むのもどうかなって……」
そりゃそうか、と納得する。
ひなたとて、恵子が特殊部隊と同じ部屋の中で取り残されていて、待機を命じられたら不安で不安でたまらなくなる。
そんなパターン、万に一つもあり得ないだろうけれど。

「月影さん、なんかよく効くお薬とかないんですか?」
「あるにはありますが、すぐに薬に頼るのはあまりよくない考え方ですね。
 薬の依存癖がついてしまうと、彼女自身の将来に影を落としますので」
ひなたの質問を夜帳は一蹴する。
ひなたとて、ダメ元で聞いてみただけなので、ほーんという薄い反応が出てくるだけであったが。

「しかし、今は緊急事態だ。抗不安剤を処方しておきましょうか。
 催眠作用がありますので、はすみさんの立ち会いの元、安全が確保されている状況で飲むように。
 今飲むのはおすすめしません。
 別のやり方で不安を解消できるのであれば、ぜひそちらを勧めます」

吸血鬼としての夜帳は、ぜひここで飲むことを勧めたいわけだが、
薬剤師としての夜帳が、用法容量を守った適切な服用を勧める。

「ところでさ、和之さんってあの大柄なプロレスラーの人だよね?
 もし怪我をしてたとして、八柳くんと勝子さんで連れて来られるのかな?」
「えっ……? プロレスラー?」
「……えっ?」

「あ、ああ~! 暁さんじゃなくて小学校で飼ってる和幸さんだよっ。
 ほら、私たちが中学生のころに来た黒豚のあの子!」
ひなたはうさぎの一年先輩。
うさぎが高校一年生の飼育委員なら、一学年上でのそのポジションにあたるのはひなたである。
故に、和幸とも面識があるのだ。

夜帳の頭には、黒豚と聞いてクエスチョンマークが浮かぶ。
しかしすでに動物のゾンビとも正常感染者のクマとも直に接したひなたにとって、驚くほどのものではない。
「じゃあ、黒豚の和幸が来るんだ? ええっと……和之さんよりは軽い……のかな?」
「ごめんなさい、言い忘れてたんですけど、4メートルです」
「……?」
「異能で4メートルのオークになってます」
ついに現実はひなたの脳すら振り切って、空間にクエスチョンマークが満ち溢れてしまった。


「ごめんね!」
「がばばばばばばああっ!!」
地下室に隔離されていた袴田伴次は、ひなたの電撃鉄バールに触れて意識を落とした。
ひなたは、ロープで素早くその手足を縛りあげ、無力化した。

「これで大丈夫かな」
「どうも。お手数かけます」

和幸が4メートルのオークであるならば、治療等はすべて庭で処置する以外にない。
あるいは、状況次第では訪問看護になるだろう。
何か使えるもの……台車などの運搬器具でもないかと、夜帳はひなたを連れて地下室に踏み入った。

地下室はかなり広いようだ。
普通に用具置き場にしている一角もあるが、小説のネタ帳なのだろうか、資料置き場となっている一角もあった。
ある一角には、古今東西のスピリチュアルなグッズやお土産が所狭しと並んでいた。
ボージョボー人形やディアブロの仮面、能面のように暗闇で見ると肝を冷やすようなものもあれば、
錫杖や数珠、輪袈裟のような日本の昔ながらの法具もある。
山折神社で売っている除霊グッズや縁起物も並べられていた。

他方、こちらは人体の資料なのか、人体模型にマネキン、男女両方の高級ラブドールまで置かれており、
民族衣装から国際スタンダードな礼服まで無造作に詰め込ませたクローゼットがいくつか並んでいた。

高級住宅街に邸宅を構えるだけあり、博物展でも開けそうなほどに多様な資料類だが、凶器になりうるものはない。
刃先の引っ込むナイフやウォーターガン、爆弾の模型はあったが、これも武器にはなり得ない。
ライフル銃の弾が落ちているなどの現象はさすがになかった。

「そこの青いビニールシートを庭に運んでいただけますか?
 私はほかに有用な備品がないかを確認しますので」
「うん、分かったよ。他には何かあるかな?」
「何かあれば呼びますので、あとは上で休んでいてください」
「りょーかい。ヒグマの件も、あとで話すからね」
ひなたはビニールシートを抱えて地上へと上がっていった。

和幸の話から動物の正常感染者も存在するということが周知され、そしてヒグマへと話が転がった。
ひなたと恵子を襲った巨大ヒグマの情報については、哉太たちも含め共有されていないはずがない。

夜帳も誠吾や真理と共に、そのヒグマの被害を直に確認している。
それが本当にヒグマなのか、それともツキノワグマの異常個体なのかを論じる気はない。
重要なのは、異能を得た人食いクマがひなたや恵子を食い損ね、近辺にいる可能性があるという一点。

そんな危険な存在の対応優先度が下げられているのは、数時間前にひなたたちが深手を負わせることに成功したためである。
ライフル銃で脇腹をぶち抜き、恵子の雷撃で内臓を焼くという、人間ならば致命傷に等しい傷。
そんな傷を簡単に癒やせるはずはなく、その状態で再襲撃はないだろうとの見立てである。

当たり前だが、ひなたらを熊になど食わせる気は毛頭ない。
野生の流儀に乗っ取るなら、この邸宅は夜帳のナワバリにあたる。
真理のような理性的かつ受け入れがたい人間による混乱は望むところだが、命を汚く食い散らかす畜生の来訪など決して望まない。

防衛力の拡充は必要だろう。
治療の準備も中年男性への噛みつきも、実にやりたくないところだが、後々来るであろうご褒美を確実に得るために手は抜かない。
作業用の前掛けを装着し、返り血に十分注意しながら、夜帳はぴくりとも動かない袴田家の家主へとその牙を剥いた。


「えっ、羊が出てきた?」
「紹介するね、メリーちゃん。
 干支の動物を呼ぶのが私の異能なんだけれど……って、あれ? いっぱい来た!?」
何かを思い立ったのか、庭に繰り出したうさぎ。彼女を追うように庭に出たはすみと恵子。
そして現れたのが、純白の毛におおわれた羊の群れである。
何匹もの羊たちである。

「羊……。はじめてみました。
 もこもこしてる。本当にもこもこしてる。
 メリーちゃんと、……他の子は名前ってあるんですか?」
「一頭だと思ってたから、全員の名前を考えられてないんだよねえ……」
「メェエェェ……」
「ンメエエ……」
「ごめんね、後でちゃんと考えるからね」
メリーちゃんつながりでマリーちゃんにミリーちゃん……と付けるのはさすがに憚られた。
ムリーちゃんとモリーちゃんはありえない。

「あの、その……。触ってもいいですか? ちょっとだけ、触ってみてもいいですか?」
「そんなにびくびくしなくても大丈夫だよ。この子たちは噛まないから」
「じゃあ……」
「めええぇぇ~」
ばふっ。ばふっ。

「ふわぁぁぁ、ふかふか!」
ぽふっ。ぽふっ。

「あ、……私も」
ふわっ。ふわっ。

おそるおそる恵子がその身体に触れ、温かく心地よい羊毛に掌をうずもらせる。
そのふわっふわっ感に引き寄せられ、はすみもしれっと羊毛にうずもれる。
うさぎはというと、庭の置石に腰かけて、あやすような手つきで、まわりを囲む羊たちに優しく触れていた。

食事の世話も糞の処理も、そして力尽きた動物の埋葬も手馴れているうさぎだからこそ、この羊たちはこの世界に生きる動物とは少し違うことが分かる。
羊毛を水に浸ければ多少なりとも汚れが浮き出るような、リアルな動物ではない。
ここにいるのは、女の子の理想の羊を体現した、もふもふもふもふもこもこもこの毛並み自慢のふわふわ羊。
動物に慣れていないインドア女子の恵子にも、不快な思いは一切させない、そんな極上の触れ合い専用羊。
汚れも獣臭さもない動物が存在しようものか。
けれども、メンタルをふかっと包み込む癒し系の動物であることだけは確かだ。
その触感を、今はただただ享受する。

「ふぅ……」

やはりうさぎにとっては、動物に囲まれているのが落ち着く。
つらいことがあったとき、困難に直面したとき、うさぎはしばしば飼育小屋へと駆け込んでいた。
愛を以って接すれば、必ず愛で返してくれる。
うさぎには仲の良い友人や頼れる友人も多かったが、最後に不安を打ち消してくれるのは彼らだった。

「うさぎ、どう? 落ち着いたかしら~?」
「あ、お姉ちゃん。
 うん、少しは落ち着いたかな……」

鈴菜がうさぎを信じて送り出したのに、自分がその思いを信じ切れないでどうするのか。
哉太たちにすべて託しておきながら、不安をあからさまに出すのは彼らにとっても失礼だ。

「よしっ!」

いったん気持ちの整理がつけば大丈夫だ。
ぱちっと頬を叩いて、然るべき時を待つ。
たとえば春姫であれば秒でこの境地に達しているだろうが、うさぎも遅まきながら到達する。
それをはすみがにこやかに見守っていた。

他方、恵子もとろりと顔をとろかし、心も安定してきたようだ。
そこに訪れる新たな客は。
夜帳の手伝いで遅ればせながら庭に出てきた、中学時代では先輩飼育委員だったひなたである。
「あっ、おお~、羊がいっぱい。本当にもっこもこなんだね。
 みんなうさぎちゃんのとこの子たちなの?」
「はい。一頭だと思ってたら、群れで来てくれたそうです」
「なるほど~。群れてるイメージがあるもんね。
 ほら、英語でも『sheep』の複数系は『sheep』だったりするしね?」
「そんなテキトーな……。
 異能が強くなって、たくさんの動物を出せるようになったのかもしれないですよ?」
「異能が強くなる、か~。
 これ、ウイルスなんだよね?
 なんか感染症の重症化っていうイヤな言葉が浮かんできちゃったんだけど」
「うっ……。現実を突きつけるみたいな言い方……」
「よし、こんな夢のない言葉はやめようっ!
 それより、ねえこの子、触っていいかな? 触ってもいいかな!? いいよね!?」
「メェェェ……」
会話がてら荷物を脇にまとめたひなたは、眉をひそめる羊にかまわずその好奇心を存分に発揮し、その羊毛にダイブした。

――バチバチバチバチバチバチッ!
「ぶーーーっ!?」
「メェェエエエエッ!?」
「ああっ、メリーちゃん!?」

危険な好奇心には、相応の制裁が課される。
恵子に触れて帯電していた羊毛がいっせいにひなたの顔に張り付いたのだ。

「メェェ!! メエエエ!!?」
「静電気! 静電気!!」
「電気止めて!」
羊毛から救い出されたひなたは、顔にパイをブチ当てられた女芸人ばりに愛嬌ある顔芸を披露し、一同どっと笑いが巻き起こった。


人間のメス四匹の姦しい鳴き声が風に乗って聞こえてくる。
警戒心など毛先ほどもない。
今何が迫っているかすら思い至らない、くだらない鳴き声だ。

(ゆだん、しているな)
魔獣の分身は風下から、土と石瓦の立派な防壁で囲まれた人間の巣にゆっくりと近づいていた。
これは偵察だ。狩りの一環ではあるが、狩りそのものではない。
巣の内部はまわりを囲う防壁によって、今いる位置からは中の様子は見えないが、熊は嗅覚と聴覚で獲物の位置を知る。
これほど騒いでいて、見失うほうが無理だ。
無性にイライラするのが不思議だが。
人間達に気取られぬように、慎重に慎重に歩を進める。

進化した肉体、それも分身ともなれば、運用にはまだまだ慣れない。
テレイグジスタンスを実現した異能ではあるが、寸分たりとも同じ動きとはいかない。
独眼熊本体が指示を出すのであれば、この距離ならば約一秒のタイムラグが起こる。
つまり、肉体的には頑強だが、ヒグマ個体としての総合能力は進化する前の身体に劣る。

独眼熊も、その進化した脳であっても、そうなる原因を究明できていないが、それは大きく分けて二つある。
独眼熊が分身体を動かすために、巣食うものとウイルスという二つの中継地点が必要であることが一点。
『クマクマパニック』は制御に巣食うものを介しているため、オリジナルよりも取り回しに劣るのだ。

そして嗅覚と聴覚を重視するヒグマと、視覚と第六感を重視する巣食うものとで、五感に対する重みづけが異なったことがもう一点。
要するに巣食うものの知識データベースにクマの嗅覚や聴覚からの切り分けが存在しないのである。
だからといって、逆にすべてを分身体に任せれば、ヒグマとしての本能で動き出し、知能は一切生かせないだろう。
視力については人間の視力をベースにする選択肢もあったが、皮肉にも巣食うものが憑いたことで一色洋子の五感が大きく失われ、活用には足らなかった。

(ちからはありあまっているというのに、じゆうにうごかせないのはもどかしいものだ)
意外と制約が多いことに辟易するが、慎重に立ち回ることが求められる状況だ。
これくらいの動きにくさのほうがかえって好都合なのかもしれない。


"ひなた"と"けいこ"のいる人間の巣に近づくにつれ、内部の情報密度も高くなっていく。
湧き上がる不快感も増していく。

"ひなた"と"けいこ"だけなら底は割れた。
電撃は厄介だが、進化した肉体と使い捨ての肉体があれば優位には立てるだろう。

問題は三点。
明らかに血の臭いを纏わせた何か。
臭いを嗅ぐのもイヤな何か。
そして、人間なのか何なのか分からない謎の動物の群れだ。

(ひとつは、やまぐらしのメスとおなじいのうか?)
ただし、それが二体なのか三体なのか、それとも四体なのか判別がつかない。
大勢の人間が混ざり合い、分離して、正確な数がつかめないようになっている。

(こっちは、あたまがいたくなるな)
おそらく不快感の根源。
本能的に嫌だというよりは、後天的なトラウマに近い。
進化の置き土産なのだろうか。脳の奥が疼くのだ。

(なぞのどうぶつ。これがいちばんもんだいだな)
ほかの人間たちを連れて高速で離れたはずの動物と、ほぼ同じ臭いを発する動物の群れ。
間違いなく異能であろう。
かつ、先の不快感も同時に発せられている。

考察をするに、この分身体と似て異なる異能だ。
自身の全力を上回る速度で移動する動物を、一瞬で数体作り出す異能と独眼熊は理解した。
肉体は進化したが、速度はヒグマとしての肉体を超えることはない。
正面から襲いかかっても、バラバラに逃げられてしまうのがオチだろう。
それだけで抑止力としては十全である。

血の臭いがする何か以外は、何かしらの不快感を与えてくる。
"ひなた"と"けいこ"がそうなるのは理解できるが、他がなぜそうなのかは不明だ。
(もうすこし、じょうほうがほしいな)
さらに巣へ近づいたところで、異能生物の臭いの質が変わった。

(……? きづかれたか?)
外敵に見つかったとき、生物はストレス臭を発する。
ストレス臭が一頭から強まり、その一頭がメェメェと不気味な声でけたたましく吠えれば、ほかの異能生物も同じく吠え始めた。

(――ここで、ひくか?)
ヒグマとしての本能は撤退を提案する。
だが、その目が土壁の向こうから顔を覗かせた一人のメスを捉えた。
気付いているのかいないのか、片目となったクマの視力では捉えられない。
だが、そのぼやけた姿を網膜を通して脳で処理させた瞬間、撤退の二文字は消えた。
独眼熊にとっても出所は不明な、脳を焼くような憎悪と歓喜が心の底から湧き上がってくる。

(ああ、これがいぬやまか)
ニタリと凄惨に嗤う。

知識だけでしか知らなかった宿敵。
ヒグマとしての宿敵、白髪交じりのオスや山暮らしのメスとは違う。
『ナニカ』そのもの徹底的に貶めて、名を奪った宿敵の一族である。

再考。
隠山がいるというのなら、方針も変わる。
警戒されているというなら、それもかまわない。
それを前提に出方を伺ってみてもいいだろう。


「メリーちゃん? どうしたの?」
羊という種は一匹が鳴きだせば、群れ全体が大合唱を始める。
にわかに始まったアンサンブルに異変を感じたはすみは、庭の少し高まった置石に登って双眼鏡を覗き、顔色を変えた。

四本腕のクマともワニともつかぬ怪生物がレンズに映り、警戒しない人間などいないだろう。
その正体の筆頭候補は、研究所から逃げ出してきた生物兵器。
だが、その姿を見たとき、はすみに胸騒ぎが起こった。
ひなたから聞いていた、片目の傷。クマを思わせるその体躯。
そして、診療所によく見舞いに行っていた少女――一色洋子から感じ取っていた嫌な気配を感じられたのだ。
薄幸の少女であった彼女は感情の表現もつたなかったが、ときおり何者かに憑りつかれたかのようにニタニタと笑うことがあった。
熊とワニの合成獣の顔など判別できるはずもないのに、その表情が脳裏をよぎった。
証拠などないが、確信を持って言える。あれは、よくないものだ。

「みんな、家の中に避難して。
 けれど、すぐに逃げられるように、準備だけは整えておいてね」
普段の間延びした口調とは違う、真剣な口調だ。
その様子に、思い思いに戯れていた三人も事態の急変を察する。

「何が見えたんですか?」
恵子の質問に、一瞬だけ逡巡し、答える。

「あなたが言っていた例のヒグマ……あれはもうヒグマとは言えないわね。
 本物の怪物になって戻ってきたみたいよ」


袴田邸は急ピッチで対応に追われた。

「一枚書いたよっ! 届けて!」
うさぎは袴田邸の書斎で破邪の護符を書き上げる。
独眼熊を知らないうさぎはその温度差に面食らうも、護符の作成は家業で毎月おこなっていることである。
袴田邸の書斎ですらすらと書き上げてしていく。

「は、はい!」
恵子が作品を待つ編集者のように待機し、完成品を受け取ってははすみの元へ運ぶ。
果たしてうさぎの書いた護符に破邪の力があるのかは不明だが、はすみの異能に破邪の力が宿るのは確からしい。

「はすみさん、顔色がいよいよ優れないようですが」
「大丈夫……とは誤魔化せませんよね~。
 けれど、ここは無理します。
 大切な家族やその友人を護るための、ふんばりどころですから~」
「そうですか。ですが、危険水域に達したら、問答無用で止めますので」
はすみの異能は生命力を消費するため、夜帳がつきっきりではすみの体調サポートだ。
うさぎと部屋が分かれているのは、生命力を吸われていくさまを、彼女に見せないためである。

「これ、戸口に貼ればいいの? どこから貼ればいいかな?」
「そこは、ひなたさんにお任せするわ~。
 熊としての例の獣を一番知っているのはあなただから、ね」
「分かった。行ってくるね!」
完成品はひなたが受け取り、邸宅を囲む門と、壁の脆くなっている箇所へと貼り付けていく。


うさぎ以外の全員が脅威を身に染みて把握しているからこそ、行動は迅速だった。
バケツリレーのごとく護符が運ばれ、袴田邸を囲む門へぺたぺたと貼られていく。

野生のヒグマに護符など効くのかという疑問がひなたと恵子には湧いたものの、これはヒグマの言動を思い返せば即座に氷解することだ。
人間が中にいるのではないかと勘繰るほどに悪意ある豊かな表情。
恐怖が最高潮に達したところで優しく名前を呼び掛けて、怖れで喉を潤すその悪辣。
何をするにも確実に恐怖を煽るその姿勢は、畏れを食らう怪異そのものである。

また、窓から侵入できるはずなのに、わざわざインターホンを鳴らして恵子に招き入れさせる手口。
山の中で『おーい』と呼んでくるのはクマだから、絶対に近寄るなとひなたは先輩猟師たちに教わった。
もちろん、それは怪異ではないものの、声やノックで人間に呼びかけ、おびき寄せたり扉を開けさせるものの例は枚挙に暇がない。
余談ながら、招かれなくても家に入ってくるがゆえに、逆説的に妖怪の総大将と呼ばれる怪異がいるほどによく知られた話である。

犬山家は鳥獣慰霊祭をも実施する、深山の超自然的な方面での専門家ともいえる家系だ。
であれば、素直に従うべきだとひなたは考えたし、恵子もひなたの考えに従う。

そして、何度目かの護符を貼り付けに行ったとき、ついに門の向こうから、ざっ、ざっと足音が聞こえた。
「ヴッ……!! ヴッ……!!」
コツ、コツという小太鼓を鳴らすような音と、荒い息遣い。
つい数時間前に聞いた、興奮したクマの発する音だ。
ただし、まるで女性のような声が混じっている。
護符の効力を確かに感じながら、ひなたは残りの戸口の守りを固めていく。

一致団結してクマの姿をした怪異に抗するなか、一人だけ不満を秘める者がいた。
月影夜帳。戸籍上は日本人だが、今や彼はトランススピーシーズであり、スピーシーズアイデンティティは吸血鬼だ。
そして、八柳哉太や犬山はすみによって、すでに招き入れられた怪異である。
ゆえに、護符が貼られるたびに、身が締められるような感覚に襲われる。

今のところ慎重に立ち回っているが、元より彼は気の長い性質ではない。
でなければ我欲を抑えきれずに三度も女性を殺害し、本人の預かり知らぬところで逮捕状まで出ているなどということがあろうものか。
仮にこのVHがなくとも、死刑は免れ得なかったであろう。
これまで彼女たちに協力的であったこと自体、大幅な譲歩なのである。

「うっ……」
ゴホ、ゴホとはすみが咳き込む。
各戸口に貼り付けるだけ貼り付けて、清めの塩に異能を付与していた。
しかし、盛り塩として、四隅に置くには足りない。

元々の相性の良さもあって、法具の作成にはさほど生命力を消費しなかったが、それでも数が数だ。
栄養剤や補助食品をありったけ広げて投与し、ドーピングのごとく騙し騙し繋いでいたがもはや限界に近い。

「ストップです、はすみさん。
 陳腐な言い回しで申し訳ないが、これ以上はあなたの寿命を削りかねない」
ドクターストップという強い言葉を使うのは憚られたが。
異能の行使を夜帳が止める。

「ですが、果たしてこれだけの準備で足りるかどうか」
「私はそのようなことを言っているわけではありません。
 私は言いましたね? 危険水域になったら問答無用で止めると」
はすみの態度は煮え切らない。
どれほどの脅威か、まだ相手を測り切れていないためだ。
だが、夜帳は夜帳で別の基準がある。

「命を削る異能を乱発して!
 それがどういう影響をもたらすか!」
「ひっ……!」
「月影さん、声抑えて!」
夜帳が声を荒げ、恵子が固まる。
ひなたがそれをとりなした。

害はないと念じ続けたためか、視界に入れるだけで固まることはなくなったのだが、
驚けばやはり夜帳の異能にあてられてしまう。
恵子は彫像のように動かなくなっていた。

「お姉ちゃん!? えっ、何かまずいことでもあったの?」
「なんでもないわ~。後先考えずに異能を使いすぎだって、月影さんに怒られただけよ~」
「でも。さっき、命を削るって……」
「無理をするなっていうことだから、ね?」

夜帳の声に反応し、うさぎもはすみのいる部屋に立ち入ってくる。
こうなってしまえば、強引に主張を押し通すことはできない。

「取り残された人が何を思うか、聡明なあなたなら分かるでしょう」
不快感は消えないが、それでも夜帳は穏やかで優しい声を出すように努める。

敵意すら滲ませるような不快感が表に出てしまったことは失策。
だが、それまで真摯に役割に取り組んでいたという事実が他者からの評価を覆さない。
人間は信じたいようにしか信じない。
「目をつぶれるのは、あと一回です。
 最も効果のあるもの一つに絞ってください」
心配そうに見つめるうさぎの姿と、夜帳の正論に、はすみは折れた。

「地下には厄除けになりそうなものが収納されていました。
 付き添いますから、確実なものを選びましょう。
 烏宿さん、申し訳ありませんが、字蔵さんのフォローを。
 犬山うさぎさん。未成年にこの場を任せることを恥じ入りますが、しばらくの間、よろしくお願いします」
「少しだけ休んだら、すぐに復帰するわ。
 だから、それまでなんとか持ち堪えて、ね」
犬山はすみは、月影夜帳と共に袴田邸の地下室へと歩を進める。

「お姉ちゃん!」
「そんな、今生の別れじゃないんだから大袈裟よ~。
 いい? 万が一があったら、打ち合わせた通り、よろしくね?」
彼女がどこか遠くに行ってしまうような胸騒ぎを覚えながら、うさぎは姉を見送る。

この言い知れない不安はなんだろう?
もう一度、メリーちゃんたちに癒やしてもらおうにも、彼らももう帰る時間だ。
それに、姉のいう怪異が迫りくる中、安易に外に出ていいものか。

外に意識を向けたとき。

バン。

一度だけ門が強い力で叩かれる音がした。

夜帳もはすみは地下室だ。
ひなたは恵子とともに、同じ部屋にいる。
家に残っている人間ではない。
では、哉太やアニカたちが救出を終えて戻ってきたのだろうか。

「だれか、あけてください」

小学生の女の子のような幼くかん高い声だ。
だが、これはアニカの声ではない。
二人は知る由もないが、リンの声でもなかった。

「洋子ちゃん?」
うさぎはひなたと顔を見合わせて、ごくりと唾を飲み込む。


「地下は暗いので、足元に気をつけてください。
 足を滑らせたらシャレになりませんからね」
「わかっていますよ~」

地下室は、床板を外してそこから通じる階段を降りるような造りとなっている。
色々と運び込まれていることからも分かるように、階段は意外と傾斜が緩く、気を付けさえすれば幼児でも容易に上り下りできるだろう。
光源は電気ではなくランプによって確保されており、壁に映った自らの影が意志を持つようにゆらゆらと揺れる。

「ウウウ、ウアアア……!」
「!?」
暗がりから聞こえてきた怨嗟の声に、はすみが思わず身を強張らせる。

「大丈夫です、先ほど来たときに、ひなたさんがしっかりと拘束しましたので」
夜帳はこともなげに言い放った。
実際問題、袴田伴次が自由に出歩いていたら、ひなたも夜帳も何事もなかったかのように地下室から戻ってきてはいないだろう。

袴田伴次は神社のお得意様でもある。
ただし、神仏に傾倒する大和家とは違って、
無神論者だと神社で堂々とのたまいながら、小説のネタとして、お祓いグッズやお清めの塩などを購入していく。
関わってはならないリストにまでは入れないが、
無神経な言動で村人の気持ちを逆撫でし、鴨出真麻や郷田郷一郎としばしばトラブルを起こす頭の痛い人物ではあった。

だが、そんな人物であるがゆえに物資は豊富だ。
はすみは地下室の保管物を一瞥し、銅製の錫杖を手に取った。
山折神社ではなく、勝慎之介が営んでいる寺社のほうから取り寄せたものだろう。
「なるほど、それを選ぶのですね」
「私たちは哉太くんや茶子ほどの武術の心得はありませんので、
 進退窮まったときに一発でも当てて怯ませられれば、と思いまして~」

はすみは怪異と位置付けているが、片目のヒグマには確かに肉体もある。
純粋な幽霊や悪霊ではなく、悪魔憑きに近い。
現世の肉体で強引に突破してくる可能性も捨てきれない。
何より例の怪異が払われた後、純粋なヒグマの本能に従って襲いかかっててくるのが一番怖い。
だからこそ、法具でもあり武器でもある銅製の錫杖を選び、異能を行使する。

生命力が抜け落ちていく。
全身を脱力感が襲う。
思わず床へとへたりこんでしまう。


「大丈夫、ではなさそうですね?」
「ええ、おっしゃる通り、少し、異能を使いすぎたかも、しれません」
「この錫杖は重さもある。
 これは私が上に届けましょう。
 はすみさんはしばらくここで息を整えたほうがいい」
「すみません。
 妹たちをよろしくおねがいします」
夜帳は錫杖を受け取ると、どこから用意したのか、布を巻きつけてくるみこんだ。
そして、入り口に向かい、錫杖を立てかけて。
外には出ることなく、開け放たれていた扉を静かに、パタンと閉めた。

「月影さん? えっ、なんでまた扉を~?」
「念のため、上の彼女らには聞かせたくないことがあるからです」
「聞かせたくないこと、ですか~?」

はすみは訝しむ。
誰も来ない密室で、男性が女性にむりやり迫る。
はすみにもそれが何を意味するか、その知識はある。
だがまさか、このタイミングで?
一般常識に照らし合わせれば、彼は侮蔑すべき女性の敵ということになるが。

その口元から覗く異様な長さの牙を見たとき。
先ほどまで全幅の信頼をおいていたはずの薬剤師が、得体の知れない存在へと変わったのが分かった。
同時に、自分の身体が人形にでも変貌したかのように、身体の動きがぎこちなくなっていく。

「ずっと、我慢していました」
ひた、ひたと足音が地下室に響く。
へたり込んだ姿勢のまま、ずりずりと後ずさる。
錫杖にはとても手は届かない。

「異能を自覚したときから。
 ……いえ、違いますね。
 己の遺伝子に刻まれたささやかな欲望を自覚したときから、ずっと」
向けられているのは気喪杉のような汚らしい性欲ではない。
これは、食欲。
それを理解したとたんに、目の前の相手が理解できなくなる。
わずかに動かせた身体が一切動かなくなる。

「希望が決してかなえられないこの世を嘆き、
 せめて行動に移しては、私自身の身体にも裏切られることに絶望し」
これでも、村の慰霊祭では春姫と剣舞を演じている身だ。
八柳家には到底及ばないが、夜帳相手なら一撃与えて怯ませるくらいならできるだろう。
異能の酷使は、その最低限の体力すら奪い、
異能の発動は、その僅かな希望すらも根こそぎ摘み取っていった。

「その抑圧が今日、ようやく解放されるのだと」
彼の身勝手な語りに、これだけは分かる。
月影夜帳は村を騒がせていた『吸血鬼』だ。
分かったが、何もかも遅すぎた。

硬直した身体に、優しく牙が突き立てられる。
痛みはなく、ただただ命が液体となって流れ出て行く、未知の感触。
不快感がないのが不気味さを際立たせるが、はすみにはもう何もできない。

そして、夜帳は念願の乙女の血に喜びを噛み締める。
夢にまで見た乙女の血。
それまで吸ってきたすべての血と、あらゆる食材が後塵に帰す歓喜の味。
これを飲んでしまえば、ほかのすべての食材がバカらしくなる。
そして……。

「うげぇぇっ!?」
(え? ええぇっ……?)
美味と同時に吐き気が襲い来る。
それは夜帳にとってもはすみにとっても、あまりに予想外。
人間の血を飲んで平気なわけがないだろうという常識はさておき、勝手に血を飲んで嘔吐は悪い意味で衝撃すぎる。


(な、なぜですか?)
木更津閻魔のような粗野なバカや、気喪杉禿夫のような人間未満の醜男の血がまずいのは当然だとしても、はすみは見た目麗しく、品も家柄も申し分ない。
薬剤師としての知識は、役場の激務によるストレスと、異能の行使による体力の低下、常習的に摂取しているモンエナによって汚染されたのだろうと解を導き出す。
それも影響がゼロだとは言わない。
だが、愛血家としての本能はもっと別の部分に原因を見出した。

吸血鬼と巫女。光の勢力と闇の勢力。聖なる者と邪なる者。
彼女は、いや、犬山家の姉妹は、吸血鬼が決して取り込めない相手なのだと。
たとえるなら、最高級の寿司屋で高級海老を食べてみたら、甲殻類アレルギーに罹っていたことが判明した。
そんな致命的な想定外だった。

「動ける……!」
硬直が解けた。
『威圧』は恐怖を媒介に肉体の動きを止める異能である。
要するに自分が狩られる者だと思ったときに相手に逆らえなくなる異能だ。
夜帳が連続殺人鬼であり、吸血鬼であったことには恐怖しかなかったが、彼が自爆したことでその恐怖は払拭された。

「くっ、……!」
夜帳の声を置き去りにする。
待ちなさい、と言おうとしたのだろうか。
その声をあげる余裕もなさそうだ。

錫杖が入り口付近に立てかけられている。
威圧の異能こそあれど、夜帳の身体能力は自分と比べても低いくらいだ。
気力を失い、血も流れ出ているという大ハンデだが、それでも法具があれば夜帳には負けない。
軋む身体に鞭打って、よろよろとそちらへと歩を進める。
錫杖まであと三歩、二歩、一歩。

手を伸ばしたところで、
「あっ……」
暗がりから伸びてきた手にその腕を掴まれた。

「ガアアアアッ……!!」
そこにいたのは、袴を着た古めかしい風体の中年男性であった。
だが、血走った目と、むき出しにした歯は、これまで何度も見てきたゾンビそのものである。
168センチの中背ながら、体格のいい男性の力にはとても太刀打ちできるものではない。

何より……。
(身体が、動かない? どうして、あの男の異能が!?)

「肝を冷やしました。
 袴田さんに待機していてもらってよかったですよ」
闇の中から、ぼそりと声が聞こえる。
闇の中、ゆらりと立ち上がった吸血鬼が、ひたひたと近づいてくるのが聞こえる。

すべての血を飲み干すことで他人の異能を得られる異能。
言い換えれば、血液を通して異能ごとウイルスを取り込む異能。
逆に言えば、自分の血液を流し込むことで取り込んだ異能を他人に分け与えることもできるということだ。
輸血は、感染症の媒介経路としてはオーソドックス。
飲み干した血の量という上限こそあるものの、自らの力を分け与えた眷属を作り出す能力はなんとも吸血鬼らしい。


任意で発動する異能はゾンビに使いこなせるはずもないが、閻魔の異能は常時発動のパッシブな能力である。
ゾンビを恐れる者が身を竦ませるのは何もおかしいことはない。

袴田伴次のゾンビは、はすみの腕をとって強引にひっぱり、従者のように主に獲物を差した。
上下関係は明白だ。
月影夜帳は、このゾンビを従えている。

「まことに、まことに残念ながら、貴女の血は私の口には合わないようです。
 ですが、今朝はこのままお帰しするわけにはいきません」
その震えるような声は、心底悔やんでいるのだろう。
吸血行為に失敗したことを今生の別れのように告げるその姿は、価値観の相違を浮き彫りにする。
到底理解し合えるものではない。彼は正しく怪異である。
だが、何もできない。命乞いも、罵倒も、遺言すら。

夜帳が再度牙を突き立てたその目的は、血を飲むためではない。
はすみの血を零れさせるための一噛み。
神聖なる巫女の血が、地下室の床へとくとくと沁み込んでいく。
この極上の血を吸えないことに、夜帳が涙を流す。
土壇場に聖なる力が発動するような夢物語はもう訪れない。
身体の中から熱が抜け落ちる。
とく、とくと血が流れ落ちるたびに、冷たい骸へと一歩、また一歩近づいていく。

「~~~!!、~~!!」

声なき悲鳴が地下に響く。
いったい、どこで間違ってしまったのか。
彼と二人で地下室に入ったことか、彼を信用してしまったことか、それとも神職の家系に生まれながらその正体を見抜けなかった力不足か。
そんなもの、答えは決まっている。
自分が、招き入れてはならないものを家に招き入れてしまったことだと。

(みんな、逃げて……)
威圧の異能によって、身体は石のように動かない。
最期に浮かぶのは大切な妹の姿だ。
断末魔すら残せずに、犬山はすみは人間としての生を終えた。


ドンと門をたたく音がする。

「たすけてください!」
それは女性の声だった。
まだ年端もいかぬ女の子の声である。

「いぬやまさん、なかにいれてください!」
うさぎはこの声の主をよく知っている。
診療所で静養している一色洋子の声だ。
はすみと春姫がしばしば診療所にお見舞いに行くにあたり、うさぎも着いていったことがある。

「おおきなけものが、わたしをおいかけてくるんです!」
ひなたはうさぎにアイコンタクトを取る。
うさぎはふるふると首を横に振る。

彼女たちから、門の向こうは見えない。
それは向こうからも同じだろう。
だが、門の向こうの声は、門前に自分たちがいることを確信して話しかけてくる。
それが熊なら話は通る。
何より、目の前の相手からは、隠しきれない獣臭さと血の臭いがする。
そして、ひなたが聞いた興奮したクマの唸り声。
そこに含まれた声帯の振動が、今の声の主と似通っている。


風下の門に手をかけたとき、電撃のような強烈な衝撃がはしった。
痛覚を奪ったはずの独眼熊に、確かに痛みがあったのだ。
肉体に直接痛みが与えられるのではない。
精神、すなわち巣食うものを直接排除している。

(これが、いぬやまのいのうか)
嫌がらせに長けた隠山らしい異能だ。
出入り口や外壁にかかる大木の周辺など、およそ侵入できそうな場所にはすべて護符が貼られていた。

門を破るだけなら可能だ。
分身体の野生を解き放てばよい。
だが、それでは偵察としても猟師としても片手落ちだろう。

『猟師』として敵を仕留める。
それはつまり、狩られる者を自分が選別し、逃げ惑う獲物を捕獲・殺害し、戦利品として持ち帰ることである。
猟師が真正面から獲物に対決を挑むことは決してないように。
対等な立場での命のやりとりなど、ハナから望んでいない。

そこで、試みたのは対話である。
声を用いて交信し、情報を収奪する人間の行為。
風向きと空間さえ間違えなければ、相手が見えている必要もないし、相手からの対話も必要ない。
門ひとつ程度の距離なら相手の臭いの粒子は嗅ぎ分けられる。
つまり、対話と言いながら、独眼熊のそれは一方的な情報の収奪。

門の向こうにいるのは三人。
一人は"ひなた"。
"けいこ"もその奥、巣の中に控えているようだ。
『銃』の臭いはない。
自身でも銃を調べて、分かった。一度に撃てるのは五発。つまり、弾切れだ。
"ひなた"はいま、猟師を放棄しているのだろうか。

そしてもう一人は、おそらく隠山の一族。
なお、最も血が濃く、陰湿で許しがたい隠山の跡取りはこの場に出てきていないらしい。
他の一人と、家の奥に引きこもったままだ。

「もんを、あけてください」
言葉だけで、隠山と"ひなた"のストレスが上昇していくのが分かる。
まあ、予想通りこちらの存在はすでに割れているようだ。
では、アプローチを変えてみよう。

「わかりました。
 あなたたちのなかまにたすけてもらいます」
先の石牢に向かった、やつらの仲間のことを口に出す。
隠山と"ひなた"の臭いが急変した。
そこにいながら、決して口を割らなかった二人に動揺がはしった。

別動隊の人間達は、あの石牢に閉じこめられた人間を救出しにいった。
根拠はなかったが、方向とタイミングから推測し、それが見事に当たった。
あそこは血の臭いが漂っていた。
生き残っていたとしても、深手を負っているだろう。

巣に引きこもるだけならばそれでいい。
だが、何も知らずに巣へと戻ってくるものにまでは手を広げられない。
外の仲間を見捨てるか、今ここで護符を破り捨てて招き入れるか。
強制的な二択である。

庭に数多く展開していた異能の動物が、一頭残らず消えていく。
これは譲歩のサインか、交渉の準備か。

次のステップに進んだことに、独眼熊はほくそ笑む。
強力な護符の効力も、一度破棄したなら紙切れも同然。
一度中に入ってしまえば、以降は受け入れられる。
あとはやりたい放題だ。

中の全員を品定めし、獲物としての刻印を刻み込んでやろう。
何時間でも何日でも、猟師と獲物の決して覆らない関係を保ち、力尽きるまで追い回そう。
なんなら、隠山でも"ひなた"と"けいこ"でもない一人くらいは、道具として使ってやってもいい。

ただし、隠山はダメだ。
その異能は決して相容れない。
奴らだけは今すぐ、本体を出向かせてでも殲滅するとしよう。

そんな未来図を描いているところに、動きがあった。
水を注ぐ音がしたかと思えば、隠山のまわりにやはり同じような臭いの動物が何頭か現れ、三方に散っていく。

(なんだ?)

動物の気配は、壁をするすると上り、土壁の瓦の上に立つと。
そこではじめて、独眼熊の分身体は上を見上げる。
柄杓を持った三匹の猿が独眼熊を見下ろしていた。

東方の大社では神の遣いとされる猿である。
みざる、いわざる、きかざる、で有名な三猿だ。
厄除けとして猿を呼び出すなら、やはり斉天大聖か三猿だろう。

臭いの粒子を拾って、本体にまで情報を届けるタイムラグ。
その僅かな時間で、独眼熊は完全に後塵を拝した。
目と耳と口めがけて、三猿は柄杓の内容物――清め塩を水に溶かして異能を施したもの――聖塩水をぶちまけた。

「ヴォアアアアアアアア!!」
五感をつかさどる四器官に対して、毒物にも等しい溶液をぶちまけられ、独眼熊はもんどりうつ。
体毛と鱗で覆われた肉体も、聖液には一切の耐性を持たない。
面の範囲で三方から襲ってくる液体を手で受け止められるわけもなく。
その痛みは分身体を通り越して、巣食うものにまでダイレクトに響き渡る。

けれども、最も重要な嗅覚はまだ無事だ。
復帰をはかろうと、あたりの様子を嗅ぎ分ける。
隠山と"ひなた"の臭いが強くなっている。
(いや、ちがう。もんが、ひらいた?)

「ほんっとに、よく効くんだ。
 それじゃ私も遠慮なく、やらせてもらうから。
 お待ちかね、あなたのだいっきらいな、銃だよ!」

ライフルに弾はない。
袴田邸に武器はない。
では、この銃とは何か?

答えは水鉄砲。
ただし、タンクに聖塩水のたっぷり詰まったそれは、怪異限定で実銃をはるかに超える有効性を示す。

怪異に遭ったら、堂々とせよ。
決して恐れるな。
常に主導権を握り、てのひらで転がせ。

はすみから説かれた心得であり、隠山家が陰湿な一族だとナニカから言われる直接の原因。
けれど、それが力劣る人間が山の荒神に対抗できる有効な手段なのだ。

「あなたは、人間には絶対に勝てない」
怪異を怪異たらしめるもの。
それは畏れであり、恐怖であり、信仰だ。
俗な言葉で言い表せば、メンツこそが力の源である。

「山の獣は、猟師には絶対に勝てない」
名状しがたきものに対し、時には名を付けて具体化し、時には名を奪って畏れを収奪してきた。
守り神には信仰を捧げて力を与え、祟り神は丁重に扱って正負の力を逆転せしめた。
それでも人に害を為す荒神は他の神に概念を取り込ませ、蛇足的な概念を付け足し、力を丁寧に削いでいった。

鬼が大豆を嫌うように。
信仰の尽きかけていたアマビエが人々の信仰によってその神力を取り戻したように。
ミャクミャク様が老若男女問わず人間の畏れと信仰を同時に獲得して、神とあやかしのひしめく禁忌地方で急激に勢力を伸ばしたように。
八尺様がその姿で口伝され、あらゆる媒体で取り上げられて強烈に力を得て、だがその姿ゆえに人間の情欲に晒されて変質してしまったように。
八重垣が八尺様の伝説をハックして力を急激に高め、その斜陽とともに一転、力を失ったように。

言霊を、呪詛を。
今日新たに生まれた怪異に刻み込む。

「だって、そういうもの、でしょう?」
独眼熊。狩人に三度敗れた山の王者である。
片目の熊は、猟師には絶対に勝てない。
片目の熊を乗っ取った怪異は、犬山と神楽、そして猟師に水鉄砲で調伏される。
そして最後のパーツ。
猟師でも神職でもない無力な一般人の少女、字蔵恵子の目に焼き付けられたことで、これは新たな退魔の童話となる。

山降りる、ヒグマあらわる一軒家。
ヒグマは人に、勝つべくもなし。

そんな特大の呪詛を受け、電撃と共にストレートで発射された聖塩水が分身体の鼻をぶち抜き。
導電性抜群の食塩水が電撃を全身にまわらせ。
独眼熊の意識をナニカの意識ともども完全に刈り取った。

ぴくりとも動かない怪異を前に、うさぎとひなたは胸をなでおろす。
怪異であったからこそ、裏道ともいえる方法で撃退できたが、これが本物の合成獣であればなすすべもなかっただろう。
魔獣は門の扉につっかえるように倒れ、門を閉じることができそうにない。

「お、お疲れさまでした!
 すごかったです! 私は、見ているしかできなかったけれど……」
「いや、私も最後に一発水鉄砲撃っただけだからね?」
「それを言ったら、私だって三猿のみんなに水撒きお願いしただけですから」
思い返せば、賞賛されるほど大したことはしていない。
童話の三枚のおふだのように、それを作った人がすごいだけだった。
けれども、少女たち三人だけで怪異を追い払った。
完全勝利である。

少女たちの鈴を鳴らすような笑い声が朝の邸宅に響き渡る。
さて、この巨体をどうすればいいんだろうかと魔獣に視線を当てたところで、三人の視線が固まる。

「ヴヴヴ……!」
魔獣は生きている。
それも、人の悪意を煮詰めたような存在ではなく、圧倒的な暴として。

「ヴアアアア!!」
魔獣が立ち上がる。
本体の意識は途切れたが、分身体の彼らはただの異能。すなわち道具にすぎない。
ただの道具に退魔の術を施したところで、何の意味もないことは自明であろう。

隠山殲滅の命を受けた分身体は、刃物のようなツメが彫刻刀ケースのようにずらりと並んだ腕を振り上げる。
その矛先はもちろんうさぎであり……。

「キィィ!!」
「みざる様!」
その腕が振り下ろされる前に、三猿が分身体の顔に取りついた。
だが、それも一瞬だ。
ヒグマとワニの腕力にただの猿がかなうはずもなく、あっという間に振り払われてしまう。

「うさぎちゃん、逃げて!
 こいつはキミを狙ってる!」

ひなたがその脚にしがみつく。
異能を全力で展開し、髪は金色に輝いている。
小手先の化かし合いはもう通用しない。
ここから先は、野生の命のやり取りだということをひなたは自覚した。
だから、ここで消し炭にする覚悟でエネルギーを放出する。

「ヴヴヴァァアアア!!」
分身体が悲鳴をあげる。
電撃は確かに効いている。
体中を濡らした食塩水が、電撃を全身に巡らせる。
けれど、生命力に満ち溢れた700キロの体格の魔獣を仕留めるには程遠い。

「あっ……!」

その太い脚から生じる莫大なエネルギーに抗えず、必死でしがみついていたひなたはついに振り落とされる。

魔獣の瞳がひなたを鋭く射抜く。
ひなたを猟師として仕留めるという誓いは本体の理性によるものだ。
本体から解き放たれた、本能だけの分身体にその理屈は適用されない。

ずん。
ずん。
ずん。

「ひなたさん! 立って!」
「三猿様! どうかひなたさんを助けて!」
少女二人の言葉などまるで意に介さず、両腕を抑えようとする猿ごとき、まさしく足止めにもならず。
散々妨害してくれた邪魔者を踏みつぶそうと、巨体とは思えぬ速さで怪物が近づく。
ひなたが体勢を整え、立ち上がる時間など与えない。
無慈悲に、ハチのように踏みつぶす。

「ダメぇっ!!」
恵子の呼びかけもむなしく、足が振り上げられて……。

脚を振り下ろした魔獣。
けれど、肉を踏みつぶした感触はない。
ただ、地面を強く踏み付けただけだ。
ひなたは一歩先にその身を転がせていた。

ならばともう一踏み。
今度は狙いは正確だ。

「???」
けれど、骨を砕き、肉を押し潰すことはかなわない。
踏みつぶす直前に、ワープのようにひなたの肉体が移動していた。
何が起きたかはひなたにも分かっていない。
けれど、恵子の声が聞こえたと同時に、彼女に引っぱりあげられるような気がして。

恵子を見る。
彼女は恐怖を押し殺して、歯を食いしばって、うん、と頷いた。
ひなたの髪と呼応するように、恵子の髪も淡く光っていた。


まだ両親が健在だったころ、学校に通っていたころの理科の実験。
電気を流して磁石を作る実験。
羊の群れが現れるのなら、三猿を呼び出せるのなら、怪物に変貌する異能があるのなら。
だったら、こんなのだってあっていいじゃないか。

異能は脳の力。
それぞれのウイルスから女王ウイルスを通して、ひなたと恵子の異能に相互作用が発生する。
二人の間に磁力が発生する。
ひなたとけいこ。
S極とN極に、+極と-極に、今日新たにH極とK極が現れた。

ひなたの電磁力を帯びたものは恵子のほうへと引き寄せられ、恵子の電磁力を帯びたものはひなたへと引き寄せられる。
恵子からひなたへと雷撃が放たれて。
ひなたに当たる直前に、それは反発し。
引き寄せる力と排する力が拮抗したその雷撃は、ひなたの周辺をただよい、ひなたに纏われる膜となる。
その危険性は、三猿が即座に魔獣から離れて見守るほど。
一度限りの雷膜は、ひなた単独の電撃とは殺傷力は比べ物にならず。
「ヴヴ、ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!」
それでもまだ、魔獣は倒れない。

ストレスで溜め込んだ雷撃は尽きた。
電撃を生み出すだけのカロリーも残りわずかだ。
あと一押し。あと一押しだ。

その最後の一手は、手ずから飛び込んで来た。

「みんな、遅れて本当にごめんなさい!」
「お姉ちゃん!?」
邸宅の奥から現れたのは、はすみと夜帳である。
表で戦いが起こっていることなど、想像もしていなかったのだろう。

「ひなたさん、これを受け取って!」
水撃も感電も、魔獣を払うには一押し足りない。
けれどもこれだけは、元々獣除けとして使われ、物理的に相手を破壊する武器として、由緒正しい代物だ。

山折村の寺院に奉納されていた錫杖。
酒代を買うために勝慎之介が袴田伴次に売り払った、正真正銘の法具である。
はすみがありったけの異能を付与した武具がようやく届いた。

恵子のすぐそばを通って彼女の電気で帯電した錫杖は、ひなたに引き寄せられるようにその手に収まった。
電気伝導率に優れる銅で作られたそれはひなたの異能を十分に受けて、バチ、バチと神々しく光り輝く。
遊環が電磁力で互いに引き合い離し合い衝突して、ギャラ、ギャラとけたたましい聖音を鳴り響かせる。

遊環は獣除けのために作られたともいわれている。
その音は、本能だけで動く魔獣が嫌悪するに足る。
異能で強化されたそれは、クマにとってはまさに音量兵器の域に達しているだろう。
押されている。この肉体を以ってして、押されている。
魔獣は、恐怖した。
つまり、月影夜帳にも犬山はすみにも、わずかながらに恐怖した。
二人の『威圧』が発動する。
決定的な、そして致命的な隙。

「恵子ちゃん!」
「はいっ!」

かかげた杖頭に、恵子から受け取った雷が落ちる。
それはバチバチと蓄電し、紫電の輝きを放った。

「はああああっっっ!!」
美を解さない野獣ですら、一瞬見惚れるその輝きは。

「ヴァ……?」
振り下ろされた杖頭と共に、雷が落ちるように魔獣の脳天に叩き落された。
何が起こったのか分からない、という声をあげ、分身体は跡形も残さず、幻のように消失した。
袴田邸を外から襲った脅威は、いま、ようやく去った。
今度こそ、少女たちは息をつくことができるようになったのだ。


「うそぉ、あれがニセモノって、そんな……。
 確かに何も残ってなかったけど……」
ハムスターのように水と菓子パンをほおばりながら、ひなたがげんなりとした声をあげる。

「犬山うさぎさんも気付いていたのではないかと、はすみさんが話していましたが」
「ええっと、確かにちょっと変というか。
 ドラドラちゃんとか三猿様みたいな存在なのかなって」
なお、三猿は庭で見張り中である。
その身軽さで、大きな怪我はないようだ。

「一応、話を聞くに本体にもダメージは与えていそうですが……。
 確か、八柳さんたちのところに向かおうとしていたのでしたね?」
二人の顔が曇る。
あの怪異は、湯月邸のガレージの件を知っていた。
直接出向くか待ち伏せするかは不明ながら、そちらに危害を加える可能性は十分に高い。
少女の声で助けを求められたら、勝子など確実に引っかかってしまうだろう。

「私はその魔獣と直接対峙したわけではないので、詳細を語れません。
 それに、私は湯月さんの家など知りませんよ」
「あ~、そっか。となれば……」
「私たちが行くしかないんだよね?」

特殊部隊と一時間以上戦い続けるとは思えない。
いいにしろ悪いにしろ、決着はつくはずだ。
仮に特殊部隊が勝利していたとすれば、ここはとっくに襲撃されているだろう。

「分かった、いくよ。
 ただし、恵子ちゃんを驚かせないように気を付けてよ?」
「そこは私よりはすみさんを信じるべきでしょう。
 彼女がいる限り、私から字蔵さんを怖がらせるようなことは起こりませんよ。
 はすみさん自身が限度を超えた無茶をしない限り、という前提条件は付きますが」
「あ~、それは、う~ん……」
うさぎがどこか遠くを見るような目で視線を逸らす。
夜帳もそんなことは知っている。
モンエナを常習的に飲み、診療所に栄養剤をもらいに来るような人間が、無茶をしないはずがない。

「ちょっと~? 三人とも、聞こえているんですけど~?」
「ごめんね、お姉ちゃん!」
「え~、ゴメンナサイ!」
「ふふっ……」
隣部屋にいるはすみ本人から直々に怒られが発生した。
その様子を、恵子が堪えるように笑う。

「大丈夫です。
 私も、ひなたさんに迷惑をかけないように待てますから」
「お、おお~? 言うようになったじゃん!」
「そうなれたのも、皆さんのおかげですから」
初めて会った時の幸薄さがウソのように、明るく笑う。
ひなたの腑に落ちる。
正しく、彼女にとっての夜明けが訪れているのだと。


「恵子ちゃん、さっきからひなたさんのことをずっと話しているんですよ~。
「あっ、はすみさん、それひなたさんに言っちゃダメだって!」
「ん~? それじゃ、後でその話聞かせてもらおうか~?」
「大した事じゃないから、大した事じゃないから!」
「ふふっ……」
意趣返しと言わんばかりに、はすみが堪えたように笑う。
恵子は赤面して、わたわたと慌てている。
何もなければ、彼女はこのような性格だったのだろうか。

「ほら、お水飲んで」
「んく、んく、ぶふっ、ごほっ、ごほっ……」
はすみから手渡された水を恵子が疑いもせずに飲み干し、咳き込む。

「ほら~、焦って飲もうとするから~。
 ゆっくり飲んでいいの。誰にも咎められることはないから。
 ……ひなたさん、どうかしたの?」
「え? いや、なんていうか……、大丈夫そうだな~って」
別に子離れではないけれど、彼女の様子にちょっぴり寂しく、けれどもちょっぴり嬉しく思う。


哉太たちの元へ向かううさぎたちと三猿を見送った三人。
恵子はそれから、ひなたの活躍を物語のようにはすみに話す。
高揚して推しを語るその様は、まさにヒーローを語る子供そのものだ。
けれども、肉体に疲労は蓄積していたのだろう。またしても眠気が襲ってくる。
この家に来てから休んだとはいえ、せいぜい3時間。
育ち盛りの女子高生には到底足りない睡眠時間である。
こっくり、こっくりと船を漕ぐ恵子とそれを微笑みながら見守るはすみ。
夜帳は、袴田邸から離れていくうさぎとひなたを静かに見送っていた。


これは、夢か現か。

(はすみさんの声が聞こえる)
「どうせ死ぬからぞんざいに扱っていい。
 そんなはずないでしょう?
 農家のみなさんだって、出荷するニワトリさんやブタさんに最後まで愛情深く接しているはずよ?」

(何の話をしているんだろう?
 ニワトリさん? ブタさん? 家畜の話?)
この理屈は未だに噛み砕けていない。
きっと、実際に動物を育てて、その動物の命をいただくようにならなければ分からない感覚なのだろう。
自分は、登校ごとそれを投げ出してしまったけれど。
中学校のころにやってきた黒豚の、和幸くん、だっけ。

(ああ、そうか。
 きっと、和幸くんが死んでしまいそうなんだ)

うさぎさんが救いたがっていた和幸くん。学校で飼ってた、黒豚くん。
命をいただく自覚を持つのが目的、だったっけ。
嵐山先生や六紋名人を招いて、動物を食べるのがどういうことなのかを学んで。
うさぎさんの友人の、背の低いかわいらしい子が名付け親だったっけ。
最期まで必ず幸福に暮らせるように、和幸なんだって。
(意外と学校のこと、覚えてるんだなあ……)

自分も、ひなたさんも、うさぎさんたちも、和幸くんを決してぞんざいに扱ったことはないはずだ。
彼は幸せに逝けるのだろうか。

「最後まで愛を忘れてはいけないの。
 余計な恐怖を与えてはダメ。
 最期は心安らかに旅立っていければ、それほど幸せなことはないと思うわ~」

いや、大丈夫だろう。
ひなたさんやうさぎさん、はすみさんに見守られて、惜しまれながら送られるのなら。
「心構えを学び直すべきですよ~。
 命をいただく者として、最低限の礼儀は忘れちゃダメですからね~?」

目が開かない。こういう大切な場面に居合わせられないのは本当に情けないけれど。
(もし、生き残ることができたら)
「ええ、だから、ね」

(ひなたさんやうさぎさんと、また、学校に、行ってみようかな)
「彼女にお別れと感謝の言葉を送りましょう」




頬に流れてきたのは、涙だろうか。
歓喜なのか、悲哀なのか、よく分からない液体が、ぽつんと私の頬をつたっていった。


「!!」
あり得ないことが起きた。
まとわりつく不快な聖気を払いのけ、ようやく落ち着いてきた頃合いだった。
"けいこ"から血が流れ出し、隠山の中に吸い込まれていったのだ。

「ヴッ!!」
自分の獲物だ。
猟師として仕留め、復讐とするその一環だ。
そして、存在そのものに押し付けられた『猟師に征伐される魔獣』というスティグマを払うそのパーツの一つだった。
此度おこなわれたことは、獲物の横取りにほかならない。
それも、横取りをした不届き者はよりにもよってあの隠山である。

「ヴッ!! ヴッ!! ヴッ!! ヴッ!!」
散々コケにされたうえでの獲物の横取り。
猟師に勝てず、水鉄砲ごときに怯むという要らぬ弱点を強制され、神霊としての格がまたも落とされた。
いつもの隠山のやり口だ。
積年の恨みも募って、独眼熊と巣食うものの怒りは頂点に達した。
"ひなた"は先ほどの家を離れた。
裏で糸を引いて嘲笑っているであろう隠山を、原型も残らないほどにすり潰す。


分身体を再度呼び出し、その様子はさながら、終末の日に現れるという狂気の怪物の進軍であった。
しかし、鋭い嗅覚も優れた聴覚も、ほかのことに気を取られていれば発揮できない。
激怒し、まわりに注意を払えない王者は必ずその頂点の座を追い落とされる。

ズガン!

そんな音と共に、視界が赤に染まる。

「ヴァアアッ!!」
忘れもしないこの痛み。

まだ無事な分身体の身体で探ってみれば、そこにいたのは四人の人影だ。
その中でも特筆すべきが、山暮らしのメスや"ひなた"とはまた別の、自身に消えない屈辱を与えた白髪交じりのオス。
六紋兵衛。
ヤツが己を狩るために、再び馳せ参じたのだ。

銃弾の盾とすべく、そしてやつを屠るべく、ありったけの分身を展開する。
隠山といえども、白髪交じりのオスといえども、これだけの分身相手には押しつぶされる以外の道はない。
そんな驚異の魔獣軍団を、防護服に身を包んだメスが、事も無げに屠っていく。
防護服への注意も必要とせず、機械部分のスリープも気にせず。
破壊の権化として、分身を屠る彼女こそが特殊部隊だ。

(しらがのおとこは、とくしゅぶたいとてをくんだのか?)
あり得ない。
だが、自身の両目を奪うほどの男なら、よもやそれすらも可能かもしれない。

まったくの殺気もなく、目を撃ち抜いたオス。
ありったけの分身体を正面から屠るメス。
それに加えて、さらに二人の正常感染者。

独眼熊は、屈辱の五度目の逃亡を果たした。
もはやこれは、呪いである。


直接接触している光以外は、統率に個体差が現れる。
特に兵衛はスナイパーという役柄上、少し距離を離して配していたのだが、どうにもふらふらと隊列から外れようとすることがあった。
そこで、兵衛の行く先に何かあるのかと目的地を任せてみたところ、遭遇したのがワニとクマを掛け合わせたような魔獣の群れである。

あんなもの、研究所の生物兵器以外にあり得ない。
それが堂々と群れで村の中を闊歩している。
怒り以外にどのような感情が湧こうものか。

ボスと思われる統率個体を六紋に命じて撃ち抜くと、風雅の身体能力に任せて群れの有象無象を屠った。
ただし、ボスは目を潰したのにも関わらず逃亡し、群れの他の個体は幻であったかのように消え失せた。
追撃に踏み切れなかったのは、ライフル銃の弾薬が心もとなく、
グレネード弾も離れすぎた個体に当てる自信はなかったというだけのことだ。

点々と伸びるのは魔獣の血の跡。
これを追うか、戦力を増強するか。
次期村長の考えは分からない。
村を襲う悪意にもはや消えぬ刻印を刻みつけた猟師は、将来の村長に黙々と従う。
その目が何を視ているのかは、誰にも分からなかった。

【字蔵 恵子 死亡】
※下手人は犬山はすみであるため、異能は75%分しか月影夜帳にわたっていません

【C-4/道/一日目・午前】
犬山 うさぎ
[状態]:蛇再召喚不可
[道具]:ヘルメット、御守、ロシア製のマカノフ(残弾なし)
[方針]
基本.少しでも多くの人を助けたい
1.鈴菜と和幸、哉太たちの無事を祈る
2.哉太たちに独眼熊の脅威を伝える

烏宿 ひなた
[状態]:感電による全身の熱傷(軽度・手当て済)、肩の咬み傷(手当て済)、疲労(小)、精神疲労(中)
[道具]:夏の山歩きの服装、リュックサック(野外活動用の物資入り)、ライフル銃(0/5)、銅製の錫杖(強化済)、ウォーターガン(残り75%)
[方針]
基本.出来れば、女王感染者も殺さずに救う道を選びたい。異能者の身体を調べれば……。
1.哉太たちに独眼熊の脅威を伝える
2.生きている人を探す。出来れば先生やししょーとも合流したい。
3.VHという状況にワクワクしている自覚があるが、表には出せない。
4.……お母さん、待っててね。

【D-4/袴田邸/一日目・午前】
犬山 はすみ
[状態]:異能理解済、眷属化、価値観変化、『威圧』獲得(25%)
[道具]:救急箱、胃薬
[方針]
基本.うさぎは守りたい。
1.夜帳の示した大枠の指針に従う
2.生存者を探す。

月影 夜帳
[状態]:異能理解済、『威圧』獲得(25%)、『雷撃』獲得(75%)
[道具]:医療道具の入ったカバン、双眼鏡
[方針]
基本.この災害から生きて帰る。
1.はすみと協力して、乙女の血を吸う
2.和義を探しリンを取り戻して、リンの血を吸い尽くす
[備考]
※哉太、ひなた、うさぎ、はすみの異能を把握しました。
※袴田伴次、犬山はすみを眷属としています。
※袴田伴次に異能『威圧』の50%分の血液を譲渡しています。
※犬山はすみに異能『威圧』の25%分の血液を譲渡しています。

【D-3/高級住宅街/一日目・午前】
【独眼熊】
[状態]:『巣くうもの』寄生とそれによる自我侵食、左目に銃創、知能上昇中、烏宿ひなた・犬山うさぎ・六紋兵衛への憎悪(極大)、犬山はすみ・人間への憎悪(絶大)、異形化、
    痛覚喪失、猟師・神楽・犬山・玩具含むあらゆる銃に対する抵抗弱化(極大)
[道具]:ブローニング・オート5(5/5)、予備弾多数、リュックサック、懐中電灯×2
[方針]
基本.『猟師』として人間を狩り、喰らう。
1.神楽春姫と隠山(いぬやま)一族は必ず滅ぼし、怪異として退治される物語を払拭する。
2."ひなた"は『猟師』として必ず仕留める。
3.六紋兵衛と特殊部隊(美羽風雅)を仕留める。
4.正常感染者の脳を喰らい、異能を取り込む。取り込んだ異能は解析する。
5."山暮らしのメス"(クマカイ)と入れ違いになった人間を狩る。
[備考]
※『巣くうもの』に寄生され、異能『肉体変化』を取得しました。
ワニ吉と気喪杉禿夫の脳を取り込み、『ワニワニパニック』、『身体強化』を取得しました。
※知能が上昇し、人間とほぼ同じことができるようになりました。
※分身に独眼熊の異能は反映されていませんが、『巣くうもの』が異能を完全に掌握した場合、反映される可能性があります。
※銃が使えるようになりました。
※烏宿ひなたを猟師として認識しました。
※『巣くうもの』が独眼熊の記憶を読み取り放送を把握しました。

【D-3/高級住宅街/一日目・午前】
山折 圭介
[状態]:鼻骨骨折、右手の甲骨折、全身にダメージ(中)、精神疲労(大)、八柳哉太への複雑な感情
[道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(4/6)+予備弾5発、サバイバルナイフ
[方針]
基本.VHを解決して光を取り戻す
1.女王を探す(方法は分からない)
2.正気を保った人間を殺す。
3.精鋭ゾンビを集め最強のゾンビ兵団を作る。
4.知り合いを殺す覚悟を決めなければ。
[備考]
※異能によって操った日野光(ゾンビ)、美羽風雅(ゾンビ)、六紋兵衛(ゾンビ)を引き連れています。
※美羽風雅(ゾンビ)は拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフを装備しています。
※六紋兵衛(ゾンビ)はライフル銃(残弾2/5)を背負っています。
※学校には日野珠と湯川諒吾、上月みかげのゾンビがいると思い込んでいます。

085.元凶 投下順で読む 087.それぞれの成果
時系列順で読む
風雲急を告げる 犬山 うさぎ 空から山折村を見てみよう
烏宿 ひなた
字蔵 恵子 GAME OVER
独眼熊 Monster Hunter
犬山 はすみ ムッシュ月影の夢想食紀行
月影 夜帳
Zombie Corps 山折 圭介 昼月堕ち、羽朽ちる碧い鳥

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最終更新:2023年09月21日 21:04