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夜ノ杜

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orisuta

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「堤 ヒバリ」。

これがあたしの名前だ。


杜王町在住、17歳、高3。

この辺じゃあ知らない不良はいないってくらいの有名人だ。

昔風に言えばスケ番・・・って言葉はさすがに古すぎるか。


進路とかは決めてない。
決めたってどーせ行き当たりばったりでやってくのだろうから。


それよりも、今は自分が楽しめることをして、精一杯の青春を送っていたほうがいい。


そんなこんなで、学校の成績は“超”ドンケツ。
この前なんか先公に「次は何点採れるか、別の意味で楽しみだ」とか言われてイジられた。


でもあたしは、そんな小せーことで腹を立てたりはしない。

あたしには、一切のフラストレーションを溜めさせない“最高の居場所”があるんだ!


*   *


7月───


「あのさー、疑問に思ったんだけど、公務員の事務職でも『サラリーマン』とか『OL』って言うの?」

「いや、言わねーだろ」

「だって“サラリー”は貰ってるし“オフィスのレディ”なんだぜ?」

「そりゃあそうだけどさ・・・」


仲間がしょーもない議論をしているのを、あたしは傍らで眺めていた。

こんな話で盛り上がれるのは、ある意味この集団の“誇り”みたいなもんだ。


「・・・コホン」
 
 
 


 
 
話を聴いていたあたしは咳払いを一つした。
そしてそいつらに向かって喋った。


「あのなーお前ら、『和製英語』って知ってるだろ?
 サラリーマンもOLも和製英語で、会社勤めの人を呼ぶために日本で造られた言葉なんだよ。
 だから英語の意味とは全然違うわけ」

「へぇ~っ! 知らなかったわ」


「ちなみに、OLって単語は雑誌の一般公募で決まった呼び名なんだぜ!」

「さすがヒバ姉さん! 私達の知らないことをみんな知ってるッ!
 そこにシビれる! あこがれるゥ!」


「ふっ・・・」

誉められて思わずドヤ顔になるあたし。

ま、これくらい常識だ・け・ど。



───ここは街中から割と離れた場所。

まだちょっと新しい廃工場や、空っぽの倉庫が建ち並んでいる。

普通はこんな時間に、人が集まるような場所じゃあない。
集まるとしたら・・・そう、あたしたちみたいな柄の悪い連中だけだ。


あたしたちは「メドル」というグループ。
杜王町の女子高生23人で構成されている。

端的に言やぁ不良集団なんだけど、あんまり派手なことはやらかさないのがウチらのポリシーだ。

無駄な喧嘩を売りに行ったりもしないし、人様から物を盗ったりもしない。

ただ一晩、みんなで集まってダラダラ過ごすだけ。


・・・なんつーか、やる気のないサークル活動みてーだけど。

それでもあたしたちは、ここに居るのが好きだ。
仲間と居ると、本当に安らぐっつーか・・・


「ねぇ、今日はアネキは来ないの?」


ピクッ

後ろのやつが言った一言に、ついあたしは反応した。


「そういえば来ないねェ~」

話し相手が応えた。

「仕方ないよなーあの人も忙しいし」


「・・・・・・」


(忙しいのか・・・だよなー・・・)


あたしは少し寂しくなった。

“アネキ”に会えない夜なんて・・・楽しみが半減しちまうよ・・・



───“アネキ”というのは、あたしたち「メドル」のリーダーの呼び名だ。

本名は「広瀬 康美」。

あたしとは高校が同じで、学年も一緒だ。
でもこのグループは、上司を“姉”として慕う決まりがあるから、あたしも“アネキ”と呼んでいる。
 
 
 


 
 
彼女は、本当にスゲー人だ。

まず、今まで何人の男にナンパされたか分からないくらいの美人!

人混みの中にいても、圧倒的に目立つくらいのオーラが出てる。
スタイルもグンバツだし、おっぱいも思わず触りた・・・羨ましくなるほど大きい。


それと、学校の成績もズバ抜けている。
同じ学校っつっても、アネキはあたしとは違うコースの生徒だ。
そこは一番優秀なコースなんだけど、その中でもダントツトップの成績をキープしている優等生なのだ。

そんなアネキが、こんなところで問題児たちのリーダーを務めてるなんて・・・先公たちはきっと知らないだろう。

しかも、アネキは人の上に立つカリスマ性がハンパなくて、ケンカは無敵の強さで、
それでいて意外と部下思いの慈悲深い人で・・・


・・・コホン。

・・・いろいろ喋りすぎたけど、とにかくアネキこそ才色兼備の最強ガールで、あたしが大尊敬している人物なんだ。



「寂しいよなァ~、ウチ今日アネキに勉強教えて欲しかったのにィ~」

「マジ? 私もテスト近いから教えて欲しいとこあんだわ」


「!」

なにッ、勉強を教えて欲しいだと!?
どーせ普段はちっとも勉強なんかしねぇくせに・・・!

そう思っていると、また別のやつが仲間に話題を振る。


「ねぇ、アネキの誕生日って1ヶ月後くらいじゃん。プレゼント何買うか決めた?」

「それなんだけどさー、アネキってブランド好きでしょ?
 私ギリギリまでバイトで金貯めて、5万くらい奮発しちゃおーかなーなんて・・・」


ご・・・5万ンンンン!?

なに言ってんだ! たかがプレゼントだぞ? もっと金を大事に使えよ!

もしおめーが本気なんだったら・・・
あたしはもっと高けーのプレゼントしなきゃねーじゃねぇかァァッ!



そして気づけば・・・
メンバー全員がアネキについての話で盛り上がっていた。

そいつらの顔は、まるで不良とは思えないくらい朗らかで・・・


(くっそー、なんだっつうんだよォォッ!)
 
 
 


 
 
・・・そーなのである。

あたしたち「メドル」のメンバーは、揃いも揃ってアネキに夢中。
というか、アネキに近づきたくてここに来たメンバーもいるくらいなんだ。


・・・なんか、スゲーおかしい。

仮にも不良集団なんだぞ? 人の好き嫌いで所属を決めていいのか? 信念みたいなのはねぇのか?

マジ、このグループって“変”だよなぁ~

まぁ、つってもあたしだって・・・


「・・・あたしだってアネキに好かれたいのに」 ボソ


ヤバい! 口が滑った!
誰かに聞かれなかったかな・・・



「・・・!!」


そこにいた全員が、ニヤニヤしながらあたしを見ていた。


「やっぱりヒバ姉さんには敵わねーなぁ!」

「お熱うござんして・・・」

「いつ告っちゃうんスか? 全力でサポートしますよ!」

「早く結婚しちゃってくださいよォ!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「ぬうおぉぉぉぉ━━━━ッ!!」 ドバッ!


恥ずかしすぎて、あたしは思わず走り出した。

これ以上あの場にいたら、あたしは確実にブッ倒れちまう。



「ハァ━、ハァ━、ハァ━・・・」

久々に全力疾走したせいで息があがった。



「・・・・・・」


そりゃー確かに・・・


あたしだってアネキが好きだ。


い、いやでもそれはあくまでリーダーに対する“敬愛”ってやつで・・・

あたしはナンバー2として最大級の敬意を払ってるってだけだ。


まぁ最近はちょっとスキンシップが過ぎてるせいで、はたかれたり踏まれたり座られたりしてるけど・・・

それはそれで嬉し・・・いや、だからそうじゃあなくてッ!


要するに、あいつらとはアネキに対する気持ちの“質”が違うってことだ。


それに、単に人格やルックスに惚れてるあいつらとは違って、あたしにはちゃんとした“きっかけ”がある。


そう、“きっかけ”が・・・
 
 
 


 
 
「・・・くっ」


嫌な思い出が蘇りそうになったので、この話は中止。


───さて、ここまで走ってきたはいいものの、これからどうしよう。

逃げ出してすぐ戻るのでは、また笑われてしまう。


・・・っていうか、今日はもう戻りたくないな・・・


「帰っか・・・」


しかしこんな時間に帰っても、もう鍵を閉められているだろう。

「・・・どうすっかなー」

行く宛もなく、あたしは歩いていた。


そんな時、向こうから誰かが歩いてきた。

・・・どうも柄の悪そうなオトコだった。
学ランを着ているお陰で、あたしと同じ高校生だと分かった。


「・・・・・・」ツカツカツカ


向こうはこっちに気づいていないような様子で歩いている。

嫌な予感がしたが、構わずあたしも足を進めた。



「・・・・・・」ツカツカツカ

ドン!



ほ~らやっぱり。

“当ててきやがった”、肩を。


「おーい何当たってきてんだよ味噌ッカス。とっとと謝れ」

すぐにあたしは言ってやった。
シカトしてもよかったが、明らかに向こうが悪いのをほっとくのはプライドが許さなかった。


「てめぇが・・・“メドル”のナンバー2だな?」

「・・・は?」


相手が重々しくそう言ったのを、あたしは理解できなかった。

てっきり、「あ~? 誰が当てただとこのアマ!」みたいに食いついてくるかと思ったのに・・・


「てめぇが『堤ヒバリ』・・・うん、間違いねぇ」

相手のヤンキーは写真を取り出し、あたしの顔と照らし合わせて確認した。


「ちょ・・・なんで写真なんか持ってやがんだよ! なんであたしのこと知ってんだ!」
 
 
 


 
 
「そんなんてめぇにゃ関係ねーだろ。俺は“命令”でここに来たんだ」

「??」


言っている意味が分からなかった。

だが向こうがぶつかってきたのは確実だし、態度がムカつくので一つ思い知らせてやろうとした。


「・・・っざけんなコノ・・・!」


一歩出てそう言ったその瞬間、あたしは自分の身体に起こった“異変”に気付いた。


(左腕が・・・“上がらない”!?)

さっき相手にぶつけられた左腕が、胴体にくっつけられたように動かなくなっていた。


「んな・・・なんだこりゃぁッ!?」


あたしは、自分の動きを封じているものの正体を見た。

───曲がった鉄棒のような物体が、“あたしの腕を貫いて身体に刺さっていた”のだ。


「うわッ、うわッ! こ・・・これは!」

どんなに左腕を動かしてもビクともしない。
右手で引っ張っても全然ダメだ。

しかもこれのヤバいのは、身体に刺さっているのになぜか痛くないし、血も出ていない。
まるで、鉄の幽霊があたしに刺さっているみたいなんだ。


「ま・・・まさかお前・・・ッ!」

あたしはヤンキーを見た。


「クックックッ・・・今のビビり方、無様だったぜ」


ヤンキーの背後には、昆虫が人間に進化したような奇っ怪な存在が立っていた。


「『スタンド』・・・!」


「あぁ、てめぇにも見えるんだったっけな。
 ・・・俺は最近になってコレを身につけたんだが、便利なもんだな!
 手足になって働くし、ケンカも負け知らずだぜ」


チクショー・・・厄介なことになった。


(コイツ、あたしとかアネキと同じ『スタンド使い』かよ!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


「じ・・・じゃあ、何なんだよコレは!?」

「それか? そいつは“ホッチキスの針”だ」


「・・・はい!?」


「『ロック・ロブスター』。コイツの能力は“何でもホッチキスみてーに綴じられる”ことだ。
 その針は俺が能力を解かなければ抜けねぇ。てめぇは左腕を封じられたってことさ」


「・・・! なんだと・・・!」


コイツ、初めからあたしを不利にしてからやるつもりで・・・!


「卑怯な手ェ使いやがって! あたしが一番嫌いなタイプの野郎だ!」


「ふん、てめぇに嫌われたところで損するこたぁねーな」

「そんな根性してっと、一生童貞だぞお前!」

カチン

「・・・んだとォー? ゴラァ!」


おっと! どうやら向こうの逆鱗に触れちまったみたいだ。
 
 
 


 
 
「死ね! クソ女ッ!」バッ!

逆上したヤンキーが『スタンド』であたしに殴りかかった。


「『ラッド・ウィンプス』!!」 ズォォォ!


───アネキから常日頃言われていること。

『スタンド攻撃は“正当防衛”の時にだけ使え』。

たとえ法律で裁けない『スタンド』の世界であっても、そのルールを抜け出して好き勝手に使うのは許さない、ってことだ。


あたしはその約束を忠実に守っている。

あたしの『能力』は・・・“こういう時”以外には使わねー!



シュルシュルシュル!


「!」


地面から生き物みたいに伸びてきた“紐”に、ヤンキーは一瞬たじろいだ。

「あたしに腕が“2本”しかないと思うなよ!
 『ラッド・ウィンプス』の作る“紐”は・・・みんなあたしの手足になるッ!」


「ぬッ!」

ザバン! ザバン!


ヤンキーのスタンドが手刀で“紐”を切り裂いた。

しかし、“紐”は次から次へと発生してくる。


「クソ・・・!」

「テヤァッ!!」 グオォォ!


ヤンキーが紐に気を取られている間に、あたしは自分のスタンドで反撃にでる。

「うぉッ!」

サッ


身体を上手く仰け反らせたおかげで、ヤンキーは直撃を免れた。


「どーだ、思い知ったかスッタコ! あたしの方が便利な能力じゃねーか?」

「・・・」


ほんの少しの間、ヤンキーはビビったような顔をしていたが・・・


「・・・フフン」

いきなり鼻で笑いだした。

「んだテメェ!」


「・・・なるほど、そんな感じか・・・
 オッケー、今ので感覚を掴んだぜ」

「あぁ!?」


「俺だってスタンドにずっと頼ってきたわけじゃあねぇ。
 長い間ケンカしまくったお陰で、俺は相手の動きの“クセ”を感じられるようになったんだ。
 そいつはスタンドにも当てはまる・・・テメェの動きは大体わかった!」


なんだコイツ・・・キレて殴りかかったクセにエラそうに・・・
 
 
 


 
 
「・・・は~、大層なことをおっしゃいますねー。
 これでもし一発食らったら・・・アホ確定だなぁ!」 バッ!


あたしは一気にヤンキーとの間合いを詰め、右ストレートをぶち込んだ。


「よっ!」

ヤンキーはその攻撃をスルリとかわす。


「チッ!」

あたしはすかさず左足で蹴りを放つ。

ところが・・・


「来たッ!」

ガシッ!

ヤンキーのスタンドは、そのキックを受け止めて掴んだ。

「ぬお!?」


「よっ」グイッ


奴はそのまま、あたしの足を綱引きのように引っ張った。


「のわあ!!」


当然、あたしはバランスを崩して倒れ込む。


ドシャッ!


その瞬間、あたしは“やられた”と認識した。

「『ロック・ロブスター』!」

ヤンキーは、地面にうつぶせになったあたしにドでかい『針』を打ち込んできたのだ。


ガシャッ!

「ぐぇっ!」


「フッ・・・勝ったな!
 片手が拘束されてて、本気のパンチや蹴りが繰り出せるはずがねぇんだ!
 てめぇの動きは目に見えるくれぇトロかったぜ!」


(ヤバい・・・動けねぇ・・・)

コンクリートの地面にガッチリと打ちつけられ、“地球と仲良し”したままの状態にされてしまった。


「さっきの台詞まるごと返すぜ・・・思い知ったかスッタコがァ!!」

ヤンキーはとどめを刺すために振りかぶった。


「・・・ッ! させるかッ!」

シュバッ!!


あたしは固定されていない右手で地面を触り、勢いよく“紐”を出現させた。


「ハッ! そんなタコみてーな地味くせぇ攻撃、もう効くか!」

シュバッ! シュバッ!


一瞬のうちに“紐”はすべて切り落とされてしまった。


「『メドル』の副リーダーとやらも大したことなかったな!
 とどめだ! 食らえッ!」


グォォォ!!
 
 
 


 
 
ド  ヘ


「お゛ッ!」


変な声を出して、ヤンキーは崩れ落ちた。


「・・・・・・」

それと同時に、拘束していた“ホチキスの針”が消え、あたしは自由になった。


「う・・・げ・・・」ピク ピク


ヤンキーは、身体が麻痺したように痙攣している。

「バーカ、周りをよく見とけ。あたしが“紐”を出したのは『マンホールの蓋を投げ飛ばすため』だ。
 頭に当たったら死んじまうから、うまく身体に当てるようにしたけど・・・大丈夫か? 半身不随になったりしないよな? うん」

あたしは服の汚れを払いながらヤンキーに近づいた。


「このアマ・・・!」

ヤンキーはガンを飛ばしながら、必死に起き上がろうとしている。


「あー、大丈夫みたいだな。
 そんでだけどさ、おめぇにちょっと聞きたいことが・・・」

「・・・るあぁッ!!」

隙を突いたように、ヤンキーは跳ね起きながら殴りかかった。


シュビビビビッ!


「・・・残念。そう来ることは見切ってたわ」

「・・・馬鹿なッ!」


地面からの“紐”で、ついにヤンキーを縛りつけることに成功した。


「もうわかったろ? これが『メドル』の実力よ」
 
 
 


 
 
「チッ! ざけんなカスが!」

ヤンキーはまだ抵抗しようとしている。


「あたしの質問にショージキに答えてくれれば解いてやるから、今はおとなしくしろ」

「な・・・なんだよ質問っつーのは!」


「おめぇは『命令されてここに来た』って言ったよなー? 誰判断で来たわけ?
 それと、『最近スタンドを身につけた』とも言った・・・どうやって身につけたの?」


「っ・・・」

ヤンキーは口ごもった。


「おめぇんとこのヘッドか? あたしたちが何か恨まれるようなことしたのか?」


「詳しくは・・・俺も知らねぇ。ただスタンドは・・・
 スタンドは、“あるガキ”に殴られてから出せるようになった・・・」

「“ガキ”・・・?」


「妙な奴だ。女だよ、中学生ぐらいの。
 いつもみてーにブラついてた時に、いきなり声をかけられてな。
 シカトしようとしたら、次の瞬間にドカンと・・・今思えば、あれもスタンドだったな」

「・・・・・・」


よく分からないが、コイツの言うことを信じるなら“別のスタンド使い”がいるってことか。


「それで、あたしをボコろうとしたのは? そのガキと何か関係あんの?」


「それは・・・ちょっと待て、思い出せねぇ」

「思い出せねぇってこたぁねーだろー? “命令された”ってのはどこに飛んでったんだ?」


「いや、確かに命令・・・あれ?」


あたしはイライラしてきた。

この期に及んですっとぼけようとするとは。


「おい、ハッキリ答えろよ? このままうやむやにされちゃあ心配で寝られねーだろーが!」


あたしはスタンドを出していた。
我慢の限界が来たらぶん殴りますよ、という意思表示だ。

あたしの“質問”は、既に“拷問”に変わりつつあった。


「いや待て、マジで思い出せねぇんだ!」

「嘘つけ! アルツハイマーみてーなこと言ってんじゃねー!」

あたしはヤンキーの癖っ毛を鷲掴みにした。


「そこまでよ、ヒバリ」


 !  !


(その声はッ!)


背後からの声に、あたしは0.01秒で反応した。

あたしの中で高ぶっていた感情のスイッチが、全部まとめて切り替わった。


「“アネキ”ッ!」


「広瀬・・・康美・・・」


突然の御光臨に、ヤンキーも少し驚いているようだった。

アネキはあたし以上に有名人なのだ。


「アネキ~! どこ行ってたんすかぁ~! あと何でここに?」


あたしはヤンキーそっちのけでアネキに駆け寄った。
 
 
 


 
 
「ハァ~、質問は一度に一つまでにして・・・
 まぁ、私だっていろいろ忙しいのよ。あと、あんたの声は特徴的だから近く通れば気づくわ」


アネキはそう言いながらヤンキーに近づいた。

「あぁコイツ、なに言ってんのか分かんないんスよ! 向こうからぶつかってきたと思ったら、命令されてきたとか言い出して・・・」


「・・・・・・」

アネキは冷たい目でヤンキーを見下ろしている。

あぁ・・・この目つきがたまらんッ・・・!


「ヤバい人間と繋がってるかもしれないし、この際ムリにでも聞き出してやりましょうよ!」

「ダメよ拷問は。憲法36条で禁止されてるもの。
 まぁコイツの場合、そもそも聞き出すことも不可能でしょうがね・・・」

「え? アネキ、コイツのこと何か知ってんスか?」


アネキが男について何か知ってるってだけで、災厄の予兆のような不安感に襲われた。


「別にコイツのことは何も知らないわ。ただ・・・
 ま、追い追い話すことになると思うけど、ちょっと面倒くさい事情があんのよ」

「へー・・・」


あたしは二つの意味で安堵した。

一つは、アネキがこのヤンキーと初対面だったこと。

もう一つは、あたしが分からなくてもアネキが何か知っていることなら、全部おまかせできるという安心感だ。


「で・・・コイツどうしましょう?」

「放しておきなさい。コイツにもう用はないわ」


アネキがそう言ったので、あたしは能力をすべて解除した。


「・・・・・・」


ヤンキーはなんだか呆然としている。


アネキの言葉から推測すれば、本当にコイツはなにも知らずにあたしをボコろうとしたのか?

もしかして、マインドコントロールってやつ?


(・・・おっかねー)


───その時は、あたしはその程度にしか思っていなかった。


「さ、戻りましょ。なんでアンタが一人でいるのか知らないけど」

「・・・///」


理由は聞かないでください・・・


というわけで、あたしとアネキはみんなの所に戻ることにした。
 
 
 


 
 
ツカツカツカ


「・・・ねぇヒバリ」

「はい?」

「“掛け声”ってあるでしょ? 気合い入れるときとかの」

「あぁはい」


「私の『サイレン』って、“掛け声”にも反応してくれるみたいなのよね」

「そうなんスか?」


アネキが何を言いたいのか・・・いや、“何がしたいのか”あたしには理解できた。


「例えばこんな風に・・・」


そう言ったアネキはクルリと向きを変え・・・


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


背後から近づき攻撃しようとしていたヤンキーに、壮絶なラッシュを繰り出した。

アネキのスタンドである六体の『サイレン』は、六本の太い腕になってヤンキーをブッ叩いていた。

「オラアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

ドギャアァ――――ン!!


悲鳴一つあげずに、ヤンキーは吹っ飛んでいってしまった。


「・・・さすがッス」パチパチ


あたしはそう言って拍手した。


普段クールなアネキがアツくなる姿も、やっぱり格好いい・・・


「まぁ、手加減はしたけどね。10分くらいで立って歩けるくらいのダメージよ」


アネキはそう言って髪を掻き、再び歩き出した。


「・・・・・・」


あたしは計り知れない悦びを感じていた。


(な・・・なんて慈悲深い御方なんだ・・・部下だけでなく自分をも襲おうとした男を“あの程度”で済ますとは・・・
 あたしたちの世界だったら普通、病院送りじゃあ済まないんだぜ・・・
 さすがだ・・・さすがあたしが見込んだ御人ですぜ・・・)


既にあたしは、感情を抑えきれなくなっていた。

アネキの一挙手一投足が、キラキラ輝いて見えた。


「うおぉぉぉぉッ!!」


もっとアネキに近づきたいッ!


「ガシン」


ガシン

「いッ!」


一瞬のうちに、『サイレン』が枷のようにあたしの四肢に取り付いた。


「伏せなさい」

「あひゃっ!?」


枷は地面に吸い付くように動き、あたしはさっきみたいに地面にうつぶせにされてしまった。
 
 
 


 
 
「今度はアンタが襲ってくる番か? えぇ? アンタはあいつみてぇに手加減しねーからな?」


ゴリゴリゴリゴリ・・・


アネキはあたしの背中を全力で踏んづけてきた。


「あああああやめて! 急所にピンヒールはヤバイッス! うおおおおおおおおッ!!」


やっぱりアネキがいないと、あたしは生きていけない・・・

改めてそう感じていた。



「おおおおおおおおお!! スミマセンでした・・・んほぉッ////」




*   *




「くぅ・・・」


康美に(手加減はあったが)打ちのめされたヤンキー・・・
本名:八木徹也(やぎ てつや)は、うつむきながら暗い道を歩いていた。


全身がズキズキ傷んでいたが、どこも軽い打撲で済んでいるようだ。


「・・・・・・」


彼には行く宛がなかった。

家族はいないも同然だった。
両親は離婚し、父と一緒に暮らしているが、父は毎日ギャンブルばかりで家にいる時間はほとんどない。

仲間もいなかった。
もともと彼は、所属するのが嫌な一匹狼。
この夜の杜王町で、そんな彼に近づこうとする人間などいなかった。


その中で、彼は自分よりも弱い者から金を奪い、学ラン一丁で毎日を意味もなく過ごすのが日課になっていた。



「あーあ、“終わっちゃったね”!」


どこからか、真夜中の雰囲気には全く不釣り合いな少女の声が聞こえてきた。


「・・・」

徹也は声がした方をゆっくりと見た。


どこにでもいそうな、ロングヘアの少女がいた。

これから友達と一緒に街へ遊びに行く! という感じの若さ溢れる私服姿だ。

だからこそ、死んだ目付きの不良男と笑顔で対面しているのが余計に異常だった。
 
 
 


 
 
「“終わっちゃった”んだよ? 分かるよね?」

「・・・・・・」


溌剌と話す少女を、徹也はピクリとも動かず見つめていた。


「私のスタンドのおかげで、アナタもスタンドが使えるようになったでしょ?
 それって、アナタの『生きる理由』ができたってことなんだよ?」

「・・・!」


徹也が先ほどまで思い出せなかったこと。

それが少しづつ、頭の中に戻ってきたような感覚がした。


もっとも彼としては―――
“思い出さない方が幸せだったに違いないのだが”・・・


「アナタの『生きる理由』は・・・そう、“私の手下になって、広瀬康美を殺すこと”でしょ?」

少女はまるで友人への挨拶のように『殺す』という言葉を口にした。


「・・・・・・う」


徹也の顔は冷や汗でびっしょりと濡れていた。


「でもアナタは今、その命令を大シッパイしちゃったよねー?
 それって『生きる理由』が無くなったってことじゃあないかなー?」


「う・・・あ」

徹也の顔は恐怖で歪んでいた。

それは生ける者すべてが持ち続ける絶対的な恐怖―――『死』への恐怖だった。


「『デスティニーズ・チャイルド』ッ!!」

少女がスタンドを出した途端、張り詰めた空気が一気に破裂した。


「!! 『ロック・ロブスタ・・・」


ドスドスドスッ

「ぐあ・・・!」


徹也が悪足掻きのようにスタンドを出した時には、彼の背中に数本のナイフが刺さっていた。


「ざんねーん、とっくにナイフを『目覚めさせて』、アナタを切るように命令してたんだよん」


ザクザクザクザク・・・

「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

刺さったナイフはひとりでに動き、魚を捌くように徹也の身体を走り回った。


「苦しいよね? かわいそうだからお姉ちゃん呼ぶね?」


徹也に少女の声などもはや聞こえていなかった。

誰でもいいから早く楽にしてほしい、と・・・


ドグシャッ!!


次の瞬間には徹也の頭は潰れ、完全に事切れた。


「お疲れだったな・・・安らかに眠れ」

そこには、少女がお姉ちゃんと言った、異様な佇まいの別の少女が存在していた。
 
 
 
 
to be continued...


使用させていただいたスタンド


No.4419
【スタンド名】 ロック・ロブスター
【本体】 八木 徹也
【能力】 「ホッチキス」を留める

No.2502
【スタンド名】 デスティニーズ・チャイルド
【本体】 少女
【能力】 殴った物を「目覚めさせる」









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