「部費を上げろ」
「・・・あ?」
ついさっき昼寝から目覚めたばかりだったために、生徒会長は些か機嫌が悪かった。
そこに、この台詞である。
「なんつったテメェ?」
「部費を上げろ、漫研のをだ」
いきなり部費の引き上げを要求してきたのは、漫研の部長であった。
「・・・・・・」
椅子に座る自分を真っ直ぐ見下ろす部長に、生徒会長は半ば呆れたような目で睨み返していた。
この二人は、かねてから折り合いが悪かった。
漫研部長は、その立場に似合わず、異常なほどの権力欲を持つ人物であった。
彼はこの「降星学園」全体を掌中に収めようと、影で密かに生徒会を操る力をつけているのだ。
そんなことを生徒会長が快く思うはずがなく、二人はことあるごとに衝突を繰り返していた。
生徒会の一部からは「争いに関わると死ぬ」と言われるほど恐れられている。
理由はただ一つ。
彼らが“超危険”なスタンド使いだからだ。
「最近よォ・・・テメェは調子に乗りすぎなんだよ・・・」
生徒会長がのっそりと立ち上がりながら言った。
その目はヤクザのそれに負けずとも劣らない殺気に満ちている。
対する部長は仁王立ちのまま微動だにしない。
「部員が増えてきて、今の部費では足りないんだ。それに、トレース台やエアブラシも欲しい」
「・・・・・・
プロの漫画家じゃあねぇんだからよ、んなもん必要ねぇだろ・・・
もう一度言うぜ、“テメェは最近調子に乗りすぎだ”」
「当たり前だ。俺は最終的に“この学校を動かす力が欲しいんだからな”・・・」ニヤリ
「チッ」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・
両者は激しく睨みあった。
まさに一触即発とも言うべき状況であった。
・・・否、この時、“既に二人は即発していたのかもしれない”。
ドッギャアァァァァン!!
先に攻撃したのは生徒会長であった。
彼のひび割れた石像のようなスタンドの拳が、素早く顔を横に動かした部長の頬を掠めた。
それと同時に、部長の後ろの壁が粉々に破壊されていた。
「落ち着け生徒会長。殴り合いでは解決できない問題もある・・・」
「テメェは・・・一発でも殴っとかねぇと・・・気が済まねぇッ!!」
ビュン!
ドギャアァァァァン!!
凄まじい轟音と共に、またもやコンクリートの壁が粉砕された。
「まったく・・・困り者の生徒会長だな」
部長はそう言うと、自らもスタンドを解き放った。
「表出ろや! これ以上生徒会室を“砕く”わけにはいかねぇからよ!」
「フッ、言われなくとも・・・」
シュン!
「ぬッ・・・!」
部屋の中にいたはずの二人は、いつの間にかグラウンドの真ん中に立っていた。
「これでいいんだろう?」
「あぁ、わざわざ・・・こりゃ、どう、もッ!」
ブォン!
有無を言わさず、生徒会長のスタンドが部長に迫る。
一方、部長は華麗な身のこなしで攻撃をかわした。
「一発でいいんだ! 一発殴れば気が済むッ!
もっとも、それで生きていられるかは別だけどな!」
「ほぉ、殺す気でいるのか・・・ならば正当防衛は許されるな」
「ソラアァァァァァ!!」
バゴオォォォ!!
生徒会長の攻撃が空振る度に、遥か遠くにある外壁や電柱が“砕かれ”た。
「どこを狙っている?」
「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ
ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ
ソラアァァァァァァ────!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
爆弾の雨が降ったような音と共に、地面が次々に砕かれる。
それに伴って、目が開けられないほどの砂埃が辺りに充満し、お互いの位置が捕捉できなくなった。
「・・・この程度で勝ったつもりかな? 生徒会長」
どこにいるか分からない生徒会長に向かって、部長が言った。
「あぁ、“勝ったつもり”だぜ・・・部長さんよォ!」
「なに・・・!」
「ソラアァァァァ─────ッ!!」
ドギャン!!
「う・・・」
生徒会長のスタンドの拳によって、部長の腹には風穴が開けられていた。
「ごはァッ! 何だとォッ!?」
「俺の『ウォッチ・クラッシュ』は何でも“砕く”ことができる・・・テメェとの物理的な“距離”ですらなァッ!
テメェは“負けた”! 俺は“勝った”んだッ! 死ねェッ!!」
「ぐあぁぁぁッ!! 『ソレイユ』ッ!」
ズアァァ!!
あ・・・危なかった・・・
もう少しで本当に殺られるところだった。
俺としたことが、油断して隙を見せてしまった。
さて、まずは俺の腹に開いた穴を・・・
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
よし、“消えた”。
時間がないな・・・コイツをどうするか・・・
・・・こうしてみるか。
ドシュ! ドシュシュシュシュシュッ!!
これでよし。
時が来た・・・これが俺の描いた「世界」だ・・・!
「!?」
「どうした? “どこを見ているのかな”、生徒会長」
生徒会長が気付いた時には、“既に自分は後ろを向いていた”。
部長のスタンド『ソレイユ』は範囲内における「作者」になることができる。
この能力を使い、部長は自らの腹に開いた穴を消し、生徒会長の向く方向を“描き替えた”のだ。
「しまったッ!!」
「もう遅い。お前は俺のスタンドを甘く見ていた!
これで学園は俺のものだァッ!」
『ソレイユ』の拳が、生徒会長に襲いかかった。
ブゥォン!
ガキン!
「!」 「!!」
「なに痛々しいことほざいてんのよクソ部長! 放っておくとすぐいなくなるッ!
部員を置き去りにしていくな虫の死骸未満のゴミ野郎!!」
「・・・・・・」
部長の一撃をスタンドをもって弾いた人物・・・
それは漫研の副部長であった。
「また学校をボロボロにして・・・私が“過程を脚色”して、ロードローラーが突っ込んだってことにしてやるから!
感謝しなさいよねクソタコ! ゲジゲジみたいに這いずり回って死ね!!」
「・・・?」ポカーン
「生徒会長・・・命拾いしたな。
だがこの決着、いつか必ずつける・・・!」
ズルズルズルズル・・・
漫研部長が副部長に引きずられていく様子を、生徒会長はボーッと見つめていた。
・・・というよりも、彼はまるで脱け殻のような放心状態になっている。
先程までの勢いが嘘のように、地面に力無くへたり込んでいるのだ。
生徒会長はうつろな目で、ようやく搾り出したような声で言った。
「副会長・・・テメェ、いつからそこにいやがった・・・」
「え~? 気づいてなかったのォ~? さすが鈍感っぷりが評判の生徒会長だな!」
いつの間にか、生徒会長のそばにひとりの少年が立っていた。
彼・・・生徒会副会長は、『ロストマインド』というスタンドを使う。
能力は、「相手の精神力を吸収する」こと。
「ざけんなよ・・・ムカつく奴・・・」
ボケー
獅子のような副会長のスタンドに精神力を吸い尽くされ、生徒会長は完全な「上の空」となってしまった。
その姿は、さながら目を開けて、座ったまま死んだかのようだ。
「降星学園って凄いよなァ~。
こんな闘争本能だけで生活してるような人が生徒会長になっても、だ~れも気にしてないんだから」
生徒会長の「抜け殻」を引きずりながら、副会長は独り言を呟いていた。
生徒会長/スタンド名『ウォッチ・クラッシュ』
→ その後、漫研部長の生徒会への侵攻を食い止めようと、彼の“暗殺計画”を極秘裏に発表。
バカにされる。
→ その後、漫研部長の生徒会への侵攻を食い止めようと、彼の“暗殺計画”を極秘裏に発表。
バカにされる。
漫研部長/スタンド名『ソレイユ』
→ 部費アップはならず。
しかし部室にはいつの間にかエアブラシとトレース台が。どこから調達した金で買ったのかは謎。
→ 部費アップはならず。
しかし部室にはいつの間にかエアブラシとトレース台が。どこから調達した金で買ったのかは謎。
END
使用させていただいたスタンド
No.2640 | |
【スタンド名】 | ウォッチ・クラッシュ |
【本体】 | 生徒会長 |
【能力】 | 本体が認識した人間以外の物を砕ける |
No.2630 | |
【スタンド名】 | ロストマインド |
【本体】 | 副生徒会長 |
【能力】 | 触れた対象の生物の精神力を吸収する |
No.2848 | |
【スタンド名】 | ソレイユ |
【本体】 | 漫研部長 |
【能力】 | 半径50m以内における「作者」になる |
No.2889 | |
【スタンド名】 | ミリオンセラー・チープ・ブック |
【本体】 | 漫研副会長 |
【能力】 | 過程を脚色する |
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