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aqlトナメスピンオフ2 後編

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jupiter

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だれでも歓迎! 編集
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「あなたが……ラッセル・ケマダね? 数日前にアルジェリアから密輸船で不法入国した……」

「テメェも俺の熱がきかねェのか? そういう能力というより、そのスーツを見るに……俺と似たスタンドってことか」

「質問に答えなさい。そうでなければあなたを殺すわ」

「答えたところで、じっくり聞いてから殺すつもりなんだろう?」

「クスクス……わかってるじゃない」

「いちおう、同業者だからなァ、ヒヒヒ……」

「同業者……? 笑わせないで頂戴、未開人相手にいい気になっていただけのあなたと一緒にはしないで欲しいわ」

「ふん、ずいぶん俺のこと調べてくれてたみたいだな。未開人ってのは差別用語だぜ……ま、否定はしないがな!」

ラッセルはアルスーラに向けて拳を振り下ろした。
アルスーラは攻撃を受け流し、拳は地面の石畳を割った。

「あなたたち2人は離れていて頂戴。巻き込まれただけなんだから」

「は、はい!」

李はルカに近寄り、ルカの腕を肩にまわして立たせた。

「ルカさん、ここから離れよう」

「…………ゴメンね、役に立たなくて……」

「そんなことないよ、ルカさんが来てくれなかったら、私今頃どうなってたか……」

「…………」

(あの人が……あの男の探してた組織の人……? 私と、同じくらいの歳じゃない……)

李がちらりと後方を見ると、アルスーラとラッセルは距離をおいて対峙したままだった。
ラッセルの体はこちらを向いていたが、視線は明らかにアルスーラに向けられ、李とルカを見ることは一度も無かった。

「なんとなくだけど……あの子でも、勝てない気がする……」


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アルスーラは、李とルカが広場から離れたのを確認するとラッセルに向かって話した。

「あなたの質問にも答えてあげる。『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』のスタンド能力……それは影を超高温にすることよ」

「……ほーう、それがホントかウソかは別にして、なぜそれを俺に話した?」

「公平さはパワー……公平さは精神の力として最大の威力を発揮する……。似たタイプのスタンドと戦い、勝つことが私にとっての試練でもある」

「なるほどなあああああああ。だが能力はおいといても、テメェの弱点を俺は見つけたぜ。さっきテメェは俺の攻撃を防いだが……パワーは互角にしろ、スピードは俺に劣ることが分かった」

「…………ふうん、パワーは互角……ね。さっきの攻撃が本気だったということなの? それにしては大したことなかったけど」

「んだトォ? 言うじゃねえかリトル・ポニー。そんなら力比べしようじゃねえか……『T-REX』!!」

ボジュウ ボジュウ ボジュウ ボジュウ

「噴火を利用した大砲をくらえッッ!!」

ラッセルの背中から拳大の火山弾がアルスーラめがけ放出された。
大砲というだけあり火山弾は勢いよく向かってくる。

ドゴッ ドゴッ!

「……くッ!」

「よけるわけにゃあいかないよなああ、大切な街が壊れちまうしなあ!!」

火山弾の衝撃を受け、アルスーラの体はのけ反ってしまう。
アルスーラの纏う『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』も『T-REX』と同じく、耐熱性には優れているが、
その装甲はさほど厚くはない。

アルスーラは、ラッセルに対する態度とは裏腹に焦っていた。
「プロ」として気後れするわけにはいかないが、どうしてもこの男を打ちのめす方法が見つからなかった。

「GURURURUAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」

ラッセルの咆哮とともにT-REXの背中の噴出口から大量の蒸気が噴き出した。

(また来る……あの火山弾が!)

「力比べって言ったろうリトル・ポニーッッ!!」

T-REXは火山弾を撃ち出すのではなく、後方へ『噴火』した。
エネルギーを推進力に変えアルスーラに向かい猛進する。

バギィィィッッ!!

「ぐう……うっ……!!」

噴火エネルギーを利用したタックルを正面から受け、
アルスーラは背面の建物まで吹っ飛ばされた。
体が壁に強く叩きつけられ、息が詰まり目が眩んでしまう。

「トドメだあ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

ジュボボボボボボボボボッッ!!

ラッセルは機関銃のごとく大量の小粒の火山弾をアルスーラに向け撃ち放った。
壁にもたれたままのアルスーラには、立ち上がって避けるのは不可能であった。

「『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』ッッ!!」

ドジュウウウウウウウウウウ


アルスーラが寄りかかっていた建物は広場の南側の建物だった。
背面から射す太陽の光が、広場に建物の影を作っていたのだ。
影の中にあったほとんどの火山弾は『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』の能力により燃え尽きた。


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「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

「ほおおおお、俺の火山弾を一瞬で燃やし尽くすほどの熱かぁぁ……だが、悪あがきにすぎねえぜぇえッ!!
 この俺自身に対してはァ、サウナよりもぬるい熱だぜぇえええ!!」

(くっ……火山弾はかろうじて防げても、肉弾戦になってしまったら……)

「そ・ん・な・に……直接ブチのめされてええ゛え゛え゛ンがァァ!?」

(勝ち目は……ない!)


直接、攻撃を仕掛けるべくアルスーラに向かって駆け出そうとしたラッセルだが……

ブジュウウウウウウウウウウウウ

「!?」

突如、ラッセルの体中に側方から強烈な圧力がかけられる。
それ自体はラッセルを苦しめるものではなかったが、何故かラッセルは体を動かすことができなかった。

「こ……これ……はッ………『水』かッ!?」

ラッセルの体に強烈に浴びせかけられていたのは、大量の水。
その鉄砲水は、広場のそばを流れるティベレ河にホースを垂らした『散水車』によるものだった。

(な、なんだあこりゃあ!? 体表の溶岩が固められて……体が動かねえ!)

アルスーラは立ち上がり、ラッセルに向かって歩みを進めだした。


「こんな戦いの最中に来てくれる勇敢な消防隊員なんていない。あれは……私の組織の仲間。
 スタンド使いではないけれど……クスクス、最善の支援をしてくれたわ」

放水が止み、ラッセルは溶岩が冷えて固まった黒い溶岩石に体中を包まれていた。
ラッセルはアルスーラをにらみつけるが、指一本動かすことができないでいた。

「あとは私が思いっきりブチのめすまで……これなら、スピードは関係ないわ」

「グ……グッ……ク………!」

「あなたの野望もろとも……叩き潰してあげる」

「ク、ク、クククククク……」

身動きの取れぬラッセルは、嗤っていた。
平野耕太作品ばりのネットリとしたうす気味悪い笑顔を浮かべてアルスーラを見下ろしていた。

「ずいぶんといい笑顔をするじゃない。……吐き気がするわ」

「クク……仕方ねえだろおお? もう自分が勝利したと思い込んでるヤツをみるとおかしくてしょうがねえんだからよおおお?」

ボゴオォッ!!


「…………ッ!?」

下方から強い打撃がアルスーラの顎に放たれ、脳が揺られる。
ラッセルの体は相変わらず動かないままだった。
グラリと倒れそうになるアルスーラは、足元に溶岩が流れ出ているのを見た。

「俺の能力……まあだ理解してなかったんだなああ゛あ゛? 足元からマグマを地中に流し込み続けていた……。
 水風船のよ~~にふくらみ続けたマグマだまりが今、噴火した。地面の石がガラ空きの顎にクリーンヒットってわけだぜええええ!!」


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「く……あ………ああッ……!」

「体表の溶岩石も溶け出してきた……万全ではねーが、渾身の一撃を加えるには十分だぜ。……だがその前に!」

ラッセルの背中から火山弾が発射された。
向かう先は散水車。
アルスーラの危機に、再び放水をしようとしていたところを数個の火山弾が命中した。
ホースは破られ、高熱の火山弾がガソリンに引火して散水車は爆発した。

「これで邪魔者は消えた! そしてあばよ、リトル・ポニーッッ!!」

ラッセルはゆっくりと拳を振りかぶった。ポロポロと溶岩石が落ちていき、腕の動きを遮るモノがなくなっていく。
フラフラとして立つのが精一杯のアルスーラに向けて拳が突き出されようとしたとき……

「うわああああああああーーーーーーーーーッッ!!」

ドガッ!

「ぐゥッッ!?」

ラッセルは後方から蹴り飛ばされ、アルスーラはとどめの一撃を免れた。
現れたのは……ルカを連れて広場から出て行ったはずの李だった。

眩暈もおさまってきたアルスーラは李がいるのを見て思わず怒鳴る。

「なんで戻ってきたんだ! ……あなたには関係のないことなのよ?」

「てめぇぇええかァッ! 子ブタちゃあ゛ア゛ん!!」

ラッセルはすぐに起き上がり、李に向かって突進する。

「ひっ……『リアーナ』っ!!」

李はスタンドを繰り出し迎撃しようとするが、ラッセルに両腕を封じられてしまう。

「逃げたと思ったがよォ……そんなに俺にブッ殺されてぇんだなああ゛?」

「くっ……!」

「むゥん……やっぱり焼けねェなああ゛、子ブタちゃあん、オマエの能力も教えてくれよおお?」

「離れなさいッ!!」

ラッセルを李から離させようと、アルスーラが攻撃を仕掛ける。

「ぐゥウん……!」

ラッセルはパッと手を離し、アルスーラの攻撃を防いだ。
アルスーラはラッセルを李に近づけさせないように攻撃し続けている。

「今すぐ……ここから離れて! この国のゴタゴタを解決するのが私達の仕事なの! 一般人のあなたは引き下がってて!」

「そんなことできない!」

「何故ッ!?」

「私と同じくらいの歳の子が戦って、傷ついてるのに……ほっとくことなんてできないよ!」

「……!」


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「くっちゃべってる余裕なんかねえ゛え゛え゛だろッ! リトル・ポニー!!」

ドグァアアッ!!


ラッセルの一撃はアルスーラのガードの上から胸に強い衝撃を与え、アルスーラの体はフッ飛ばされた。
李はアルスーラのもとに駆け寄る。

「大丈夫ですかッ!?」

「く……たいしたことないわ。それより……『傷ついてる』ってあなた、私があいつに負けると思ってるの? 力の差は明らかだと?」

「ああっ、いえ、そういう意味じゃなくて……」

「まあ……ホントのところそうかも。クスクス……とんだマンモーニ(ママっ子)ね。あなたも、私も」

「ごめんなさい……」

「あなた、死ぬかもしれないわよ? 逃げるなら今しかないけど」

「一度だけ……」

「?」

「『一度だけ』でいいんです。私に、アイツを攻撃させてください」

「……私に、アイツの隙をつくらせろってこと?」

「はい……私を信じてください!」

「? どういうことかわからないけど……」

ボジュウ ボジュウ ボジュウ


ラッセルが李とアルスーラめがけ火山弾を放った。

「………ひっ!」

思わず硬直してしまう李の前にアルスーラが立ちふさがり、火山弾の端をこするように殴って火山弾の軌道を変えた。

「そんなに怖がってるのに……私を助けようとするその勇気に敬意を表して、あなたのいうとおりにしてあげる」

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アルスーラは駆け出してラッセルに向かっていった。
これ以上火山弾を撃たせるわけにはいかない。あくまで自分に攻撃を集中させるために、アルスーラはスピードでは劣ってしまうラッセルに対し接近戦を仕掛けた。

「いいかげんに理解しねえ゛かな゛ぁ!? リトル・ポニー、てめェは全面的に俺に劣ってるってコトをよオオオ!?」

ラッセルはアルスーラに対し大振りのパンチを放っていき、アルスーラはそれを最小限の動きでかわしていった。

「口だけならなんとでも言えるのよね……でもきっと最後に立っているのは、私たちよ」

「ほざけえええええッ!!」

再び、大振りのパンチを放つ。アルスーラはそれを避けることはできたが、今度はあえてガードした。
さきほど火山弾の端を殴って軌道をそらさせたように、パンチの軌道を変えるために。

「ぐおお゛お゛お゛ッッ!?」

ラッセルはバランスを崩してしまい、攻撃が一度止まった。
李が攻撃できるだけの隙ではなかったが、アルスーラが反撃するのには十分だった。

「ハアアアアッ!!」

ガヅッ!!

「………つッ!」

「うぅん!? 今何かしたかァ?」

バランスを崩したラッセルの脚に思い切り蹴りを入れたアルスーラだったが、
ラッセルの纏う『T-REX』の装甲はあまりに硬く、蹴った足のほうに痛みが響いた。

(……硬さが、半端じゃない!)

「ククク……『全面的に劣ってる』ってのはこういうことなんだぜええ? この装甲があるかぎり、ありとあらゆる攻撃は一切効かない!!」

強烈な音だけは別だが、と付け加えてもよかったが、ラッセルはそれは言わなかった。

(これでもなお、信じろっていうのあの子は……?)

李はラッセルの後方でつかず離れずの距離を保ったままでいる。
もちろんそれはラッセルも気づいてはいるが、近づこうとすれば火山弾を放てばいいし、攻撃されても今のように何の問題もないからほうったままでいたのだ。

李にとってはラッセルの攻撃をモロにくらえば致命傷になりかねないのはわかっているし、
アルスーラもムリに近づいて欲しくはないので、李には隙をつくるまではそのままの距離を保って欲しいと思っていた。

「GUOOORAAAAAAAAA!!!」

ラッセルは体勢をとりなおし、再びアルスーラへの攻撃をはじめた。
アルスーラは後退しながらラッセルの攻撃をかわし続ける。

攻撃をかわすことに苦労はあまりなかったのだが、アルスーラは徐々に強くなる異臭を感じ取る。

(……何? コゲ臭いのと、硫黄の臭いが……)

グチャッ

「!」

アルスーラは自分が粘液のようなものを踏んだことに気づいた。
異臭の正体……それは自分の足元に広がる溶岩だった。
『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』のスーツの耐熱性のおかげで足が溶かされることはなかったが、その溶岩は強く足に粘りついた。

「俺の攻撃を避けるのに精一杯で気づかなかっただろお゛お゛? 俺がこっそり溶岩を地中に伝わせて流していたことをよおおおおおおお?
これだけじゃあねーぜッ!! 流れ出た溶岩はスグに固めることが出来るッッ!!」

「何……!」

アルスーラが足元を再び見ると、先ほどまで赤みを帯びていた溶岩が固まりだしていた。
足を持ち上げようにも、まるで石の中に取り込まれたかのように動かすことが出来ない。

「これでもう避けられねェェッ!! 終わりだリトル・ポニーーーーーーーーッッ!!」

最後の一撃を放つべく、ラッセルは体を大きくひねらせて拳を振りかぶった。
しかし、アルスーラは焦らなかった。

「私の能力……忘れていたの? 『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』!!」

ジュウウウウウウウウウウウウ!!

アルスーラの足元の固まった溶岩は超高熱により熱せられ、溶け出した。
ラッセルが溶岩を流して広げていた場所は、同時に小さな建物の影がさしている場所だった。

「ク、ク、クォのやろオオオオオオオオオオーーーーーーーッッ!!」

ラッセルが渾身の一撃を放つと同時に、アルスーラの足は溶岩から解放された。
アルスーラは襲い掛かる拳を間一髪で避け、ラッセルは先ほどより大きくバランスを崩す。

「今だッ、攻撃を!」

「はいっ!!」

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アルスーラはラッセルが攻撃も、火山弾を放つこともできない隙を生み出し、李は機を逃さず接近した。

「『リアーナ』ぁぁぁぁぁっっ!!」

李のスタンドが発現し、ラッセルに向け拳を突き出した。
アルスーラからは、李はもはやラッセルに恐怖を感じているようには見えなかった。
精一杯の勇気で、攻撃を仕掛けようとしている。

アルスーラは李の考える策、ラッセルを倒しうる策が完成するものだと思っていた。

だが……


ドガッ!!

「い……痛っ……!」

「え?」


李のスタンドの拳は『T-REX』の装甲に弾かれた。
それだけでなく、T-REXの高熱のスーツに触れて李の手も火傷を負ってしまっているようだった。

「むヴヴ……? 今攻撃したのは子ブタちゃんかあぁ……?」

「……え、どういうこと?」

ラッセルにはダメージがまったくない。
李はスタンドを発現させたまま、ラッセルから距離を置いた。

「はあ……はあ……」

「な、何をやっているの? これがあなたの策だったの?」

「…………」

「それにあなた、火傷が発生しないようにしてたはずなのに……どうして火傷を負っているの?」

「ええ、そうする必要があったからなんです」

「え?」

「これで……私たちの、勝ちなんです」

「フェンシングじゃあねえんだぜええええええ、この戦いはぁぁぁあぁああ!!」

ラッセルは体勢をたてなおして、李のほうに振り向いた。

「攻撃が当たったからって得点がつくわけじゃねぇーんだよ、子ブタちゃあ゛ん……」


アルスーラにもわからぬ状況。だが、李の表情は変わらない。
いまだその目には勇気が宿ったままだ。

「もう、やめてください。これ以上はムダなんですから」

「いい加減にしろォっ!! てめえから焼くことにするぜ!『T-REX』!!」

ラッセルは背中の噴出口を李に向けた。

ジュオオオオオオオオオオオオオオ!!

「むうゥん……!」

T-REXの能力で体表から溶岩を発生させて、それを火山弾にして高熱の砲弾を放つ……そのつもりだったが。


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「グぎゃあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

突然、叫んだのはラッセルだった。
顔からは脂汗がドロドロと流れ出す。

「焼けるッ、焼けるッ、焼けるッ、焼けるぐぐがががああああああああッッ!!」

「!? 何が……起きているの?」

「背中がッガ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

外からは見えなかったが、生成された溶岩がラッセルの背中の肉を焼いていたのだ。
スーツは溶岩に触れた瞬間に燃えて溶け出し、直接背中に当てられていた。

「GIIIIIIIYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

「ヤツが苦しんでいる……これが、あなたの策?」

「『リアーナ』の能力……それは、触れたものの何かを『不発』にすることです。これまで私は、私自身に対して火傷を発生させないようにしていたんです。
 そして今は、あの男のスタンドスーツに触れ、『耐熱性』を不発にしました。不発とは『発セズ』、能力を使えば真っ先に焼かれるのはあの男なんです」

「GUOOOOOOオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛…………」

「そして、この策は……あなたのスタンド能力があるからこそ、完成するんです」

「私の…………」

「てめえ゛え゛え゛は絶対に許ざねええッッ!! 俺の能力を発動さえしなけりゃ問題ねェっ!! 叩ッ潰してやらアアアアアAAAAAA!!」

激しい怒りで痛みを忘れ、本気で李を叩き潰すべくラッセルは駆け出す。
だが、ラッセルの手は李に届くことなく……

ドジュウウウウウウウウウウウ

「グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

ラッセルの体が巨大な炎に包まれる。
ラッセルが立っていたのはいまだ影の中……アルスーラの世界の領域だった。

「『ファイヤー・アンド・ザ・サッド』……能力を使おうが使うまいが、結果はどちらも同じだったってことね」

「ギギギギギギギギギギギィィィイイイイイッッ!!」

ラッセルは燃える体を掻きむしりながら走り出した。
向かう先は李でもアルスーラでもなく……広場沿いを流れるティベレ河。

ザバアアアアアアッッ

ラッセルは河の中に飛び込んだ。
遅くもなく速くもない河の流れは、ラッセルの体を押し流していった。

(クゥゥソオオオオオオオ…………これは、敗北じゃあねえ! いつか再び……戻ってきてやる!!)

水の中のラッセルの体は、全身が火傷でただれている。それでもなお彼の意識が失われないのは、心と体の丈夫さにあるからなのか……

(いつかブッ潰す……! ディザスターも……ギボンズの野郎もッ!!)


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「……一般人の力を借りて、なおトドメも刺せず……またまた『プロ』失格ね」

広場近くの路地裏でアルスーラは呟いた。
アルスーラの前には李とルカが立っていた。
ルカは下を向いてしょんぼりとしている。

「あなたの能力……ヤツにかけた『不発』の能力は、どれくらいまで持続できるの?」

「ええと、私が他のものに対象を変えない限りは、ずっとです」

「そう……それじゃあ、あなたの能力を使わせないように数週間か護衛をつけさせましょうか」

「いっ、いっ、いえいえいえいえいえ! 勘弁してください! だいたい私、修学旅行で来てるんですから、勝手な行動とれませんし!」

「クスクス……勝手な行動、ね。この国のギャングとも接しておいて今更じゃない?」

「あっ、あう……」

「まあ、そういうことなら仕方ないけど、その火傷の治療はさせてもらうわ」

そう言うとアルスーラはメモを取り出し、なにやらサインを書き込んでいた。

「これを病院で見せなさい。超VIP待遇で治療が受けられるわ。もちろん、お友達も一緒にね」

アルスーラはルカのほうをチラリと見た。ルカは顔を下に向けたまま視線を合わせない。

「本当はこの街の観光案内でもしてあげたいところだけど、あの男への対策も組織でしておかなくちゃいけないからね。私は失礼するわ」

「あ、あの、助けてくれてありがとうございました!!」

「お礼を言うのはこちらのほうよ……それじゃあ、ボン ヴィアッジョ(良き旅を)」


アルスーラは手を振って人ごみの中へ消えていった。

「……………………」

「………………ごめんね、李」

「え?」

ルカの声はとても小さく、気落ちしているのが伝わった。

「僕はキミを守りたかったのに、救われたのは僕のほうだった。これで二度目……」

「ルカさん……」

「………………」


 なんて、言葉をかければいいんだろう。

 不器用な私には、どうすればいいのかすぐには言葉が出てこない。

 励ましてあげたいけれど、逆に傷つけるようなことを言ってしまうかもしれない。

 トーナメントのときに会ったエミリさんのように、明るく振舞えたらいいのに……




「…………えっ、う゛えっ……え゛っ……」

「……………え?」

突然……泣き出したのは李だった。
不器用な自分が情けないからか、危機から解放された安堵なのか……どちらでもないかもしれないし、どちらでもあるかもしれない。
ポロポロと涙を流してむせび泣いていた。


「え゛え゛っ……ひっく………ええ゛ん……うええっ…………」

「なんで…………キミが泣くのさ……うっ……く………っ……」

つられてルカの目からも涙が零れる。
思わず李の体を抱き寄せて頭を撫でた。
李も嗚咽をあげながらルカの肩を抱いた。


それからしばらく、2人は泣き続けた。

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「うっ……ぐずっ……ルカさん、病院……いきましょうか」

「ううん、僕は平気だよ」

「いえ、一緒に行きましょう。治療してもらって、そのあとゴハン食べに行くんです。本場のイタリアンを堪能しましょう」

「…………うん、わかった。……ありがとう」

「よし、行きましょう! あれ? ルカさん目真っ赤ですよ?」

「そういうキミは鼻まで真っ赤だよ」

「ええっ!! ……出てくの恥ずかしいなあ」

「……ふふっ」

「ところで…………なんでルカさん、イタリアにいるんですか?」

「えっ? あっ、うっ、う……うーっと、僕も……修学旅行だったんだ」

「あ、そうなんですか。偶然ですねー」

「偶然なんだよー、こんなところで会えてうれしかったよー」

「………………」

「………………」

「ま、いいか。行きましょうか!」

「うん!」




END


 ★ 使用させていただいたスタンド
No.4219     ラッセル・ケマダ     T-REX
No.5646     アルスーラ・アーリッサ ファイヤー・アンド・ザ・サッド
No.4317     阪奈 李        リアーナ
No.4665     波溜 流渦          ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ









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