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この駅前から約1キロ続く商店街は
各々の店が自慢のイルミネーションで軒先を飾り付け、この町の名物になっている。
各々の店が自慢のイルミネーションで軒先を飾り付け、この町の名物になっている。
夜23時半過ぎ、その商店街のイルミネーションを見に来ている人達が
イルミネーションの一部のように美しく照らされているのが、駅前の噴水広場からでもよく見えた。
イルミネーションの一部のように美しく照らされているのが、駅前の噴水広場からでもよく見えた。
噴水の水しぶきがイルミネーションの光でキラキラ光りながら夜の闇に消えていく。
「……綺麗だ。」
ニコロは噴水手前のベンチに座り、それをじっと眺めていた。
“ニコロ”と言うのは単なるあだ名で、彼の本名は『同心 こころ(ドウシン ココロ)』
二つ“心”があるから“ニコロ”と、昔から周囲に呼ばれていた。
日雇いの仕事で金を稼いて世界中を旅するニコロにとってそれは
故郷の日本と、旅先の国の二カ所に心を置いてるような不思議な気分にさせる名前だった。
故郷の日本と、旅先の国の二カ所に心を置いてるような不思議な気分にさせる名前だった。
…ふと、ニコロは旅先で出会ったある国の人の言葉を思い返す。
『私達は一日の終わりに必ず、何か美しいモノを見る。
そうすれば…どんなに辛い一日だったとしても、最後は美しいモノを見た事が心を癒してくれるんだ。』
―――これから、俺は誰かと戦う。
―――その結果がどうだとしても、またこの美しい風景を見に来よう。
ニコロはそう心に決めると、鼻息まで真っ白になった。
「心が、暖まってきたな…。」
招待状に指定されたこの噴水広場には、まだ誰も現れない。
ニコロは噴水の水しぶきを眺めながら、静かに闘志を燃やしていた。
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駅前の噴水広場は、噴水を中心にしてコンパスで小さな円を描いたような形をしていて
その円周に、恋人達が愛を語り合える程度の間隔を空けてベンチが置かれている。
その円周に、恋人達が愛を語り合える程度の間隔を空けてベンチが置かれている。
その噴水広場のニコロの座っているベンチの向かい側
噴水を挟んだ反対側に、実はニコロが来る前から一人の女が座っていた。
「ただの電球が光ってるだけで何が面白いんだか。…馬ッ鹿じゃないの?」
『アゲハ・フラテリカ』はそう思いながら美しい風景に背を向けていた。
普段の煌びやかなドレスではなく、随分地味な服装だった事もあり
イルミネーションの影になっているベンチに座るアゲハは、暗闇に沈んでいるようだった。
イルミネーションの影になっているベンチに座るアゲハは、暗闇に沈んでいるようだった。
事実、アゲハは沈んでいた。
煌びやかなドレスと言っても、決して貴族のような生活をしている訳ではなく……その逆だった。
夜の街で知らない男に声をかけ、体を重ね、金を受け取る。そういう生活をしていた。
だから、アゲハにとっては
こういう場所も、そこに生きる人間達も、その何もかもが眩しすぎたのだ。
…アゲハは、母親の言葉を思い出していた。
『私達は夜
お日様が眠る時に光を借りて羽ばたき、お日様が起きる朝に光を返して眠るのよ。』
―――あの女はそうやってアタシの元から羽ばたいた。
―――なのに…アタシはちっとも羽ばたけない。羽ばたいてるのはいつだって、客の財布だけだわ…。
アゲハはくわえていた煙草を忌々しく地面に投げ捨てた。
吐いた息が、まだ煙草の煙のように夜空に揺らいでいる。
吐いた息が、まだ煙草の煙のように夜空に揺らいでいる。
「心が、凍えそう…。」
招待状に指定されたこの噴水広場には、まだ誰も現れない。
アゲハはこのままずっと居るような……そんな深い闇に沈んでいた。
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その時―――
ニコロの座るベンチから見て右側、
アゲハの座るベンチから見て左側、
アゲハの座るベンチから見て左側、
噴水広場の駅側入り口に、シワの寄ったスーツをだらしなく着た中年の男が現れた。
ニコロとアゲハは対戦相手が現れたと、噴水広場の小さな空間に緊張が走る。
男は広場をギョロっと鋭い目つきで見ると響く様な声で言った。
「よぉ~し~よしよしよしよし、参加者は揃ってるなぁ~?
ニーチャンが『同心 こころ』、そっちのオネーチャンが『アゲハ・フラテリカ』だな?
招待状の提示は必要無い、顔は覚えて来たからな。」
状況が全く把握できていないニコロとアゲハを前に男は勝手にしゃべり続けた。
「おれがお前達の試合の『立会人』だ。
時間が無いからな、パッとやってパッと解散しような。
いや、時間が無いってのは別にな、
深夜のサッカー観たいから早く済ませたいと思ってるなんて事は…全ンッッ然ンンー~―…ないぜ?
……ないぜ??」
「すいません、何言ってるんですか?」
「ちょっと何言ってんのよ!」
「ちょっと何言ってんのよ!」
ようやく開いた立会人の言葉の隙間に、ニコロとアゲハが同時に立ちあがって言葉を差し込んだ。
―――!!?
ニコロとアゲハはハッとした。
「……?
何だよ、お前達。お互い、相手が居る事に気付いてなかったのか?
何だよ、お前達。お互い、相手が居る事に気付いてなかったのか?
昔のドラマじゃあるめーし。」
立会人が呆れていると
時間がきたのか、フッと広場の噴水が噴出を止めて静かになった。
広場にさっきと違う緊張が走った。
ニコロとアゲハの目の前に突然、お互いの対戦相手が現れたのだ。
「まぁいい、ご対面が済んだなら移動するぞ?
ついてこい。
…あと、アゲハ・フラテリカ。
その吸い殻は拾え。おれが捨てといてやるからよ。」
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三人は商店街の前にやってきた。
商店街は“何かを待っている”かのようにイルミネーションの中を立ち止まっている人も多く
静かに盛り上がっている雰囲気が伝わってきた。
静かに盛り上がっている雰囲気が伝わってきた。
立会人は商店街の入口を背に2人に振り向くと、一応ネクタイだけ整えた。
「よし、じゃあ略式だが…
これより試合のルールを説明する。」
「…え?
こ、ここでやるんですか?」
ニコロは商店街の混雑を視界に入れながら訊いた。
「…何だぁ?
お前の家でやりたいか?、同心 こころ。」
お前の家でやりたいか?、同心 こころ。」
「い、いや、そうでなく…」
「“普通の人間”が居る所でやるのかって事よ!」
アゲハが眩しそうに眼を細めて立会人を睨んだ。
「やるよ?
ギネス認定のビックリ人間だらけのパーティ会場でだって試合はやるぞ、アゲハ・フラテリカ。
とりあえずな、時間が無いんだよ。
まずは試合内容を説明するからきけよ。質問はその後だ。」
立会人は特に表情も変えず淡々と答えた。
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「この商店街のイルミネーションはな、今日の0時キッカリに一斉に消灯する。
今日はその消灯するイベントを観にこれだけの人間が集まってるってわけだ。」
今日はその消灯するイベントを観にこれだけの人間が集まってるってわけだ。」
「…馬ッ鹿みたい。
ただ消えるのを観るだけの為に?」
ただ消えるのを観るだけの為に?」
アゲハが冷めた口調でそっと言い捨てた。
「俺はこの商店街を1キロ真っ直ぐ行った外れで待つ。
お前達は0時までに、この商店街を抜けて俺の元に来い。
…ただし、脇道とかは使わずにな?
…ただし、脇道とかは使わずにな?
先に来た方がこの試合の勝者だ。
だが、0時になってイルミネーションが消えたらその時点で時間切れ。
つまり0時までにどっちも来てない時は両方とも敗者って事で運営には報告する。ロスタイムも無し。
つまり0時までにどっちも来てない時は両方とも敗者って事で運営には報告する。ロスタイムも無し。
…簡単なルールだろう?」
「先に商店街を抜けた方が勝者…?
…そ、それで?」
ニコロは拍子抜けたように訊いた。
「先に来た方が勝者なら後に来た方は敗者だろ。銀メダル欲しいか?
…言っておくがな、
ここでこうやってまごまごしている間にも時間が過ぎてる事を忘れるな?
0時きっかりに消灯って事はもう20分…いや、19分くらいしかないんだ。」
ここでこうやってまごまごしている間にも時間が過ぎてる事を忘れるな?
0時きっかりに消灯って事はもう20分…いや、19分くらいしかないんだ。」
「先にこの商店街を抜ければいいって事ね?
―――『ミストレス・メーベル』!!」
アゲハの背後にムチを持った人型のスタンドが出現した。
「おぉっとーーー!!待てよ、アゲハ・フラテリカ。
もう一つだけルールがある。
もう一つだけルールがある。
お前が言う、その“普通の人間”に対してスタンド能力を使用する事は厳禁、つまり失格だ。
ちなみに当然だが、
相手が失格しても0時までに商店街の外れに来なきゃ勝ちにはならないからな。」
相手が失格しても0時までに商店街の外れに来なきゃ勝ちにはならないからな。」
―――!?
そう言われて、ニコロとアゲハは改めてこの商店街の人混みを見た。
そんな簡単に抜けられるものではない。
「よぉ~し。準備は出来てるか知らないが、時間は誰にとっても平等であるべきだ。
お前達にも、俺にもな。
…これより、第1回戦を始めるぞ!!」
そう宣言した瞬間、立会人はフッとその場から消えてしまった。
何かの能力だろうが
そんな事を気にするより先に、2人は立会人の言葉に弾かれるように商店街の中に飛び込んでいた。
そんな事を気にするより先に、2人は立会人の言葉に弾かれるように商店街の中に飛び込んでいた。
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長い直線になっているこの商店街は、車が2台ギリギリすれ違える程の幅があるが
イルミネーションを観に来た人間同士がすれ違う事さえ困難にしていた。
イルミネーションを観に来た人間同士がすれ違う事さえ困難にしていた。
―――相手より先にゴールに着く。…何かが奇妙だ。
人混みを器用にかわしながら、ニコロはそう思った。
旅慣れているニコロにとって、この程度の人混みは珍しいモノではなかった。
旅慣れているニコロにとって、この程度の人混みは珍しいモノではなかった。
しかし、それでもニコロは時間に間に合わないと感じていた。
過激な言い方をすれば
ここに居る人間を全員なぎ倒して真っ直ぐに走って行かない限り無理だ。
ここに居る人間を全員なぎ倒して真っ直ぐに走って行かない限り無理だ。
たがそれは失格になる。それがルール。
―――どういう意図なんだ?これは…?
そのルールがニコロには引っかかる部分が多すぎた。
その答えを頭の中で探っていると、ふと前方に何か作業をしている団体が居る。
商店街の人間らしき格好だ。消灯する準備だろうか?
商店街の人間らしき格好だ。消灯する準備だろうか?
「『バーサス・ドッペルゲンガー』ーーーーー!!!!」
ニコロの背後に人型のビジョンが現れると、
力強く地面を殴りつけ、その反動でニコロは団体を飛び越した。
力強く地面を殴りつけ、その反動でニコロは団体を飛び越した。
―――そういえば、対戦相手の女は何処に…?
その疑問の答えは目の前に突然現れた。
ニコロの前にアゲハがスタンドを出して立ちはだかったのだ。
「競争相手は先に潰しとこうって事、誰でも考えるわよね?
…ヤル気のある男って好きよ?」
アゲハはすでに臨戦態勢に入っている。
商店街の十字路になっている少しひらけた場所だった。
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「待て、話をきいてくれ!!」
ニコロは『バーサス・ドッペルゲンガー』を引っ込め、攻撃の意志が無いことをアゲハに見せた。
しかし……
「“話をきいて欲しい”なんて、ベッドの上へのお誘いなのかしら?
言っておくけど、アタシは“高い”わよ?」
バシィッ!とするどい音がして、ニコロは右足に違和感が走った。
―――何だ!?
ニコロが自分の右足を見ようと少し体を曲げた瞬間、
右足が本来曲がらない方向に折れ曲がり、ニコロはバランスを崩して倒れた。
右足が本来曲がらない方向に折れ曲がり、ニコロはバランスを崩して倒れた。
「うわっ!?
…こ、これは!?」
「アタシの『ミストレス・メーベル』は、鞭の痕を「折れ線」に変える能力!
…貴重な体験でしょ、その足の曲がり方。」
ニコロの右足は棒を曲げたようになっている。鞭の跡と思われる点線が服の上からしっかり見えた。
骨折の感覚はないが
折れ曲がった事で血が止まり、止血されたように指先の感覚が鈍る。
折れ曲がった事で血が止まり、止血されたように指先の感覚が鈍る。
「ぐっ…。もっと奇妙な体験談が聞きたいなら後でいくらでも話してやるさ…。
今は戦ってる時間なんて無いってのに…!」
ニコロは折れ曲がっていない方の足で無理矢理立ち上がった。
「そうね。今は戦ってる時間は無い。
それに…もうそんなフラミンゴみたいな様でアタシより先にゴール出来るとは思えない……けど!!」
アゲハの『ミストレス・メーベル』が鞭を振りかぶった。
「立ち上がってくる事は気に入らないわ!!
鞭は何の為にある!?
鞭は“屈服”させる為にあるのよ!!『ミストレス・メーベル』!!!」
「このままだと二人とも失格になるんだぞ!!」
その言葉に弾かれたように『ミストレス・メーベル』の鞭はニコロに当たらず、手前の地面にしなった点線の跡がついた。
「な……なによ、それ。」
アゲハは初めてニコロの目を見た。
眼鏡の奥の瞳はアゲハが今まで見た事のない表情をしていた。
眼鏡の奥の瞳はアゲハが今まで見た事のない表情をしていた。
「この試合は、そういう試合なんだ。
…分からないか?」
端から見た二人は喧嘩してるカップルのようだった。
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「この試合は、“どちらかが相手を勝たせる試合”だ…。」
ニコロは『バーサス・ドッペルゲンガー』にもたれかかるようにして言った。
「…相手を勝たせる?
馬ッ鹿じゃないの!?なに言ってんの!?」
馬ッ鹿じゃないの!?なに言ってんの!?」
「最初から時間はギリギリ、この商店街の人混み、
お互いが別々にゴールしようとしても恐らく間に合わない。
お互いが別々にゴールしようとしても恐らく間に合わない。
…本来なら、スタンド同士の殴り合いひとつで終わる試合の筈なのに―――だ。
それさえやる時間も本来はない。」
「あぁ、そう。
わかったわよ、つまり貴方“自分を勝たせろ”って言いたいのね?」
わかったわよ、つまり貴方“自分を勝たせろ”って言いたいのね?」
アゲハは言葉半分に聞いていた。
「…違う。俺が君を勝たせる。」
「そんな嘘をよくも!!!『ミストレス・メーベル』!!!!」
アゲハの『ミストレス・メーベル』が鞭でニコロの左足を打とうとした瞬間、ニコロが素早く先に動いた。
「『バーサス・ドッペルゲンガー』ーーーーーー!!!!!!」
ズキュゥゥーーーーーーーーーーーーーーーン
ニコロのスタンド『バーサス・ドッペルゲンガー』が近くにいたイルミネーションを観ている男に触れた。
男に何かを注入しているような、そんな風に見える。
明らかにニコロが何かの能力を“普通の人間”に向けて使ったのだ。
明らかにニコロが何かの能力を“普通の人間”に向けて使ったのだ。
「なっ!!馬ッ鹿じゃないの!?
貴方!!なにをしているのよ!!!」
アゲハは思わず叫んでしまった。
「…これで俺は失格だ。
時間が無いんだ、もう道は二つしかない。
2人とも時間切れで失格か、君が勝つか……だ。」
「……2人とも、失格ってわけか。」
商店街の外れはイルミネーションの光からも外れて薄暗く、小さな街灯が寂しさをさらに倍増させていた。
大通りに面したこちら側にも駅があるが、終電も近づいたこの時間帯にも関わらず人気は全くない。
そんな中、立会人は商店街の外れから商店街内に広がるイルミネーションを遠目に眺めていたが
それはフッと音も無く消え、わっと人々の歓声のような弾んだ空気が一瞬だけ通り抜けてきた。
それはフッと音も無く消え、わっと人々の歓声のような弾んだ空気が一瞬だけ通り抜けてきた。
「…残念だな。」
そう呟くと立会人はその場を離れ、商店街は静かに眠りにつこうとしていた。
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―――が、
ふと何か地響きのようなものを感じて、立会人は商店街の方を振り返った。
「何だ!?
…………ん!!!!???」
視界に入った商店街のアーチの時計はまだ0時になっていないように見える。
慌てて自分の腕時計で確認するが、デジタルの表示は 23:53 だった。
慌てて自分の腕時計で確認するが、デジタルの表示は 23:53 だった。
「…まさか、イルミネーションの消灯が早まったのか!?これは予定にない事だ!!
あの2人はそれを知る筈もない!!」
立会人が急いで商店街の外れに戻ると、突然…
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”!!!!!
商店街の中から大勢の人間が我先にと飛び出して来た!!
「ななな、なんだぁーーーーーーーー!!!!」
まるで競争しているようにカップル達までもが商店街から、大通りの駅に向けて一目散に走って行く。
しかし何かに脅えて逃げて来たとか、そういう雰囲気ではなく
純粋に競争する事を楽しむ、スポーツマンのような熱気があった。
純粋に競争する事を楽しむ、スポーツマンのような熱気があった。
あやうく巻き込まれる寸前に立会人は離れた場所に移動する。
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”ド ド ド ド ド ……
一通りの波が過ぎた後、ようやく立会人は商店街の外れに戻って来れた。
「な、何だったんだ?今のは…。
マラソンのスタートみてぇな…。終電だってまだ十分余裕あるってのに……。」
立会人は大通りを飲み込んでいく人の波をただ茫然と眺めていた。
「時間は誰にとっても平等であるべきって言ってたじゃないの。
アタシ達にも、貴方にも、あの人達にも…ね?」
「…!?」
立会人が振り返ると、そこにはアゲハが立っていた。
「アゲハ・フラテリカ!?」
「時間、間に合ってるわよね?」
「あ、あぁ…」
立会人は促されるように時計を見た。まだギリギリ0時にはなっていない。
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「ふぅ、なんとか間に合ったみたいだな…。」
少し遅れてニコロも商店街の外れに現れた。
「おい、何なんだったんださっきのは!???」
「商店街を抜けるのにイルミネーションを観ている人が邪魔だったので、
イルミネーションを消灯してもらったんです。」
「し、消灯してもらった!?」
…だから消灯が早まったのか、と立会人は表情を変えずに納得した。
しかしそんな事が出来る筈が―――
「同心 こころ……お前…!!」
「俺のスタンド『バーサス・ドッペルゲンガー』は“闘争心を煽る”能力。
一人能力を流すだけで、その闘争心は伝染するように広がって行くんです。
それを、たった一人の商店街の人間に流すだけで…
あとはドミノ倒しの様に商店街の人達は“我先に消灯する”ように、そう仕向けました。」
「…失格は承知の上って事か。
イルミネーションが消えた後の、あの競争するような人の群れも
“イベントが終わって家に帰る”という闘争心を煽って競わせたわけだな。」
「…はい。」
「女に勝ちを譲るとは、紳士だな。」
「そんなつもりはないですよ。
ただ、今日という日の最後に“勝負に負けて落ち込んだ女性”を見たくはないですから。」
ただ、今日という日の最後に“勝負に負けて落ち込んだ女性”を見たくはないですから。」
「はっ、そいつぁ格好のよろしい事だな。」
立会人の言い方は茶化した風だったが、意味はしっかりと理解したような含みがあった。
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「じゃあ…まぁ、改めて
この試合はアゲハ・フラテリカ、お前の勝ちだ。
この試合はアゲハ・フラテリカ、お前の勝ちだ。
次の試合の招待状は後日、似たような形で送られる筈だ。
また相手が譲ってくれるなんて思うなよ?」
「…分かってるわよ。」
アゲハはそう言い捨てると
帰ろうと商店街に足を向けたが、ふとニコロにそっと話しかけた。
帰ろうと商店街に足を向けたが、ふとニコロにそっと話しかけた。
「ねぇ…なんなら貴方、“タダ乗り”でもしていく?
別にそれくらい……アタシは構わないけど。」
「……。
折角だけど遠慮するよ。見たいモノがあるんだ。」
「そう…。
じゃあ、さよなら。
あと――――ありがと。」
アゲハはそのまま商店街をさっきまで居た駅の方へ引き返して行く。
立会人は軽く会釈したが、アゲハは返す事もなかった。
「さて、俺は観たいモノがあるしクールに去るぜ。
ところで…
あのいい女の肌よりも見たいものってのは何だ?」
ニコロはそのまま黙って、
静まり返った商店街を歩いていくアゲハの後ろ姿を眺めていた。
★勝者:
本体名 アゲハ・フラテリカ
スタンド名『ミストレス・メーベル』
スタンド名『ミストレス・メーベル』