ヘクター・ギボンズ。
世界的犯罪組織『ディザスター』の幹部に名を連ねる彼が、まだその地位を手に入れる以前のこと。
彼は幹部の命により、多くのスタンド使いが所属すると言うイタリアのギャング
『パッショーネ』の調査を行っていた。
ギボンズ「…『ホワイト・アルバム』のギアッチョ。
ふむ、見たところただのチンピラのようだが、情報が本当ならかなりの実力者というわけだ。」
ギボンズは組織とは関係のない“個人的な目的”のため、
ギアッチョを尾行し人気のない街外れまで来ていた。
ギアッチョ「オイオイこのオレが気付かねーとでも思ったのかァ?
さっさと出て来いってんだよ!イラつくぜェーッ!」
ギボンズ「私の尾行に気付くとは、やはりただのチンピラというわけでは無さそうだな。
失礼した、私はヘクター・ギボンズ。英国よりナイトの称号を授かっている。
私を呼ぶときはミスターではなく、サーの称号で呼んで頂きたい。」
ギアッチョ「てめぇーナメてんのか?んなこたァどーでもいいんだよッ!
いいかッ!聞きたいのは、一体何の用でオレをつけて来たのか、だッ!」
ギボンズ「…そうか。
では単刀直入に言おう。私と“決闘”をしてくれまいか?」
ギアッチョ「あァ?そりゃーどういうことだ?」
ギボンズ「言葉通りの意味だよ。
見せてくれたまえ、君のスタンドを。
ギアッチョ「……どういうつもりか知らねーが、後悔するなよオッサン?
『ホワイト・アルバム』ッ!!」
ギアッチョがスタンドの名を叫ぶと、その身体は氷のスーツに包まれ、辺りには冷気が張り詰めた。
ギボンズ「ほう、超低温の纏衣装着型スタンド…情報通りだな。
しかし、私だけが相手の能力を知っているのは公平ではない。
決闘に相応しく、我が能力を君に明かしておこう。
『フリーズ・フレイム』!」
現れたのは、プテラノドンを擬人化したようなスタンドだった。
ギボンズ「私のスタンドは、触れたモノの時を“凍結”させる能力だ。
奇しくも君と私のスタンドは…」
ギアッチョ「似たもの同士のようだなァ。
だがよォ、触れなけりゃあ止められないアンタに、勝ち目はねェーッ!」
そう言い放つと同時に、ギアッチョは地面を殴りつける。
その一点から、一瞬にして氷の帯が地面を伝いギボンズの足元へ。
ギボンズの両足を完全に固定していた。
ギボンズ「くっ!足を取られたか!」
そこへ、氷のスーツの足底をスケートのエッジに変えたギアッチョが、猛スピードで迫る。
ギボンズ「だが!この程度の氷を砕くことなど容易いのだよ!」
氷の帯にフリーズ・フレイムが拳のラッシュを叩き込むと帯は割れて断絶され、
ギボンズの両足の氷が溶け自由になった。
しかし、ギアッチョが既に目前にまで迫る。
ギアッチョ「悠長なことやってんじゃあねーぞッ!」
滑走のスピードを乗せた拳が繰り出される。
ギボンズ「甘いッ!」
ボメキィッ!
ギアッチョのスピードを上回る、フリーズ・フレイムの強烈な右カウンターが
氷のヘルメットの下部、つまりギアッチョの顎を直撃していた。
ギアッチョ「うげぇッ!」
ガリガリガリガリ!
ギアッチョは仰向けに倒れつつ、そのスピードのまま石畳の路面を滑り、
そして壁に激突した。
しかし、ギボンズも無傷では済まなかった。
ギボンズ「あの一瞬で、右手が凍ってしまうとは。なるほどこれは凶悪だね。」
ギアッチョ「…てめー、このオレにケンカ売るだけはあるようだなァ。
だがこの程度でオレのホワイト・アルバムの装甲は破れねぇんだよォォッ!」
激突によってひび割れていたスーツは既にほぼ修復され、
ギアッチョがダメージを負っている様子も全く見られなかった。
ギボンズ「君も噂に違わぬ強敵のようで、嬉しいよ。
そう言いながら、ギボンズは懐から拳銃を取り出す。
利き腕の右手は凍結こそ解けていたが、いまだかじかんでいた。
しかし、普段から拳銃を愛用しているギボンズには、
左手でも正確な射撃を行う自信があった。
ギアッチョ「オイオイ、てめー今の見てなかったのか?
オレのスーツは無敵。そんなオモチャが通用するわきゃあねーだろうがよォーッ!」
ドギュドギュドギュン!
拳銃の咆哮がこだまする。
3発の銃弾は確実にギアッチョの顎へと狙いを定められていた。
ギボンズは先ほどのカウンター攻撃で、氷のメットの顎部分を“ひび割れたままの状態に固定”していたのだ。
ギボンズ「いかに硬かろうと、傷付いた部分を狙えば脆いものだ。」
しかしギボンズの放った弾丸は、見えない壁に遮られ、狙いを捉えることはなかった。
そして空中を良く見ると…
ギボンズ「これは…氷が宙に浮かんでいるだとッ!?」
ギアッチョ「『ホワイト・アルバム・ジェントリー・ウィープス』。
空気を凝結させて壁を作ったッ!
オレが“ひび割れの固定”に気付かないと思ったのか?マヌケがッ!」
辺りにギュイン、ギュインと不気味な音が響く。
それは空気の塊に弾丸が反射している音。
ギアッチョ「てめーの撃った弾丸を食らうんだなーッ!」
ドシュシュシュッ!
3発の弾丸が元の主へと牙をむく。
ギボンズ「ッ!叩き落とせ!フリーズ・フレイムッ!
ギボンズは咄嗟にスタンドに迎撃させる。
だが、不規則な軌道を辿る弾丸を捉えるのは、
いかに弾丸と同程度のラッシュスピードを持つフリーズ・フレイムと言えど難しい。
ギボンズ「グフッ!」
何とか両の手で2発までは弾くことができたが、1発がギボンズの腹部に命中した。
激痛が襲い、たまらず地に膝をついてしまう。
ギアッチョは余裕の笑みを浮かべ、話し始める。
ギアッチョ「この前ダチに聞いた話だがよォ、
日本じゃあ『ピッッツァ』のこと『ピザ』って言うらしいなァ?
『ド○ノピザ』とか、『ピザハoト』とかよォ。
なんで『ド〇ノピッツァ』って言わねぇーんだよ!
オレをなめてんのかって思うよなァッ!?
チクショウ!ムカつくんだよ!クソ!クソ!このクソがァッ!」
そう言って壁に自らの頭を打ち付ける。
あまりに激しいため、打ち付けられた箇所がボロボロと崩れ落ちていく。
ギアッチョ「だけどよォォ、日本人のクセに気取って『ピッツァ』って言うヤツにも腹立つよなァァッ!?
クソジャップがッ!通ぶってんじゃあねぇぞコラァッ!
なめやがって!イラつくんだよォォッ!!」
ボゴォッ!
遂には壁に穴が開いてしまった。
何故この場で英国人の自分にそんな話をするのか、
何故自分の頭を壁に打ち付けているのか、ギボンズには理解できなかったが、
ギアッチョとはそういう人物なのだ。
ギボンズ「こいつはクレイジーだな…」
ギアッチョがギボンズに近づきながら話す。
ギアッチョ「さて、オレも暇じゃあなねぇーんでなァ。
さっさと終わりにさせてもらうぜェ。
オレが刑を言い渡すッ!てめーは凍結刑だッ!
って言っても、オレのスタンドはそれしかできねーがよォー!
5メートルほどまで近づいた所で、ギアッチョは歩みを止める。
ギアッチョ「これ以上てめーに近づけば“触れられる”かも知れねぇーしな。
距離をとったまま始末させてもらうッ!
ホワイト・アルバムッ!」
ギアッチョの周りに冷気が立ち込める。
離れているギボンズの元にもそれが伝わってきた。
まるで猛吹雪の中のような、いやそれ以上の猛烈な寒さ。
路面は凍結し、痛みで動けないギボンズの身体も、端々から凍り始める。
ギボンズ「こ、このままでは…
この距離では直接攻撃することもできず、かといって拳銃も通用しない。
ギボンズは焦っていた。
ギアッチョ「さぁー、一気に凍りつけッ!」
ギアッチョは地面に拳のラッシュを叩き込み、
それに呼応して幾筋もの氷の帯が重なり合いながら、ギボンズへ到達する。
先ほどまでよりも直接的な冷却。
ギボンズの身体が下から凍結されていく。
ギボンズ「う、腕が動かなくなる前に…!」
ギボンズは一か八か、再び拳銃を構える。
その手は寒さで震え、照準が定まらない。
ギアッチョ「頭の悪いヤツだぜ、てめーはッ!
銃弾はオレにはきかねぇーって言ってんだろーがよォォーッ!
しかも震えちまって、そんなんでまともに撃てるワケがねぇー!
哀れだなぁ、ミスター・ギボンズ!」
ギボンズ「わ…たし、は…ミスターでなく、サーだと…言った、はず、だ…!」
ミスターと呼ばれたことに怒りを感じたギボンズだったが
ガチャン
ギボンズは銃を取り落としてしまった。
ギアッチョ「残念だったなァ!やはりお前はこのまま凍死するんだよォーッ!」
しかし次の瞬間。
ギボンズ「…やれ、フリーズ・フレイムッ!」
いつの間にか1発の弾丸を握っていたフリーズフレイムが、
それをギアッチョに向かって投擲した。
スピード、破壊力共に優れるこのスタンドによって投擲された弾丸は、
拳銃の発射速度と変わらないスピードでギアッチョへ向かう。
そしてそれはギアッチョのスーツの胸部へと命中した。
が、氷の装甲を抉りはしたものの、途中で完全に止められてしまった。
ギアッチョ「お笑いだなッ!
銃が撃てねーからって、スタンドで投げつけても意味ねぇーぜッ!
その時。
ギボンズ「フリーズ・フレイム、能力を解除しろッ!
突如勢いを取り戻した弾丸が、更に氷を抉り抜いていく。
ギアッチョ「な、なんだとォー!?
そしてついにはギアッチョ本人の鳩尾(みぞおち)へと着弾した。
ギアッチョの胸から血が噴き出す。
ギアッチョ「うぎ、うぎゃあああああああッッ!!!!
投擲されたのは、先ほど『ジェントリー・ウィープス』によって反射された弾丸だった。
フリーズ・フレイムが反射弾を防いだ時、その“運動エネルギー”を凍結させていたのだ。
そして弾丸がスーツにめり込んだ状態でエネルギーの凍結を解除したことによって、
本体への貫通を可能にしたのである。
ギアッチョはそのままうつ伏せに倒れこんだ。
ホワイト・アルバムの能力が解け、ギボンズの凍結が解除される。
ギボンズ「…ふぅ…ふふ…ふはは、楽しませてくれるじゃあないか、ギアッチョ君。
流石の私も今回ばかりは少々焦りを感じたよ。」
倒れたギアッチョのすぐ側まで近づくギボンズ。
ギボンズ「まだ死んではいないだろう?」
ギアッチョ「ウグ…ウガ、ガ…!
て、めぇ…腹の…傷、は…どうし、た…?」
ギボンズ「威勢がよろしくて結構。だがそうでなくてはな。
傷は既にスリーズ・フレイムで凍結した。
今は痛みもなければ、これ以上傷が悪化することもない。
ところで、君に一つ提案があるのだよ、そのまま聞いてくれたまえ。
どうだね…」
ギボンズが自分を見下し話をしている中、
ギアッチョは勝利を確信した笑みを浮かべていた。
ギアッチョ「(…出血はしたが傷はそれどほど深くはない!
バカめ!最後に勝つのはこのオレだッ…!)」
不意にギアッチョの手が伸び、ギボンズの足首を掴む。
ギアッチョ「直に掴んだッ!凍結しやがれェーッ!」
ギボンズ「なッ!?」
ギボンズは一瞬にして足1本が凍結してしまった。
そして引き倒される。
更にそこに、再び氷のスーツを纏ったギアッチョのラッシュ攻撃。
ギアッチョ「ウラァァァァァァァァァァアアアアッッ!!!!」
不意をつかれバランスを崩したギボンズは、
抵抗する間もなく氷の彫像と化していた。
ギアッチョ「手間ァかけさせてくれたなッ!
だが所詮てめーは、このオレのホワイト・アルバムの敵じゃあなかったッ!
甘っちょろい紳士なナイト様には、覚悟が足りなかったよォだなァーッ!
その時。
頭上の電線が、ブツンという音を立てて切れた。
そして中の導体が露出したケーブルが垂れ下がり、ギアッチョの氷のスーツに直撃した。
ギアッチョ「イィィィィィガガガガガガァァァァァァァァァッッ!!!!」
ギアッチョは感電し、プスプスと煙を立てながら仰向けに倒れた。
ギボンズ「…覚悟が足りないのは君の方だよ、ギアッチョ君。
この私に勝とうなど、100年は早かろう?」
ギボンズはギアッチョの攻撃を当然予測していた。
相手に完全なる敗北を味わわせるため、敢えて隙を見せたのだ。
ラッシュ攻撃を受ける直前、ギボンズはフリーズ・フレイムの能力で自分自身の“体表のみを凍結”した。
フリーズ・フレイムの凍結は即ち時間の停止。
つまりそれ以上の変化が起こらなくなる。
その後でいくら冷却されようと、ギボンズがその影響を受けることはなかった。
毒を以って毒を制すならぬ、凍結を以って凍結を制した、と言ったところか。
更にギボンズは、急激な温度差で劣化し切れかかっていた電線を利用した。
ギアッチョに近づく途中、近くの電柱に触れ、それに繋がった電線までも“凍結”、
氷付けにされた後に電線の凍結を解除したのだ。
ギアッチョ「うぅ、コ、コケに、しやがっ…て…」
ギボンズ「流石は私の見込んだ男だ。
ギリギリ死ぬ前に氷のスーツを解除していたようだな。
さて、先ほどの話の続きだが…
どうだねギアッチョ君、私の部下にならないか?
私は今の組織でいずれ幹部にのし上がるつもりだ。
いや、必ず幹部の座を手に入れる。
その時のために、優秀な部下が必要なのだ。」
ギアッチョ「そ、そのために、オレと“決闘”をした…ってのか…?」
ギボンズ「その通りだ。
そして結果は君の敗北。
私は私の実力を示した。
私の組織『ディザスター』は世界的な犯罪組織だ。
『パッショーネ』とは規模が違う。
どうだ、悪い話ではないと思うがね?
ギアッチョ「…アンタ、あの『ディザスター』だったのかよ…
通りで強ぇワケだなァ。
……オレは『パッショーネ』のボスをあまり信用しちゃいねェ。
ヤバイ仕事をしてる割に、冷遇されてっからなァ…
その点アンタの方が紳士だろうし、アンタにつくのも悪くねェ。
だが、オレは暗殺チームの一員だ。
組織を抜けるとなると、間違いなく追っ手がかかる。
それに…『メローネ』っつー信頼してるダチもいるんだ。
そいつを裏切るのも、気がとがめるんでよォ…
アンタが幹部になった時に、また声をかけてくれよ。
幹部なら、追っ手からオレを守る命令くらい出せるだろーしなァ。」
ギボンズ「…いいだろう。
だが、一つ大事なことを忘れていた。
…ギアッチョ君、私は最初に言った通り、『ナイト』の称号を授かっている。
先ほどのミスター・ギボンズという発言については、取り消してくれたまえ。
ギアッチョ「あ、あぁ、すまなかった…
さっきの発言は取り消すぜ、ギボンズ卿。
ギボンズ「よろしい。
ではまた、幹部の地位を手に入れた時に迎えに来る。
その時まで、しばしのお別れだ。」
その後、ギアッチョは『パッショーネ』に起こった内部抗争の末、
ジョルノ・ジョバァーナとグイード・ミスタによって倒され、死亡することになる。
ギボンズがそれを知ったのは、彼が幹部の座を手にした後だったという。
★勝者★
本体名 :ヘクター・ギボンズ
スタンド名:『フリーズ・フレイム』
本体名 :ヘクター・ギボンズ
スタンド名:『フリーズ・フレイム』
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