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第6回オリスタトーナメント《決勝①》

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minako

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だれでも歓迎! 編集


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鳴かぬなら
鳴くまで待とう
ホトトギス
      ……徳川家康

夕焼けが世界を紅く染める。
伸びゆく影と眩しい光が交差し、ドレスを着こなす女性を包み込む。

「そろそろ時間ね……」

太陽との別れは羽ばたきの合図。
夜の蝶、アゲハ・フラテリカは石の階段を眺めながら呟いた。

「しかし、この階段どこまで続いてるのかしら?」

アゲハが眺める階段の先は果てしなく、どこまでもどこまでも続いているかに思える。

「それが今回の課題だ……アゲハ・フラテリカ」

しわの寄ったスーツをラフに着崩した中年の男は軽く手を上げて挨拶をすると、アゲハへ歩み寄る。

「よ! また会ったな、ネーチャン!」

「貴方は1回戦のときの……」

アゲハが思い返すは今回のトーナメントの初戦。
どちらが相手を勝たせるかを問われた何とも厳しい課題だった。

「また変なルールじゃないでしょうね?」

「何、特別難しいことはないさ」

男は真っ直ぐに階段を指差す。

「あの石の階段が全部で何段あるか……俺に教えてくれ」

「……それだけ?」

「ああ、それだけだ。時間制限もない。相手は遅れてるみたいだし、先に数え始めてもらって一行に構わん。分かったら俺に教えに来い」

「……分かったわ」


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…………………………

「お嬢ちゃん……話にゃ聞いてたが、いくらなんでも遅刻し過ぎじゃねぇか?」

「すいません! そこの角まではスムーズに来たんですけど、ついコンビニに寄ってたら、つい……」

アゲハがスタートした頃にはまだ微かに見えていた太陽も、今や完全に沈み、辺りは夜の闇と冷ややかな空気に包まれていた。

「で、えぇっと……この階段を数えればいいんですよね? 長いなぁ……今から追いかけて間に合うのかなぁ……」

中年の男はフッと口元を緩ませた。

「この試合に時間制限はない……意外といい勝負になると思うぜ、お嬢ちゃん……」


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鳴かぬなら
殺してしまえ
ホトトギス
     ……織田信長

「8251……8252……」
数を間違えないように口ずさみながら登るアゲハ。
少しでもリードを延ばそうと休むことなく、ハイペースで登り続けた。
流石に疲れて立ち止まり、上を見上げる。
夜の闇に包まれたせいもあるのだろうが、その終わりはまるで見えてこない。

「どれだけ長いのよ……この階段……」
石段の高さなどたかが知れると軽く考えていたアゲハにとって、この規格外の長さは体力のみならず精神的な疲労も齎していた。

アゲハは続けて後ろを振り向いて確認するが、やはり石段は同様に果てしなく伸びている。

……いや、一つだけ違いがある。
それはだんだんとアゲハに近づいてくる人影。

「あれ? 本当だ。意外と早く追いついちゃった!」

「な……もう追いつかれた!?」

「お姉さん、コンバンハ! わたしエミリアナ・セブロ・メサ、エミリって呼んでください!」

アゲハは返事することなく、エミリを見つめる。
アゲハの全身の輪郭が一瞬ぼやけたかと思うと、そこから浮かび上がるように、抜け出るように、精神の才能が現れる。

「ミストレス・メーベル!」

そう叫ぶや否や、ミストレス・メーベルの振るった鞭がエミリの脚を打つ。

「キャッ!!」

ベコっと音を立て、エミリの脚は折れ曲がり、その場に倒れ込む。

「その脚じゃ、この石段は登りきれないわね。そこでおとなしくしてなさい」

エミリに背を向け、アゲハは再び階段を駆け登る。
(ちょっとムキになりすぎたかしら……)

つまるところ、アゲハは嫉妬していた。

エミリの無邪気さ、若さ、やがて自分が失うであろう輝き、みずみずしい羽を持っていることに対する嫉妬。
今だ見えぬ自分の未来への苛立ち。
それが彼女の短絡的な攻撃に結び付いていた。

(この闘いに勝利し、私は見つける……新しい輝き……新しい羽を!!)

「9563……9564……」
更に1000段以上登ったアゲハ。
ゴールを信じて、石段の先を見上げる。

「流石に10000段はないでしょ……そろそろ終わるはず……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「なのに……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「なんで貴方がここにいるのよ!!」

アゲハの目に映ったのは座り込むエミリの姿だった。


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鳴かぬなら
鳴かせてみせよう
ホトトギス
     ……豊臣秀吉

「なんで貴方がここにいるのよ!!」

「あぁ、やっぱり。何となくそんな気はしてました、はい」

困惑するアゲハを尻目にエミリはいけしゃいしゃいと答える。

「わたしお姉さんから2時間遅れで出発したのに、やけに早く追いついたからおかしいなぁって思ってたんですよ」

エミリは辺りの木々に視線を移す。

「それに、わたし漫画とか絵を描くのが好きだから風景とか細かく見る性分なんですけど、この辺の風景って代わり映えしないっていうか……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「まるで"同じところ"をぐるぐる回ってるみたいだなぁ……って」

「"同じところ"……!?」

「それで確認なんですけど、わたしはここまでで"253段"なんですけど、もしかしてお姉さんはもっと登ってません?」

「……253段!?」

「図星って顔ですね……というわけで、お姉さん!」

エミリは笑顔でアゲハに向き合う。

「お話しましょう!」

「……はい?」

「いや、このまま階段登り続けても埒があかないし、せっかく知り合ったんだからお話しましょうよ」

「なんで……?」
アゲハは困惑を隠せない。

「私はいきなり貴方に襲いかかったのよ? なんでそんな無邪気に話せるの?」

「だって、お姉さん悪い人じゃなさそうだし! こんな大会なら攻撃するくらいは普通でしょ」

エミリの笑顔と言葉に、アゲハの中の何かが晴れる気がした。

「そうね……エミリ。私はアゲハ……アゲハ・フラテリカ。よろしくね」

「アゲハさんですか! かわいい名前ですね!」

「そ、そう……」

「アゲハさんはこのトーナメントの目標ってあるんですか?」

「目標ね……有って無いようなものね。そういう貴方は……?」

「う~ん、なんでしょう? ……"目標を探すのが目標"じゃ駄目ですか?」

エミリは遠くに視線を移す。

「……1回戦は相手の男の人が強そうだったんでつい夢中になって戦っちゃったんですけど、2回戦はかわいい年下の女の子が相手で、楽しくお話してたら終わってて……なんていうかその場その場で全力を尽くすっていうか……」

自分でも何を言ってるのか良く分かっていなさそうにエミリは言葉を続ける。

「とりあえず、せっかく知り合ったなら仲良くなりたいなぁっていうのが今の気持ちです。アゲハさんとも! っていうかアゲハさんホントに綺麗ですよね。美の秘訣を是非ともご伝授!!」

「美の秘訣……? いや、そんなこといきなり言われても……」

「とりあえずメアド教えてください! いろいろ教えてください、お姉様!!」

微笑ましいエミリの態度に困惑しつつもどこか暖かい気持ちになるアゲハ。

(こういうのも悪くないかもね……)

自分の輝きはいつか失われるときが来るだろう。
でも、それを若い世代へと伝えていく。
そういう生き方も……悪くない。
それがこの闘いを通して見出だされた、己の新たな道。
己の新たな強い意思……

「待てよ……もしかして……」
アゲハはふと気づく。
この終わりなき石段の真実に。


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「分かったわ……課題の答え、石の階段の真実!」

「……答えを聞かせてもらおうか、アゲハ・フラテリカ」

そして、闇は晴れた。

気がつくと、アゲハとエミリは何もない荒野に立っていた。
二人の前には立会人である中年の男。

「ど、どういうこと?」
エミリは意味が分からず辺りを見渡す。

「アゲハ・フラテリカ、さぁ答えを……」

「では、答えを……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「"石の階段なんて始めからなかった"。それが答えよ!」

「その心は?」

「最初に階段がおかしいって気づいたのはエミリちゃんなんだけどね。私は何故この階段が存在するかを考えたの……そしたら思い当たったのよね。もしかして、この階段は私たちの"意思"を試してるんじゃないかってね」

「ほぅ……」

「私とエミリちゃんの共通点は闘いの明確な目的、明確な意思がないこと。あの階段のゴールとは、そこだったのよ」

アゲハは先程石段で思い浮かんだ未来のビジョンを再び思い描く。

「エミリちゃんみたいな若い世代への懸け橋として輝く。それが私の新しい羽、新しい意思……つまり、石の階段じゃなくて……意思の階段だった。それが答えよ!!」

アゲハはドヤ顔で中年の男に己の意思をたたき付ける。

「見事だ、アゲハ・フラテリカ……だが不正解だ」

「なんですって……!?」

「では、エミリアナ・セブロ・メサ。お前の答えを聞こう」

「はい! 石の階段は全部で10段です!!」

アゲハはエミリの声のする方向へと振り返る。
そこには確かに先程まで無かった10段の石段が存在しており、その頂上にエミリは立っていた。
彼女のスタンドを携えて……

「ケケケケ、スタンド使いの荒いマスターだぜ。大きい立体は大変なんだぜ!」

「私の能力は描いたものを実体化すること。アゲハさんの話長いから……石段、作っちゃいました!

鳴かぬなら 作ってしまえ ホトトギス

……なんちゃって、テヘペロ!」

「確かに初めは石の階段なんてなかったんだが……実際に用意されたなら話は別だ。というわけで、エミリアナ・セブロ・メサ、正解だ!」

「やったぁ! わたしの勝ち! イェーイ!!」

「……このクソガキ」
やっぱり若い奴は嫌いだ。
無邪気に喜ぶエミリを見て、アゲハはそう思った。








★勝者:
本体名 エミリアナ・セブロ・メサ
スタンド名『ニュー・ファウンド・グローリー』











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