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古びた倉庫が立ち並ぶ港。
数隻の小型船が停まっているものの、その乗組員すら姿はなく、その港に人気は全くない。
……一人の少女を除いて。
数隻の小型船が停まっているものの、その乗組員すら姿はなく、その港に人気は全くない。
……一人の少女を除いて。
「……遅い。それともこの前みたいに既に何処かに来ているの?」
そう呟く一人の少女、安西歩。
海から吹き付ける潮風が少女の髪を揺らした。
ふと、歩が視線を遠くへと移すと、見えてきたのはこちらへと走ってくる学生服を着た少年の姿。
「……よかった。今度こそ人間が相手みたいね」
歩は少年、相羽道人を見て、そう呟いた。
そう呟く一人の少女、安西歩。
海から吹き付ける潮風が少女の髪を揺らした。
ふと、歩が視線を遠くへと移すと、見えてきたのはこちらへと走ってくる学生服を着た少年の姿。
「……よかった。今度こそ人間が相手みたいね」
歩は少年、相羽道人を見て、そう呟いた。
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「間に合った……えぇっと……君は立会人? それとも対戦相手?」
息を切らし、駆け込んできた道人。開口一番に歩へと問いかける。
「立会人? へぇ……運営側が立ち会うこともあるんだ」
そう言うや否や、歩の背後に重なるようにスタンドヴィジョンが現れる。
「な……!?」
有無を言わさず、スタンドを展開してきた少女の姿を見て、道人は確信する。
この少女は立会人ではない……今回の相手だと……!
息を切らし、駆け込んできた道人。開口一番に歩へと問いかける。
「立会人? へぇ……運営側が立ち会うこともあるんだ」
そう言うや否や、歩の背後に重なるようにスタンドヴィジョンが現れる。
「な……!?」
有無を言わさず、スタンドを展開してきた少女の姿を見て、道人は確信する。
この少女は立会人ではない……今回の相手だと……!
「クローサー・ユー・ゲット!」
道人が状況を理解しきる前にケリをつけようと、歩は速攻をしかけた。
クローサー・ユー・ゲットのスピードを活かしたラッシュが道人に叩き込まれ、その体は力なく宙を舞い、電柱へと弾き飛ばされる。
道人が状況を理解しきる前にケリをつけようと、歩は速攻をしかけた。
クローサー・ユー・ゲットのスピードを活かしたラッシュが道人に叩き込まれ、その体は力なく宙を舞い、電柱へと弾き飛ばされる。
「ぐ……いきなりこれか……」
スピードだけではなく、そのパワーもなかなかのもの。
再帰不能ではないが、道人が相当量のダメージを負ったのは事実。
「(スピードは僕よりも上みたいだ……正面から殴り合ったら歩が悪いかも……)」
体勢を立て直すため、道人は電柱を背に、もたれ掛かるようにして立ち上がる。
スピードだけではなく、そのパワーもなかなかのもの。
再帰不能ではないが、道人が相当量のダメージを負ったのは事実。
「(スピードは僕よりも上みたいだ……正面から殴り合ったら歩が悪いかも……)」
体勢を立て直すため、道人は電柱を背に、もたれ掛かるようにして立ち上がる。
……ジャラ
そのとき、道人の足元から鳴る金属音。
「(……手錠? なんで電柱に嵌められて……まさか!?)」
「(……手錠? なんで電柱に嵌められて……まさか!?)」
何かを察した道人が電柱から慌てて飛び退いたのと、クローサー・ユー・ゲットが火の点いたマッチを投げたのは、ほぼ同時だった。
ドゴォォン!!
マッチによって電柱は「着火」し、爆発した。
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「うわぁぁぁ!!」
咄嗟に逃げた道人だったが、その爆発範囲から完全に逃れることはできず、爆風に弾き飛ばされる。
咄嗟に逃げた道人だったが、その爆発範囲から完全に逃れることはできず、爆風に弾き飛ばされる。
「く……ブレイク・フリー!!」
何度も地面に叩きつけられていては体がもたない。
自身のスタンド、ブレイク・フリーに支えられ、道人は無事に着地する。
何度も地面に叩きつけられていては体がもたない。
自身のスタンド、ブレイク・フリーに支えられ、道人は無事に着地する。
「近距離型のスタンドね……だったら、近づけさせなければこっちのものってわけ!」
歩は懐から瓶を取り出すと、その中の液体へ指を突っ込む。
そして、道人の足元へと手錠とマッチを投げ付ける。
「まずい……!」
先程の攻撃で全てを察した道人は即座にその場から走り去る。
歩は懐から瓶を取り出すと、その中の液体へ指を突っ込む。
そして、道人の足元へと手錠とマッチを投げ付ける。
「まずい……!」
先程の攻撃で全てを察した道人は即座にその場から走り去る。
手錠は誰も居なくなった地面へ落ち、次いでそこに落ちてきたマッチによって着火、爆発を起こす。
歩が持ってきた瓶の中身はガソリン。
その性質を得た手錠や拘束物をマッチで着火させる。
そう、クローサー・ユー・ゲットの能力を活かした爆発攻撃である。
歩が持ってきた瓶の中身はガソリン。
その性質を得た手錠や拘束物をマッチで着火させる。
そう、クローサー・ユー・ゲットの能力を活かした爆発攻撃である。
「(いじめなんて、この能力があれば簡単に仕返しできる……運命は変えられる……でも……)」
歩は道人目掛けて、手錠とマッチを投げ続ける。
「(こんな残酷な手段をとる覚悟……これまでの私にはなかった。この闘いで……私は非情になる!!)」
歩は道人目掛けて、手錠とマッチを投げ続ける。
「(こんな残酷な手段をとる覚悟……これまでの私にはなかった。この闘いで……私は非情になる!!)」
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何度も何度も繰り返される爆破の嵐に巻き込まれ、道人は傷つき、逃げ惑う。
その集中力はたいしたもので、常人ならばとっくに爆発に巻き込まれるか、あるいは手錠で拘束されて自身がガソリンとなっているところだ。
しかし、次第に道人も追い詰められ、倉庫の扉を前に立ち尽くす。
「古い倉庫らしくてね。鍵も壊れて、ひしゃげたその扉が開くことはないわ……」
地の利を活かしたものが有利となることを、彼女は前回の闘いで身をもって学んだ。
今回は、事前に下調べは十分にしてある。
これまでの連続爆破は道人をここまで追い込み、退路を絶つために行っていたのだ。
その集中力はたいしたもので、常人ならばとっくに爆発に巻き込まれるか、あるいは手錠で拘束されて自身がガソリンとなっているところだ。
しかし、次第に道人も追い詰められ、倉庫の扉を前に立ち尽くす。
「古い倉庫らしくてね。鍵も壊れて、ひしゃげたその扉が開くことはないわ……」
地の利を活かしたものが有利となることを、彼女は前回の闘いで身をもって学んだ。
今回は、事前に下調べは十分にしてある。
これまでの連続爆破は道人をここまで追い込み、退路を絶つために行っていたのだ。
「……これで終わりよ!」
歩が投げた手錠は道人の両足を捕らえ、彼にガソリンの性質を付与する。
そこへ投げ込まれたマッチ……
「うわぁぁぁ!!」
道人の体は爆発とともに跡形もなく消えうせる……
歩が投げた手錠は道人の両足を捕らえ、彼にガソリンの性質を付与する。
そこへ投げ込まれたマッチ……
「うわぁぁぁ!!」
道人の体は爆発とともに跡形もなく消えうせる……
「……はっ!」
と……想像したところで歩は一瞬手を止めていた。
まだ、手錠は投げられず、手元に残っている。
と……想像したところで歩は一瞬手を止めていた。
まだ、手錠は投げられず、手元に残っている。
「ブレイク・フリー!!」
歩が躊躇したその一瞬、何が起こったのか。
固く閉ざされていたはずの倉庫の扉が開き、道人はその中へ逃げ込んだ。
歩が躊躇したその一瞬、何が起こったのか。
固く閉ざされていたはずの倉庫の扉が開き、道人はその中へ逃げ込んだ。
「なんで……? あの扉は私のスタンドのラッシュでも開かなかったのに……!?」
……ゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴゴ
低い地響きのような音が倉庫から発せられ、辺り一帯に鳴り響く。
そして、倉庫から大量の白い粉が津波のように溢れ出し、歩へと迫り来る!!
「これは……小麦粉!? 何がどうなって……!?」
訳の分からない歩は押し寄せる小麦粉の津波に巻き込まれる。
「きゃあぁぁぁ!!」
訳の分からない歩は押し寄せる小麦粉の津波に巻き込まれる。
「きゃあぁぁぁ!!」
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道人が倉庫の中で見つけたのは古い貿易船の積み荷の数々。
中でも目をつけたのは小麦粉を入れた大量の箱。
道人は倉庫の扉を開いたのと同様にブレイク・フリーの能力で積み荷の封を切っていく。
そして、あの小麦粉の津波が引き起こされたのだ。
中でも目をつけたのは小麦粉を入れた大量の箱。
道人は倉庫の扉を開いたのと同様にブレイク・フリーの能力で積み荷の封を切っていく。
そして、あの小麦粉の津波が引き起こされたのだ。
「……こほっ。酷いね……目茶苦茶よ」
下半身が大量の小麦粉にすっぽりと埋まって身動きのとれない歩。
そこへゆっくりと近づいてくるのは……道人とブレイク・フリー。
下半身が大量の小麦粉にすっぽりと埋まって身動きのとれない歩。
そこへゆっくりと近づいてくるのは……道人とブレイク・フリー。
「あんまり同年代の女の子を殴りたくないんだけど……まだ続ける?」
「当たり前でしょ! 情けなんてかけないでよ! ……アンタには覚悟ってもんがないの? 勝負は非情なのよ!!」
歩は必死の形相で道人を睨みつけ、なんとか小麦粉から抜けだそうと力を込める。
「そう……分かった。ブレイク・フリー!!」
「当たり前でしょ! 情けなんてかけないでよ! ……アンタには覚悟ってもんがないの? 勝負は非情なのよ!!」
歩は必死の形相で道人を睨みつけ、なんとか小麦粉から抜けだそうと力を込める。
「そう……分かった。ブレイク・フリー!!」
トコトコトコトコトコ
トコトコトコトコトコトコトコ
トコトコトコトコトコトコトコ
軽快なラッシュが歩に叩きつけられ、小麦粉の山からすっ飛んでいく。
ブレイク・フリーの能力によって、「束縛」が解除されたためだ。
ブレイク・フリーの能力によって、「束縛」が解除されたためだ。
「……アンタ、どういうつもり?」
しかし、歩にダメージは殆どない。
「わざと手加減したの……? 情けはかけないでって言ったでしょ!」
しかし、歩にダメージは殆どない。
「わざと手加減したの……? 情けはかけないでって言ったでしょ!」
「……それはお互い様じゃない?」
「え……?」
「確かに、君のやり方は非情だった……でも、とどめを刺そうとしたとき一瞬戸惑ったよね? もし、君が本気だったら僕は今ごろこの世にはいない」
「……それは」
「僕のスタンド、ブレイク・フリーの能力は束縛を解除し、秘められたものを解き放つこと……」
そう言うと、道人は歩に背を向けて歩き始める。
「もし非情な闘いを続けたかったら、いいよ……僕の背後を襲っても」
道人は一度立ち止まり、顔だけで振り向いて言葉を続ける。
道人は一度立ち止まり、顔だけで振り向いて言葉を続ける。
「僕は君の本心を信じる……」
「私は……」
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「お゛めぇーの席ね゛ぇーがら!!」
あの一言が私の運命を狂わせた。
始めは確かに些細な冗談だったのかもしれない……
でも、皆が皆がそれを冗談だと受け取ったわけでもなかった。
それは私自身も同様で、それが反って「ノリが悪い」と取られ、いじめはエスカレートしていった。
突然目覚めた私のスタンドは、この運命を変えるための力……
突然招待されたこのトーナメントは、私が覚悟を決めるためのチャンス……
ずっと、そう思っていた。
そう頑なに思い込むことでしか、私は前に進めなかった。
始めは確かに些細な冗談だったのかもしれない……
でも、皆が皆がそれを冗談だと受け取ったわけでもなかった。
それは私自身も同様で、それが反って「ノリが悪い」と取られ、いじめはエスカレートしていった。
突然目覚めた私のスタンドは、この運命を変えるための力……
突然招待されたこのトーナメントは、私が覚悟を決めるためのチャンス……
ずっと、そう思っていた。
そう頑なに思い込むことでしか、私は前に進めなかった。
「……私の負けね」
でも、彼が教えて……いや、解き放ってくれた。
歪んだ覚悟に束縛されていた私の本心を……
そう、壊す以外にも道はある。
歪んだ覚悟に束縛されていた私の本心を……
そう、壊す以外にも道はある。
「ねぇ……貴方、名前は?」
「ミチト……相羽道人」
少女の問いに背を向けたまま答え、道人はその場を後にした。
★勝者:
本体名 相羽 道人
スタンド名『ブレイク・フリー』
スタンド名『ブレイク・フリー』