蒸し暑い夜の公園に少女の悲鳴が響いていた。
「やめて!離して!……痛っ!」悲鳴を上げていた少女は突然腹部に出来た切り傷を押さえうずくまった。
うずくまる少女の前には浴衣を着た男が一人立っていた。
「あんまり騒がしくしないで欲しいなぁ。誰かが来ちゃったらどうするのさ。」男が迷惑そうに言った。
「な、なんで…?なんでこんなことするの?」痛みと恐怖で涙を流す少女の問いに男は軽く答えた。
「やりたいから。」その言葉を放った顔を見た瞬間、少女の心は凍りついた。
(違う…、コイツと私は違う。居る“世界”が違う。)
「さてと、そろそろやらせてもらうから。」男の言葉に彼女は震えた。
両親とちょっとした口論の勢いで家を飛び出ただけなのに、少し頭を冷やそうと思ってここに来ただけなのに、なんで自分はこんな目にあってるんだ?
(誰か…助けて。)少女が願った瞬間、大きな衝撃が彼女の意識を奪った。
「………はっ?」いきなり転がった少女の体を見た男は呆然とした。
“穴”が開いていた。大きくはないがいくつもの穴が少女の体に開いていた。口から血を流すその体は動くことはない。
呆然としている男に見知らぬ声が届いた。
「今週はいつもと違うことをすると吉。って言われたからさぁ、“助けて”あげようと思ったんだけどまさかこうなるとはねぇ。
まぁ、君に斬られるよりは一思いに死んじゃった方がマシってことかな?」
彼が声のした方へ向くと一人の男が10m程離れたところに立っていた。
「誰だお前?」
「ふふっ、殺人鬼だよ。君は切り裂き魔ってとこかな?」彼の問いに男が答える。
「今、切り裂き魔って呼んだな。つまりお前はこいつらが見えるんだな。」彼は自分の周りを泳ぐ“4本のナイフ”を指した。
「ああ、見えてるよ。」己を殺人鬼と呼ぶ男が答えた。
「見えてて俺のエモノをやっちゃったわけだ。」
「そういうことだね。でも“この程度”で僕にソレを向けるのはやめてくれないか?」
「いや、ダメだね。俺は一つ一つの出会いを大事にしたいんだ。だから……“FISH”。」
切り裂き魔の声に反応し4本のナイフの内2本が殺人鬼へ殺到する。
「(これはマズいな…。)…“ジ・エンドォ”!」殺人鬼が叫んだ。
次の瞬間、殺人鬼はその場から消え去り、ナイフは虚しく宙を切る。
「なにぃ!?」切り裂き魔が叫ぶ。殺人鬼は先程までの場所から5m程ズレたところに立っていた。その横に立つのは魔王とも呼ぶべき姿をした彼の“能力”。
「弾き飛ばしても良かったんだけど手を斬られたら嫌だからね。」そうに放たれた言葉に切り裂き魔はうめいた。
(奴の能力……瞬間的な高速移動のようなものか。さっきはあの女に向けて何か投げたということか?)
そう推測し、切り裂き魔はどうやって仕留めるか考え行動する。
尚もしつこく自分を狙うナイフをかわしていた殺人鬼は切り裂き魔の姿がないことに気が付いた。
辺りを見回すと別々の方向から新たに2本ナイフが飛び出した。
(なるほど、全てのナイフを僕に向けるために隠れたわけか。)そう思いながらナイフを避けるため能力を発動させる。
が、体が移動しない。
(えっ…?)
戸惑う彼の眼前にナイフが迫っていた。
「…なるほど。“無傷”でかわそうと思ってたからか。」
ギリギリでそれに気が付いたおかげで死ぬことはなかったが彼の体の4箇所から血が流れていた。
「はははっ!遂に浴びさせてもらったぜ!」どこからか声が届いた。
血の付いた4本のナイフが再び彼に襲いかかる。
“出来る限り”無傷でかわす彼はナイフの動きが良くなっていることに気付いた。
(…魚類の中には優れた嗅覚を持つものがいるらしいが、僕の血の匂いを覚えたわけか。)
傷一つ一つは浅いがそれでも消耗する。そうなればスタンドの方にも影響がでる。
(このままだとやられる。)そう思い額の汗を拭う彼はふと気が付く。
(これは…?汗じゃない、水?)彼はかわしながら考える。
(そういえばさっき“浴びた”とか言ってたな。もしかしたら…。)
隠れて戦況をうかがっていた男は先程よりも大きく移動したのを見てほくそ笑んだ。
なぜなら移動したさきにあるのは無様に転がり地に伏した姿だったからだ。
(そろそろ限界ってとこかぁ!?)
自分の獲物を“横取り”した男に最期の攻撃を加えるため彼は叫んだ。
「終わりだぁ!やれぇ、“FISHゥ”!」
4方向から突っ込んでくるナイフを見た殺人鬼は笑った。笑って己のスタンドを動かした。
「“終わらせる”のは僕のスタンドだ。」
彼の移動した場所、そこは砂場だった。その砂が何の前触れもなくナイフに向けて“吹き飛んだ”。
砂の津波に呑み込まれたナイフはその表面を強烈な摩擦で拭いさられた。
力なく地面に落ちる“FISH”を見た男は青ざめた。
(アイツ最初からこれを狙って!マズイ。とてつもなくマズイ!)
あわてて逃げようとする男に声がかかる。
「さて、終わりにしようか。」
その言葉を最後に闘いは終わった。
「あー疲れた。帰ろ。」
ぐちゃぐちゃになった男の体の前でそう呟くと、闘いの痕跡をそのままに公園を出ていった。
数分後、娘を心配してさがしに来た両親の通報によってこの公園は事件現場となった。
そしてまだ“息がある”少女は病院に運ばれ九死に一生を得ることとなった。
目を開けると白い天井が見えた。次に泣きながら自分に抱きつく両親の姿が映った。
(…あ、れ?)
少女はとびとびの記憶に戸惑ったが、自分が“帰ってこれた”ことを理解し安堵の涙を流した。
END
使用させていただいたスタンド
No.638 | |
【スタンド名】 | ジ・エンド |
【本体】 | 殺人鬼 |
【能力】 | 本体が行おうとした行動を「終わらせる」 |
No.1158 | |
【スタンド名】 | FISH |
【本体】 | 切り裂き魔 |
【能力】 | 液体を付着させると魚のように宙を泳ぎだす |
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