バイクで西に走った方向にそれはあった。
ガラスの窓からは、その女性が見える。
上の看板には『アンティークショップ・美紗里』とある。
凜とライカはバイクを店の前に置き、入口のドアを開けた。
『いらっしゃいませ』
入り口近くの陳列棚に後ろ手をついた女性が凛に挨拶をする。
一房の紫色の髪で片目を隠した女性。凛に星晶石を渡した張本人、ミザリィだ。
店内では凜にアビーと紹介された少女が品物の手入れをしている。凜たちに気づいたアビーはミザリィに遅れていらっしゃいませとあいさつした。
ガラスの窓からは、その女性が見える。
上の看板には『アンティークショップ・美紗里』とある。
凜とライカはバイクを店の前に置き、入口のドアを開けた。
『いらっしゃいませ』
入り口近くの陳列棚に後ろ手をついた女性が凛に挨拶をする。
一房の紫色の髪で片目を隠した女性。凛に星晶石を渡した張本人、ミザリィだ。
店内では凜にアビーと紹介された少女が品物の手入れをしている。凜たちに気づいたアビーはミザリィに遅れていらっしゃいませとあいさつした。
『何をお求めですか?』
凜の事をまるで初めて会ったかのように話しかけた。
「何をじゃないわよ! 何よ、あの石! こんなところに呼び出されてどこが素敵な出来事なのよ!」
凜はミザリィに対し怒鳴りつけた。
『お客じゃないの? あら、それじゃあ何も話すことは無いわね』
ミザリィは凜に対しそっぽを向いた。
『ここはアンティークショップよ。冷やかしはお断り。何か買ってもらわないと、ね』
切れ長の目でミザリィは、凜を見つめる。
『実はあなたが聖杯戦争のマスターとしては初の来客なの。お安くしておくわよ』
添い言ってミザリィは店内に手を広げた。
凜の事をまるで初めて会ったかのように話しかけた。
「何をじゃないわよ! 何よ、あの石! こんなところに呼び出されてどこが素敵な出来事なのよ!」
凜はミザリィに対し怒鳴りつけた。
『お客じゃないの? あら、それじゃあ何も話すことは無いわね』
ミザリィは凜に対しそっぽを向いた。
『ここはアンティークショップよ。冷やかしはお断り。何か買ってもらわないと、ね』
切れ長の目でミザリィは、凜を見つめる。
『実はあなたが聖杯戦争のマスターとしては初の来客なの。お安くしておくわよ』
添い言ってミザリィは店内に手を広げた。
やっぱりこのミザリィはあの時あったミザリィだ。ため息をつき、凜は店内にある商品を眺める。
壁に立てかけてあるのは琥珀色のバイオリン、様々な地域から集められたと思われる仮面、同じく人形、幻惑を誘う色彩で描かれた絵画など。
棚の上や中ににあるのは薔薇の意匠のティーセット、懐中時計、緻密なデザインの皿や壺、ワイングラス、柄がチョウザメの彫刻で出来た金のスプーンセットなどだ。
その中でひときわ目立つ一対の絵画がある。かなり大きな絵だ。両方とも狼の姿を描いている。
左の一つは茂みの中で眠る狼の姿。伏せて眠るその姿は写実的で、狼の安息が伝わってくる。
右の一つは雪原の中で数匹の狼が戯れている。中央には人間の頭蓋骨をかじる狼が絵を見るこちらに向けて歯をむき出しにしている。その表情は実にリアリティあふれている。
絵の良しあしなど分からない凜でも、この2つの絵が写実的で、何らかのメッセージを強く訴えていることは分かった。
壁に立てかけてあるのは琥珀色のバイオリン、様々な地域から集められたと思われる仮面、同じく人形、幻惑を誘う色彩で描かれた絵画など。
棚の上や中ににあるのは薔薇の意匠のティーセット、懐中時計、緻密なデザインの皿や壺、ワイングラス、柄がチョウザメの彫刻で出来た金のスプーンセットなどだ。
その中でひときわ目立つ一対の絵画がある。かなり大きな絵だ。両方とも狼の姿を描いている。
左の一つは茂みの中で眠る狼の姿。伏せて眠るその姿は写実的で、狼の安息が伝わってくる。
右の一つは雪原の中で数匹の狼が戯れている。中央には人間の頭蓋骨をかじる狼が絵を見るこちらに向けて歯をむき出しにしている。その表情は実にリアリティあふれている。
絵の良しあしなど分からない凜でも、この2つの絵が写実的で、何らかのメッセージを強く訴えていることは分かった。
『この絵は売り物じゃないわ』
興味深げに絵を見る凜に、ミザリィは後ろから話しかけた。
『この二つの絵の作者はアーネスト・トンプソン・シートン。題名は左が『眠れるオオカミ』。右が『オオカミの勝利』よ』
「シートンって『動物記』の? 絵も描いていたの?」
『シートンは画家であり、優れた猟師でもあり、作家でもあり、博物学者でもあったの。
それらをナチュラリストという自然を観察、研究し親しむ生活スタイルを基本として、全てを総合する生き方を確立した人間だったのよ』
解説しながら、ミザリィは凜の隣に並んだ。
『シートンはパリの画壇に『眠れるオオカミ』を発表して入選。翌年、今度はより自信をもって『オオカミの勝利』を発表したけど、こちらは落選した。
これでシートンはパリの画壇に失望し、フランスを去る決心をしたわ。
もし、落選の理由が技術的なものだったなら、シートンは残念には思っても納得はしたでしょうね。
でも、理由はこうだったの』
ミザリィは絵の中央、人の頭蓋骨を齧る狼を指差した。
『『魂の無い野生動物、オオカミの犠牲者として、魂を持つ人間を描くことは神が支配者ではないと主張するに等しい。すなわち異端であるシートンの作品は絶対に受け入れる事は出来ない』。
野生の精神の高揚、尊さ、誇り高さを伝えようとしたシートンに対し、人間中心主義を突きつけられたシートンは、最早自分はここに居場所は無いと失望し、パリを去った。
それから一年後、シートンは自分の身をもって野生の強靭さ、知恵と勇気、深い愛情と気高き誇りを学ぶことになるのよ』
「……狼王ロボね」
凜はつぶやいた。その話は『動物記』の第1話で書かれている。ロボとそれを追うシートンの偉大な激闘が。
興味深げに絵を見る凜に、ミザリィは後ろから話しかけた。
『この二つの絵の作者はアーネスト・トンプソン・シートン。題名は左が『眠れるオオカミ』。右が『オオカミの勝利』よ』
「シートンって『動物記』の? 絵も描いていたの?」
『シートンは画家であり、優れた猟師でもあり、作家でもあり、博物学者でもあったの。
それらをナチュラリストという自然を観察、研究し親しむ生活スタイルを基本として、全てを総合する生き方を確立した人間だったのよ』
解説しながら、ミザリィは凜の隣に並んだ。
『シートンはパリの画壇に『眠れるオオカミ』を発表して入選。翌年、今度はより自信をもって『オオカミの勝利』を発表したけど、こちらは落選した。
これでシートンはパリの画壇に失望し、フランスを去る決心をしたわ。
もし、落選の理由が技術的なものだったなら、シートンは残念には思っても納得はしたでしょうね。
でも、理由はこうだったの』
ミザリィは絵の中央、人の頭蓋骨を齧る狼を指差した。
『『魂の無い野生動物、オオカミの犠牲者として、魂を持つ人間を描くことは神が支配者ではないと主張するに等しい。すなわち異端であるシートンの作品は絶対に受け入れる事は出来ない』。
野生の精神の高揚、尊さ、誇り高さを伝えようとしたシートンに対し、人間中心主義を突きつけられたシートンは、最早自分はここに居場所は無いと失望し、パリを去った。
それから一年後、シートンは自分の身をもって野生の強靭さ、知恵と勇気、深い愛情と気高き誇りを学ぶことになるのよ』
「……狼王ロボね」
凜はつぶやいた。その話は『動物記』の第1話で書かれている。ロボとそれを追うシートンの偉大な激闘が。
ふと、凜は気づいた。好奇心旺盛なライカがなぜかここではおとなしくしていることに。
後ろを見るとライカは腕を組み、絵をじっと見つめている。
『気に入った?』
「……生前はオオカミと関わりが深かったからな」
ライカはまるで敵でも見るような目で絵とミザリィを見詰めていた。
凜はそのライカの姿を見てはっとし、改めてアビーを見た。そうだ、アビーから感じる魔力、そして気配はライカと同じ。アビーはサーヴァントだ。
という事は、ミザリィもマスターという事になる。興奮のあまりうっかりしていたが、ここは敵地だ。うかうかと乗り込んでしまったこの状況でライカが警戒するのは当然だ。
『安心なさい。確かに私もマスターだけどここで襲う気はないから。今の私はアンティークショップの店長だし、なによりここではおとなしいのよ」
言葉だけで信用するほど凜もライカも甘くはない。改めて凜は気を引き締めた。
『さて、情報を得たいのなら、さっき言った通り何か買ってもらわないとね』
そう言ってミザリィは、二組のティーカップと皿、そしてティーポットを棚から取り出した。
『これはどうかしら? マイセン磁器のティーポットセットよ。初めてのお客だし勉強しておくわ』
凜は眉をひそめた。芸術品に縁のない凜でも、透き通るような白い地肌と精緻な絵柄で高価な品だとわかる。
『本当は100万QPだけど、1000QPにまけておくわよ、どう?』
凜は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
「そんな出鱈目な売り方で商売成り立つの?」
『私はあなたが気に入っているの。他のマスター……そうね、下衆な連中ならもっとふんだくるつもりよ』
気が抜けた凜はアビーが持ってきた椅子に腰かけ、他のミザリィとアビーとライカを含め4人で円を囲んで座った。
後ろを見るとライカは腕を組み、絵をじっと見つめている。
『気に入った?』
「……生前はオオカミと関わりが深かったからな」
ライカはまるで敵でも見るような目で絵とミザリィを見詰めていた。
凜はそのライカの姿を見てはっとし、改めてアビーを見た。そうだ、アビーから感じる魔力、そして気配はライカと同じ。アビーはサーヴァントだ。
という事は、ミザリィもマスターという事になる。興奮のあまりうっかりしていたが、ここは敵地だ。うかうかと乗り込んでしまったこの状況でライカが警戒するのは当然だ。
『安心なさい。確かに私もマスターだけどここで襲う気はないから。今の私はアンティークショップの店長だし、なによりここではおとなしいのよ」
言葉だけで信用するほど凜もライカも甘くはない。改めて凜は気を引き締めた。
『さて、情報を得たいのなら、さっき言った通り何か買ってもらわないとね』
そう言ってミザリィは、二組のティーカップと皿、そしてティーポットを棚から取り出した。
『これはどうかしら? マイセン磁器のティーポットセットよ。初めてのお客だし勉強しておくわ』
凜は眉をひそめた。芸術品に縁のない凜でも、透き通るような白い地肌と精緻な絵柄で高価な品だとわかる。
『本当は100万QPだけど、1000QPにまけておくわよ、どう?』
凜は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
「そんな出鱈目な売り方で商売成り立つの?」
『私はあなたが気に入っているの。他のマスター……そうね、下衆な連中ならもっとふんだくるつもりよ』
気が抜けた凜はアビーが持ってきた椅子に腰かけ、他のミザリィとアビーとライカを含め4人で円を囲んで座った。
「それじゃあ、まずあの石について教えて」
凜は対面になったミザリィに問いかけた。
『あれは正確には『聖晶石』と言って、サーヴァントとの絆を結ぶために必要な『セイントグラフ』を召喚するためのものよ。
セイントグラフを召喚できた時点で、自動的にあなたも体験した予選へと転送される仕組みになっているわ』
凜は思い出していた。ムーンセルにアクセスする直前、その聖晶石を握りしめていたことを。
『聖晶石はこの聖杯戦争を企画した『主催者』が生み出したものよ。それを書く平行世界、多元宇宙へとばらまいたの。
私が渡しているのはその一部で、善悪問わず私が面白いと感じた人間に対して預けているの。他にばら撒かれたものが誰の手に渡るかは私も知らないわ」
「主催者? それって何者?」
『それは答えられないわ。あなたが『楽園』にたどり着けば分かるわよ』
「あなたはその正体を知ってる?」
『私は知っているし話もしているわ。だけど答えられない』
「……じゃあそれはいいとして、他に聖杯戦争について、知っていることある?」
『聖杯戦争に関してだけど、この聖杯戦争の勝利条件はあなたが参加する予定だったムーンセルと違って『令呪を持ったマスターが最後の一人になった時点』よ。
その段階でのマスター、サーヴァントの生死は関係ないわ。必ずマスターを殺す必要はないの。
令呪を失った時点で願いを叶える資格は失うけど、令呪を奪えば復帰できる。さらに奪い続ければ各マスターに与えられた三つ以上に総数が増えるわ。
極端に言えば、無理やり令呪を奪うか消すか、または使わせるかすれば誰一人殺さずに勝利することも可能なのよ』
あの神父、これを聞けば人殺しをしたくないマスターも参加する気になるかもしれないことが分かっていた上であえて私には伝えなかったな。凜は内心で悪態をついた。
「……そんな甘い考えで生き残れるわけないでしょ。もともと私が参加する予定だった聖杯戦争は聖杯を手にしたたった一人だけが戻れ、それ以外は全員死ぬ戦い。
私はいざとなればだれであろうと殺すわ。セイバー、あなたもそうでしょう?」
「……ああ、その通りだ」
凜とライカは鋭い目つきでミザリィを睨んだ。
『……あなたは物語でバッドエンドとハッピーエンド、どっちが好き?』
ミザリィはそれを受け流し、奇妙な質問をした。
「はあ?」
と、あっけにとられる凜。
『私はハッピーエンドが好きよ。それも何か不思議な力でめでたしめでたしのようなデウス・エクス・マキナじゃない。ただの人間が知恵と勇気を振り絞って無敵の相手に一杯食わせる、そんなハッピーエンドが好きなの。
善良な主人公が、最後に無意味で悲惨な結末を迎える物語なんて大嫌いだわ』
ミザリィは妖艶な笑みを浮かべて手を振った。
『貴方達が聖杯を巡り戦うのなら、私は自分から干渉しない。最後の一人になったらそのマスターに令呪を譲って『楽園』への道を開くつもりよ。余程下碑た欲望でない限りね。
でも、もし貴方たちが私にも分からない『主催者』の奥にいる存在するかもわからない『黒幕』『ゲームマスター』の存在を暴こうとし、真実に辿り着きたい、そんなマスター達だけで揃ったなら……私は貴女たちの味方になるわ。
そして貴女達が私を攻撃するなら敵になる。それだけよ』
一気に言ったミザリィの発言の後、部屋は沈黙が支配した。
「……私は、聖杯を望んでいる」
凜が静寂を破り話した。
『そうね』
「でも、あなたと戦う気は無いわ」
凜とライカは立ち上がった。これ以上の情報は得られないだろう。あとは自分たちで調べるしかない。凜はミザリィが袋に入れたティーポットセットを手にし出口に向かった。
「出る前に一つだけ聞くけど、あなたは……いったい何者?」
『私は異世界(アウターゾーン)への案内人(ストーカー)。今はこの聖杯戦争の案内人でマスター。それ以上でもそれ以外でもないわ』
ドアを開け、店を出ようとする二人の背に、ミザリィの声がかけられた。
『アンティークショップ・美紗里は、アンティークグッズ、各魔術礼装、コードキャスト、その他オカルトグッズを取り扱っております。
ご用があればいつでもお越しください。ひやかしはお断りですので念のため。
もし戦いたいのならば、いつでも私とそのサーヴァントがおもてなし致します』
凜は対面になったミザリィに問いかけた。
『あれは正確には『聖晶石』と言って、サーヴァントとの絆を結ぶために必要な『セイントグラフ』を召喚するためのものよ。
セイントグラフを召喚できた時点で、自動的にあなたも体験した予選へと転送される仕組みになっているわ』
凜は思い出していた。ムーンセルにアクセスする直前、その聖晶石を握りしめていたことを。
『聖晶石はこの聖杯戦争を企画した『主催者』が生み出したものよ。それを書く平行世界、多元宇宙へとばらまいたの。
私が渡しているのはその一部で、善悪問わず私が面白いと感じた人間に対して預けているの。他にばら撒かれたものが誰の手に渡るかは私も知らないわ」
「主催者? それって何者?」
『それは答えられないわ。あなたが『楽園』にたどり着けば分かるわよ』
「あなたはその正体を知ってる?」
『私は知っているし話もしているわ。だけど答えられない』
「……じゃあそれはいいとして、他に聖杯戦争について、知っていることある?」
『聖杯戦争に関してだけど、この聖杯戦争の勝利条件はあなたが参加する予定だったムーンセルと違って『令呪を持ったマスターが最後の一人になった時点』よ。
その段階でのマスター、サーヴァントの生死は関係ないわ。必ずマスターを殺す必要はないの。
令呪を失った時点で願いを叶える資格は失うけど、令呪を奪えば復帰できる。さらに奪い続ければ各マスターに与えられた三つ以上に総数が増えるわ。
極端に言えば、無理やり令呪を奪うか消すか、または使わせるかすれば誰一人殺さずに勝利することも可能なのよ』
あの神父、これを聞けば人殺しをしたくないマスターも参加する気になるかもしれないことが分かっていた上であえて私には伝えなかったな。凜は内心で悪態をついた。
「……そんな甘い考えで生き残れるわけないでしょ。もともと私が参加する予定だった聖杯戦争は聖杯を手にしたたった一人だけが戻れ、それ以外は全員死ぬ戦い。
私はいざとなればだれであろうと殺すわ。セイバー、あなたもそうでしょう?」
「……ああ、その通りだ」
凜とライカは鋭い目つきでミザリィを睨んだ。
『……あなたは物語でバッドエンドとハッピーエンド、どっちが好き?』
ミザリィはそれを受け流し、奇妙な質問をした。
「はあ?」
と、あっけにとられる凜。
『私はハッピーエンドが好きよ。それも何か不思議な力でめでたしめでたしのようなデウス・エクス・マキナじゃない。ただの人間が知恵と勇気を振り絞って無敵の相手に一杯食わせる、そんなハッピーエンドが好きなの。
善良な主人公が、最後に無意味で悲惨な結末を迎える物語なんて大嫌いだわ』
ミザリィは妖艶な笑みを浮かべて手を振った。
『貴方達が聖杯を巡り戦うのなら、私は自分から干渉しない。最後の一人になったらそのマスターに令呪を譲って『楽園』への道を開くつもりよ。余程下碑た欲望でない限りね。
でも、もし貴方たちが私にも分からない『主催者』の奥にいる存在するかもわからない『黒幕』『ゲームマスター』の存在を暴こうとし、真実に辿り着きたい、そんなマスター達だけで揃ったなら……私は貴女たちの味方になるわ。
そして貴女達が私を攻撃するなら敵になる。それだけよ』
一気に言ったミザリィの発言の後、部屋は沈黙が支配した。
「……私は、聖杯を望んでいる」
凜が静寂を破り話した。
『そうね』
「でも、あなたと戦う気は無いわ」
凜とライカは立ち上がった。これ以上の情報は得られないだろう。あとは自分たちで調べるしかない。凜はミザリィが袋に入れたティーポットセットを手にし出口に向かった。
「出る前に一つだけ聞くけど、あなたは……いったい何者?」
『私は異世界(アウターゾーン)への案内人(ストーカー)。今はこの聖杯戦争の案内人でマスター。それ以上でもそれ以外でもないわ』
ドアを開け、店を出ようとする二人の背に、ミザリィの声がかけられた。
『アンティークショップ・美紗里は、アンティークグッズ、各魔術礼装、コードキャスト、その他オカルトグッズを取り扱っております。
ご用があればいつでもお越しください。ひやかしはお断りですので念のため。
もし戦いたいのならば、いつでも私とそのサーヴァントがおもてなし致します』