「Not human」(前編) ◆vNS4zIhcRM
「リザードン! 何でもいいから何とかしなさい!」
「ヴォオオオオォォォォォォッ!!」
「ヴォオオオオォォォォォォッ!!」
未だ光が差すには遠い校舎の中、一人の女性――弥海砂は必死で逃げていた。
手に入れたばかりのリザードンに適当に攻撃を命じはするものの、戦うのではなく逃げるのみ。
元々体力に自信があるわけでもなく、地理にも不案内な薄暗い校舎の中、逃げる速度は遅い。
手に入れたばかりのリザードンに適当に攻撃を命じはするものの、戦うのではなく逃げるのみ。
元々体力に自信があるわけでもなく、地理にも不案内な薄暗い校舎の中、逃げる速度は遅い。
(何よアレ!)
スピーカーによるおびき寄せを行ってから、どれくらいたっただろうか。
誰かが来るのを見えるようにと上階の教室に陣取り、校門の方を眺めて待つことにした。
10分、20分と時間が過ぎ、もしかするとこのまま誰も来ないのではないかという危惧を抱いた頃、突如としてそれは現れた。
教室の入り口から入ってきたそれは、海砂には最初、死神に見えた。
人型でありながら、人とは明らかに異なる形状に、死神の目に映らぬ名前と寿命。
とっさに何て声を掛けようか迷う海砂を他所に、それは言葉を発した。
誰かが来るのを見えるようにと上階の教室に陣取り、校門の方を眺めて待つことにした。
10分、20分と時間が過ぎ、もしかするとこのまま誰も来ないのではないかという危惧を抱いた頃、突如としてそれは現れた。
教室の入り口から入ってきたそれは、海砂には最初、死神に見えた。
人型でありながら、人とは明らかに異なる形状に、死神の目に映らぬ名前と寿命。
とっさに何て声を掛けようか迷う海砂を他所に、それは言葉を発した。
「何故殺した……?」
言葉そのものは冷静だが隠し切れぬ怒気を秘めたその言葉と、続けて放たれた謎のエネルギー弾を見て、海砂は咄嗟に教室から逃げだした。
そうして、海砂は薄暗い校舎の中で追いかけっこをする羽目になっている。
あの生き物がどうしてあんな事を言ったのかわからないが、その事を考えている暇もなく、必死で逃げる。
リザードンやサイドンが戦うのはいいが、海砂自身がそれに巻き込まれるのは御免だから、とにかく距離を取るために。
だが、どういう訳か逃げ切れない。
海砂の速度は決して速いものではないが、それでも歩きである謎の生き物に比べれば僅かには速いはずなのに、まるで足音は離れない。
また、隠れたとしてもリザードンが追い払うべく攻撃するのを見て再び逃げざるを得ず、休む暇すらない。
どういうわけか謎の生物のほうは最初の攻撃以降は攻撃はしてこないが、それでも闇の中をどこまでも追撃してくる異形の影というのはそれだけで恐怖を煽る。
しばらくの間校舎内を上り下りし撒こうとしていた海砂だったが、ついに校舎から逃げ出す事を決意した。
だだっ広い場所というのは逃げるのには向かないが、それでも空を飛べるリザードンなら今以上に活躍できるだろうしサイドンも同時に使える。
そうして、海砂は昇降口から校庭へと出、逃げ場も考え横の森のほうに向かう。 それが「彼」の狙いだとも知らずに。
そうして、海砂は薄暗い校舎の中で追いかけっこをする羽目になっている。
あの生き物がどうしてあんな事を言ったのかわからないが、その事を考えている暇もなく、必死で逃げる。
リザードンやサイドンが戦うのはいいが、海砂自身がそれに巻き込まれるのは御免だから、とにかく距離を取るために。
だが、どういう訳か逃げ切れない。
海砂の速度は決して速いものではないが、それでも歩きである謎の生き物に比べれば僅かには速いはずなのに、まるで足音は離れない。
また、隠れたとしてもリザードンが追い払うべく攻撃するのを見て再び逃げざるを得ず、休む暇すらない。
どういうわけか謎の生物のほうは最初の攻撃以降は攻撃はしてこないが、それでも闇の中をどこまでも追撃してくる異形の影というのはそれだけで恐怖を煽る。
しばらくの間校舎内を上り下りし撒こうとしていた海砂だったが、ついに校舎から逃げ出す事を決意した。
だだっ広い場所というのは逃げるのには向かないが、それでも空を飛べるリザードンなら今以上に活躍できるだろうしサイドンも同時に使える。
そうして、海砂は昇降口から校庭へと出、逃げ場も考え横の森のほうに向かう。 それが「彼」の狙いだとも知らずに。
「ヴォオオオオォォォォォォッ!!」
「あ、こら!」
「あ、こら!」
どうにか距離を開け、いざサイドンを出して戦おうと考えたところで、血気に逸ったのかリザードンが突撃を仕掛ける。
その攻撃自体は海砂も知っている、先ほどサイドンを倒したおそらくはリザードンの切り札的なものなのだろうが、状況が悪い。
広い場所に出たために動き自体が丸見えなリザードンの地球投げは、相手に届く前に謎のエネルギー弾によって迎撃され、もとより消耗していたリザードンは戦闘不能となる。
その攻撃自体は海砂も知っている、先ほどサイドンを倒したおそらくはリザードンの切り札的なものなのだろうが、状況が悪い。
広い場所に出たために動き自体が丸見えなリザードンの地球投げは、相手に届く前に謎のエネルギー弾によって迎撃され、もとより消耗していたリザードンは戦闘不能となる。
「ち、ちょっと」
あまりの事に唖然とする海砂は少しの間呆然としてしまい、次の行動を取るのが遅れた。
突如として早い動きで飛び掛ってきた怪生物を前に、リザードンのボールは落としてしまい、サイドンを取り出す事も叶わない。
顔の前に突き出された、指が3本しかない手を呆然と眺めることしかできなくなった。
突如として早い動きで飛び掛ってきた怪生物を前に、リザードンのボールは落としてしまい、サイドンを取り出す事も叶わない。
顔の前に突き出された、指が3本しかない手を呆然と眺めることしかできなくなった。
「ヴ、ヴォ…………」
「……ああ、わかっている」
「……ああ、わかっている」
1分、2分程度の時間が流れただろうか。
目の前に銃口を突きつけられたも同然な状況な海砂にはもっと長い時間に感じられたが、その静寂を打ち破ったのは倒れたまま放置されているリザードンだった。
力尽きているため苦しそうにしながら、それでいて恐らくは確かな意思を込めた声を上げ、それを聞き怪生物は動き出す。
目の前に銃口を突きつけられたも同然な状況な海砂にはもっと長い時間に感じられたが、その静寂を打ち破ったのは倒れたまま放置されているリザードンだった。
力尽きているため苦しそうにしながら、それでいて恐らくは確かな意思を込めた声を上げ、それを聞き怪生物は動き出す。
「……お前が、あの少年を殺したのだな」
注意深く海砂の全身を見通し、突きつけた右手は動かす事はなく、海砂に問い――尋問を行う。
すでに判っていること、確認にして証拠を突きつける行為。
だが、その言葉に海砂の表情は一瞬変わる。
先ほども聞かれたが、何故そのことがバレたのかと。
仮に、海砂に会うよりも先にあの少年の死体を見つけてたとしても、その犯人が海砂と結びつく理由は無いはずだと。
すでに判っていること、確認にして証拠を突きつける行為。
だが、その言葉に海砂の表情は一瞬変わる。
先ほども聞かれたが、何故そのことがバレたのかと。
仮に、海砂に会うよりも先にあの少年の死体を見つけてたとしても、その犯人が海砂と結びつく理由は無いはずだと。
「な、何のこと……わ、私はただ襲われて、それで逃げていたところであなたが」
「その言葉は偽りだ。 リザードンは叫んでいた、お前が彼を……リザードンの持ち主を殺したのだと」
「その言葉は偽りだ。 リザードンは叫んでいた、お前が彼を……リザードンの持ち主を殺したのだと」
その言葉で、今度こそ海砂の顔に隠しようの無い驚愕が浮かぶ。
放送の時にリザードンが大人しく従っていた理由、そしてこの状況。
その全てが、あの道具程度にしか思っていなかった相手によるものだと判ったから。
怪生物に襲われた時、海砂が最初にリザードンを出したことに特に理由はない。
ただ、先ほどサイドンがリザードンに負けたのだからリザードンの方が強いのだろう、という程度の認識によるもの。
実際にはサイドンの方が上手であり、リザードンが勝てたのは海砂がサイドンの事を知らない事と、サトシとリザードンの絆によるもの。
そして、リザードンには今の主人に尽くすつもりなど毛頭ない。 それどころか、リザードンの方はこれを好機ととらえていた。
見た事のないポケモンだが、それでも何処か信じられる相手に告げる。
自分を倒せと、
自分を操るサトシの仇を討つ手助けをさせろと。
何でもいいからという言葉を幸いと、派手なだけで最初から当たらない攻撃を繰り返し、薄暗い校舎で見失わないように炎を目印として。
決して逃がさぬように海砂をこの校庭まで追い詰めた。
放送の時にリザードンが大人しく従っていた理由、そしてこの状況。
その全てが、あの道具程度にしか思っていなかった相手によるものだと判ったから。
怪生物に襲われた時、海砂が最初にリザードンを出したことに特に理由はない。
ただ、先ほどサイドンがリザードンに負けたのだからリザードンの方が強いのだろう、という程度の認識によるもの。
実際にはサイドンの方が上手であり、リザードンが勝てたのは海砂がサイドンの事を知らない事と、サトシとリザードンの絆によるもの。
そして、リザードンには今の主人に尽くすつもりなど毛頭ない。 それどころか、リザードンの方はこれを好機ととらえていた。
見た事のないポケモンだが、それでも何処か信じられる相手に告げる。
自分を倒せと、
自分を操るサトシの仇を討つ手助けをさせろと。
何でもいいからという言葉を幸いと、派手なだけで最初から当たらない攻撃を繰り返し、薄暗い校舎で見失わないように炎を目印として。
決して逃がさぬように海砂をこの校庭まで追い詰めた。
海砂は、生き物の持つ想いというものを、軽視しすぎた。
□
何を問うべきか。
海砂を前にした怪生物――遺伝子ポケモン・ミュウツーは黙考する。
サトシの遺体を目にした後、海砂の放送を聞いても直にそこへと向かわなかったのには理由がある。
彼は、悩んでいたのだ。
海砂を前にした怪生物――遺伝子ポケモン・ミュウツーは黙考する。
サトシの遺体を目にした後、海砂の放送を聞いても直にそこへと向かわなかったのには理由がある。
彼は、悩んでいたのだ。
サトシの死そのものは悼むべきことであり、どうするかは別にしても彼の仇を探したいと思っていたミュウツーにとって、海砂の元に向かうのは当然のことである。
彼が悩んでいたのは別のこと。 海砂に出会ったとして何をしたいか、である。
サトシの仇であるとはいえ、無条件に殺すつもりなどは無い。 争いには理由があるものだから。
だが海砂の声とともに聞こえたポケモンの、かつて見知ったリザードンの叫びが、ミュウツーを悩ませる。
リザードンの声には、圧倒的な憎しみがこもっていた。
サトシを殺した卑怯者の仇を討ちたいと、そしてそれができない自分の身を呪うと。
彼が悩んでいたのは別のこと。 海砂に出会ったとして何をしたいか、である。
サトシの仇であるとはいえ、無条件に殺すつもりなどは無い。 争いには理由があるものだから。
だが海砂の声とともに聞こえたポケモンの、かつて見知ったリザードンの叫びが、ミュウツーを悩ませる。
リザードンの声には、圧倒的な憎しみがこもっていた。
サトシを殺した卑怯者の仇を討ちたいと、そしてそれができない自分の身を呪うと。
……自分はどう思っているのか。
サトシを殺したとしても、この場は殺し殺される無法の場。
相手にも相手の理があり、元々は善良な人間が仕方なしに殺したという可能性もある。
藤村大河のようにポケモンそのものを知らない人間ならば、ポケモンの戦いはあくまでそれとしてトレーナーを狙うこともあるだろう。
だがサトシの死に様を、かつて知る少年らしさとそれを慕うリザードンの叫びを聞けば、思う。
相手にも相手の理があり、元々は善良な人間が仕方なしに殺したという可能性もある。
藤村大河のようにポケモンそのものを知らない人間ならば、ポケモンの戦いはあくまでそれとしてトレーナーを狙うこともあるだろう。
だがサトシの死に様を、かつて知る少年らしさとそれを慕うリザードンの叫びを聞けば、思う。
殺してしまってもいいのではないか、と。
だから、ミュウツーは時間を置くことにした。
そのまま海砂の前に出れば、リザードンと共に衝動的に海砂を殺しかねないから。
だが海砂を目にした時、偽の助けを求め、サトシを殺したことなど意にも関していないであろう姿を見て、攻撃を仕掛けてしまった。
そして、その後はリザードンの意志に任せるまま海砂を追いかけ、こうして彼女の命をその手に握っている。
そのまま海砂の前に出れば、リザードンと共に衝動的に海砂を殺しかねないから。
だが海砂を目にした時、偽の助けを求め、サトシを殺したことなど意にも関していないであろう姿を見て、攻撃を仕掛けてしまった。
そして、その後はリザードンの意志に任せるまま海砂を追いかけ、こうして彼女の命をその手に握っている。
「……何故、殺した」
搾り出すように、言葉を紡ぐ。
「あの少年には、殺されるような理由は無いはずだ」
サトシがこのような殺し合いなど肯定するはずもない。
ポケモンバトルに勝利したとして、海砂をどうにかしようなどという意思は持ち得ない筈だ。
なのに、何故。
ポケモンバトルに勝利したとして、海砂をどうにかしようなどという意思は持ち得ない筈だ。
なのに、何故。
「……だって、殺し合いだって……なら、殺すしか……」
硬い唾を飲み込みながらも、海砂は答える。
海砂の論理感は、ある意味では崩壊している。
両親を強盗に殺され、自身もストーカーに殺されかけた彼女には命とは酷く軽いものであった。
デスノートを手にした事でその意思はさらに加速し、死神の目をもって生という記号のようにしか思えなくなった。
自分の、月の望むものか、望まないものか。 月の邪魔になるなら、友達であっても殺すことを厭わない彼女にとってみれば、たまたま出会った少年などどうでもいい命でしかない。
海砂の論理感は、ある意味では崩壊している。
両親を強盗に殺され、自身もストーカーに殺されかけた彼女には命とは酷く軽いものであった。
デスノートを手にした事でその意思はさらに加速し、死神の目をもって生という記号のようにしか思えなくなった。
自分の、月の望むものか、望まないものか。 月の邪魔になるなら、友達であっても殺すことを厭わない彼女にとってみれば、たまたま出会った少年などどうでもいい命でしかない。
「人が人を、殺すのか」
「だって、必要ないもの。 月にとっては必要のないもので……」
「だって、必要ないもの。 月にとっては必要のないもので……」
会話している内になんとか隙ができないかと、海砂も答える。
だが、ミュウツーは何か苦悩しつつも、腕も顔も動かす様子は無い。
依然として、海砂の命をいつでも奪える姿勢であった。
だが、ミュウツーは何か苦悩しつつも、腕も顔も動かす様子は無い。
依然として、海砂の命をいつでも奪える姿勢であった。
そう、怪物が、人の命を奪おうとしているようにしか見えない、姿勢のままであったのだ。
「ムッ!?」
ミュウツーは、自分に向かい飛来した幾つかの物体を、咄嗟に左手で打ち落とす。
だがそれは悪手。 飛んできた物体は長い刃物であり、それはミュウツーの左手に深くはないものの傷を与え、その痛みで一瞬ミュウツーの反応が遅れる。
そして、次の瞬間、
だがそれは悪手。 飛んできた物体は長い刃物であり、それはミュウツーの左手に深くはないものの傷を与え、その痛みで一瞬ミュウツーの反応が遅れる。
そして、次の瞬間、
「てやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
刃物の射手と思わしき、青い剣士のような姿の少女が、片手にサーベルを構えてミュウツーへと切り掛かった。
相手が刃物である事を理解したミュウツーは手に生み出したエネルギーを当てて防いではいたが、それでも防ぎきれない。
本来であればその攻撃を少女ごと弾き飛ばせる程度の力はあるミュウツーではあるが、反応が遅いせいで姿勢が悪く、全体重を込めた少女の攻撃にはじき飛ばされる。
本来であればその攻撃を少女ごと弾き飛ばせる程度の力はあるミュウツーではあるが、反応が遅いせいで姿勢が悪く、全体重を込めた少女の攻撃にはじき飛ばされる。
「クッ」
ダメージそのものは相殺したが、それでも海砂からは離されてしまう。
そして、青い少女は海砂を庇うように、ミュウツーとの間に立ちサーベルを構える。
そして、青い少女は海砂を庇うように、ミュウツーとの間に立ちサーベルを構える。
「大丈夫!」
「え、ええ……」
「え、ええ……」
人の戦い方など知らないミュウツーではあるものの、その構えからはそこまでの脅威さは感じられない。
立ち振る舞いなどは、まだ藤村大河のほうが強そうではある。
だがそれらを無視しうる要素、人間のそれとは思えない身体能力を持つ。
サトシらと比べても遥かに高い、ポケモンの中でもかなり高い部類とすら感じさせる。
立ち振る舞いなどは、まだ藤村大河のほうが強そうではある。
だがそれらを無視しうる要素、人間のそれとは思えない身体能力を持つ。
サトシらと比べても遥かに高い、ポケモンの中でもかなり高い部類とすら感じさせる。
「立てる? なら早く逃げて!」
少女は立ちふさがったまま海砂に告げ、海砂も無言で横合いの森のほうに逃げはじめる。
どうやら、海砂が逃げ切るまで立ちふさがるか、それともミュウツーを倒すかするつもりなのだろう。
どうやら、海砂が逃げ切るまで立ちふさがるか、それともミュウツーを倒すかするつもりなのだろう。
「何故だ……」
「え!?…………人間は、殺させない」
「え!?…………人間は、殺させない」
どうして海砂の味方をするのかと問うたミュウツーに、少女は驚きながらも返す。
ミュウツーが海砂の事を殺そうとしていたから、少なくともそう見えたから。
だから少女は海砂を助けた。 それが正しいことだと、疑いもせずに。
ミュウツーが海砂の事を殺そうとしていたから、少なくともそう見えたから。
だから少女は海砂を助けた。 それが正しいことだと、疑いもせずに。
「…………そうか」
ミュウツーは再びエネルギー弾、サイコキネシスを生み出し、少女に放つ。
少女はその攻撃を横合いに避け、再びミュウツーに切り掛かろうとするが、そこにサイコキネシスを続けざまに放たれ、逃げ続けることを余技なくされる。
少女は、間違いなく善良な部類の人間だ。 あるいはサトシに並ぶと思えるほどに。
何らかの不可思議な能力を持っているとはいえ、見ず知らずの少女を助けに見知らぬポケモンと――見たことのない生き物と戦おうと考えるなど普通ではない。
だが、そんな善良な少女がミュウツーを敵と見て、サトシを殺した海砂を助けようとしている。
その事に、苛立ちを覚える。
少女はその攻撃を横合いに避け、再びミュウツーに切り掛かろうとするが、そこにサイコキネシスを続けざまに放たれ、逃げ続けることを余技なくされる。
少女は、間違いなく善良な部類の人間だ。 あるいはサトシに並ぶと思えるほどに。
何らかの不可思議な能力を持っているとはいえ、見ず知らずの少女を助けに見知らぬポケモンと――見たことのない生き物と戦おうと考えるなど普通ではない。
だが、そんな善良な少女がミュウツーを敵と見て、サトシを殺した海砂を助けようとしている。
その事に、苛立ちを覚える。
「ハァッ!!」
「っ!? 危ない! 避けて!」
「えっ、キャァ!!」
「っ!? 危ない! 避けて!」
「えっ、キャァ!!」
少女の動きは中々に速く、手心を加えていてどうにか出来る相手ではない。
それでも最終的には勝てるだろうが、それでは海砂に逃げられてしまう。
少女と戦う意味も見出せないミュウツーは、だから海砂自身を狙うことにした。
海砂を動けなくした後に、ゆっくりと話をすれば、恐らくは少女も理解してくれるだろう。
そう考えて、爆風で転んだ海砂に二発目のサイコキネシスを放ち、
それでも最終的には勝てるだろうが、それでは海砂に逃げられてしまう。
少女と戦う意味も見出せないミュウツーは、だから海砂自身を狙うことにした。
海砂を動けなくした後に、ゆっくりと話をすれば、恐らくは少女も理解してくれるだろう。
そう考えて、爆風で転んだ海砂に二発目のサイコキネシスを放ち、
「何!?」
それを、少女は身を挺して庇った。
背中で受ける程度の知識はあるようだが、それでも薄い外套一枚では到底防ぎきれない一撃。
服は所々破け、身体の何箇所かは浅くない怪我を負っているだろう。
それだけのダメージを受けながら、なおもサーベルを杖代わりとし、ミュウツーを遮るようにして立ち上がろうとする。
背中で受ける程度の知識はあるようだが、それでも薄い外套一枚では到底防ぎきれない一撃。
服は所々破け、身体の何箇所かは浅くない怪我を負っているだろう。
それだけのダメージを受けながら、なおもサーベルを杖代わりとし、ミュウツーを遮るようにして立ち上がろうとする。
「やらせ、ない……」
「…………」
「…………」
その姿の前に、ミュウツーはなおも攻撃する意思を見出せなかった。
かなりのダメージを負った少女を倒すのは、恐らく容易いだろう。
だが、そのことに意味は無い。
少女を倒し、その後海砂を捕まえたとして、果たして少女は真実を受け入れてくれるのか。
かといって少女を無視して海砂に向かえば、傷ついた身体もいとわずに戦うと少女の目は告げていた。
かなりのダメージを負った少女を倒すのは、恐らく容易いだろう。
だが、そのことに意味は無い。
少女を倒し、その後海砂を捕まえたとして、果たして少女は真実を受け入れてくれるのか。
かといって少女を無視して海砂に向かえば、傷ついた身体もいとわずに戦うと少女の目は告げていた。
「だ、大丈夫?」
「あ、あたしはいいから早く逃げて」
「あ、あたしはいいから早く逃げて」
これでは、どうしようもない。
海砂は動こうとはしない。 少女から離れればまた攻撃されるかもしれず、さりとて少女に寄り過ぎても巻き添えを食う可能性がある以上、どうにも動けずに半端な位置に留まっている。
少女は動けない。 怪我は決して浅いものではなく、下手に動けばまた海砂が狙われる恐れすらあるのだから。
ミュウツーは動かない。 少女の身体が心配でもあるし、さりとて口を開けば海砂がどう出るかも知れず。
三者三様、動けない理由がある。
だから、この状況を打ち破ったのは、
海砂は動こうとはしない。 少女から離れればまた攻撃されるかもしれず、さりとて少女に寄り過ぎても巻き添えを食う可能性がある以上、どうにも動けずに半端な位置に留まっている。
少女は動けない。 怪我は決して浅いものではなく、下手に動けばまた海砂が狙われる恐れすらあるのだから。
ミュウツーは動かない。 少女の身体が心配でもあるし、さりとて口を開けば海砂がどう出るかも知れず。
三者三様、動けない理由がある。
だから、この状況を打ち破ったのは、
「おりゃああああああ!! 俺様参上ーーーー!!」
新たな乱入者の存在であった。
□
青い魔法少女――美樹さやかが一人で先行していたのには理由はあった。
多少は戦えるとはいえ強くは無いニャースに、ほぼ一般人なゲーチスとC.C.
移動速度の面でも戦闘能力の面でも、危険と思わしき場所に共に向かうのは難しい。
だからこそ、ゲーチスの薦めもあって、さやかは途中から一人アッシュフォード学園へ先行した。
実際その試みは功を奏し、さやかは今まさに怪生物に殺されそうであった女性、弥海砂を助けることが出来た。
だが、今まで戦ったどの魔女よりも、もしかすれば同じ魔法少女である佐倉杏子や巴マミよりも怪生物、ミュウツーは強かった。
遠距離まで及ぶ高い攻撃力と、さやかの攻撃を防ぐ防御力、そして何よりもさやかの実力を見て取ったあとに海砂に標的を変えるという知能を持っていた。
受けたダメージは軽くないものではあったが、高い回復力を持つさやかならばまだ十分に戦えはする。
だが、どうすればいいのか判らなかった。 どういうわけかミュウツーは攻撃してこないが、こちらから動くことも出来ない。
いつものように闇雲に攻撃すれば、海砂が狙われる。
さやかの機動力では海砂を抱えて逃げ切れるとも思わない。
校庭に倒れているポケモンと思わしきオレンジ色の怪獣も、敵か味方かもわからない以上は放置できない。
時間を置いてゲーチスたちを待ったとしても、守るべき対象が増えるだけだ。
多少は戦えるとはいえ強くは無いニャースに、ほぼ一般人なゲーチスとC.C.
移動速度の面でも戦闘能力の面でも、危険と思わしき場所に共に向かうのは難しい。
だからこそ、ゲーチスの薦めもあって、さやかは途中から一人アッシュフォード学園へ先行した。
実際その試みは功を奏し、さやかは今まさに怪生物に殺されそうであった女性、弥海砂を助けることが出来た。
だが、今まで戦ったどの魔女よりも、もしかすれば同じ魔法少女である佐倉杏子や巴マミよりも怪生物、ミュウツーは強かった。
遠距離まで及ぶ高い攻撃力と、さやかの攻撃を防ぐ防御力、そして何よりもさやかの実力を見て取ったあとに海砂に標的を変えるという知能を持っていた。
受けたダメージは軽くないものではあったが、高い回復力を持つさやかならばまだ十分に戦えはする。
だが、どうすればいいのか判らなかった。 どういうわけかミュウツーは攻撃してこないが、こちらから動くことも出来ない。
いつものように闇雲に攻撃すれば、海砂が狙われる。
さやかの機動力では海砂を抱えて逃げ切れるとも思わない。
校庭に倒れているポケモンと思わしきオレンジ色の怪獣も、敵か味方かもわからない以上は放置できない。
時間を置いてゲーチスたちを待ったとしても、守るべき対象が増えるだけだ。
だからこそ、気勢を上げながらミュウツーに突進する灰色の人型の存在は、ありがたかった。
普段のさやかであれば、その姿を見てとっさには味方であるとは思えなかっただろう。
だが、自分たちを助けるように行動する灰怪人と、さらにその後方に見える人影を目にし、さやかは自分も動く事に決めた。
普段のさやかであれば、その姿を見てとっさには味方であるとは思えなかっただろう。
だが、自分たちを助けるように行動する灰怪人と、さらにその後方に見える人影を目にし、さやかは自分も動く事に決めた。
「てやあああああ!!」
やたら大げさな気勢を上げていたが、活躍は最初だけだったようで灰怪人は割とあっさりミュウツーに飛ばされる。
だが、それなりに大きなダメージを受けていた筈のさやかが先ほどと変わらぬ速度で攻撃したことは驚きだったらしく、ミュウツーは距離を置くことを余儀なくされる。
そこに灰怪人の後方、校門の方角から走ってきた人影が、その指先から黒い塊を銃弾の速度で多数打ち出した。
到底避けきること適わぬ密度と速度の攻撃に、ミュウツーはとっさに手に力を集め防ぐが、
だが、それなりに大きなダメージを受けていた筈のさやかが先ほどと変わらぬ速度で攻撃したことは驚きだったらしく、ミュウツーは距離を置くことを余儀なくされる。
そこに灰怪人の後方、校門の方角から走ってきた人影が、その指先から黒い塊を銃弾の速度で多数打ち出した。
到底避けきること適わぬ密度と速度の攻撃に、ミュウツーはとっさに手に力を集め防ぐが、
「ぐおおおお!?」
「あ、あら? 妙に効いてますのね」
「あ、あら? 妙に効いてますのね」
その黒い弾丸は、ミュウツーはおろか放ち手である女性の目算よりも、遥かにミュウツーにダメージを与えていた。
その事に多少戸惑いながらもその金髪縦ロールの女性、は手を銃の形に構えたまま、ミュウツーに向け続ける。
金髪の縦ロール。 さやかの知る巴マミのそれとはまるで比べ物にならないほどに豪奢なその髪型の相手に、さやかは心当たりがあった。
その事に多少戸惑いながらもその金髪縦ロールの女性、は手を銃の形に構えたまま、ミュウツーに向け続ける。
金髪の縦ロール。 さやかの知る巴マミのそれとはまるで比べ物にならないほどに豪奢なその髪型の相手に、さやかは心当たりがあった。
「あなた、ルヴィアさん!?」
「おや、ワタクシを知っているのですか?」
「あたしは美樹さやか! あなたの事はクロちゃんから聞いてるよ!」
「おや、ワタクシを知っているのですか?」
「あたしは美樹さやか! あなたの事はクロちゃんから聞いてるよ!」
クロという少女から話に聞いていた相手、豪奢な縦ロールの魔術師、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。
こんな特徴の相手など他にいないと思ったが、どうやら正解のようだ。
なら、それだけ聞けば充分とさやかはミュウツーのほうに向かいサーベルを構える。
先ほど飛ばされた灰怪人も、ルヴィアが何も言わないのを見てか、起き上がりさやかと同じ方向に向く。
灰怪人が何者なのかさやかにはわからないが、今は味方だと判っていれば充分。
さりげなく背後に隠した海砂を庇うようにしながら、灰怪人と共に構える。
こんな特徴の相手など他にいないと思ったが、どうやら正解のようだ。
なら、それだけ聞けば充分とさやかはミュウツーのほうに向かいサーベルを構える。
先ほど飛ばされた灰怪人も、ルヴィアが何も言わないのを見てか、起き上がりさやかと同じ方向に向く。
灰怪人が何者なのかさやかにはわからないが、今は味方だと判っていれば充分。
さりげなく背後に隠した海砂を庇うようにしながら、灰怪人と共に構える。
「クッ……」
その向かい合う相手、ミュウツーはダメージに顔を僅かに歪めながら、さやか達の方を眺める。
見た目よりも防御が高いのか、それとも己の体力を回復する手段でも所持しているのか、さやかは未だ問題なく動けるようだ。
灰怪人はその頑丈さと力は中々脅威ではあるが、見た目通りの殴り合いしか出来ないようなので単体で見ればそこまでの脅威ではない。
この二人ならともかく、もう一人。 後衛の位置にいるルヴィアが問題だ。
見た目よりも防御が高いのか、それとも己の体力を回復する手段でも所持しているのか、さやかは未だ問題なく動けるようだ。
灰怪人はその頑丈さと力は中々脅威ではあるが、見た目通りの殴り合いしか出来ないようなので単体で見ればそこまでの脅威ではない。
この二人ならともかく、もう一人。 後衛の位置にいるルヴィアが問題だ。
ルヴィアの最も得意な魔術、エーデルフェルト家の代名詞とも言うべき『ガンド撃ち』。
本来は指を指すことで相手を呪うという魔術であり、それがルヴィアの魔力と相まって目に見える程の密度の呪いの塊となって指先より放たれる。
耐性の無い者が受ければ全身に倦怠感を齎すという効果に加えて、高密度の魔力は銃弾にも匹敵する物理的な破壊力も持ち、生物にも無機物にも効果のある代物になっている。
何故かライバルである遠坂凛も同じガンド撃ちを使えるのだが、きっと数代前の因縁の際にでも盗んだのだろう(ルヴィア談)。
本来は指を指すことで相手を呪うという魔術であり、それがルヴィアの魔力と相まって目に見える程の密度の呪いの塊となって指先より放たれる。
耐性の無い者が受ければ全身に倦怠感を齎すという効果に加えて、高密度の魔力は銃弾にも匹敵する物理的な破壊力も持ち、生物にも無機物にも効果のある代物になっている。
何故かライバルである遠坂凛も同じガンド撃ちを使えるのだが、きっと数代前の因縁の際にでも盗んだのだろう(ルヴィア談)。
そして、ガンドの呪いは性質としてはタイプ不明の『鈍い』ではなく、ゴーストタイプの用いる『呪い』と近しいものがある。
また、呪いという行動そのものが人間社会においては悪しき行い、もしくは怨念のような未練の部類に属す。
ガンドが『悪』と『ゴースト』のどちらにより近いのか、はたまた両方の性質を持つのかは明確な答えは出ないだろうが、いずれにせよ確かな事実は一つ。
ミュウツーらエスパータイプのポケモンは、悪やゴーストの攻撃には弱いということだ。
また、呪いという行動そのものが人間社会においては悪しき行い、もしくは怨念のような未練の部類に属す。
ガンドが『悪』と『ゴースト』のどちらにより近いのか、はたまた両方の性質を持つのかは明確な答えは出ないだろうが、いずれにせよ確かな事実は一つ。
ミュウツーらエスパータイプのポケモンは、悪やゴーストの攻撃には弱いということだ。
(これなら……)
動こうとしないミュウツーを見て、さやかは手ごたえを感じる。 先ほどまでと違い、今はさやか達が主導権を握っている状況だ。
向こうのほうで何事か咆えているリザードンは未だに動けないようだが、動ける海砂を逃がす事は出来るだろう。
それどころか上手くやればミュウツーを倒すことさえ出来るかもしれない。 殺せるかは、わからないけれど。
向こうのほうで何事か咆えているリザードンは未だに動けないようだが、動ける海砂を逃がす事は出来るだろう。
それどころか上手くやればミュウツーを倒すことさえ出来るかもしれない。 殺せるかは、わからないけれど。
「あなたは、今のうちに下がってて……えーっと」
「あ、私は弥海砂、気をつけてね、美樹さやかさん」
(……あれ、私名乗ったっけ?)
「あ、私は弥海砂、気をつけてね、美樹さやかさん」
(……あれ、私名乗ったっけ?)
そのような覚えはないが……もしかしたらは誰か知り合いにでも聞いたのだろうか。
そんなことを考えながら動き出そうとしたところで、あまり気にしていなかった灰怪人が一人前に出た。
そんなことを考えながら動き出そうとしたところで、あまり気にしていなかった灰怪人が一人前に出た。
「あー、その、なんだ。 いやな、そりゃあ俺様含めオルフェノクは人間とはすこーし違うわな。
しかもこんな島なんだし、まあわかるっちゃーわかるけどよ、でもよ、だからっちゅーていきなり人間襲うのはさ、どうよ?」
しかもこんな島なんだし、まあわかるっちゃーわかるけどよ、でもよ、だからっちゅーていきなり人間襲うのはさ、どうよ?」
なぁ、と微妙に親しげにミュウツーに話しかける灰怪人。
何か戦場に似合わない微妙な雰囲気と仕草でもって、敵であるはずのミュウツーに話しかける。
さやかにはよくわからないが、灰怪人とミュウツーは知り合いなのだろうか。 少なくとも灰怪人の方はやけに馴れ馴れしい。
何か戦場に似合わない微妙な雰囲気と仕草でもって、敵であるはずのミュウツーに話しかける。
さやかにはよくわからないが、灰怪人とミュウツーは知り合いなのだろうか。 少なくとも灰怪人の方はやけに馴れ馴れしい。
「それでも納得がいかないちゅーんなら、仕方がない。 この俺様が相手だ!
自慢じゃあないが俺様は強いぜ~? 怪我しないうちに引き上げるかした方がお前の身のためだ!」
自慢じゃあないが俺様は強いぜ~? 怪我しないうちに引き上げるかした方がお前の身のためだ!」
決まった、と言わんばかりにポーズを決める灰怪人。
やっていることは正直二枚目よりは三枚目に近いような決まり方であるが、それでも決まったことは決まった。
とう! っと陸上選手のように走りミュウツーへと飛び掛ろうとして、
やっていることは正直二枚目よりは三枚目に近いような決まり方であるが、それでも決まったことは決まった。
とう! っと陸上選手のように走りミュウツーへと飛び掛ろうとして、
「ぬおぅおぅおぅ!!??」
後方、ちょうどルヴィアの居る方向から放たれた電撃に、撃墜された。
□
灰色の怪人――海堂直也はルヴィアに固められ続けていた。
何を暢気な、と思われそうだが状況的には割りと仕方ないと言えなくもない。
いくら海堂がオルフェノクといえど、高等生物である以上は関節が存在する。
中には人とは異なる体型へと変化を行えるオルフェノクも存在するが、あいにくと海堂はその部類には含まれない。
見た目とは異なり本来文科系である海堂では、やはり見た目に反して体育会系の性質を持つルヴィア相手に技術で勝てるはずもない。
結局、呆れたNが二人を放置してアッシュフォード学園に向かおうとしたことで、ようやくその状況に終止符は打たれはした。
……この時間のロスと、その後の三者三様の理由による移動の遅さがなければ、状況はもっと簡単に済んでいたのかもしれない。
何を暢気な、と思われそうだが状況的には割りと仕方ないと言えなくもない。
いくら海堂がオルフェノクといえど、高等生物である以上は関節が存在する。
中には人とは異なる体型へと変化を行えるオルフェノクも存在するが、あいにくと海堂はその部類には含まれない。
見た目とは異なり本来文科系である海堂では、やはり見た目に反して体育会系の性質を持つルヴィア相手に技術で勝てるはずもない。
結局、呆れたNが二人を放置してアッシュフォード学園に向かおうとしたことで、ようやくその状況に終止符は打たれはした。
……この時間のロスと、その後の三者三様の理由による移動の遅さがなければ、状況はもっと簡単に済んでいたのかもしれない。
学園に近づいた海堂達の目に映ったのは、一方的な戦場であった。
戦闘能力の無さそうな海砂と、それを庇うさやか。 そして、その二人を殺そうとしているミュウツー。
ようやくダメージが抜け切った海堂が真っ先に駆け抜け、ルヴィアが後に続く。
本来は多少優柔不断というか見栄っ張りな部分のある海堂が、真っ先に駆け抜けたのには理由がある。
誰にとって不幸なのか、はたまた好運であったのか、海堂はミュウツーを自分と同じオルフェノクであると誤認したのである。
オルフェノクは個体ごとに特徴に差があるが、それでも人型かつ全身のほとんどが灰色に近い体色という共通点は変わらない。
一部が紫色ではあり、灰色というよりは灰白色と呼んでいいミュウツーではあったが、それでも海堂の知識からすれば他の何かよりはまだオルフェノクに近かった。
海堂もルヴィア、それに状況は異なるがさやかも、ポケモンという名前と動物に類する造詣しか知らなかったため、人型のポケモンが存在するとは思ってもいなかったのだ。
仮に最初からミュウツーがポケモンであるとわかっていたなら、あるいは海堂とルヴィアはこの場所に来た理由を思い出していたかもしれない。
戦闘能力の無さそうな海砂と、それを庇うさやか。 そして、その二人を殺そうとしているミュウツー。
ようやくダメージが抜け切った海堂が真っ先に駆け抜け、ルヴィアが後に続く。
本来は多少優柔不断というか見栄っ張りな部分のある海堂が、真っ先に駆け抜けたのには理由がある。
誰にとって不幸なのか、はたまた好運であったのか、海堂はミュウツーを自分と同じオルフェノクであると誤認したのである。
オルフェノクは個体ごとに特徴に差があるが、それでも人型かつ全身のほとんどが灰色に近い体色という共通点は変わらない。
一部が紫色ではあり、灰色というよりは灰白色と呼んでいいミュウツーではあったが、それでも海堂の知識からすれば他の何かよりはまだオルフェノクに近かった。
海堂もルヴィア、それに状況は異なるがさやかも、ポケモンという名前と動物に類する造詣しか知らなかったため、人型のポケモンが存在するとは思ってもいなかったのだ。
仮に最初からミュウツーがポケモンであるとわかっていたなら、あるいは海堂とルヴィアはこの場所に来た理由を思い出していたかもしれない。
そうして生まれる、3対1。
勢いよく飛び出した割に海堂はあっさりとやられたが、あまりにもあっさりやられたので特にダメージもない。
ルヴィアは己のガンドが余りにも良く効いたので一瞬驚いていたが、既に平静を取り戻している。
さやかは見た目ほど大きな怪我ではないらしく、未だ成長期にありながら海堂よりも頼れそうな雰囲気すら漂っている。
実際にさやかが味方なのかどうかは海堂にはわからないが、それでも海砂を庇う姿からは悪意を感じられないし、ルヴィアには何やら納得出切る理由があったらしいので、まあそれでいい。
勢いよく飛び出した割に海堂はあっさりとやられたが、あまりにもあっさりやられたので特にダメージもない。
ルヴィアは己のガンドが余りにも良く効いたので一瞬驚いていたが、既に平静を取り戻している。
さやかは見た目ほど大きな怪我ではないらしく、未だ成長期にありながら海堂よりも頼れそうな雰囲気すら漂っている。
実際にさやかが味方なのかどうかは海堂にはわからないが、それでも海砂を庇う姿からは悪意を感じられないし、ルヴィアには何やら納得出切る理由があったらしいので、まあそれでいい。
そして、海堂はミュウツーへと争いをやめるよう宣告する。
海堂からすれば、殺し会いなど下らないというか、あまり興味がない。
もともとオルフェノクと人間の争いからして、そこまで深刻に考えているという訳でもない。
ただ、どれだけ責められようと人間の味方を止めない木場勇次への憧れと、長田結花への秘めた想いが、彼らと共にオルフェノクと戦う主な理由だ。
そこに、単純なルヴィアやさやかへの見栄などが合わさって、海堂を前に飛ばさせ、
海堂からすれば、殺し会いなど下らないというか、あまり興味がない。
もともとオルフェノクと人間の争いからして、そこまで深刻に考えているという訳でもない。
ただ、どれだけ責められようと人間の味方を止めない木場勇次への憧れと、長田結花への秘めた想いが、彼らと共にオルフェノクと戦う主な理由だ。
そこに、単純なルヴィアやさやかへの見栄などが合わさって、海堂を前に飛ばさせ、
「ピカ、チュウゥゥゥゥゥゥ!!」
ルヴィアの後方よりやってきたNのピカチュウの電撃に、撃ち落される結果となった。
ピカチュウの頬にある電気袋から放たれた電気は、海堂に直撃した後に地面を走り、その場の皆を分断する。
ピカチュウの頬にある電気袋から放たれた電気は、海堂に直撃した後に地面を走り、その場の皆を分断する。
「うん、よくやってくれたね、ピカチュウ」
「…………てオイ! おいおいおいおい、痛てえぞコラ! どこを狙ってるっちゅんじゃい!」
「そうですわ、危うく当たる所でしたのよ!」
「いや、俺様にはしっかり当たっているのですが? もしも~~し?」
「…………てオイ! おいおいおいおい、痛てえぞコラ! どこを狙ってるっちゅんじゃい!」
「そうですわ、危うく当たる所でしたのよ!」
「いや、俺様にはしっかり当たっているのですが? もしも~~し?」
古典的に全身に光のエフェクトを走らせながら痺れた海堂だったが、威力そのものは大したことないのか特にダメージを受けた風ではない。
とはいえ、味方だと思っていた相手に攻撃されて心穏やかであるはずもなく、食ってかかる。 ルヴィアですらガンドの射線に入らないように攻撃したというのに、だ。
とはいえ、味方だと思っていた相手に攻撃されて心穏やかであるはずもなく、食ってかかる。 ルヴィアですらガンドの射線に入らないように攻撃したというのに、だ。
「君達は、勘違いをしている……まず、彼はポケモンだ。
決して、君たちの知る無差別に人間を襲う怪物ではないよ」
「あんだって?」
決して、君たちの知る無差別に人間を襲う怪物ではないよ」
「あんだって?」
四足になり海砂を睨みつけているピカチュウを、お腹から抱き上げながらNは言う。
ピカチュウと、倒れているリザードンに慈愛の視線を向けた後、ミュウツーに視線を移す。
その表情からは、悪意のようなものは読み取れない。
ピカチュウと、倒れているリザードンに慈愛の視線を向けた後、ミュウツーに視線を移す。
その表情からは、悪意のようなものは読み取れない。
「待て待てい。 じゃあ何で、あいつはそこの二人を襲うんだべ?」
「うん、だから悪いのは彼じゃない……そこの彼女だよ。
忘れたのかい、ボクたちはどうしてこの学園まで来ようとしたのか」
「うん、だから悪いのは彼じゃない……そこの彼女だよ。
忘れたのかい、ボクたちはどうしてこの学園まで来ようとしたのか」
そう言われて海堂とルヴィアも思い返す。 そもそもここに来たのは、他者を騙そうとしているピカチュウの主の仇をどうにかするためだった。
ただ、学園にたどり着いた時にミュウツーが海砂を庇っているさやかと戦っていたので、自然とそちらの味方をしてしまったのだ。
だが冷静になって思い返せば、さやかはともかく海砂は声すら聞いておらず、信用できる理由は何もない。
ただ、学園にたどり着いた時にミュウツーが海砂を庇っているさやかと戦っていたので、自然とそちらの味方をしてしまったのだ。
だが冷静になって思い返せば、さやかはともかく海砂は声すら聞いておらず、信用できる理由は何もない。
「何を言ってるのよあんた、海砂さんはあの時コイツに襲われてて、それで助けを求めたんでしょ!?」
「ああ、そうかキミは知らないんだね、あれは彼女の演技だよ。 そこに倒れてるリザードンが必死で叫んでいた。 彼女がリザードンの主を殺したと。
多分キミみたいな子をおびき寄せて、そしてリザードンで殺すつもりだったんだろうね」
「え……」
「ああ、そうかキミは知らないんだね、あれは彼女の演技だよ。 そこに倒れてるリザードンが必死で叫んでいた。 彼女がリザードンの主を殺したと。
多分キミみたいな子をおびき寄せて、そしてリザードンで殺すつもりだったんだろうね」
「え……」
その言葉に、さやかは思わず海砂のほうを振り返る。
そこにいるのは僅かに顔色が蒼白な、無力な金髪の女性でしかない。
人の言葉を喋るとはいえ、見た目が人とかけ離れたミュウツーよりも、遥かに無力に見える相手。
そこにいるのは僅かに顔色が蒼白な、無力な金髪の女性でしかない。
人の言葉を喋るとはいえ、見た目が人とかけ離れたミュウツーよりも、遥かに無力に見える相手。
「しょ、証拠はあるの!?」
「証拠と呼べるものは何も無いよ。 ただ、彼女が本当に襲われていたという証拠もない。
だからこれは……」
「証拠と呼べるものは何も無いよ。 ただ、彼女が本当に襲われていたという証拠もない。
だからこれは……」
と、そこでNは一度言葉を切る。
抱きかかえたピカチュウを撫でながら、さやかのみならず、ルヴィアや海堂すらも俯瞰し、
抱きかかえたピカチュウを撫でながら、さやかのみならず、ルヴィアや海堂すらも俯瞰し、
「彼女を信じるか、それともリザードンたちポケモンのどちらを信じるか、ということだね」
それを、告げた。
人間を信じるか、ポケモンを信じるか。
Nとそのトモダチを信じるか、人間というだけで海砂を信じるか、そういうこと。
人間を信じるか、ポケモンを信じるか。
Nとそのトモダチを信じるか、人間というだけで海砂を信じるか、そういうこと。
「な、何よそれ……」
さやかにとって、人間とは守るべきものであった。 魔女という存在によって理不尽に命を奪われる、被害者。
だから、巴マミのように人間を守ることにこだわり、佐倉杏子と対立したりもした。
魔法少女という存在に疑問を感じ、戦う意味が希薄になりつつあっても、そこだけは未だ変わらなかった。
簡単に、信じられる筈もない。
だから、巴マミのように人間を守ることにこだわり、佐倉杏子と対立したりもした。
魔法少女という存在に疑問を感じ、戦う意味が希薄になりつつあっても、そこだけは未だ変わらなかった。
簡単に、信じられる筈もない。
「キミは、良い人間なんだろうね。 他人を助けることは当たり前だと思っていて、そのために戦える。
でも、そういうキミだからこそ……ポケモンを、ボクのトモダチを傷付ける」
「だって、あたしは、危ないとおもったから、」
でも、そういうキミだからこそ……ポケモンを、ボクのトモダチを傷付ける」
「だって、あたしは、危ないとおもったから、」
人を襲う化け物と思っていたミュウツーは、危険な人間だからこそ戦っていたのか?
無力で、奪われるだけな人間であるはずの海砂は、その実他人を殺すような人間なのか?
無力で、奪われるだけな人間であるはずの海砂は、その実他人を殺すような人間なのか?
「わ、私は……」
その時、さやかとミュウツー以外の3人はこの場で初めて、海砂の声を聞く。
拡声器を通していないためか多少の違いはあるが、それは先ほど叫んでいた少女のそれ。
その声を聞く前から海砂こそが殺人者とわかっていたということは、Nがこの場の誰か……リザードンに聞いたとしか考えられない。
拡声器を通していないためか多少の違いはあるが、それは先ほど叫んでいた少女のそれ。
その声を聞く前から海砂こそが殺人者とわかっていたということは、Nがこの場の誰か……リザードンに聞いたとしか考えられない。
「あ、あんたが本当のこと言ってるなんて証拠あるの! N*」
「ヴォオオオオォォォォォォッ!!」
「ヒッ!」
「ヴォオオオオォォォォォォッ!!」
「ヒッ!」
自分を取り巻く状況が刻一刻を悪くなっていることを悟り、海砂がどうにか状況をひっくり返そうとするが、その声は遮られる。
倒れたまま忘れ去られていたリザードン。 今は海砂の支配下にあり、動く体力すらないというのに、海砂に吼えかかる。
リザードンのように吼えはしないものの、ピカチュウも同じような視線を海砂に向けている。
倒れたまま忘れ去られていたリザードン。 今は海砂の支配下にあり、動く体力すらないというのに、海砂に吼えかかる。
リザードンのように吼えはしないものの、ピカチュウも同じような視線を海砂に向けている。
「ああ、そうか……僕も含めて、かな。 ボクがポケモンの言葉がわかるという証拠も無いし、本当の事を言っているとも限らないか」
自分のことでありながら、人ごとのようにNは言う。 その態度は海砂のそれとは対極的と言ってもいい。
海砂の元に向かわないようにピカチュウを抱いたままNは一人歩き、転がったまま忘れられていたリザードンのボールを手に取る。
そして倒れていたリザードンをボールに戻し、収まったリザードンを見つめる。 その表情は慈愛に満ちており、とてもではないが他者への悪意など見て取れない。
Nと、ピカチュウと、リザードン。 彼らが海砂を陥れるためだけに嘘をついているようには、到底見えなかった。
海砂の元に向かわないようにピカチュウを抱いたままNは一人歩き、転がったまま忘れられていたリザードンのボールを手に取る。
そして倒れていたリザードンをボールに戻し、収まったリザードンを見つめる。 その表情は慈愛に満ちており、とてもではないが他者への悪意など見て取れない。
Nと、ピカチュウと、リザードン。 彼らが海砂を陥れるためだけに嘘をついているようには、到底見えなかった。
「……あまり、そう攻め立てるものでは無いと思いますが」
「あー、俺様たちは先に聞いてたけどもよ、いきなりあんな状況じゃしょうがないっちゅーか」
「あー、俺様たちは先に聞いてたけどもよ、いきなりあんな状況じゃしょうがないっちゅーか」
あまりに、それこそ自分自身すら無いかのようなNの言葉にルヴィアと海堂が口を挟む。
海堂達にしてもミュウツーを攻撃してしまったという引け目があるが、それでもNは余りに浮世離れしている。
今も、成り行きを見守るつもりなのか戦闘の意志を見せていないミュウツーに目を向けているだけで、他を見ようとしない。
まるで、人間を見ていないかのように。
海堂達にしてもミュウツーを攻撃してしまったという引け目があるが、それでもNは余りに浮世離れしている。
今も、成り行きを見守るつもりなのか戦闘の意志を見せていないミュウツーに目を向けているだけで、他を見ようとしない。
まるで、人間を見ていないかのように。
「命の危機にある相手を助けに割ってはいる事は否定しないよ。
でも、たとえば逆だったとしても、助けたのかな?」
「あ、あ、当たり前だっちゅーのよ!
いいか、俺様は自慢じゃあないが、人間殺すオルフェノク裏切って生き残りの人間に味方しているくらいのヒーローなのよ。
今更陰険でムカツク人間裏切ってその、ポケモンだあ?の味方するなんざお茶の子さいさいよぉ!」
「そうかい、そうだね、でも」
でも、たとえば逆だったとしても、助けたのかな?」
「あ、あ、当たり前だっちゅーのよ!
いいか、俺様は自慢じゃあないが、人間殺すオルフェノク裏切って生き残りの人間に味方しているくらいのヒーローなのよ。
今更陰険でムカツク人間裏切ってその、ポケモンだあ?の味方するなんざお茶の子さいさいよぉ!」
「そうかい、そうだね、でも」
「でも、そのときは、話し合いをしたんじゃないかな?」
「あー、あれだ、その、なんだ。 勘違いされちゃ困るんだが、よ。
俺様は別に、人間だから守った、とかそういうのじゃないちゅ~こった。 襲われてて、そんでヤバそうだからとりあえず助けた、それだけのこったよ。
別に相手が人間だったとしても最初から理由なんざ大して聞きはしねぇべさ」
俺様は別に、人間だから守った、とかそういうのじゃないちゅ~こった。 襲われてて、そんでヤバそうだからとりあえず助けた、それだけのこったよ。
別に相手が人間だったとしても最初から理由なんざ大して聞きはしねぇべさ」
海堂は、この微妙な空気に気づいていないのかあえて無視しているのか、変わらずNに続ける。
確かに海堂はミュウツーになにやら話しかけてはいたが、返答など待つつもりもなく攻撃していた。
オルフェノクと人間との間にいる海堂は、Nの言葉には惑わされてはいない。
確かに海堂はミュウツーになにやら話しかけてはいたが、返答など待つつもりもなく攻撃していた。
オルフェノクと人間との間にいる海堂は、Nの言葉には惑わされてはいない。
「……それで、彼女をどうしますの?」
ルヴィアは、この問題については口出しするつもりは余りない。
元より魔術師という争うことを前提とした人種故に、相手が誰であろうととりあえず倒すという、冷徹な思考を持っていると彼女は思っている。
彼女はこのような議論など暇な時にやればよく、今はこの状況に決着をつけるの先と理解していた。
元より魔術師という争うことを前提とした人種故に、相手が誰であろうととりあえず倒すという、冷徹な思考を持っていると彼女は思っている。
彼女はこのような議論など暇な時にやればよく、今はこの状況に決着をつけるの先と理解していた。
「…………」
ミュウツーは、問われている訳ではないので押し黙ったまま。
彼からすれば、Nの言っていることは十分に理解できる。 賛同できるかどうかは別問題だが。
彼からすれば、Nの言っていることは十分に理解できる。 賛同できるかどうかは別問題だが。
「う……で、でも」
さやかは、答えられない。
仮に、ミュウツーが襲われていたとしたら、おそらく助けはしただろう。
でも、多分その後に問うたのではないか、理由を。 なぜ、こんなことをするのかと。
意思の通じない怪物相手ではなく、意思が通じる人間相手だと思って。
人間相手なら意思が通じると思っても、怪物相手では意思が通じないと思って。
仮に、ミュウツーが襲われていたとしたら、おそらく助けはしただろう。
でも、多分その後に問うたのではないか、理由を。 なぜ、こんなことをするのかと。
意思の通じない怪物相手ではなく、意思が通じる人間相手だと思って。
人間相手なら意思が通じると思っても、怪物相手では意思が通じないと思って。
「も、もしかしたら何かどうしようもない理由みたいのがあって!」
「違うのニャ」
「違うのニャ」
かつてゲーチスに突きつけられた選択。 どちらも選べぬまま半端な状態で盲目的に戦う事を選んだ。
それで問題のない相手だと勝手に判断して、そこにある意味では異なり、また共通する問題へと直面して。
ある種の逃げに走ったさやかの言葉は、即座に否定された。
その場の誰とも異なる声。 さやかとミュウツーのみ聞き覚えのある声。
それで問題のない相手だと勝手に判断して、そこにある意味では異なり、また共通する問題へと直面して。
ある種の逃げに走ったさやかの言葉は、即座に否定された。
その場の誰とも異なる声。 さやかとミュウツーのみ聞き覚えのある声。
「そいつはジャリボーイを襲って、ポケモンバトルの最中に手を出して殺したって、リザードンは言ってるニャー……」
ポケモンでありなが人語を解するニャースと、他に二人、新たな来訪者の声であった。
□
ニャースの同行者の一人、マントを纏った長身の男――ゲーチスがさやかに先行を薦めたのには訳がある。
彼は確かめたかったのだ、己のもたらした成果を。
教え導くというのは共にあるだけでなく、時には離れて見守ることも必要になる。
また、何かしらの危険がある場所への保険という考えもあった。
そうしてその試みは半分は期待以上の成果を齎し、そしてもう半分はある種の危機を齎した。
彼は確かめたかったのだ、己のもたらした成果を。
教え導くというのは共にあるだけでなく、時には離れて見守ることも必要になる。
また、何かしらの危険がある場所への保険という考えもあった。
そうしてその試みは半分は期待以上の成果を齎し、そしてもう半分はある種の危機を齎した。
「ゲーチスさん、それにあんたたち……」
ミュウツーと同じく人の言葉を用いるポケモン、ニャース
さやかとは短い付き合いではあるが、それでも海砂よりは長く、そして直接触れ合った相手。
さやかとは短い付き合いではあるが、それでも海砂よりは長く、そして直接触れ合った相手。
「久しぶりだにゃ、おみゃーら……」
ニャースは、目の端に涙の粒を浮かべている。
言葉を放ったものの、さやか達も海砂も見ることなくNの、ピカチュウらの傍へと歩み寄る。
毎度毎度邪魔をしてくれる憎たらしい相手ではあったが、だからこそ、ニャースのサトシへの思いは、ある意味ではピカチュウ達よりも重い。
いなくなることなど考えられない、いつか完膚なきまでに泣かしてやろうと思っていた相手。
それが、もういない。
言葉を放ったものの、さやか達も海砂も見ることなくNの、ピカチュウらの傍へと歩み寄る。
毎度毎度邪魔をしてくれる憎たらしい相手ではあったが、だからこそ、ニャースのサトシへの思いは、ある意味ではピカチュウ達よりも重い。
いなくなることなど考えられない、いつか完膚なきまでに泣かしてやろうと思っていた相手。
それが、もういない。
「ジャリボーイは、死んだんのかニャア……」
「ピカ………」
「ヴォゥ……」
「ピカ………」
「ヴォゥ……」
短い言葉は終わり、後に残るのは嗚咽。
リザードンもピカチュウも、憎しみゆえに抑えることの出来ていた悲しみが、同じ気持ちを共有できる相手と出会ったことで溢れ出す。
人と変わらぬほどの感情を示すニャースも、ボールの中動けぬリザードンも、海砂を睨むピカチュウも。
三匹とも死んだ少年、サトシの事を悼んでいた。
リザードンもピカチュウも、憎しみゆえに抑えることの出来ていた悲しみが、同じ気持ちを共有できる相手と出会ったことで溢れ出す。
人と変わらぬほどの感情を示すニャースも、ボールの中動けぬリザードンも、海砂を睨むピカチュウも。
三匹とも死んだ少年、サトシの事を悼んでいた。
そこに、人とどんな違いがあろうか。
人は、異なる生物にここまで想われることがあるのか。
さやかは呆然と、ルヴィアは冷静に、海堂は貰い泣きをし、ミュウツーは顔が陰になるように視線を逸らす。
人は、異なる生物にここまで想われることがあるのか。
さやかは呆然と、ルヴィアは冷静に、海堂は貰い泣きをし、ミュウツーは顔が陰になるように視線を逸らす。
「ゲーチス、無事だったんだね。 一応、気にはしていたよ」
そんな中、Nのみはその光景から目を離さぬままに言葉を発する。
ニャースの同行者の一人にして、彼のとの関係深い、その人物を。
ニャースの同行者の一人にして、彼のとの関係深い、その人物を。
「N……我らが王と、そうお呼びしてもいいのでしょうか?」
「当然だよ、ボクは君たちプラズマ団の王。 トモダチと共に新たな英雄として、全てのポケモンを開放するものだから」
「当然だよ、ボクは君たちプラズマ団の王。 トモダチと共に新たな英雄として、全てのポケモンを開放するものだから」
わずかな不安と、少なくない期待を込めて試すように問うた言葉の答えに、ゲーチスは軽く頭を下げる。
自分の想像以上の返答だったため口の端に浮かんだ笑みを、隠す為に。
自分の想像以上の返答だったため口の端に浮かんだ笑みを、隠す為に。
「ルヴィアさんと知らない方々、そして海砂さんですかな。 そこのNの臣下、プラズマ団七賢人が一人ゲーチスと申します。
……我々は、人に道具として虐げられるポケモンを、人間の手から開放することを目的としています。
この島でその主張が大きな意味を持つと思ってはいませんでしたが」
……我々は、人に道具として虐げられるポケモンを、人間の手から開放することを目的としています。
この島でその主張が大きな意味を持つと思ってはいませんでしたが」
あくまでも穏やかに、それでいて意図するところははっきりと告げる。
特に主張する気はなかったと、告げずに済むならそれでよかったと、そう、ある種の迷いを秘めたように告げる。
プラズマ団の目的を語らざるを得なくなったのはお前たちのせいだと、受け取れるように。
特に主張する気はなかったと、告げずに済むならそれでよかったと、そう、ある種の迷いを秘めたように告げる。
プラズマ団の目的を語らざるを得なくなったのはお前たちのせいだと、受け取れるように。
「さやかさん、貴女を騙すつもりは……いえ、結果的に騙してしまったことになるのでしょうね。
我々は人間を害する意思は無い、ですが人間の完全なる味方でもないのです」
「ゲーチスさん……」
我々は人間を害する意思は無い、ですが人間の完全なる味方でもないのです」
「ゲーチスさん……」
少しずつ前に歩みながら、驚愕を通り越して呆然とした様相のさやかに謝罪する。
あくまで非は自分にあり、さやかは欺かれただけだと。
あくまで非は自分にあり、さやかは欺かれただけだと。
「おいおいおっさん、俺様は宗教なんざぁコレっっっっぽっちも信じてねえから話なんざ聞く気はねぇぞ。
そういうのはあれだ、余所でやれ、余所で」
「同感ですわね。 全く意味の無い主張とは申し上げませんが、もう少し落ち着いた状況で行うべきでは?」
そういうのはあれだ、余所でやれ、余所で」
「同感ですわね。 全く意味の無い主張とは申し上げませんが、もう少し落ち着いた状況で行うべきでは?」
海堂は文字通り本当に興味がないのだろう。 何やら蕁麻疹でも出たかのよなポーズをとっている。
ルヴィアは少しならば聞く意思はあるようだが、あくまで冷静に対応するつもりなのだろう。
さやかは呆然と、もはや頭の中に入れるだけで精一杯なのだろう。
ミュウツーはゲーチスにあまり好意の篭っていない視線を向けているが、それでも聞こうという意思は感じられる。
ルヴィアは少しならば聞く意思はあるようだが、あくまで冷静に対応するつもりなのだろう。
さやかは呆然と、もはや頭の中に入れるだけで精一杯なのだろう。
ミュウツーはゲーチスにあまり好意の篭っていない視線を向けているが、それでも聞こうという意思は感じられる。
「ピカァ!!」
と、そこでピカチュウが警告の声を上げる。
見れば、海砂が一人この場所から逃げ出そうとしていた。
見れば、海砂が一人この場所から逃げ出そうとしていた。
「放っておくんだ。 あんな人間の為に、キミ達が手を汚す必要なんて無い。
Nは昔のように興味なさそうにゲーチスの言葉を聞き流すつもりなのだろう。 走り出そうとしたピカチュウと、ついでにニャースを抱き上げる。
位置的に最も近くにいる女性だけは読めない。 Nを羨ましげな視線で見つめる彼女は、まるでゲーチスの数倍生きてきたかのように悠然としていて、図りかねる。
一部不確定な要素はあるが、それでもゲーチスの優位は確かであった。
位置的に最も近くにいる女性だけは読めない。 Nを羨ましげな視線で見つめる彼女は、まるでゲーチスの数倍生きてきたかのように悠然としていて、図りかねる。
一部不確定な要素はあるが、それでもゲーチスの優位は確かであった。
「彼女のことは今は置くべきでしょう。 残念ですが彼女が人を殺したのは事実。
そして、それを知られたと思っている直後では、話は通じないでしょう」
「そんな、それじゃあ……あたしは」
「そういう人間もいるかもしれないとは申し上げましたが、そこにこのような要素が加わるとは……
さやかさんに覚悟を問うた、私にも責任が一端があります。 ……幸い、まだやり直せることです」
「ゲーチスさん……」
そして、それを知られたと思っている直後では、話は通じないでしょう」
「そんな、それじゃあ……あたしは」
「そういう人間もいるかもしれないとは申し上げましたが、そこにこのような要素が加わるとは……
さやかさんに覚悟を問うた、私にも責任が一端があります。 ……幸い、まだやり直せることです」
「ゲーチスさん……」
実際、さやかの行動そのものは間違いではない。 そう、助け舟を出してやる。
思ったとおり、勝手に傷ついていってくれる少女なのだと、確信できた。
思ったとおり、勝手に傷ついていってくれる少女なのだと、確信できた。
「…………ひとつ、いいかな? さやかさんと言ったね。
キミはゲーチスとある程度親しいみたいだけど……だから、信じるのかい?」
「…………え?」
「ボクや、トモダチ達の言葉を、沢山聞いていたのに。
今この場に来たばかりのゲーチスの言葉のほうを、信じるんだね」
キミはゲーチスとある程度親しいみたいだけど……だから、信じるのかい?」
「…………え?」
「ボクや、トモダチ達の言葉を、沢山聞いていたのに。
今この場に来たばかりのゲーチスの言葉のほうを、信じるんだね」
だが、そんなさやかにNは糾弾するかのような言葉を向ける。
突きつけるというべきか、さやかの行動の本質を。
突きつけるというべきか、さやかの行動の本質を。
「ルヴィアさんと海堂さんもそうだけど、結局、キミは人間を信じたんだ。
ゲーチスがそう言ったから。 人間が言ったから、ポケモンを信じたんだね」
「あたし、あたしは……そんな、つもり、じゃ……」
ゲーチスがそう言ったから。 人間が言ったから、ポケモンを信じたんだね」
「あたし、あたしは……そんな、つもり、じゃ……」
他人の糾弾でなく、知り合いの諭しだからこそ。
自身の信じられる言葉だからこそ、信じる気になったのだと。
自身の信じられる言葉だからこそ、信じる気になったのだと。
「N、言いすぎです。 彼女はポケモンを先程はじめて見たのですよ」
見かねて、さやかを庇うようにゲーチスは割って入る。 それは困る。
こんなことで、楽しみを費えさせるわけにはいかない。
折角なのだから、長く楽しまねば。
こんなことで、楽しみを費えさせるわけにはいかない。
折角なのだから、長く楽しまねば。
「そう、……でも、覚えておいて欲しい。 善意とは、必ずしも正しく無いんだよ」
それきり、興味を無くしたようにまた抱いているピカチュウ達に視線を戻す。
もう、見るべきことは無いとばかりに。
もう、見るべきことは無いとばかりに。
「皆さんの行動は、仕方のない事ではあるのです。 人はどうしても自分と同じものを優先する。
いえ、それは人に限らずポケモンもそうではあるのですが。 さやかさん達が彼を敵と見たことも致し方ないのでしょう。
私とて、同じ状況であったならどうしていたか」
いえ、それは人に限らずポケモンもそうではあるのですが。 さやかさん達が彼を敵と見たことも致し方ないのでしょう。
私とて、同じ状況であったならどうしていたか」
再び、ゲーチスは語りだす。 海堂もルヴィアも、先程のNの言葉故か、多少聞き入るようになっている中。
Nのように糾弾するのではなく、己も同じ人間であり、だからこそ人間の事がわかると。
だが、それでも一つの事実だけは主張し続ける。
Nのように糾弾するのではなく、己も同じ人間であり、だからこそ人間の事がわかると。
だが、それでも一つの事実だけは主張し続ける。
『人間を、助けた』と