ひんやりとした感触をその人物は感じた。
鈍い頭の痛みを抱えながら、もそもそと立ち上がる。冷たい風を感じながら周囲を見回した。
周囲は薄暗く、窓からうかかがえる星空に満月が浮かんでいた。
どうやら広いホールの中にいるらしい。周囲に人影はない。
状況把握をしようと動いた瞬間、ポケットの中から電子音が聞こえてきた。
振動しながら光を発するそれをとると、思わず目を細めてしまう。
光がひときわ強くなったのだ。
『は~い、みなさん! こんにちは~!』
そこでようやく、自分が持っているものがスマートフォンだと気づいた。
液晶から青い衣装のキャンペーンガールらしき女性が話しかけてきた。
美しいが、どこか作り物じみた雰囲気を感じる。
『とつぜん連れ去ってごめんなさい! 不安ですよね~、寂しいですよね~。
お姉さんはその気持ち、よ~くわかります。キャハッ☆』
いい歳だろうにぶりっ子ぶる女性に眉を顰める。
相手も察したのか、話が進んだ。
『初めての人は私のことをスマートレディって呼んでね! 久しぶりの人も一緒に説明を聞いてく・だ・さ・い。
お姉さんからのお願いです。ちゃんと聞かない悪い子は、どうなっても知らないぞ~』
トンボの目を回す仕草のまま話しかけている。馬鹿にした態度だが、瞳に冷酷な光が映った。
鈍い頭の痛みを抱えながら、もそもそと立ち上がる。冷たい風を感じながら周囲を見回した。
周囲は薄暗く、窓からうかかがえる星空に満月が浮かんでいた。
どうやら広いホールの中にいるらしい。周囲に人影はない。
状況把握をしようと動いた瞬間、ポケットの中から電子音が聞こえてきた。
振動しながら光を発するそれをとると、思わず目を細めてしまう。
光がひときわ強くなったのだ。
『は~い、みなさん! こんにちは~!』
そこでようやく、自分が持っているものがスマートフォンだと気づいた。
液晶から青い衣装のキャンペーンガールらしき女性が話しかけてきた。
美しいが、どこか作り物じみた雰囲気を感じる。
『とつぜん連れ去ってごめんなさい! 不安ですよね~、寂しいですよね~。
お姉さんはその気持ち、よ~くわかります。キャハッ☆』
いい歳だろうにぶりっ子ぶる女性に眉を顰める。
相手も察したのか、話が進んだ。
『初めての人は私のことをスマートレディって呼んでね! 久しぶりの人も一緒に説明を聞いてく・だ・さ・い。
お姉さんからのお願いです。ちゃんと聞かない悪い子は、どうなっても知らないぞ~』
トンボの目を回す仕草のまま話しかけている。馬鹿にした態度だが、瞳に冷酷な光が映った。
『えー、こほん。それではみなさんにお願いがありまーす。
最後のひとりになるまで殺し合ってね。てへ☆』
最後のひとりになるまで殺し合ってね。てへ☆』
顔と声が合っていない。
甘い甘いキャンディボイスと死刑執行人の顔。
不釣合いな組み合わせが宣言を受けた者たちの現実感を奪う。
『それでは、ゲームのルールをご説明します。
お姉さんが言ったように、最後のひとりになるまで殺し合うこと。ただそれだけの簡単なお仕事です。
最後のひとり、優勝したお利口さんには何でも願いを叶える用意があります♪ 頑張りがいがありますね~。
くわしい人数はスマートフォンのテキスト内にある名簿を確認すること。約束よ。
そ・れ・と、みなさんにお渡ししたスマートフォンから武器、日常品、お笑いネタのいずれかが呼び出し可能です。
でも気をつけてね。一度スマートフォンから実体化させると、もう二度ともどせませ~ん。
水やご飯も同じだから、ちゃんと考えて出さないとすぐに死んじゃうぞ。
あ、それとベルトにソウルジェム、ステッキちゃんを心配している方々。
ちゃんとあなた方にもたせたままだから安心してね。でもポケモンさんは一匹しか返せません。
ごめんなさ~い。
それと悲しいことに、スマートフォンは電話機能もネット機能も封印されています。お姉さんも悲しい、え~んえ~ん』
泣き真似をするスマートレディは一転、ニコッと笑う。
『で・も、よく人を殺してくれるいい子にはお姉さんからプレゼント!
三人殺すごとにいろいろな機能を追加します。例えば~、『一度だけ愛しいあの人に連絡が出来ちゃう』
『もっと使える支給品をもらうことが出来ちゃう』『便利アプリの追加』『裏ルールを教えてもらう』
と、素敵な贈り物をいただけます☆』
スマートレディのルールを聞いた人物はごくり、と喉を鳴らす。
そこで、首に違和感を感じた。手で触ると、首まわりに硬い感触が確認できる。
『そして注意事項で~す。気づいた人もいるかと思いますが、みなさんには首輪をプレゼント。
この首輪はプラスチックのように軽くて、肌触りも悪くない代物ですが、なんと下手にいじると灰化しちゃいます♪』
灰化がいまいちピンとこず、首をかしげる。
その行動を見抜いているかのようにスマートレディは笑みを深くした。
『でも、灰化する条件はそんなにありません。
条件の一つは、首輪を無理やり外そうとすること。ちゃんと手順を理解できるような人に外してもらいましょう。
もしかしたら簡単に外せる人がいるかも知れないので、そういう人を探すのをがんばってください。応援していま~す』
自分たちが取り付けたのに、ふざけたセリフである。
そんな感想が浮かぶが、下手に口には出さない。
甘い甘いキャンディボイスと死刑執行人の顔。
不釣合いな組み合わせが宣言を受けた者たちの現実感を奪う。
『それでは、ゲームのルールをご説明します。
お姉さんが言ったように、最後のひとりになるまで殺し合うこと。ただそれだけの簡単なお仕事です。
最後のひとり、優勝したお利口さんには何でも願いを叶える用意があります♪ 頑張りがいがありますね~。
くわしい人数はスマートフォンのテキスト内にある名簿を確認すること。約束よ。
そ・れ・と、みなさんにお渡ししたスマートフォンから武器、日常品、お笑いネタのいずれかが呼び出し可能です。
でも気をつけてね。一度スマートフォンから実体化させると、もう二度ともどせませ~ん。
水やご飯も同じだから、ちゃんと考えて出さないとすぐに死んじゃうぞ。
あ、それとベルトにソウルジェム、ステッキちゃんを心配している方々。
ちゃんとあなた方にもたせたままだから安心してね。でもポケモンさんは一匹しか返せません。
ごめんなさ~い。
それと悲しいことに、スマートフォンは電話機能もネット機能も封印されています。お姉さんも悲しい、え~んえ~ん』
泣き真似をするスマートレディは一転、ニコッと笑う。
『で・も、よく人を殺してくれるいい子にはお姉さんからプレゼント!
三人殺すごとにいろいろな機能を追加します。例えば~、『一度だけ愛しいあの人に連絡が出来ちゃう』
『もっと使える支給品をもらうことが出来ちゃう』『便利アプリの追加』『裏ルールを教えてもらう』
と、素敵な贈り物をいただけます☆』
スマートレディのルールを聞いた人物はごくり、と喉を鳴らす。
そこで、首に違和感を感じた。手で触ると、首まわりに硬い感触が確認できる。
『そして注意事項で~す。気づいた人もいるかと思いますが、みなさんには首輪をプレゼント。
この首輪はプラスチックのように軽くて、肌触りも悪くない代物ですが、なんと下手にいじると灰化しちゃいます♪』
灰化がいまいちピンとこず、首をかしげる。
その行動を見抜いているかのようにスマートレディは笑みを深くした。
『でも、灰化する条件はそんなにありません。
条件の一つは、首輪を無理やり外そうとすること。ちゃんと手順を理解できるような人に外してもらいましょう。
もしかしたら簡単に外せる人がいるかも知れないので、そういう人を探すのをがんばってください。応援していま~す』
自分たちが取り付けたのに、ふざけたセリフである。
そんな感想が浮かぶが、下手に口には出さない。
『二つ目は禁止エリアに入ること。今は存在しませんが、六時間ごとに追加します。
安心してくださいね。ちゃんと追加するエリアは放送しま~す。あ、ついでに死亡者の発表も一緒に行いましょうね。
お姉さん、気がきいているでしょう?
え、なになに? 禁止エリアに入るとどうなるか? 本当に灰化するのか? ですって』
スマートレディはいきなり教育番組のお姉さんのように、耳に手を当てながら自問する。
聞いている者のほとんどはついていけなかった。
『いい質問がきましたね。それはこうなりま~す。VTRスタート!』
合図と共に、液晶の画面が切り替わる。
どこかの森に、バンダナを巻いた男がAK47をあちこちに向けていた。
「ここはどこだ! オルフェノクめ、俺たちをこんなところに……」
男はわめき散らし、その場を駆ける。
『彼は水原くんといって、スマートブレイン社に逆らうとても悪い子です。
悪い子にはお仕置きをしないといけません』
スマートレディがそう言うと、水原の首輪が甲高い電子音を鳴らした。
ピッピッピッ、とテンポが早くなる音に水原は怪訝な顔をする。
「これはなん――――」
水原の言葉は途中で切られた。体にψの文字が浮かび、一瞬で全身が灰色になる。
ザァっ、と灰が滑り落ちて男の姿が消えた。
『はーい、怖がらせてごめんなさ~い。
だけど、禁止エリアに入った悪い子はこうなっちゃいます。
で~も、私たちを倒そうと考えることは悪いことではありません。なので頑張りましょう! ファイト!』
スマートレディは口ではそう言いながらも、言外に『逆らうことは不可能』と告げているのだ。
勘がいいものはそう察し、ある者は怒る。あるいは冷静に計算する。あるいはそれ以外の動きを見せた。
『それでは最後に、私を知っている方々~。これは王のための儀式なので、力のかぎりがんばってください。チュッ☆
あらためまして、バトルロワイアルスタートです! お姉さん感激しちゃ~う!』
その言葉を最後に、スマートレディの通信は途絶える。
静寂な夜が戻り、周囲は静かだった。
安心してくださいね。ちゃんと追加するエリアは放送しま~す。あ、ついでに死亡者の発表も一緒に行いましょうね。
お姉さん、気がきいているでしょう?
え、なになに? 禁止エリアに入るとどうなるか? 本当に灰化するのか? ですって』
スマートレディはいきなり教育番組のお姉さんのように、耳に手を当てながら自問する。
聞いている者のほとんどはついていけなかった。
『いい質問がきましたね。それはこうなりま~す。VTRスタート!』
合図と共に、液晶の画面が切り替わる。
どこかの森に、バンダナを巻いた男がAK47をあちこちに向けていた。
「ここはどこだ! オルフェノクめ、俺たちをこんなところに……」
男はわめき散らし、その場を駆ける。
『彼は水原くんといって、スマートブレイン社に逆らうとても悪い子です。
悪い子にはお仕置きをしないといけません』
スマートレディがそう言うと、水原の首輪が甲高い電子音を鳴らした。
ピッピッピッ、とテンポが早くなる音に水原は怪訝な顔をする。
「これはなん――――」
水原の言葉は途中で切られた。体にψの文字が浮かび、一瞬で全身が灰色になる。
ザァっ、と灰が滑り落ちて男の姿が消えた。
『はーい、怖がらせてごめんなさ~い。
だけど、禁止エリアに入った悪い子はこうなっちゃいます。
で~も、私たちを倒そうと考えることは悪いことではありません。なので頑張りましょう! ファイト!』
スマートレディは口ではそう言いながらも、言外に『逆らうことは不可能』と告げているのだ。
勘がいいものはそう察し、ある者は怒る。あるいは冷静に計算する。あるいはそれ以外の動きを見せた。
『それでは最後に、私を知っている方々~。これは王のための儀式なので、力のかぎりがんばってください。チュッ☆
あらためまして、バトルロワイアルスタートです! お姉さん感激しちゃ~う!』
その言葉を最後に、スマートレディの通信は途絶える。
静寂な夜が戻り、周囲は静かだった。
□
「パラレルワールドのことは話さなかったのかい?」
放送を終えたスマートレディは振り返り、笑顔を声の主に向ける。
「ですから、裏ルールです。このことはいい子にしか教えたくないんですよ」
「食えないね」
「『キュウべえ』ちゃんには言われたくないですねー。あ、肉球ぷにぷにしていいですか~?」
キュウべえ、と呼ばれた白い四足獣は小首をかしげた。
愛らしいしぐさをしているが、油断できない相手である。
「それにしても君たちには驚かされるよ。魔女の結界を科学力だけで再現するなんてね」
「キュウべえちゃんが異世界に干渉する力を王くれたからですよ~。
もっとも、王様もまたオネムしちゃいましたけどね~。ねむねむ……」
スマートレディは両手で枕を作り、眠る仕草をした。
それに対し、キュウべえは特に反応を返さず棺を見る。
視線の先には灰色の怪人が眠っている。
「ぼくとしてはあの魔女の復活を待ち望んでいるんだけどね。
まどかクラスのエネルギーを回収できるかもしれないなんて、宇宙全体にとっての幸福だ。
君たちの世界にこぼれ落ちた甲斐があったわけだよ」
「あら、キュウべえちゃんいけませんよ。魔女ではなく、オルフェノクって呼ばなきゃ」
「フフッ、インキュベーターの存在しない世界でも、人間というやつは独自の進化を遂げる。
己の力だけで魔女へと至る道をつくるなんて、君たちはどこまでも興味深いよ」
つぶらな瞳には感情が一切込められていなかった。
心弱いものなら恐ろしくなるだろうが、スマートレディの態度は変わらない。
道化のごとく笑みをたたえるだけ。
放送を終えたスマートレディは振り返り、笑顔を声の主に向ける。
「ですから、裏ルールです。このことはいい子にしか教えたくないんですよ」
「食えないね」
「『キュウべえ』ちゃんには言われたくないですねー。あ、肉球ぷにぷにしていいですか~?」
キュウべえ、と呼ばれた白い四足獣は小首をかしげた。
愛らしいしぐさをしているが、油断できない相手である。
「それにしても君たちには驚かされるよ。魔女の結界を科学力だけで再現するなんてね」
「キュウべえちゃんが異世界に干渉する力を王くれたからですよ~。
もっとも、王様もまたオネムしちゃいましたけどね~。ねむねむ……」
スマートレディは両手で枕を作り、眠る仕草をした。
それに対し、キュウべえは特に反応を返さず棺を見る。
視線の先には灰色の怪人が眠っている。
「ぼくとしてはあの魔女の復活を待ち望んでいるんだけどね。
まどかクラスのエネルギーを回収できるかもしれないなんて、宇宙全体にとっての幸福だ。
君たちの世界にこぼれ落ちた甲斐があったわけだよ」
「あら、キュウべえちゃんいけませんよ。魔女ではなく、オルフェノクって呼ばなきゃ」
「フフッ、インキュベーターの存在しない世界でも、人間というやつは独自の進化を遂げる。
己の力だけで魔女へと至る道をつくるなんて、君たちはどこまでも興味深いよ」
つぶらな瞳には感情が一切込められていなかった。
心弱いものなら恐ろしくなるだろうが、スマートレディの態度は変わらない。
道化のごとく笑みをたたえるだけ。
こうして、もっともたちの悪いバトルロワイアルが始まった。
【水原@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト:死亡確認】
【残り57人】
【残り57人】