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What Mad Universe

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What Mad Universe ◆7WJp/sJ4G6


【0】

 狂っているのは俺なのか、あいつなのか。

 ――――それとも、世界がおかしくなってしまったのか。


【1】

 ウルフカットの髪が特徴的な青年、乾巧は『バー・クローバー』の中で酒をあおっていた。
 『一定の空間に集められた人間が殺し合う』、そんな非常事態にあっても酒を欲するようなアルコール中毒患者では彼は決してない。
 彼は酒を飲みアルコールを体内に巡らせることで、ある現実から逃避しようとしているのだ。

「……くそっ!」

 空になったグラスを乱暴にカウンターテーブルへと叩きつけて悪態をつく。
 その原因は、無頼漢の巧にとっては友人と呼べる数少ない女性にある。
 その女性の名は園田真里、デイパックの中に入っていた名簿にその名を連ねていた女性である。

 巧は、園田真里を救うために真理との関係を捨てた。
 巧は、真理の命を取り戻すために数えるほどしかいない大切な友人との交友を捨てた。
 だというのに、殺し合いなんてふざけたものに巻き込まれるだなんて。

 ――――まるで、世界が真理の死を望んでいるかのように思えた。

「……ぁあ!」

 巧は激昂と苛立ちを隠すことなく、短い咆哮を上げてグラスを壁へと投げつける。
 グラスの割れる音を聞きながら、テーブルに突っ伏した。
 分かりやすくも跳ね返すことの出来ない無気力感が巧の全身を襲っていた。

 もう元には戻れない世界。真理と、同じく友人である菊池啓太郎がいる日常。
 その二人の日常だけでも守りたくて、敵との交渉に挑み、己の秘密も晒したというのに。
 その僅かな日常すら消えてしまう、そんな可能性が巧の頭を支配する。

「この手がっ……!」

 巧は自身の『灰色の手』を見ると、その手を強く握りテーブルに叩きつける。
 その灰色の手こそが、人間が死ぬことで生まれ変わる『オルフェノク』という変種の生物である証拠だ。
 オルフェノクは人と動物や植物を相混ぜにしたような、およそ地球上に存在するどの生物にも当てはまらない姿をしている。
 人間との差異はその姿だけではなく、素手で猛獣以上の戦闘力も特徴の一つだ。
 人の形をした灰一色の猛獣、地球という星に突如現れた突然変異体・オルフェノク。
 そして、巧の正体は人間の真理とは違う、その化け物のオルフェノクなのだ。

 だが、巧を苦しめるモノはそれだけではない。
 巧には記憶が喪失している時期がある。
 その時期とは一年も経っていない最近の話であり、それは巧がオルフェノクに変身した時期でもある。
 言っておくが、記憶の喪失は決してオルフェノク特有の性質などではない。
 オルフェノクであることを拒否していた巧が、急にオルフェノクになったことが原因なのかもしれない。
 そんな考えも納得出来るほどに、巧は自身がオルフェノクであるということに対する嫌悪感が持っていた。

 だが、記憶がはっきりしない原因自体は大きな問題ではない。
 本当の問題はその記憶の曖昧な時期に、『巧』が『真里』を『襲ってしまった』可能性があることなのだ。

 ――――泣き叫ぶ真理とその場に集まっていた真理の旧友たち、そしてそこに居る怪物と化した巧の姿。

 巧はそんな映像を、確かな映像を見てしまったのだ。

「……っ!」

 この灰色の手は巧と友人たち、いや、世界そのものを遠ざける原因、巧が人ではない証。
 人のそれではないその手は、巧にとっては幼い頃から存在する巨大な壁だった。
 目を逸らし続けた事実に目を向けてまで救った真理の命が、今また理不尽にも危機に襲われている。
 そんなどうしようもない現実から逃げるために摂取したアルコールの影響か、巧は眠気に襲われていた。
 いっそ、このまま何もかも投げ出して眠ってしまいたかった。

 だが、そんな巧の耳に扉の方向から鈴の鳴る音が聞こえた。

「……誰だ」

 なんの警戒も示さず、巧は言葉だけで訪問者に問いかける。
 無用心なその態度は、人とかけ離れた耐久力を持つ化け物であることへの自虐的な感情から来る自信なのかもしれない。
 だが何の返答も帰って来ないため、巧は仕方無しに視線を扉へと移す。
 そこには拳銃を構えた男が一人だけ居た。
 その男が持つ拳銃はニューナンブM60。
 警視庁に正式採用され、また警察以外の公的組織にも採用とされている回転式拳銃だ。
 しかし、そんな知識を持たない巧はそれを拳銃だとしか認識せず、またそれを持つ人物が見知った人間であったことも あって拳銃への興味は消え去ってしまった。

「――――たっくん?」
「啓太郎……か」

 そこに立っていたのは乾巧の数少ない友人のひとりである菊池啓太郎その人だった。
 汚れたままの服と顔はきれい好きの啓太郎らしくないが、短い髪と見慣れた童顔は間違いなく啓太郎だ。
 驚きに満ちた啓太郎の瞳から逃げるように、再び巧はテーブルに突っ伏した顔を隠す。
 啓太郎たちの前から消えた巧みには、どのような顔をして啓太郎と向きあえばいいのかわからなかった。
 だが、啓太郎はそんな巧の気持ちなどお構いなしに小刻みに唇を震わせたまま巧の名前を叫んだ。

「た、た……たっくん! たっくんだよね! 本当に、本当にたっくんなんだよね!?」

 拳銃が地面に落ちる音をかき消すほどの大声で啓太郎が叫ぶ。
 巧は駆け寄ってくる足音を聞きながら緩慢な動作で身体を起こす。

「おい、啓太――――」
「たっくん! 今まで何処に居たの!? 俺、俺……!」

 その異常な様子に巧は拒絶の言葉を止める。
 見れば啓太郎の目からは大粒の涙がこぼれ出し、よく見ればその顔は巧の知る顔と違い若干の逞しさを感じさせるものだった。
 また、その両手も荒れに荒れている。
 巧はあの事件までは啓太郎のクリーニング店に居候しており、仕事や家事をしている啓太郎の手は見慣れている。
 だからこそ、その荒れは一朝一夕で出来るようなものではないことが巧にはわかった。

「こんな状況だけどさ、俺、たっくんにまた会えてすごい嬉しいよ……!
 俺さ、ずっと、たっくんが居なくなってからもさ、ずっとオルフェノクと戦ってたんだよ!」
「……啓太郎?」

 涙を流しながら、縋りつきながら、啓太郎は胸のうちを巧へと伝える。
 巧はといえば要領を得ないまま、震える啓太郎の手を握ることしか出来ない。
 そんな巧に気づいていないのか、啓太郎は巧へと話しかけ続ける。

「でもさ、木場さんも、草加さんも、いろんな人達が居たけど……俺も頑張ったけどさ……
 やっぱりファイズが、たっくんが居ないと駄目なんだよ!
 オルフェノクと戦うには、たっくんが必要なんだよ!」
「……お、おい、啓太郎」

 異常な啓太郎の様子に、巧は強い動揺に襲われる。
 巧は僅かに考え込んだ後、自分自身を落ち着かせる意味も込めてゆっくりと言葉を投げかける。

「……啓太郎。お前、なにがあったんだ?」
「お、俺、真里ちゃんからたっくんと別れたときのこと聞いてたから……!
 ひょっとして、万が一にも死んだんじゃないかってずっと不安で……
 でも、たっくんが死ぬわけないってわかってた!
 だから、俺、たっくんとまた会えて……また会えて……!」
「……」
「これからはまた一緒だよね、たっくん!」

 感極まったように喋る啓太郎を見ながら、巧の頭は混乱していた。
 なにかがおかしい、巧ははっきりとそう認識した。
 啓太郎は「巧がオルフェノクであろうと関係ない」という態度だったが、その中にもどこかぎこちなさがあった。
 そのぎこちなさこそが巧が真理と啓太郎から離れる原因となったのに、今はそのぎこちなさを一切感じない。
 それに今の啓太郎が「オルフェノクと戦うだ」の、「オルフェノクを倒すには巧が必要だ」と言うとは思えない。
 オルフェノクという存在自体を避けるように振舞うはずだ。

 なにかがおかしい。

 まるで巧と長い間離れていたかのように話す啓太郎がおかしいのか、それとも真理を襲った記憶がないように巧自身がおかしいのか。

「……」
「たっくん……たっくん!」

 だが、巧は啓太郎に正気を問うことをせず、ある考えに支配されていた。
 狂ってしまったのが巧でも啓太郎でも世界でも、なんであろうと構わない。
 今は少しだけの間、啓太郎が巧をオルフェノクであることを知らないかのような、そんな甘い夢に浸りたくてたまらなかった。
 疲れ果てた巧は、その甘い夢に守られたくなっていた。


【F-3/バー・クローバー/一日目 深夜】
【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:僅かにアルコールが入っている
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本:アルコールの影響と啓太郎の言動により、混乱
1:出来るならば、啓太郎と行動する
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です

【菊池啓太郎@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60@DEATH NOTE
[道具]:共通支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本:巧と共に行動する
1:たっくん!
[備考]
※ニューナンブM60の予備弾の有無、有していた場合の弾数などは後続の書き手にお任せします

【ニューナンブM60@DEATH NOTE】
夜神総一郎たち刑事が使っていた回転式拳銃。
警視庁に正式採用されている拳銃で、装弾数は5。


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初登場 乾巧 032:探し物はなんですか?
初登場 菊池啓太郎


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