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私だけがいればいい

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私だけがいればいい ◆Vj6e1anjAc


 冬木大橋。
 本来ならばその名の通り、日本の冬木市にあるべきものである。
 開発の進む都市部・新都と、古い町並みを残す深山町――冬木市内において、この相反する2つのエリアを結ぶのが、この橋であるはずだった。
 故にこの島にあるこの橋は、本来あるべき冬木大橋の、レプリカとでも言うべきもの。
 異なる場所に複製されたそれは、その土地と土地の間隔に合わせ、スケールも微妙に異なるものになっていた。
「――これは窮地と見るべきか、はたまた好機と見るべきかな」
 くつくつ、と。
 赤い鉄骨造りの橋に立つのは、黒衣に身を包んだ長身の男。
 その冬木大橋の真ん中に、宵闇に溶け込むかのようにして、1人の青年が立っていた。
 その名を、ロロ・ヴィ・ブリタニア。
 神聖ブリタニア帝国が国教・エデンバイタル教団の枢機卿の座に、若くして上り詰めた男である。
 彼の口元に浮かぶのは、笑み。
 得体の知れない『儀式』に巻き込まれ、殺し合いを強要された立場にしては、ともすれば緊張感に欠けているようにも見える顔つきだ。
「よもや取り逃した獲物達に、こうもあっさりと追いつけるとは」
 ロロの紫色の双眸は、手元の名簿へと向けられていた。
 この儀式に参加させられた、57人のプレイヤーの名が、びっしりと書き連ねられた代物だ。
 そしてそれらの名前のうち、彼が着目したものは3つ。
 自らの地位を奪った憎むべき兄――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 魔道器を駆り立ちはだかる妹――ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
 そして渇望する魔王の力――C.C.。
 そのどれもがロロにとっては重要なファクターであり、そのいずれの命も、元より彼にとっては、刈り取るべき対象であったのである。
(ゼロの持つ魔王の力……それさえ手に入れることができれば、この『儀式』に勝ち残ることも難しくはなくなる)
 にぃ、と邪悪に笑む様は、兄ルルーシュと同じ血を引く故の仕草か。
 生まれた時より皇位を奪われ、影に追いやられた彼の闇は、より凄絶さを増しているようにすら感じられる。
 ロロが狙うものはシンプルな答えだ。
 ルルーシュらを殺害することで、自らが魔王の座を継承する。
 その力を持ってブリタニアに帰還し、父シャルル・ジ・ブリタニアから王座を奪う。
 自らを貶めた全てを殺し、世界の全てを手中に収める――魔王を目指す者が歩むのは、血のカーペットに彩られた修羅道だ。
(……だが、分からないこともある)
 しかし。
 笑みを浮かべていたロロの顔が、不意に怪訝そうなものへと変わった。
 彼の高揚を打ち消したのは、同じくそこに記された2つの名前だ。
 ロロ・ランペルージなるものと、ゼロなるものの名前である。
(まずはゼロだ。こいつ自身は、同名の別人とも考えられるが……)
 1つ目の名前によって浮き彫りになるのは、自らが追う者に対する疑念である。
 そもそもゼロというものは、ルルーシュがC.C.と契約を結び、同化した魔人の名乗った名前である。
 そしてそのゼロと同じ名前こそが、両者の不可解さを際立たせていた。
 この名簿に記されている名前が真実ならば、現在そのルルーシュとC.C.は、再び別々の個体として分裂したということになる。
 果たしてそんなことが可能なのか、はたまたそうする意味があるのか?
 本人の意志でないのなら、アカギ達主催者側がそうさせたのか? 何のためにそうしたのか?
 両目に見据えた獲物の焦点が、急速にブレていくのを感じた。
(それだけではない。気がかりなものはもう1つある)
 そしてある意味でそれ以上に、ロロ・ヴィ・ブリタニアが気にかけるもの――それがロロ・ランペルージなるものの存在である。
(私と同じ名前を持つ、私の知らないランペルージとはな……)
 こちらは偶然と断じるには、あまりにも性質の悪い存在だ。
 そもそもランペルージという姓は、ブリタニアの追っ手から逃れるために、ルルーシュが創作した架空の姓である。
 そしてそのランペルージの家系に、自らと同じロロなる人間が存在しているというのだ。
 この名前が指すものが、自身でないことは理解している。名簿にはランペルージ姓ではない、ブリタニア姓のロロの名前も書かれている。
 なれば、やはりロロ・ランペルージという個人が、この殺し合いに参加させられているということになるだろう。
 真の弟を差し置いて、同じ名前の、別の身内が存在する可能性があるということか。まったく、嫌味な冗談もあったものだ。

「……うん?」
 ふと。
 その時、ふと目をやったその先に。
 自身と同じく橋の上に、1つの人影が見えた気がした。
 目を凝らして見てみると、まぎれもなくそれは人影だった。
 一瞬判断を迷ったのは、それもまた己自身と同じく、黒ずくめで身を覆っていたかららしい。
 闇の内から覗くような。
 黄金色の単眼の少女が、ぼんやりとこちらを向いて佇んでいた。
(奴の言っていたプレイヤーか)
 どうやら蹴落とすべきライバルが、こちらの存在を察知したようだ。
 後手に回ったことに舌打ちしつつ、ロロは相手の様子を探る。
 黒を基調とした服装は、燕尾服を女性風にアレンジしたものか。ところどころに飾られた、白いフリルが印象的だった。
 ショートカットの黒髪の下では、右目が眼帯によって隠されている。相手が単眼に見えたのは、この眼帯が原因らしい。
 冷たい夜風に煽られて、テールコートとボブヘアが揺れる。虚ろな視線と相まって、幽鬼のごとき印象を受ける。
 果たして、娘は本当にそこにいるのか。はたまたそこにあるのは幻なのか。
 触れたら即座に掻き消えるような、蜃気楼のようにも感じられた。
 異様な女だ。
(だが、殺意は感じられない)
 脱力しきったその少女と、自らの間の距離を探る。
 距離にしておおよそ50メートル。己の「力」の射程外だが、この腑抜けた状態から、一瞬で詰められる距離でもない。
 ならば、勝負が始まるのはこれからだ。
 仮に攻めてくるにしても、まだワンテンポ猶予がある。奴が臨戦態勢を取る前に、取るべき対処法を構築すれば――
「―――」
 刹那。
 にぃ、と。
 眼前に浮かんだ幻が、微かな笑みを浮かべた瞬間。
「ッ!」
 黒衣の少女の体躯が、一瞬にして倍近くに膨れ上がった。
(速い!?)
 実際に巨大化したわけではない。遠近感が生み出す錯覚だ。
 なれば目の前の少女が、自分の想像を超えた速度で、一気に肉薄してきたことになる。
 想像以上の加速度だ。対策は一瞬にしてご破算となった。
 振りかぶる右手に掲げたものは、爛々と煌めく3本の鉤爪。
 20メートル、10メートル、5メートル。コマ送りの度に詰められる距離。
(ジ・アイス――間に合えッ!)
 きっ、と黒衣の少女を睨んだ。
 エデンバイタルとのバイパスを繋ぎ、外なる力を内へと取り込む。
 心中で絶叫した力の名は、万物を凍てつかせる静止の力。
 ギアス能力「ジ・アイス」――自らのテリトリーに入った獲物に作用し、あらゆる運動速度を低下させる不可視の枷だ。
 叩き込まれるは漆黒の魔手。
 それを阻むは時の凍結。
 一瞬の間の攻防が、まばたきと共に過ぎ去った瞬間。
「……!?」
 ぷつ、という微かな裂音と共に。
 端整な顔つきの左頬に、赤いラインが浮かび上がった。
(かわしきれなかった? 馬鹿な、かわせるだけ「遅らせた」はずだ!)
 己の傷を指先でなぞり、ロロは内心で驚愕する。
 普段通りであるならば、今のは完全に回避できた。内から外へと発した力は、それだけの出力を用意したはずだ。
 しかしターゲットの移動速度は、その予想よりも僅かに「速いまま」だった。
 ギアス能力の出力が不十分だった――それ故に攻撃を回避しきれず、敵の爪が頬をかすめたのだ。
「んっ、んー……?」
 背後から聞こえる声に、向き直る。
「あっれぇー、変だな……当たるようにしたんだけどなー……」
 すれ違いざまに斬りかかった少女が、怪訝そうに首を傾げる。
 暢気とすら形容してもいい、間延びした呟き声だった。一瞬前のロロと同じ、戦場には似つかわしくない余裕の声だ。
 あの突風のような突撃からは、予想だにできない発声と言えよう。
「……うん」
 くるり、と黒髪が振り返る。
 背中を見せた態勢から、再び向き合う姿勢に戻る。
「でも、ま、その、あれだ」
 じゃきん、と物騒な音が響いた。
 片手のみだった鉤爪は、三爪二対の双刃に変わった。
 左手にも装着されたことで、合計6本となった爪が、柳のごとく涼風に揺れる。
「些細だ」
 にやり、と笑みが浮かんだ瞬間、再び風が吹き荒れた。

 脱力からのロケットスタートが、ロロの元へと殺到する。
 速度は見切った。間合いも見切った。ギアスの不調も理解している。
(今度は許さん!)
 ジ・アイスを再発動。
 領域内に踏み込んだ敵の、歩みを凍らせ減速させる。
 普段以上の力を込めて、猛然と迫りくる弾丸を回避。
「ひゅう! すごいねっ、またかわした!」
 がりがりとアスファルトを削る音が、振り向くロロの耳に届いた。
 向き直り両爪を地に立てて、強引にブレーキをかける少女が、口笛と共に賞賛する。
「でもまだ次があるよっ――」
 完全に停止するや否や、加速。
 凶刃はブレーキからアクセルへと変わった。
 爪の長さの分浮いた身体を、水泳のごとくキックで発射する。
 宵闇を泳ぎ、右手を一閃。
 これまたかわされたと見るや、その手を地につけて、一蹴。
 カポエイラの要領で放たれた、独楽を思わせる回転蹴りが、男の鼻の先を走る。
「――次々次次次次次次次ィッ!!」
 瞬間、突風は竜巻へと変わった。
 斬る、薙ぐ、蹴りかかる。
 回転の勢いを味方につけ、轟然と放たれる連撃が、爆音を伴って鼓膜を揺さぶる。
 流麗かつ間隙なく迫る刃が、相反する獰猛さを宿して迫りくる。
 黒豹の牙か――獣を思わせる金眼を前に、ロロは敵の姿をそう評した。
 強く鋭くしなやかに、喉笛を噛み千切らんと攻め立てる様は、まさに人の皮を被った野獣だ。
「あっはははははは!!」
 調子の外れた声を上げて、けたけたと少女の顔が笑う。
 第一印象の静けさとは、既に全くの別人だった。
「図に乗るのはそこまでにしてもらおうか……!」
 されど、そうしていつまでも笑わせはしない。
 このままいいようにさせるつもりはない。
 魔王たらんとするロロ・ヴィ・ブリタニアは、こんな馬の骨相手には屈しない。
 にやり、と顔に浮かべたものは、威嚇の意を込めた邪悪な笑みだ。
 知性あるエデンバイタルの獣が、絶対零度の牙を剥く。
 ずずずずず、と響くのは、さながら耳鳴りにも似た裂音。
 量子シフト、始動/空間座標軸、固定/ナイトメアフレーム、転送。
「現れよ! 魔王の騎馬――ヴィンセントッ!!」
 さっ――と掲げた右腕が、烈風を伴い夜空を裂いた。
 ばたばたとマントをはためかせ、ロロの異能が空間を引き裂く。
 夜より暗き黒の窓から、姿を現すものは黄金。
 ずぅん、と地鳴りが足に伝わる。目を丸くする少女の前に、金色の巨人が姿を現す。
 身長4メートルの巨躯に宿されたのは、見る者全てを圧倒する威容。
 騎馬(ナイトメア)の名はヴィンセント。
 魔王継承者のために生み出された、ロロ専用の機動兵器である。
「ひれ伏せ、我が力の前に!」
 刹那、世界は一変した。
 静かな夜から、激動の嵐へと。
 どうっ、と吹き荒れるのは吹雪。
 比喩でも誇張でも虚構でもない、絶対零度の突風が、鉤爪の女へと襲い掛かる。
 ヴィンセントに積まれた増幅回路が、ロロのジ・アイスを強大化させた副産物だ。
 運動速度を落とすギアスは、大気の熱運動さえも阻害し、テリトリー内の空気を急冷させた。
「!」
 ばっ、と。
 危機を察知したらしき少女が、攻撃態勢を解いてその場から飛び退く。
 回避しきれなかった鉤爪の先が、ぱきぱきと音を立てて凍結した。
「逃さん!」
 ちゃき、と抜いたのは黒光りするピストル。
 ロロの構える銃口が、雄叫びと共に銃弾を吐き出す。
 狙いはターゲットの眉間――しかし、狙い通りには当たらず。防いだのは右手から伸びた爪だ。
 ばりん、と。
 弾丸を文字通り相殺し、守り手は音を立て砕け散る。凍結し強度を失った得物が、銃弾によって破壊されたのだ。
 右手を振り抜くと同時に、着地。破片が地についた頃には、新たな爪が姿を現す。

(まるで手品だな。いや……あるいは私の知らないギアスユーザーか?)
 拳銃を収め宙へ浮きながら、ロロは改めて少女を見定めた。
 縦横無尽に疾走し、光の爪を生むそのさまは、明らかに人間の常識を逸脱している。
 彼女もまた理を歪め、超常の力を振るうギアスユーザーなのか。そう考える方が自然とも思えた。
 少なくとも超スピードに関しては、この『儀式』にも呼ばれている、アリス・ザ・コードギアスの例もある。
「やっぱりすごいね、キミは。キミも魔法少女なの?」
「……生憎と、私は見ての通り紳士でね。とても少女とは言えないな」
 ふっ、と苦笑を浮かべながら、ヴィンセントのコックピットに入り、言った。
 黄金の騎馬に跨って、眼下の少女の姿を見やる。
 まったくもって可愛げがない。これだけの力を見せつけられながら、もう顔には笑顔が戻っている。
 であればよほどの豪傑か、あるいは力差を理解できない馬鹿か。
「ふぅーん……それで、どうするの? 私を殺したいんじゃなかったの?」
「いや、少し事情が変わった」
 玉座に座したロロの口調からは、威圧的な棘が抜けていた。
 先天的に能力を得たギアスの申し子――ワイアードギアスユーザーといえど、彼は教団所属の文官であり、根っからの戦士というわけではない。
 自分の代わりに戦う駒がいるのなら、それに越したことはない。そして相手が馬鹿だとするなら、そこには付け入る隙がある。
「どうやら君も、この『儀式』に乗るつもりのようだな。ならば同じ目的同士、ここは手を組まないか?」
 目的は殺害からシフトされる。
 選んだのは駒を得るための懐柔だ。
「駄目だよ。遠慮させてもらう」
 にべもなく切り捨てられた。
 当然といえば当然だ。
 先ほどまで自分を殺そうとした者を、いきなり信用しろというのは無理がある。いきなり首を縦に振る方がおかしい。
「ほう。では、その理由を聞かせてはくれないか?」
「生憎と、その枠はもう一杯なんだ。2人以上は守れない」
「守りたい者がこの場にいる、と?」
 無言は肯定の意と解釈した。
 どうやら彼女もまた、この『儀式』の参加者の中に知り合いがいるらしい。
 ならば、攻略の糸口も決定される。魚を釣り上げるためには、食いつきたくなる餌を垂らすことだ。
「……いいだろう。ならばその守りたい者を、共に守ることを約束しよう」
 この誘惑には抗えまい。
 優しげな言葉とは裏腹に、邪悪に笑いながら、提案した。
 たとえ馬鹿であったとしても、否、馬鹿であればこそ。
 どれだけ平静を装おうと、大切な身内が危機に晒されていれば、内心は穏やかでいられるはずもない。
 焦りに逸ったその心は、提示された条件に、疑いなく食いつこうとするはずだ。
「………」
 これにはさすがの少女も、無視を決め込むわけにはいかなかったらしい。
 凍った左手の爪を消し去ると、顎に手を添えて考える素振りを見せる。
 堕ちたな――内心でほくそ笑んだ。
 これで条件はクリアされた。
 人外の域に立つ強力な駒を、いきなり労せずして手に入れたというわけだ。
「さぁ」
 この手を取るがいい、と。
 ヴィンセントの剛腕をほどき、手のひらを差し伸べるジェスチャーを取らせた瞬間。
「――やっぱり、駄目だ」
 凍てつくような少女の声音が、スピーカー越しに耳に届いた。
「……何だと?」
「駄目なんだよ。キミは約束を守らない。他の奴は騙せても、キミじゃ私を騙せないよ」
 常に笑っていたその口元が、冷気と共に釣り下がる。
 への字に口を結んだ少女が、金の隻眼で巨人を見上げる。
 夜風に揺れる襟の影から、鋭い眼光が突き刺さった。

(ただの番犬ではない、か……)
 ほとんど即決だ。理性で判断した様子はない。
 恐らくは本能的な直感で、こちらの目論見を看破したのだろう。
 得意げに笑っていたロロからも、次第に笑顔が消えていく。
「どうしても、手を組むつもりはないと?」
「彼女には私だけがいればいい。誰の手も煩わせるつもりはないし、誰の手にも触れさせるつもりはない」
 ただの番犬であるならまだよかった。
 犬は知性ある動物である。
 ある程度の条件を与えれば、理性でその利点を判断し味方につく。場合によっては、尻尾を振らせることもできただろう。
 だがこの娘には通用しない。
 何者にも従わず、何者であっても従えられず。
 こいつはきっと理性でなく、野性で全てを認識し、本能で愛する者を独占する魔物。
 獣の範疇にすらない。文字通り住む世界が違うのだろう。
 たとえるなら理解も共感も跳ね除けて、迫るもの全てを食らう魔犬獣(ケルベロス)だ。
 黒豹という認識ですら、過小評価であったというわけだ。
「ならば仕方ない……予定通り消えてもらおう!」
 ほどいた手のひらを握り直し、ヴィンセントにファイティングポーズを取らせる。
 ジ・アイスを再度発動し、魔性の吹雪を轟かせる。
 味方にできないと分かったのなら、もはやこいつを生かしておく理由はない。
 こいつは危険だ。
 それが野獣であれ魔獣であれ、手なずけられない獣であれば、こいつは確実に自分に食いついてくる。
 背中を見せた先に待つのは、背中から噛みつかれる末路だ。
 殺すにせよ、倒すにせよ、この場は退けておかなければ。
「……ふっ、はは! その重たそうなデカブツでかい!?」
 狂笑。
 絶叫と共に顕現する、殺意。
 ばっと開いた両腕から、必殺の凶刃が牙を剥く。
「面白バカみたい! やれっ! やってみせてよ魔王サマ!」
 刹那、疾走するは三爪二対。
 びゅん、と風切り音が響く。
 きぃん、と吹雪を突き抜け進む。
 両腕を高らかと掲げた姿勢で、斜め前方上に猛スピードで跳躍。
「ならば、ご期待に応えるとしよう!」
 ここで大人しく食らうようでは、魔王の名折れというものだ。
 機体前面の大気目掛けて、ジ・アイスをフルパワーで発動。
 虚空に顕現したものは、直径3メートルにも到達する円形の氷壁。
 黒き魔戦士の行く手を阻み、破壊力をそぎ落とす白銀の盾だ。
「ハァァァァァッ!」
 それでも少女は止まらない。
 氷壁に真っ向から突撃し、ばりんと爆音を立て砕きながら、尚も魔王の懐へ殺到する。
 ジ・アイスの速度低下にも、氷壁の障害にも怯むことなく。
 轟然と唸りを上げ、一閃。
 斬――と。
 重力加速を得た上空から、両の爪を同時に叩き下ろす。
「!?」
 その、瞬間だ。
 狂喜に満ちた少女の顔が、驚愕の一色に染まったのは。
 突き出されたヴィンセントの左腕は――無傷。
 いくら威力を殺されたとはいえ、この渾身の一撃を、全くの無傷で受け止められるとは。
 この戦闘が始まって以来、初めてまともに味わったであろう困惑が、その顔からありありと伝わってくる。

「――チェックだ」
 そしてその驚愕こそが、ロロにとっては最高の供物だ。
 ぱきぱき、ぱきぱきと音が上がる。
 黄金の甲冑の表面から、凍った時が侵食を始める。
 攻撃を防いだ左腕から、熱運動停止による凍結が始まり、少女の爪を貼り付けたのだ。
 これでもう逃げられない。
 五月蠅い虫は羽をもがれた。
 ならば、この痴れ者が辿る未来はたったひとつ。
 魔王に噛みついた反逆者の罪は、たとえそれが畜生であろうと、その命をもって償ってもらう。
「死ねッ!!」
 レバーを操作。
 サクラダイトが躍動。
 マッスルフレーミングを介して、電気信号が伝達される。
 隆々と唸る右腕部が、重厚な効果音と共に駆動。
 ごっ、と鈍い音を伴って。
 まばたきをした瞬間には、既に拳は突き出されていた。
 黄金に煌めく鉄拳が、漆黒の少女を吹っ飛ばした。
 爪を砕かれ、支えを失った娘は、ろくに抵抗もできずに宙を舞う。
 無様に脱力しきった身体が、アークを描いて投げ出される。
 ばしゃん――とスピーカーが拾ったものは、眼下の海から響く音か。
 盛大な水しぶきを上げた後、凶刃を振るった少女の姿は、海面の波紋に溶けて消えた。


 かつり、とアスファルトを叩くブーツの音。
 黒のマントで半身を覆い、ロロ・ヴィ・ブリタニアが街中を進む。
 ヴィンセントのランドスピナーを以って、橋を渡り終えた彼は、地図上西部の市街地へと到達していた。
(橋を降りた直後、ヴィンセントは何者かによって、強制的に回収された……)
 一瞬前に起きたことを、回想する。
 戦闘が終わり、移動を開始し、地に足が着いたその時、突如ロロはパイロットシートから、地上へと投げ出されたのだ。
 魔王の騎馬が彼を吐き出し、量子テレポートの闇をまとって、いずこかへと姿を消したのである。
 このような現象は起こるはずがなかった。
 マークネモやガウェインと異なり、純粋に人の手によって作られたヴィンセントが、そんなオカルト寄りの不具合を起こすはずはない。
 であれば、考えられる可能性はひとつ。
 あのアカギなる者が、ヴィンセントに細工をし、一定以上の現界を不可能にしたのだ。
(まぁ、呼べないよりはマシとしよう。次に呼び出せるのは、いつになるかは分からんが)
 こうなると手駒の存在は、今まで以上に重要になってくるだろう。
 ヴィンセントに制限が課され、ジ・アイスさえも弱体化した今、己が戦闘能力は著しく低下している。
 加えて荒事から距離を置く文官の身では、あの少女のような達人とは、生身でまともに立ちまわるのは難しい。
 あれだけの実力者が、他にいることを考えるならば、早急に戦力を整えるべきだ。
(惜しかったな、あの娘は……)
 橋の方を振り返り、内心で独りごちた。
 結局海に落ちた少女の生死は、確認することはできなかった。
 他にも敵がいる以上、彼女だけに執着しているわけにはいかない。撃退という目的は果たした以上、そのままそこを立ち去ったのだ。
 だが生きているにせよ死んでいるにせよ、あれだけ派手にやってしまえば、もう手元に加えることはかなわないだろう。
 残念だ。あのまま手駒にできたなら、さぞや役に立っただろうに。
(ないものねだりをしても仕方がない)
 大事なものは、あるものをこの手に掴むこと。
 忌むべき兄妹を抹殺し、魔王を我がものにすることだ。
「待っているがいい、ゼロよ。私は全てを手に入れるぞ」
 にやり、と。
 不敵な笑みを浮かべながら、青年は1人歩を進めた。


【H-3/橋の近く/一日目 深夜】

【ロロ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、左頬に切り傷(軽度)、ヴィンセント召還制限中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、コルト・ガバメント(6/7)@現実、不明ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本:この殺し合いの優勝者となる
1:ルルーシュとC.C.を抹殺し、ゼロの力を手に入れる
2:ナナリーを抹殺する
3:このまま市街地に入る
4:手駒にできそうなプレイヤーを見つけたら、戦力として味方に引き入れる
5:眼帯の少女(呉キリカ)は深追いしない。ひとまずは放置し、他のターゲットを探す
6:ゼロともう1人のロロ(ロロ・ランペルージ)の名前に違和感
7:魔法少女とは何のことだったのだろうか?
[備考]
※参戦時期は、四巻のCODE19と20の間(ナナリーを取り逃がしてから、コーネリアと顔を合わせるまでの間)
※ジ・アイスの出力には制限が設けられています。普段通りに発動するには、普段以上のエネルギー消費が必要です
※ヴィンセントには、召還できる時間に制限があります
 一定時間を過ぎると強制的に量子シフトがかかりどこかへと転移します
 また、再度呼び出すのにもある程度間を置く必要があります
 (この時間の感覚については、次の書き手さんにお任せします)
※ルルーシュとC.C.が、別世界から来ている人間であることに気づいていません
 「自分の世界のルルーシュとC.C.が、何らかの要因で分裂している。ゼロは同名の他人である」という仮説を立てています




 冬木大橋の橋の下に、蠢く小さな影が1つ。
 布を手に取り絞るのは、華奢な少女の形の影だ。
 両の指先でつまんだものは、女ものの三角形のショーツ。
「……まぁ、恥部を見せびらかすのは駄目だよね。はしたない、って叱られちゃう」
 一瞬の逡巡を示した後に、生乾きのそれを足に通した。
 水滴の浮かぶ太腿に、するすると布地を上らせていく。
 すっ、と黒いスカートを持ち上げると、ようやくショーツを穿き終えた。
 さすがに水気の残るそれは、じめじめと肌に貼りついて気持ち悪い。
 だが、下手を打ったのは自分なのだ。偉そうに不平を漏らすわけにはいかなかった。
「これで着替えは完了、と」
 呟き、1人腰を下ろす。
 黒髪と黒ずくめの女戦士――呉キリカは生きていた。
 KMFの鉄拳を食らい、海に叩き落とされながらも、ここまで逃げ延びていたのだ。
「こっちは乾いてからつけよう」
 ショーツと同じ色のブラジャーを、ずぶ濡れの衣服と共に、デイパックへ押し込む。
 白いシャツとピンクのスカートは、彼女が「変身」する前に身につけていたものだ。
 戦闘服に変身し、魔法を操り、魔女を倒す――彼女は自身が言った通りの、魔法少女と呼ばれる存在だった。
 変身を維持している間は、元の服が損壊することはないのだが、
 海に落ち濡れた身体で、うっかりそのまま変身を解いた結果、私服までずぶ濡れにしてしまい、今に至ったというわけである。
 今まさに彼女が着替えたのは、たまたま支給品に入っていた、どこぞの学校の制服だ。

「……危なかった」
 未だずきずきと痛む胸を押さえ、直撃の瞬間を回想する。
 ほとんど直感的な動作だった。
 直撃を受ける瞬間、自身の魔法を行使して、鉄拳の威力を「スピードごと殺した」。
 そのままわざと大げさに吹っ飛び、海へ飛び込み、目をくらませた。
 そう。キリカの有する能力は、あのロロの持つそれに近しいものだ。
 自らと相対した者の時を遅らせ、相対的に速力を得る力――速度低下の魔法である。
 それをあんな風に使うとは、今まで思ってもみなかったのだが。
(今の私の攻撃力では、あれを倒すことはできない)
 強いだけなら御するのは容易だ。敵の攻撃を遅らせてかわし、食らう前に倒せばいい。
 しかしその上硬いとなると、事情は大きく異なってくる。
 身軽なキリカの攻撃は、しかし一撃一撃の威力に乏しい。
 恐らく10本全ての指で、鉤爪を展開したとしても、あれに勝つことはできなかっただろう。
(この妙な不調のこともある)
 左手に握った魔力の結晶・黒のソウルジェムを見つめる。
 ロロが戦闘中に感じた不調は、彼女の身にも感じられていた。
 事前に橋に仕掛けたはずの、速度低下の魔法陣が、普段よりも弱くなっていたのだ。
 そして、スタミナの問題もある。魔力消費による穢れの蓄積が、普段よりも速く進んでいる。
 これらのことも考慮して、今後はより慎重に立ちまわる必要がありそうだ。
(奴は危険だ。織莉子に牙を剥く前に、何とか対策を練らなくちゃ)
 身震いしながら、目をひそめた。
 キリカはさして頭はよくない。でなければ親友・美国織莉子に、戦術・戦略は委ねていない。
 それでも彼女は直感的に、あの男の危険性を察知していた。
 目が同じなのだ。
 あれはかつての自分と――否、かつてなろうとしていた自分と、同じ目をしていたのである。
 全てを見下し、蔑む目。
 その双眸に映る全てを、嘲笑い利用し食らいつくす、獰猛な詐欺師の目をしている。
 約束などあの男には無意味だ。きっとキリカの目の届かぬところで、奴は織莉子を殺すだろう。
(それだけは駄目だ)
 すっ、とその場から立ち上がる。
 今はあえて見逃そう。現状持ちうる戦力では、あの黄金の牙城は崩せない。
 しかしあの下衆なマント男が、織莉子を毒牙にかけることは許さない。
 いいや、誰であってもだ。
 織莉子は最愛の親友だ。
 織莉子の存在が自分を変えた。彼女と仲良くなりたいという願いが、一歩を踏み出す勇気をくれた。
 それを穢そうとする者は、誰であろうと許さない。
 織莉子は私だけのものだ。
 織莉子に触れていいのは私だけだ。
「私は織莉子に無限に尽くす……織莉子、今私が助けに行くよ」
 私の手で守らなければならないのだ。


【H-5/橋の下/一日目 深夜】

【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、軽く濡れている、ソウルジェムの穢れ(2割)
[装備]:穂群原学園の制服@Fate/stay night、ノーブラ
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0~2、キリカの私服(上着、スカート、ブラジャー)
[思考・状況]
基本:プレイヤーを殲滅し、織莉子を優勝させる
1:織莉子と合流し、彼女を守る
2:まどかとマミは優先的に抹殺。他に魔法少女を見つけたら、同じく優先的に殺害する
3:マントの男(ロロ・ヴィ・ブリタニア)を警戒。今は手を出さず、金色のロボット(ヴィンセント)を倒す手段を探る
4:乾いたらブラジャーを付け直す
[備考]
※参戦時期は、一巻の第3話(美国邸を出てから、ぬいぐるみをなくすまでの間)
※速度低下魔法の出力には制限が設けられています。普段通りに発動するには、普段以上のエネルギー消費が必要です

※冬木大橋に仕掛けられた、速度低下の魔法陣は、既に消滅しています

【穂群原学園の制服@Fate/stay night】
士郎や桜の通う、穂群原学園で使われている女子用の学生服。
白いシャツにベージュのベスト、黒いスカートから成り立っている。


005:はじめてのバトルロワイアル ~十六歳と十五歳と十歳の場合~ 投下順に読む 007:What Mad Universe
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初登場 ロロ・ヴィ・ブリタニア 055:だが…信用できないのはルルーシュ・ランペルージだ…!(前編)
初登場 呉キリカ 043:ティーブレイク


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