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エピソード1・運命の一夜

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エピソード1・運命の一夜


「・・・聖ちゃん、今日も来なかったでやんすね・・・」
「・・・うん」

練習が終わり、あたりがすっかり暗くなったころ、
聖タチバナ学園野球部部室でふたりの野球部員が着替えを済まし、荷物をまとめながらある後輩について話していた。
ちなみに他の部員は一足先に帰路についている。今日はこの二人が戸締り担当だったのだ。
「やっぱりこの前のこと、気にしてるでやんすかね?」
二人のうちの一人メガネをかけた特徴的な話し方をする男がぼそりとつぶやく。
「・・・・っ・・・」
それを聞いたもう一人の男が痛々し気な顔ををする。

男の名は皆川 時雨、メガネの男の名は矢部 明雄、
この聖タチバナ学園野球部の主軸であり、
かつての弱小野球部を前の甲子園大会出場に導いた立役者4人のうちの二人である。
「あれはっ・・・僕の責任なのに・・!」
皆川が苦しそうに頭をかかえる。
「それはもう言わないと約束したでやんす。あれは不幸な偶然だったでやんすよ。それが分かってるからみんな皆川君やみずきちゃんや聖ちゃんを責めたりはしないでやんすよ?」
「うん、そうだね・・・ごめんよ矢部君ありがとう。」
「分かればいいでやんすよ。問題は聖ちゃんでやんす。」

矢部が困ったような表情を浮かべる。
度のキツイ特徴的なメガネのせいか、矢部の目はこちらからは見えず、
皆川が最初に出会ったときはなかなか表情を読み取れなかったものだが
今ではなんら問題なく目の前の親友がどんな表情なのか察することができる。
「部活に顔を出さなくなってまだ2日目でやんすがこういう問題は早めに解決しないとまずいと思うでやんす。」
急に矢部の顔がきりっとなる。
元があれなのでかっこいいわけではないが矢部の言ってること自体には同意せざるを得ないと皆川は感じた。
「そうだね・・・」
「皆川君なんかは次の日普通に来たと思ったらみんなに土下座でやんすからねぇ・・・あれには驚いたでやんす。」
「・・・・」
「聖ちゃんと同じクラスの後輩いわく学校にはちゃんと来てるそうでやんす。でも終わりのホームルームが終わるとすぐに帰ってしまうようでやんす。」

「矢部君、今から聖ちゃんの家に行こう、みんな待ってるって伝えよう。」
皆川は顔を上げ、矢部に向かって先ほどよりも若干声のトーンを明るめにして言った。
「・・・・・」




「・・・・矢部君?」
矢部は意味深に黙ったあと突然皆川を見て口を開いた
「オイラはこれから帰ってガンダーロボの再放送を見るでやんす。だから聖ちゃんを説得するのは部長兼キャプテンの皆川君にお願いするでやんす。」
皆川がへ?と間抜けな声をだしてフリーズしている間に矢部はそそくさと荷物をまとめて部室から出て行ってしまった。
ドア越しに戸締りはよろしくでやんす~という声が聞こえ、
足音とともに声がフェードアウトするのが分かった。さすがに俊足である。

「しょうがない一人で行くか・・・女の子の家に男一人で行って平気かな・・?」
一人取り残された部室で皆川がつぶやく。

「・・・オイラはなんていい親友でやんすかねぇ~はぁー・・・・・」
通学路をたどり自宅へと走る矢部がつぶやいたそのセリフは
親友への思いやりが4割残り6割はまぁ嫉妬やらなんやら負の感情が・・・
        • がんばれ矢部

「ありがとうございました~」
皆川はパワ堂できんつばを買うとその足で六道家へ向かった。
時計が午後7時を回ったところで皆川は目的の場所についた。


ほんの数分ほど時間をさかのぼる。ちょうど皆川がパワ堂できんつばを買い終えて店から出てきたころ。
(・・・今日も部活行けなかった・・・)
しっとりとした紫の髪と真紅の瞳をもつ少女――六道聖は自分の部屋で大きなためいきをついた。
部活には行きたい、けど野球のことを考えるたびに――2日前の出来事が今も鮮明に蘇る。

『レフト・皆川、ボールを拾いホームに直接バックホームっ!!
あぁっと芝生に足を取られたかバランスを崩した!
しかしボールはすさまじい勢いでホームのキャッチャー六道へと向かう!』

二日前、聖タチバナ学園野球部は甲子園第一回戦を戦っていた。
俊足の矢部、巧打の皆川・六道、一発の大京を中心に打線をつなぎ、
守備面では特にタッチアップキラーと名高い皆川の超強肩や六道の巧みなリード、
継投術で純粋なヒット以外での失点を極力抑えた。
点数は3対2と安心できるものではなかったが流れは完全に聖タチバナだった・・・・
しかし、神様は気まぐれである。9回の裏二死2、3塁。悲劇は起こった。
フルカウントから四球を恐れたみずきが投げたやや甘めの球を敵バッターが捕らえ、レフト前に運んだ。

このときの皆川はいたって冷静だった。自分の肩なら刺せると。
しかし投げたときに芝生に足をとられ、球威こそ衰えなかったが送球のコントロールが乱れた。
いつもならノーバウンドでレーザーのような勢いで聖のミットに収まるはずの球はミットに少し届かず、
ホームベース手前の地面にぶつかり、その恐るべき勢いを保ったまま聖の頭上を越していった。
予想外の展開に聖は全く反応できなかった。
その瞬間聖の頭は真っ白に、いや深い混乱状態へ陥った。


周りが何か叫んでいるけど聞こえない。
何故だ?先輩の返球、絶対に私のミットに収まっていなければならない白球がなぜない?
先輩の送球はいつも正確で私が動かずとも手元に飛んでくる。けど先輩だってミスをする。
ましてやあの土壇場だ、なら私がそれをカバーしなければならないのに!これは私の――

そこまで考えて聖はみずきが叫んでいることに気づき、ハッとする。
聖が混乱状態となり完全に動きが止まってしまっていたのが約3秒、
その間に3塁ランナーは生還し、あわててボールを取りに行くも時既に遅し、
聖タチバナ学園野球部は第一回戦でサヨナラ負けを喫した。

その瞬間、ピッチャーのみずき、
そしてレフトの皆川がその場で力なくへたり込むのを聖ははっきりと見てしまった、
みずきは大粒の涙を流し、
そして何より皆川の全てを失ったかのような表情は聖の脳裏に焼きついて離れなかった。
「・・・みんな・・・みずき・・・・・・・・・・先・・・ぱ・・・っ・・・」
先輩と口にしようとした瞬間聖の頬を伝う一筋の涙
昨日今日はお父さんの帰りが遅くてよかった・・・
普段は早く帰ってきてほしいはずの父の帰りの遅さに今回ばかりは感謝する。


ピンポーン! 不意に玄関の呼び出し音が家中に響いた。
思わずびくっとしたが慌てて涙をぬぐい・・・
「・・・どなたですか?」
聖はそういったが若干上擦った声になってしまった。
「あ、聖ちゃん? 僕だよ皆川です。」
一瞬時が止まる。その声は、一番会いたいのに一番会いたくない人のものだった。
突然の来訪に聖はどうしたらいいか分からなくなっていた。
「突然来てごめんね、どうしても聖ちゃんと話がしたくてさ。迷惑だと思うけど・・・」
「・・・・・・」
「みんな聖ちゃんのことをとても心配している。だから部活にも顔を出してほしいんだ。誰も聖ちゃんのことを恨んでなんかいないよ。」
皆川の穏やかな声が聖の耳から脳へ溶け込んでいく。
「でも・・・わた・・しは・・・」

少しの間が空き――
「ねぇ?今日はお父さん帰り遅いの?」
突然、皆川が考え方によっては非常に意味深な質問をする。
「え?あ・・・あぁ、少なくとも9時以降にはなるらしい・・」
歯切れの悪い声で聖が言う。
「そっかそっか、そいじゃおじゃましまーす。」
そういうと皆川はニコニコしながら聖の家に上がりこんだ。
内心は若干心臓を高鳴らせて。
「なー! 何故そうなる!」
「いいからいいから、良かったよあわてる元気があって。」
皆川が屈託のない笑顔を聖に向けた。
「・・・っ・・・お茶を・・入れてくるっ! 居間で待っててくれっ・・!」
その笑顔を見た瞬間聖の心はズキッと痛みを感じ、直視に耐えず、逃げるように台所に走っていった。
許可なしに他人の家に入るなど通報されてもおかしくないがそんな余裕は聖にはなかった
聖の皆川に対する信頼度が非常に高いことも手伝ったのだが。
「・・・・・・聖ちゃん・・・」


危なかった・・・あと少しで――
そこまで考えて聖は思考を停止させる。
「・・・先輩・・・・」

入部したときは他の先輩たちや同級生が奇異や不審の目で私を見てくるなか、
みずき以外では皆川先輩だけは穏やかな笑みを浮かべて私によろしくと握手を求めてきた。
不思議と笑顔に魅力を感じる先輩だと思った。
練習初日、私は目を疑った。というのも皆川先輩は守備も打撃もハイレベルだった、
だがそれだけではなかったのだ。そう肩力だ・・・
それはタッチアップの練習のときだった。
ランナーは3塁に矢部先輩、ピッチャーが投げ、キャッチャーがそれを捕球したのちノッカーの大仙監督がレフトへと打ち上げる。

「やんす!今日こそは皆川君の送球から逃れてみせるでやんす!」
「よーし勝負だ矢部君!」
さわやかな笑顔で皆川先輩は矢部先輩に言った。
その直後、落下してきたボールを捕球し、助走をつけ、全身を使って皆川先輩はホームへと送球した。
その後は一瞬だった・・・すさまじい勢いの球はぐんぐん矢部先輩との距離を縮め、そして・・・
その後監督と矢部先輩が何か話していたようだが私の耳には入らなかった。
ただ目の前の左翼手の全身を使った送球フォームとそれがもたらしたすさまじい球威の記憶が私の頭にやきついていた。


その日の練習の後、私は皆川先輩に声をかけた。
「皆川先輩。」
「あれ? えっと・・六道さん、どうしたの?」
またあの微笑を浮かべて皆川先輩は振り返った。
「先輩に頼みがある。」
「ん?どうしたの?」
「私に送球を教えてくれないか?」
この頼みに皆川先輩はすこし考えるような格好をし言った。
「じゃあ僕からの頼みも聞いてくれるかな?」
「? なんだ?」
「僕は親しい人にしか個人的に教えたり、逆に教えを乞うことはないんだ。だから六道さん。君の事を色々教えてほしい。」
「・・・はい、だぞ。」

この日から皆川と聖は積極的に会話をかわすようになった、
といっても大体は皆川が話をふってそれに聖が受け答えするものだったが、
二人の仲は日を重ねるごとに深くなっていった。
私にとって意外だったのは皆川先輩の家も寺というわけではないが
日本古来の形式で建てられた由緒ある家に住んでいるとのこと。しかも父親は剣道の師範代なのだそうだ。
また先輩は甘党というわけではないがやはり和食派であり、
和菓子が好きなようだ。パワ堂の話が出たときは私もいつもより饒舌になっていた気がする。


「皆川先輩とは共通点が多くて共感できるところも多かったな。」
台所で湯飲みに茶をそそぎながら聖はつぶやいた。
「でも・・私は先輩の・・・笑顔を奪ってしまった・・・」
先ほどは扉越しというのも手伝ってなんとか会話できたものの、いざとなると顔を見るのも怖い。
だがこうしてわざわざ先輩が来てくれたのだ、覚悟を決めなければならない。
「・・・みずき・・私に・・・勇気を・・・」
私の想いを応援してくれていた親友。
今までの先輩との関係が壊れてしまうのが恐ろしいという理由もあって部活に行けなかったがもう逃げない。

「お待たせした、だぞ。」
聖は皆川の目の前に湯飲みを置くと自分は向かい合うように座った。
「わざわざごめんね。」
皆川が熱いお茶を一口すすり湯飲みを置くと、聖が口を開いた。
「先輩・・・私は最低だ、いつも笑ってる先輩からあの時笑顔を奪ってしまった・・・」
「どうして、そう思うの?」
「私ははっきり見た! さよなら負けが決まったときレフトでうなだれてる先輩を!
マウンドでは普段めったに泣かないみずきが大泣きしていた。それもっ・・! すごく怖かったけどっ・・・っ・・せ、先輩の・・・あのと、きの・・っ・・かおが・・・っ忘れられなくてっ・・・っ・・!!」
気がつけば再びあふれていた涙を抑えられず、聖はうつむいてしまう。


皆川はとても穏やかな表情で聖の頭に手をのせ、なでた
「・・・っせん・・・ぱい?」
「聖ちゃん、君は勘違いをしている。みずきちゃんも僕も君のプレーで大泣きしたり呆然となったわけじゃない。みずきちゃんは昨日の部活が終わったあと今の聖ちゃんみたいに泣いてあのときの涙の理由を話してくれた。」

『わたしが甘い球を投げたから打たれて、時雨君がミスして聖まで傷つけてしまった』と

「! そんっ・・な・・・」
「みんな同じ思いなんだよ、矢部君や大京たちだって

『もっと打っていればバッテリーに負荷をかけずにすんだのに』

って口をそろえていっていた。だから、聖ちゃんだけ苦しまないで、聖ちゃんの今の苦しみは僕たち聖タチバナ学園野球部全員の苦しみなんだ、まだ夏があるじゃないか!みんなで分かち合えばいいんだよ、何度でも向き合えばいいんだよ、大丈夫・・・大丈夫だから・・・ね?」
皆川が穏やかな笑顔で聖の顔をのぞきこむ。
「っ・・・先輩っ・・・先輩っ・・!!うわああぁぁぁーーーーっ・・!!」
我慢の限界を超えた聖は皆川の胸に顔をうずめ、ひたすら泣きじゃくった・・・


「・・・落ち着いた?」
優しい声が聖の頭に響く。
「あ、あぁ・・・ありがとう先輩。」
「いえいえ、聖ちゃんのためならこれくらいなんでもないよ。」
「・・・先輩・・・」

言うのか? 今まで何度も言おうとして押し殺したこの言葉。この言葉につきまとうのは恐怖。
怖い、先輩に拒絶されそうで。でももう限界だこの気持ちを抑えるのは。
だから言おう。たとえ答えが私の望むものではなかったとしても。
私の孤独に光を射してくれたあなたに、この言葉を・・・

「私は・・・先輩のことが好きだっ! 先輩後輩としてじゃなくて、その・・・異性としてっ・・!」

「聖ちゃん・・・」
「ずっと・・・先輩が好きだった、でも言えなかった・・・先輩との・・・今までの思い出が壊れてしまうのが怖くてっ・・・! こんなときに話すのはずるいと分かっているっ・・・けど・・もう我慢できなくて・・・っ・・・?!」
皆川が再び泣きそうな聖を抱きしめる。
「ごめんっ・・・結局僕が君を苦しめていたんだね・・・でも泣かないで・・・僕も、聖ちゃんが大好きだから・・・」
皆川は告白の答えを聖の耳元でささやいた。そのあと
本当は僕から言いたかったのにな、と付け足した。


「え? う、嘘・・・」
聖がガバッと皆川見上げ、信じられないといった様子で皆川を見た。
が、皆川とあまりにも顔が近かったため、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「嘘じゃないよ、っていうかこんなときに嘘をつくほど僕は最低の男かな・・?」
あはは、と少し自嘲気味に笑う。それを聞いた聖はすごい勢いでぶんぶんと首を横に振り、否定した。
「で、でもなんでだ? どうしてこんな・・・全然女らしくないのに・・・」
「そんなことないよ。理由はいろいろだけど、一番は聖ちゃんの孤独が僕には分かるから、助けてあげたいなって。」
「で、でも先輩は学校では人気者で友達だってたくさんいるじゃないか。」
少しむっとした口調で聖が言う。普段人気者の皆川が孤独というのは聖にとって納得できるものではないようだ。
「だけど家に帰っても誰もいないのはやっぱり寂しいよ。
僕は親が母さんも父さんも生きてるし日曜は二人とも基本的にいるからまだいいけど、
聖ちゃんはお母さんがいないでしょ? だから僕よりもずっと寂しい思いをしてきたんだろうなって。
孤独は辛いよ・・・いつも笑顔でいることは僕のポリシーだけどその笑顔の始まりは自分の孤独を誤魔化そうとしてただけなんだよ。」
皆川の表情がふと暗くなる。笑顔が消える。聖の胸に嫌な痛みが走る。

やめてくれ先輩、そんな顔をしないでくれ。先輩は私の光―――太陽なのだから。
太陽が輝きを失ったら生きていけない。頼むから・・・!

「・・・先輩も、私も孤独だった。でももう大丈夫だ。」
さっきまで泣きそうだったとは思えないほど落ち着いた聖の声。
「聖ちゃん?」
「私には先輩が、先輩には私がいる、だから孤独じゃない。・・・私の自惚れじゃなければだが。」
「・・・っ・・・聖ちゃっ・・・うん・・・・うんっ・・・!!」
今度は皆川が、子供のように聖の胸に顔をうずめて落ち着くまで泣き続けた。


「はは、慰めるつもりが情けないな・・・ねぇ聖ちゃん?」
ようやく落ち着いた皆川が聖のほうに改めて向き直り、また表情に笑顔を見せて言った。
「何だ?」
「初めて聖ちゃんに出会ったとき、クールな子だなって思った、だけどある日聖ちゃんが下校するところをたまたま見たんだ。
そのときの表情がなんとなく寂しそうでさ。みずきちゃんに話をしたら誕生日会の計画を持ちかけられてね。
それで誕生日当日、聖ちゃんが笑ってくれて、その笑顔をまた見たいって思ったんだ。
それから毎日会話を重ねてくうちに、野球以外の話でも盛り上がれたし、日に日に聖ちゃんの表情が自惚れかもしれないけど僕の前では豊かになってくのが感じられて、
それでいつの間にか聖ちゃんのことを好きになってたんだ。」
皆川が少し照れながらぽりぽりと頬をかく。
「ど、どうしたんだいきなり?」

「皆川時雨が六道聖を好きになった理由。」

あまりにそっけなく言う皆川に聖は動転した様子で言葉にならない声を発している。
「教えてほしいんだ。六道聖が皆川時雨を好きになった理由を。」
いつになく真剣な眼差し、聖の心拍数が上がる。
「あ・・・入部したときから、時雨先輩だけは私を軽視したりせずに接してくれたな。」
目を閉じ、過去の出来事をひとつひとつ思い返すように話し出す聖。
「ユニフォームを着てうちのグラウンドにたっていれば男も女も関係ないさ、ちょっと非力で足が遅いけど、
ミート能力と守備力、そして集中力はうちの野球部でも間違いなくトップクラスの野球選手、それが六道聖でしょ?」
「そうだ。私ははじめて私を完全に対等な野球選手として扱ってくれてしかも野球の上手な先輩を尊敬していたんだ。」
「はは、尊敬だなんて・・・」
「そのことも嬉しかったけど、もっと私にとって衝撃的なことがあった。」


去年の8月末、私は過酷な合宿を終え、家路についていた。だが疲れ果てていた私は体を引きずるようにひたすらに家を目指したんだ。
      • 目のまえに灯っている赤信号に気づきもせずに。
凄まじい音量のクラクションと巨大なトラックに似合わない甲高いブレーキ音、そして誰のとも知らない「危ない!!」という声を耳にして私は何も聞こえなくなった。
ただ目の前に迫りくる大型トラック、私はその場で金縛りにあったかのように動けなくなり全てがスローになったような世界でひとつだけ脳が思考を浮かべたんだ。
”終わった”と。
反射的に目を閉じ、次の瞬間に私の体は吹き飛ばされた。軽い衝撃が全身を巡る。
あれ? トラックに轢かれるというのはこの程度の衝撃なのか?
何も痛みは感じない、あまりにひどい大怪我だと逆に何も感じないのだとどこかのテレビ番組でやっていたなといやに冷静に思えた。
―――もう少し・・・先輩やみずき・・・みんなと野球したかったな・・・

「―――ゃん!!」

? 今何か聞こえたような・・・?

「――りちゃん!!」

せん・・・ぱい・・・?

「聖ちゃん!! しっかりするんだ!!」




先輩の声を私の脳が完全に理解すると私は反射的に目を見開いた。
目の前には今にも泣きそうな表情の先輩、周りには偶然現場を目撃した通行人や運転手らしき男の姿。
「聖ちゃん! 僕が分かる!?」
「せ、せんぱ・・い・・?」
「そうだよ、僕だ! よかった・・・なんとか・・・間に・・合ったみたい・・・だね。」
言葉を搾り出すと先輩はうつむいて泣き出してしまった。
先輩に呼びかけても先輩はよかった、よかったと言うばかりでさっぱり状況が見えなかった。
私は轢かれたのではないのか? それにしては意識がはっきりとしている。痛みもほとんどない。けど感覚はある。
視線を落とし、自分の体を見る。どの部分もとてもトラックに轢かれたとは思えない、無傷だった。
「おい、君。本当に大丈夫か!?」
トラックの運転手らしき作業着を着た男が私に問いかける。
「は、はい。」
「良かった。君が赤信号なのに飛び出してきたときは君の命も俺の人生も終わりだと思ったよ。そこの青年に感謝するんだな、彼が君を助けたんだ。」
「先輩が私を・・・?」
「あぁ、誰でも出来ることじゃない。じゃあ俺は行くが本当に大丈夫なんだな? 後々何か言われても困るからな。」
私は無言で頷くと男は心底ほっとした様子でトラックに戻り、その場を去った。


当初結構な数いた野次馬もいなくなり、その場に私と先輩だけが残される。
いまだ泣き止んだもののうつむいたままの先輩。私はどうしたらいいか分からずしどろもどろに先輩に話しかける。
「せ、先輩・・・ありがとうだ。先輩が助けてくれなかったら私は・・・」
「・・・六道聖!」
「は、はい!?」
突然フルネームで呼ばれ、私の体がびくりと跳ねたまま硬直する。
「僕は見てたぞ、ぼーっとした様子で赤信号の交差点を渡る君を。合宿は家に帰るまでが合宿だ、気を抜くんじゃない!」
「はい・・・すみません・・・」
「はぁ~~・・・本当に無事でよかった、なんかどっと疲れちゃったよ。」
「いくら礼をしても足りないほどだ、いつか必ずこれの礼を・・・」
「じゃあさ、今からひとつだけ僕の頼みを聞いてよ。」
「な、なんだ?」
今先輩の言うことには逆らえない。私は恐る恐る先輩の次の言葉を待った。
「・・・今から僕と一緒にパワ堂の甘味食べに行こう。疲れた体には甘いものがいいって言うし。」
ポンと私の肩に先輩は手を置いて言った。このときはこんな先輩の行為にも別段何も感じなかった。
そんなことでいいのかと私は拍子抜けすると同時にひとつの疑問
「え? あ、でも・・・」
「みずきちゃんのこと? 大丈夫だよ一回くらいなら、聖ちゃんの甘党ぶりは結構有名な話だし、いくらでもいいわけは出来るよ。それとも僕と行くのは嫌かな?」
「そ、そんなことはないぞ! よしじゃあ行こう。」


あぁ、美味しい。どうして甘いものというのはこうも私を惹きつけるのだろう。
向かいの席では先輩がきんつばを食べながら微笑んでいる。
「うん、これだけ食べれるなら大丈夫だね。」
「先輩。」
「なに?」
「確か先輩がいつも登下校に使う道は私の通学路とは違うはずだ。なのに何故あの現場にいたんだ?」
「うっ、痛いところを突くね・・・別に聖ちゃんをストーカーする気ではなかったんだけど・・・合宿終了のミーティングの時に聖ちゃんうとうとしてたし帰りもふらふらしてて危ないって思って付いていったら赤信号の交差点に入る聖ちゃんを目撃したわけ。」
「先輩も疲れているのに迷惑をかけてしまって申し訳なかったぞ・・・」
「いえいえ、お互いこうして無事だったんだしもうやめよう、こんな恐ろしい話。」
「あぁ。」
先輩はきんつばを平らげると飲み物を飲んでしばらく黙っていたが私はしばらくして先輩の視線が固まっているのに気づいた。
「? どうしたんだ先輩?」
私はそういいつつ先輩の目線を追ってみる。だが先輩の視線が注がれている対象物をみつける前に先輩はとんでもない行為に出た。
「・・・そのパフェ美味しそうだなぁ、ちょっとちょうだい。」
先輩はそういうと私の許可を得る前に私の目の前のパフェをひょいと手に取り、刺さっていたスプーンでクリームを一口食べた。
「なー!? な、な、な、何をしてるんだ先輩!?」
「おわっ! ごめんつい美味しそうで・・・勝手に聖ちゃんのものを食べてごめんよ。」

パフェをさっと私の目の前に戻し、私が気を悪くしたと思っているのか先輩が平謝りしてくる。
違う、私は別に大好きな甘味を先輩に食べられたから大声をだしたわけじゃない。そんなことはどうでもいい。
問題なのは・・・

「そうじゃない、私が驚いたのは・・・そ、それ私の使ってたスプーンだ・・・」
私はそれだけ言ってうつむいてしまう。顔が熱くなってきたのが分かった。
ふとみずきが言っていた言葉を思い出す。


『男ってよく回し飲みとか平気で出来るわよね、考えたら男同士の間接キスよ? うっ・・・なんか気分悪くなってきた。』

だが私は女で先輩は男だ、二人は異性であってこれではまるで・・・
「あ、そっか。僕今聖ちゃんと間接キスしたのか、ごめんね、そんなつもりは全くなかったんだけど・・・」
謝ってるわりにかなり露骨な単語を先輩は口にする。しかも口調も反省しているそれではなかったので私は少しむっとして顔を上げる。
が、刹那。ふたたび顔が熱を帯び始める。先輩がじっとこちらを見据えている。
「ど、どうしたんだ先輩?」
何故か赤くなっているであろう自分の顔と心拍数の急上昇に私は疑問を覚えつつ先輩からつい顔をそらす。
顔が赤いのは会話の流れや私が考えていることのせいだ。
無理やり自分にそう言い聞かせたがこれも結果的に無駄な努力に終わる。
「あはは、聖ちゃん顔真っ赤だよ。かわいいなぁ」
けらけらと笑う先輩。だがそんなことよりも私から冷静さを奪う一言が私の耳に焼きつく。
「か、かわいい? わ、私がか?」
「うん。今僕が見てるのは野球選手の六道聖じゃなくて女の子の六道聖なんだなって。」
子供のような明るい笑顔で先輩が笑う。
私は息が詰まったかのように胸が苦しくなる感覚に襲われた。
口は動いているのに声が出ない、心臓はかつてないほど激しく動いている。
のどが渇く、足が震える。冷静になれない。なんだこの感覚は・・・こんなの初めてだ・・・
「・・・聖ちゃん?」
先輩が私の顔を心配そうに覗き込む。
「・・・・・っ!!」
「聖ちゃん!?」

私はその場から逃げ出した、あのまま先輩の顔を見ていたらどうにかなってしまいそうだったから。



「先輩はお父さんと、女のみずき以外では唯一野球選手の私も、女である私も見てくれた、部活のときもそれ以外のときも笑顔で接してくれた、私を孤独から救ってくれた。
もう先輩がいない日常生活なんて考えられない。・・・これが六道聖が皆川時雨を好きになった理由だ。」
「ありがとう聖ちゃん。これからもよろしくね。」
「うん・・・」
お互いをいとおしげに見つめる二人。
皆川は聖をもう一度抱きしめた。
「大好きだよ、聖ちゃん。」
「・・・せん、ぱい・・・」
聖の頬を伝う涙、しかしそれに悲哀の情はなく、幸福の情が宿った涙だった。


      • ちなみに皆川が買ってきたきんつばは皆川が家に帰るまですっかり忘れていた。

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