空虚な世界。
私という人間からたった一つの要素が欠けただけで私にとって世界はこんなにも空虚だ。
でももういいんだ。私は必要とされなかった。
だからもういいんだ・・・
私という人間からたった一つの要素が欠けただけで私にとって世界はこんなにも空虚だ。
でももういいんだ。私は必要とされなかった。
だからもういいんだ・・・
神楽坂グループ。
合格率は1%程度というエリートの集まる会社。
もともと勉学は得意だった私は一発でここの経理部に採用された。
ここで私は精一杯働いて、今まで男手ひとつで私を育ててくれた父親に恩返しをするのだと、そう決めた。
そう決めたのに、私の中には野球への未練がくすぶっていた。
合格率は1%程度というエリートの集まる会社。
もともと勉学は得意だった私は一発でここの経理部に採用された。
ここで私は精一杯働いて、今まで男手ひとつで私を育ててくれた父親に恩返しをするのだと、そう決めた。
そう決めたのに、私の中には野球への未練がくすぶっていた。
「・・・うるさい」
ある日、うちの野球部の男二人がかつての大学野球について話していた。
いや、正確にはかつて大学野球界にいたある捕手について。
それが私、六道聖のことを言っているのだということは瞬間的に理解できた。
彼らには悪いことをしてしまったと思う。
いや、正確にはかつて大学野球界にいたある捕手について。
それが私、六道聖のことを言っているのだということは瞬間的に理解できた。
彼らには悪いことをしてしまったと思う。
『一条の光』
「今日はみんなでCEOと一緒に野球観戦よ」
経理部の先輩が言う。
ここのCEOは実力主義者で極度の親バカであり、息子が加わった野球を観戦するのが最近の楽しみらしい。
―といってもその息子は上々の成績を残しているのでとやかく陰口を叩くものはいないが―
が、そんな中でも社員の観察はしているらしく、試合で活躍したものにはちゃんとボーナスを用意しているようだ。
・・・その逆もまた然り。
そのため経理部の社員も何人か同行させられることがしばしばあった。
関係がないはずの女性社員もたくさんいたが・・・
私は全く気が進まなかったが仕方なく野球部の試合を観戦することになった。
ここのCEOは実力主義者で極度の親バカであり、息子が加わった野球を観戦するのが最近の楽しみらしい。
―といってもその息子は上々の成績を残しているのでとやかく陰口を叩くものはいないが―
が、そんな中でも社員の観察はしているらしく、試合で活躍したものにはちゃんとボーナスを用意しているようだ。
・・・その逆もまた然り。
そのため経理部の社員も何人か同行させられることがしばしばあった。
関係がないはずの女性社員もたくさんいたが・・・
私は全く気が進まなかったが仕方なく野球部の試合を観戦することになった。
野球というスポーツを盛大に勘違いしているCEOや同僚を尻目に私は神楽坂のベンチに目をやる。
一人の男に目がとまる。・・・なんだあいつは、ドライアイか?
まぁどうでもいいか。
私は始まったシートノックを見る。
一人の男に目がとまる。・・・なんだあいつは、ドライアイか?
まぁどうでもいいか。
私は始まったシートノックを見る。
確かに、レベルは高い。だけどどこか甘い、腑抜けた雰囲気が感じられるチーム。
それが私が受けた神楽坂野球部全体の印象。
けれどもマウンドに立つ”彼”だけは違った。
実力的にいえばまだまだだ、だけどチームの中で誰よりも輝いていた。
球速、変化球ともに人並み。
球威の無さは見れたものではなかったがすごい制球力だ。
私は直感した。ピッチングの才能があると。
そしてそれを開花させられる一生懸命さがあると。
それが私が受けた神楽坂野球部全体の印象。
けれどもマウンドに立つ”彼”だけは違った。
実力的にいえばまだまだだ、だけどチームの中で誰よりも輝いていた。
球速、変化球ともに人並み。
球威の無さは見れたものではなかったがすごい制球力だ。
私は直感した。ピッチングの才能があると。
そしてそれを開花させられる一生懸命さがあると。
「・・・・・・あいつ、上手くなる」
そうポツリとつぶやき、私はCEOに言われるまま試合でなかなかの活躍をした彼にボーナスを渡しに行った。
これが彼、水無瀬くんとの出会い。
そうポツリとつぶやき、私はCEOに言われるまま試合でなかなかの活躍をした彼にボーナスを渡しに行った。
これが彼、水無瀬くんとの出会い。
彼は不思議な人だった。女である私のアドバイスを何も疑問に思わず、素直に聞き入れてくれた。
どこまでもまっすぐに私を見据え、少年のような眩しい笑顔、それに宿る夢を追い続ける心。
あまりにまっすぐで、あまりに眩しくて。
私はそれに大いなる安らぎと、果てしない不安という相反する感情を抱いていた。
私に足りなかったもの、私が失ってしまったもの全てを持った彼。
特訓を重ねるうちに目覚しい進歩をとげる彼。
彼の成長を見守るうちに私は封印したはずの思いを呼び起こしてしまった。
どこまでもまっすぐに私を見据え、少年のような眩しい笑顔、それに宿る夢を追い続ける心。
あまりにまっすぐで、あまりに眩しくて。
私はそれに大いなる安らぎと、果てしない不安という相反する感情を抱いていた。
私に足りなかったもの、私が失ってしまったもの全てを持った彼。
特訓を重ねるうちに目覚しい進歩をとげる彼。
彼の成長を見守るうちに私は封印したはずの思いを呼び起こしてしまった。
―――また、野球をしたい。辞めたくない。
叶うはずがない願いに一人で苦しみ、特訓の合格を告げられた彼がまた少年のような笑顔を見せたとき、
・・・私は逃げ出した。
・・・私は逃げ出した。
「聖ちゃん!?」
「水無瀬くん・・・!! 水無瀬くんっ!!」
気づけば溢れている涙を抑えることは出来なかった。
あまりに足りないものが多い私に彼は手を差し伸べてくれた、必要だといってくれた。
私の果てしない不安を取り除いてくれた彼の胸で私は泣きじゃくった。
この日は冷たい雨がずっと降っていたけど、彼はとても暖かかった。
気づけば溢れている涙を抑えることは出来なかった。
あまりに足りないものが多い私に彼は手を差し伸べてくれた、必要だといってくれた。
私の果てしない不安を取り除いてくれた彼の胸で私は泣きじゃくった。
この日は冷たい雨がずっと降っていたけど、彼はとても暖かかった。
私の暗闇に差した一条の光。決して闇に呑まれることなく輝き続ける光。
いつの間にか彼に対する思いが変わってきてしまった。
私は、彼が好き。
私をまっすぐ見てくれる眼差し、色褪せることない純粋な野球への想い、
徐々に花開きつつある才能、少年のような眩しい笑顔。
決意を新たにした私にとって全てが魅力的で、一緒にいてとても安らぐ。
想いを伝えたかったけど、彼の邪魔をするわけにはいかなかったから、
今は全力で彼のサポートをしよう。そう決めた。
いつの間にか彼に対する思いが変わってきてしまった。
私は、彼が好き。
私をまっすぐ見てくれる眼差し、色褪せることない純粋な野球への想い、
徐々に花開きつつある才能、少年のような眩しい笑顔。
決意を新たにした私にとって全てが魅力的で、一緒にいてとても安らぐ。
想いを伝えたかったけど、彼の邪魔をするわけにはいかなかったから、
今は全力で彼のサポートをしよう。そう決めた。
「僕の好物? そうだなぁ、僕って結構味覚が子供っぽいから、からあげとかハンバーグとかカレーとかそういうのが好きかな。」
彼が好物だといった食べ物を差し入れたり、アドバイスしたり、時間が許す限り彼のサポートに徹した。
そして私もなまった体を鍛えなおすべく、トレーニングを少しずつ行うようにした。
もう一度、野球をやろう。そう思うことが出来た・・・全て彼のおかげ。
そして私もなまった体を鍛えなおすべく、トレーニングを少しずつ行うようにした。
もう一度、野球をやろう。そう思うことが出来た・・・全て彼のおかげ。
ひとつの決意が固まった私はその日の夜、ある人物へと電話をかけた。
かつての高校時代一番の親友、あおい選手の意志を継ぐサイドスローの投手。
私が大学野球を諦めたとき、私は彼女をも傷つけてしまった。
私は彼女に謝り、新たな想いを伝えなければならない。
かつての高校時代一番の親友、あおい選手の意志を継ぐサイドスローの投手。
私が大学野球を諦めたとき、私は彼女をも傷つけてしまった。
私は彼女に謝り、新たな想いを伝えなければならない。
『はいもしもし白川です』
聞き覚えのある男性の声、白川先輩だ。
先輩とみずきは高校卒業をしてすぐに正式に結婚した、偽りが真実となったのだ。
「白川先輩か? 私だ六道だ、みずきに代わってもらえるか?」
『聖ちゃん?! 久しぶりだねぇ、よし待ってろ』
受話器が置かれる音のあと、どたどたという足音とともにみずきを呼ぶ声がはっきり聞こえる。
私は電話を拒否されるんじゃないかと不安だったが案外に彼女はすぐに電話に出てくれた。
先輩とみずきは高校卒業をしてすぐに正式に結婚した、偽りが真実となったのだ。
「白川先輩か? 私だ六道だ、みずきに代わってもらえるか?」
『聖ちゃん?! 久しぶりだねぇ、よし待ってろ』
受話器が置かれる音のあと、どたどたという足音とともにみずきを呼ぶ声がはっきり聞こえる。
私は電話を拒否されるんじゃないかと不安だったが案外に彼女はすぐに電話に出てくれた。
『もしもし?』
「みずき、久しぶりだな。今日は言いたいことがあって電話させてもらった」
私はゆっくりと言葉を自分で確認するかのように言った。
『どうしたの?』
「みずき、久しぶりだな。今日は言いたいことがあって電話させてもらった」
私はゆっくりと言葉を自分で確認するかのように言った。
『どうしたの?』
「まずは私が大学野球をやめたとき、私はみずきのことを傷つけてしまった、本当にごめんなさい!」
しばしの静寂、私はいたたまれない気持ちになったが私がここで電話を切ることは許されない。
やがてみずきの息を吸う音が聞こえたかと思うと彼女は話し出した。
『そうね、聖が野球を辞めると言ったとき、私はとてもショックだったけど
でも聖が野球を辞めること自体にショックを受けたわけじゃないのよ』
「え?」
みずきの答えの意味が理解できず私は間の抜けた声を出す。
『私が本当にショックだったのは聖が野球を辞めた理由よ、
「私には足りないものが多すぎる」だなんて聖からそんな言葉聞きたくなかった』
気づけばみずきの声はいつの間にか泣いているときのそれと変化していた。
「あぁ、私が愚かだったんだ・・・でもみずき、私はもう一度野球をやろうと思う。
私を・・・必要としてくれる人がいたから・・・何より私は野球が大好きだから・・・」
しばしの静寂、私はいたたまれない気持ちになったが私がここで電話を切ることは許されない。
やがてみずきの息を吸う音が聞こえたかと思うと彼女は話し出した。
『そうね、聖が野球を辞めると言ったとき、私はとてもショックだったけど
でも聖が野球を辞めること自体にショックを受けたわけじゃないのよ』
「え?」
みずきの答えの意味が理解できず私は間の抜けた声を出す。
『私が本当にショックだったのは聖が野球を辞めた理由よ、
「私には足りないものが多すぎる」だなんて聖からそんな言葉聞きたくなかった』
気づけばみずきの声はいつの間にか泣いているときのそれと変化していた。
「あぁ、私が愚かだったんだ・・・でもみずき、私はもう一度野球をやろうと思う。
私を・・・必要としてくれる人がいたから・・・何より私は野球が大好きだから・・・」
この言葉のあとまたしばらく沈黙、電話越しで相手の表情は見えないがみずきが笑ったような気がした。
『ようやく取り戻したのね、良かったよ・・・良かったよぅ・・・ぐすっ・・・』
私は彼女に深い感謝と謝罪、そして決意を伝え、電話を切った。
『ようやく取り戻したのね、良かったよ・・・良かったよぅ・・・ぐすっ・・・』
私は彼女に深い感謝と謝罪、そして決意を伝え、電話を切った。
そしてその翌日―彼が入社して3年目となるある日―私は衝撃的な話を耳にすることとなる。
「ねぇ知ってる!? 今うちの野球部がピンチなんですって!」
おしゃべり好きの同僚が同じくおしゃべり好きの仲間と噂話。
普段の私なら無視して仕事に取り掛かっているところだが今回の話題は野球部。しかもあまりいい話ではなさそうだ。
私は書類の上を走らせていたペンを止め、会話に耳を澄ました。
「いったい何がどうピンチなの~?」
「なんでも去年の野球部の成績があまりにひどかったからCEOが激怒しちゃって、今年の大会で結果を残せなかったら廃部なんですって!」
「えぇっ!? じゃあ―――「その話は本当なのか?!」
おしゃべり好きの同僚が同じくおしゃべり好きの仲間と噂話。
普段の私なら無視して仕事に取り掛かっているところだが今回の話題は野球部。しかもあまりいい話ではなさそうだ。
私は書類の上を走らせていたペンを止め、会話に耳を澄ました。
「いったい何がどうピンチなの~?」
「なんでも去年の野球部の成績があまりにひどかったからCEOが激怒しちゃって、今年の大会で結果を残せなかったら廃部なんですって!」
「えぇっ!? じゃあ―――「その話は本当なのか?!」
もう一人の同僚が相槌を打つ暇もなく私は二人の会話に割り込んだ。
「ひ、聖ちゃん? どうしたのよ急に、珍しいわね」
「そんなことより今の話は本当なのか!?」
「えぇ、本当みたい。確かな筋から仕入れた情報だし」
「そ、そうか・・・すまない、急に大声出したりして」
「ひ、聖ちゃん? どうしたのよ急に、珍しいわね」
「そんなことより今の話は本当なのか!?」
「えぇ、本当みたい。確かな筋から仕入れた情報だし」
「そ、そうか・・・すまない、急に大声出したりして」
私は集中できない頭で仕事をしていたがいよいよ仕事が終わると一目散に野球部へと向かった。
時間は一気に進み、野球部練習終了後、私は彼を誘い、公園でキャッチボールをしている。
「それで水無瀬、野球部が今存続の危機だというのは本当なのか?」
「うん・・・本当さ。前の都市対抗ではなんとか因縁の相手に勝てたけど、
今回勝てるかはまだ分からない。あの時は完全に5分5分だったから」
「そうか・・・私も試合は見ていた。昔漂っていた腑抜けた空気が払拭されていたな、正直驚いた」
「うん、僕が駆けずり回ってみんなの目を覚ましたからね」
また彼が笑う。私の心拍数が上がる。つい彼が投げたボールを取り損ねてしまう。
「聖ちゃんがエラーなんて珍しいものが見れたな」
誰のせいだと思っているんだ、なんて言えるはずがない。
代わりに口から紡がれる言葉は今日知って湧き上がった思い。
「・・・なんで黙っていた」
「え?」
「廃部の危機なんて私は知らなかった、今日同僚から初めて聞いたんだ」
「・・・聖ちゃんに、余計な心配をかけたくなかったんだ」
彼がうつむく。
「余計ではない! 私はお前のプロ入りを心から願っている! なのに野球部自体が無くなろうとしているのだぞ?!」
「聖ちゃん・・・」
「それで水無瀬、野球部が今存続の危機だというのは本当なのか?」
「うん・・・本当さ。前の都市対抗ではなんとか因縁の相手に勝てたけど、
今回勝てるかはまだ分からない。あの時は完全に5分5分だったから」
「そうか・・・私も試合は見ていた。昔漂っていた腑抜けた空気が払拭されていたな、正直驚いた」
「うん、僕が駆けずり回ってみんなの目を覚ましたからね」
また彼が笑う。私の心拍数が上がる。つい彼が投げたボールを取り損ねてしまう。
「聖ちゃんがエラーなんて珍しいものが見れたな」
誰のせいだと思っているんだ、なんて言えるはずがない。
代わりに口から紡がれる言葉は今日知って湧き上がった思い。
「・・・なんで黙っていた」
「え?」
「廃部の危機なんて私は知らなかった、今日同僚から初めて聞いたんだ」
「・・・聖ちゃんに、余計な心配をかけたくなかったんだ」
彼がうつむく。
「余計ではない! 私はお前のプロ入りを心から願っている! なのに野球部自体が無くなろうとしているのだぞ?!」
「聖ちゃん・・・」
「お前のおかげで私は野球への想いを取り戻した!
なのにお前のプロ入りの夢が断たれることになったら・・・私は、耐えられない」
涙が溢れそうになる。拾ったボールを握り締め、私はうつむいてしまう。
「大丈夫さ神楽坂野球部はなくならない。僕がそんなことさせないよ。
でももし野球部が廃部になったり、ドラフト指名されなくても僕はきっとどこかで野球をし続けているんだろうね。
僕は、野球が大好きだから。・・・なんて言ったら僕に特訓してくれた聖ちゃんに対して失礼かもしれないけど」
いつの間にか私のそばに来た彼が優しい穏やかな声で言う。
そう、だな。彼には愚問だったようだ。私と同じ想いを持っているんだからな。
「そんなことはない、お前ならきっと大丈夫だ」
「聖ちゃんの折り紙つきだからね、精一杯がんばるつもりだよ」
なのにお前のプロ入りの夢が断たれることになったら・・・私は、耐えられない」
涙が溢れそうになる。拾ったボールを握り締め、私はうつむいてしまう。
「大丈夫さ神楽坂野球部はなくならない。僕がそんなことさせないよ。
でももし野球部が廃部になったり、ドラフト指名されなくても僕はきっとどこかで野球をし続けているんだろうね。
僕は、野球が大好きだから。・・・なんて言ったら僕に特訓してくれた聖ちゃんに対して失礼かもしれないけど」
いつの間にか私のそばに来た彼が優しい穏やかな声で言う。
そう、だな。彼には愚問だったようだ。私と同じ想いを持っているんだからな。
「そんなことはない、お前ならきっと大丈夫だ」
「聖ちゃんの折り紙つきだからね、精一杯がんばるつもりだよ」
一瞬の沈黙が公園を支配する。
「・・・水無瀬、お前にお願いがある」
顔を上げ、目の前の彼を見据える。
「なに? 聖ちゃん」
「もし、お前がプロ入りできた時には話したいことがあるんだ。だから・・・」
「うん」
「できるだけ、いやできれば、いや必ずだ。頑張ってそして・・・勝って・・・ね」
「ありがとう聖ちゃん。聖ちゃんのためにも頑張るよ!」
顔を上げ、目の前の彼を見据える。
「なに? 聖ちゃん」
「もし、お前がプロ入りできた時には話したいことがあるんだ。だから・・・」
「うん」
「できるだけ、いやできれば、いや必ずだ。頑張ってそして・・・勝って・・・ね」
「ありがとう聖ちゃん。聖ちゃんのためにも頑張るよ!」
大会の結果は見事優勝、CEOの息子との継投術で見事に敵の打線を封殺したのだった。
「水無瀬、優勝おめでとうだ」
「ありがとう、聖ちゃん」
大会終了後、場所は再び夜の公園にて私と彼はまたキャッチボールをしている。
彼の成績は素晴らしいの一言に尽きた。予選から全国決勝まで失点はわずか2点
私とともに改良したスライダーと抜群の制球力で凡打と三振の山を築いた。
スカウトの影山氏が彼を見て満足げに頷いていたのを見て私もつい嬉しくなってしまった。
「ふ・・・大したやつだなお前は」
「みんな聖ちゃんのおかげさ、聖ちゃんのおかげで僕はここまでこれた」
「私はきっかけをつくっただけだ、みんなお前の努力の賜物だ」
「きっかけがあるから結果とそこに至る過程があるんだ、聖ちゃんがいなかったら僕はここまでこれなかった。ありがとう」
「・・・どういたしまして、だ」
このままだと話がループしそうだったので素直に礼を受け取っておくことにする。
「水無瀬、優勝おめでとうだ」
「ありがとう、聖ちゃん」
大会終了後、場所は再び夜の公園にて私と彼はまたキャッチボールをしている。
彼の成績は素晴らしいの一言に尽きた。予選から全国決勝まで失点はわずか2点
私とともに改良したスライダーと抜群の制球力で凡打と三振の山を築いた。
スカウトの影山氏が彼を見て満足げに頷いていたのを見て私もつい嬉しくなってしまった。
「ふ・・・大したやつだなお前は」
「みんな聖ちゃんのおかげさ、聖ちゃんのおかげで僕はここまでこれた」
「私はきっかけをつくっただけだ、みんなお前の努力の賜物だ」
「きっかけがあるから結果とそこに至る過程があるんだ、聖ちゃんがいなかったら僕はここまでこれなかった。ありがとう」
「・・・どういたしまして、だ」
このままだと話がループしそうだったので素直に礼を受け取っておくことにする。
「あ、そうだ聖ちゃん」
ん、どうしたんだ?
「ふと思ったんだけど最近メガネかけてないね、どうしたの?」
「・・・もともとあのメガネは度がきついように見えるがほとんど伊達も同然なんだ」
一瞬答えをためらうが相手は彼なので素直に答える。
「そっか」
てっきり彼がどうして私が伊達メガネをかけていたのか聞いてくると思ったので素直の反応にちょっと驚く。
「聞かないのか?」
「伊達と分かれば聖ちゃんがメガネかけてた理由もなんとなく察しがつくから」
そう・・・あのメガネは私の逃避を具現化したようなものだったからな。
「あと出来ればこれからもずっと僕以外の人の前ではメガネでいて欲しいね」
「え? それはどういう・・・」
「なんでもないよ! そろそろ帰ろうか。これ以上遅くなったらあれだし、送ってくよ」
ん、どうしたんだ?
「ふと思ったんだけど最近メガネかけてないね、どうしたの?」
「・・・もともとあのメガネは度がきついように見えるがほとんど伊達も同然なんだ」
一瞬答えをためらうが相手は彼なので素直に答える。
「そっか」
てっきり彼がどうして私が伊達メガネをかけていたのか聞いてくると思ったので素直の反応にちょっと驚く。
「聞かないのか?」
「伊達と分かれば聖ちゃんがメガネかけてた理由もなんとなく察しがつくから」
そう・・・あのメガネは私の逃避を具現化したようなものだったからな。
「あと出来ればこれからもずっと僕以外の人の前ではメガネでいて欲しいね」
「え? それはどういう・・・」
「なんでもないよ! そろそろ帰ろうか。これ以上遅くなったらあれだし、送ってくよ」
結局あの時公園で彼が言った言葉の真意は上手くはぐらかされてしまった。
そして迎えたドラフト会議当日。
私はラジオに耳を澄まし、彼の名が呼ばれるのを待った。
そして―――
「!!」
彼の名が呼ばれた、ドラフト1位、本当にすごいやつだ。
さて、これから彼に祝いの言葉と好物を持っていってやろうか。
そんなことを考えていた矢先。
向こうから来てくれた、相当急いできたのか肩で息をしているが疲れた様子は微塵も見せず―
「聖ちゃん! 僕プロ入りできたよ! ありがとう!!」
「あぁ、ラジオで聞いていた、おめでとう」
「本当に何もかも聖ちゃんのおかげさ! 特訓はもちろん、差し入れくれたり、はげましてくれたり、お礼してもしきれないよ」
あふれんばかりの笑顔、思わず私も顔がほころぶ。
「それはこっちのセリフだぞ、水無瀬くん。私の人生を良い意味で変えてくれたんだからな」
「そうだ、聖ちゃんはこれからどうするの?」
プロ入りを果たしたというのに彼は私のことを聞いてきた。まぁお前らしいな。
「水無瀬、私はここで野球を本格的にやり直すことに決めたぞ」
彼の表情がさらに明るくなり、大きくうなづく。
「入部以前の問題が山積みで時間がかかるかもしれないがお前が育ったこの野球部で野球がしたいからな」
「・・・そっか」
彼が微笑む。
「ここの監督やCEOにかけあって、そして私は無謀かもしれないがもう一度プロを目指す!」
まだ問題がたくさんあるのにこの言葉を彼に向けて言ったとき、私の心はとても晴れ晴れとした気持ちになった。
そして迎えたドラフト会議当日。
私はラジオに耳を澄まし、彼の名が呼ばれるのを待った。
そして―――
「!!」
彼の名が呼ばれた、ドラフト1位、本当にすごいやつだ。
さて、これから彼に祝いの言葉と好物を持っていってやろうか。
そんなことを考えていた矢先。
向こうから来てくれた、相当急いできたのか肩で息をしているが疲れた様子は微塵も見せず―
「聖ちゃん! 僕プロ入りできたよ! ありがとう!!」
「あぁ、ラジオで聞いていた、おめでとう」
「本当に何もかも聖ちゃんのおかげさ! 特訓はもちろん、差し入れくれたり、はげましてくれたり、お礼してもしきれないよ」
あふれんばかりの笑顔、思わず私も顔がほころぶ。
「それはこっちのセリフだぞ、水無瀬くん。私の人生を良い意味で変えてくれたんだからな」
「そうだ、聖ちゃんはこれからどうするの?」
プロ入りを果たしたというのに彼は私のことを聞いてきた。まぁお前らしいな。
「水無瀬、私はここで野球を本格的にやり直すことに決めたぞ」
彼の表情がさらに明るくなり、大きくうなづく。
「入部以前の問題が山積みで時間がかかるかもしれないがお前が育ったこの野球部で野球がしたいからな」
「・・・そっか」
彼が微笑む。
「ここの監督やCEOにかけあって、そして私は無謀かもしれないがもう一度プロを目指す!」
まだ問題がたくさんあるのにこの言葉を彼に向けて言ったとき、私の心はとても晴れ晴れとした気持ちになった。
「・・・だそうです、男前田監督、みんな」
彼が微笑みながらそう言うと後ろを振り向いた。彼は何を言っているんだ?
しかしさらに私を混乱に陥れる事態が直後、急速に展開する。
「うむ! 話は水無瀬から聞いている。六道聖くん、君の神楽坂野球部入部を許可する!」
男前田監督の堂々とした声がオフィスに響く。
「!!!??? え? 一体どういうことだ?」
彼がプロ入りの決定を報告したときよりも明るい笑顔で私を見て言った。
「つまり聖ちゃんはもうすぐにでもここで野球を始められるってことさ」
嘘だ、そんな馬鹿な。名門である神楽坂グループがそんなに間単に・・・
「もちろんここまで来るのは並大抵のことではなかったでやんす、
でも水無瀬くんが社内中いや社外でも必死に署名活動を行った結果認められたんでやんすよ」
メガネをかけた男はそういうとかなり厚みのある紙の束を私に渡してきた。
彼が微笑みながらそう言うと後ろを振り向いた。彼は何を言っているんだ?
しかしさらに私を混乱に陥れる事態が直後、急速に展開する。
「うむ! 話は水無瀬から聞いている。六道聖くん、君の神楽坂野球部入部を許可する!」
男前田監督の堂々とした声がオフィスに響く。
「!!!??? え? 一体どういうことだ?」
彼がプロ入りの決定を報告したときよりも明るい笑顔で私を見て言った。
「つまり聖ちゃんはもうすぐにでもここで野球を始められるってことさ」
嘘だ、そんな馬鹿な。名門である神楽坂グループがそんなに間単に・・・
「もちろんここまで来るのは並大抵のことではなかったでやんす、
でも水無瀬くんが社内中いや社外でも必死に署名活動を行った結果認められたんでやんすよ」
メガネをかけた男はそういうとかなり厚みのある紙の束を私に渡してきた。
「うむ。流石にそれだけの情熱を持ってぶつかってこられたらワシも折れるしかなかったのだ」
CEOが言う。隣の日和さんが意味深な視線を送ってくる。
これが全部署名だと言うのか・・・
私は目を見開き、彼のほうをすごい勢いで見た。
彼はあの少年のような笑顔でニッと笑い、Vサインを私に見せ付けてくる。
「馬鹿だ・・・お前は本当に馬鹿だ・・・どうしてそんな馬鹿みたいに・・・優しいんだ・・・」
彼のその馬鹿みたいな優しさが嬉しくてたまらないのに涙は止まるどころかさらに勢いを増していく。
CEOが言う。隣の日和さんが意味深な視線を送ってくる。
これが全部署名だと言うのか・・・
私は目を見開き、彼のほうをすごい勢いで見た。
彼はあの少年のような笑顔でニッと笑い、Vサインを私に見せ付けてくる。
「馬鹿だ・・・お前は本当に馬鹿だ・・・どうしてそんな馬鹿みたいに・・・優しいんだ・・・」
彼のその馬鹿みたいな優しさが嬉しくてたまらないのに涙は止まるどころかさらに勢いを増していく。
「僕と同じ想いを持っていてしかもそれで苦しんでいる人を僕は放っておくことが出来ない、
しかもそれが僕をここまで導いてくれた聖ちゃんなら尚更だよ、
といってもこれくらいで恩を返せたとは思わないけど」
しかもそれが僕をここまで導いてくれた聖ちゃんなら尚更だよ、
といってもこれくらいで恩を返せたとは思わないけど」
何を言ってるんだ水無瀬くん、お礼してもしきれないのは私のほうだ・・・
私は一度、野球を諦めてしまった。でも私に手を差し伸べてくれる人がいた。
私の闇に差した一条の光、私はもう絶対に光から逃げたりはしない!
私は一度、野球を諦めてしまった。でも私に手を差し伸べてくれる人がいた。
私の闇に差した一条の光、私はもう絶対に光から逃げたりはしない!
「うむ。それだけの強い意志があるならやっていけるだろう」
男前田監督が私のほうを見て頷く
「はい! ご指導よろしくお願いします!!」
私は監督に、署名してくれたみんなに、そして彼に感謝の意味も込めて深々と礼をした。
男前田監督が私のほうを見て頷く
「はい! ご指導よろしくお願いします!!」
私は監督に、署名してくれたみんなに、そして彼に感謝の意味も込めて深々と礼をした。
そして彼はプロの世界へと旅立って行った。
結局、私の想いを伝えることは出来なかった、でも今はそれで良かったのだと思う。
練習を重ねて、彼の球を正捕手として受けるに相応しい実力をつけて、プロの世界の彼に会いに行こう。
私は彼からもらった少しサイズの大きい彼の予備のユニフォームをバッグに入れて、
明日から始まる練習のため、眠りについた。
結局、私の想いを伝えることは出来なかった、でも今はそれで良かったのだと思う。
練習を重ねて、彼の球を正捕手として受けるに相応しい実力をつけて、プロの世界の彼に会いに行こう。
私は彼からもらった少しサイズの大きい彼の予備のユニフォームをバッグに入れて、
明日から始まる練習のため、眠りについた。
おしまい。