十月も終わりにさしかかる頃、それはプロ野球選手を目指すものにとって人生をかけた大切な時期となる。
そして、ここに夢を叶えた一人の少年がいた。
少年の名前は小波将(こなみしょう)という。
この年、彼が住む都市には三人の逸材がいると言われていた。
全球団の一位候補と言われたあかつき大学付属高校のエース猪狩守。
女子生徒の公式戦出場を認めさせ、野球の歴史を変えた早川あおい。
そしてその二人に打ち勝ち、低迷が続いていた古豪パワフル高校を甲子園優勝に導いた小波将。
この年、彼が住む都市には三人の逸材がいると言われていた。
全球団の一位候補と言われたあかつき大学付属高校のエース猪狩守。
女子生徒の公式戦出場を認めさせ、野球の歴史を変えた早川あおい。
そしてその二人に打ち勝ち、低迷が続いていた古豪パワフル高校を甲子園優勝に導いた小波将。
しかし、その彼の野球人生は決して平坦ではなかった。
彼の家は決して裕福ではなく、野球は高校生までと決められていた、つまり今年がプロになる最初で最後のチャンスであった。
また彼が通ったパワフル高校もかつては強豪だったものの、新興のあかつき大学付属高校に押され、近年は二回戦が精一杯、彼が一年のときには初戦敗退の憂き目を見るほどに弱体化しており、さらに彼自身期待された選手ではなく、その他大勢の部員の一人でしかなかったのだ。
そんな彼が何故主将としてチームを引っ張り、甲子園優勝、さらにはプロになることができたのか。
彼の家は決して裕福ではなく、野球は高校生までと決められていた、つまり今年がプロになる最初で最後のチャンスであった。
また彼が通ったパワフル高校もかつては強豪だったものの、新興のあかつき大学付属高校に押され、近年は二回戦が精一杯、彼が一年のときには初戦敗退の憂き目を見るほどに弱体化しており、さらに彼自身期待された選手ではなく、その他大勢の部員の一人でしかなかったのだ。
そんな彼が何故主将としてチームを引っ張り、甲子園優勝、さらにはプロになることができたのか。
『よき先輩、そして仲間に恵まれました。』
ドラフト後の取材で彼はそう応えた。
彼の通っていたパワフル高校はかつては甲子園にも出場したことのある強豪だったが、ここ数年は弱体化し、地区予選も二回戦が精一杯、彼が一年のときには初戦敗退の憂き目を見るほどに低迷していた。
またそんな高校ですら一年の時には周囲に埋もれたその他大勢の選手でしかなかった。
そんな彼の野球への情熱、才能を見いだし、自らの技術を教え込み、鍛えたのが一学年上の主将、尾崎であった。
ドラフト後の取材で彼はそう応えた。
彼の通っていたパワフル高校はかつては甲子園にも出場したことのある強豪だったが、ここ数年は弱体化し、地区予選も二回戦が精一杯、彼が一年のときには初戦敗退の憂き目を見るほどに低迷していた。
またそんな高校ですら一年の時には周囲に埋もれたその他大勢の選手でしかなかった。
そんな彼の野球への情熱、才能を見いだし、自らの技術を教え込み、鍛えたのが一学年上の主将、尾崎であった。
尾崎との特訓で頭角をあらわした彼は、翌年、尾崎にとっての最後の夏には息のあった二遊間として地方紙に小さくながら取り上げられるほどになっていた。
しかし、久しぶりに地区大会決勝まで進出したものの、二年生エース猪狩、この年のドラフト一位の二宮など、強豪あかつきの中でも有数の黄金世代だったチームには勝つことができなかった。
尾崎の跡を受け継ぎ、主将となり遊撃手へと移った彼は親友の矢部、一年後輩の円谷とセンターラインを組み、お調子者の後輩エース手塚をノセることでチームの核を作った。
しかし、久しぶりに地区大会決勝まで進出したものの、二年生エース猪狩、この年のドラフト一位の二宮など、強豪あかつきの中でも有数の黄金世代だったチームには勝つことができなかった。
尾崎の跡を受け継ぎ、主将となり遊撃手へと移った彼は親友の矢部、一年後輩の円谷とセンターラインを組み、お調子者の後輩エース手塚をノセることでチームの核を作った。
そんな仲間たちと切磋琢磨して腕を磨いた彼だが、陰に日向に誰よりも支え、力になったのが、野球部のマネージャーだった栗原舞だった。
小学生まで一緒だった幼なじみの二人だが、舞は親の仕事の都合でこの街を離れ、中学の三年間一度も会うこともなく、彼は舞に高校生になって初めて会ったとき、すぐには気づくことができなかった。
しかしかつて住んでいた家に戻った舞と帰り道をともにする毎日は離れた三年間を埋めるには充分すぎるものだった。
小学生まで一緒だった幼なじみの二人だが、舞は親の仕事の都合でこの街を離れ、中学の三年間一度も会うこともなく、彼は舞に高校生になって初めて会ったとき、すぐには気づくことができなかった。
しかしかつて住んでいた家に戻った舞と帰り道をともにする毎日は離れた三年間を埋めるには充分すぎるものだった。
そして、練習の前に一生懸命球を磨く舞を手伝いながら交わした会話、近くの神社で人知れずしていた練習に気づき、差し入れを持ってきた舞に誓った甲子園に連れて行くという約束。
いつしか二人は幼なじみを越えお互いに惹かれあうようになっていた。
そして一年のバレンタインデー、舞は『マネージャーなのに部員のみんなにはもあげないのはまずいかな…』とは思いつつ、彼の為だけにチョコを作り、そして告白をした。
いつしか二人は幼なじみを越えお互いに惹かれあうようになっていた。
そして一年のバレンタインデー、舞は『マネージャーなのに部員のみんなにはもあげないのはまずいかな…』とは思いつつ、彼の為だけにチョコを作り、そして告白をした。
幼なじみ、部員とマネージャーという関係を超えた二人はその後も部活にいっそう励みながら、わずかな休みにはデートを繰り返し、より強い絆で結ばれるようになった。
クリスマスには手編みのユニフォームをプレゼントし、二人はその夜初めて結ばれる…はずだった、しかし、どこもクリスマスを祝う恋人達で溢れ、何事もなく夜は過ぎてしまった。
その後もデートを重ね、部員から嫉妬されることもあったが、結ばれる機会は訪れなかった。
クリスマスには手編みのユニフォームをプレゼントし、二人はその夜初めて結ばれる…はずだった、しかし、どこもクリスマスを祝う恋人達で溢れ、何事もなく夜は過ぎてしまった。
その後もデートを重ね、部員から嫉妬されることもあったが、結ばれる機会は訪れなかった。
そして迎えた最後の夏、大会前に彼は舞にこう言った。
『最後の夏、俺は約束通り君を必ず甲子園に連れて行く、それが今まで支えてくれた君にできる最高の愛の証だから。』
舞はその言葉を信じベンチで祈り続けた。
順調に勝ち進んだパワフル高校は、準決勝、早川あおい率いる恋々高校を矢部、円谷の足と小波の勝負強い打撃で下し、いよいよ決勝のライバル猪狩率いるあかつき戦を迎えた。
超高校級と言われた猪狩にはここまで奮闘していた矢部、円谷も手も足も出ない。
『最後の夏、俺は約束通り君を必ず甲子園に連れて行く、それが今まで支えてくれた君にできる最高の愛の証だから。』
舞はその言葉を信じベンチで祈り続けた。
順調に勝ち進んだパワフル高校は、準決勝、早川あおい率いる恋々高校を矢部、円谷の足と小波の勝負強い打撃で下し、いよいよ決勝のライバル猪狩率いるあかつき戦を迎えた。
超高校級と言われた猪狩にはここまで奮闘していた矢部、円谷も手も足も出ない。
しかしパワフル高校もエース手塚の力投を全員で盛り上げ、猪狩の弟の好打者、進の当たりをセンター矢部がダイビングキャッチをするなど普段の力以上のものが出ていた。
両軍ゼロ更新で迎えた九回裏、二死ランナーなしで迎えるバッターはパワフル高校をここまで引っ張った四番小波。
この回が始まるとき舞は彼にそっと伝えた『力が入りすぎてるよ、いつもの小波君なら絶対に大丈夫、信じてるから…』
両軍ゼロ更新で迎えた九回裏、二死ランナーなしで迎えるバッターはパワフル高校をここまで引っ張った四番小波。
この回が始まるとき舞は彼にそっと伝えた『力が入りすぎてるよ、いつもの小波君なら絶対に大丈夫、信じてるから…』
愛する人のそんな言葉、時にはよけいに力が入ることもあるが、ネクストで構えながら彼はベンチを見た、矢部、円谷、手塚、みな勝利を信じた目をしている。
三番を打つ一年猿山が三振に倒れた、すれ違うときに猿山は『先輩、僕、尊敬する先輩ともっと一緒に野球やりたいです』そうつぶやいた。
『生意気な一年坊主だが、実力は確かな猿山は監督を本気にさせたな』彼はふと思い出した、そしてバッターボックスに入る前に改めてベンチを見渡し、一瞬笑顔を見せ、打席に入った。
三番を打つ一年猿山が三振に倒れた、すれ違うときに猿山は『先輩、僕、尊敬する先輩ともっと一緒に野球やりたいです』そうつぶやいた。
『生意気な一年坊主だが、実力は確かな猿山は監督を本気にさせたな』彼はふと思い出した、そしてバッターボックスに入る前に改めてベンチを見渡し、一瞬笑顔を見せ、打席に入った。
『プライドの高い猪狩のことだ直球勝負を仕掛けてくるはず。』
試合前に考えていた通りここまで彼の打席だけは常に直球勝負を仕掛けてきたが、意識しすぎたのかここまで抑えられていた、しかし、この打席、彼は無心になっていた。
『来た球を打つ、それが俺たちの野球だ。』
そして猪狩が投じた初球、インコースへのクロスファイアー、彼は無心で振った、打球は糸を引くようなライナーで飛んでいった…
試合前に考えていた通りここまで彼の打席だけは常に直球勝負を仕掛けてきたが、意識しすぎたのかここまで抑えられていた、しかし、この打席、彼は無心になっていた。
『来た球を打つ、それが俺たちの野球だ。』
そして猪狩が投じた初球、インコースへのクロスファイアー、彼は無心で振った、打球は糸を引くようなライナーで飛んでいった…
甲子園出場が決まった夜、皆が帰った部室で小波と舞は二人で居た。
試合の興奮も冷めやらぬまま夢中で話をし、彼は舞にたくさんの感謝の言葉を伝えた。
『お礼を言うのは私の方だよ、約束を守ってくれてありがとう。』
見慣れてるはずの舞の笑顔が今日はいつもよりさらに可愛く思え、じっと見つめているうちにどちらともなく口づけを交わした、そう、初めての口づけを。
幾度も熱く口づけを交わし続け、舞はこのまま結ばれることを望んだ。
試合の興奮も冷めやらぬまま夢中で話をし、彼は舞にたくさんの感謝の言葉を伝えた。
『お礼を言うのは私の方だよ、約束を守ってくれてありがとう。』
見慣れてるはずの舞の笑顔が今日はいつもよりさらに可愛く思え、じっと見つめているうちにどちらともなく口づけを交わした、そう、初めての口づけを。
幾度も熱く口づけを交わし続け、舞はこのまま結ばれることを望んだ。
しかし彼は言う。
『俺も君と結ばれたい、だけどここまで我慢してきて甲子園に出ることができた、勝手なのはわかってる、でも甲子園優勝とプロ入りの夢を叶えるためにもう少しだけ我慢をさせてくれないか。』
舞は彼らしいと思い、少しだけ笑った、不満もあったが、そんな彼の純粋さがたまらなく好きだった。
『俺も君と結ばれたい、だけどここまで我慢してきて甲子園に出ることができた、勝手なのはわかってる、でも甲子園優勝とプロ入りの夢を叶えるためにもう少しだけ我慢をさせてくれないか。』
舞は彼らしいと思い、少しだけ笑った、不満もあったが、そんな彼の純粋さがたまらなく好きだった。
そして迎えた十月。
二つの夢を叶えた彼は今、校門の前で舞を待っていた。
完