実況パワフルプロ野球シリーズ@2chエロパロ板まとめwiki

無題(part11 660-661)

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匿名ユーザー

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 幼いころから自分には野球しかなかった。
 年頃の女らしさなんて放棄したはずだった。
 人並みの青春なんて捨てたはずだった。
 なのに。
 何故自分はこんなことをしているのだろう。

 あおいは目の前に置かれたボウルの中身をかき混ぜながら、ため息をつく。
 二月十四日、聖・バレンタインデーが近い。
 それと同時に、その時期は春季キャンプの真っ只中である。
 いつもの自分ならばそんなもの、所詮くだらない行事と一笑に付したはずなのに。
 去年入団した小波という男。
 自分の所属する球団『千葉ロッテマリーンズ』にて正捕手を務めている彼。
 あの男と出会ってから、自分の心が揺れ動いている。


「——あおいちゃん」

 復讐のために全てを捨てたと思ったのに。

「——君は、客寄せパンダになるためにプロになったのかい?」

 女の部分なんて捨て去ったはずなのに。

「——うん。いい球だよ。切れが良くて、よく変化する」

 野球だけと信じていたのに。

「——だけど、軽いね」

 そのはずなのに・・・。

「——球が、じゃないよ。君の、想いがさ」


 小波の放った言葉がぐるぐると自分の頭を駆け巡る。
 確かに彼と出会って自分は変わってしまった。
 得意球としていたシンカーも、今では見る影もない。
 小波に心を奪われて以来、あおいは空っぽだった。
 消えていく。
 自分の中で硬く決めていたものが、とても大切にしていたものがすべて。
 ふわりふわりとゆっくり抜けていく感覚が、自分でもわかった。
 恋にうつつを抜かしているひまなど、自分にはない。
 そんなことわかっている。
 わかっているはずなのに……。
 あおいは再び目の前に置かれたボウルに目を落とした。
 隣には生クリームが無造作に置かれている。
 その生クリームの入れ物を右手で掴むと、あおいは——。


「小波君! 今日はバレンタインデーでやんす!」
「そ、そうだった!!」
 小波と矢部明雄のそんな会話が耳に入ってきた。
 もしかして、と思ったその直後、案の定小波は自分の方へと凄まじい速度で走り寄ってきた。
「あおいちゃん!」
「なに?」
 動揺する心をなんとか抑えながら、あおいが言った。
「今日はバレンタインデーだよ。僕にチョコレートをくれないかなあ?」
 あおいがす、と目線を自分のバッグに落とした、そのとき。





「軽いね」





「球が、じゃない。君の、想いがさ」







「ゴメンね」
 えっ? という表情で見返す小波を、あおいは精一杯の笑顔で迎えた。
「ボク、そういうの作らないんだ」


 それだけ言うとあおいは振り返り、ブルペンへと戻っていった。
 呆然とする小波を振り返ることもなく、清々しいほど凛とした姿勢で。

 昨夜に味見をしたチョコレートが苦かったのは、砂糖が足りなかっただけだった。

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