実況パワフルプロ野球シリーズ@2chエロパロ板まとめwiki

ぱわQ1-1

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1-1


  雨は昨夜のうちに通り過ぎて行ったらしい。東の空の端にその名残雲が見えた。
青空と言うにはやけに白い、真冬のような快晴を、何番目だかの春風が吹き荒れている。

  一晩きりの見せ場に嵐を迎えた不運な桜並木を、小波は一人歩いていた。散り際の潔さ
を失って意地汚く大地にへばり付いた花びらの絨毯を踏みしめると、ぐちゃりぐちゃりと
水気を含んだ音がする。

  革靴の、凹凸の少ない底面に有り難味を覚えたのは生まれて初めてかもしれない。どん
なにしつこく花びらがへばり付こうとしても、平らな靴底はそれを踏んづけるだけで相手
にもしなかった。

  制服の上に羽織った薄手のコートは、上まできちんとボタンを留めても、差し込むよう
な寒さを防いではくれない。所詮は安物だ。せめて指先だけは冷えないようにと、破ける
ほどの強さでしっかりと懐炉を握り締める。走れば少しは温まるだろうが、おろしたての
制服で雨上がりの道を疾走するほどの非常識さはあいにくと持ち合わせていなかった。第
一、背中の野球道具が重くてまともに走れはしないだろう。

  ──早く夏になればいいのに。

  ようやく春になったばかりだというのに、小波の心の中は早くもそんな思いで満ち溢れ
んばかりだった。なればなったで冬を焦がれるようになるのは分かっているが、今はとに
かくあの焼けんばかりの暑さが欲しい。寒いのは服を着て防げる、なんて馬鹿げたことを
昔読んだ童話が声高に謳っていたが、聞かされた当時からあれは詐欺だと思った。どんな
に服を着ていたって寒いものは寒い。

  夏になれ、夏になれ、と呪う様な視線に耐えかねたわけでもなかろうが、目の前の信号
が青くなった。その足元を、小波は早足で通り過ぎる。車道に出ると、一際風が冷たくな
った気がして、コートの襟元を寄せ合わせた。背中に担いだケースの中で、金属バットが
カツンと鈍い音を立てる。

  横断歩道を渡った先には煉瓦造りの長く、高い壁があった。隠れて見えないその向こう
にあるはずの、白亜の清楚な学び舎こそが、彼の今日から通うことになる学校──恋々高
校だった。

  下見に二度。入試の時に一度来た、その記憶を頼りに壁沿いを進む。下見の一度目はう
っかり反対に回ってしまって酷い目にあったが、流石に二度も同じ過ちは繰り返さない。

  ほどなく壁の切れ目が現れ、失せた壁の代わりには頑健そうな鉄製の門があった。全開
に開いた扉の上には、アーチのように「恋々高校入学式」と書かれた白布が張られている。

  門を潜ってすぐに守衛小屋がある辺りは、流石は元女子校というところか。校内に入る
と、ちらほら生徒の姿が目に付いた。後は、その流れに乗っていけば自然と昇降口まで辿
り着くだろう。思って無意識のうちに一つ大きな息を吐く。

  緊張していたのだ、と今更ながらに小波は気づいた。慣れない道の所為だろうか。或い
は高校生活初日という理由だろうか。

  ──自分は案外、自分自身で考えていたよりもずっと小心者なのかもしれない。

  思わず苦笑すると、すれ違った上級生と思しき女生徒が不思議そうにこちらを振り向い
た。そ知らぬふりで会釈を返すと、照れたように手を振ってそのまま小走りに去って行く。
まったく理に適っていない、いわゆる女の子走りのそのフォームを、頭の中で強制してや
りながら小波もまた歩みを戻した。

  校庭横の細道を突っ切ったところが昇降口だった。その脇に張られた巨大な紙──クラ
ス表の下には、早くも人だかりが出来ている。予想していたことだが、そこには男子生徒
の影も形もない。

  今年から共学になったばかりの恋々高校は、嘗てはそれなりに名の知れた歴史ある女子
校で、男子生徒受け入れには父母からの反発が大きかったらしい。それに妥協した結果、
初年度となった今年は半ばテストケースとして、定員5人と言う極少人数のみの公募とな
った。実際に入った数は、流石にそれよりは多いようだが。

  小波は、自らの長身を生かして人の群れよりも些か離れた場所から、表の中にあるはず
の自分の名前を探した。視力には自信がある。一組から順に見ていくと、すぐにあった。
自分はどうやら二組のようだ。同じクラスに、もう一人男子らしい名がある。矢部明雄。
心のメモにその名を刻む。嫌な奴じゃなければいいけれど。

  他のクラスの名前にも一通り目を通しておく。自分を入れて、全部で七人ほど男子生徒
と思しき名があった。そのうち、何人が野球部に入ってくれるだろうか。無名校で甲子園
出場なんぞという夢を描いたのはいいが、選んだ高校は失敗だったかもしれない。今更な
がら、小波はわずかに後悔を覚えた。──と、

「あっ、男子でヤンス」

  ぶしつけな声が背後から聞こえた。

  そちらを見れば、この寒いのにやせ我慢なのかワイシャツとブレザー──つまり標準制
服──しか着ていない痩身の少年が、嬉しそうに近寄ってくるところだった。しゃれっ気
の無い丸メガネが逆にやたらと似合っている。

「新入生でヤンスか?」

「まあね」

  一年のクラス分け表の前に立ってるんだから、それ以外ありえないじゃないかと皮肉を
言いかけたが、小波は堪えた。数少ない同性だし、仲良くしよう。精々社交的に見えるよ
うに意識して微笑む。

「俺は小波。キミは?」

「矢部明雄でヤンス」

「ああ、キミが矢部くん? だったら同じクラスだ。三組だよ」

  表の、名前の書かれた辺りを指で示す。矢部は目を細めて、やがて見つけたのかコクリ
と大きく頷いた。それから小波のほうを見て笑う。

「改めて、よろしくでヤンス」

  どうやら嫌な奴ではなさそうだ。ほっと息を吐きたくなる弱い自分を励ますように、小
波は必要以上に大きく頷いた。

「うん。よろしく」


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