『ただいま』
返事の返るはずのない言葉をいつものように呟く。
なにも変わらないありふれた日常だ。
『んっ?』
珍しい…留守番電話が入ってるみたいだ。
このご時世、携帯で事足りるのに誰だろう?
ピーッ!
『おう!おまえか、たまにはうちに連絡くらいしろってんだ』
…親父か
そういえば携帯にも何度か着信あったっけ。
『おふくろもおまえの声聞きたがってるぞ』
確かにずいぶん永いこと実家に帰ってないけどなんでまた突然?
『それとなあ、お前の幼なじみの栗原舞ちゃんが結婚するらしいぞ』
!!…
『仲良かったし、高校の野球部のマネージャーだったろ、お祝いくらいしてやれよ』
…
『お前も忙しいだろうがたまには帰ってこいよな』
ツーツー
…今日ほど留守電というものをありがたいと思ったことはなかった。
普通に電話をしていて平常心で居られただろうか。
返事の返るはずのない言葉をいつものように呟く。
なにも変わらないありふれた日常だ。
『んっ?』
珍しい…留守番電話が入ってるみたいだ。
このご時世、携帯で事足りるのに誰だろう?
ピーッ!
『おう!おまえか、たまにはうちに連絡くらいしろってんだ』
…親父か
そういえば携帯にも何度か着信あったっけ。
『おふくろもおまえの声聞きたがってるぞ』
確かにずいぶん永いこと実家に帰ってないけどなんでまた突然?
『それとなあ、お前の幼なじみの栗原舞ちゃんが結婚するらしいぞ』
!!…
『仲良かったし、高校の野球部のマネージャーだったろ、お祝いくらいしてやれよ』
…
『お前も忙しいだろうがたまには帰ってこいよな』
ツーツー
…今日ほど留守電というものをありがたいと思ったことはなかった。
普通に電話をしていて平常心で居られただろうか。
…舞…
結婚…か…
結婚…か…
俺の名は小浪勝(こなみまさる)26歳の普通のサラリーマンだ。
大学に入学するときに地元を離れ、そのまま就職をし平凡な生活を送っている。
ただ少し人と違うのは高校球児だったことだけ。
大学に入学するときに地元を離れ、そのまま就職をし平凡な生活を送っている。
ただ少し人と違うのは高校球児だったことだけ。
幼い頃から野球を続けてきた俺はずっとプロになりたいと思い続けてきた。
そして甲子園出場を目指し高校に入学をした。
俺が入ったパワフル高校はかつては甲子園に何度も出場した強豪だったが、
俺が入学した頃は地区予選も満足に勝てない低迷期だった。
それが一個上の尾崎先輩や同級生の矢部君達と練習を続け、
甲子園に手が届くところまで来ていた。
あと一歩のところまで、そう、あと一歩のところまで…
そして甲子園出場を目指し高校に入学をした。
俺が入ったパワフル高校はかつては甲子園に何度も出場した強豪だったが、
俺が入学した頃は地区予選も満足に勝てない低迷期だった。
それが一個上の尾崎先輩や同級生の矢部君達と練習を続け、
甲子園に手が届くところまで来ていた。
あと一歩のところまで、そう、あと一歩のところまで…
栗原舞…彼女は小学校まで同級生であり、子供の頃よく遊んだ幼なじみだった。
中学は違ったものの高校でまた一緒になり、
野球部のマネージャーをしていた。
もともと仲がよかったこともあったが、思春期を迎えていた俺達はやがて恋におちた。
もっとも甲子園出場、そしてプロ入りを目指している俺だから
それほど彼女とデートができたわけではなかった。
ただそれはわかってくれていたし、応援もしてくれていた。
いつからか俺は甲子園に出場し、プロ入り。
そして恋人の舞と結婚という未来を描くようになっていた。
中学は違ったものの高校でまた一緒になり、
野球部のマネージャーをしていた。
もともと仲がよかったこともあったが、思春期を迎えていた俺達はやがて恋におちた。
もっとも甲子園出場、そしてプロ入りを目指している俺だから
それほど彼女とデートができたわけではなかった。
ただそれはわかってくれていたし、応援もしてくれていた。
いつからか俺は甲子園に出場し、プロ入り。
そして恋人の舞と結婚という未来を描くようになっていた。
『一点だ!たった一点差だ!絶対に取り返すぞ!』
『オイラ絶対に塁に出るでやんす!』
『オレも塁に出て走りまくるッス!』
『先輩すいません、おれっちが打たれて』
『手塚、お前はよく投げたよ、あかつきを一点に抑えてくれたんだ。』
『小浪君の言うとおりでヤンス、手塚の好投を見殺しにしたら男がすたるでヤンス』
『いいか、みんな!泣いても笑っても最後の攻撃だ!』
『まだ先輩達を引退なんかさせないッス!』
『おれっちももっと先輩達と野球やりたいです』
『甲子園に行くのは俺達だ!!』
『行くぞー!』
『パワフルー!!』
『オーッ!!』
主将として臨んだ最後の夏、順当に勝ち進んで迎えた決勝戦。
対するは強豪あかつき大学付属高校。
エースの猪狩とは一年の頃にたまたま知り合って以来、
幾度となく勝負をしてきたライバルだった。
大会の直前に交通事故に遭った弟の進君のためにといつも以上の気迫で投げる猪狩、
その気迫に俺たちは押されてばかりだった。
事実八回までに出たランナーは四球を選んだ矢部君と、エラーで出た円谷、
そして唯一のヒットを放った俺の三人だけ。
そんな苦しい展開の中で懸命に投げてきた手塚は、
七回に猪狩にホームランを打たれたもののその一点で踏ん張ってくれていた。
そして迎えた九回裏、打順は運良く一番の矢部君から。
珍しく粘ったものの十一球目で三振。
しかし、二番円谷が意表をつくセーフティバントで出塁。
三番猿山が二死になってもと送りバントを決めてくれて、四番の俺が打席に入った。
そのときのことは今でも覚えている。
緊張のあまりに地面の感覚さえ感じられず、体中が震えていた。
初球ストレート、大きく空振りをした、タイミングも全く合っていない。
ただそれで少しだけ気がほぐれ、二球目のインハイのストレートをカット。
よし、タイミングは合っている。
三球目は低めに外れるフォーク、球も見れてきている。
そして三球ファールが続き、七球目、インハイにクロスファイア。
手が出なかった…気の緩みがあったわけでも、外すと思ったわけでもない。
ただ猪狩の気迫に最後は飲み込まれてしまった。
言葉が出なかった、涙さえ出すのを忘れていた。
いい勝負だったとは思う、しかし負けたという現実を受け入れることがすぐにはできなかった。
『オイラ絶対に塁に出るでやんす!』
『オレも塁に出て走りまくるッス!』
『先輩すいません、おれっちが打たれて』
『手塚、お前はよく投げたよ、あかつきを一点に抑えてくれたんだ。』
『小浪君の言うとおりでヤンス、手塚の好投を見殺しにしたら男がすたるでヤンス』
『いいか、みんな!泣いても笑っても最後の攻撃だ!』
『まだ先輩達を引退なんかさせないッス!』
『おれっちももっと先輩達と野球やりたいです』
『甲子園に行くのは俺達だ!!』
『行くぞー!』
『パワフルー!!』
『オーッ!!』
主将として臨んだ最後の夏、順当に勝ち進んで迎えた決勝戦。
対するは強豪あかつき大学付属高校。
エースの猪狩とは一年の頃にたまたま知り合って以来、
幾度となく勝負をしてきたライバルだった。
大会の直前に交通事故に遭った弟の進君のためにといつも以上の気迫で投げる猪狩、
その気迫に俺たちは押されてばかりだった。
事実八回までに出たランナーは四球を選んだ矢部君と、エラーで出た円谷、
そして唯一のヒットを放った俺の三人だけ。
そんな苦しい展開の中で懸命に投げてきた手塚は、
七回に猪狩にホームランを打たれたもののその一点で踏ん張ってくれていた。
そして迎えた九回裏、打順は運良く一番の矢部君から。
珍しく粘ったものの十一球目で三振。
しかし、二番円谷が意表をつくセーフティバントで出塁。
三番猿山が二死になってもと送りバントを決めてくれて、四番の俺が打席に入った。
そのときのことは今でも覚えている。
緊張のあまりに地面の感覚さえ感じられず、体中が震えていた。
初球ストレート、大きく空振りをした、タイミングも全く合っていない。
ただそれで少しだけ気がほぐれ、二球目のインハイのストレートをカット。
よし、タイミングは合っている。
三球目は低めに外れるフォーク、球も見れてきている。
そして三球ファールが続き、七球目、インハイにクロスファイア。
手が出なかった…気の緩みがあったわけでも、外すと思ったわけでもない。
ただ猪狩の気迫に最後は飲み込まれてしまった。
言葉が出なかった、涙さえ出すのを忘れていた。
いい勝負だったとは思う、しかし負けたという現実を受け入れることがすぐにはできなかった。
何も言葉が出なかった帰りの電車の中、みんな俺を励ましてくれていた。
だが、その言葉さえ俺の耳には届かなかった。
学校帰り、家までの道、舞と二人歩きながら沈黙が続いていた。
だが、その言葉さえ俺の耳には届かなかった。
学校帰り、家までの道、舞と二人歩きながら沈黙が続いていた。
『ねえ、まさくん、ちょっと公園に行こっ』
沈黙を破るべく舞は俺に話しかけ、半ば強引に公園に連れて行った。
『舞、ごめん、甲子園に連れてけ…』
俺の言葉を遮るように舞はキスをしてきた。
『いいの、まさくんが頑張ってたこと誰より知ってるから』
『でも…』
『負けちゃったのはしょうがないでしょ?紙一重の試合だったよ!』
『…』
『それにまさくん凄くかっこよかった、私、まさくんと付き合えて幸せだよ!』
『舞…』
『だから、さっきのキスは私からのご褒美』
『ありがとう』
俺は舞を強く抱きしめていた。
『甲子園に出られなくてもプロには指名されるかもしれないでしょ?まさくんなら大丈夫だよ』
『うん!スカウトの人が見てくれてることを信じてみるよ!』
『それでこそまさくんだよ、よかった、いつものまさくんに戻って』
『舞のおかげだよ、いつも支えてくれてありがとう!』
『ううん、まさくんのことが好きだから』
二度目のキスをした、今度はさっきのように一瞬ではなく、永いキスを。
『まさくん、私の家に行こ、今日は誰もいないの』
唇が離れたとき舞はそう言った。
沈黙を破るべく舞は俺に話しかけ、半ば強引に公園に連れて行った。
『舞、ごめん、甲子園に連れてけ…』
俺の言葉を遮るように舞はキスをしてきた。
『いいの、まさくんが頑張ってたこと誰より知ってるから』
『でも…』
『負けちゃったのはしょうがないでしょ?紙一重の試合だったよ!』
『…』
『それにまさくん凄くかっこよかった、私、まさくんと付き合えて幸せだよ!』
『舞…』
『だから、さっきのキスは私からのご褒美』
『ありがとう』
俺は舞を強く抱きしめていた。
『甲子園に出られなくてもプロには指名されるかもしれないでしょ?まさくんなら大丈夫だよ』
『うん!スカウトの人が見てくれてることを信じてみるよ!』
『それでこそまさくんだよ、よかった、いつものまさくんに戻って』
『舞のおかげだよ、いつも支えてくれてありがとう!』
『ううん、まさくんのことが好きだから』
二度目のキスをした、今度はさっきのように一瞬ではなく、永いキスを。
『まさくん、私の家に行こ、今日は誰もいないの』
唇が離れたとき舞はそう言った。
『ここが私の部屋、今お茶持ってくるから待っててね』
付き合って一年半、部屋はもちろん家の中に入るのさえ初めてだった。
とはいえ小学生の頃に遊びに来たことはあったから…それでも十年ぶりくらいか…
僅かに記憶に残っていた部屋と目の前に見える部屋は全く違っていた。
女の子の部屋らしく可愛らしいぬいぐるみやピンク色のカーテン、
そんな部屋には場違いに見える泥だらけの野球部員達の写真。
新チームを結成したばかりの去年の秋季大会の決勝のあとの集合写真だ。
チームのみんなに冷やかされて俺達二人が一番前に並ばされ真っ赤な顔で写ってる。
みんな笑顔で冷やかしながら一人だけ嫉妬の目をむき出しにしている矢部君が妙に笑えるが。
俺は仲間にも恋人にも恵まれているな…
『お待たせ。』
『あ、ありがと。』
『その写真、去年のだね。みんなに冷やかされて恥ずかしかったけど嬉しかったな。』
『そうだね、みんないい奴だよな。』
『うん。』
『みんなのためにも…』
『ううん、まさくん、プロになるのは自分のためでいいんだよ。それでみんな喜ぶんだから。』
『舞も?』
『もちろんだよ!』
『ありがとう』
俺は舞を強く抱きしめた。
『でも俺は舞のためにプロに入りたい、いつからか俺はそう思うようになってたんだ。』
付き合って一年半、部屋はもちろん家の中に入るのさえ初めてだった。
とはいえ小学生の頃に遊びに来たことはあったから…それでも十年ぶりくらいか…
僅かに記憶に残っていた部屋と目の前に見える部屋は全く違っていた。
女の子の部屋らしく可愛らしいぬいぐるみやピンク色のカーテン、
そんな部屋には場違いに見える泥だらけの野球部員達の写真。
新チームを結成したばかりの去年の秋季大会の決勝のあとの集合写真だ。
チームのみんなに冷やかされて俺達二人が一番前に並ばされ真っ赤な顔で写ってる。
みんな笑顔で冷やかしながら一人だけ嫉妬の目をむき出しにしている矢部君が妙に笑えるが。
俺は仲間にも恋人にも恵まれているな…
『お待たせ。』
『あ、ありがと。』
『その写真、去年のだね。みんなに冷やかされて恥ずかしかったけど嬉しかったな。』
『そうだね、みんないい奴だよな。』
『うん。』
『みんなのためにも…』
『ううん、まさくん、プロになるのは自分のためでいいんだよ。それでみんな喜ぶんだから。』
『舞も?』
『もちろんだよ!』
『ありがとう』
俺は舞を強く抱きしめた。
『でも俺は舞のためにプロに入りたい、いつからか俺はそう思うようになってたんだ。』
もう言葉はいらない。
抱き合い、唇を重ねながら舞の制服を脱がし、いつの間にか舞は下着だけになっていた。
『恥ずかしいな…私着痩せするから、太ってて幻滅しない?』
『そんなことないよ、舞はとても綺麗だよ。』
初めて女の子の霰もない姿を見て俺の胸は張り裂けそうなほどに高鳴っていた。
もっとも下着姿にするまでは勢いで夢中で脱がしていたから今更の感情ではあるが。
『ブラ、外すよ』
舞の返事を待たずに俺は背中に手を回した。
抱き合い、唇を重ねながら舞の制服を脱がし、いつの間にか舞は下着だけになっていた。
『恥ずかしいな…私着痩せするから、太ってて幻滅しない?』
『そんなことないよ、舞はとても綺麗だよ。』
初めて女の子の霰もない姿を見て俺の胸は張り裂けそうなほどに高鳴っていた。
もっとも下着姿にするまでは勢いで夢中で脱がしていたから今更の感情ではあるが。
『ブラ、外すよ』
舞の返事を待たずに俺は背中に手を回した。
…
何年ぶりだろうかあの頃のことを夢に見るなんて。
八年前のあの日、俺は初めて舞を抱いた。
そしてそれが最初で最後になるとは十八歳の俺は思ってもいなかった。
何年ぶりだろうかあの頃のことを夢に見るなんて。
八年前のあの日、俺は初めて舞を抱いた。
そしてそれが最初で最後になるとは十八歳の俺は思ってもいなかった。
舞に励まされ、俺はプロ入りに一縷の希望を託し引退後も練習は欠かさなかった。
しかし、運命のドラフトの日、俺の名前が呼ばれることはなかった。
野球部のみんなはもちろん舞も俺を気遣い励ましてくれた、だがそのときの俺にはその優しさが重荷だった。
優しさは時に残酷なほどに人を傷つける。
励ましの一言一言さえ素直に受け止められず、いつの間にか俺は仲間さえ遠ざけ、心を閉ざすようになっていた。
進学を決めた時も一番の条件は地元から離れることだった。
誰も知らないところで野球とは関わらない暮らしをしたかった。
誰とも連絡は取らず自然とあの頃の仲間は離れていった。
舞とも同じように自然消滅する道を選んだ、真っ直ぐに向き合うのが怖くなっていたのだ。
大学に入ってしばらくも俺は抜け殻のような暮らしをしていた、夢中になれるものもなく、ただ毎日を過ごすだけの日々。
考えてみれば捨て去ったはずのあの日から俺は一歩も前に進んでいないのかもしれない。
しかし、運命のドラフトの日、俺の名前が呼ばれることはなかった。
野球部のみんなはもちろん舞も俺を気遣い励ましてくれた、だがそのときの俺にはその優しさが重荷だった。
優しさは時に残酷なほどに人を傷つける。
励ましの一言一言さえ素直に受け止められず、いつの間にか俺は仲間さえ遠ざけ、心を閉ざすようになっていた。
進学を決めた時も一番の条件は地元から離れることだった。
誰も知らないところで野球とは関わらない暮らしをしたかった。
誰とも連絡は取らず自然とあの頃の仲間は離れていった。
舞とも同じように自然消滅する道を選んだ、真っ直ぐに向き合うのが怖くなっていたのだ。
大学に入ってしばらくも俺は抜け殻のような暮らしをしていた、夢中になれるものもなく、ただ毎日を過ごすだけの日々。
考えてみれば捨て去ったはずのあの日から俺は一歩も前に進んでいないのかもしれない。
『お疲れさまです、小浪です。たんぽぽ製作所との商談が今終わりました、社に戻って報告します。』
今朝はあんな夢を見て早く起きてしまい少し寝不足だ、直帰ならありがたかったがそうもいえない。
それでもいつもと変わらず日常を過ごしている、きっと多くの人もそうだろう、それが大人になるということなのだろうか。
都心から少し離れたところにある取引先、近くの駅までの道を歩くとき少しだけ心が落ち着く。
故郷の景色に似ているからだろうか、部員みんなで走った堤防、舞と一緒に帰った畦道…
一年生もそろそろ学校に慣れて夏服もちらほら見え始めた五月の終わり、駅のホームにも多くの高校生がいる。
今朝はあんな夢を見て早く起きてしまい少し寝不足だ、直帰ならありがたかったがそうもいえない。
それでもいつもと変わらず日常を過ごしている、きっと多くの人もそうだろう、それが大人になるということなのだろうか。
都心から少し離れたところにある取引先、近くの駅までの道を歩くとき少しだけ心が落ち着く。
故郷の景色に似ているからだろうか、部員みんなで走った堤防、舞と一緒に帰った畦道…
一年生もそろそろ学校に慣れて夏服もちらほら見え始めた五月の終わり、駅のホームにも多くの高校生がいる。
昨日の今日だからか少し感傷的になる俺がいた、
そしてそんな感情がまだ自分の中にあることにわずかに苦笑いをしていた。
電車の中も高校生ばかりだ、部活のこと恋愛のこと、他愛のない話ばかりだ、
この一瞬一瞬が大切でかけがえのないものだということをみんな知ってはいないだろう。
尤も気付く必要もないのかもしれない、それが若さなのだから。
『やっぱりガンダーは最高でやんす!このデザイン、まさに芸術品でやんす!』
はぁ、空気の読めない奴だ、公共の場所なんだから大声をださないマナーくらい守れよ、どんな奴だ?
!?矢・部・君?
一瞬呆然としたがすぐに目をそらす、なぜこんなところにいるんだ?
『小浪君!?小浪君でやんすか?』
だから大声を出すな、しかも人の名前を呼ぶな、てゆうか気付くな、俺とおまえは見知らぬ同士、同類と見られたら迷惑だ。
そんなことを考えながら無視をしていたが、彼の空気の読めなさは変わらないみたいだ。
『どうしたでやんすか?小浪君、無視しないでほしいでやんす、おいらでやんすよ?矢部でやんす。』
それでも無視をすれば関わってほしくないんだと悟るのが普通だが、電車の中で大声を出すだけあるというか全く声はやまない。
『人違いではないでやんす、絶対に小浪君でやんす!』
何故他人のおまえが断言できる。
『いい加減にしてほしいでやんす!親友のおいらを無視するでやんすか!?
わかったでやんす、おいらにも考えがあるでやんす!』
ここで折れる俺もどうかと思うが周囲の視線には耐えきれず、俺は矢部君のそばに行った。
『矢部君、少し静かにしてくれ、ここは公共の場だよ。』
『無視する小浪君が悪いでやんす!』
『それは申し訳ないと思ってるよ、仕事で疲れていたんだ。』
『まあいいでやんす、で、なにしてるでやんすか?久しぶりの再会、感動の場面でやんすよ?』
『でも相手が矢部君だし、別に感動なんて…』
『つべこべ言わずここに座るでやんす!』
『う、うん。』
『今は何の仕事をしてるでやんすか?』
『え?営業を。
矢部君は?』
『おいらは自宅警備をしながらカリスマブロガーをしてるでやんす!』
『ああ、ようするにニート…』
『違うでやんす!自宅警備兼…』
『わかった、ごめんね、カリスマブロガーなんだね?』
『わかればいいでやんす。』
かっこつけても世間にはよくは見てもらえていないだろう、苦労はあるのだろうか?
そしてそんな感情がまだ自分の中にあることにわずかに苦笑いをしていた。
電車の中も高校生ばかりだ、部活のこと恋愛のこと、他愛のない話ばかりだ、
この一瞬一瞬が大切でかけがえのないものだということをみんな知ってはいないだろう。
尤も気付く必要もないのかもしれない、それが若さなのだから。
『やっぱりガンダーは最高でやんす!このデザイン、まさに芸術品でやんす!』
はぁ、空気の読めない奴だ、公共の場所なんだから大声をださないマナーくらい守れよ、どんな奴だ?
!?矢・部・君?
一瞬呆然としたがすぐに目をそらす、なぜこんなところにいるんだ?
『小浪君!?小浪君でやんすか?』
だから大声を出すな、しかも人の名前を呼ぶな、てゆうか気付くな、俺とおまえは見知らぬ同士、同類と見られたら迷惑だ。
そんなことを考えながら無視をしていたが、彼の空気の読めなさは変わらないみたいだ。
『どうしたでやんすか?小浪君、無視しないでほしいでやんす、おいらでやんすよ?矢部でやんす。』
それでも無視をすれば関わってほしくないんだと悟るのが普通だが、電車の中で大声を出すだけあるというか全く声はやまない。
『人違いではないでやんす、絶対に小浪君でやんす!』
何故他人のおまえが断言できる。
『いい加減にしてほしいでやんす!親友のおいらを無視するでやんすか!?
わかったでやんす、おいらにも考えがあるでやんす!』
ここで折れる俺もどうかと思うが周囲の視線には耐えきれず、俺は矢部君のそばに行った。
『矢部君、少し静かにしてくれ、ここは公共の場だよ。』
『無視する小浪君が悪いでやんす!』
『それは申し訳ないと思ってるよ、仕事で疲れていたんだ。』
『まあいいでやんす、で、なにしてるでやんすか?久しぶりの再会、感動の場面でやんすよ?』
『でも相手が矢部君だし、別に感動なんて…』
『つべこべ言わずここに座るでやんす!』
『う、うん。』
『今は何の仕事をしてるでやんすか?』
『え?営業を。
矢部君は?』
『おいらは自宅警備をしながらカリスマブロガーをしてるでやんす!』
『ああ、ようするにニート…』
『違うでやんす!自宅警備兼…』
『わかった、ごめんね、カリスマブロガーなんだね?』
『わかればいいでやんす。』
かっこつけても世間にはよくは見てもらえていないだろう、苦労はあるのだろうか?
『それにしてもショックでやんす。』
『なにが?』
『小浪君がどこにでもいる、しがないサラリーマンになってることがでやんす。』
『君にそんなこと言われたく…』
『高校時代の小浪君はもっと輝いていたでやんす。』
『…』
『おいらはあの頃思っていたでやんす、あの年の地区予選で猪狩君は確かに別格だったでやんす、
でも早川さんや継沼が指名されて小浪君が指名されなかったのはおかしいでやんすと。』
『なにが?』
『小浪君がどこにでもいる、しがないサラリーマンになってることがでやんす。』
『君にそんなこと言われたく…』
『高校時代の小浪君はもっと輝いていたでやんす。』
『…』
『おいらはあの頃思っていたでやんす、あの年の地区予選で猪狩君は確かに別格だったでやんす、
でも早川さんや継沼が指名されて小浪君が指名されなかったのはおかしいでやんすと。』
軽く説明をしておこう。
猪狩守は決勝で戦ったあかつき大学付属高校のエースで、その年の甲子園優勝投手。
史上初の全球団指名でジャイアンツ入り、その後カイザースに移籍し球界のエースとして活躍。
八年目の今季で既に勝ち星は150に迫っている。
猪狩守は決勝で戦ったあかつき大学付属高校のエースで、その年の甲子園優勝投手。
史上初の全球団指名でジャイアンツ入り、その後カイザースに移籍し球界のエースとして活躍。
八年目の今季で既に勝ち星は150に迫っている。
早川あおいは史上初の女性プロ野球選手で、高校野球に女子選手が出場できるようになったきっかけの投手。
彼女の恋々高校は地区予選準決勝であかつきに1ー0で破れたが、それまでは全試合完封と話題性だけでなく実力もあることは充分に証明していた。
事実、マリーンズに指名され、その後キャットハンズに移籍。
昨年は最優秀中継ぎを獲得するなどセットアッパーとして活躍している。
彼女の恋々高校は地区予選準決勝であかつきに1ー0で破れたが、それまでは全試合完封と話題性だけでなく実力もあることは充分に証明していた。
事実、マリーンズに指名され、その後キャットハンズに移籍。
昨年は最優秀中継ぎを獲得するなどセットアッパーとして活躍している。
そして継沼剛(つぎぬまつよし)はその恋々高校野球部の設立者で初代キャプテン。
早川あおいを絶妙なリードでサポートするなど、共学三年目の無名校を一躍注目の的にした立役者だ。
ちなみに矢部君とは中学の同級生らしく、二年の時に早川さんが登板したことで出場停止になったのち、
女子選手出場要望の署名を集めていたときには俺たちパワフル高校野球部にも矢部君経由で協力の依頼がきたため、部員みんなでできる限りの協力をした。
最後の夏決勝で戦えたらという話が叶わなかったことは残念だった。
大学進学後自由枠でキャットハンズに入団。
打撃は二割七分、ホームラン十本程度だが、巧みなリードで早川あおいを始め技巧派揃いのキャットハンズ投手陣を支えている。
猪狩は球界でもトップクラスの選手で別格だが、
早川さん、継沼君も一線で活躍している。そんな彼らと比べるなんて矢部君は残酷だ。
『早川さんも継沼君もプロに入れて当然の選手だよ。
俺とは違う。』
『そんことないでやんす!小浪君はそんな性格だからプロになれなかったでやんす!』
『どうゆうこと?それ、いくら友達だとしても言っていいことと悪いことはあるんじゃない?』
早川あおいを絶妙なリードでサポートするなど、共学三年目の無名校を一躍注目の的にした立役者だ。
ちなみに矢部君とは中学の同級生らしく、二年の時に早川さんが登板したことで出場停止になったのち、
女子選手出場要望の署名を集めていたときには俺たちパワフル高校野球部にも矢部君経由で協力の依頼がきたため、部員みんなでできる限りの協力をした。
最後の夏決勝で戦えたらという話が叶わなかったことは残念だった。
大学進学後自由枠でキャットハンズに入団。
打撃は二割七分、ホームラン十本程度だが、巧みなリードで早川あおいを始め技巧派揃いのキャットハンズ投手陣を支えている。
猪狩は球界でもトップクラスの選手で別格だが、
早川さん、継沼君も一線で活躍している。そんな彼らと比べるなんて矢部君は残酷だ。
『早川さんも継沼君もプロに入れて当然の選手だよ。
俺とは違う。』
『そんことないでやんす!小浪君はそんな性格だからプロになれなかったでやんす!』
『どうゆうこと?それ、いくら友達だとしても言っていいことと悪いことはあるんじゃない?』
『影山さんって覚えてるでやんすか?』
『スカウトの人でしょ?忘れる訳ないよ。』
『影山さんはドラフトの二週間くらいあとに学校にきたでやんす。小浪君のこと気にかけていたんでやんすよ。』
『スカウトの人でしょ?忘れる訳ないよ。』
『影山さんはドラフトの二週間くらいあとに学校にきたでやんす。小浪君のこと気にかけていたんでやんすよ。』
『下手な冗談はやめてくれ、指名しなかった選手を気にかけるなんてありえないだろ?』
『影山さんは言っていたでやんす。
小浪君はメンタルが弱すぎる、些細なことを気にしそれがモチベーションの低下だけでなく、プレーの質にも影響しすぎている。
そう言っていたでやんす。』
確かに俺はすぐ弱気になったりやる気が上がらず練習や試合にも身が入らないことはあった。
『素材型の選手ならそれでもと穫る球団はあっても、小浪君のような才能より技術の選手にはそれは弱点でやんす。』
俺は長打力があるわけでもないし、肩も足も平均より少しましな程度だ、才能で追いつけない部分を努力でカバーしてきた。
だからこそプロ向きだと自分では思っていた。
『そしてそんな自分の長所短所がわかっていない』
『やめてくれ!もういい、聞きたくないよ。
惨めになるだけだ。』
『聞くでやんす!そうやって事実を受け止めようとしないから何も変わらないんでやんすよ!
影山さんの言葉に今はおいらも同意でやんす、小浪君は自分の弱さを受け入れていないでやんす、逃げているだけでやんす
そんなんじゃプロに入ってたとしても通用せずにすぐにクビだったでやんす。』
『…』
『自分だけじゃないでやんす、少しでも困難にぶつかったとき困難と向き合ったでやんすか?
おいら達仲間とも、舞ちゃんともしっかり向き合ったでやんすか?』
『それは…』
『それが小浪君と継沼の違いでやんす。
はっきり言って高校時代の二人の実力なんてそんなに違わなかったでやんす。
でも継沼はくじけなかったでやんす、あきらめなかったでやんす、自分ができる最善を尽くしていたでやんす。
そして何より自分に起きた困難から逃げずに受け入れ、向き合っていたでやんす。だからプロでも結果を出しているでやんす。』
まさか矢部君にこんな事を言われるなんて思ってもいなかった。
悔しいが彼の言っていることは間違いではない。
『小浪君、人生に満足しているでやんすか?』
『えっ…それは』
『してなんかいないでやんす、くすぶってるでやんす。』
『影山さんは言っていたでやんす。
小浪君はメンタルが弱すぎる、些細なことを気にしそれがモチベーションの低下だけでなく、プレーの質にも影響しすぎている。
そう言っていたでやんす。』
確かに俺はすぐ弱気になったりやる気が上がらず練習や試合にも身が入らないことはあった。
『素材型の選手ならそれでもと穫る球団はあっても、小浪君のような才能より技術の選手にはそれは弱点でやんす。』
俺は長打力があるわけでもないし、肩も足も平均より少しましな程度だ、才能で追いつけない部分を努力でカバーしてきた。
だからこそプロ向きだと自分では思っていた。
『そしてそんな自分の長所短所がわかっていない』
『やめてくれ!もういい、聞きたくないよ。
惨めになるだけだ。』
『聞くでやんす!そうやって事実を受け止めようとしないから何も変わらないんでやんすよ!
影山さんの言葉に今はおいらも同意でやんす、小浪君は自分の弱さを受け入れていないでやんす、逃げているだけでやんす
そんなんじゃプロに入ってたとしても通用せずにすぐにクビだったでやんす。』
『…』
『自分だけじゃないでやんす、少しでも困難にぶつかったとき困難と向き合ったでやんすか?
おいら達仲間とも、舞ちゃんともしっかり向き合ったでやんすか?』
『それは…』
『それが小浪君と継沼の違いでやんす。
はっきり言って高校時代の二人の実力なんてそんなに違わなかったでやんす。
でも継沼はくじけなかったでやんす、あきらめなかったでやんす、自分ができる最善を尽くしていたでやんす。
そして何より自分に起きた困難から逃げずに受け入れ、向き合っていたでやんす。だからプロでも結果を出しているでやんす。』
まさか矢部君にこんな事を言われるなんて思ってもいなかった。
悔しいが彼の言っていることは間違いではない。
『小浪君、人生に満足しているでやんすか?』
『えっ…それは』
『してなんかいないでやんす、くすぶってるでやんす。』
『…そうかもしれない。
確かに俺はあの日から真剣になることがなかった。
打ち込んでダメだったとき、それに耐えることの辛さをもう味わいたくないって知らず知らずに逃げていたんだと思う。』
『そんな人生でいいでやんすか?
今ならまだやり直せるでやんす。』
『無理だよ。
第一何をすればいいって言うんだい?』
『舞ちゃんともう一度向き合ってやり直すでやんす。』
『ずいぶん突飛な事を言うね、でもそれはできないよ。
舞は結婚するって聞いたし…』
『?それはないでやんすよ。
一昨日尾崎先輩の結婚式で舞ちゃんにも会ったでやんすが、一言もそんなこと言ってなかったでやんす。
むしろ前の日にお見合いをしたけどうんざりみたいなことを言ってたでやんす。』
『でも親父から昨日連絡があって…』
『お見合いをしたと聞いて結婚するって早とちりしたんではないでやんすか?』
『なんだよそれ…』
『ショックだったでやんすね?
そしてほっとしたでやんすね?』
『まさか』
『今小浪君はほっとした顔をしていたでやんす。今も舞ちゃんのこと想っているでやんすね。
だからほっとしたでやんす。』
『そんな…』
そんなことはないと言うつもりだったが何故か言いよどんでしまった。
昨夜舞の結婚と言うことを聞きあんな夢を見たことも、感傷的になったことも舞のことを引きずっていたから。
認めたくなくても心は正直ということだろうか。
『舞ちゃんのこと今も想ってるでやんすね、なら話は早いでやんす。
これ、舞ちゃんの電話番号でやんす、今夜電話するでやんす。』
『えっ?』
『おいらもう降りるでやんす。
約束でやんすよ、今夜絶対にかけるでやんす!』
『ちょっと、矢部君!』
『絶対に電話するでやんすよ!舞ちゃんは待ってるでやんす。』
なんだったんだろう…久しぶりに会って突然色々なことを言われて。
舞に電話…
矢部君は軽く言ったけれど、正直怖い。八年の月日は永すぎる、何を話せと言うのだろう。
向き合うため?
向き合うってどういうことだろう、俺にできるのだろうか?
確かに俺はあの日から真剣になることがなかった。
打ち込んでダメだったとき、それに耐えることの辛さをもう味わいたくないって知らず知らずに逃げていたんだと思う。』
『そんな人生でいいでやんすか?
今ならまだやり直せるでやんす。』
『無理だよ。
第一何をすればいいって言うんだい?』
『舞ちゃんともう一度向き合ってやり直すでやんす。』
『ずいぶん突飛な事を言うね、でもそれはできないよ。
舞は結婚するって聞いたし…』
『?それはないでやんすよ。
一昨日尾崎先輩の結婚式で舞ちゃんにも会ったでやんすが、一言もそんなこと言ってなかったでやんす。
むしろ前の日にお見合いをしたけどうんざりみたいなことを言ってたでやんす。』
『でも親父から昨日連絡があって…』
『お見合いをしたと聞いて結婚するって早とちりしたんではないでやんすか?』
『なんだよそれ…』
『ショックだったでやんすね?
そしてほっとしたでやんすね?』
『まさか』
『今小浪君はほっとした顔をしていたでやんす。今も舞ちゃんのこと想っているでやんすね。
だからほっとしたでやんす。』
『そんな…』
そんなことはないと言うつもりだったが何故か言いよどんでしまった。
昨夜舞の結婚と言うことを聞きあんな夢を見たことも、感傷的になったことも舞のことを引きずっていたから。
認めたくなくても心は正直ということだろうか。
『舞ちゃんのこと今も想ってるでやんすね、なら話は早いでやんす。
これ、舞ちゃんの電話番号でやんす、今夜電話するでやんす。』
『えっ?』
『おいらもう降りるでやんす。
約束でやんすよ、今夜絶対にかけるでやんす!』
『ちょっと、矢部君!』
『絶対に電話するでやんすよ!舞ちゃんは待ってるでやんす。』
なんだったんだろう…久しぶりに会って突然色々なことを言われて。
舞に電話…
矢部君は軽く言ったけれど、正直怖い。八年の月日は永すぎる、何を話せと言うのだろう。
向き合うため?
向き合うってどういうことだろう、俺にできるのだろうか?
21時か…
矢部君と電車で会ったあと、会社に戻り報告をして家に帰ったのが19時半だから、
一時間半も電話とにらめっこをしていたってことか、
煮え切らない自分自身が疎ましくもありおかしくもある。
何を話せばいいのか気の利いた言葉一つ浮かばない。
正直このまま電話なんてしないほうがいいとさえ思うが、帰り際の矢部君の目はかなり本気だった。
不本意ながら約束をしてしまった以上電話するしかない、覚悟を決めよう。
矢部君と電車で会ったあと、会社に戻り報告をして家に帰ったのが19時半だから、
一時間半も電話とにらめっこをしていたってことか、
煮え切らない自分自身が疎ましくもありおかしくもある。
何を話せばいいのか気の利いた言葉一つ浮かばない。
正直このまま電話なんてしないほうがいいとさえ思うが、帰り際の矢部君の目はかなり本気だった。
不本意ながら約束をしてしまった以上電話するしかない、覚悟を決めよう。
…電話をかけてから相手が取るまでのわずかな期間、時にそれが長く感じたり短く感じたりする。
正直このままつながらない方がいいとさえ思う気持ちは…叶わなかったようだ
正直このままつながらない方がいいとさえ思う気持ちは…叶わなかったようだ
『もしもし…』
舞…
何か、しゃべらなくちゃ…
『あ、あの…
舞…
何か、しゃべらなくちゃ…
『あ、あの…
すいません!間違いみたいです…
失礼しま…』
『まさくん、切らないで!』
『ま、舞?なんで?』
『まさくんの声、忘れてたりしないよ。
それにね、さっき矢部君から連絡があったの、まさくんに電車で会って電話するように言ったって。
笑われるかもしれないけど期待していたの、まさくんから電話くること…』
『えっと、
あのさ…
親父から結婚するって聞いたんだけど…』
『お見合いの帰りにまさくんのお父さんに会ったの、それでお見合いの話をしたから勘違いしたんじゃないかな。』
『そっか…』
『…ショック、だった?』
『えっ?
…うん、
そうだと思う。
だから昨夜は寝れなくて、やっと寝れたと思ったら高校の頃の夢を見て、
今日は今日で矢部君に会ったとはいえこうやって電話してるわけだし…』
『嬉しいな、電話くれて。
もうまさくんの声、一生聞けないと思ってた。
忘れられなくて、思い出にしようと何度も思って。
だけどずっとあなたのこと想ってた。
忘れられないでいたの。』
『舞…』
『それとね、後悔してることがあったの、あのドラフトの日からずっと…』
過去と現在に向き合うためには触れなければならないことだとは思うが、
ドラフトのことは思い出すのが正直辛い。
『あかつきに負けた時みたいに励ませばまさくんは元気を出してくれると思ってた。
でもまさくんにとってプロになれなかったことは
甲子園に行けなかったこととは比べものにならないくらいに大きなことだったんだよね、
私があなたの気持ちをもう少しだけわかってたら…
思い出す度何度も後悔してたの。』
『そんなことないよ舞。
舞は悪くない、あの頃の俺が弱くてその弱さを受け入れないくらいに幼かっただけだ。』
失礼しま…』
『まさくん、切らないで!』
『ま、舞?なんで?』
『まさくんの声、忘れてたりしないよ。
それにね、さっき矢部君から連絡があったの、まさくんに電車で会って電話するように言ったって。
笑われるかもしれないけど期待していたの、まさくんから電話くること…』
『えっと、
あのさ…
親父から結婚するって聞いたんだけど…』
『お見合いの帰りにまさくんのお父さんに会ったの、それでお見合いの話をしたから勘違いしたんじゃないかな。』
『そっか…』
『…ショック、だった?』
『えっ?
…うん、
そうだと思う。
だから昨夜は寝れなくて、やっと寝れたと思ったら高校の頃の夢を見て、
今日は今日で矢部君に会ったとはいえこうやって電話してるわけだし…』
『嬉しいな、電話くれて。
もうまさくんの声、一生聞けないと思ってた。
忘れられなくて、思い出にしようと何度も思って。
だけどずっとあなたのこと想ってた。
忘れられないでいたの。』
『舞…』
『それとね、後悔してることがあったの、あのドラフトの日からずっと…』
過去と現在に向き合うためには触れなければならないことだとは思うが、
ドラフトのことは思い出すのが正直辛い。
『あかつきに負けた時みたいに励ませばまさくんは元気を出してくれると思ってた。
でもまさくんにとってプロになれなかったことは
甲子園に行けなかったこととは比べものにならないくらいに大きなことだったんだよね、
私があなたの気持ちをもう少しだけわかってたら…
思い出す度何度も後悔してたの。』
『そんなことないよ舞。
舞は悪くない、あの頃の俺が弱くてその弱さを受け入れないくらいに幼かっただけだ。』
あの頃だって舞の優しさを感じていた。
優しいからこそどう接したらいいかを見つけられなかったのだと思う。
そして俺はその気持ちをわかっていながら目を背けていた。
いや、わかっていたからこそ受け入れられなかった。
わずかに持っていたプライドも夢も何もかも崩れると思ったから。
ちっぽけな自分を守るため大事なものを傷つけた、謝るべきは俺の方だ。
『舞、ほんとごめん。
俺がもう少し大人だったら、もう少し強かったら…』
『まさくん、もう一度やり直そう?
私、あなたを今度こそ支えるから…』
優しいからこそどう接したらいいかを見つけられなかったのだと思う。
そして俺はその気持ちをわかっていながら目を背けていた。
いや、わかっていたからこそ受け入れられなかった。
わずかに持っていたプライドも夢も何もかも崩れると思ったから。
ちっぽけな自分を守るため大事なものを傷つけた、謝るべきは俺の方だ。
『舞、ほんとごめん。
俺がもう少し大人だったら、もう少し強かったら…』
『まさくん、もう一度やり直そう?
私、あなたを今度こそ支えるから…』
『スポーツニュースです。
昨日カイザースの猪狩守投手が通算300勝を達成しました。
猪狩投手は二十一年前に甲子園で優勝、史上唯一の全球団から指名を受け、
ジャイアンツに入団、エースとして活躍した後にカイザースに移籍。
その後も球界を代表するエースとして活躍し、史上最長となる入団以来二十年連続二桁勝利を今なお継続しています。』
猪狩はやっぱりすごいな、たとえ高校時代とはいえこれほどの投手からヒットを打てたことは俺の誇りだ。
『…続いてパ・リーグです。
早川あおい代理監督が就任してから六連勝と好調のキャットハンズはやんきーずと対戦。
先発の橘はストレートの走りはよくなかったものの、
持ち前の制球力で粘り強いピッチングをし
八回まで一失点と踏ん張る。
橘の力投に応えるべく九回の表にチームリーダーの継沼が決勝打を放ち七連勝。
早川監督代行が就任以来負けがありません。』
あの夏から二十一年の月日が経った。
猪狩は殿堂入り間違いなし、球史に名を残す大投手として記録を残している。
継沼君はミスターキャットハンズ、チームリーダーとして活躍。
早川さんはタイトルを取った二年後、絶頂期に引退し野球アカデミーで指導者に転身。
二年前に古巣キャットハンズに投手コーチとして就任。
そして成績低迷で監督が辞任したキャットハンズで先週より監督代行に就任。
もちろん選手、コーチ、監督(代行だが)とも女性としての先駆者だ。
昨日カイザースの猪狩守投手が通算300勝を達成しました。
猪狩投手は二十一年前に甲子園で優勝、史上唯一の全球団から指名を受け、
ジャイアンツに入団、エースとして活躍した後にカイザースに移籍。
その後も球界を代表するエースとして活躍し、史上最長となる入団以来二十年連続二桁勝利を今なお継続しています。』
猪狩はやっぱりすごいな、たとえ高校時代とはいえこれほどの投手からヒットを打てたことは俺の誇りだ。
『…続いてパ・リーグです。
早川あおい代理監督が就任してから六連勝と好調のキャットハンズはやんきーずと対戦。
先発の橘はストレートの走りはよくなかったものの、
持ち前の制球力で粘り強いピッチングをし
八回まで一失点と踏ん張る。
橘の力投に応えるべく九回の表にチームリーダーの継沼が決勝打を放ち七連勝。
早川監督代行が就任以来負けがありません。』
あの夏から二十一年の月日が経った。
猪狩は殿堂入り間違いなし、球史に名を残す大投手として記録を残している。
継沼君はミスターキャットハンズ、チームリーダーとして活躍。
早川さんはタイトルを取った二年後、絶頂期に引退し野球アカデミーで指導者に転身。
二年前に古巣キャットハンズに投手コーチとして就任。
そして成績低迷で監督が辞任したキャットハンズで先週より監督代行に就任。
もちろん選手、コーチ、監督(代行だが)とも女性としての先駆者だ。
彼らと同じ年に甲子園を目指し、戦ったあの夏は俺にとっての誇りだ。
四十歳を手前にして改めてそう感じる。
四十歳を手前にして改めてそう感じる。
『パパー!早くー!』
『ごめんごめん!律人、今行くよ!』
律人(りつと)は俺の息子、小学五年生で少年野球のチームに入っている。
今日は近くの球場で草野球の試合があり、律人は見に行くのを楽しみにしている。
『パパ、ホームラン打ってね!』
『はは、まあがんばるよ。』
『あなた、りっくん、いってらっしゃい。
後で私も応援に行くから。』
俺は草野球だが再び野球をしている。
『ごめんごめん!律人、今行くよ!』
律人(りつと)は俺の息子、小学五年生で少年野球のチームに入っている。
今日は近くの球場で草野球の試合があり、律人は見に行くのを楽しみにしている。
『パパ、ホームラン打ってね!』
『はは、まあがんばるよ。』
『あなた、りっくん、いってらっしゃい。
後で私も応援に行くから。』
俺は草野球だが再び野球をしている。
舞と共に生きていくと決めた俺は地元に戻ることを決め、転職をした。
転職先は野球用品の一流メーカー、ミゾットスポーツ。
俺が配属した支店はその二年前に倒産寸前の危機を当時野球部員だった、
現パワフルズのクローザー、二代主(にしろつかさ)選手が今ではこの地域で伝説となっている奮闘で盛り返したという。
そしてその二代選手に影響を受け、一度離れた野球に再び戻った二人の選手、
多賀望部長と山口賢、その二人が俺に野球をもう一度する勇気とチャンスをくれた。
多賀部長も高校時代には名の通った選手だったようだが、
同学年の山口は世代間でも別格、猪狩クラスの甲子園のスターだった。
一年、二年と強豪帝王実業のエースとして甲子園連覇、
往年の大投手を映したような豪快なマサカリ投法からの速球とフォークボールは高校レベルではほとんど打たれたところを見なかった。
もちろんプロからも引く手あまただったが、早くから大学進学を表明しプロ入りはしなかった。
しかし、進学した大学で登板過多により投手生命を絶つ怪我をしてしまい、
野球から離れた生活をしていた。
実績も野球を離れた理由も三者三様ではあるが、
野球を離れた者同士わかりあえる部分、野球を大事にしたいという共通の思いがあった。
そんな環境だから試合に勝ち都市対抗などに出場すること以上に楽しむことを第一にしており、
俺は野球が楽しいものだと改めて知ることができた。
転職先は野球用品の一流メーカー、ミゾットスポーツ。
俺が配属した支店はその二年前に倒産寸前の危機を当時野球部員だった、
現パワフルズのクローザー、二代主(にしろつかさ)選手が今ではこの地域で伝説となっている奮闘で盛り返したという。
そしてその二代選手に影響を受け、一度離れた野球に再び戻った二人の選手、
多賀望部長と山口賢、その二人が俺に野球をもう一度する勇気とチャンスをくれた。
多賀部長も高校時代には名の通った選手だったようだが、
同学年の山口は世代間でも別格、猪狩クラスの甲子園のスターだった。
一年、二年と強豪帝王実業のエースとして甲子園連覇、
往年の大投手を映したような豪快なマサカリ投法からの速球とフォークボールは高校レベルではほとんど打たれたところを見なかった。
もちろんプロからも引く手あまただったが、早くから大学進学を表明しプロ入りはしなかった。
しかし、進学した大学で登板過多により投手生命を絶つ怪我をしてしまい、
野球から離れた生活をしていた。
実績も野球を離れた理由も三者三様ではあるが、
野球を離れた者同士わかりあえる部分、野球を大事にしたいという共通の思いがあった。
そんな環境だから試合に勝ち都市対抗などに出場すること以上に楽しむことを第一にしており、
俺は野球が楽しいものだと改めて知ることができた。
そして息子の律人が小学生になった年の都市対抗で選手生活にピリオドをうち、
ミゾットスポーツとFC契約を結びスポーツ用品店のオーナーとして独立。
今はスポーツ用品店を経営しながら少年野球のコーチをしている。
ミゾットスポーツとFC契約を結びスポーツ用品店のオーナーとして独立。
今はスポーツ用品店を経営しながら少年野球のコーチをしている。
野球は素晴らしいスポーツだ。
ただ体を鍛えるだけではない、精神も鍛えられ、仲間と協力し助け合うこと、協調性も身に付く。
大人に近づくにつれ忘れてしまう楽しさ、尊さを俺は子供たちに伝えていきたい。
プレイヤーとしての人生より終わってからの人生の方が遙かに長い、
その長い人生に少しでもよい影響を与えること、それが子供を教える大人の役目だ。
ただ体を鍛えるだけではない、精神も鍛えられ、仲間と協力し助け合うこと、協調性も身に付く。
大人に近づくにつれ忘れてしまう楽しさ、尊さを俺は子供たちに伝えていきたい。
プレイヤーとしての人生より終わってからの人生の方が遙かに長い、
その長い人生に少しでもよい影響を与えること、それが子供を教える大人の役目だ。
今日の試合は同じように現役から退き少年野球の指導者をしている山口と野球の楽しさを子供に伝え、
そして自分たちも楽しむために始めたパワフル高校OB対帝王実業OBの試合だ。
特に全国に名を轟かす強豪だった帝王実業は野球の楽しさなど当時は全くなかったという。
それが中年になり、子供の前で少年のように野球を楽しむ。
子供たちも父親の普段見られない一面を見て楽しみ、親子の絆が深まると好評のようだ。
かく言う我が家も律人は野球が好きで、少年野球では俺と同じくショートを守っている。
果たせなかった夢を託したいという思いはもちろんある、しかしそれよりも野球をずっと好きでいてほしい。
そして自分たちも楽しむために始めたパワフル高校OB対帝王実業OBの試合だ。
特に全国に名を轟かす強豪だった帝王実業は野球の楽しさなど当時は全くなかったという。
それが中年になり、子供の前で少年のように野球を楽しむ。
子供たちも父親の普段見られない一面を見て楽しみ、親子の絆が深まると好評のようだ。
かく言う我が家も律人は野球が好きで、少年野球では俺と同じくショートを守っている。
果たせなかった夢を託したいという思いはもちろんある、しかしそれよりも野球をずっと好きでいてほしい。
『みんな、一点差だ、俺たちは逆転できる!最後まで諦めずに戦おう!』
『…』
『どうした?矢部君?』
『あのときとよく似ているでやんす』
『ん?ああ、あかつきとの決勝戦か。
そういえばちょうど打順も一緒だね。』
『おいら塁に出るでやんす、小浪君、勝負を決めるでやんすよ。
舞ちゃんと律人君の前でかっこいいとこ見せるでやんす。』
『矢部先輩、ずいぶん気が利くようになったッスネ。』
『円谷うるさいでやんす!
おいらは昔から気配りの男でやんす。』
『どうかな、電車の中で大声出すのにね。』
『それは言わない約束でやんす。
おいらのおかげで今の小浪君があるでやんすよ。』
『そうだね、感謝しているよ。矢部君。
ほら、塁に出てきてくれ。』
『ガッテンでやんす!』
『…』
『どうした?矢部君?』
『あのときとよく似ているでやんす』
『ん?ああ、あかつきとの決勝戦か。
そういえばちょうど打順も一緒だね。』
『おいら塁に出るでやんす、小浪君、勝負を決めるでやんすよ。
舞ちゃんと律人君の前でかっこいいとこ見せるでやんす。』
『矢部先輩、ずいぶん気が利くようになったッスネ。』
『円谷うるさいでやんす!
おいらは昔から気配りの男でやんす。』
『どうかな、電車の中で大声出すのにね。』
『それは言わない約束でやんす。
おいらのおかげで今の小浪君があるでやんすよ。』
『そうだね、感謝しているよ。矢部君。
ほら、塁に出てきてくれ。』
『ガッテンでやんす!』
珍しい、あんな啖呵をきったときにはまず間違いなく三振する矢部君が出塁だ。
円谷が送ったものの、猿山が三振。
二死二塁か、見事に似たような場面が巡るものだ。
マウンド上の山口は高校時代ブラウン管の向こう側で見ていた相手だ。
かつての豪腕右腕はサウスポーとして復活し、今俺と対峙している。
神様も粋なことをすると妙に感心してしまう。
いい投手ほどプライドが高い、相手の四番との対決はまず間違いなく決め球で勝負するはず。
あの頃の猪狩はそれがストレート。
そして山口のそれは鋭いフォークだ。
ツーストライク、スリーボール。
マウンドの山口と目が合った。お互い考えていることは同じようだ。
最後の一球、決め球でしとめようとするのがエースならそれを打とうとするのが四番打者だ。
円谷が送ったものの、猿山が三振。
二死二塁か、見事に似たような場面が巡るものだ。
マウンド上の山口は高校時代ブラウン管の向こう側で見ていた相手だ。
かつての豪腕右腕はサウスポーとして復活し、今俺と対峙している。
神様も粋なことをすると妙に感心してしまう。
いい投手ほどプライドが高い、相手の四番との対決はまず間違いなく決め球で勝負するはず。
あの頃の猪狩はそれがストレート。
そして山口のそれは鋭いフォークだ。
ツーストライク、スリーボール。
マウンドの山口と目が合った。お互い考えていることは同じようだ。
最後の一球、決め球でしとめようとするのがエースならそれを打とうとするのが四番打者だ。
…高校時代にもミゾット時代にもないような手応え。打った瞬間にそれとわかる当たり。
マウンドの山口にふと目をやると打球の行方を見ながら、すっと力が抜けたように見えた。
『野球ってやっぱり楽しいな。』
『ああ。』
言葉には出さないが俺たちはそう会話をしていた。
マウンドの山口にふと目をやると打球の行方を見ながら、すっと力が抜けたように見えた。
『野球ってやっぱり楽しいな。』
『ああ。』
言葉には出さないが俺たちはそう会話をしていた。
『パパー、やったー!
すごいホームランだね!』
律人がそばまで走り寄ってきた。
山口が帽子を下げて笑顔を向けている、
ん?何を指さしているんだ?
その先に視線を向けると舞の笑顔が見えた。
舞の方を向き、ここまで来るようにジェスチャーをした。
一緒にダイヤモンドを回ろう。
舞と律人と三人で一緒に…
すごいホームランだね!』
律人がそばまで走り寄ってきた。
山口が帽子を下げて笑顔を向けている、
ん?何を指さしているんだ?
その先に視線を向けると舞の笑顔が見えた。
舞の方を向き、ここまで来るようにジェスチャーをした。
一緒にダイヤモンドを回ろう。
舞と律人と三人で一緒に…
『舞、ありがとう。』
『えっ?』
『もう一度野球と向き合えたのも、今がこうあるのも舞のおかげだよ。
勇気付けてくれてありがとう。
支えてくれてありがとう。』
『私はあなたの輝いてる姿を見るのが好きなの。
私こそ立ち直ってくれたあなたに感謝しているわ。』
『これからも舞と律人をずっと幸せにしていくから。』
『うん、ありがとう』
『えっ?』
『もう一度野球と向き合えたのも、今がこうあるのも舞のおかげだよ。
勇気付けてくれてありがとう。
支えてくれてありがとう。』
『私はあなたの輝いてる姿を見るのが好きなの。
私こそ立ち直ってくれたあなたに感謝しているわ。』
『これからも舞と律人をずっと幸せにしていくから。』
『うん、ありがとう』
大事なものを一度俺は失った。
だが失ったからこそ、そのかけがえのなさを知ることができた。
これから先も困難はあるだろう、でももうくじけはしない、諦めはしない。
守るものがあるから、幸せにしたい人がいるから。
これから先の人生も、このダイヤモンドのように一緒に歩いてゆく。
愛する人と共に。
だが失ったからこそ、そのかけがえのなさを知ることができた。
これから先も困難はあるだろう、でももうくじけはしない、諦めはしない。
守るものがあるから、幸せにしたい人がいるから。
これから先の人生も、このダイヤモンドのように一緒に歩いてゆく。
愛する人と共に。
完