11月、街は少しずつ冬支度を始め、
暑い夏を過ごした球児たちも体力作りをメインとした練習をしている頃。
だが、俺達にはそれよりも大事なことがあった。
暑い夏を過ごした球児たちも体力作りをメインとした練習をしている頃。
だが、俺達にはそれよりも大事なことがあった。
俺は継沼剛(つぎぬまつよし)、恋々高校二年、野球部のキャプテン。
恋々高校は昨年共学になったばかり、つまり、俺達の代が第一期男子生徒の元女子校で、
昨年俺を中心に三人で野球愛好会を設立。
同学年の男子生徒がわずかに七人ということで、昨年は試合すら出来ず、ひたすら基礎練習に明け暮れた。
それが功をそうしたのか、部員が集まった今年の夏の大会はベストエイトまで進出。
順調なはずだったが、理不尽ともいえるルールのせいで俺達は突如戦う権利を奪われた。
それはエースであり、野球愛好会を一緒に立ち上げた選手が『女』だったから、
たったそれだけのことで俺達は夢を途中であきらめることになった。
その理由となった『彼女』早川あおいは夏の終わりにマネージャーになることを決意し、
俺達を試合に出すという選択をした。
女子野球選手として甲子園、そしてプロ入りという夢を犠牲にして。
恋々高校は昨年共学になったばかり、つまり、俺達の代が第一期男子生徒の元女子校で、
昨年俺を中心に三人で野球愛好会を設立。
同学年の男子生徒がわずかに七人ということで、昨年は試合すら出来ず、ひたすら基礎練習に明け暮れた。
それが功をそうしたのか、部員が集まった今年の夏の大会はベストエイトまで進出。
順調なはずだったが、理不尽ともいえるルールのせいで俺達は突如戦う権利を奪われた。
それはエースであり、野球愛好会を一緒に立ち上げた選手が『女』だったから、
たったそれだけのことで俺達は夢を途中であきらめることになった。
その理由となった『彼女』早川あおいは夏の終わりにマネージャーになることを決意し、
俺達を試合に出すという選択をした。
女子野球選手として甲子園、そしてプロ入りという夢を犠牲にして。
しかし俺は知っていた。早川あおいがマネージャーになり、ボールを握る機会もなく、
ピッチング練習をしなくなってからも走り込みを続けていることを。
それも俺達の練習が終わり、暗くなってから誰にも見つからないように。
恋々高校の野球部でそれに気付いたのは俺と、もう一人のマネージャーで早川あおいの親友、七瀬はるかさんだけ。
ある日練習を眺めている俺に七瀬さんは声をかけた。
それは早川あおいがもう一度野球をできるようにするために何ができるかということだった。
次の日、早川あおいに用事を頼み、彼女がいない間に部員全員に説明し、話し合った。
俺たちが出した答えは世論に訴えることだ。
俺たちがいくら声を張り上げてもそうは届かない、しかし、多くの声を集めれば届くはず。
そう信じ、早速行動を始めた。
ピッチング練習をしなくなってからも走り込みを続けていることを。
それも俺達の練習が終わり、暗くなってから誰にも見つからないように。
恋々高校の野球部でそれに気付いたのは俺と、もう一人のマネージャーで早川あおいの親友、七瀬はるかさんだけ。
ある日練習を眺めている俺に七瀬さんは声をかけた。
それは早川あおいがもう一度野球をできるようにするために何ができるかということだった。
次の日、早川あおいに用事を頼み、彼女がいない間に部員全員に説明し、話し合った。
俺たちが出した答えは世論に訴えることだ。
俺たちがいくら声を張り上げてもそうは届かない、しかし、多くの声を集めれば届くはず。
そう信じ、早速行動を始めた。
『お願いしま~す!』
『女子選手にも甲子園出場のチャンスを!』
『署名おねがいしますでやんす。』
七瀬さんを入れても14人の恋々高校野球部員では人手も足りず、
俺達は学園内の女子生徒、他校に行った中学の同級生にも片っ端から協力を頼んだ。
その中で快く引き受けてくれたのが、中学の同級生、矢部明雄がいるパワフル高校の野球部のメンバーだった。
『女子選手にも甲子園出場のチャンスを!』
『署名おねがいしますでやんす。』
七瀬さんを入れても14人の恋々高校野球部員では人手も足りず、
俺達は学園内の女子生徒、他校に行った中学の同級生にも片っ端から協力を頼んだ。
その中で快く引き受けてくれたのが、中学の同級生、矢部明雄がいるパワフル高校の野球部のメンバーだった。
『矢部、小浪君。
お疲れ、ほんとうに協力ありがとう。』
『あ、あの、これ…
差し入れです、飲んで下さい。』
『ありがとうございます。
ねえ、まさくん、みんなも呼んでこないといけないね。』
『そうだな、舞。
継沼君、少し休憩させてもいいかな?』
『うん、かまわないよ。
そのための差し入れなんだから。』
『ありがたいでやんす、もうのどもカラカラだったでやんす。
でもこんなに大量の飲み物買うような部費があるなんていいでやんすね、
さすが元お嬢様校の私立でやんす。』
『まさか、いくら何でもそんなに部費はないよ。
七瀬さんが出してくれたんだ。』
『私にできることはこれくらいですから、あおいのためならこれくらい惜しくもありません。』
『なんていいマネージャーさんでやんすか!
しかも可愛くて!うらやましいでやんす。』
『パワフル高校だってマネージャーの栗原さん、美人じゃないか。』
『ああ、でも舞ちゃんは小浪君の彼女で小浪君にベッタリでやんす。
小浪君の専用マネージャーか!って突っ込みたくなるくらいでやんす。
きっと二人で部室でもあんなことやこんなこ…』
バキッ!ベキッ!
矢部の両頬にパンチが突き刺さり、見るも無残な表情になった。
付き合っている二人は息も合うのだなと妙に感心してしまう。
『矢部君?
誰がまさくん専用マネージャーなの?
私のことそんな風に見てたんだ。』
『そ、それは言葉のあやというか何というか…でやんす。』
『矢部君、俺達は野球部のみんなに悪い影響を与えないよう気を配ってきたつもりだよ、
いつ二人で部室に二人で居た?練習中にいつ舞を独占した?
舞の練習レポートを一回でも読んだ?』
『そんなのがあったでやんすか?知らなかったでやんす。』
『矢部君…
俺がキャプテンになってから、みんなの悪い癖なんかを練習を見ながら舞にデータを残してもらってるんだよ、
毎日見るように言ったよね?』
『あぅ、え、えっとでやんす…』
『矢部、おまえの負けみたいだね、二人を見ても公私混同するようには見えないよ。』
お疲れ、ほんとうに協力ありがとう。』
『あ、あの、これ…
差し入れです、飲んで下さい。』
『ありがとうございます。
ねえ、まさくん、みんなも呼んでこないといけないね。』
『そうだな、舞。
継沼君、少し休憩させてもいいかな?』
『うん、かまわないよ。
そのための差し入れなんだから。』
『ありがたいでやんす、もうのどもカラカラだったでやんす。
でもこんなに大量の飲み物買うような部費があるなんていいでやんすね、
さすが元お嬢様校の私立でやんす。』
『まさか、いくら何でもそんなに部費はないよ。
七瀬さんが出してくれたんだ。』
『私にできることはこれくらいですから、あおいのためならこれくらい惜しくもありません。』
『なんていいマネージャーさんでやんすか!
しかも可愛くて!うらやましいでやんす。』
『パワフル高校だってマネージャーの栗原さん、美人じゃないか。』
『ああ、でも舞ちゃんは小浪君の彼女で小浪君にベッタリでやんす。
小浪君の専用マネージャーか!って突っ込みたくなるくらいでやんす。
きっと二人で部室でもあんなことやこんなこ…』
バキッ!ベキッ!
矢部の両頬にパンチが突き刺さり、見るも無残な表情になった。
付き合っている二人は息も合うのだなと妙に感心してしまう。
『矢部君?
誰がまさくん専用マネージャーなの?
私のことそんな風に見てたんだ。』
『そ、それは言葉のあやというか何というか…でやんす。』
『矢部君、俺達は野球部のみんなに悪い影響を与えないよう気を配ってきたつもりだよ、
いつ二人で部室に二人で居た?練習中にいつ舞を独占した?
舞の練習レポートを一回でも読んだ?』
『そんなのがあったでやんすか?知らなかったでやんす。』
『矢部君…
俺がキャプテンになってから、みんなの悪い癖なんかを練習を見ながら舞にデータを残してもらってるんだよ、
毎日見るように言ったよね?』
『あぅ、え、えっとでやんす…』
『矢部、おまえの負けみたいだね、二人を見ても公私混同するようには見えないよ。』
『うるさいでやんす、継沼。』
『矢部君、みんなを呼んできてくれ、休憩しよう。』
『わかったでやんす、おいら行ってくるでやんす。』
『変わらないな、中学の頃から。』
『じゃあ継沼君も大変だったんだ。』
俺は思わず頷き、小浪君と二人顔を合わせて苦笑いをしていた。
『矢部君、みんなを呼んできてくれ、休憩しよう。』
『わかったでやんす、おいら行ってくるでやんす。』
『変わらないな、中学の頃から。』
『じゃあ継沼君も大変だったんだ。』
俺は思わず頷き、小浪君と二人顔を合わせて苦笑いをしていた。
『それにしても。』
『ん?』
『俺とも早川とも面識がなかったのに何で小浪君は野球部のみんなに声をかけてまで協力してくれたの?』
正直矢部にお願いしたとき、矢部一人、よくて二、三人の仲間を連れてきてもらえれば儲けものというくらいの気持ちでいた。
だから矢部からの返事でキャプテンの小浪君がみんなを説得し、協力をしてくれると聞いたときには
嬉しさよりも驚きの気持ちの方がはるかに強かった。
俺自身面識はなかったし、それとなく早川に聞いても面識はない。
それなのに何故?
『ん~っ、
何でって聞かれると困るんだけど、簡単にいうならもったいないって思ったからかな。』
『もったいない?』
『夏の大会まで正直名前も知らなくて、悪いけどあかつき以外は意識もしていなかったんだ。』
それはそうだと思う。
共学になって二年。
野球部として活動を始めて四カ月も経たないうちに大会に出たわけで、
他校から見れば聞いたこともない相手だ。
もっともその相手が持つ先入観をうまく利用させてもらったのも事実なのだが。
『で、三回戦のそよ風高校との試合を見たんだ、スタンドで。』
『確かパワフル高校は俺達の前の試合だった。』
『そう、組み合わせを考えれば二戦後の準決勝で戦うことになるかもしれない相手を見ようっていうよくある話。』
『そよ風高校を見るつもりだった?』
『うん、先代のキャプテンの尾崎さんがそよ風の阿畑投手の変化球を警戒してたみたいで。』
『確かに、ナックル系の変化球で苦労したよ。
打ったのもたまたま甘く入ったシュートだったからで、ナックルにはまともに当たらなかった。』
『うん、でもああ翻弄をされると意地でも打とうって俺だと思っちゃう。
それなのに勝負のために割り切れた継沼君は大人だよ。』
確かに打者の意地として決め球を打とうという気持ちはある。
しかしトーナメントな以上は勝つためには打ちやすい球を見極めることも重要だ。
『そしてもう一つ驚いたのが背も低くて華奢なサブマリン投手。
球速はなかったけど、低めに球を集めて、シンカーのキレもなかなかのもの。
こんないい投手がなんで無名だったんだって思ったよ。
また捕手がいいリードをしていたんだ。
シンカーを意識づけながらほとんど使わずにストレート中心で、そよ風の連中はまともにスイングできてなかったもんね。』
『ん?』
『俺とも早川とも面識がなかったのに何で小浪君は野球部のみんなに声をかけてまで協力してくれたの?』
正直矢部にお願いしたとき、矢部一人、よくて二、三人の仲間を連れてきてもらえれば儲けものというくらいの気持ちでいた。
だから矢部からの返事でキャプテンの小浪君がみんなを説得し、協力をしてくれると聞いたときには
嬉しさよりも驚きの気持ちの方がはるかに強かった。
俺自身面識はなかったし、それとなく早川に聞いても面識はない。
それなのに何故?
『ん~っ、
何でって聞かれると困るんだけど、簡単にいうならもったいないって思ったからかな。』
『もったいない?』
『夏の大会まで正直名前も知らなくて、悪いけどあかつき以外は意識もしていなかったんだ。』
それはそうだと思う。
共学になって二年。
野球部として活動を始めて四カ月も経たないうちに大会に出たわけで、
他校から見れば聞いたこともない相手だ。
もっともその相手が持つ先入観をうまく利用させてもらったのも事実なのだが。
『で、三回戦のそよ風高校との試合を見たんだ、スタンドで。』
『確かパワフル高校は俺達の前の試合だった。』
『そう、組み合わせを考えれば二戦後の準決勝で戦うことになるかもしれない相手を見ようっていうよくある話。』
『そよ風高校を見るつもりだった?』
『うん、先代のキャプテンの尾崎さんがそよ風の阿畑投手の変化球を警戒してたみたいで。』
『確かに、ナックル系の変化球で苦労したよ。
打ったのもたまたま甘く入ったシュートだったからで、ナックルにはまともに当たらなかった。』
『うん、でもああ翻弄をされると意地でも打とうって俺だと思っちゃう。
それなのに勝負のために割り切れた継沼君は大人だよ。』
確かに打者の意地として決め球を打とうという気持ちはある。
しかしトーナメントな以上は勝つためには打ちやすい球を見極めることも重要だ。
『そしてもう一つ驚いたのが背も低くて華奢なサブマリン投手。
球速はなかったけど、低めに球を集めて、シンカーのキレもなかなかのもの。
こんないい投手がなんで無名だったんだって思ったよ。
また捕手がいいリードをしていたんだ。
シンカーを意識づけながらほとんど使わずにストレート中心で、そよ風の連中はまともにスイングできてなかったもんね。』
やはりあれくらいの意図は二、三回戦までしか通用しないな。
もっとも決勝で通じるとは毛頭思ってはいなかったが。
もっとも決勝で通じるとは毛頭思ってはいなかったが。
そよ風高校に勝った次の日、俺達は運命の日を迎えた。
高野連から送られてきた一通の封書に書かれていた女子選手を出場させたことによる、出場停止の通告。
高野連から送られてきた一通の封書に書かれていた女子選手を出場させたことによる、出場停止の通告。
『だからそんないい投手、戦ってみたい相手が本人達ではどうしようもない理由で出られないのは
もったいないし、納得いかなかった。
だから矢部君が頼まれたって聞いて正直嬉しかったんだ、
早川さんも継沼君もあきらめてないってことが。』
『そう言ってくれたら嬉しいよ。
世間には女のくせに野球なんてっていう人の方が多いのは事実だ。
でも、俺達は早川が誰よりも頑張ってる姿を見てきた、だからなんとしても来年は引け目なく出してやりたい。』
『そうだね、絶対に早川さんの出場を認めさせよう。
そして来年の夏、対戦しよう。
地区予選の決勝、勝った方が甲子園。
俺が早川さんのシンカーをホームランにして甲子園出場を決める。』
『小浪君には打たせないよ。
いや、早川のシンカーは誰にも打たせない。
来年の甲子園に出るのは俺達だ。』
『お互いにベストを尽くせるよう今を大事にしよう。
まずは早川さんを試合に出せるように。』
もったいないし、納得いかなかった。
だから矢部君が頼まれたって聞いて正直嬉しかったんだ、
早川さんも継沼君もあきらめてないってことが。』
『そう言ってくれたら嬉しいよ。
世間には女のくせに野球なんてっていう人の方が多いのは事実だ。
でも、俺達は早川が誰よりも頑張ってる姿を見てきた、だからなんとしても来年は引け目なく出してやりたい。』
『そうだね、絶対に早川さんの出場を認めさせよう。
そして来年の夏、対戦しよう。
地区予選の決勝、勝った方が甲子園。
俺が早川さんのシンカーをホームランにして甲子園出場を決める。』
『小浪君には打たせないよ。
いや、早川のシンカーは誰にも打たせない。
来年の甲子園に出るのは俺達だ。』
『お互いにベストを尽くせるよう今を大事にしよう。
まずは早川さんを試合に出せるように。』
『みんな連れてきたでやんす。さあ休憩でやんすよ!!
継沼、ジュースをこっちにもらうでやんす!』
俺達はまた顔を見合わせて苦笑いをしていた。
継沼、ジュースをこっちにもらうでやんす!』
俺達はまた顔を見合わせて苦笑いをしていた。
夕方前まで署名運動をして現地で解散。
俺は一人で学校に戻って整理をするつもりだったが、七瀬さんも手伝ってくれるということで、二人で電車に揺られている。
『本当に手伝ってくれて大丈夫?遅くなるし、親御さんも心配してるんじゃない?』
『私もマネージャーですから、手伝わせて下さい。
それと、父に電話をいたしました。
学校に迎えにきていただくことになっているので…』
『そう、なら安心かな。
なるべく早く終わらせるね。』
『あの…継沼さん。
もしよければ父が一緒に車に乗っていかないかと言っていたのですが、いかがでしょうか?』
『えっ?そんなの悪いよ。
俺なんて気にしないでいいから。
ただ、お父さんには挨拶させてね。』
『継沼さん、それって?つまり…』
『部活とはいえ、こんな時間まで七瀬さんに手伝ってもらうんだったらお礼くらい言わないとね。
今日の差し入れのこともあるし。』
『そ、そうですか…
でも申し訳ないのですが、迎えに参るのは父ではなく運転手ですので。』
『そっか、それなら仕方ないか。』
…
『あ、あの!継沼さん。』
『ん?』
『パワフル高校の皆さん、いい方ですね。』
『そうだね。
矢部にお願いをしたら、小浪君がみんなに声をかけてくれて。』
『小浪さんと栗原さん、仲良さそうでお似合いの二人でしたね。
あの、
キャプテンとマネージャーってそういう関係になりやすいのでしょうか?』
『それはあるかもね、一番近い女の子で理解もしてもらえるだろうし。』
『そうですよね、私も…』
『でもうちには早川もいるか、
近いといえばあれほど近い子はいないもんね。
まあうちの野球部には縁のないことだよ。
今の状況考えたらそんな余裕ないし。』
『…』
『それに早川が誰かと付き合うなんて想像できないしね。
もっとも俺もそういうことには疎いし、興味もないから人のこと言えないけど。』
『そうですか…』
『七瀬さんだとやっぱり婚約者がいたりするの?
親御さんも相手を厳しく選びそうだよね。』
『え、ええ…』
『とりあえず今日の署名はまとめておこうか、今日は署名を保管するだけでいいから。』
俺は一人で学校に戻って整理をするつもりだったが、七瀬さんも手伝ってくれるということで、二人で電車に揺られている。
『本当に手伝ってくれて大丈夫?遅くなるし、親御さんも心配してるんじゃない?』
『私もマネージャーですから、手伝わせて下さい。
それと、父に電話をいたしました。
学校に迎えにきていただくことになっているので…』
『そう、なら安心かな。
なるべく早く終わらせるね。』
『あの…継沼さん。
もしよければ父が一緒に車に乗っていかないかと言っていたのですが、いかがでしょうか?』
『えっ?そんなの悪いよ。
俺なんて気にしないでいいから。
ただ、お父さんには挨拶させてね。』
『継沼さん、それって?つまり…』
『部活とはいえ、こんな時間まで七瀬さんに手伝ってもらうんだったらお礼くらい言わないとね。
今日の差し入れのこともあるし。』
『そ、そうですか…
でも申し訳ないのですが、迎えに参るのは父ではなく運転手ですので。』
『そっか、それなら仕方ないか。』
…
『あ、あの!継沼さん。』
『ん?』
『パワフル高校の皆さん、いい方ですね。』
『そうだね。
矢部にお願いをしたら、小浪君がみんなに声をかけてくれて。』
『小浪さんと栗原さん、仲良さそうでお似合いの二人でしたね。
あの、
キャプテンとマネージャーってそういう関係になりやすいのでしょうか?』
『それはあるかもね、一番近い女の子で理解もしてもらえるだろうし。』
『そうですよね、私も…』
『でもうちには早川もいるか、
近いといえばあれほど近い子はいないもんね。
まあうちの野球部には縁のないことだよ。
今の状況考えたらそんな余裕ないし。』
『…』
『それに早川が誰かと付き合うなんて想像できないしね。
もっとも俺もそういうことには疎いし、興味もないから人のこと言えないけど。』
『そうですか…』
『七瀬さんだとやっぱり婚約者がいたりするの?
親御さんも相手を厳しく選びそうだよね。』
『え、ええ…』
『とりあえず今日の署名はまとめておこうか、今日は署名を保管するだけでいいから。』
最後の夏。
俺たちの頑張り、パワフル高校のみんなの協力のおかげで早川は今マウンドに立っている。
準決勝のあかつき大学付属高校戦の前まで、三試合連続で完封。
投球できない間の走り込みが早川のスタミナ、コントロール、球のキレ全てに好影響を与えているのがわかる。
今日の名門のあかつきとの試合では初回にエースで四番の猪狩守にツーランを浴びて今大会初失点を喫したものの、
その後は粘り強く投げている。
あの期間に早川は技術だけでなく、精神的にも成長したんだなとそんなことを球を受けながら考えていた。
去年の早川は打たれたらすぐに態度に出て、イライラを隠さなかったのに、今はそんな仕草は見えない。
早川の成長は今までに一緒にやってきた仲間の誰よりも嬉しい、心からそう思う。
『いい球きてるぞ、早川。
あと二イニングだ。
絶対に抑えような、俺が点を取り返すから。』
『継沼クン、頼んだよ。
ボクももう絶対に一点もやらないから。』
『ああ、俺はもっとおまえと野球がやりたい。
ちゃんと野球ができる最初で最後の夏だ、長い夏にしような。』
七回の裏、先頭打者は四番の俺。
俺たちの頑張り、パワフル高校のみんなの協力のおかげで早川は今マウンドに立っている。
準決勝のあかつき大学付属高校戦の前まで、三試合連続で完封。
投球できない間の走り込みが早川のスタミナ、コントロール、球のキレ全てに好影響を与えているのがわかる。
今日の名門のあかつきとの試合では初回にエースで四番の猪狩守にツーランを浴びて今大会初失点を喫したものの、
その後は粘り強く投げている。
あの期間に早川は技術だけでなく、精神的にも成長したんだなとそんなことを球を受けながら考えていた。
去年の早川は打たれたらすぐに態度に出て、イライラを隠さなかったのに、今はそんな仕草は見えない。
早川の成長は今までに一緒にやってきた仲間の誰よりも嬉しい、心からそう思う。
『いい球きてるぞ、早川。
あと二イニングだ。
絶対に抑えような、俺が点を取り返すから。』
『継沼クン、頼んだよ。
ボクももう絶対に一点もやらないから。』
『ああ、俺はもっとおまえと野球がやりたい。
ちゃんと野球ができる最初で最後の夏だ、長い夏にしような。』
七回の裏、先頭打者は四番の俺。
野球部創設三年だが、幸運なことに経験者が数人いた。
一番セカンド。俊足の西村。
二番センター。巧守で小技のうまい二年生の平井。
三番ショート。バットコントロールのうまい高沢。
そして四番キャッチャーの俺とエースの早川。
うまい具合にセンターラインに人が集まり守備の骨格はあるが、
打線は一番から四番までと高校から野球を始めた五番以降で差があるのは事実だ。
一番セカンド。俊足の西村。
二番センター。巧守で小技のうまい二年生の平井。
三番ショート。バットコントロールのうまい高沢。
そして四番キャッチャーの俺とエースの早川。
うまい具合にセンターラインに人が集まり守備の骨格はあるが、
打線は一番から四番までと高校から野球を始めた五番以降で差があるのは事実だ。
早川には強気を見せたが、最後の打席になるかも知れないという思いはあった。
しかし不思議と気持ちは穏やかだった。
今までついていけなかった猪狩投手の速球にバットは自然に動いた。
打球は?
高く舞い上がった打球はレフトスタンドの最前列に入った、まさかのホームランで一点差。
打たれた猪狩投手やあかつきの野手だけでなく、味方のみんな、打った本人まで驚いていた。
しかし不思議と気持ちは穏やかだった。
今までついていけなかった猪狩投手の速球にバットは自然に動いた。
打球は?
高く舞い上がった打球はレフトスタンドの最前列に入った、まさかのホームランで一点差。
打たれた猪狩投手やあかつきの野手だけでなく、味方のみんな、打った本人まで驚いていた。
しかし反撃もその一点のみ。
投げては完投、打っては決勝打という猪狩投手はやはり役者が違うということを実感させられた。
投げては完投、打っては決勝打という猪狩投手はやはり役者が違うということを実感させられた。
『みんな、共学になって三年。
二回目の夏の大会でここまでこれたのはみんなの頑張りのおかげだ。
俺を信じてついてきてくれてありがとう。
みんなと過ごした三年間を誇りに思うよ。』
試合後の挨拶が終わり、みんなが涙を流すベンチで俺はチームメイトに声をかけた。
負けたことは悔しい、でも順調とは言えない高校生活でここまでやれた満足感はあった。
二回目の夏の大会でここまでこれたのはみんなの頑張りのおかげだ。
俺を信じてついてきてくれてありがとう。
みんなと過ごした三年間を誇りに思うよ。』
試合後の挨拶が終わり、みんなが涙を流すベンチで俺はチームメイトに声をかけた。
負けたことは悔しい、でも順調とは言えない高校生活でここまでやれた満足感はあった。
『継沼君!』
『小浪君、ごめん。
負けちゃった。
約束守れなかったよ。』
『いい試合だった。
明日絶対に俺たちが勝って敵を討つよ。』
試合を見に来た小浪君がスタンドから声をかけてきた。
去年の約束は果たせなかったが、明日の決勝に俺たちの思いを託して応援をしようと思う。
彼等もまた俺達の仲間だから。
『小浪君、ごめん。
負けちゃった。
約束守れなかったよ。』
『いい試合だった。
明日絶対に俺たちが勝って敵を討つよ。』
試合を見に来た小浪君がスタンドから声をかけてきた。
去年の約束は果たせなかったが、明日の決勝に俺たちの思いを託して応援をしようと思う。
彼等もまた俺達の仲間だから。
試合が終わった夜の七時半、俺と七瀬さんは二人で部室の整理をしていた。
俺達はこれで野球部を引退することになるわけで、主将として後輩達へ引き継ぎをしようと学校へ戻った。
しばらく片付けをしていたら物音がし、振り向いたら七瀬さんが入口に立っていた。
彼女もマネージャーとして同じことを考えていたらしい。
『継沼さん。
今までありがとうございました。』
『え?』
『あおいは本当は高校で野球をする気はなかったんです。』
『うそ…』
『あおいが入りたいと思っていた高校は
あおいを、いえ女子選手を認めなかったのです。』
『…』
『私は小さい頃から体が弱く、男の子と一緒に野球をしていたあおいに憧れていました。
中学に入ってもエースとして投げていたあおいを応援していて、高校は離れてしまってもずっと応援するつもりでいたのです。』
『でも早川を選手として受け入れる高校はなかった。』
『はい、
そのショックであおいは野球への情熱をなくし、
普通の高校生活を送ると私と一緒に恋々高校に行くことになって。』
『そっか、
じゃあ初めて会ったときのあの表情は思い過ごしじゃなかったんだ。』
『気付いていたのですか?』
『いや、何か変だって思うくらいで、
てゆうか高校でも野球をやろうなんて思う女の子がいるなんて思わなかったから、
むしろ普通な反応だと思ってたくらいだったんだけどね。』
『そうですか。
でも、それであおいがもう一度野球を始めると聞き、私は嬉しかったんです。
それでマネージャーとしてあおいを支えようと思って。』
『俺達こそ七瀬さんには感謝しているよ。
体が弱いのに頑張ってくれて、優しくて、いつもみんなを気遣ってくれて。
早川もいい友達に恵まれたんだね。』
『そう言っていただけると嬉しいです。
実は最初はルールもよく知らずにあおいだけを見ていました。
でも継沼さんが皆さんを引っ張り野球に打ち込む姿を見て、私も野球が好きになり、あおいだけでなく、
皆さんを支える本当のマネージャーにならなければと思うようになりました。
継沼さんと出会えたから私もあおいも充実した高校生活を送ることが出来たんです。』
『俺はただ自分が野球をやりたかっただけだよ。
俺は昔から判官贔屓なところがあってね、弱者が強者を倒すことがなにより好きなんだ。
一から野球部を作って三年で甲子園なんてかっこいいでしょ?
それに協力してくれたのが、早川だった。
男だろうが女だろうが野球が好きで一緒にやれるならそれでいいと思うんだ。
情熱さえあるならね。』
『そういう分け隔てなく、情熱を持った継沼さんだからみんなついてきたのだと思います。
私もあおいもあなたのそんな魅力を感じてましたから。』
『ありがとう。
こんな青臭さを女の子、ましてや七瀬さんみたいなお嬢様にわかってもらえるなんて思わなかったよ。
実はさ、最初は七瀬さんみたいなお嬢様は住む世界も考え方も違うし、理解しきれずに続かないと思ってたんだ。
変な偏見持っててごめんね。』
『きっと昔の私ならそうだったと思います。
でも継沼さんと一緒に過ごして、あなたのことを知れば知るほどあなたに惹かれていって、
私の価値観が変わっていったんです。』
『七瀬さん?』
『私、あなたのことが好きです。
あなたは私が初めて好きになった男性です。』
『でも七瀬さんには婚約者がいるんじゃ?』
『あのときは継沼さんの言葉にショックを受けて何も言えなかっただけです。
父は私が選んだ男性なら認めて下さいます。
それにあおいの署名を集めたとき、父に挨拶をして下さった継沼さんのことを父は素晴らしい青年だと誉めていました。』
『七瀬さん…
俺達はこれで野球部を引退することになるわけで、主将として後輩達へ引き継ぎをしようと学校へ戻った。
しばらく片付けをしていたら物音がし、振り向いたら七瀬さんが入口に立っていた。
彼女もマネージャーとして同じことを考えていたらしい。
『継沼さん。
今までありがとうございました。』
『え?』
『あおいは本当は高校で野球をする気はなかったんです。』
『うそ…』
『あおいが入りたいと思っていた高校は
あおいを、いえ女子選手を認めなかったのです。』
『…』
『私は小さい頃から体が弱く、男の子と一緒に野球をしていたあおいに憧れていました。
中学に入ってもエースとして投げていたあおいを応援していて、高校は離れてしまってもずっと応援するつもりでいたのです。』
『でも早川を選手として受け入れる高校はなかった。』
『はい、
そのショックであおいは野球への情熱をなくし、
普通の高校生活を送ると私と一緒に恋々高校に行くことになって。』
『そっか、
じゃあ初めて会ったときのあの表情は思い過ごしじゃなかったんだ。』
『気付いていたのですか?』
『いや、何か変だって思うくらいで、
てゆうか高校でも野球をやろうなんて思う女の子がいるなんて思わなかったから、
むしろ普通な反応だと思ってたくらいだったんだけどね。』
『そうですか。
でも、それであおいがもう一度野球を始めると聞き、私は嬉しかったんです。
それでマネージャーとしてあおいを支えようと思って。』
『俺達こそ七瀬さんには感謝しているよ。
体が弱いのに頑張ってくれて、優しくて、いつもみんなを気遣ってくれて。
早川もいい友達に恵まれたんだね。』
『そう言っていただけると嬉しいです。
実は最初はルールもよく知らずにあおいだけを見ていました。
でも継沼さんが皆さんを引っ張り野球に打ち込む姿を見て、私も野球が好きになり、あおいだけでなく、
皆さんを支える本当のマネージャーにならなければと思うようになりました。
継沼さんと出会えたから私もあおいも充実した高校生活を送ることが出来たんです。』
『俺はただ自分が野球をやりたかっただけだよ。
俺は昔から判官贔屓なところがあってね、弱者が強者を倒すことがなにより好きなんだ。
一から野球部を作って三年で甲子園なんてかっこいいでしょ?
それに協力してくれたのが、早川だった。
男だろうが女だろうが野球が好きで一緒にやれるならそれでいいと思うんだ。
情熱さえあるならね。』
『そういう分け隔てなく、情熱を持った継沼さんだからみんなついてきたのだと思います。
私もあおいもあなたのそんな魅力を感じてましたから。』
『ありがとう。
こんな青臭さを女の子、ましてや七瀬さんみたいなお嬢様にわかってもらえるなんて思わなかったよ。
実はさ、最初は七瀬さんみたいなお嬢様は住む世界も考え方も違うし、理解しきれずに続かないと思ってたんだ。
変な偏見持っててごめんね。』
『きっと昔の私ならそうだったと思います。
でも継沼さんと一緒に過ごして、あなたのことを知れば知るほどあなたに惹かれていって、
私の価値観が変わっていったんです。』
『七瀬さん?』
『私、あなたのことが好きです。
あなたは私が初めて好きになった男性です。』
『でも七瀬さんには婚約者がいるんじゃ?』
『あのときは継沼さんの言葉にショックを受けて何も言えなかっただけです。
父は私が選んだ男性なら認めて下さいます。
それにあおいの署名を集めたとき、父に挨拶をして下さった継沼さんのことを父は素晴らしい青年だと誉めていました。』
『七瀬さん…
本当に俺なんかでいいの?
俺は家だってよくないし、野球バカで…
七瀬さんに釣り合わないよ。』
『そういう少し鈍感だけど、まっすぐで純粋なあなただから私は好きになったんです。
継沼さんは誰よりも素晴らしい方です。
私をあなたと一緒にこれからの人生を歩ませてください。』
『ありがとう…
俺は家だってよくないし、野球バカで…
七瀬さんに釣り合わないよ。』
『そういう少し鈍感だけど、まっすぐで純粋なあなただから私は好きになったんです。
継沼さんは誰よりも素晴らしい方です。
私をあなたと一緒にこれからの人生を歩ませてください。』
『ありがとう…
こんな俺でよければ…
これからよろしくね。』
『はい、ずっとついていきます。』
『七瀬さん…
いや、はるかちゃん。
頑張って君を幸せにしていきます。』
俺は彼女をそっと抱きしめた。
これからよろしくね。』
『はい、ずっとついていきます。』
『七瀬さん…
いや、はるかちゃん。
頑張って君を幸せにしていきます。』
俺は彼女をそっと抱きしめた。
『…
はるか、ズルいよ…
ボクだって継沼クンのことずっと好きだったのに…
でも継沼クンにははるかみたいなコのほうがいいよね…
はるか、ズルいよ…
ボクだって継沼クンのことずっと好きだったのに…
でも継沼クンにははるかみたいなコのほうがいいよね…
ボクの想いはボクしか知らない。
だから封印して二人を祝福するから…』
だから封印して二人を祝福するから…』
少し遠ざかる足音が聞こえた気もしたが、俺達は強く抱き合っていた。
互いにもう離れないというように。
互いにもう離れないというように。
順風満帆とはいかない三年間だった。
挫折もあり、遠回りもあり、夢も叶えきれなかった。
しかし俺の人生できっと最高の三年間だと思う。
これほどに成長する期間はきっとないはず。
三年前、桜が咲く中で俺達を迎えてくれた校舎が今日は俺達を送り出してくれる。
『継沼クン。
ついに卒業だね。
一緒に野球をやれてよかった。
継沼クンの分までボク頑張るからね。』
『まるで俺がもう野球をやらないみたいな言い方だな。
大学で実績を残して早川の居るマリーンズに自由枠で入団するから、
それまでに一軍に上がっとけよ。』
『まるでボクがプロでは通じないみたいな言い方だね。
はるか、しっかり教育しといてよ。』
『剛さんの言う通りよ。
プロでやるにはもっと走り込みをしなければダメだわ。』
『う…
まさか、はるかにそんなこと言われるなんて。』
『でも早川、マネージャー時代に走り込んだことで、スタミナもコントロールも球威も上がった実感はあるだろ?』
『うん、そうだけど…
ってなんで知ってるの?』
『私も剛さんもあおいが走ってる姿を何度も見かけたの。
それがあったから私達はあおいのための署名集めもしたのよ。』
『そっか、それをきっかけに二人はこそこそ付き合い始めたと。』
『違うよ。
付き合い始めたのはもっと後。俺がはるかちゃんの想いに気付かなかったから。』
挫折もあり、遠回りもあり、夢も叶えきれなかった。
しかし俺の人生できっと最高の三年間だと思う。
これほどに成長する期間はきっとないはず。
三年前、桜が咲く中で俺達を迎えてくれた校舎が今日は俺達を送り出してくれる。
『継沼クン。
ついに卒業だね。
一緒に野球をやれてよかった。
継沼クンの分までボク頑張るからね。』
『まるで俺がもう野球をやらないみたいな言い方だな。
大学で実績を残して早川の居るマリーンズに自由枠で入団するから、
それまでに一軍に上がっとけよ。』
『まるでボクがプロでは通じないみたいな言い方だね。
はるか、しっかり教育しといてよ。』
『剛さんの言う通りよ。
プロでやるにはもっと走り込みをしなければダメだわ。』
『う…
まさか、はるかにそんなこと言われるなんて。』
『でも早川、マネージャー時代に走り込んだことで、スタミナもコントロールも球威も上がった実感はあるだろ?』
『うん、そうだけど…
ってなんで知ってるの?』
『私も剛さんもあおいが走ってる姿を何度も見かけたの。
それがあったから私達はあおいのための署名集めもしたのよ。』
『そっか、それをきっかけに二人はこそこそ付き合い始めたと。』
『違うよ。
付き合い始めたのはもっと後。俺がはるかちゃんの想いに気付かなかったから。』
今日で俺達は別々の道へ進む。早川はマリーンズから指名を受け、プロ入り。
今日は卒業式に出席するためキャンプ地から戻ってきた。
明日からはまたキャンプに合流するらしい。
西村はたんぽぽ製作所で社会人野球をするそうだ。
高沢は首都体育大学に進学し、将来は恋々高校に指導者として戻ってくると言っていた。
二代目キャプテン平井はチーム作りに邁進し、秋の大会ベスト4。
選抜出場はならなかったが、夏には期待できそうだ。
はるかちゃんは女子大に進学。花嫁修行をすると張り切っている。
そして俺は大学野球の新鋭、栄光学院大学から特待生の誘いを受け、大学で野球をする。
今日は卒業式に出席するためキャンプ地から戻ってきた。
明日からはまたキャンプに合流するらしい。
西村はたんぽぽ製作所で社会人野球をするそうだ。
高沢は首都体育大学に進学し、将来は恋々高校に指導者として戻ってくると言っていた。
二代目キャプテン平井はチーム作りに邁進し、秋の大会ベスト4。
選抜出場はならなかったが、夏には期待できそうだ。
はるかちゃんは女子大に進学。花嫁修行をすると張り切っている。
そして俺は大学野球の新鋭、栄光学院大学から特待生の誘いを受け、大学で野球をする。
『ほんと二人仲いいよね。
いつの間にって感じだよ。
継沼クン、はるかを泣かせたら承知しないからね。』
『それは絶対にしないよ。
はるかちゃんは世界で一番大事な人だから。』
『ふーん。
はるか、継沼クンの第二ボタンもらうんでしょ?
ボク第一ボタンをもらうね?
いい魔除けになりそうじゃない?』
『早川、ずいぶんな言い草だな。』
『ほら、つべこべ言わない!』
『せめて魔除けじゃなく御守りくらいなことは言えよな。
ほら、プロでも頑張れよ。』
『ありがと。
じゃあボクはもう用意があるから。
あとはお好きなようにね、
お二人さん。』
『剛さん、あおい絶対に淋しいのだと思うわ。
昔から素直じゃないから。
プロに入ったらあおいをもう一度支えてあげてね。』
『うん。
はるかちゃん、プロでやってける自信がついたら君に改めてプロポーズするから。
まだ時間はかかるけど待っててね。』
そう言って俺ははるかちゃんの手を握った。
『はい。
それまでに花嫁修業しっかりとしておきますね。』
はるかちゃんも俺の手をしっかりと握り返した。
いつの間にって感じだよ。
継沼クン、はるかを泣かせたら承知しないからね。』
『それは絶対にしないよ。
はるかちゃんは世界で一番大事な人だから。』
『ふーん。
はるか、継沼クンの第二ボタンもらうんでしょ?
ボク第一ボタンをもらうね?
いい魔除けになりそうじゃない?』
『早川、ずいぶんな言い草だな。』
『ほら、つべこべ言わない!』
『せめて魔除けじゃなく御守りくらいなことは言えよな。
ほら、プロでも頑張れよ。』
『ありがと。
じゃあボクはもう用意があるから。
あとはお好きなようにね、
お二人さん。』
『剛さん、あおい絶対に淋しいのだと思うわ。
昔から素直じゃないから。
プロに入ったらあおいをもう一度支えてあげてね。』
『うん。
はるかちゃん、プロでやってける自信がついたら君に改めてプロポーズするから。
まだ時間はかかるけど待っててね。』
そう言って俺ははるかちゃんの手を握った。
『はい。
それまでに花嫁修業しっかりとしておきますね。』
はるかちゃんも俺の手をしっかりと握り返した。
これから先もこんな風に共に歩いていく。
つないだ手を離さないように。
つないだ手を離さないように。
完