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無題(part13 794-834)

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匿名ユーザー

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ベッドに押し倒された形になったそいつは、何かを言おうとして、やっぱり考え直したらしい。薄く開いた口が息を呑んだ音が聞こえる。
広がった髪は、昔に比べると随分長い。先輩の意志を継ぐのだ、と真剣に話していたのも、結構昔の話。
鼻をくすぐる微かな香りは、香水塗れのそこら辺の女など比べ物にならない。とびきり上等な、石鹸の甘い匂いだ。
真っ赤と言って差し支えないほど上気した頬は、果たして本当にアルコールだけによるものなのだろうか。
いつもなら生意気そうな目は、ひどく戸惑った様子でこちらを見上げていた。

「……」
「……あー……その、何だ……」

無言の圧力に負けて、情けない声を漏らす。どうしてこうなった。俺は今日の出来事を思い返していた。


世間ではライバルだのなんだのと騒がれていようが、本人達にはそこまで関係無い、というのは割とよくあることなのだろう。
俺と橘みずきも、その例の一つだった。確かに高校や大学辺りまでは、周りの影響もあって子供っぽく反目し合っていたかもしれないが、
二人ともプロになった現在は、アカデミーの同期として良好な関係を築くことが出来ている、と思う。
その証拠、というわけでもないが、橘からパーティの報せが届いた。パーティと言っても、橘が個人的に主催するもので、
彼女の高校、大学、アカデミー時代の主な知り合いを招いて馬鹿騒ぎを行うらしい。
懐かしい顔に会えることや、出されるであろう御馳走に釣られ、俺も参加することになった。

会場は橘財団所有のホテルの宴会場ということで、誰の目も気にせず大いに盛り上がることが出来た。とはいえ、明日の自主トレに備え、
俺はそこまで酒は飲まなかった。勧められたら断らないが、上手くやり過ごす方法はいくらでも心得ているのだ。
一際うるさい半裸の集団が近付いて来たのを見て、俺は素早く席を外す。あれはあれで楽しそうだとは思うが、関わらないのが無難である。
ついでに外の風にでも当たろうかと思って、会場を離れようとしたその時だった。

「……おーっす」

宴会場の入り口の脇に設けられた休憩スペースで、ぐったりしていた橘が声をかけて来た。


「主催者の癖に何やってんだこんな所で」
「ちょーっとペース配分間違っちゃったのよぅ」
「飲み過ぎか?珍しいな」
「ぬー……久し振りでハメ外し過ぎたかも」
「どうすんだ、これから。まぁ、もう主催者がいようがいまいが関係無さそうだけど」
「……取りあえず一度部屋戻ろうかしら……どうせ今宴会に戻っても楽しめないだろうし」
「部屋取ってんのか……ま、それでも良いんじゃないか。なんなら、誰かに言伝くらいは頼まれてやるぞ」
「もう色々頼んであるから大丈夫……それよりさ、どうせなら部屋まで送って欲しいんだけど。あんた平気そうだし」

この時の俺は、特に疑問も無く、単に具合の悪そうな橘が気の毒だったが為に、彼女の頼みを引き受けたのだ。


「うー……何でおんぶしてくれないのよー……」
「子供かお前は」
「友沢のケチ」
「ありがとよ。貧乏人にそれは褒め言葉だ」

酒が入ると甘え症になるのはアカデミーの時の飲み会で知っていた。抱っこしろだのおんぶしろだの、まるで小さい子供のようだ。
というか、小さい頃の翔太や朋恵なんかより全然ひどい。自分と同い年の女がそんな態度でいるのを見ると、何だか笑えてくる。
そんな俺の様子に気付いたのか、橘は肩を貸してやっている方の手の甲をつねってきやがった。


「……あ、そこのエレベーターで上に行くわよ」
「何階なんだ?」
「最上階」

エレベーターの中には幸い誰も乗っていない。酒臭い人間との相乗りなんて、俺なら御免である。

「……最上階の部屋ってことは、所謂スイートルームとかいうあれか」

何気なく疑問を口にした。

「そ。別に私はいいって言ったんだけどさぁ、支配人が『お嬢様に一般客室なんてとんでもない』って」
「さすが金持ち、庶民とは大違いだな」
「ふふーん、まぁね」

橘はそう言うと、得意気に胸を張るような仕草をした。普段なら何とも思わないような仕草だったが、今は肩を貸しているので、
俺の位置からはやたらと胸が強調されるような形になった。昔はぺったんこだったように記憶しているが、今や20代の女性として、
それなりのスタイルをお持ちなのだ。控えめながら、自分の目と鼻の先に確かに存在している谷間。凝視してしまう。

「?どうかした?」
「!……い、いや。何でも無い。ちょっと目眩がして」
「あら、あんたも飲み過ぎだったの?」
「大丈夫だよ。酔っ払わない程度で逃げて来たから」
「……ふーん。ならいいけど」


どうやらこっちの様子には気付かなかったようだ。内心ほっとする。仮に感付かれていたら、つねるどころの騒ぎじゃ済まないだろう。
しかし、こういう時は一度意識してしまうとキリが無いらしい。二人きりだとか、お互い酒が入っているだとか、スイートルームだとか、
妄想して下さい、実行に移して下さいと言わんばかりの状況であることに今更気付く。

(いやいや、俺はこいつをそんな目で……)

見たことが無い、とは言えなかった。むしろ見て『いる』。なにせある意味一番身近な女子である。同年代の男どもが、早川選手に熱をあげていた頃も、
俺はどうやって橘を打ち崩してやろうか、ということばかり考えていた。昼も夜も無くそういうことを考えていれば、
昔はああいう行為の時に思い浮かべる対象と言えば、専らこいつであった。さすがに、現在は他のオカズにも手を出してはいるけれど。

「……最近だと先週か……?」
「どしたの?」
「何でもありません!」

と同時に、エレベーターが最上階に到着。俺の態度を訝しむ橘の視線に気付かないふりをしつつ、外に出る。

「ちょ、ちょっとあんた、そんなに引っ張んないでよ!」
「あ、あぁすまんすまん。で、部屋はどこなんだ?」
「もう……左の奥」


橘が示した方へ歩くと、ほどなくそれらしい部屋の前に着いた。確かに他の部屋とは雰囲気が違う、ような気がする。

「取りあえずここまでで良いだろ」
「……さっきあんたが強引に引っ張ってくれちゃったから、足いたーい」
「……中まで連れてけとは言わないよな?」
「中まで連れて行きなさい」
「マジか……」
「何よ、随分嫌そうね」

距離が近いせいで、触れている肌の柔らかさとか、温度とか、息遣いとか、そういう情報で頭が一杯なのだ。
何かの拍子に間違いが起こってしまえば、自分を制する自信が持てない中、橘は部屋の中まで送れと言って、カードキーを渡して来た。

(何も起こらない、何も起こさない……)
「?」

呪文のように頭の中で唱えつつ、俺はドアを開けた。

―― 


「……すげーな、こりゃ」

壁一面の窓に、洗練された調度品。ドラマなんかに出て来るような、典型的なスイートルームだ。入った瞬間に唖然としてしまう。
現実味が無いからこそ、「ああいう世界もあるのだ」と納得出来る空間に、自分が居るというのは、とても奇妙な感覚だった。

「……乙女の部屋をじろじろ見るんじゃないの。ベッドは向こうよ」
「ベッドまで連れて行けばいいのか」
「もうすっごい寝っ転がりたい気分なのーはーやーくー」
「分かった分かった……」

急かす癖に本人は自ら動こうとする意志が無いらしい。いよいよ酒が回ってしまっているのだろうか。
ずりずりと引きずるような形でベッドの方へ連れて行く。酔っ払い特有の弛緩した体は、いくら相手が女とはいえ運ぶのには一苦労だ。
とはいえ、そちらに集中しなければいけない分、余計な妄想に囚われずに済むのが幸いだった。

「わーい、ベッドー♪」
「こら、今乗せてやるからそんなに引っ張ん……な?」

ベッドの脇にまで来た為に油断していたのだろうか、橘に引っ張られた拍子に、シーツか何かを踏みつけた足が滑る。
後ろに倒れこんだら、橘にバックドロップをかましてしまう。横には家具があるから、どちらかがケガを負う可能性がある。破損させて弁償など論外。
とっさに取れる選択肢は、目の前にあるベッドに倒れ込むことだけだった。おかげで、突っ張った腕が少し痛む程度で済んだのだが。
反射的に閉じていた目を開くと同時に、うつ伏せになっていた橘がころん、と寝返る。過程はどうあれ、見事俺が橘を押し倒した構図の完成だ。


「……」
「……」

ベッドに押し倒された形になったそいつは、何かを言おうとして、やっぱり考え直したらしい。薄く開いた口が息を呑んだ音が聞こえる。
広がった髪は、昔に比べると随分長い。先輩の意志を継ぐのだ、と真剣に話していたのも、結構昔の話。
鼻をくすぐる微かな香りは、香水塗れのそこら辺の女など比べ物にならない。とびきり上等な、石鹸の甘い匂いだ。
真っ赤と言って差し支えないほど上気した頬は、果たして本当にアルコールだけによるものなのだろうか。
いつもなら生意気そうな目は、ひどく戸惑った様子でこちらを見上げていた。

「……」
「……あー……その、何だ……」

間が保たない。そんなことは分かり切っているのに、何かを言わなければやっていられない。
すぐにどけば、或いは何とかなったのかもしれなかったが、どこか本能的な部分で、それをしてはならないような気がしていた。
ふと、下になっている橘の唇に目がいった。可愛い顔が台無しの暴言を吐く、ぷるりと生意気な感じの、ある意味最もこいつらしい部分。
これに触れることが出来たらと、卑猥な想像の中で、何度も餌食にしてやった。それが今、目の前にある。
どうやらアルコールは思ったよりも体に回っているらしい。言い訳染みた分析を頭の片隅に追いやって、俺は体の求めるがままに動いていた。


「……!」

橘は逃げなかった。拒否もしなかった。俺が遠慮がちに唇に触れるのを、黙って受け容れていた。
試しに舌を少しだけ出して、もっと奥の方へと侵略を試みる。橘の体が強張る。が、まだ拒絶はしていない。
一度口を離してから、少しだけ息を吸い、再び唇を合わせる。多少の躊躇はあったが、今度は舌を受け容れてくれた。
舌先が橘のそれに触れる。微かなアルコールの香りと、未知の感触。背筋がぞわりと震えた。

(そういえば俺、童貞だっけ)

言い寄られることは多かったけれど、結局野球の邪魔になるからと突っぱね続けて20年と少し。
別に童貞であることにコンプレックスは無かったし、その内捨てるだろう、くらいに気楽に受け止めていた。
このままいけば、俺は橘みずきで童貞を捨てるのかもしれない。しかし、今時中高生レベルのお粗末なエロ知識は、
果たしてこの女に通用するのだろうか。つい最近も、週刊誌に密会やら何やらと騒がれていた気がする。
そういう報道の度に本人は全否定を貫いているが、実際はどれだけ遊び倒していてもおかしくは無い。
どうせ俺よりもテクニックのある男にひいひい言わされていたのだろうと考えると、何だか妙に悔しいような気がした。
それを誤魔化すように、俺は橘とのキスに没頭する。

「……っぷぁ……っん……っとっ、とも……わぷ……っぷは、す、すとっぷ!ストップってば!?」
「ぐえ!?」

顔を無理矢理引き剥がされたと思ったら、強烈な平手が飛んで来た。女性とはいえ最速140km台を放る左腕は伊達では無い。
心なしか、俺が昔教えてやったスライダーのスナップが効いている気のするそれは、頭を冷やすには十分な威力を持っていた。

「い、息出来ないでしょうが、全く……」
「す、すまん」
「……それだけ?」
「いや、その……本当に申し訳ない」

謝って済む問題では無いだろうに、平謝りくらいしか選択肢が無かった。


「……めて……けど」
「ん?なんだって?」

目の前にいるのに聞き取れない位か細い声で橘は何か口走った。反射的に聞き返す。

「……初めてだったんだけど!って言ったの!」
「……初めて?何が……え?」
「女にそこまで言わせるんじゃないわよこの愚図!」
「は?お前も初めてだったのか?」
「何よお前『も』って!まるであんたも初めて……え?」

お互いに固まる、ベッドの上の男女二人。何だこの状況は。取りあえず、訴訟だ賠償だの言い出さないだけまだマシなのだろうか。

「あ、あんた、この前パワスポで『夜も新人王』とか『深夜のビッグプレー』とか書かれてたじゃないの!?」
「あれは根も葉もないでっち上げだ!先輩達から風俗に連れて行かれそうになっただけで……」
「ふ、フーゾク!?いやらしい!」
「そう言うお前だって、『大物資産家との一夜』だのなんだの、よくすっぱ抜かれてるじゃないか!?」
「あれは接待で仕方なくディナーに行ってるだけなの!人のことを尻軽みたいに勘違いすんじゃないわよ?!」

不毛な言い争いは、小一時間続いた。

――


「……オーケーおーけー、取りあえずいい加減落ち着きましょう」
「そうだな……さすがに疲れた……」

二人して一息つく。

「……改めて聞くけど、あんたはこういう経験、今まで無かったのよね」
「ああ」
「だっさ」
「処女のお前にだけは言われたくない」
「ふ、ふんだ!このご時世処女の方が希少価値高いのよ!それに、私は簡単に体を許しちゃうような安い女じゃないの」
「……だったら、何でさっき拒否しなかったんだよ」
「……そ、それは……その……」

そこで言い淀まれては、こちらも困る。これではまるで、体を許しても良いような男、として俺がカウントされていることになってしまう。

(……ん?何が困る?)

ふと、何故自分が困るのかを考える。これは困っているというよりは、単に話が急過ぎて戸惑っているだけではないのか。
改めて橘を眺める。美人になった。昔からの付き合いである俺はつくづくそう思わされることが多かった。
生意気さが鼻につくだけで、元から器量は良い。ファンクラブは結構昔からあって、今も会員を増やしている。
学生時代の絵に描いたような幼児体型も、今では年齢相応に均整の取れた、十分魅力的なスタイルにまで成長しているのだ。
女とはいえ野球選手のグラビアを載せるとは、出版界も血迷ったかと思いつつ、掲載紙を朝一で買いに走った事を思い出した。


「なぁ、橘」
「な、何よ」

そっと手を伸ばして、橘の頬に触れる。柔らかくて、手触りが心地好い。

「……どうして、拒否しないんだよ」
「……」

無言でこちらを見つめる目は、さっきと同じだった。いける。確信に近い自信が、俺の中に芽生えた。

「あっ……」

上から覆いかぶさるように、ゆっくりと橘をベッドに寝かせる。ばつが悪そうに視線を逸らした彼女だったが、結果としてそれは、
少し日焼けた首筋をこちらに差し出すような形になっていた。そっと顔を近付けて、試しに舐めてみる。汗の味がした。

「ひゃ……き、汚いわよ……」
「……んなことねーよ、多分」
「んぅっ!?」

鎖骨に近い辺りを吸ってみると、びくん、と橘の体が強張った。いわゆる性感帯というものなのか、単に刺激に反応しただけか。
どちらにせよ、小さな体で目一杯反応する姿は、とても可愛らしいと思った。調子に乗って、そこら中に吸い付く。


「ぁんっ……!跡、残っちゃう……からぁっ……やめ……」

そういう反応がこちらをエスカレートさせることに気付いていない辺り、本当にこういう経験が無いのだろう、と思うことにする。
じたばた動く橘をやんわり押さえつつ、首筋よりも下への攻撃を試みた。アカデミー時代から見覚えのあるジャージを、一気に脱がしにかかる。

「こらぁ!?や、やめなさいよいい加減に!」
「……だったら、もっと強く拒絶すりゃあ良いだろ?」
「……うぅ」

言葉に詰まったのは橘の方だった。伊達に長い付き合いじゃないのだ。本気で嫌がっているか、そうでないかぐらいは、すぐに分かってしまう。
ジャージは既に前が全部開いた状態になっている。薄手のシャツは、胸を強調するには申し分無い働きをしていた。

「……じろじろ見てるんじゃないわよ、ヘンタイ……」

言葉とは裏腹に、その声音は弱々しい。さすがにこの後どんなことをされるかくらいは想像が付いているのだろう。
まずはおそるおそる、指先で触れてみる。柔らかい。これが本当に同じ人間の体だというのが信じられない。
布越しでこれなのだから、直接触れたらさぞ素敵な感触に違いない。気が逸った俺は、今度はシャツの中に手を入れて直接触れようとする。

「うひゃ……?!ちょ、ちょっと!いきなりそっち!?」

「あっち」とか「こっち」とはどういうものなのか是非ご教授願いたい所だが、膨らみに手が触れた瞬間に全部どうでもよくなった。
温い。柔らかい。未だブラが邪魔しているものの、その感触は魅力的過ぎた。


「……うおぉ……」

思わずもれた感嘆の声は、我ながらひどく間抜けだった。

「……ぷっ……本当にドーテーなのね、あんた」
「……悪いかよ」

自分も処女だというのに、上から目線で物を言う辺り、こいつの底意地の悪さが見て取れる。
お返しと言わんばかりに、俺は一気に手を進め、手の平で胸を撫で回した。

「く、くすぐったい……はぁぅ……」

鷲掴みという選択肢もあったものの、強くされると女は痛がるらしいし、何より服の中で大きく手を動かし過ぎると、
布が伸びてしまって着れなくなるかもしれない。それに、これだけでも橘の反応を楽しむ分には十分だったのだ。
身を震わせ、小さく声を上げ、細かく吐息をもらすその姿は、普段の態度とはまるで別人で、言いようの無い優越感を俺は感じていた。

触っている内に、どうやら橘は右よりも左の胸の方が敏感らしいということに気付く。反応が明らかに大きい。
重点的に攻めてやると、恨めしそうな目でこちらを睨みつけて来た。

「……分かりやすいな、お前」
「うるさ……ぁっ……ず、ずるいわよ、こ……んっ」

視線を下げると、もじもじと下半身が動いている。片手を太ももに伸ばす。

「ひぃっ!?」

そちらは予想していなかったのか、橘の体が再び強張る。それでも当然、柔らかい所は柔らかい。無遠慮にまさぐる。
投手として食っているだけあって、下半身は上半身よりもボリュームがあるようだ。


「あ、あんたっ、手つきがやらしい……」
「今更何言ってんだ」

いやらしい行為の真っ最中にその指摘は的外れなのではないだろうか。
とはいえ、さすがにやり過ぎたかもしれないと思った俺は、一度橘を自由にしてやることにした。
ここから先は、本人が了承しない限り、未経験の俺には上手く事を運べそうに無い、というのもあったが。

「……な、何よ急に止めるなんて」
「続けて欲しかったのか?」
「ち、違うし!」
「……真面目な話、これ以上続けて良いのかよ」
「これ以上って……」
「まぁ、もっとこう……その、直接的なアレだ」
「……」

二人して押し黙る。まだ間に合う。この後宴会に戻って、酔い潰れでもしてしまえば、今日のことは夢か何かだと思うことが出来る、かもしれない。
今まで通りの付き合いを続けたいなら、この瞬間が最後の分水嶺だ。年の近いきょうだいのような、気安くて、どこか安心出来る関係。
10年以上の積み重ねは、思った以上に重かった。どちらも何も言い出せぬまま、時間だけが流れて行く。

「……嫌いか?」
「え?」

とはいえ、こういう時に切り出すべきは男の俺なのではないだろうか。

「……俺のこと」
「……」
「その……俺は、お前のこと、嫌いじゃない、けど」

巧い言葉が都合良く出てくるわけもないのは承知しているけれど、それにしても情けない言い方である。

「わ、私は……」
「お、おう」
「……私も、あんたのこと、嫌いじゃない」
「……そうか」
「……そうよ」


しばしの沈黙の後、揃って俯いていた俺達は、これまた揃って顔を上げて、それからお互いの顔を眺めて。

「……ふっ」
「……ふふ」

笑い合った。お互い最大限の好意を示しているというのが分かっていたからだ。
野球ばっかりの日々の中、誰よりもぶつかり合い、たまに助け合いながらここまでやってきた俺達である。
傍から見るとひどく淡白かもしれないけれど、十分気持ちは通じ合っていた。

「ほーんと素直じゃないわよねぇ、相変わらず」
「お前もな」
「……あーあ、何であんたみたいな、お金持ちでも無いし、優しくもない男を……」
「俺もどうして、こんなめんどくさい女好きになったんだか」
「あら!私の事『好き』なんだ。ふーん。へー。ほー」

しまった。先に好きと言ってしまったのは失言かもしれない。後でいいように弄り倒されるのが簡単に想像出来た。
とはいえ、もう腹は決まっている。毒を食らわば、という奴だ。

「……ああ、好きだぞ、橘。だから、さ」
「!う、うん……」

真正面からの言葉は、なかなか効果があるようだ。完全に虚を突かれた橘の顔なんて、そう見られるものではないのだから。

――


「……ふー……」

橘曰く、女子は色々と準備に時間がかかるらしい。実際、汗を流すだけと言って備え付けのバスルームに消えた橘に、
小一時間ほど待ちぼうけを食らった。そして今は、ようやく帰って来た彼女と入れ替わる形でバスルームにいる。
待っている間に気分が萎えたなんてことはなく、むしろ逸る気持ちに引きずられないように、必死で平静を保とうとしていた。
しかし、入れ替わりで同じバスルームを使う、という時点でかなり刺激が強く、さっきからずっと熱湯を頭から浴びているというわけだ。
ところで、ちら、と横に目をやると、当然浴槽があるのだけれど、入浴剤をふんだんに入れたらしいお湯は濁っていて、底が見えない。
ついさっきまで、橘みずきがこれに浸かっていたことは間違いないのだ。だから何がどうした、というわけでもないのだが。

「……ふー!……」

湧き上がって来る邪な考えを振り払うべく、俺はシャワーの温度を上げた。

――


「おっすー」
「……アイスか……」
「冷凍庫にまだあるわよ」
「食って良いのか?」
「うん。どーせ何かやらしーこと考えてのぼせでもしたんでしょ?頭冷やせば?」
(お見通しかよ)
「あんたむっつりだもんねー。クールぶってるくせにアイドル好きだったりさ」
「ぬぅ……」

事実だけにすぐに反論は出来なかった。とはいえ、こちらも相手のことは知り尽くしているから、反撃するチャンスは十分にある。
冷凍庫からアイスを取り出し、ベッドに腰掛けて脚をぷらぷらさせている橘の横に座る。シャリ、と一齧り。

「……余裕無い時ほど虚勢を張りたがるよな、どっかの誰かさんは」

ぴた、と一瞬脚が止まったのを俺は見逃さなかった。誤魔化そうとしたのか、余計に脚をじたばたさせる姿は間抜けそのものである。
その内アイスを食べながらの無言の攻防が始まった。座ったままお互いの脚を蹴り合い、じゃれ合う。


アイスも食べ終わり、いよいよ、ということになった。橘の強い希望により、お互いバスローブ姿。せめてこれくらいは、ムードを出したいとのこと。
部屋の明かりは、ベッドに備え付けの読書灯に、夜の街の遠いネオンの光。お膳立ては十分だ。

「……これが素敵なディナーの後とかだったら良かったんだけど……宴会の後って、ねぇ?」
「それを言ったらおしまいだろうに」

ベッドの上でお互い何となく正座をしたまま、向かい合って話をする。これから夜の営みをする男女二人の雰囲気とは、ちょっと違う気もするけれど。

「……まぁ、こういうのが私達らしい……って感じ?」
「かもな」

そう言って、少し間をおいてからそっと寄り添って来た橘の体は、微かに震えていた。
半ば使命感のようなものに駆られ抱き締めてやると、震えが止まった。そして別の振動が始まる。橘は笑っていた。

「ふふふ……いいよ、友沢」

橘が言い切る前に、俺達はベッドに倒れ込んでいた。

――


3度目の正直、という言葉がある。そういえばこうやって押し倒すのは本日3回目だ。これが所謂本番となるわけだから、言い得て妙だった。
ところが、早速バスローブをひん剥いて――もとい脱がせて差し上げようとした矢先、橘から手で制止がかかる。

「まぁ、いいよ、とは言ったけどさ、さっきからあんたのペースでやな感じなのよね」

そう言うと、橘はまず俺のバスローブをはだけさせた。存外に小さな橘の手が、俺の胸や腹をまさぐる。こそばゆい。

「……男の胸や腹触って楽しいか?」
「……これはこれでアリね。あっ、すっごーい……さすがに胸板とか厚いんだ……へぇー……うわ、腹筋かった……!」

ぺたぺた、と遠慮なく触って来る橘は、女である自分とは違う俺の体に興味津々といった様子。
肉体管理には結構気を遣っているので、誰に見せても恥ずかしくないような体をしているつもりだが、女から触られるというのはまた別なようだ。

(こりゃ恥ずかしいな)

言ってみればさっきの橘はこれよりも凄い仕打ちをされていたわけで、やはり女性とは強いらしいと変に納得してしまった。
さて、納得がいった所で、そろそろこちらも色々やらせて貰うとしよう。
余程俺の体が気に入ったのか、どうやら橘はこちらの手元の動きなど意に介していないようだ。
慎重に慎重に、ローブの結び目をゆっくり解いていく。そして頃合を見計らい、一気に引っ張る。

「ひゃ!?」
「……」

一瞬はだけたが、すぐに橘が縮こまってしまったので全く見えなくなった。とはいえ、その刹那に見えた橘の肢体は、とても綺麗だった。
感動して声が出なくなるなんていうのは眉唾だと思っていたのだが、今の俺は正にその状態だ。


「な、何黙ってんのよ……ふん、どうせ貧相な体だとか思ったんでしょ。期待はずれで悪かったわね」
「……そんなことないぞ。その、あんまり綺麗だったから、びっくりしちまって」

少しだけ俯き気味の橘は、忙しなく視線を動かしていた。本当のことを言っただけなのに、相当混乱しているようだ。
しばらく黙って待っていると、おずおずと自分からバスローブをはだけた。驚くほど華奢な肩幅に、控えめな胸、桜色の乳首。
しっかりくびれたウエストに、可愛らしいおへそ。薄い明りに照らされた白い肌から、目が離せなくなる。

「……そんなに、じろじろ見ないでよ。自信、無いんだから」
「いや、だから綺麗だって。少なくとも俺は……いや、誰だってみんなそう思う」

手放しで褒めているというのに、神妙な顔つき。ならば、とその腕を取った。きょとんとした橘をよそに、俺はそれを自分の胸へとあてがう。

「!……すっごい、ドキドキ、してる?」
「あぁ。ちょっと癪だけどな」
「ふ、ふーん……そっか。そうなんだ。ふふ」

満足気な笑みがこぼれる。ちょっとだけ意地悪そうなのもこいつらしい。そんな橘が急に愛おしくなった俺は、そっとキスを落した。
最初は触れるだけで、ついばむように何度も。くすぐったそうな声が耳に心地良い。すると、今度は橘の方から舌を伸ばして来てくれた。
さっきはおっかなびっくりだったその動きは、驚くほど積極的なものに変わり、今までの仕返しと言わんばかりに舌を絡ませて来る。
息を継ごうとして顔を離すと、唾液が二人の間で橋のように伝わった。下になっている橘の顔や首にそれが落ちる。
ほんのり染まった頬。二人の唾液で濡れた口元。熱にうなされたようにとろんとした目。深い呼吸の音。

「……アイスの味だね」
(……えろい)


突き動かされるように、今度は首より下に顔を埋めた。不思議なもので、初めてだというのに自然と体が動く。
AVとかで見る男女の絡みはオーバーだと思っていたのだが、あれはあれで本能に忠実な動きだったらしい。

「ぁっ……あぅ……ひゃ……」

鎖骨から胸にかけて舐めてやると、橘はぴくりと体を反応させ、声を上げる。やっぱり弱い部分なのだろうか。
その内、弾力のある突起のような部分に舌が到達する。反射的に吸いついた。

「きゃふ!?」

少々刺激が強かったらしい。顔を上げて、橘の様子を伺う。

「痛かったりしたか?」
「う、ううん。ちょっとびっくりしただけ」
「……続けて良い?」
「……うん」

改めて許可を貰い、胸に再び顔を埋めた。舌と唇を使って、乳首を色々と弄り回す。

「……ぁん……ふふ、何か赤ん坊みたい」

確かにそう言われても仕方ないくらい、俺は橘のおっぱいに夢中であった。ふと、全く手を使っていなかったことに気付く。
こんな素敵な物を前にして、我ながらもったいない。とりあえず下から上に押し上げるように胸を掴んでみる。
手に返って来る感触は、柔らかくも弾力があって、その大きさは丁度良く俺の手にフィットしている、気がした。

「……ふあっ……や、やっぱりさ、大きい方、好き?」
「ん?」

頭上からかけられた声に顔を上げると、橘が心配そうな顔をしている。


「その……おっぱい、私ちっちゃいから」
「まぁ、でかいに越したことは無いんじゃないか」
「うぅ、そうよね、男ってそういうもんよね……」
「……ってさっきまで思ってたけど」
「?」

無言で胸を揉むペースを上げる。俺の手の形に沿って、橘の胸が歪み、たわむ。

「ひゃぁ!?ちょっ……急に、強く……ぁぅ……」
「今はお前の胸に夢中だから、大きさとかどうでも良いや」
「……何か、それぇっ……んっ、誰のでも、良いってこと……」
「……お前のが良い」
「!?……っは、あん……ひ、卑怯だわ、こんな時にそういう言い方……」

それにしても、AVなんかの見よう見まねに過ぎない俺の攻めに大きく反応する橘は、もしかして相当感度が良いのではないか。
そんな都合のいい話は、矢部が持っていたエロ漫画の中くらいのものだろうと思っていたのだが。

「……お前、もしかして普段から自分で弄ったりしてんのか?」
「んぁんっ……ふぇ?」
「いや、何か妙に感じやすいような気がして」
「そ、そんなこと……」
「……」

無言で太ももの付け根の辺りに手を突っ込んだ。

「ひゃああああ?!」
「!はは……すげーな、びしょびしょだ」

見せつけるように、橘の顔の前に手をかざす。汗や尿じゃない液体が、しっかりと絡みついていた。


「ぅ、うぅ~……」

悔しいのか恥ずかしいのか、半泣きでこちらを睨みつけて来る橘。

(たまらん……!)

どうやら俺はSっ気があるらしい。自然とまた橘の股間に手が伸びた。しっとり濡れた茂みのほんの少し向こう。そこで指を曲げる。

「ふぁん!?あっ、ぁっ……や、やめ……」

くちゅり、といやらしい音を立てて、中に沈んでいく。橘は刺激が強すぎるのか、目一杯体を反らし、いやいやと首を振っている。

「普段はどう弄ってるんだ?」
「ひぁ……し、してないもん!ぁぅ?!」
「嘘付け、やたら反応良いじゃねーか」
「こ、これは……んぅっ!」

ぷにぷにとした女性らしい肌触りの一方で、濡れそぼったひだが絡みつく感触。いよいよ俺は指を奥に進ませ、橘のツボを探る。

「あ、あんたっ、調子乗ってんじゃないわよ!?やめなさ……あぁっ!?」
「普段どういう風にシてるのか白状したら止めてやるさ」
「なぁっ……んで、シてる前提なの……んんっ?!」
「違うのか?」
「そ、れは……あっ、ダメ?!そこはぁっ……」
「お?」

どうやら今押している部分が特に敏感らしい。少し角度を変えて触るだけでも、びくん、と橘の体が跳ねる。
反った首筋がやたら扇情的で、思わずむしゃぶりついた。空いた片方の手で左胸を揉みしだく。力加減を考える余裕など無かった。

「だ、ダメ、そんな、全部一緒とか、ほんと、だめだって、ばぁああ……」
「ほれ、白状しないと……こうだ」

すっかり腫れあがったように勃った左の乳首を甘く噛む。

「やぁっ……!?あっ、あっ、あぁ、き、来ちゃう、何か来ちゃうから、やめ」
「ならちゃんと俺の質問に答えてくれよ?」
「こ、答えるぅ!答えるからあっ?!」


ちょっとやり過ぎたかな、と思いつつも、何だか俺は満足感に溢れていた。普段はやり込められることが多い分、
橘を屈服させるというのは気分が良い。ゆっくりと上体を起こした俺は、体勢を少し変えて、肩で息をしている橘の耳元で囁く。

「じゃ、質問だ。普段はシてる?」
「……うぅ……し、てる……」

半ば呆然とした橘だったが、自分で答えると言ってしまった以上観念しているらしい。

「どのくらい?」
「……一週間に、2-3回、とか」

それは多いのだろうか。男ならほぼ毎日やるような奴もいるが、そういえば女性の基準というのは知らない。
とはいえ、週2-3回の橘がこの様子なら、その回数は割と多い方なのではないかと思える。

「どういう風にシてるんだ?」
「ど、どういう風って、言われても……」
「……やってみせてくれよ」
「……うぅ、結局あんたペースじゃない……」

まるで安っぽいAVの男優だ。橘も橘で、目立って抗おうとしないのは問題だが。

「……こ、こう……」

遠慮がちに橘は、自分の左胸と股間に手を伸ばす。やはり左胸が好きなようだ。

「……っは、ぁ……やん、んんっ……」

さっきまで俺が弄り倒していたせいか、ほんの少し指が触れる程度でも声が抑えきれないらしい。
橘みずきのこんな痴態、知っているのはおそらく世界で俺一人である、という事にやたらと興奮を覚える。
もっと橘の隅々までを知りたい。いや、暴いてやりたい。そんな欲求に駆られた俺は質問を続けた。

「どんなこと考えながらシてる?」
「そ、れは……」

さすがに恥ずかしいのか、ここに来て橘は黙りこんだ。ならば、と空いている左手を橘の手に重ね、その動きを助けるように動かす。

「ひゃん!?あっ、ちょっ、今敏感になってるから……あぁっ、もう、分かったわよ、ちゃんと、言う、から」
「よしよし」

これだけ反応が良いなら、これからは何か生意気なことを言う度にこうしてやろうか。そんな考えが頭を過った。
無論二人きりの時だけで、場所も考えなければいけないけれど、上手くやれば悪用出来そうだ。


「……のこと、考え、てる」
「聞こえん」
「だ、から、あっ……ふぅっ……!あんたの、こと、考えっ……」
「そうか、あんたのことを考……え?」

どうせすぐには吐かないだろうと決めてかかっていた俺の攻め手が止まる。今こいつは何と言ったのか。

「……あんたって、俺?」
「この状況で、あんた以外に、誰がいるのよ」
「……マジ?」
「ひいちゃった?……そうよね、昼は散々煽った挙句、夜はあんたのこと考えて眠れないだなんて、お笑い草も良い所だし」
「橘」
「ふぇ?」

ぎゅうっと、目一杯強く抱き締める。悪用だなんて考えていた数十秒前の俺をぶん殴ってやりたい。

「な、何よ急に」
「嬉しい」
「……そ、そう?」
「あぁ」

今の口振りからすると、少なくとも結構昔から俺の事を想っていてくれたのだろう。素直に嬉しかった。光栄と言っても良い。

「ところで、お前の想像の中の俺はどういう風にお前を攻めてたんだ?」
「……さっきみたいな、ちょっとだけ、強引な感じで……って、何言わせるのよ?!」
「こういう感じか」
「あっ!?やっ、やめ……んー!?」

止まっていた手を再び橘の急所に伸ばす。手に触れた小さな突起は、おそらくクリトリスだろう。
指の腹で押したり、優しく摘まんだりしてみた。橘は再び背筋を反らし、声にならない声をあげている。

「た、タンマ、ほんと、勘弁……」
「お前が可愛いから止めない」
「理由に……なって、ないっ……ひゃ……あふ……!」

曲げた中指で、橘の中の弱い部分を小突いてやると、面白いように彼女の体が跳ねる。絡みついた愛液が立てる水音は、この上なくいやらしかった。

「!?……だめ、だめだめだめ!それ以上は……」
(ここまで来て止められるか……ん?)

くちゅくちゅと大きな音を立てていた橘の股間から、ぷしゃ、と水のようなものが噴き出る。

「や……いやあああ?!」
「おー、すげー」
「『すげー』じゃないわよこの馬鹿ああああああ!?」

これがあの潮吹きとかいうものか、と素直に感心してしまった俺は、本日2回目となる橘渾身の平手をまともに喰らうのだった。

――


「まぁ、なんだ。ちょっとだけやり過ぎた。すまん」
「……うぅ、この年でお漏らしとか最悪よ……」
「だからあれはお漏らしじゃないんだって」
「似たようなもんでしょ」

余程プライドが傷ついたのか、さっきから橘は枕を抱いてぐちぐち文句を言い続けていた。
とはいえ、ベッドから離れる気配は無かったので、一応最後までやる気はあるようだ。
というか、そうじゃなければ俺が困る。さっきからちらちらと橘も視線を向けているが、俺のアレは激しく自己主張していた。

「……こ、今度は私がするから、あんたが下になりなさいよ」

しばらく俺の股間と顔を交互に見ていた橘は、おずおずと切りだした。

「するって……お前何すればいいのか分かるのか?」
「それくらい知ってるし!?ガキ扱いしないでよね!」

そう啖呵をきった橘は、その勢いのまま、俺のバスローブを取り去る。ベッドの下にバスローブが落ちた。俺は今全裸だ。

「……」
「……どうした?」
「……ぐ、グロテスクね……」

まぁ、そう思うのもしょうがない。何せビンビンもビンビン、自分でもびっくりするくらいガチガチなのだし。

「……普段からこうなの?」
「んなわけあるか」
「ぼ、勃起?ってやつ?」
「お前、保健体育真面目に受けたのか?」
「し、仕方ないじゃない!初めてなんだもん!」
「……まぁ、俺もこんなになるのは初めてだよ。さっきからずっとお預けくらってたし」
「……私の体を見て、コーフンした、ってこと?」
「うん」
「……」

橘は少し黙ったのだけれど、実は黙った時のこいつは何を考えているのか分かりやすいのだ。表情に全部出る。
口の端が少し吊り上がっている。どうやらちょっと嬉しいようだ。まぁ、自分の体を褒められているようなものだし、悪い気はしないのだろう。


「……た、確か、こう……」
「お?」
「く、口はちょっとレベル高いから、手で我慢しなさいよね?」

一応やることは理解していたらしい。最近の女性誌だとセックスの特集を組んだりもするらしいから、そういう所から情報を仕入れたのだろうか。
自分のものよりもやたらすべすべとした柔らかい指先が、そっと竿の部分に触れる。

(やべぇ)

よく考えてみれば、自分の股の間に橘がいるという絵面だけで既に危ないのだ。相当気合を入れないと保ちそうも無い。

「えっと、まずは……棒の部分を撫でるように……」

さわさわと、触れるか触れないかの絶妙さで、橘の手が上下に往復する。普段自分でするのとは違って動きは物足りないが、
それが橘によるものであることを意識すると、感無量であった。

「……気持ち良い?」
「……かなり」
「そっか。よし……で、次は上の方を……」

カリ首に橘の指が触れた時だった。少しだけ冷たいその指先の刺激は、とっくに限界だった俺には強過ぎた。

「すまん、もう無理……」
「え?」
「ぐぅ……っ」
「ひゃ!?」

勢いよく出た俺の精子は、橘の顔に思いっきり直撃した。鼻の頭や、頬の辺りにべっとりと白いモノが付着している。
しかし、こういう時は悔しいというか、やってしまったという感情が先に来るのだと思っていたのだけれど。

「うわ、うわ……すご……これ、セーシ?だよね?」
「あ、ああ……」

それよりも、自分の精液塗れの橘の、何とも言えないいやらしさの方に完全に心を奪われていた。


「……美味しくない……」
「!?お前、飲んだのか?」
「だっていきなりだったから、ちょっと口に入っちゃってさ……」
「……」

好きな女が自分の精子塗れで、しかもそれを飲んだなんて、初体験を前にした童貞にどうやって理性を保てというのだろうか。

「わっ!?ちょっ、今は私の番……」

気付いた時には、またさっきと同じように俺が上になっていた。言葉とは裏腹に、橘は抵抗しようとはしない。
今日の橘は随分と押しに弱いのだ。さっきからやけにしおらしい。ちょっと卑怯かもしれないが、俺はそれを利用して強引に迫る。

「……橘」
「な、何よ」
「挿入れたい」
「……」
「ダメか?」
「……だ、ダメじゃない、けど」
「けど?」

橘の手が、彼女の手首を掴んでいた俺の手に絡まる。

「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、不安だから」

こういう時の上目遣いというのは、少し反則が過ぎるのではないだろうか。

「手、ずっと、握ってなさいよね……」
「……お、お安い御用だ」

上ずる声を抑え切れなかったことに、橘が気付かなかったのは幸いだった。

――


俺としては挿入前に橘のあそこを観察してみたかったのだが、そんなことをしたら訴えると言わんばかりに橘が拒否したので、
残念ながら今回はお預けとなった。今からそこにあれを入れるのだから、じっくり見るかそうでないかくらいしか違いは無いと思うのだが。
まぁ、所謂女心というものなのだろうか。

「……それじゃ、始めるか」
「う、うん」

顔やベッドに付いた精子を軽く処理した後、なんとなく二人して居直っていた所から、橘を優しく寝かせる。脚の方に移動して、股の間に割って入る。

「だ、だから見ちゃダメ!?」
「おいおい……さすがに少しは見ないとこの先が出来ないだろうが」

ちら、と視線を下に向けただけでこれだ。実際問題、童貞の俺は入れるべき穴の大体の位置しか把握していないのだから、どうしろと言うのか。

「じゃ、じゃあ、私が手で手伝ってあげるわよ」
「挿入れるのをか?」
「うん……だから、あんたはちゃんと私の方を見てなさい」

そう言うと、橘は少しだけ上半身を起こして、俺の股間の方に視線を向ける。が、そこで動きが止まった。

「……」
「どうした?」
「何か、さっきよりおっきくない?」
「……いやまぁ、そりゃあな」

一度出した直後だから萎えるなんてこともなく、俺のあれはすこぶる絶好調であった。
しかも一度出した分、そう簡単に暴発などしなくなっている、ように思う。情けない姿は見せずに済みそうだった。


「と、とりあえず、じゃあ」
「おう」

指先が再び竿の部分に触れる。しかし、本当に同じ人間なのか、本当に真面目に野球をやっているのか、というくらい、橘の指先は柔らかい。
引き寄せるように動く橘の動きに合わせて、膝立ちの俺も少しずつ前に進む。と、亀頭が柔らかいものに触れた。

「……ふぁっ……」
(我慢、我慢……)

先で感じたぬるりとした感触と、不意に出た橘の甘い声に、一瞬自制が効かなくなりそうになるが踏み止まる。
さっきから握り続けている彼女の手の力がだんだん強くなっているのだ。緊張か不安か、どちらにせよ、俺が焦っては良くない。

「うっ、うぅ……本当に、これ入るのかしら……?」

不安そうな橘の様子に、俺の方から手を握り返す。橘の目を出来るだけ真っ直ぐ見つめて、無言で待つ。
2-3回の深呼吸の後、橘は一際強く俺の手を握り締めた。どうやら、覚悟は出来たようだ。

「じゃ、じゃあ、行くわ……」
「おう」

ぬるりとした入口の感触を超えて、俺のペニスが橘の中に呑みこまれていく。

「んっ、んうっ……」
「……きつい、な」

一言で言うなら、狭い。後、熱い。ようやく亀頭が全部入ったという感じだが、確かにこれは全部入るのか疑わしい。

「……まだ半分もいって無いのよね」
「残念ながら、な」
「……こっちの手も……」
「ん」

竿に触れていた手が離れ、それをしっかりと握ってやる。ここからは俺に任せてくれるのだろう。


「……痛くしたら、また引っ叩いてやるんだから」
「善処するさ。少し動くぞ」

少しずつ、橘の表情を見ながら体を傾けていく。処女は締まりが良いとか聞いたことがあるけれど、むしろこれは固い、と言った方が正確だ。
前になかなか進んでいかない。まぁ、肉の壁をこじ開けるように進む感触は、決して悪いものでは無かった。

「うぅっ……っは、ぁ……」
「辛いか?」
「見りゃ分かるでしょ……っう、っく……」
「……嫌なら止めても」
「それは、嫌」

案外きっぱりと言い切った。苦しそうな表情なのだが、そこは譲らないらしい。

たっぷりと時間をかけて進んでいくと、何かに引っ掛かるような感触があった。

「……処女膜ってやつか」
「口に出してそういうことは言わない!」
「ていうか、お前本当に処女だったんだな」

確かに本人は処女だと言っていたが、俺は今になってそれを実感する。自分が今からそれを奪おうとしているのだから、当たり前といえば当たり前か。

「そういうあんたは、本当にドーテーなの?」
「……童貞じゃなかったらさっきみたいな暴発とかしないだろ」
「……それもそうね」

なんだか少しだけ自尊心が傷付いた気がするが、橘が納得しているので良しとするとしよう。
さて、二人して妙に得心がいった所で、いよいよメインイベントだ。

「……これ、一気に行っちゃった方が案外楽らしいのよね、友達によると」
「ほう」
「あ、でも、一気に行った後にいきなり激しく動いたりするのは無しよ?」
「分かった分かった」

裸の男女によるやり取りとは思えない情けなさだが、打ち合わせは完了。後は実行するのみ。


「……行くぞ?」
「うん……!っ痛……っはあ、はあっ……」
「……破れたのか?」
「だからっ……ふぅっ、いちいちそういうのはっ……」

案外あっさりと奥に進んでしまった。とはいえ、橘の感じている痛みを伝えるかのように、締め付けは一際強くなっている。
正直まだ気持ち良いとかいうのには程遠いものの、達成感みたいなものはあった。未だ痛がっている橘の頭をなんとなく撫でてみる。

「……手、勝手に離すんじゃないわよ」
「あ、すまん」
「……やっぱりこのままちょっと撫でて」
「どっちだよ」
「撫でてて!」
「はいはい」

汗で少ししっとりした髪が指に絡む。耳に触れるとぴくり、と橘の体が反応する。体が繋がっているからか非常に分かりやすい。

「……」
「え?……ひゃ」

下半身が大きく動かないように、上半身だけ動かして、耳たぶを甘く噛んでみた。やっぱり弱い部分らしい。
肉の壁が少し蠢いて、俺のペニスに刺激を伝える。中々気持ち良いじゃないか。

「やっ……だめ、耳、だめぇぇ……」

そういえば、こういう時は色々弄って痛みを紛らわすのも一つの方法らしい。
ならば、と片手で胸やお腹を撫で回し、口や舌で首筋や乳首を弄ぶ。後が怖いので、もう片方の手は約束通りしっかりと握りしめた。

「ぁっ……ふぅっ、んん、ん、んー……!」
「おお?」

うねうねと橘の中が蠢く。気持ち良い。そういえば、さっきよりも湿り気を感じる。橘も気持ち良くなっているのだろうか。

「ちょっとは楽になったか?」
「うぅ……あんたの手とか、舌とか、いちいちやらしいのよぅ……」

どうやらお気に召してくれたようだ。そう思うことにする。そうやって橘をいじめながら、隙を見て、少しずつ腰を前に進める。
本音を言えば、もう思いっきり突っ込んでみたくて仕方ないのだけれど、ゆっくり焦らず行こう。


30分くらいもそうやっていただろうか。遂に俺のが全部橘に呑みこまれた。腰と腰が触れる。

「ふぇ……あれ、全部、入っ、た?」
「あぁ、案外入るもんだな」
「……いつの間に動いてたのよ」
「お前があんあん言ってる間に」
「言って無いし!?ぁっ……」

言ってる傍からこれでは強がりも何もあったもんじゃなかった。まぁ仕方ない。案外俺のエロ知識も捨てたものでは無かった、ということだろう。
大体ではあるけれど、どこをどう触ってやればこいつが反応するのか、結構掴めて来ていた。

耳たぶを噛んで。

「ひぁん!?」

鎖骨の上を舐め。

「んんっ……」

左胸の乳首を摘まみ。

「ふぅっ」

おへその下の辺りを撫でる。

「あふ……ちょっ……待って、何で、あんた、そんなに……」
「まぁ、今体繋がってるからな。すぐ分かるぞ」
「よ、余裕そうなのが超むかつ……ふぁん!?」

少し腰を引いてみると、逃さないとでも言うかのように肉が絡みつく感触。中はもうすっかり濡れていた。出るか出ないかの辺りで腰を止める。

「痛かったか?」
「い、痛くは無いけど、ちょっとびっくりして」
「そうか……じゃあこれは?」
「ひん?!」

今までよりもずっと早くペニスを奥に沈めた。肉壁が痛いくらいに締めつけてくる。橘の体は大きく反って、びくりびくりと震えている。

「……やぁ……何か、変な、感じ……」
「……動くぞ」
「ま、まっ……ふぁ、あっ、ぁ、ぁぁ!」


ゆっくりと腰を前後に動かしていく。多分、ここまで来たら加減は出来ないだろう。先に謝っておくことにした。

「橘」
「ひぁっ、あっ、ぁっ!?」
「すまん、実は余裕なんて全然無いし、もう我慢の限界なんだ、許せ」
「ゆ、許せ、って、あんた……ぁぁ、あふ、ひゃん?!」

我ながらよく耐えた。どんな辛いバイトより耐えた。どんな辛い練習より耐えた。
出来る限り優しくしてやったし、痛みも紛らわせてやった。一応激しくはし過ぎないよう努力するから、だから、勘弁して欲しい。

「あっ、あぁっ、ひん、ふぁ……!」
「くぅっ……」

亀頭が奥に当たる度に、痺れるような感覚が背筋を襲う。引き抜こうとすると、絡まるように強く締めつけられて、全部持って行かれそうになる。
視線を落とすと、俺の股間も、橘の股間もどろどろだ。どっちのどんな液体によるのかさえ分からない。

「み、見てんじゃぁっ、無いっ、わよぉ……」
「はっ……お前もっ……強情、だなっ……」
「か、おぉ……」
「は?」
「顔、見せて、よぅ……ぁ、ぁぁっ!」
「お前……」

そういうことだったのか、と今更理解する。こいつ、今日はいつにも増して可愛い。もう少し優しくしてやるべきか。
頭の片隅でそんなことを考えたが、俺の動きは緩まない。というか、緩められない。段々激しくなっていく。


「ひゃぁ、あ、あ、あん!」
「橘……」

夢中で腰を動かしながら、うわ言のように呟く。すると、また一際強く手が握られる。

「な、まえ……」
「はぁ……はぁ……ん?」
「名前、でぇっ、ちゃんと、呼んで……?んぅっ!?」

たまらず唇を奪っていた。舌と舌が絡み合う。もう滅茶苦茶だ。自分がどう動いているのかさえ分からなくなって来た。

「っは……ぷは、みず、き……!」
「はぁ、ぷはぁ、はぁっ……!」

ぱん、ぱん、と体のぶつかり合う音がする。その狭間に、くちゅくちゅと水音が混じる。
俺は橘に完全に覆い被さって、体を密着させていた。腰が動く度肌が擦れて、お互いの存在を強く感じるのが何となく心地よかったのだ。
橘は空いた片手を俺の背中に回している。力が入り過ぎて、爪を立てるような形になっているが、気にもならなかった。

「ふぁ!あっ!あぁん!」

必死に声を出すまいとしていたように思ったのだが、今となってはもう関係無いらしい。甘い声が、耳に絡みつく。

「はぁ、はぁ……!そろそろ、限界か……」

もう橘の中は愛液で溢れかえっていて、とても気持ちが良いのだけれど、だからと言ってこのまま射精するわけにはいかない。
コンドームなんて都合良く持ってはいなかったのだから、中出しなんて出来るわけが無い。その点だけぎりぎりの所で理性を保っていた俺は、一度体を引き離そうとした。


「……おい……っく……脚、離せよ……」
「あっ!ぁ!」

しかし、がっしりと俺の腰に絡んだ橘の脚は、今の俺には振り切れなかった。
弾力のある太ももの感触がまた一段といやらしいが、今はそんなことは二の次だ。

「聞こえてねーのか……?おい、マジでやばいから、脚解け……くぅっ……」
「聞こえ、てる、わよっ……ひん!……ぁふ!」
「聞こえてんならっ、早く……ぅぁ……」
「な、かはぁっ……だめぇ……!」
「だから、早く、脚を……」
「離れ、ちゃ、やだぁ……あっ!」
「どっちだよ!?……あっ、ぐぅっ?!」
「ひゃぁぁあん!?」

びくり、と腰が一瞬震えて、頭が真っ白になる。気絶しそうなくらいの快感なんて初めてだ。
こんなに出るものか、と自分でびっくりしてしまう量の精液が、橘の中にぶちまけられる。
腰はまだ少し動いていて、出し入れの度に精液と愛液が混ざり、ペニスに絡みついた。

「ばっか、やろぉ……」
「はぁ、ぁ、ぅ……お腹、熱、い……」

――


下も上もどろどろだからシャワーを浴びたい、と言い出したのは橘の方からだった。確かに俺もそれは考えたけれど、
だったら先に橘を行かせてやろうと思っていた。先にどうぞ、と俺が譲ると、どうしてか橘は動かない。
一体どうしたのか、と思ったら、一緒に来い、と短く言って、バスルームに行ってしまった。

「「……」」

そして何故かこうして、一緒に湯船に浸かっている。
スイートとはいえそこまで浴槽は広くは無く(というか俺がでかい)、俺の股の間に橘が座るような形だ。

「……なぁ」
「……あんた体大きいし仕方ないじゃない」
「……」
「……」

聞こうとしたことをあっさり答えられてしまった。ここら辺は付き合いの長さが出る。

「……あのさ」
「今度は何よ」
「……危険日?」
「……黄信号」
「はぁ……バカだろお前」
「はぁ?!あんたが我慢してれば良かったんじゃないの!」
「いやお前、自分が脚解かなかったのが悪いんじゃねーの?」
「それは、その……だって!だって……えっと……」
「……離れたくない、か?」
「……」

無言で橘は頷いた。ちゃぷん、と微かにお湯が揺れる。あの時、橘は離れちゃいや、と言った。そしておそらく今もそうらしい。
先輩から、女性は行為そのものよりももっと別の何かを重視するとか何とか聞いたことがあったけれど、多分こういうことなのだろう。
こっちとしては気持ち良かったし、好きな女に中出しなんて浪漫溢れる体験をどうもありがとうございました、と言っても良い。
でもそれは、お互いの立場とか、将来とかを考えると絶対にやっちゃいけないことでもある。それはこいつも良く分かっているはずだ。


「……まぁ、やっちまったもんはしょうがない。どっちが悪いとか、どうすれば良かった、なんて考えても仕方ねーよ」
「……むぅ」

ぶくぶくと、橘が少し沈む。まぁあれはやはりこいつの責任だろうから、自己嫌悪にでも陥っているのだろう。
妙にその様子が可愛いので、また頭を撫でてやると、更に少し沈んだ。

「……はあぁ……もし出来てたらどうしよ……」
「そん時は、そん時さ」
「……他人事みたいに……これだから男は」
「違う違う。苦労が増えた所で、って話」
「はぁ?」
「今まで家族養って来たんだ、もう一人二人増えた所で何ともねーよ」
「……」
「何今更照れてんだお前」
「照れてまーせーんー」
「バレバレだぞ」
「……くぅ、本当、何であんたのこと好きなのかしら私……」
「お、ようやく『好き』って言ったな」
「言って無い!」
「まぁそーゆーことにしておいてやるか」
「ぐぬぬ……うらー!?」
「?!ば、ばっか、お前……それは潰しちゃいけない……ぐぉぉ……」
「え?あれ?効き過ぎ?」

結局俺たちがバスルームを出たのは、それからたっぷり1時間は経った頃だった。

――


「ん……朝か……」

見慣れない場所だ。最初にそう思った。やたらとでかい窓。カーテンは閉められていたけれど、光が漏れている。もう大分明るいようだ。

「んん……」
「?」

ふと気付くと、腰に何かが絡みついている。人の手だ。一瞬怪奇現象かと思ってびっくりしたものの、その手の主の寝顔を見て全部思い出した。

「……マジでやっちまったんだよなぁ……橘と」

背中の中ほどが、少しだけひりひりする。爪を立てられた場所だろう。微かな痛みは、昨日の出来事が現実だというのを証明していた。

俺が落ち着くまでお湯に浸かりっぱなしだったせいもあり、二人とものぼせていた。それでもこいつは頑なに離れようとしなかったので、
仕方なくというか、ありがたくというか、とりあえず一緒にベッドに入ったのだ。色々あり過ぎて消耗していて、2回戦なんていう気力も無く、
そのままどっぷりと今まで寝ていたらしい。時計を見ると、9時半。自主トレやら何やらでいつも早起きの俺からすると、寝坊も良い所である。

「自主トレ……は、今日は良いか」

トレーニングをサボるなんて、プロスポーツ選手にはあるまじき事だ。しかし、何があろうと鍛錬だけは欠かして来なかった俺も、
さすがに今日は気が削がれていた。日課をサボるとロクな事が無いという個人的なジンクスも、今日くらいは見逃してくれるだろうと思いたい。


「ぐー」
「……呑気だなこいつは」
「そうだな」
「あぁ…………は?」

ぐるん、と効果音が付くぐらいに声の方へ振り返る。

「やぁ、おはよう友沢先輩」
「ろ、六道?!」

高そうなテーブルの横で、のんびりと六道聖が茶を飲んでいた。テーブルの上には和菓子が置いてある。確かあれはきんつばとかいうやつだ。
いや、今はそんなことはどうでも良いのだが、気が動転して現実逃避せざるを得ない。

「な、ななな、何で、お前が……?!」
「ふむ。実は昨日の宴会の時、『明日の朝ここの温泉に入るわよ、ついでにあんたも一緒に泊まりなさい』とみずきから言われていてな」

すちゃ、と六道はカードキーをかざして見せる。確かに、昨日の夜ここに入る時使ったものと同じような気がする。

「い、いつ来たんだよ?!」
「1時間ほど前か。宴会の後処理をやっていたら大分遅くなってしまった……それより、どうして先輩はパンツ一丁なのだ?」
「ぎゃー?!」

慌ててベッドの中に潜った。女の子か俺は。というか、六道は何かズレているような気がする。
普通はまず何故俺がここにいるのか問い質すものだと思うのだが。いや、しかしこれは逆に考えれば良いのかもしれない。
元からコイツ所謂不思議ちゃんのケがあったはずだ。もしかして、うまいことやれば誤魔化せる可能性があるのではないか。

「あぁ、それとな。先輩達が寝ていた方とは別のベッドだが、シーツの汚れがひどかったから従業員の方に持っていってもらったぞ。
全く、二人とも良い年齢なのだし、はしゃぐにしても宴会ではしゃげば良かっただろうに……」
「 」

あ、駄目だ。これは駄目なパターンだ。何もかもが手遅れである。六道は何か勘違いをしているようだが、もう駄目だ。
確かに昨日寝る時、行為で汗やら精子やら愛液やらに塗れたであろうベッドは御免だということで、使っていない別のベッドに入ったのは覚えている。
さすがにホテル側、つまりは財団に感付かれるのは不味いし、起きたら適当にワインでもぶちまけて弁償しようかと考えていたのに。
やった事自体は後悔など微塵もしていないけれど、それが明るみに出てはいけないタイミングというのも確かにある。
日本有数の大財閥の、大事な大事な跡取り候補のお嬢様を汚しておいて、何も無いというのはムシが良過ぎるだろう。

「俺……生きてここから出られるのか……?」
「?」
「ぐー」

頭を抱える俺とは対照的に、橘の安らかな寝息と、六道の茶をすする音が、虚しく響くのだった。

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