実況パワフルプロ野球シリーズ@2chエロパロ板まとめwiki

ぱわQ1-3

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匿名ユーザー

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1-3


  物心もつかない幼い頃。見上げるほどだった背丈の父が教えてくれた球技──野球は、
その背に並び見下ろす歳になってもしっかりと少年の心を掴んで離さないでいた。二人で
したキャッチボールの感触は忘れてしまったけれど、買って貰った当時ぶかぶかだったグ
ローブは、今やぴったりと彼の左手を包み込んでいる。

  一人が投げて、一人が打って、みんなが守る。言葉にすればたったそれだけのことが、
上手くできない歯痒さがまた余計に彼の興味を引きつけた。寸暇を惜しんだ練習と、或い
はそれなりの才能があったおかげか中学ではなんとかレギュラー。高校に入ってからも、
もちろん野球を続けるつもりだった。父が果たせなかった夢を代わりに自分が、というわ
けでもないけれど、甲子園を目指すのが自分の使命だと冗談抜きに思っていた。けれども
──

「なんと恐ろしいことに、彼が入った高校には野球部がなかったんでヤンス。ああ悲劇」

「どっちかって言うと喜劇だと思うんだけど」

  軽い眩暈を覚えて、小波はこめかみを押さえた。会ってまだ数時間しかたっていないが、
なんとなく矢部明雄という人物の人となりが理解できてきた気がする。典型的な自爆型だ。

「去年まで女子高だったんだから、野球部がないのは当たり前だよ」

  むしろあると考えるほうがどうかしている。可能性からすれば女子野球部だろうか。女
子硬式は全国大会こそあるが、参加校は47都道府県で50に満たない。軟式に至っては連盟
に加盟している数さえ二桁に届かない。ちなみに甲子園大会夏の予選に出場する高校数は
4800前後である。全国にある高校の数が5000とちょっとであることを考えれば女子高を除
くほぼすべての学校にあると言っても過言ではない。まさに桁が違うのである。

「ちょっとうっかりしてたんでヤンスよ」

「それで『ちょっと』って、随分とまた奥ゆかしい表現だね」

  檻越しの珍獣を眺める目をする小波に、矢部は頭を掻いた。

「そんな風に言われると照れるでヤンス」

「誉めてねぇよ」

  思わず荒げてしまった口調を正すために、ごほんと一つ空咳をして小波は話を戻した。

「じゃあ、矢部くんも野球やってたんだ?」

「『も』というからには、小波君もやってたんでヤンスか?」

「うん。やってた、というか俺は高校でも続けるつもりだけど」

「道理でバットケースなんて持ってきてた訳でヤンス」

  はじめクラス表の前であったときの小波の姿を思い出したのか、矢部はようやく得心が
いったとでも言いたげにこくんこくんとしきりに頷く。気づいてたんならその時点で分か
りそうなものだけど、と内心で呟きながら、小波はようやく切り出した。

「そんなわけだから、もし良かったら俺と一緒に甲子園目指さない?」

「うーん、それも充分魅力的な提案なんでヤンスが……」

  眉をしかめて言葉を濁す。

「なにか気がかりでもあるの」

「せっかく女の子ばっかりの学校に入ったのに、また汗臭い部活でその大半を潰すのはい
かにも不健全じゃないでヤンスかねぇ……」

  腕を組んでうーむ、と唸る矢部に、じゃあ、さっきの話はなんだったんだと小一時間問
い詰めたい気持ちをグッと堪えて、小波はため息を吐くように言った。

「汗臭いのは確かに否定しないけど、部活だってマネージャーとの恋愛とかいろいろある
じゃないか。甲子園まで行っておまけに活躍すれば、きっと女の子にモテモテだよ」

「さあ、小波くん何をやってるでやんすか! こんなところでボーっと突っ立ってても、
甲子園は目指せないでやんすよ!!」

  なんて扱いやすい奴だろう。ちょっとだけ彼の将来を心配しながら、小波ははやる矢部
少年があさっての方角へ走り出そうとするのを奥襟を掴んで引き止める。

「まだホームルーム残ってるよ」


  放課後を待って、二人は早速職員室へ向かった。

  まずは顧問を見つけ、野球部設立の手続きを終わらせてしまおうという魂胆だ。部の体
制をある程度作り上げてしまってからの方が、少しは他の生徒への勧誘も楽になるだろう。

  渡されたばかりの生徒手帳にある地図を頼りに、階段を降り角を二つ、三つと曲がって
いく。

「急ぐでヤンス小波くん。青春はオイラたちを待ってちゃくれないでヤンスよ!」

  間にホームルームを挟んでも、未だこのテンションを保ち続けている矢部に驚きあきれな
がら、小波は言った。

「例えそうだとしても廊下は前を向いて歩くものだよ、矢部くん」

「そんな優等生みたいな言葉聞きたくないでヤンス――って、うわぁっ」

「きゃっ!」

  ──ごち。

  やけにリアルな衝突音を立てて、矢部はずるべしゃーとリノリウムの廊下の上を見事な
ヘッドスライディングで滑っていった。もう一度似たような音を出して壁にぶつかり、よ
うやく止まる。

  どうやら角を曲がって現れた別の人物と右直事故を起こしたらしい。とりあえず完全に
自業自得な矢部は放っておくことにして、小波は被害者のほうへと近づいた。

「大丈夫?」

「痛ったた。もう、何なのよ」

  仰向けにひっくり返った小柄な少女が、そこをぶつけたのだろうか。額を片手で押さえ
て呻いていた。頭を打ったのなら保健室に連れて行くより、ここで安静にしておいて教師
を呼んでくるべきかもしれない。

  一応傷を確かめるべきかと、少女の顔に手を伸ばしかけたところで、恐ろしいことに早
くも回復したのか、矢部がすぐ後ろまで近寄って来ているのに気づいた。

「アイテテ、でヤンス」

「だから廊下は歩いた方が良いって言っただろ」

「そんなこといったって急に止まれないでヤンス。しっかり避けてくれないと……」

「ちょっと、ぶつかっておいて随分じゃない!」

  矢部の呟きに反応するように、がばり、と起き上がる少女。言いぐさがよほど気に入ら
なかったのだろう。痛む額をさすりながら、涙があふれかけた釣り目がちの瞳をキッと気
丈に吊り上げている。固めた握りこぶしはなんだろうと、答えを思いつく前に解が実演さ
れる。

  ぽかっ。

「アイタ、更に痛いでヤンス。暴力反対でヤンス!」

「そっちが悪いんだから当然よ!」

  鉄拳制裁はともかく、小波もそう思った。またぞろ矢部が何かをしでかす前に、素直に
謝る。

「ごめん、急いでたから。怪我はない?」

「う、うん。大丈夫だと思うけど」

  非のない人物に頭を下げられて毒気が抜けたのか、少女は小波の思惑通りやり場のなく
なった怒りをとりあえず治めたようだ。チャンスを逃がさず畳み掛けるように、続ける。

「頭を打ってるみたいだから、念のために保健室に行こう。意識はしっかりしてるみたい
だけど、一人で歩ける?」

  手を貸そうとする小波に、少女はぶるぶるとオーバーなくらいに激しく首を振った。

「い、いいよ保健室なんてっ。そんな大した事ないから」

「後で痛み出してからじゃ、取り返し着かないかも知れないだろ」

  拒否を表す為に突き出された少女の腕を、強引に掴んで連れて行こうとする。と、観念
したのか、少女は小波の腕を振り払い、顔を赤くして言った。

「わ、分かった。自分で歩けるから、いいよ」

「うん。なら、そうして」

  頷いて、手を離す小波。オイラのときとは反応が随分違うでヤンス、と後ろから聞こえ
る怨嗟の声は、どちらに対して向けられた言葉かわからないのでさらりと流す。

「ほら、矢部くんも頭打ったんだろ。ぼんやりしてないで、一緒に行くよ」

「そういえばそうだったでヤンス」

  トテトテとすぐさま走り寄って来て、矢部はそのままの勢いでぺこりと少女に頭を下げ
た。

「悪かったでヤンス。このメガネに誓って、今後は絶対に廊下を走らないようにするでヤ
ンス」

  たった今走ってたじゃないか、という言葉は落着した空気に水を挿しそうだったので、
小波は敢えて黙っておくことにする。

「ううん。ボクの方も前を見てなかったからぶつかったんだよ。お互い次から気をつけよ
う?」

  既に気が落ち着いていた為か、少女はすんなりと謝罪を受け入れた。そうしてはじめて
笑う顔を見た小波は、彼女が随分と可愛らしい女性であることに気づいた。整った小さな
顔や程よく日に焼けた健康的な肌、制服の隙間から伸びる細く形の良い手足も全て、見て
いるだけで何だか自分が悪いことをしているような気分にさせられる。

  同じ事を矢部もまた感じたのだろうか。ちらりとそちらに目をやると、同性として悲し
くなるほどだらしなく鼻の下を伸ばしている少年がそこには居た。視線を追えば、倒れた拍
子にそうなったのか、少女のスカートが少しだけまくれあがっている。

  小波は見なかったことにして、生徒手帳の地図片手に保健室へと向かうことにした。
 後ろで同じことに気づいた少女が再び武力行使をはじめるのを、みんなハイテンションだ
なと人事のように感じながら。


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