『squeeze』
作・930氏
「ふう・・・。」
今日の練習は一人だけだった。
生徒会の皆は引継ぎとかがあって忙しく、聖ちゃんはみずきちゃんの手伝い、矢部は「ガンダーの限定版を買うでやんす」とか、
その他は自分の部活の練習に出ている。
「一人で練習ってのも寂しいな…。」
出来る練習も限られるし、なにより彼、粉箕 郎(こなみ ろう)は寂しがりやでしかも誰かに指示されないと行動できないタイプの人間だった。
今日の練習は一人だけだった。
生徒会の皆は引継ぎとかがあって忙しく、聖ちゃんはみずきちゃんの手伝い、矢部は「ガンダーの限定版を買うでやんす」とか、
その他は自分の部活の練習に出ている。
「一人で練習ってのも寂しいな…。」
出来る練習も限られるし、なにより彼、粉箕 郎(こなみ ろう)は寂しがりやでしかも誰かに指示されないと行動できないタイプの人間だった。
結局その日はランニングとダッシュ、素振りを軽くやっただけで早めにあがることにした。
トンボかけをして、部室に向かう。
「あら、郎さん。おつかれさま。」
部室には、マネージャーの三条院麗菜がいた。
「麗菜ちゃん来てたんだ。」
彼女は、山がなくなり汚れているティーバッティング用のボールを磨いていた。
「あ、ボール磨きしてくれてるんだ、ありがとう。」
「マネージャーとして当然のことをしているだけですわ。」
郎は麗菜のとなりに腰を下ろした。
「でも、一人でやるには量が多すぎますわね。」
視線が、遠まわしに手伝ってくれと言っていた。
「て…手伝おうか…。」
「いいんですの!ありがとうございますわ!」
そんなこんなで一緒にボール磨きをすることになった。
トンボかけをして、部室に向かう。
「あら、郎さん。おつかれさま。」
部室には、マネージャーの三条院麗菜がいた。
「麗菜ちゃん来てたんだ。」
彼女は、山がなくなり汚れているティーバッティング用のボールを磨いていた。
「あ、ボール磨きしてくれてるんだ、ありがとう。」
「マネージャーとして当然のことをしているだけですわ。」
郎は麗菜のとなりに腰を下ろした。
「でも、一人でやるには量が多すぎますわね。」
視線が、遠まわしに手伝ってくれと言っていた。
「て…手伝おうか…。」
「いいんですの!ありがとうございますわ!」
そんなこんなで一緒にボール磨きをすることになった。
小一時間ばかり経ち、残り数個になったとき、それは起こった。
「「あっ…」」
同じボールをとろうとして、手が重なってしまったのだ。
「ご、ごめん麗菜ちゃん!!」
「い、いえ、こちらこそ…。」
違うボールを取り直して、再びボール磨きを始める。
(麗菜ちゃんの手…柔らかかったな…)
(郎さんの手…すごく厚かった…)
「「あっ…」」
同じボールをとろうとして、手が重なってしまったのだ。
「ご、ごめん麗菜ちゃん!!」
「い、いえ、こちらこそ…。」
違うボールを取り直して、再びボール磨きを始める。
(麗菜ちゃんの手…柔らかかったな…)
(郎さんの手…すごく厚かった…)
しばらくして、全てのボールが磨き終わったが、なんとなく二人はそのままでいた。
(麗菜ちゃん、黙ったまんまだ…やっぱ怒ってるのかな…)
(郎さん…なんか話して欲しいわ…)
「「…あの…」」
また、同時に同じ行動をしてしまった。
郎は気まずさを感じた。
「…うふふふふ。」
しかし、麗菜には可笑しかった。
「もしかして…私達って通じ合ってるものがあるのかもしれませんわね。」
「え、あ、ああ、そうかもしれないね。」
郎は自分の鼓動を感じたような気がした。
「ねえ…前々から聞こうと思ってたんですけど…。」
「なに?」
「本当にみずきと付き合ってるんですの?」
「え?」
「郎さんもみずきも何かぎこちない気がするんですけど…。」
麗菜は、みずきと長年の付き合い(腐れ縁)があるため、みずきのことはお見通しだった。
「なんか、無理矢理付き合ってるって感じが…。」
郎はここで本当のことを言うべきか迷った。
実際、本当に付き合ってるわけではない。しかし、この関係もまんざらでもないと思っていた。
「もしそうなら本当のことを言ってくださいな。」
麗菜はまっすぐに郎を見つめた。
その瞳は、抗いがたい力を持っていた。
「実は…かくかくしかじか」
郎は事の成り行きを離してしまった。
「やっぱりそうでしたの!愛を騙るなんて許せませんわね!」
「そ、そんな大げさな…。」
「いいえ!決して許せませんわ!!だって…」
麗菜は顔をうつむけた。
「私は…本当に郎さんのことが好きなんですもの!」
「え、えええええええ!!」
麗菜は郎にもたれかかった。
「郎さんは私のこと…どう思ってるんですの…?」
「お、俺は…」
ガチャリ
タイミング悪く、ドアが開いた。
「なー!なななななな…!」
しかも、入ってきた人物は聖ちゃんだった。
「…マネージャーの先輩と先輩が抱き合って…。」
(麗菜ちゃん、黙ったまんまだ…やっぱ怒ってるのかな…)
(郎さん…なんか話して欲しいわ…)
「「…あの…」」
また、同時に同じ行動をしてしまった。
郎は気まずさを感じた。
「…うふふふふ。」
しかし、麗菜には可笑しかった。
「もしかして…私達って通じ合ってるものがあるのかもしれませんわね。」
「え、あ、ああ、そうかもしれないね。」
郎は自分の鼓動を感じたような気がした。
「ねえ…前々から聞こうと思ってたんですけど…。」
「なに?」
「本当にみずきと付き合ってるんですの?」
「え?」
「郎さんもみずきも何かぎこちない気がするんですけど…。」
麗菜は、みずきと長年の付き合い(腐れ縁)があるため、みずきのことはお見通しだった。
「なんか、無理矢理付き合ってるって感じが…。」
郎はここで本当のことを言うべきか迷った。
実際、本当に付き合ってるわけではない。しかし、この関係もまんざらでもないと思っていた。
「もしそうなら本当のことを言ってくださいな。」
麗菜はまっすぐに郎を見つめた。
その瞳は、抗いがたい力を持っていた。
「実は…かくかくしかじか」
郎は事の成り行きを離してしまった。
「やっぱりそうでしたの!愛を騙るなんて許せませんわね!」
「そ、そんな大げさな…。」
「いいえ!決して許せませんわ!!だって…」
麗菜は顔をうつむけた。
「私は…本当に郎さんのことが好きなんですもの!」
「え、えええええええ!!」
麗菜は郎にもたれかかった。
「郎さんは私のこと…どう思ってるんですの…?」
「お、俺は…」
ガチャリ
タイミング悪く、ドアが開いた。
「なー!なななななな…!」
しかも、入ってきた人物は聖ちゃんだった。
「…マネージャーの先輩と先輩が抱き合って…。」
聖はそのままきびすを返し、生徒会室に走り出した。
旧生徒会メンバー、特にみずきにあの現場を見せてはいけないと思ったからだ。
(郎先輩とマネージャーの先輩が二人きりの部室で抱き合ってた…)
(もしかしたら接吻までしてたのかも…)
(いや…それ以上のことを…)
(先輩と接吻…それ以上のこと…)
聖はその場面を頭に思い描いた。
(な、何を考えてるんだ私は!?)
旧生徒会メンバー、特にみずきにあの現場を見せてはいけないと思ったからだ。
(郎先輩とマネージャーの先輩が二人きりの部室で抱き合ってた…)
(もしかしたら接吻までしてたのかも…)
(いや…それ以上のことを…)
(先輩と接吻…それ以上のこと…)
聖はその場面を頭に思い描いた。
(な、何を考えてるんだ私は!?)
「あれ、聖帰ってきたの?」
「ああ…。」
「部室、誰かいた?」
「だ、誰もいなかったぞ!」
「そう?じゃそろそろ仕事終わるから一緒に帰ろうか。」
「ああ…。」
聖は近くにあったいすに腰掛け、みずきを待った。
その間にも、あの場面が頭の中を駆け巡っていた。
「ああ…。」
「部室、誰かいた?」
「だ、誰もいなかったぞ!」
「そう?じゃそろそろ仕事終わるから一緒に帰ろうか。」
「ああ…。」
聖は近くにあったいすに腰掛け、みずきを待った。
その間にも、あの場面が頭の中を駆け巡っていた。
「おまたせー聖。」
「…………。」
「聖?」
「あ、ああ、なんだ?」
「仕事終わったよ?」
「ああ。それでは帰ろうか。」
二人はそのまま下駄箱に向かった。
「あれ、部室電気ついてんじゃん。」
聖はドキッとした。
「す、すまんみずき!消し忘れたようだ!消してくる!」
聖はみずきを置いてかけだした。後ろでみずきは怪訝そうな顔をした。
――まさか…本当に…――
「…………。」
「聖?」
「あ、ああ、なんだ?」
「仕事終わったよ?」
「ああ。それでは帰ろうか。」
二人はそのまま下駄箱に向かった。
「あれ、部室電気ついてんじゃん。」
聖はドキッとした。
「す、すまんみずき!消し忘れたようだ!消してくる!」
聖はみずきを置いてかけだした。後ろでみずきは怪訝そうな顔をした。
――まさか…本当に…――
バン!!
聖が激しくドアを開けると、そこには郎一人だけがいた。
「せ…先輩…。」
「やあ…聖ちゃん…。」
郎は自己嫌悪に溢れた顔をしている。
「マネージャーの先輩は…。」
「先に帰った…。」
「そうか…。」
聖は郎の傍によった。
「あの…先刻、マネージャーの先輩と何していた?」
郎はさらに顔を沈めた。
「告白された…。」
「こ、告白!!?」
「すきだって…。」
「して、先輩はどうした!?」
「…俺、他に好きな人がいるだけど、なかなかそのことが言えなくてさ、黙ったままでいたら…。」
「いたら?」
「…キス…された…。」
「な!」
「…相手があんなに勇気出してきたのに…俺、勇気出せなくてさ、しばらく考えさせてって、答えちゃったんだ…。」
「……。」
「俺って、最低だよね…。」
「……。」
「聖ちゃんもそう思うだろ?」
聖は尋ねられた内容を聞いていなかった。
「ああ…。」
ので、反射的に肯定してしまった。
「よかった…その答えを聞けて安心した…。」
聖は訳がわからなくなった。
――最低だと言われて安心しただと?何故?――
「嫌われたって、分かったから…。」
――!?…それはつまり――
(本当に好きな人って言うのは…私のことなのか!?)
「…そろそろ帰るよ。じゃあね…。」
「ああ…。」
もう聖は何も言えなかった。
聖が激しくドアを開けると、そこには郎一人だけがいた。
「せ…先輩…。」
「やあ…聖ちゃん…。」
郎は自己嫌悪に溢れた顔をしている。
「マネージャーの先輩は…。」
「先に帰った…。」
「そうか…。」
聖は郎の傍によった。
「あの…先刻、マネージャーの先輩と何していた?」
郎はさらに顔を沈めた。
「告白された…。」
「こ、告白!!?」
「すきだって…。」
「して、先輩はどうした!?」
「…俺、他に好きな人がいるだけど、なかなかそのことが言えなくてさ、黙ったままでいたら…。」
「いたら?」
「…キス…された…。」
「な!」
「…相手があんなに勇気出してきたのに…俺、勇気出せなくてさ、しばらく考えさせてって、答えちゃったんだ…。」
「……。」
「俺って、最低だよね…。」
「……。」
「聖ちゃんもそう思うだろ?」
聖は尋ねられた内容を聞いていなかった。
「ああ…。」
ので、反射的に肯定してしまった。
「よかった…その答えを聞けて安心した…。」
聖は訳がわからなくなった。
――最低だと言われて安心しただと?何故?――
「嫌われたって、分かったから…。」
――!?…それはつまり――
(本当に好きな人って言うのは…私のことなのか!?)
「…そろそろ帰るよ。じゃあね…。」
「ああ…。」
もう聖は何も言えなかった。
「みずき、戻ってきたぞ…。」
「あ、お帰り。」
あまり表情を変えない聖だが、今は複雑な顔をしていた。
ときめいているように顔を紅潮させ、そのくせ悲しそうな顔をしている。
「どうかしたの、聖。」
「いや…なんでもない…。」
みずきは気になったが、深く詮索することはしないでおいた。
「あ、お帰り。」
あまり表情を変えない聖だが、今は複雑な顔をしていた。
ときめいているように顔を紅潮させ、そのくせ悲しそうな顔をしている。
「どうかしたの、聖。」
「いや…なんでもない…。」
みずきは気になったが、深く詮索することはしないでおいた。
「なあ…みずき…。」
帰り道、聖が口を開いた。
「なに?」
「郎先輩と付き合っているようだが…。」
「ん、まあ一応ね。」
「一応か…。」
「どうしたの聖?まさか郎君のこと…。」
「いや…そんなことは…ない。」
(ない…?これは…うそじゃないのか…?)
「それより…マネージャーの先輩が…。」
(これは言ってはいけないことではないのか…?)
「麗菜のこと?あいつは私に勝ちたいから郎君を狙ってるだけよ。」
「そうなのか?」
「でも、郎君は意気地なしだから浮気なんてしないわよ。」
「……。」
そのまま数十秒の無言が続いた後、二人は分かれた。
帰り道、聖が口を開いた。
「なに?」
「郎先輩と付き合っているようだが…。」
「ん、まあ一応ね。」
「一応か…。」
「どうしたの聖?まさか郎君のこと…。」
「いや…そんなことは…ない。」
(ない…?これは…うそじゃないのか…?)
「それより…マネージャーの先輩が…。」
(これは言ってはいけないことではないのか…?)
「麗菜のこと?あいつは私に勝ちたいから郎君を狙ってるだけよ。」
「そうなのか?」
「でも、郎君は意気地なしだから浮気なんてしないわよ。」
「……。」
そのまま数十秒の無言が続いた後、二人は分かれた。
聖は自宅で、今日のことについて考えていた
――俺って…最低だよね…――
そんなことはない!
先輩は…女性である私でも差別したりせずに、野球選手として扱ってくれている!
先輩は…誰よりも野球への情熱を持っている!
先輩は…私に捕手としての心得を教えてくれた!
先輩の…練習の後のさわやかな笑顔は輝いている!
先輩の…声は誰よりも魅力的だ!
先輩の…優しさは私を支えてくれた!
そんな先輩が…
好き
(!?)
認めてしまった…!?
私の心の中にあったもやもやした小さいものが、明確な輪郭を持った大きなものに変わっていくのを感じた。
――キス…された…――
…キス
…接吻
…先輩と
…したい
(!?)
淫らなことを考えてしまっていた…
しかし、一度考え出すと止まらなかった。
聖は目を閉じ、郎にキスされている自分を想像してしまった。
そしてさらに…
一度だけ、聖は郎の裸体を見たことがある。着替え中に入ってしまったのだ。
そのときはパンツ一枚だったが、その中にあるものの輪郭ははっきりとわかった。
聖は、自分の頭の中にある郎の裸体の最後の一枚を自らの手で脱がした。
(先輩の一物…。)
彼女は自分が記憶している郎の肉体の香りを何倍も濃くした。
先輩…
――俺、聖ちゃんのことが好きなんだ――
その言葉は、あくまでチームメイトとしてのものだった。
しかし、それを聖は男と女としてのものに脳内変換してしまった。
聖は服を脱いでいく。
それは彼女の中では郎にされていることであった。
――聖ちゃん…――
郎のささやきが聞こえる。
そういえば、試合中にささやくよう教えてくれたのは先輩だった。
――好きだよ――
聖は左手で自分の胸を弄んだ。
何故左手かというと、捕手として今まで何百何千と投手の投げる直球を受け続け、たくましくなっているからだ。
とはいえ、男性の捕手と比べるべくもない。郎の手はこの何倍も堅く、たくましい。
これは、自分の手だ。
そう認識した瞬間、意識が現実に戻された。
そして、激しい自己嫌悪に襲われる。
(自分は…こんなにも淫らなのか…先輩は接吻だけでもあのようになるというのに…)
――最低なのは、自分だ…――
――俺って…最低だよね…――
そんなことはない!
先輩は…女性である私でも差別したりせずに、野球選手として扱ってくれている!
先輩は…誰よりも野球への情熱を持っている!
先輩は…私に捕手としての心得を教えてくれた!
先輩の…練習の後のさわやかな笑顔は輝いている!
先輩の…声は誰よりも魅力的だ!
先輩の…優しさは私を支えてくれた!
そんな先輩が…
好き
(!?)
認めてしまった…!?
私の心の中にあったもやもやした小さいものが、明確な輪郭を持った大きなものに変わっていくのを感じた。
――キス…された…――
…キス
…接吻
…先輩と
…したい
(!?)
淫らなことを考えてしまっていた…
しかし、一度考え出すと止まらなかった。
聖は目を閉じ、郎にキスされている自分を想像してしまった。
そしてさらに…
一度だけ、聖は郎の裸体を見たことがある。着替え中に入ってしまったのだ。
そのときはパンツ一枚だったが、その中にあるものの輪郭ははっきりとわかった。
聖は、自分の頭の中にある郎の裸体の最後の一枚を自らの手で脱がした。
(先輩の一物…。)
彼女は自分が記憶している郎の肉体の香りを何倍も濃くした。
先輩…
――俺、聖ちゃんのことが好きなんだ――
その言葉は、あくまでチームメイトとしてのものだった。
しかし、それを聖は男と女としてのものに脳内変換してしまった。
聖は服を脱いでいく。
それは彼女の中では郎にされていることであった。
――聖ちゃん…――
郎のささやきが聞こえる。
そういえば、試合中にささやくよう教えてくれたのは先輩だった。
――好きだよ――
聖は左手で自分の胸を弄んだ。
何故左手かというと、捕手として今まで何百何千と投手の投げる直球を受け続け、たくましくなっているからだ。
とはいえ、男性の捕手と比べるべくもない。郎の手はこの何倍も堅く、たくましい。
これは、自分の手だ。
そう認識した瞬間、意識が現実に戻された。
そして、激しい自己嫌悪に襲われる。
(自分は…こんなにも淫らなのか…先輩は接吻だけでもあのようになるというのに…)
――最低なのは、自分だ…――
その3
その翌日、
郎は宇津のブルペン捕手をつとめていた。
その間も、自責の念に駆られていた。
麗菜にいつ返事をだすと約束はしていない。
しかし、断ると決まっているのに延ばすのは彼女を苦しませることになる。
(今日、今日の帰りに言わなきゃ…)
そうは思うと、麗菜の唇の感触を思い出してしまうという悪循環に陥っていた。
ズバン!
「今日もいいサウンドを出してるね~。」
郎とは対照的に、宇津は好調だった。
「じゃあそろそろバッターに立ってもらうかな。」
宇津は原を呼び、バントの構えをさせた。
「サインは僕がだすよ。」
宇津はフォークのサインを出した。
しかし、郎はまだ違うことを考えてた。
(男として最悪だ…)
(男として…)
そのとき、彼は体中に、下半身を中心をして、激痛が走るのを感じた。
その翌日、
郎は宇津のブルペン捕手をつとめていた。
その間も、自責の念に駆られていた。
麗菜にいつ返事をだすと約束はしていない。
しかし、断ると決まっているのに延ばすのは彼女を苦しませることになる。
(今日、今日の帰りに言わなきゃ…)
そうは思うと、麗菜の唇の感触を思い出してしまうという悪循環に陥っていた。
ズバン!
「今日もいいサウンドを出してるね~。」
郎とは対照的に、宇津は好調だった。
「じゃあそろそろバッターに立ってもらうかな。」
宇津は原を呼び、バントの構えをさせた。
「サインは僕がだすよ。」
宇津はフォークのサインを出した。
しかし、郎はまだ違うことを考えてた。
(男として最悪だ…)
(男として…)
そのとき、彼は体中に、下半身を中心をして、激痛が走るのを感じた。
みずきは聖と、生徒会に顔を出していたため、(みずきがわがままを言うだけの用だったが)1時間ほど遅れてきた。
彼女たちが着替えると、グラウンドには奇妙な光景があった。
ブルペンで、部員達が輪を作っていたのだ。
ふたりが駆けていくと、そこには脂汗を浮かべ、のた打ち回りながら、苦痛のあまり苦笑いを浮かべている郎の姿があった。
部員達、特に宇津と打者の後輩は心配そうな、申し訳なさそうな顔を浮かべている。
もちろん、そこには麗菜もいた。
「これは…まさか宇津!」
みずきはものすごい剣幕をしている。
「人のフィアンセに何をしてくれたの!!」
「おお、みずきちゃん爆弾発言でやんす!!」
(ドカ!バキ!ゴス!)(グハァでやんす…!)
「と、とにかくどうしましょう!」
麗菜はかなり動転している。
「大京と原が加藤先生を呼びに言ってます!」
と、宇津。
「今私達にできることはないの!?」
みずきは今にも泣きだしそうだ。
「…こういうときは変に動かさず、専門の人にまかせるのが一番らしいです!大京さんが言ってました!」
彼女たちが着替えると、グラウンドには奇妙な光景があった。
ブルペンで、部員達が輪を作っていたのだ。
ふたりが駆けていくと、そこには脂汗を浮かべ、のた打ち回りながら、苦痛のあまり苦笑いを浮かべている郎の姿があった。
部員達、特に宇津と打者の後輩は心配そうな、申し訳なさそうな顔を浮かべている。
もちろん、そこには麗菜もいた。
「これは…まさか宇津!」
みずきはものすごい剣幕をしている。
「人のフィアンセに何をしてくれたの!!」
「おお、みずきちゃん爆弾発言でやんす!!」
(ドカ!バキ!ゴス!)(グハァでやんす…!)
「と、とにかくどうしましょう!」
麗菜はかなり動転している。
「大京と原が加藤先生を呼びに言ってます!」
と、宇津。
「今私達にできることはないの!?」
みずきは今にも泣きだしそうだ。
「…こういうときは変に動かさず、専門の人にまかせるのが一番らしいです!大京さんが言ってました!」
――好きな人が苦しんでるときに…何も出来ないなんて…――
――フィアンセが苦しんでるときに…何も出来ないなんて…――
――先輩が苦しんでるときに…なにも出来ないなんて…――
――フィアンセが苦しんでるときに…何も出来ないなんて…――
――先輩が苦しんでるときに…なにも出来ないなんて…――
加藤理香先生は、数分後に来た。
しかし、その時間は果てしなく長いものに感じられたであろう。
本人にとって。
宇津にとって。
原にとって。
そして、麗菜に、みずきに、聖にとって。
「あらあら、こういうことね。」
加藤先生は冷静な口調で言った。
「こういう場面には何度も会ってきたわよ。」
そして、彼女は担架を持ってくるように指示し、部員二人に担がせて、保健室へと向かった。
(お…おいらも満身創痍でやんす…それなのに無視でやんすか…)
その後、練習は再開された。
しかし、宇津、原、みずき、聖は練習に集中できない様子だった。
しかし、その時間は果てしなく長いものに感じられたであろう。
本人にとって。
宇津にとって。
原にとって。
そして、麗菜に、みずきに、聖にとって。
「あらあら、こういうことね。」
加藤先生は冷静な口調で言った。
「こういう場面には何度も会ってきたわよ。」
そして、彼女は担架を持ってくるように指示し、部員二人に担がせて、保健室へと向かった。
(お…おいらも満身創痍でやんす…それなのに無視でやんすか…)
その後、練習は再開された。
しかし、宇津、原、みずき、聖は練習に集中できない様子だった。
―保健室にて
理香は郎のパンツを脱がした。
「ああ、これなら明日にも回復するわね。」
そう言うと、棚から怪しげな薬品を取り出し、脱脂綿を浸してから、郎の一物にあてがった。
学校の男子生徒の憧れの的である加藤先生にこんなことをしてもらうなんて、はたからみれば垂涎ものだが、
郎は肉体的にも精神的にも喜んでる余裕はなかった。
「はい、終わり…でいいかしら?」
理香はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「…どういうことです?…」
「もうおしまいでいいかってこと。」
「はい…。」
郎は憮然とした態度で返す。
「あら、はじめて断られた。」
でもお願いされても何もしないんだけどねと続ける。
「そういう冗談は…あまり好きじゃないです…。」
「そう、純情なのね、郎君は。」
そう言って理香はズボンを履かせる。
「じゃあ、しばらく寝てて。多分目が覚めたら痛みも引いてると思うから。」
そう言って、理香は保健室から出て行った。
(久しぶりに野球部の練習でも見に行こうかしら。)
理香は郎のパンツを脱がした。
「ああ、これなら明日にも回復するわね。」
そう言うと、棚から怪しげな薬品を取り出し、脱脂綿を浸してから、郎の一物にあてがった。
学校の男子生徒の憧れの的である加藤先生にこんなことをしてもらうなんて、はたからみれば垂涎ものだが、
郎は肉体的にも精神的にも喜んでる余裕はなかった。
「はい、終わり…でいいかしら?」
理香はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「…どういうことです?…」
「もうおしまいでいいかってこと。」
「はい…。」
郎は憮然とした態度で返す。
「あら、はじめて断られた。」
でもお願いされても何もしないんだけどねと続ける。
「そういう冗談は…あまり好きじゃないです…。」
「そう、純情なのね、郎君は。」
そう言って理香はズボンを履かせる。
「じゃあ、しばらく寝てて。多分目が覚めたら痛みも引いてると思うから。」
そう言って、理香は保健室から出て行った。
(久しぶりに野球部の練習でも見に行こうかしら。)
その4
理香がグラウンドに来たとき、野球部はグラウンド整備をしていた。
みずきは理香の姿を認めると、真っ先に駆けつけてきた。
「せ、先生!郎君は大丈夫ですか!?」
「ええ、もう大丈夫よ。明日の練習には差し支えないわ。」
理香は穏やかな口調と笑顔で答えた。
「よかった…。」
みずきは安堵の息を漏らす。
「でも…。」
「でも!?」
みずきの顔が再び険しくなる。
「今日はエッチはやめといたほうがいいわね。」
「え!な、何言ってるんですか!?」
みずきは顔を赤くした。
「エッチなんてそんなことするわけないじゃないですか!」
「あら、あなたたち付き合ってるんじゃなかったの?」
「そ…それは…。」
「最近の高校生のカップルはもうしちゃってるもんだと思ってたけど?」
みずきは何も返せなくなった。
「まあ、もし今度こんなことがあっても大丈夫だとは思うけど、若いうちにしたほうがいいんじゃないかしら?」
「そ…そうなんですか…。」
「みずきちゃん。」
理香は口をみずきの耳元へ寄せた。
(手か口ならダイジョブよ。)
(!?)
(今眠ってるけど、寝てる間は痛がらないと思うし、その内にやるのはどうかしら?)
みずきは校舎に向かって走り出した。
(ふふ、若いっていいわね。)
理香がグラウンドに来たとき、野球部はグラウンド整備をしていた。
みずきは理香の姿を認めると、真っ先に駆けつけてきた。
「せ、先生!郎君は大丈夫ですか!?」
「ええ、もう大丈夫よ。明日の練習には差し支えないわ。」
理香は穏やかな口調と笑顔で答えた。
「よかった…。」
みずきは安堵の息を漏らす。
「でも…。」
「でも!?」
みずきの顔が再び険しくなる。
「今日はエッチはやめといたほうがいいわね。」
「え!な、何言ってるんですか!?」
みずきは顔を赤くした。
「エッチなんてそんなことするわけないじゃないですか!」
「あら、あなたたち付き合ってるんじゃなかったの?」
「そ…それは…。」
「最近の高校生のカップルはもうしちゃってるもんだと思ってたけど?」
みずきは何も返せなくなった。
「まあ、もし今度こんなことがあっても大丈夫だとは思うけど、若いうちにしたほうがいいんじゃないかしら?」
「そ…そうなんですか…。」
「みずきちゃん。」
理香は口をみずきの耳元へ寄せた。
(手か口ならダイジョブよ。)
(!?)
(今眠ってるけど、寝てる間は痛がらないと思うし、その内にやるのはどうかしら?)
みずきは校舎に向かって走り出した。
(ふふ、若いっていいわね。)
――郎君とエッチ――
今まで、何度か考えたことがある。
アプローチをかけてみたこともある。
でも、郎君はキスすらしてこなかった。
恋人どうしなんだから、もっと私にわがまま言ってもいいのに。
もしかしたら、私が嫌いなのかもしれない。
みずきは走りながら、そんなことを考えた。
そして、大きく首を振る。
本当に嫌いだったら、あの時、話をあわせてもくれなかっただろうし、チームメイトとしてすら扱ってくれないはずだ。
でも、郎君は、エッチなことに鈍感すぎる以外は理想の恋人って感じだし、チームメイトとしても、もし自分が男だったら親友にしたいと思うくらいだ。
――断言できる。
郎君は、私のことが好き。
だから、今日、私が彼を犯しても、きっと怒らない。
今まで、何度か考えたことがある。
アプローチをかけてみたこともある。
でも、郎君はキスすらしてこなかった。
恋人どうしなんだから、もっと私にわがまま言ってもいいのに。
もしかしたら、私が嫌いなのかもしれない。
みずきは走りながら、そんなことを考えた。
そして、大きく首を振る。
本当に嫌いだったら、あの時、話をあわせてもくれなかっただろうし、チームメイトとしてすら扱ってくれないはずだ。
でも、郎君は、エッチなことに鈍感すぎる以外は理想の恋人って感じだし、チームメイトとしても、もし自分が男だったら親友にしたいと思うくらいだ。
――断言できる。
郎君は、私のことが好き。
だから、今日、私が彼を犯しても、きっと怒らない。
保健室のベットで、郎は寝ていた。
穏やかな眠りのようだ。
みずきは郎にそっと近づく。
(郎君の寝顔…はじめてみた…)
それは、いつも野球部で雄叫びを上げ、自分を磨くことに貪欲な彼の顔ではなかった。
(かわいい…)
みずきは彼の頬にキスをした。
初めてのキスだったが、あっけないほどに簡単に出来た。
おそらく、これからすることに比べれば些細なことであるからだろう。
みずきは郎の下半身に目をやる。
あまりひどくはれている感じではない。
しかし、中にあるものの存在は確認できる。
みずきはそれに触れてみた。
―あつい
――しかも、心臓に手を当てたかと間違えるほどに脈を打っている。
そのまま、ズボンを脱がす。今は郎自身を隠すものはパンツ一枚だ。
―この下に…
郎がいる。
しかし、やはり勇気が出ない。
みずきはズボンを下げさせたままの状態で止まっていた。
穏やかな眠りのようだ。
みずきは郎にそっと近づく。
(郎君の寝顔…はじめてみた…)
それは、いつも野球部で雄叫びを上げ、自分を磨くことに貪欲な彼の顔ではなかった。
(かわいい…)
みずきは彼の頬にキスをした。
初めてのキスだったが、あっけないほどに簡単に出来た。
おそらく、これからすることに比べれば些細なことであるからだろう。
みずきは郎の下半身に目をやる。
あまりひどくはれている感じではない。
しかし、中にあるものの存在は確認できる。
みずきはそれに触れてみた。
―あつい
――しかも、心臓に手を当てたかと間違えるほどに脈を打っている。
そのまま、ズボンを脱がす。今は郎自身を隠すものはパンツ一枚だ。
―この下に…
郎がいる。
しかし、やはり勇気が出ない。
みずきはズボンを下げさせたままの状態で止まっていた。
ドンドン
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「入りますよー。」
みずきは慌ててズボンを履かせ、郎から離れた。
入ってきたのは宇津、原、聖、麗菜だった。
「ん、…おはよう。」
郎は目を覚ました。
原と宇津は郎に近づき、謝った。
「いいよ、俺が不注意だった。」
「いや、それでもなんかお詫びさせてくれんとこっちの気が済まんのや。こればっかは金でかえんしな。」
「そうだな…じゃあ俺腹減ってるから出前とってくれ。」
「お安い御用や!」
「じゃあ、悠久軒のラーメンね!!」
みずきが口を挟んだ。
「え!」
「私フカヒレラーメンチャーシュー大盛り!!」
「じゃあ私はにんにくラーメンチャーシュー抜きで。」
聖も続く。
そしてそのまま、生徒会室で野球部員のラーメン宴会となった。
――やっぱり、このままでいい――
私と郎君の関係は、このままでいい。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
「入りますよー。」
みずきは慌ててズボンを履かせ、郎から離れた。
入ってきたのは宇津、原、聖、麗菜だった。
「ん、…おはよう。」
郎は目を覚ました。
原と宇津は郎に近づき、謝った。
「いいよ、俺が不注意だった。」
「いや、それでもなんかお詫びさせてくれんとこっちの気が済まんのや。こればっかは金でかえんしな。」
「そうだな…じゃあ俺腹減ってるから出前とってくれ。」
「お安い御用や!」
「じゃあ、悠久軒のラーメンね!!」
みずきが口を挟んだ。
「え!」
「私フカヒレラーメンチャーシュー大盛り!!」
「じゃあ私はにんにくラーメンチャーシュー抜きで。」
聖も続く。
そしてそのまま、生徒会室で野球部員のラーメン宴会となった。
――やっぱり、このままでいい――
私と郎君の関係は、このままでいい。
ラーメン宴会のあと、郎は一人帰路についた。
…みずきちゃん、
…みずきちゃんは本当に…
――俺のこと、好きだって、恋人だって思ってたんだね――
先程、かわいいとささやかれ、キスされ、ズボンを脱がされたとき、郎はおぼろげながらも意識はあった。
彼はそのとき、これは夢だと認識していたため、何もしなかった。
しかし、原たちが入ってきたときに、今までの光景は夢ではなかったと気付いたのだ。
…みずきちゃん、
…みずきちゃんは本当に…
――俺のこと、好きだって、恋人だって思ってたんだね――
先程、かわいいとささやかれ、キスされ、ズボンを脱がされたとき、郎はおぼろげながらも意識はあった。
彼はそのとき、これは夢だと認識していたため、何もしなかった。
しかし、原たちが入ってきたときに、今までの光景は夢ではなかったと気付いたのだ。
今思い出せば、あれは誘っていたのではないかと思う行動があった。
――――回想――――
数ヶ月前、二人きりで一緒に帰った。
その日は肌寒い日だったが、9月の頭だったので、二人とも夏服だった。
パワフル中央公園を通り過ぎようとしたとき、みずきは突然、公園の隅へ駆けて行った。
郎が追いかけていくと、そこにはダンボールの中で丸くなり、か細い声で鳴いている子猫がいた。
みずきは猫を抱き上げようとすると、爪を立てられた。
それでも彼女は、この子を助けると言って、ダンボールごと猫を抱えた。
もちろん、その状態では傘をもてない。ので、郎は彼女の傘をたたんであげ、
自分の傘の中に入れた。
そして、二人は郎の家に向かった。
郎は母親と共に暮らしているが、母子家庭のため、母は遅くまで仕事をしている。
数ヶ月前、二人きりで一緒に帰った。
その日は肌寒い日だったが、9月の頭だったので、二人とも夏服だった。
パワフル中央公園を通り過ぎようとしたとき、みずきは突然、公園の隅へ駆けて行った。
郎が追いかけていくと、そこにはダンボールの中で丸くなり、か細い声で鳴いている子猫がいた。
みずきは猫を抱き上げようとすると、爪を立てられた。
それでも彼女は、この子を助けると言って、ダンボールごと猫を抱えた。
もちろん、その状態では傘をもてない。ので、郎は彼女の傘をたたんであげ、
自分の傘の中に入れた。
そして、二人は郎の家に向かった。
郎は母親と共に暮らしているが、母子家庭のため、母は遅くまで仕事をしている。
ふにゃぁ…
タオルに包まれ、先程の猫は幸せそうな寝息を立てている。
「よかった…あのままだったらこのこ、死んじゃってたかも…。」
みずきは涙目になりながら、安堵の息を漏らした。
「うん…ひどいよね…。」
そう言って郎は猫をなでた。猫はぼんやりと目をあけ、軽く歯を立てた。
これは警戒しているのではなく、相手を信頼できるものと認識したからの行動である。
「でも…これからどうしよう…。」
「え、郎君が飼ってくれるんじゃないの!?」
みずきの目は真剣だった。しかもうるうるとしている。
郎はこの目に抵抗する術を知らなかった。
「わかった。この子の面倒は僕が見るよ。」
「…ありがとう…郎君…。」
みずきは大きな笑顔を見せた。
「…安心して気付いたけど…私達ビショ濡れ…。」
二人でひとつの傘に入り、しかも猫をぬらさないようにしてきたのだから、当然といえば当然だった。
「郎君…。」
そう言って、みずきは一旦間を空けた。
「シャワー…借りていい?」
郎は二つ返事で了承した。それは決して下心からではなかった。
乾燥機は脱衣所の中にあると教え、みずきが扉を閉めるのを確認した後、自分も着替えをした。
タオルに包まれ、先程の猫は幸せそうな寝息を立てている。
「よかった…あのままだったらこのこ、死んじゃってたかも…。」
みずきは涙目になりながら、安堵の息を漏らした。
「うん…ひどいよね…。」
そう言って郎は猫をなでた。猫はぼんやりと目をあけ、軽く歯を立てた。
これは警戒しているのではなく、相手を信頼できるものと認識したからの行動である。
「でも…これからどうしよう…。」
「え、郎君が飼ってくれるんじゃないの!?」
みずきの目は真剣だった。しかもうるうるとしている。
郎はこの目に抵抗する術を知らなかった。
「わかった。この子の面倒は僕が見るよ。」
「…ありがとう…郎君…。」
みずきは大きな笑顔を見せた。
「…安心して気付いたけど…私達ビショ濡れ…。」
二人でひとつの傘に入り、しかも猫をぬらさないようにしてきたのだから、当然といえば当然だった。
「郎君…。」
そう言って、みずきは一旦間を空けた。
「シャワー…借りていい?」
郎は二つ返事で了承した。それは決して下心からではなかった。
乾燥機は脱衣所の中にあると教え、みずきが扉を閉めるのを確認した後、自分も着替えをした。
しばらくして、風呂場からみずきの声が聞こえた。バスタオルがないとのことだった。
郎はバスタオルを持ってきて、脱衣所に向かった。当然、ガラス戸の向こうにみずきの裸体のシルエットがある。
ガチャ
「ありがとー。」
「!?」
みずきはドアを半分ばかり開けた。
郎は焦った。自分が去ってから開けるものだとばかり思っていたのだ。
「ああああああああああああああああ!!!ごごごごg!!!ごめん!!!!」
郎は赤面して謝った。
「いいから、タオル。」
みずきは冷静だった。
郎はタオルをみずきに手渡し、まさしく一目散という感じに脱衣所から出ていった。
郎はバスタオルを持ってきて、脱衣所に向かった。当然、ガラス戸の向こうにみずきの裸体のシルエットがある。
ガチャ
「ありがとー。」
「!?」
みずきはドアを半分ばかり開けた。
郎は焦った。自分が去ってから開けるものだとばかり思っていたのだ。
「ああああああああああああああああ!!!ごごごごg!!!ごめん!!!!」
郎は赤面して謝った。
「いいから、タオル。」
みずきは冷静だった。
郎はタオルをみずきに手渡し、まさしく一目散という感じに脱衣所から出ていった。
郎がしばらく悶々としていると、脱衣所のドアが開いた音がして、みずきがでてきた。
「!!!!!!!?????????」
みずきは郎のパジャマを着ていた。
「な、なんで俺のパジャマ着てんの!!!」
「だってまだ乾いてないもん。」
みずきはあっけらかんと答え、猫を抱き上げた。
「そういえば、この子の名前、どうしよう?」
「そ、そうだね…。ガンダー…は犬だし…。」
「うーん、なんか変だよね。どうしよう…。」
「…スキヤキ…。」
「え、スキヤキ?」
「あ、俺意味不明なこと言っちゃった…。」
これは、今彼がやってる野球ゲーム(?)の猫の名前からとったものである。
「いいじゃんスキヤキ!よし、決定!」
スキヤキがニャオンと声を上げた。
「はい、郎君、スキヤキを抱っこしてあげて。」
そういって、郎にスキヤキをさしだす。
(!?)
――今、パジャマの前にできた隙間から中が見えちゃったけど…もしかして…――
下 着 履 い て な い ! ?
「どうしたの、郎君?」
「いや、なんでもない。」
郎は平静を装いながらスキヤキを受け取った。
「!!!!!!!?????????」
みずきは郎のパジャマを着ていた。
「な、なんで俺のパジャマ着てんの!!!」
「だってまだ乾いてないもん。」
みずきはあっけらかんと答え、猫を抱き上げた。
「そういえば、この子の名前、どうしよう?」
「そ、そうだね…。ガンダー…は犬だし…。」
「うーん、なんか変だよね。どうしよう…。」
「…スキヤキ…。」
「え、スキヤキ?」
「あ、俺意味不明なこと言っちゃった…。」
これは、今彼がやってる野球ゲーム(?)の猫の名前からとったものである。
「いいじゃんスキヤキ!よし、決定!」
スキヤキがニャオンと声を上げた。
「はい、郎君、スキヤキを抱っこしてあげて。」
そういって、郎にスキヤキをさしだす。
(!?)
――今、パジャマの前にできた隙間から中が見えちゃったけど…もしかして…――
下 着 履 い て な い ! ?
「どうしたの、郎君?」
「いや、なんでもない。」
郎は平静を装いながらスキヤキを受け取った。
ここまでで何もないなんてありえないと、皆様は思うかもしれない。
(筆者もそう思う。自分のパジャマ着たとこらで襲ってる。)
しかし郎は母子家庭に育ち、女手一つで育てられたためか、ここまで潔癖な貞操観念を持っているのだ。
その後、服が乾いたのでみずきはそのまま帰った。
――――回想終わり――――
(筆者もそう思う。自分のパジャマ着たとこらで襲ってる。)
しかし郎は母子家庭に育ち、女手一つで育てられたためか、ここまで潔癖な貞操観念を持っているのだ。
その後、服が乾いたのでみずきはそのまま帰った。
――――回想終わり――――
「ただいま。」
ニャオン。
家にいたのはスキヤキだけだった。
鞄を置き、スキヤキの寝床の前に転がって、スキヤキを見つめる。
「なあ、スキヤキ。」
郎はスキヤキに話しかける。幼いときから一人でいることが多かったので、彼にとって自然なことだ。
ウニャ?
「お前の命の恩人が、本当に俺のこと好きらしいよ。」
ガブリと指をかむ。
今更何言ってるんだといっているように思えた。
「そうだよな…。」
郎は自嘲気味に笑う。
「やっぱり、付き合うって言った以上、曲げちゃだめだよな。」
ニャ
「よし!気持ちが整理できた!」
ラーメン宴会でうやむやにしてしまったが、明日、絶対、麗菜ちゃんに謝ろう。
そして、みずきちゃんに本気で向かっていこう。
…それが自分にできるベストの選択だ…!
ニャオン
がぶり
「はは…スキヤキ…。」
その行動は、郎を勇気付けた。
ニャオン。
家にいたのはスキヤキだけだった。
鞄を置き、スキヤキの寝床の前に転がって、スキヤキを見つめる。
「なあ、スキヤキ。」
郎はスキヤキに話しかける。幼いときから一人でいることが多かったので、彼にとって自然なことだ。
ウニャ?
「お前の命の恩人が、本当に俺のこと好きらしいよ。」
ガブリと指をかむ。
今更何言ってるんだといっているように思えた。
「そうだよな…。」
郎は自嘲気味に笑う。
「やっぱり、付き合うって言った以上、曲げちゃだめだよな。」
ニャ
「よし!気持ちが整理できた!」
ラーメン宴会でうやむやにしてしまったが、明日、絶対、麗菜ちゃんに謝ろう。
そして、みずきちゃんに本気で向かっていこう。
…それが自分にできるベストの選択だ…!
ニャオン
がぶり
「はは…スキヤキ…。」
その行動は、郎を勇気付けた。
翌日
郎は一時間目の休み時間、麗菜を人気のない教室に呼んだ。
「ごめんね…麗菜ちゃん。やっぱり…みずきちゃんと付き合ってるわけだし…。」
郎は麗菜がどんな反応を見せるだろうと、不安を抱いていた。
「そう…ですの。」
麗菜は一瞬悲しそうな顔を見せたが、
「それでしたら…仕方ありませんわ。」
と、笑顔を郎に返した。
郎は一時間目の休み時間、麗菜を人気のない教室に呼んだ。
「ごめんね…麗菜ちゃん。やっぱり…みずきちゃんと付き合ってるわけだし…。」
郎は麗菜がどんな反応を見せるだろうと、不安を抱いていた。
「そう…ですの。」
麗菜は一瞬悲しそうな顔を見せたが、
「それでしたら…仕方ありませんわ。」
と、笑顔を郎に返した。
――…最初はみずきに対するライバル心からだった――
でも、彼を知ろうとしていくうちにだんだん変わっていった。
彼の直向きさ、野球に対する情熱、楽しそうに練習に打ち込む姿勢。
そして自分も疲れているはずなのに、マネージャーの自分に対しても見せる気遣い。
どれもが、まぶしすぎた。
そんな郎を好きになってしまうのは簡単だった。
それほどに魅力的だった。
みずきに対して、男を見る目がないと言った自分にこそ、男を見る目がないとおもった。
そのとき、初めてみずきに対して負けを認めた。
しかし、どうしても、彼に思いを伝えたかった。
そんな日々を過ごしていたある日、私はあるうわさを耳にした。
「あの二人が付き合っているのは、演技である」と
それを聞いてから、郎がみずきといるときの行動が、何となくぎこちなく見えてきたのだった。
そして、郎は別に好きな人がいるのではないかという疑念が生まれた。
(あくまで疑念で、確信ではなかった。)
そして、それが自分ではないかという希望も。
だから、彼女は賭けに出た。
郎とみずきの仲を自分で見破ったふりをし、そして告白して、キスまでするという、大胆な行動。
でも、彼を知ろうとしていくうちにだんだん変わっていった。
彼の直向きさ、野球に対する情熱、楽しそうに練習に打ち込む姿勢。
そして自分も疲れているはずなのに、マネージャーの自分に対しても見せる気遣い。
どれもが、まぶしすぎた。
そんな郎を好きになってしまうのは簡単だった。
それほどに魅力的だった。
みずきに対して、男を見る目がないと言った自分にこそ、男を見る目がないとおもった。
そのとき、初めてみずきに対して負けを認めた。
しかし、どうしても、彼に思いを伝えたかった。
そんな日々を過ごしていたある日、私はあるうわさを耳にした。
「あの二人が付き合っているのは、演技である」と
それを聞いてから、郎がみずきといるときの行動が、何となくぎこちなく見えてきたのだった。
そして、郎は別に好きな人がいるのではないかという疑念が生まれた。
(あくまで疑念で、確信ではなかった。)
そして、それが自分ではないかという希望も。
だから、彼女は賭けに出た。
郎とみずきの仲を自分で見破ったふりをし、そして告白して、キスまでするという、大胆な行動。
真直ぐな彼にこんなことをして、本当に好きな人が自分じゃなかった場合、彼を苦しめたことになるのではないかと、今になって思った。
――――――――――――――――――――
「郎様…。一つ質問をさせてもらっていいかしら…?」
「なに?」
「私…なんとなく、郎様はみずきではなくて、本当に好きな人がいるように思えますの…。」
「!?」
「よろしかったら、教えてくれませんか?」
長い沈黙がその場を包む。
「…うん。実は…。」
郎は意を決したという顔をした。
「聖ちゃん…なんだ…。」
「やはり…そうでしたのね…。」
「でもさ、聖ちゃんは俺のこと嫌いみたいなんだ…。」
――郎様、何を言ってらっしゃるの・・・――
麗菜は、郎の周りの女子の行動を、よく観察していた。
クラスでも人気者の郎の周りには、彼を慕う女子がたくさんいた。
しかし、彼女たちは、アイドルのファンといった感じで、本気ではなかった。
ある程度かっこいい身近な男子をアイドルにするといった行為は、青春時代の女子によくあることだ。
しかし、聖だけは全く違った視線を彼に向けていた。
なんとなく避けてみたり、ぶっきらぼうな態度をとったり、そのくせ、野球部の後輩として教えて欲しいことは、
みずきを除き彼以外には聞かないなど、まさに好きだけど素直になれないといった感じだった。
――その態度をして、聖は自分を嫌っていると思ってるんだろうか…――
麗菜は、郎に何故そう思っているのかをたずねた。
郎は、麗菜に告白された後のことを具に話した。
――――――――――――――――――――
「郎様…。一つ質問をさせてもらっていいかしら…?」
「なに?」
「私…なんとなく、郎様はみずきではなくて、本当に好きな人がいるように思えますの…。」
「!?」
「よろしかったら、教えてくれませんか?」
長い沈黙がその場を包む。
「…うん。実は…。」
郎は意を決したという顔をした。
「聖ちゃん…なんだ…。」
「やはり…そうでしたのね…。」
「でもさ、聖ちゃんは俺のこと嫌いみたいなんだ…。」
――郎様、何を言ってらっしゃるの・・・――
麗菜は、郎の周りの女子の行動を、よく観察していた。
クラスでも人気者の郎の周りには、彼を慕う女子がたくさんいた。
しかし、彼女たちは、アイドルのファンといった感じで、本気ではなかった。
ある程度かっこいい身近な男子をアイドルにするといった行為は、青春時代の女子によくあることだ。
しかし、聖だけは全く違った視線を彼に向けていた。
なんとなく避けてみたり、ぶっきらぼうな態度をとったり、そのくせ、野球部の後輩として教えて欲しいことは、
みずきを除き彼以外には聞かないなど、まさに好きだけど素直になれないといった感じだった。
――その態度をして、聖は自分を嫌っていると思ってるんだろうか…――
麗菜は、郎に何故そう思っているのかをたずねた。
郎は、麗菜に告白された後のことを具に話した。
そう思わせたのは、自分だった。
やはり、あの行動は、郎を苦しめていた。
麗菜はやりきれない気持ちになり、うつむいた。
麗菜はやりきれない気持ちになり、うつむいた。
「なんか複雑になってきたけどさ、俺の結論は、みずきちゃんと向き合う。そういうことだから。」
「ええ…。」
しかし、麗菜は、ある決心をしていた。
――聖と郎を付きあわせる。――
麗菜は、みずきが本当に郎を好きだということは知らない。
だから、郎を苦しめてしまったことに対する罪滅ぼしとして、この決心をしたのだ。
二人が分かれたら、勝負は引き分けだという打算からでは決してない。
――郎を苦しめてるみずきを、彼から離す――
そして、思い合ってる二人が付き合うという、当然な交際にする。
「ええ…。」
しかし、麗菜は、ある決心をしていた。
――聖と郎を付きあわせる。――
麗菜は、みずきが本当に郎を好きだということは知らない。
だから、郎を苦しめてしまったことに対する罪滅ぼしとして、この決心をしたのだ。
二人が分かれたら、勝負は引き分けだという打算からでは決してない。
――郎を苦しめてるみずきを、彼から離す――
そして、思い合ってる二人が付き合うという、当然な交際にする。
その日の練習後…
郎はみずきに、一緒に帰りたいという旨を伝えた。
「あれ、郎君からなんて初めてじゃない?」
「そういえばそうかもしれないね。」
「実はずっと待ってたんだよね~。」
みずきは悪戯な笑顔を見せた。
「そうだったんだ、待たせてごめんね。」
「悪いって思うなら、パワ堂のクリスマスプリン。」
郎は苦笑する。
「そういえば今日からだっけ、わかった。俺も食べたいって思ってたし。」
クリスマスプリンとは、毎年12月の半ばから発売される期間限定商品である。
しかもカップルで二つ頼むとボリュームアップというサービス仕様。
―――――――――――――――――――――――
郎はみずきに、一緒に帰りたいという旨を伝えた。
「あれ、郎君からなんて初めてじゃない?」
「そういえばそうかもしれないね。」
「実はずっと待ってたんだよね~。」
みずきは悪戯な笑顔を見せた。
「そうだったんだ、待たせてごめんね。」
「悪いって思うなら、パワ堂のクリスマスプリン。」
郎は苦笑する。
「そういえば今日からだっけ、わかった。俺も食べたいって思ってたし。」
クリスマスプリンとは、毎年12月の半ばから発売される期間限定商品である。
しかもカップルで二つ頼むとボリュームアップというサービス仕様。
―――――――――――――――――――――――
「クリスマスプリン二つ、お待たせいたしました。」
二人の前に、豪華なプリンが運ばれてきた。
「それじゃ、郎君、ゴチになっちゃうよ~♪」
そういってスプーンをつけ始めるみずき。
「ん~やっぱりおいしい♪」
みずきの顔はまさに至福といった感じだ。
「うん、俺も甘いもの大好きなんだよね。」
郎もプリンを口に運ぶ。
会話を続けながらプリンを味わう二人。その内にプリンは食べ終わる。
「あ、クリスマスプリン、もう一つね。」
みずきが通りかかったウエイトレスに告げた。
「…え、みずきちゃん…。」
「あれ、郎君も食べるの?」
「…いや、いい。」
郎は苦笑いする。俺のおごりなのにな。
しばらくして、みずきのプリン二つ目が運ばれてくる。さっそくサジをつけるみずき。
やっぱり幸せそうな顔をする。
…
……
………
――ずっとこの顔を見ていたい――
ふと、郎の頭の中をよぎった願い。
(!?)
――もしかして、本当に自分はみずきのことを、愛してしまったのか――
――いや、「しまった」ではない。「愛することが出来た」という表現が正しい――
そのことを確かめるために、郎はある妄想をしてみた。
二人の前に、豪華なプリンが運ばれてきた。
「それじゃ、郎君、ゴチになっちゃうよ~♪」
そういってスプーンをつけ始めるみずき。
「ん~やっぱりおいしい♪」
みずきの顔はまさに至福といった感じだ。
「うん、俺も甘いもの大好きなんだよね。」
郎もプリンを口に運ぶ。
会話を続けながらプリンを味わう二人。その内にプリンは食べ終わる。
「あ、クリスマスプリン、もう一つね。」
みずきが通りかかったウエイトレスに告げた。
「…え、みずきちゃん…。」
「あれ、郎君も食べるの?」
「…いや、いい。」
郎は苦笑いする。俺のおごりなのにな。
しばらくして、みずきのプリン二つ目が運ばれてくる。さっそくサジをつけるみずき。
やっぱり幸せそうな顔をする。
…
……
………
――ずっとこの顔を見ていたい――
ふと、郎の頭の中をよぎった願い。
(!?)
――もしかして、本当に自分はみずきのことを、愛してしまったのか――
――いや、「しまった」ではない。「愛することが出来た」という表現が正しい――
そのことを確かめるために、郎はある妄想をしてみた。
―――妄想開始―――
「郎君!話したいことがあるでヤンス!」
「なに、矢部君?」
「実は、おいらと聖ちゃんは付き合っているのでヤンス!」
「え!?」
「…明雄先輩、そんな言いふらさなくても…私、照れるぞ…」
「照れることはないでヤンス!おいら達ラブラブでヤンス!」
―――妄想終了――――
「郎君!話したいことがあるでヤンス!」
「なに、矢部君?」
「実は、おいらと聖ちゃんは付き合っているのでヤンス!」
「え!?」
「…明雄先輩、そんな言いふらさなくても…私、照れるぞ…」
「照れることはないでヤンス!おいら達ラブラブでヤンス!」
―――妄想終了――――
…だめだ
俺は親友を祝福することができない。
いや、できることなら二人の仲を切り裂いてしまいたい。
俺は親友を祝福することができない。
いや、できることなら二人の仲を切り裂いてしまいたい。
そして、郎はみずきがそうなった場合も考えてみた。
同じだった。
二人を祝福することは出来ない。
同じだった。
二人を祝福することは出来ない。
――つまり…俺は…――
同時に二人の女の子に恋してしまった。
まさかと思った。
人は、二人の異性に、同時に恋に落ちることが出来たのか。
郎は呆然とした。
「あれ、郎君、じっと見てるけど、プリン食べたいの?」
みずきが郎に尋ねる。
「え、いや、そういうわけじゃ…。」
「もしかして、私に見惚れてたとか?」
確かに、初めのうちはそうだった。郎はこくんと頷く。
すると、みずきは悪戯を思いついた子供のような笑みをした。
「郎君。」
「?」
「あーん」
そういって、スプーンを口の前に差し出す。
不意打ちだったので、そのままあーんとしてしまった。
…これって、間接キスだよな…
「郎君。」
「ん?」
「私にこんなことしてもらって、幸せでしょ?」
郎は頷いた。
―――そうだ、俺は幸せなんだ―――
でも、この幸せを心から喜ぶことはできなかった。
同時に二人の女の子に恋してしまった。
まさかと思った。
人は、二人の異性に、同時に恋に落ちることが出来たのか。
郎は呆然とした。
「あれ、郎君、じっと見てるけど、プリン食べたいの?」
みずきが郎に尋ねる。
「え、いや、そういうわけじゃ…。」
「もしかして、私に見惚れてたとか?」
確かに、初めのうちはそうだった。郎はこくんと頷く。
すると、みずきは悪戯を思いついた子供のような笑みをした。
「郎君。」
「?」
「あーん」
そういって、スプーンを口の前に差し出す。
不意打ちだったので、そのままあーんとしてしまった。
…これって、間接キスだよな…
「郎君。」
「ん?」
「私にこんなことしてもらって、幸せでしょ?」
郎は頷いた。
―――そうだ、俺は幸せなんだ―――
でも、この幸せを心から喜ぶことはできなかった。
―翌日
今日は監督の指示で、ポジションごとに練習することになった。
捕手の聖と郎は、ショートバウンドキャッチから送球動作の練習をしている。
「20球目!」
「応!」
二人とも声を張り上げているが、会話らしい会話はしていない。
結局その日の練習中は会話を交わさなかった。
聖はそのことを気まずく思い、練習後に声をかけた。
「あの…郎先輩…。」
「何…聖ちゃん…。」
そこで会話が止まってしまう。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
「今日もおつかれ~。」
そんな中、みずきが声をかけてきた。
「と、いうわけで、3人でパワ堂にしゅっぱーつ♪」
二人とは対照的に、みずきはすこぶる上機嫌だった。
「え…今日も行くの?」
「うん、昨日割引券もらったからあるうちに使っちゃう♪聖もプリン好きだったよね。」
「ああ…すきだが…。」
「んじゃ、さっさと行こう!」
みずきは二人の手を引きずるようにして歩き出した。
今日は監督の指示で、ポジションごとに練習することになった。
捕手の聖と郎は、ショートバウンドキャッチから送球動作の練習をしている。
「20球目!」
「応!」
二人とも声を張り上げているが、会話らしい会話はしていない。
結局その日の練習中は会話を交わさなかった。
聖はそのことを気まずく思い、練習後に声をかけた。
「あの…郎先輩…。」
「何…聖ちゃん…。」
そこで会話が止まってしまう。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
「今日もおつかれ~。」
そんな中、みずきが声をかけてきた。
「と、いうわけで、3人でパワ堂にしゅっぱーつ♪」
二人とは対照的に、みずきはすこぶる上機嫌だった。
「え…今日も行くの?」
「うん、昨日割引券もらったからあるうちに使っちゃう♪聖もプリン好きだったよね。」
「ああ…すきだが…。」
「んじゃ、さっさと行こう!」
みずきは二人の手を引きずるようにして歩き出した。
―パワ堂にて
女子二人と向き合うようにして、郎は座っている。
「クリスマスプリン、美味しかったでしょ?」
歌いながら、みずきは楽しそうに足を前後に振る。
「聖にも食べさせてあげたかったんだ。」
笑顔を聖に向けるみずき。
「でも昨日は郎君が二人っきりで来たいって言ったから。」
「そそ、そんなこと言ってないよ!!」
郎は不自然なほどに慌てる。
「ふ~ん。じゃあ本当は3人で来たかったワケ?」
みずきは流し目を郎に向けた。
「そ…そんなんじゃないよ…。」
「まあそれでもいいよ、聖もかわいいし。」
そう言って、みずきは聖のホッペをぷにっと押した。
「な、何をするんだ…」
赤面する聖。
「ほらほら、可愛い。」
「なぁ…。」
「郎君もしてみなよ、聖のホッペ気持ちいいよ。」
――いいのか…――
――いいんだ!――
――みずきちゃんがいいって言ってるんだ――
――聖ちゃんのホッペ…――
郎は、立ち上がり向かいの席の聖の顔に手を伸ばした。
ぷに
「うわ、ホントにやった。」
「せ、先輩…。」
―はっ!何をやってるんだ俺は…こんなん変態じゃないかぁ!―
「じゃあ、私のもぷにっとして♪」
「…え?」
「私のホッペも押してみて。聖に出来て私に出来ないはずないよね?」
郎が躊躇っていると、みずきはぷくっと頬を膨らました。
ぷに
「きゃん♪」
「…みずき…郎先輩…私たち…傍から見ると変だと思われるぞ…。」
そう言われて、郎は普段の、初心な自分に戻り、後悔したような顔になる。
しかし、みずきは笑顔のまま、再び聖の頬を押し始める。
「いいんじゃない?三人でラブラブでも?」
「な、なひをいっへるんはみずひ!」
頬を押されて上手く喋れない聖。
「ぴよぴよ口。」
そう言って、両手で両頬をおす。
「なぁ~…。」
そんな二人を見ていて、郎はある考えを思いついた。
――そうだ、みずきちゃんと聖ちゃんが付き合えばいい。――
――そうすれば二人を誰にも取られることはない。―――
女子二人と向き合うようにして、郎は座っている。
「クリスマスプリン、美味しかったでしょ?」
歌いながら、みずきは楽しそうに足を前後に振る。
「聖にも食べさせてあげたかったんだ。」
笑顔を聖に向けるみずき。
「でも昨日は郎君が二人っきりで来たいって言ったから。」
「そそ、そんなこと言ってないよ!!」
郎は不自然なほどに慌てる。
「ふ~ん。じゃあ本当は3人で来たかったワケ?」
みずきは流し目を郎に向けた。
「そ…そんなんじゃないよ…。」
「まあそれでもいいよ、聖もかわいいし。」
そう言って、みずきは聖のホッペをぷにっと押した。
「な、何をするんだ…」
赤面する聖。
「ほらほら、可愛い。」
「なぁ…。」
「郎君もしてみなよ、聖のホッペ気持ちいいよ。」
――いいのか…――
――いいんだ!――
――みずきちゃんがいいって言ってるんだ――
――聖ちゃんのホッペ…――
郎は、立ち上がり向かいの席の聖の顔に手を伸ばした。
ぷに
「うわ、ホントにやった。」
「せ、先輩…。」
―はっ!何をやってるんだ俺は…こんなん変態じゃないかぁ!―
「じゃあ、私のもぷにっとして♪」
「…え?」
「私のホッペも押してみて。聖に出来て私に出来ないはずないよね?」
郎が躊躇っていると、みずきはぷくっと頬を膨らました。
ぷに
「きゃん♪」
「…みずき…郎先輩…私たち…傍から見ると変だと思われるぞ…。」
そう言われて、郎は普段の、初心な自分に戻り、後悔したような顔になる。
しかし、みずきは笑顔のまま、再び聖の頬を押し始める。
「いいんじゃない?三人でラブラブでも?」
「な、なひをいっへるんはみずひ!」
頬を押されて上手く喋れない聖。
「ぴよぴよ口。」
そう言って、両手で両頬をおす。
「なぁ~…。」
そんな二人を見ていて、郎はある考えを思いついた。
――そうだ、みずきちゃんと聖ちゃんが付き合えばいい。――
――そうすれば二人を誰にも取られることはない。―――
そのために、俺は俺の貞操観念を捨てる。
恋した相手を取られないために。
恋した相手を取られないために。