プログラマーがファンタジー世界に召還されますた(非公式まとめ)

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pfantasy

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おお佐倉よ、死んでしまうとは情けない。
そなたに次の機会を与えよう。

 はあ?
 ああそうか、そろそろ授業がはじまるので起きないとやばいな。
 毎朝毎朝夢で起こされてれば世話無いな。
 ここでいつものジリリリリ…。

目を開けると、王様が居た。
見るからに王様な格好をした王様は、なんだこいつは、という顔で、
隣の怪しげな男を睨んでいる。
怪しげな男は恐縮し切った様子で、言い訳をしている。
「た、たしかにこの魔方陣は、伝説の魔術師を召喚する魔方陣でございます」
それで周りを見てみると、俺の周りに、気味の悪い赤いインクで、
今にもエロイムエッサイムとでも言いたくなるような魔方陣が引かれている。
王様は、やれやれといった表情で尋ねてくる。「名をなんと申す」
答えた方がいいのかなあ…。「佐倉健ですけど」
「ケンよ、そちが魔術師というのは本当か?」
それが寝間着の人間にする質問だろうか。「…いえ、情報科の学生です」
「ふむ、聞いたこともない言葉じゃ。
 この世の者でないのは間違い無さそうだが…ガクセイとは何じゃ」
少し考えて「貴族のようなものです」と答えておいた。
それで俺の待遇は良くなったが、周囲はかなり落胆し切った様子だった。
俺は朝食の客席に呼ばれ、説明を受ける。
「異界の若者よ、突然のことで驚いておろう。済まなかった。
 というのも、奴が、…いや、最初から説明しよう。この国は、現在帝国の
 侵略を受けている。戦局は思わしくない。そこで、奴の入れ知恵で、
 この国に伝わる伝説の魔術師を呼び出す魔方陣を試してみることにしたのだが…
 手違いが合ったのか、伝説が正しく伝わって無かったのかは定かではないが、
 そなたを呼び出してしまった。申し訳ない」

俺が居なくなったことなんて、誰も気付かないだろう。
ああ!適当に卒業して冴えない会社で地味に働いて並やや上の奥さんを貰って
縁台のある家を建てて老後は将棋を打つのが楽しみだったのに…。

 「敵襲ー!!」

鐘の音が響き渡る。と、同時に、爆発音。
気付くと、天空には澄み渡った空が広がっていた。屋根がふっ飛んだのだ。
こうなると、王様も小間使いももちろん異界の学生も関係無く逃げ出す。
爆発が起こるたびに、何か英文のようなイメージが俺の頭を横切る、が、
気にはかかるが意識している暇は無い。
外へ逃げ出してみると、敵軍が明らかになった。
それは、軍と言うにはあまりにも少ない人数で、武器も持っていない。
だが、奴等が意味のわからない言葉を叫ぶたびに、どこかで爆発が起きる。
…と、同時に、謎の英文イメージが。謎?英文?
…これは、何かのコード片じゃないだろうか。

突然背中に衝撃を感じ、倒れ込む。さっきの怪しげな男が逃げて行く。
待てっ!俺を送り返してからにしろっ!俺は走り出した。
背中に、屋敷の崩れる音が聞こえた。

走りながら日頃の運動不足を実感するが、奴は俺以上に運動不足だったらしい。
茂みで戦場が見えなくなった辺りで追いついた。
俺が詰め寄ると奴は怯んだが、他の足音を聴き付けて、手で俺の口を塞ぐ。
「隠れろ、追っ手だ」
俺達が隠れていると、さっき見た敵軍のうち、馬に乗った一人がやってくる。
「奴等はわしなんかより上手だ…先手を取らないと」
そう言って、懐から指輪を取り出し、何やらぶつぶつ言い始める。
もう疑う余地は無い。これはコードだ。俺は尋ねる。
「それってVC++できる?」

「ヴィシーは敵のだ。これはジーシーシーの指輪だ」
わからないことを言う。
「だからVC++できるのかって聞いてんだよ。同じようなこと喋ってたろ」
奴は、俺を蔑み切った目で、呆れたように言う。何だってんだ。
「それは同じシィプ・ラプラだからだな…」
煮え切らない奴だ。「はあ?やっぱVC++できるんじゃないか!」

思わず、大声を出してしまったらしい。敵は詠唱を始めた。
奴はもうおしまいだあ、といった顔をしている。諦めるなよ。
俺は指輪を奪いとると、自分の指にはめた。
どんな命令を言えばいいかはさっき何となく聞いたぞ。
敵が何やら複雑な詠唱をしている間に、俺はさっと唱える。fire(0);
小さな爆発が馬の鼻先で起きた。狙いと違ったが、むしろ効果は抜群で
馬が暴れだして敵は落馬した。当然詠唱も止まる。

ようし!俺はもう一度fire(0);と唱えた。関係無い草むらが爆発した。
後ろから奴が叫ぶ。「通り道を探して届かせるんだっ!」
そうか。if(way(1)==pos) fire(1); if(way(2)==pos) fire(2); …。
俺がたらたらやっている間に、敵はさっと詠唱を行った。
突然空中に現われたロープが、俺の後ろにいた奴を縛り上げる。
順番に口でいってたのでは間に合わない…そうだ!ループだ!

 for(int i = 0; ; ++i) if(way(i)==pos) fire(i);

命中!敵は爆発のもとに倒れた。どんなもんだ。
俺は馬乗りになって、敵の指輪を奪う。
だが、俺は命中さえすればいいやと終了条件をサボった。
空回りするループ。何か、エネルギーみたいなものが俺から失われていく。
そして…暴発。痛みのような熱を感じて、俺は倒れた。

俺は奴ともども、縄で縛られ、敵の陣地に引っ立てられた。
俺を捕まえた敵は、上官に報告をしている。
「命令通り、あの国唯一の魔術師を捕らえましたが、
 驚いたことに一緒にいたこいつも魔術師の様です」
魔術師?俺が魔術師だって?
…そうか、そういうことになるのか。そうだよなあ。
敵の大将は興味深げに俺を眺める。「貴様はこいつらの仲間か?」
俺が首を振ると、大将は俺を捕まえたさっきの敵を呼びつけ、
「実力がみたい。キールともう一度勝負してみろ。
 お前が勝ったらそれなりの待遇を用意させてもらうぞ」
こうして、俺の縄がほどかれた。

草原で向かい合って立つ俺と、キールとか言う例の敵。
なんとかしてここを切り抜け、奴を助けて帰らないと、俺は戻れなくなる。
大将が合図を出す。「はじめ!」
俺の戦法は変わらない。ループ文でfireだ。今度は終了条件も入れる。
敵も、聞こえてくる内容から、どうやらfireらしいが、何かが違う。

よしrun!先に詠唱を終えたのは俺だった。
だが、炎は、先に俺を襲った…。「通り道」を探す速度で負けたのか?
くそっ、運が悪い…。

俺は、倒れながら自分の不運を呪ったが、キールが大将に向けて行った言葉は
更に俺に衝撃を与えた。
「まるで素人です。バイナリサーチすら知らない」
バイナリサーチ…聞いたことあるな…。1/2で絞り込んでいくやつだっけ…。
そうか…こういう時に使うんだなあ…。
炎よりも何よりも、今は、自分が、痛い…。

その夜。俺達は、敵軍の仮設野営地の、ひとつのテントへ転がされていた。
指輪も取り上げられたし、このまま処刑かな。
ふと、背中で縄の切れる音がする。
「へへ…ガラスのかけらを袖に刺しといたんだ。
 帝国の手の届かないような、リーナ領のもっと奥へ逃げちまおうぜ」
闇の中の甘い声。
俺が返事をしないでいると、奴は続ける。
「この世界は広いんだ。お前の帰る方法もきっと見つかる」
だが、俺の返事はこうだ。

 「…一人で行け」

奴は、驚いた様子で、しかし、ケッ、と掃き捨てるとテントから出ていった。

追う暇は無い。俺は授業の内容を必死で思い出していた。
あんな粗雑なやつに、情報科の学生が負けたままでいれるかよ…。
見てろ…習い覚えたアルゴリズムの数は、きっと俺の方が多いから…。
何年も情報科にいるが、俺はここに来てはじめて、プログラミングが
面白くなってきていた。テストとレポートの為に覚えた知識が、今なら「使える」。
命の危険など頭から吹き飛んでいた。

「ほほう。ロープを切っておきながら、よく逃げなかったな」
翌朝、俺達を見にきた大将は、そう言った。
ここが勝負所だ。俺は、指輪も無しに、一晩考えたコードをまくしたてる。
どういうコードかは、わかったはずだ。
静寂の後、やがて大将は口を開いた。「どうだ、わしの下で働いてみんか」
俺は答える。「もう一度キールと勝負させてくれ」
大将は、がっはっはと笑った後、付け加えた。
「やがて、な…」

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