「にーちゃん酒もってこーい!」
「さっき頼んだのまだきてねーぞ!」
「はいはいはーーーーい」
舞人は、彼方此方から挙がる注文を捌くのに奔走していた。
「4番テーブルに麦酒と、2番に枝豆、それから・・・」
「にいちゃん!キノコのオムレツ一つ!」
メモを取る間に次から次へと注文が入り追いつかない。
そんな舞人を尻目に、モンブランは手際よく料理を運ぶ。
メモを取るどころか、注文を聞くために立ち止まっている様子も無い。
どうやら動きならが、耳に入ってくる注文を憶えている様だ。
(何という暗記性能。この店の娘は化け物か!)
何とかメモを終え、厨房へと帰還する。
「エレナさん追加注文っすー」
「はぁ~い。どうぞ~」
かえってくるのはのんびりとした声なのだが、厨房の様子は戦場ってレベルじゃねーぞって感じだ。
何しろエレナ一人でこなしているのである。
さして広いとも言えない厨房に所狭しと竃が並び、その間を縦横無尽に駆け回る。
あちらで炒め物を作っていたと思えば、こちらで揚げ物をし、そちらで煮物を温める。
(何という機動力。この店の女将は化け物か!)
こんなに繁盛しているのにどうやって二人で切り盛りしていたのかと不思議に思っていた舞人であったが、なんて事はない。
二人が異常な程に有能だったのである。
「うへ~。こりゃ負けてらんないな」
無銭飲食をした上に、宿と食事を頂いている身分である。
それを自覚してか、やることなすこと適当主義な舞人には珍しく、少しでも役に立とうと気合を入れる。
「・・・なに突っ立ってるのよ」
皿を下げて来たモンブランが睨みつける。
「うはwwこのガキwwwオラぴきぴきすっぞwww」
「初日だから効率悪いのは多めに見るけどね、サボるのは論外なんだもん」
澄ました顔で説教をし、舞人へと皿を押し付ける。
「はい。これ下げといて。ついでに洗っておくと良いわ」
そういい残すと、出来上がった料理を持って、颯爽と出撃していった。
「何て偉そうなガキなんだ」
歯噛みをするも、言い返せる立場には無い。
しぶしぶと流しへ入り、食器を洗い始める。
「しっかし、洗い物もしゃれにならない数だな・・・」
舞人が洗い終わる前に、次々と新しい洗い物が来る。
「ちょwwwおいつかねぇwww」
「・・・・何時までやってるんだもん」
お皿を下げて来たモンブランが横から覗き込む。
「んな事言ったって、次々にくるじゃねーかお(#`ω´)」
「・・・・はぁ、もう良いわ。私がやるもん」
これ見よがしに溜息を吐き、舞人を横に退ける。
大口を叩くだけ有り、見る見る間に汚れたお皿を消化していく。
(むぅ・・・俺の3倍は早いじゃねーか)
「・・・・・・・何ぼーっとみてるんだもん」
モンブランはスポンジを持った手をぴっと突き出し
「あんたは出来た料理をもっていくんだもん!」
「おっおっおっ。うっせーんだお。わかってんだお(#^ω^)」
そして営業時間が終わり・・・
「ふいぃ・・・めちゃくちゃ疲れたぜ・・」
戦争の様な時間が過ぎ、ヘロヘロのぼろぼろになった舞人がふらふらと歩く。
「ふふ。舞人くん、お疲れ様」
エレナが厨房から顔を出し、ねぎらいの声を掛ける。
「あ、エレナさん。お疲れ様っす」
「夜は大変でしょ?」
「いやぁ、ヘビーでした。繁盛にも程がありますよ」
肩をすくめ、冗談めかして言うが、結構本気である。
「ふふ。舞人君のお陰で大分楽だったわ」
「そう言って貰えるとうれしいっすお」
ぐ~
大きな音が響く。
「あらあら。お腹が空いたのね。そう思って・・・はい、これ」
エレナは厨房から包みを一つ取り出し、舞人へと差し出した。
「これは?」
「お夜食よ。こんなこともあろ~かと作っておいたの♪」
「ふひひwwwさーせんwww」
「これを食べてゆっくり休んでね」
「うぃっす。あざーっす」
お礼を言って二階へ上がる。
自分の部屋へと入り、ベットへと飛び込んだ。
「うあ゛~。疲れた~」
仰向けになり、ぼーっと天井を見つめる。
(しっかし、こっちに来て何日目だろ。つか、本当に異世界に来ちゃってんだよなぁ・・・)
疲れたからか、何となく現実感を喪失してしまう。
「俺、どうなるんだろう・・・・」
不安に襲われ、ごろごろと転がる。
ぐ~
「・・・・ま、何とかなるか。夜食食うべ」
不安より空腹が勝り、エレナから貰った包みを広げる。
「うはwww美味そうなサンドイッチwwwいっただっきまーす」
わしっと掴み、押し込むようにしてほお張る。
「うめぇwww」
がつがつと口へ詰め込み、あっという間に平らげる。
「うひょ~、美味かったぜぇ」
大きくなったお腹をさすり、再びごろんと横になる。
「うぃ~。ま、こんな美味い飯が食えるんだ。あながち悪い生活じゃないな」
腹が満ちたからか、先ほどとは逆に楽天的になる。
ついでに眠気も襲ってきて大きなあくびをかます。
「ふぁぁあああ~。何か・・・ねみぃや・・」
一つ大きく伸びをし、うとうととし始める。
「明日も・・・がんばるぞ・・・・・」
次第に深い眠りへと落ちていく。
こうして、慌しい一日が幕を閉じる。