翌日も、翌々日も戦場さながらだった。
そして4日目の今日も一段と戦場である。
「にいちゃんエールまだかい!」
「こっちにも肉来てねぇぞぉ!」
「はいただいまー!」
(結構慣れてきたとは言え、客の数大杉だぜ。)
必死にメモを取り、料理を運び、お皿を洗う。
(しっかしエレナさんも良くコレだけの料理を作るぜ。)
かれこれ3時間程ひっきりなしに注文がある。
それを一人で捌いているのだから信じられない話である。
「ヘイお待ち。肉とキノコの炒め物と、山菜の揚げ物っす!」
「ウヒョヒョー。ついでにエール追加でたのむぜ」
「あざーっす」
この数日ですっかり顔なじみになった客と軽口を交わす。
エールを取りに厨房へ戻ると、モンブランとすれ違う。
「少しは使えるようになってきたじゃない」
「ふん。ったりめーよ」
「まあ、まだまだなんだもん」
「一言余計だお(#^ω^)」
舞人の抗議は無視して、モンブランはそそくさと料理を運ぶ。
「相変わらず小生意気だお」
腹を立てながらも、徐々に認めてくれているのを感じて嬉しくなる。
再度気合を入れ直し、エールを運ぶ。
「おまちぃ!」
どんっ!とエールを置いたその瞬間
がちゃーん!
「ぶらああああ!何だと小娘!」
皿が割れる音と共に怒号が響いた!
そちらに目をやると、なにやらたらこ唇の巨漢がモンブランに迫っていた。
「あんたが虫を入れたんだろって言ったんだ」
モンブランは怖がるどころか睨み返している。
舞人は慌てて間に割り込んだ。
「ふひ、ふひひ。うちの若いのがさーせんwww躾ときますんで」
(訳わからんが取りあえず謝るのがセオリーだろ!?)
モンブランの頭を掴み、無理やり下げさせようとする。
が、モンブランは手を跳ね除け、舞人を睨みつる。
「何であやまってるんだよ!こいつ虫が入ってるとか言いがかりつけてきたんだぞ!」
「ぶらああああああ!なんだとぅ!?」
「だから止めろって!」
「モンブラン、下がりなさい」
荒れるモンブランを舞人が必死に止めていると、エレナの凛とした声が横から割り込む。
「お母さん!だってこいつ!」
「下がりなさい」
決して怒っているわけでは無いのだが、妙な迫力がある。
モンブランはしぶしぶ後ろに下がった。
エレナは問題の客の前に来ると、真っ直ぐ相手を見据え
「お客様、娘が失礼いたしました」
深々と頭を下げた。
「っ!」
それを見たモンブランは飛び出そうとするが、舞人が止める。
「お前が騒ぎを大きくしたから謝ってるんだろうが!」
モンブランは渋々堪える。
「お客様、直ぐに換えをお持ち致しますので、ご勘弁願えませんでしょうか。」
頭を下げるエレナを見て、男はニヤニヤと好色そうな笑みを浮かべた。
「ぶらああああ!それだけで許すわけねーじゃねぇか」
男はエレナの顎に手を当て、面を上げさせる。
「ぐふふふふ。ここは宿屋もやってるそうじゃねーか。特別サービスをしてもらおうじゃねーか」
コレには流石の舞人もカッときた。
しかし相手は筋骨隆々の巨漢、暴れられたら敵わない。
(おっおっお。(#^ω^)こここ、ここは我慢だお)
「お客様、当店はそういった店ではありません」
エレナは相手の目をしっかりと見据え、きっぱりと断る。
(エレナさん格好ヨスwww)
「あぁぁあああぁぁあん?てめぇ、俺様を舐めてるのか?」
当然男は納得するわけもなく、すごんだついでにエレなの胸をわし掴みにする。
「ッ!」
もう舞人も我慢できなかった。
割って入ろうと足に力を込めたその時。
パッカーンッ!
モンブランが御盆の側面で殴り倒していた。
「あんた、いい加減にしろよ」
モンブランの額には青筋が浮き、目も軽く血走っている。
小さい体ながら、なかなかの迫力だ。
コッ
「ん?」
舞人の足に瓶が転がってきた。
拾い上げ、中身を見る。
「これは・・・」
「てめぇら・・・・ふざけんじゃねええぞおおおお!」
ガチャガチャガチャ
男が周りのものをなぎ倒しながら起き上がる。
「このガキャあああああああああ!」
モンブランに殴りかかろうと、拳を振り上げる。
舞人は今度こそ飛び出し、拳が振り下ろされる前に、自分の拳を突きつけた!
「おっと。おっさん、そこまでだ」
怒気に満ちた男と目が合う。
だが不思議と怖くない・・・とは行かない。
足はガクガクと振るえ、背中には冷や汗をかいている。
(エレナさんも、モンブランも怯まず対応してたんだ。俺にだって・・・)
舞人は腹にぐっと力を入れ、相手を睨みつける。
「これ、あんたのポケットから出てきた物なんだがな?」
突きつけた拳を開くと、先ほど拾った瓶が乗っている。
瓶の中には、なにやら黒くて小さい物が"居た"
「あんたが入ってたって言う虫とおんなじ物に見えるんけど?」
「・・・・」
男は黙って瓶を見つめる。
上げた拳を下ろし、観念したかの様に見える。
男は俯き、肩を震わせる。
「観念したんなら、通報される前に出ていきな」
舞人は内心安堵し、男がさっさと出て行くことを祈った。
「・・・・っくっく」
肩を震わせる男の口から声が漏れる。
「くあーっはっはっは!」
肩を震わせ、反省していたかに見えた男は、顔に手をやり大笑いする。。
「馬鹿かてめぇ。今更そんなもん出されたって痛くも痒くもねえんだよ。」
男は怒りながら笑うという器用なことをやってのける。
「これだけコケにされて、今更はいそうですかって出て行くわきゃねえええだろおおおおお!」
顔を覆っていた手を下ろし、それを予備動作として、舞人の腹へ拳を叩き込む!
「ッご!」
息が詰まる。
衝撃に目の前が赤黒くそまる。
上下の感覚が消え、脳みそがシェーカーに掛けられる。
舞人は3メートルは飛ばされ、店の外へと転がった。
「っは・・・」
「マイト!」
「マイトさん!」
エレナとモンブランは顔を青くする。
「あなたはっ!」
エレナは青くした顔に怒りを浮かべ、刺す様な視線で男を睨む。
「はっはっはー!ガキが粋がるからだよ!」
(っは・・きつっ・・・なんだこりゃ・・・)
男は舞人を追い、外へ出る。
「ボッコボコにしてやんよ」
男はニヤニヤと笑いながら舞人へ近づく。
(このままヤられるのか・・・くそっ、体に力が入らねぇ・・・)
いまだに視界は赤黒く染まり、痛みと衝撃で指一本動かせない。
(かろうじて動かせるのは口くらい。俺に、何が出来る・・・)
「もう少し楽しませてくれよ」
男は舞人の襟首を掴み、引きずり起こす。
「マイト!」
エレナとモンブランも外へ出てくる。
ついでに野次馬もぞろぞろと出てきて、男と舞人の周りに人垣が出来る。
(くそ・・・異世界呼ばれて、勇者と言われたってこれじゃあ・・・勇者?)
「はは・・ははは」
「あん?壊れるのはまだはえーぞ?」
「おい、おっさん。今ならまだ許してやるぞ」
「はぁ?お前なに言ってんだ?」
舞人の突然の宣言に呆れた様子を見せる。
野次馬からも失笑が漏れ、エレナとモンブランですら顔に疑問符を浮かべる。
「良いこと、教えてやる。俺は、ルネに召還された、勇者だ」
苦しそうに、だが力強く、一言一言はっきりと声に出す。
「ぶっは!王様を呼び捨てにするばかりか、自分を勇者呼ばわりだ!ひゃっはっは!」
舞人は何とか右手を持ち上げ、男へと突きつける。
「分かったんなら、さっさと、立ち去れ」
「もういい。黙れよお前」
男は拳を振り上げ、
「死ね。氏ねじゃなくて死ね」
言葉と共に、拳を振り下ろした。
その瞬間、野次馬からはどよめきが漏れ、エレナとモンブランは惨状を予想し、顔を手で覆う。
しかし、衆人の予想は裏切られる。
男の振り下ろした拳が舞人へと触れる直前、舞人は力ある言葉を紡ぐ。
「ツンデイン」
ッゴッ!ズバババァァァァァン!
虚空から光が降り注ぎ、衝撃が舞う。
魔法の雷は男を捕らえ、全身を舐め回し、その肉を焼く。
「あああああああああああああ!」
男の悲鳴が当たり一面へ響き渡る。
やがて光と衝撃が収まると、男はこんがりとローストされていた。
「あ・・・あ・・ああ・・・」
どさっ
男は舞人を放すと、後ろでに倒れた。
「っつつ・・・」
「マイト!」
「マイト君!」
モンブランとエレナが舞人へと駆け寄り、抱え起こす。
「ふひ・・なんか、さーせんww」
「本当に、無茶して」
エレナは目に涙を浮べ、泣きそうになりながらも舞人を睨む。
モンブランは軽くべそをかき、舞人の手を握り締める。
「何で、そんな。関係無いのに」
「関係ない事あるかよ。お前やエレナさんに手を出そうとしたんだ」
「バカじゃ・・・ないの。」
「はは、だよな。・・・わりぃ・・・ちょっと・・・ね・みぃ・・」
MPが0になった舞人は、エレナとモンブランのぬくもりを感じながら、眠りに落ちた。
「ん・・・あ・・れ?」
「マイト君。目が覚めた?」
舞人がベットの上で目を覚ますと、エレナが横に着いて介抱してくれていた。
「そう・・・か。俺、ツンデイン撃って寝ちまったんだな」
「ほんとに無茶して・・・。どれだけ心配したと思ってるの?」
エレナは舞人の頭を撫でながら、少し攻めるような口調で言う。
「ほんとに、すみませんでした」
「もう、あんな無茶しちゃだめよ?」
「はい」
舞人は暫くエレナの手の感触を堪能する。
「でも、やっぱり」
「ん?」
「もしあんな事があったら、やっぱり飛び出すかもしれません」
エレナは撫でていた手を止め、真剣な目で舞人を見る。
「・・・・はぁ。しょうがない子ね」
「フヒwwwサーセンwwww」
「でも、ああいう場合でも、暴力を使わず収めるのが大人のやり方よ」
「それは・・・そうでしょうけど。」
「ここは大衆の集まる酒場です。暴力を許せば、成り立ちません」
「・・・・はい」
返事を聞いて、エレナは表情を柔らかくする。
「お説教はここまで。さぁ、今日はもうこのまま寝てしまいなさい」
「・・・後先考えず、すみませんでした」
「もう良いのよ。それにお礼を言うのはこっちだわ。ありがとう」
エレナは、ふわりと笑みを浮べ、舞人へ顔を寄せる。
「おやすみなさい」
エレナは頬に軽くキスを一つ残し、部屋を出た。
「う・・・は・・・・」
突然のことに呆然とする舞人であった。