1:武術大会
「武術大会ってファンタジーっぽくて面白そうじゃない?」
「……ちょっと怖いなぁ」
「大丈夫だって。ほら、真剣とかはつかっちゃ駄目みたいだし、剣道の試合みたいなもんだって」
「うーん……それなら、いいかな」
「よし、んじゃーさっそく行こうぜ」
きゅっと手を繋いだまま、二人は武術大会の会場へと向かった。
「……ちょっと怖いなぁ」
「大丈夫だって。ほら、真剣とかはつかっちゃ駄目みたいだし、剣道の試合みたいなもんだって」
「うーん……それなら、いいかな」
「よし、んじゃーさっそく行こうぜ」
きゅっと手を繋いだまま、二人は武術大会の会場へと向かった。
………
……
…
……
…
「はぁぁぁ!!」
「ぬぅ!?」
特設会場のフィールド上で、戦士二人の熱い戦いが繰り広げられていた。
一人は筋肉達磨という表現がぴったりの大男。
その筋力を余すところなく発揮し、大振りの大剣を振り回している。
さすがに刃を潰しているとはいえ、こんなものの直撃を食らったら怪我ではすまないだろう。
「ま、舞人ぉ……なんか、話違わなくないぃ?」
「お、俺も想像以上の迫力にニキニキだぞ」
隣でおびえたように縮こまる志乃が裾を強く握り締める。
答える舞人の声も、心なしか裏返りかけている。
「で、でもあの女の子、凄くね?」
「確かに凄いけど、見てて怖いよぅ」
舞人が言うように、筋肉達磨に相対しているのは男に比べるとずいぶんと小柄な少女といっていいほどの女戦士だった。
「やあああっ!!」
振り下ろされる大剣を間一髪で回避し、男の体に拳を叩き込む。
更に観客を驚かせることに、少女は武器の類を身に着けてはいなかったのだ。
ダメージを増幅させるため、もしくは拳を守るための拳帯すら身につけていない。
「徒手空拳って奴だな。お、また避けた」
「ふわわ……凄い……」
唸りを上げる剛剣を拳ひとつで機動を反らし、反撃とばかりに一撃見舞う。
見る見るうちに、筋肉達磨のスタミナが削れて行くのがわかった。
「カウンター重視かー」
「あんなに小柄なのに凄いなぁ……」
いつの間にか志乃も、その光景に見とれ始めていた。
「せぇぇぃっ!!」
「うげふぅ!! く、このアマ……!!」
もう何度攻撃をいなされ、反撃を食らっただろうか。
攻撃をかわされ、カウンターを食らうたびに湧き上がる観客席の反応に、筋肉達磨の怒りのボルテージはマックスハートだった。
「だが、所詮スタミナよ! 小娘ごときのパンチ、この俺様には蚊ほども効かんなぁ!!」
筋肉達磨は野獣のように吼え、少女に向けて執拗に大剣を叩きつける。
確かに、何度もパンチを食らっている割にはダメージは少ないようだ。
所詮は少女のパンチ力、いくら技量があってもダメージ量が圧倒的に不足しているように思える。
「あら……本当ですか?」
しかし、少女はあくまで余裕の表情だ。
「だらああああ!!」
筋肉達磨は答えず大剣を振り上げる。
「う……?」
振り上げたまま、筋肉達磨の動きが固まった。
「う……体が……重てぇ!?」
「うふふ……効いてきましたか?」
今まで軽々と大剣を振るっていた筋肉達磨だったが、急激な体の異変に狼狽している。
「ど、どうなってるんだろう」
「うーん……これは経絡秘孔の戦癰を突いたとかか?」
「戦……なに?」
「実は俺も読み方を知らん!」
「え、よ、読み……?」
「気にするな」
舞人の意味不明な発言もどこ吹く風で、戦場の少女は笑顔で筋肉達磨に歩み寄る。
「先ほどの拳には、濃縮したロ・ナミンの魔法を込めてあります」
「んな……お前、神官か……!」
ロ・ナミンとは、戦いを生業にするものなら誰もが後方からかけられることを期待するであろう回復支援魔法である。
「……で、そうするとどうなる?」
しかし、傷を治すためのこの魔法を濃縮すると、なぜこうなるかを理解できない筋肉達磨。
戦いの最中だというのに、頭に疑問符を浮かべて少女に尋ねている。
「過剰な回復力が体組織を活性化させすぎて麻痺状態に陥っているんですよ」
「……?」
「端的に申しますと、薬も過ぎれば毒になるようなものですわ」
少女は微笑むと、初めて攻撃的な構えを取った。
「わたしは戦いを楽しむために参加したのではありません。目的があるので、終わりにさせてもらいます」
少女の拳に漲る、神聖なる輝き。
「はぁぁぁぁ……一意専心!」
気合の発声と共に、本来傷を癒すための魔力が凝縮され、
「チェストぉぉぉ!!」
「おお……ゼンガー少佐!」
舞人の呟きはさておき、光の尾を引く正拳突きが放たれた。
「うぐふおおおお!!」
その一撃をまともに腹に食らった筋肉達磨がうめき、よろめき、
「……あれ、痛くもなんとも……」
まったく痛みがないことに目をぱちくりさせる。
「いえ、これで終わりです」
「なに……うおっ!?」
「ぬぅ!?」
特設会場のフィールド上で、戦士二人の熱い戦いが繰り広げられていた。
一人は筋肉達磨という表現がぴったりの大男。
その筋力を余すところなく発揮し、大振りの大剣を振り回している。
さすがに刃を潰しているとはいえ、こんなものの直撃を食らったら怪我ではすまないだろう。
「ま、舞人ぉ……なんか、話違わなくないぃ?」
「お、俺も想像以上の迫力にニキニキだぞ」
隣でおびえたように縮こまる志乃が裾を強く握り締める。
答える舞人の声も、心なしか裏返りかけている。
「で、でもあの女の子、凄くね?」
「確かに凄いけど、見てて怖いよぅ」
舞人が言うように、筋肉達磨に相対しているのは男に比べるとずいぶんと小柄な少女といっていいほどの女戦士だった。
「やあああっ!!」
振り下ろされる大剣を間一髪で回避し、男の体に拳を叩き込む。
更に観客を驚かせることに、少女は武器の類を身に着けてはいなかったのだ。
ダメージを増幅させるため、もしくは拳を守るための拳帯すら身につけていない。
「徒手空拳って奴だな。お、また避けた」
「ふわわ……凄い……」
唸りを上げる剛剣を拳ひとつで機動を反らし、反撃とばかりに一撃見舞う。
見る見るうちに、筋肉達磨のスタミナが削れて行くのがわかった。
「カウンター重視かー」
「あんなに小柄なのに凄いなぁ……」
いつの間にか志乃も、その光景に見とれ始めていた。
「せぇぇぃっ!!」
「うげふぅ!! く、このアマ……!!」
もう何度攻撃をいなされ、反撃を食らっただろうか。
攻撃をかわされ、カウンターを食らうたびに湧き上がる観客席の反応に、筋肉達磨の怒りのボルテージはマックスハートだった。
「だが、所詮スタミナよ! 小娘ごときのパンチ、この俺様には蚊ほども効かんなぁ!!」
筋肉達磨は野獣のように吼え、少女に向けて執拗に大剣を叩きつける。
確かに、何度もパンチを食らっている割にはダメージは少ないようだ。
所詮は少女のパンチ力、いくら技量があってもダメージ量が圧倒的に不足しているように思える。
「あら……本当ですか?」
しかし、少女はあくまで余裕の表情だ。
「だらああああ!!」
筋肉達磨は答えず大剣を振り上げる。
「う……?」
振り上げたまま、筋肉達磨の動きが固まった。
「う……体が……重てぇ!?」
「うふふ……効いてきましたか?」
今まで軽々と大剣を振るっていた筋肉達磨だったが、急激な体の異変に狼狽している。
「ど、どうなってるんだろう」
「うーん……これは経絡秘孔の戦癰を突いたとかか?」
「戦……なに?」
「実は俺も読み方を知らん!」
「え、よ、読み……?」
「気にするな」
舞人の意味不明な発言もどこ吹く風で、戦場の少女は笑顔で筋肉達磨に歩み寄る。
「先ほどの拳には、濃縮したロ・ナミンの魔法を込めてあります」
「んな……お前、神官か……!」
ロ・ナミンとは、戦いを生業にするものなら誰もが後方からかけられることを期待するであろう回復支援魔法である。
「……で、そうするとどうなる?」
しかし、傷を治すためのこの魔法を濃縮すると、なぜこうなるかを理解できない筋肉達磨。
戦いの最中だというのに、頭に疑問符を浮かべて少女に尋ねている。
「過剰な回復力が体組織を活性化させすぎて麻痺状態に陥っているんですよ」
「……?」
「端的に申しますと、薬も過ぎれば毒になるようなものですわ」
少女は微笑むと、初めて攻撃的な構えを取った。
「わたしは戦いを楽しむために参加したのではありません。目的があるので、終わりにさせてもらいます」
少女の拳に漲る、神聖なる輝き。
「はぁぁぁぁ……一意専心!」
気合の発声と共に、本来傷を癒すための魔力が凝縮され、
「チェストぉぉぉ!!」
「おお……ゼンガー少佐!」
舞人の呟きはさておき、光の尾を引く正拳突きが放たれた。
「うぐふおおおお!!」
その一撃をまともに腹に食らった筋肉達磨がうめき、よろめき、
「……あれ、痛くもなんとも……」
まったく痛みがないことに目をぱちくりさせる。
「いえ、これで終わりです」
「なに……うおっ!?」
ぶしゅううううう!!
次の瞬間、勢いよく鮮血が噴き出した。
「きゃあああ!!」
「うお!? あれはまさか大マジで北斗神拳!?」
志乃が血みどろの大惨事に舞人にしがみついて目をそらす。
成り行きを見守っていた観客、審判からも同様に悲鳴だの動揺が走る。
しかし、
「と、とまらねぇぇ!!」
筋肉達磨は、鼻を押さえて狼狽していた。
「は、はなぢ……?」
大量に噴き出していた血は、鼻血であった。
「過剰な回復力は四肢の麻痺をもたらすだけではなく、こうして限界を超えた分を鼻血として体外に放出させることも出来るんですよ」
にっこり笑って案外えげつないことを言ってのける少女。
「達人になると、人体を破壊したりも出来るようですが……そこまではさすがに、ねぇ?」
ゴゴゴゴゴ、と笑顔の少女の背後に七つの星型のアザを持つ男の幽波紋が浮かんだように見えたのは舞人の目の錯覚だろうか。
そしてその口ぶりからすると、この少女にはそれをやってのけることが出来るのであろうか。
「そ、そこまで! 勝者エフィー・メイフィールド!!」
その言葉に青ざめた審判があわてて旗をあげて、エフィーと呼ばれた少女の勝利を告げる。
「やったぁぁぁぁぁ!! 先生ぇぇぇぇ!!」
会場からの拍手に、子供のものらしい歓声が混じっている。
「やりましたわ。あと少しで決勝……それに勝てば、今年も孤児院のみんなで平穏に冬を越せそうですね」
真夏の太陽の下で、天使のような純粋な笑みを浮かべるエフィー。
まだ見ぬ冬の辛さを見据え、夏の空の下拳を振るう神官娘。
蟻のように堅実なこの娘が武術大会を制したのは、程なくしてのことだった。
「きゃあああ!!」
「うお!? あれはまさか大マジで北斗神拳!?」
志乃が血みどろの大惨事に舞人にしがみついて目をそらす。
成り行きを見守っていた観客、審判からも同様に悲鳴だの動揺が走る。
しかし、
「と、とまらねぇぇ!!」
筋肉達磨は、鼻を押さえて狼狽していた。
「は、はなぢ……?」
大量に噴き出していた血は、鼻血であった。
「過剰な回復力は四肢の麻痺をもたらすだけではなく、こうして限界を超えた分を鼻血として体外に放出させることも出来るんですよ」
にっこり笑って案外えげつないことを言ってのける少女。
「達人になると、人体を破壊したりも出来るようですが……そこまではさすがに、ねぇ?」
ゴゴゴゴゴ、と笑顔の少女の背後に七つの星型のアザを持つ男の幽波紋が浮かんだように見えたのは舞人の目の錯覚だろうか。
そしてその口ぶりからすると、この少女にはそれをやってのけることが出来るのであろうか。
「そ、そこまで! 勝者エフィー・メイフィールド!!」
その言葉に青ざめた審判があわてて旗をあげて、エフィーと呼ばれた少女の勝利を告げる。
「やったぁぁぁぁぁ!! 先生ぇぇぇぇ!!」
会場からの拍手に、子供のものらしい歓声が混じっている。
「やりましたわ。あと少しで決勝……それに勝てば、今年も孤児院のみんなで平穏に冬を越せそうですね」
真夏の太陽の下で、天使のような純粋な笑みを浮かべるエフィー。
まだ見ぬ冬の辛さを見据え、夏の空の下拳を振るう神官娘。
蟻のように堅実なこの娘が武術大会を制したのは、程なくしてのことだった。